チリちゃんは草タイプに弱い   作:たんたんたらたん

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まいど


第1話

 

 

―――子供の頃、俺は友人からポケモンに例えると草タイプだと言われたことがある。

 

 

 決して俺の名前が『ソウ』だからという訳ではなく、なぜそう言われていたかは今ではある程度検討がついている。そしてそれは俺の恋愛遍歴によるものだと思う。

 

 このパルデア地方の中心にはグレープアカデミーという大きな学校があり、そこは老若男女問わずに入学することができポケモンに関する知識を学べる場所であるためパルデア地方だけでなく他の地方からの入学者も多い。もちろん生まれてから今までパルデアで生きてきた俺もそこに入学した訳であるが、在学中の俺の生活については至って特筆するところはない。強いて言えば俺は自身のパートナーを戦わせるというポケモンバトルをあまり好んでおらず座学を中心に良い成績を修めていたのだが、そのような生徒はちらほらいる。

 

 話を戻すが、俺が草タイプだと言われていた理由はこの学校生活中の恋愛事情にあると俺は考えている。実に多種多様な生徒が在学するグレープアカデミーでは恋愛もまた生徒の間ではポケモンバトルの次にメジャーな話題となっていた。

 

 そんな多くのカップルがひしめくグレープアカデミーで俺は今まで独り身を貫いてきたのである。なにも俺自身まったく女子からの人気がなかったという訳ではなく、実際校舎裏に呼び出されて想いを告げられるというなんともまあ青春の香りがプンプンするイベントも片手で数えられるほどはあった。

 

 しかしその相手に対して俺はいつも「良い友人」という印象しか持っておらず、どうにも恋人をつくるという選択をすることができなかった。…当時は告白されるたびに内心しこたま驚いたものである。

 

 そしてもう一つ恋人を作らなかった理由に、一人の友人の姿がある。

 

 彼女は俺がアカデミー在学2年目にジョウト地方のコガネシティから転校をしてきた所謂転校生であり、そのような生徒は割りかしいる。中性的な見た目とその明るい性格から彼女はすぐにクラスに馴染み、真の陽キャというものを俺はここで知った。そして偶然俺のクラスに編入してきた彼女と俺は意気投合し、それはもう毎日のように放課後一緒に遊んだものである。

 

 まあつまり彼女と過ごす日々が楽しくてあまり恋愛に興味が湧かなかったのがもう一つの理由というものなのである。彼女に俺が女子に告白されたことを報告すると露骨に不機嫌になっていたため、彼女も俺が恋人にかまけてあまり一緒に遊べなくなるということは望んでいなかったのだろう。

 

 そんな彼女とも俺が就職してからは会う機会が減り、今ではここ数年会っていない。たまにスマホロトムでメールなどのやりとりはしていたが、彼女も仕事が忙しいようでここ最近はメールすらもしておらず疎遠になっていた。

なにやら割と偉い役職についているようで幼馴染の俺としては誇らしい気持ちとよくわからない敗北感がそれを聞いた時には湧いたものである。

 

 あいつは元気にやっているだろうか。俺にできるのはそれを祈ることだけだ。そして時間があったら一緒に飲みにでもいってお互いの近況を報告しあいたいものである。

 

 

 

 余談ではあるが、俺は彼女にも草タイプだと何故かジト目で言われたことがある。…こちらからすれば、髪の毛の色が緑のあいつの方が草タイプっぽいと思うのだが。

 

 

 

 

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「…異動?」

 

 いつも通り出社した俺は上司から開口一番に異動を告げられた。急な異動とか嫌な予感しかしない。どこか変な地方に飛ばされるんじゃないだろうな。

 

「ああ、普段の君の業績や態度が上から評価されてね。ソウ君は明日からポケモンリーグで働くことになる。まあいわば引き抜きってやつだね。」

 

 俺が働いている職場は割と様々な仕事を行う。ポケモンセンターに設置されているポケモンの体力を回復する機械のメンテナンスや雑貨品の配達、バトルコートの整備などその他の事務作業や雑務を含めるとその仕事の種類は少なくない。

 そんな場所で働いていた俺がまさかのポケモンリーグから引き抜かれるという。…なぜ?

 

「…ここだけの話、ポケモンリーグは結構人手不足らしくてね。なんでもサラリーマンとジムリーダーと四天王を兼任している人すらいるらしいんだよ。そこで即戦力が欲しいらしく、多くのポケモンセンターの職員から推薦をもらったソウ君が選ばれたって訳。」

 

 …まぁ、ある程度の事情は把握できたがその3つの仕事を兼任してる人が不憫でならない。社畜という言葉を擬人化したらその人になるだろ。その人ちゃんと寝れてるのか?

 

「わかりました。明日はポケモンリーグに出社すればいいんですね?」

 

「うん。手続きとか引き継ぎはこっちでやっておくから今日は残ってる仕事を終わらせといてね。」

 

 急な異動で多少の面倒臭さがあるが、俺は少しワクワクしていた。だってあのポケモンリーグだぞ。四天王とその上に立つチャンピオンから成るパルデア地方最強のポケモンバトル施設で働くなんて鼻が高くなってしまってもしょうがないだろう。

 俺はポケモンバトルをするのはあまり好きじゃないが別に見るのは嫌いではない。なんならむしろ好きである。ただ自分のポケモンに愛着が湧いちゃって痛い思いをさせたくなくなってしまうだけなのである。

 

 ポケモンリーグで働いたら最高峰レベルのバトルを生で見れるんじゃないか。そんな期待と共に俺はデスクへ向かった。

 

 

 

 

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「ここか…」

 

 翌日、俺はポケモンリーグの前にいた。

 ここが今日から俺の職場である。分かってはいたけど凄くデカい。入り口にはガードマンのような男性が立っておりどこか敷居の高さを感じさせる。

 

「あなたが異動してきたソウさんですか。」

 

 ビルのように大きいリーグに呆気を取られていたら背後から声をかけられた。

振り返ってみると黒いスーツに身を包んだ髪の毛のボリュームが凄い女性が微笑みながら立っていた。…にしてもすごい髪型だな。ただのロングヘアには見えないけどなにか特別な髪型なのだろうか。

 

「はい。今日からここで働かせて頂くことになりました、ソウです。失礼ですがあなたは…?」

 

「私はこのポケモンリーグでトップチャンピオンを務めているオモダカといいます。今日からよろしくお願い致します。」

 

 なんとチャンピオンだった。危ねぇすごいヘアスタイルですねとか言わなくてよかった。初っ端から大粗相をぶちかますところだった。油断ならないなポケモンリーグ、流石だ。

 

「リーグで行ってもらう仕事については別の者がお伝えします。それよりまずはオフィスに行きましょうか。案内しますので着いてきてください。」

 

 しかもチャンピオンが直々にリーグを案内してくれるという。…さっきも俺のこと待ってたみたいだし割とチャンピオンって暇なのか?

 少し考えてそんなわけはないかと軽く自嘲しながら、チャンピオンの後に続き俺はポケモンリーグへと足を踏み入れた。

 

 

 

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 ポケモンリーグの最高責任者に付き添われるというなんとも贅沢な思いをしながらたどり着いたオフィスで俺はこれからの仕事について説明をされた。

 

 といっても行う仕事の内容は前の職場とはさほど変わらず、それよりも行動範囲がかなり広くなるようであった。それというのもポケモンリーグとパルデア各地にあるポケモンジムは密接に繋がっており、俺はたまにそのポケモンジムに赴いて機械の整備なりなんなりをすることになるという。少し大変ではあるがそんな頻繁に行く訳ではないらしいため許容範囲内である。

 

 そんな俺は現在、オフィスで職員への挨拶を済ませポケモンリーグ内にあるポケモン回復装置のメンテナンスを行なっていた。

 やはり天下のポケモンリーグ。その設備はどれも一級品でありこの装置一つにしても、さっきチラ見したバトルコートにしても上質なものが揃えられている。

 

 給料も良いし設備も良い。おまけに職員は皆優しく活気に溢れている。…人手不足で仕事が多いことを除いたら凄いホワイト企業なんじゃないか?ここ。前の職場で聞いたサラリーマン兼ジムリーダー兼四天王は流石にやりすぎだと思うけど。属性盛りすぎだろ。

 

「やはり手際がいいですね。職員の方々からの評判も良いようですしあなたを招いて正解でした。」

 

偉大なる社畜様へ同情をしていたらチャンピオンのオモダカさんが後ろから話しかけてきた。…やっぱこの人暇なんじゃないの?

 

「いやぁ、どれも良い設備で整備し易いです。それにみなさん丁寧に使ってくれているようで大きな破損や劣化もありません。それよりも、チャンピオンはどうしてここへ?」

 

「少し空き時間ができたので様子を見に来ました。何か不自由していることがないか心配していましたが、どうやら問題なさそうで安心しました。それと、私のことはオモダカとお呼びください。」

 

 チャンピオンもといオモダカさんはにこやかにそう告げる。とても大胆な髪型をしているが彼女の容姿は非常に整っており、それでいてパルデア地方のトレーナーの頂点に立っているのだから本当にとんでもない人である。

 

「もうすぐ私は昼休みですし、ここでもう少し貴方の整備を見ておくことにします。よろしいですか?」

 

…もう確信した。暇なんだわこの人。リーグ委員長がどんな仕事をしているのかは俺の知るところではないがこれでいいのか?ポケモンリーグよ。あ、いいのかこの人がトップだったわ。うーんこれが社会という理不尽。

 

 しかしそれを断る理由もさして見当たらないため、了解の旨をオモダカさんに伝え俺は作業に戻る。ここにはポケモン回復装置が何台か配置されており、俺はまだ一台目を整備している段階のため俺の昼休みはもう少し先になりそうである。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 後ろで興味深そうな目を向けてくるオモダカさんと雑談をしながら作業をしていた俺であったが、その整備もラスト一台を残すところとなっていた。

そして俺とオモダカさんもかなり打ち解け、現在はお互いの過去についての話題に花を咲かせていた。

 

「私は学生の時からポケモンバトルに夢中でしたね。校内にいる様々なトレーナーの方々と勝負をしたものです。私のポケモンバトルには手を抜けないという性格のせいか、最後の方には勝負をしてくれる方は少なくなってしまったのですがね。」

 

「そうなんですか、流石チャンピオンですね。俺は逆にポケモンバトルをすることが苦手で…いつも1人の友人と遊びに行っていましたね。ナッペ山の麓でユキワラシたちと雪合戦をしたり、イーブイの進化系を全部見つけようなんて言って色々走り回ったり…いやぁ懐かしい。」

 

 アカデミーでの彼女との記憶を振り返っていると学生の時の若さと冒険心が蘇ってくるような気がする。あの頃は何もかもが新鮮で二人で遊んだ時間は俺にとってかけがえのないものだ。相棒とも呼べる友人とパルデアを駆け回っていた俺も今はれっきとした社畜である。学生諸君、今は目一杯遊んでおきなさい。単位は落とさない程度にね。

 

「あれ、トップやないですか。なにしてはるんですかこないなとこで。」

 

 すると突然、オモダカさんに話しかける声が聞こえてくる。どうやらオモダカさんの知り合いが通りがかったようである。俺はポケモン回復装置のメンテナンスをしながらオモダカさんと話していたため彼女に背中を向けている状態であり、来訪者の姿が見えることはない。

 

「おや、そちらこそどうしてここに?いつもなら昼休みはアオキやポピーと喋っているのに。」

 

「ちょいとそこの自販機で飲みもん買った帰りや。そんでトップはここでなにしとるんですか?」

 

 整備をしながら背中越しに彼女達の会話を聞いてたが、どうやらオモダカさんの知り合いはコガネ弁を使うようである。やはりコガネ弁を聞くとどうしてもあいつの姿が脳裏に浮かび上がってきてしまう。最近あいつのこと思い出すことが多いな。

 

「今日から異動してきた彼と少しお話をしていました。早くもここに慣れているようですし、彼の整備の腕はなかなかのものですよ。」

 

「異動?そらまたえらい急な話ですね。なにかあったんですか?」

 

「単に人手不足の解消のためです。毎年求人を出してはいるのですが、その時のリーグに見合うと判断された合格者だけでは足りず…。そこで各地のポケモンセンターでの評判がいい彼ならば即戦力になってくれるかと思いまして。」

 

 どうやら俺のことを話しているようである。この流れだと知り合いの方にも挨拶をする流れになりそうだ。オモダカさんと割と気軽に話しているようだし、それなりに偉い人なのかもしれない。今朝のようにいきなり粗相をしかけるようなことはしないようにしよう。どんな髪型が来ても平常心を保つべし。

 

「ふーん…なぁ自分、今日からここで働くんやってな。よろしく頼むわ!ウチのことはチリちゃんとでも呼んでな!」

 

そう話しかけられたため俺も振り返って挨拶することにする。

 

「今日からお世話になりますソウです。よろしくお願いします。チーーー」

 

ちょっとまて今この人なんて言った?

俺の聞き違い、そして見間違いでなければそこには

 

「…チリ?」

 

「え…自分、ソウか…?…おわっ!あぶなっ!」

 

奇しくも最近思い出すことがやたら多かった俺のかつての相棒。

 

ーーーチリが手に持っていた缶コーヒーを落としかけ、目を見開いて呆然としながら立っていた。

 

 




衝動書きのため続くかは未定です。
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