ようこそ成敗至上主義の教室へ 作:もうすぐ死にます
昼休みが終わった後、俺は碌に授業に集中する事は出来なかった。
原因は勿論ネットニュースの話題だ。流石にもう余は武士ではないと言え、刀を盗まれるのは些か衝撃的だったのだ。しかし、何故に今更余の刀を…確か現世では博物館に展示されている事を数年前に確認したが……まさか余と同じく生まれ変わりをした者が居ると言うのか?
……だが余はもう将軍ではない。下手人を探して捕まえるのは警察の仕事だ。それにこの閉鎖空間ともいえる学校ではどうしよもない。刀を盗まれている以上一刻も早く取り戻し、博物館へ戻したいが、この際仕方ない。歯痒いが警察に任せる他ないだろう。
刀の在り処、そして何時元の場所に戻るかを思い浮かべていると、気が付けば午後の授業が全て終わっていた。
雑念に邪魔されて授業に集中できないとは、我ながら情けない。俺が勉学は苦手なのは前世から知っていたが、入学してすぐコレでは先が思いやられる。
刀が戻って来たニュースが入って来ないかと、無い物ねだりをするように端末を眺めるが、そこには何の情報も移されない。やはりすぐには難しいか、このまま盗人の者になるのだけは避けたいものだが……
「あ、あのっ! 徳田君!」
すると急に隣の席から佐倉が呼び掛けてきた。思えば彼女から話し掛けられるのは今朝に続いて2回目だ。
「どうした?」
「あの……良ければ、昨日みたく、その……一緒に……」
目を逸らしながら、しどろもどろになりつつそう話す佐倉に、俺はある程度が何を言いたいのか察しが付いた。彼女から誘ってくれるのはとても有難い。だが生憎今日は予定がある。
「すまぬ、今日はやる事があってな。」
「そ、そうですよね! す、すいません。」
「ああ、また違う日に誘ってくれ。」
佐倉の残念そうな顔を見ると少々断るのに気が引けてしまう。だが今日は止む負えん。どうしてもやらねばならぬ事があるのだ。
その後、佐倉や綾小路に別れを告げ、俺は昨日佐倉と共に敷地内を見て回った際、彼女に案内されながら購入した物がポケットに入っている事を確認する。……うむ、しかと入っておるな。では行くとするか。
◇
職員室前。
やはりこの時間帯、この場所に来るものは少ないらしく、生徒は殆ど居ない。だが余には躊躇っている暇は無い。俺はドアをノックすると、思い切って職員室の中に入った。
「失礼します。」
「あら、誰かしら?」
するとふわふわとした雰囲気を纏った女性教師がそこに居た。どうやら茶柱先生はいない様だ。
「1-Dの徳田新之助です。茶柱先生に用があって参りました。」
「そう、佐枝ちゃんならもうすぐ来ると思うわよ。」
やはり茶柱先生は居ない様だ。止む負えん。出直す他ないか。俺は対応してくれた先生に礼を一言告げると、職員室の扉へと向かう。だがどうやらそれは許されなかったらしく、先程のゆるふわとした女教師に後ろから肩をガシッと掴まれた。
「待って待って、佐枝ちゃんならすぐに来るし、少し待ってたら?」
「いえ、お手数ですので。」
「そんな水臭い~。でも君、よく見たら私の好きな俳優の若い頃にそっくりじゃーん。」
「おやめください。」
放してくれと意思表示の為に抵抗してみるが、あまり効果は無い。そもそも好きな俳優の若い頃とは誰の事だ、大方想像は付いているが、流石にここでそれを堂々と言うのは不味いぞ。
「知恵それくらいにしておけ、相手は生徒だぞ。」
すると茶柱先生がグイっと襟首を掴み、先生を俺から離す。どうやら俺が話している間に後ろから来たらしい。
「えー、良いじゃない。」
「駄目だ、ホラ下がれ。」
ブーブーと文句を言う者を茶柱先生はどけさせると、俺をデスクの前に来る様に言い。落ち着いて話せる状態になった事で、茶柱先生は俺から要件を問い出す。
「それで? 徳田、私に何の用だ?」
「いえ、少し昨日お聞きした事について確認をと。」
「ほう、なんだ? 言って見ろ。」
腕を組み、背もたれに寄り掛かる茶柱先生は、此方をどこか品定めしている様な目だ。だが…人に教える物がこの様な態度で良い物だろうか。正直余を下に見ている様で不快だ。だがここでの余はもう将軍ではない。故に特に突っかかる事はできず、言葉を続ける他ない。
「ここの敷地には随分交番や警察官が多いようで、やはり生徒の犯罪防止が目的で?」
「ああ、そうだが。それが何だ?」
「いえ、防犯カメラもここの治安を守る為なのかと思いまして。」
一瞬茶柱先生の眉がピクリと動く、やはり監視カメラに何かあるな。
「どうしてそう思った?」
「昨日、俺は先生に『この学校は実力で生徒を測る』という言葉に着いて、お聞きしたのを覚えていますか?」
「ああ、確かもし学校側から『実力無し』と判断された場合、ポイントは貰えなくなるのか? だったな。」
「はい、それと敷地内に設置されたヤケに多い監視カメラが関係しているのではないかと。」
俺が昨日から考えていた憶測を行って見れば、茶柱先生はニヤリと口元に笑みを浮かべる。やはりこれは正解という事か。
「残念だが、それは答えかねるな。」
「やはり、学校関係者全員に箝口令が敷かれているのですね。」
やはり俺の読みはある程度当たっている様だ。確かに素の実力を測るのであれば、相手に知らせずに調査するのも合理的な手段と言えよう。余も何度か職務怠慢の噂がある商人や農家に抜き打ちで調べた事もあった。だがあくまでこれは相手が何かしらを企んでいたり、悪事を行っている可能性がある際のみに使う受け身の策、正直普通の生徒に使うのは悪趣味が過ぎる。
「さぁ、どうだろうな。」
「お答えください。」
「―――ッ!」
茶柱先生の目をしっかりと見て、自分の意志を真っ直ぐに伝える。眼とは心の屈み、誠意をもって向き合えばきっと彼女も心を動かされて答えてくれるはず。
「だから答えられないと言っているだろう。もういいか?」
だが茶柱先生はこちらの眼を見て、一瞬瞳を震わせると、そっぽを向いて仕事に戻ってしまった。もう彼女には答える気が無いらしい。
「はい、失礼したします。」
俺はこれ以上の尋問は無駄であると判断し、職員室から出て行く。だがその際、茶柱先生から妙な視線を感じた。やはりまだ何か隠しているのか。
◇
職員室を出た後。
「ふむ……」
運動部の掛け声が響く中、俺はベンチに座り考えを廻らせていた。
正直この学校に着いてはある程度察しは付いている。今日茶柱先生に聞いた時、監視カメラやポイント云々についての俺の憶測は有っているだろう。もしそれが本当ならば今の内に少しでも多くの生徒に話しておきたいところだが、証拠が無い。
ポケットの中に入ってある昨日買ったばかりのボイスレコーダー。茶柱先生が何かしら口を滑らせ時を考えて買っておいたが、先ほどの会話は一通り録音してあるが、周りの人間が納得するような決定的な言質は取れなかった。10万ポイントの1割が無駄にならなければ良いのだが。
尋問は前世では御庭番任せという事も有ってか、思ったよりも上手く行かない物だ。ある程度話してくれる自信は有ったのだが、確信的な証拠が無ければ意味が無い。少し情報を集めながら茶柱先生の隙を突く他、彼女の口を割らせる方法は無いだろう。
「どうした物か。」
だがこのまま考えても意味が無い。少々気分転換も兼ねてかベンチから立ち上がり、敷地内を散策し始める。確か西洋の哲学者であるアリストテレスは散歩をしながら考え事をしたと言われている。余はそれほど頭脳明晰という訳ではないが、落ち着きを戻す為にも足を動かそう。
「……む?」
すると再びスマホが『ブー、ブー』と震える。どうやらまたネットニュースの様だ。そう言えば余の太刀はどうなったのだろうか。幾ら転生し武士ではなくなった余でも己の刀の安否くらい気になる。
スマホを取り出しつけて見ると、そこには余の刀の盗んだ下手人が捕まったニュースが書かれていた。
「……無事捕まってくれたか。」
ネット記事の見出しを見て、余は胸を撫でおろす。だが記事を読んで行く内の余の心に不安が曇り始め、遂には予想外の事を知ってしまった。
「何ィ!?」
記事中かれていた内容を簡単にまとめるとこうだ。『盗んだ時の映像は監視カメラに写っており、犯人は無事警察に捕まった。だが盗まれた刀を犯人は持っておらず、通報を受けた警察官が来た時には刀は姿を消していた。』
これは……一体どういう事だ?
刀が消えた? いや、そんた荒唐無稽な話など聞いた事ない。この場合犯人が何処かに隠したと見るのが妥当だが、調査していた警察官のインタビューでは、犯人が最後に確認できた確保される3分前の監視カメラの映像では刀が入っている者と思われるギターケースが確認できたと話している。
……となると、盗人が盗人の盗んだ刀を盗んだと言う事か? 江戸でもそんな話、狂言でしか聞いた事無いぞ。では刀は第二の盗人の手に有ると言う事か。
「はぁ………」
文字通り狂言じみた展開に、思わず溜め息をつく。そもそも何故余の刀なのだ? 徳川家の財宝ならば他にも沢山あるであろう。‥‥まぁ盗んだところで前世ならば成敗するまでだが。そこまで刀というのは人を惹き付ける物なのか?
スマホをポケットにしまい、人目の付かず、監視カメラの無い場所へと歩く。そして目的地に到着すると余は後ろの物陰に振り向いた。
「先程から俺を追って何の用だ? コソコソと尾行される謂われはないと思うが……何奴だ?」
暫しの沈黙、だが余は折れる事は無い。相手が姿を見せるまで警戒の意を込めて物陰を睨む。すると相手も勘弁したのか、物陰からのっそりと出て来た。
「ご無礼致しました上様。」
その男は清掃員の服を着ており、帽子を取ると、出て来るなり片膝をついて此方に頭を下げる。
「……そなたは……まさか!」
「またお会いできた事を、心より嬉しく思います。」
余は警戒を解き、彼に歩み寄り、顔がしっかりと見える様にする為に、男と同じように片膝をつく。そして顔を見た瞬間、余の中で先程まで悩んでいた者は全て消し去り、喜びが溢れ、自然と笑みが零れた。
「久しぶりだな! 助八!」
そう、衣服や髪形は違うが、顔立ちは正に瓜二つ。証拠など確認する必要はない。彼は前世で余が最初に使っていた御庭番であり、かつて余を庇い鉄砲で撃たれて殉職した男。薮田助八がそこに居たのだった。
一応別の小説で転生させる歴史上の人物ですが、坂本龍馬で行こうと思います。
完成し次第此方にURL張ろうと思いますので、良ければご拝読ください。
ご感想お待ちしています。
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