チリちゃんは草タイプに弱い   作:たんたんたらたん

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まいど。
ハッサクおじちゃんをどんなポジションで出そうかと迷っております。キャラはすごい好きなんだけど妙に扱いづらい…。


第4話

 

 チリが風邪を引いたらしい。

 

 雲一つない快晴の青空の頂上に太陽が登り切った頃。俺はいつものように昼休憩に突撃してくるであろうチリをオフィスで待っていたのだが、今日はいつまで経ってもチリが来なかった。不思議に思った俺は同僚の職員に話を聞いてみたのだが、どうやらそういうことらしい。

 

 しかしあいつが風邪を引いたのは随分久しぶりに思える。まだ俺たちがアカデミーにいた頃は彼女が熱を出しているところなんて見たことがなく、俺が覚えている彼女の体調不良といえば手持ちのウパーにむちゅッとキスをしていた日の翌日くらいのものである。ちなみにそれはウパーの粘液に含まれる毒によるものであり、それを知ったチリは『それじゃあウパーとチューでけへんやん!ウパニウムの補給どうすればええねん!』と唸っていた。

 

 そんなチリが熱を出すとはなんともまあ珍しい。大人になるにつれて体の免疫力は低下していくとは言うけれども俺もあいつもまだそんな歳じゃないだろうに。

 

 そんなわけで、とりあえず俺は今日の仕事終わりにチリの家へ看病に行くことに決めた。いつも帰路を共にしているため彼女の家がどこかくらいはもう知っており、流れで何回か上がったこともある。何故かチリはそういうときにやたら酒を勧めてくるのだけれど、整備という仕事の性質上あまり翌日まで影響を及ぼすことはしたくないためお断りしている。休日前とかだったら喜んで飲むのにな。

 

 そんなわけで後でチリの家に買っていくものを頭の中で整理しながら事務作業を行なっていると、オフィスの自動ドアが開いて誰かが入ってきた。

 

「失礼します。ソウさん、あなたに少しお願いしたいことがありまして伺わせてもらいました。」

 

 自動ドアの奥から現れたのはオモダカさんであった。その手にはなにやら紙の束をもっており、結構な分量の紙がクリップで纏められていた。

 

「実は本日、四天王のチリが病欠をしてしまいまして。今日渡すべきである資料が渡せない状況なのです。そこで今日は早く仕事を上がってもらって構わないので代わりにこの資料を届けて頂けないかと思いまして。」

 

 そう言ってオモダカさんは資料の束をこちらに向けて差し出してくる。どうせ看病には行く予定だったからいいんだけれどそれってわざわざ俺に頼むようなことだろうか?

 

「ちょうど仕事終わりに看病でもしに行こうかなと思っていたので平気ですよ。お任せください。」

 

おや…これは余計なお世話でしたかね。…助かります。ではよろしくお願いいたしますね。」

 

 そうにこやかに告げるとオモダカさんは踵を返してオフィスを後にした。…なんか最初ボソボソ言ってたけどなんだったんだ?

 

 オモダカさんから受け取った資料をカバンにしまい、俺は作業へと戻る。チリが風邪をひくなんて滅多にないことだからな、今日くらいは多少甘えさせてやってもいいだろう。

そんなことを考えながらひたすらにデスクに向かう。まずは今日の仕事を終わらせなくては。

 

 

$$$$$

 

 

 

「相変わらずでけぇな…」

 

 時刻は遠く向こうに沈んでいる夕日が完全に顔を隠しかける頃、俺はスポーツドリンクや頭を冷やすシート、その他食料などが入った袋と会社用の鞄を片手づつに持ちながら巨大なマンションの前にいた。

そして高級感溢れるこのマンションこそチリの自宅なのである。さっきから住民であろう人が出入りしているが、いかにも金持ちといったような男性や高そうな腕時計をした女性が見てとれる。

 

『…あぁ、ソウ、来てくれたんか…。今開けるから勝手に入ってきてや…部屋の鍵も開けとくわ…ケホッケホッ』

 

 インターホンを押すとチリの声が聞こえて来た。声色を聞いた感じ本当に具合が悪そうであり、多少の心配が募る。

 少し待っていると正面のガラス扉が自動的に開いたのでその先にあるエレベーターに乗ってチリの部屋がある階層まで上がっていく。到着を告げる電子音と共に扉が開くと左右に伸びる長い廊下が現れる。チリの部屋は右奥だったはずだ。

 廊下を少し歩きチリの部屋の前に到着する。部屋の鍵を開けておくという先程のチリの言葉を思い出し少しドアレバーを下げてみると、簡単にドアが開いた。

 

「チリー入るぞ。お前が風邪引くなんて珍しいな。平気か?」

 

「ゾヴー…。あかん、チリちゃんしんどい…」

 

 靴を脱ぎながら奥にいるであろうチリに向かって声を出すと返事が返ってくる。その声にはいつもの明るさは見えず、チリらしからぬ弱々しさが聞いてとれた。

 

「その様子だとまだ熱も高そうだな。お前が風邪をひくなんてなんか変なことでもしたのか?寝込んでるチリなんてすげぇ久々だわ。」

 

「わからんけどチリちゃん最近むっちゃ忙しかったからそのせいかもしれん…。面接志願者いっぱい相手したからその誰かからもろたのかもしれんし、ようわからんわ…エホッエホッ」

 

 チリは気怠げな表情でベッドの中からそう答える。そういえば以前チリはリーグへの挑戦者に課される一次試験の面接官をやっていると言っていたな。チリは比較的誰に対しても明るく優しいから受験者もやりやすいのではないだろうか。…ちなみに前の職場に就職する時の面接はちゃんと圧迫面接だった。『では、この傷薬を私に10000円で売ってください』とか言われた時は思わず面接官の顔に手渡された傷薬を噴射しそうになった。かろうじて耐えた当時の俺を誰か褒めてくれ。

 

「そっか。とりあえずなんか食えるもの作ろうと思ってるんだが、食欲あるか?」

 

「食べれると思う…チリちゃんお粥食べたい。おネギさんたっぷりの…。」

 

「はいよ。ここに飲みもん置いとくからこれ飲んで待っときな。…あぁ、後オモダカさんから預かった資料も向こうに置いとくからな。」

 

 緩慢な動きで起き上がりながら枕元に置いたスポーツドリンクをグビグビ飲むチリを尻目に映しながらキッチンへ向かう。一人暮らし故に普段からある程度自炊をしているためお粥程度なら問題なく作れる。

 多めの水と共に炊いた米に多少の塩で味付けをし、ネギや卵を入れる。そういえばこうやってチリに手料理を振る舞うのも何年振りだろうか。手料理といっても昔作ったのは簡易的なサンドイッチだけどな。

 

「ほら、出来たぞ。熱いから火傷しないよう冷まして食べろよ。」

 

「…。」

 

 チリのベッドの前にテーブルを運び作ったお粥を乗せて差し出す。しかしチリはスプーンを手に取ることなく少しポーッとした顔で料理をジッと見つめている。

 

「…どうした?やっぱ食欲ないか?」

 

 少し不審に思った俺はチリにそう尋ねる。

 

「…んっ。」

 

 するとチリは目を閉じながら口を広げた。その姿はまるで親鳥が運んでくる餌を待つ雛鳥のようである。…食べさせろってことか?

 

「いや、自分で食べるくらいはできるだろ…。さっきスポドリ飲んでたし。」

 

「……。無理、チリちゃんスプーンも持たれへん。…アーン」

 

 そう返事をしたチリは更に大きく口を開けながら微妙に前に乗り出して来た。別にここはチリの自室だから他人の目もないし食べさせてやってもいいのだが…なにかチリから負けられない闘いに身を投じる戦士の気迫のようなものを感じる。

 

「はいはい分かったから。ほら、アーン」

 

「アームッ。…熱ッヅウッッ!? 」

 

「あ、悪い。…大丈夫か?」

 

「舌に『だいもんじ』くらったんかと思たわ!もっと冷ましてから食べさせてやチリちゃんニャオハ舌さんやねんから!」

 

 まだ湯気が立ち昇っているお粥に勢いよく口をつけたチリは涙目になりながらそう叫んだ。それでも吐き出さずにハフハフ言いながら最終的に飲み込んだところに曲がりなりにも乙女としての意地を感じる。

 

 チリが熱いものを食べることを苦手としていることをすっかり忘れていた俺はすまんすまん、と謝りながらもう一度お粥を掬ったスプーンを差し出す。しかしチリの口元に運ぶ前に息を吹きかけて熱を取ることを忘れない。

 

「…ほら、これで大丈夫だろ。ちゃんと噛んで食べろよ。」

 

「アムッ。美味いわぁ…。ソウの手料理なんて何年振りに食べたかわからんからなんかごっつ懐かしい気持ちになるわ…。」

 

 チリが頬を緩ませながらお粥を美味そうに頬張る。そこまで満足顔で食べてもらえると作ったこちら側もなんだか嬉しくなってくる。

 

 

 

 その後もチリの口にスプーンを運び続け無事にお粥を食べさせ終えた俺は、後片付けを済ませチリの様子を見ていた。あれから少し時間が経ったこともありチリの容態も穏やかになって来ていて、来た時は頻繁にしていた咳も収まりを見せつつ赤みがかっていた頬も肌色を取り戻して来ている。

 

「そろそろだいぶ落ち着いたんじゃないか?俺が来る前に薬も飲んでたみたいだし、平気そうなら俺はそろそろ帰るけど。具合はどうだ?」

 

 チリの顔色を伺いつつ彼女の体の具合について聞く。

 

「…いや、チリちゃんまだ超しんどいわ。頭とかごっつ痛いし、なんだか身体もだるいわぁ。」

 

 病人の部屋にあまり長居するのも悪いかと思い帰る口実作りも兼ねてチリに体調を尋ねると凄くわかりやすい嘘を吐かれた。…なんでだよ、お前さっきから割とハキハキ喋れてるじゃねえか。

 

 しかし本当にまだ具合が良くなっていない場合も少なからずあるため俺はチリの額に自分の額を押し当てて熱を測る。俺の額が冷たかったのか、「ヒウッ」とチリが驚いた声を上げる。

 

「うーん、測った感じ熱は下がってきてると思うんだけどな。…まぁでも確かに顔はさっきよりも赤いな。」

 

 『ソウの吐息がぁ…ほんまそういうとこ狡いわ…』とよくわからない発言をしながらチリが頷く。俺も昔から体は強い方なため風邪が移ることの心配はあまりしていないが、俺がいることでチリは疲れないだろうか。

 

「…やろ?せやから今日はもういっその事こと泊まってってや。優しい優しいソウくんはこないに弱ってるチリちゃんを1人にせんよな…?」

 

 期待を込めた目をしながらチリは下から覗き込むようにそう言ってくる。うーむこのイケメン、実にあざとい。

 

「いや…、いくら俺とお前でもいい歳した男女が一つ屋根の下はまずいんじゃないか?もし俺が変な気を起こして襲いでもしたらどうするんだよ。いや襲わないけどね?」

 

「チリちゃんの知ってるソウはそんなことせえへん…というか出来へんからそこの心配はしてへんよ。…まぁ、もしそうなってもチリちゃんは別にかまへんのやけどな。むしろ望むところっちゅうか…。

 

 なにやら少し罵倒されたような気もするが、チリは俺のことを信頼していると笑顔で伝えてくる。俺ももちろんチリを傷つけるようなことをするつもりは微塵もないが、彼女もまた俺のことを信じてくれているという事実は素直に嬉しく自然と笑みが溢れる。

 

「…わかったよ。じゃあ俺は向こうのソファーで寝るから先にシャワー借りるぞ。」

 

 まぁせっかく来たんだし、ここで帰って万が一チリの機嫌を損ねることになったら風邪の治りも遅くなる可能性があるため今日ぐらいはいいか、と自分を納得させる。

 

「いや、なにいうとんねん。ソウをそないなとこで寝かせるわけないやん、今夜はチリちゃんと一緒にこのベッドで寝るんやで。」

 

 するとチリがポンポンと自身のベッドを叩きながらまたとんでもないことを言って来た。

 

「お前…それはちょっとまずいって。何かあってからじゃ遅いし、チリも寝る時窮屈だろ。」

 

「なんや、ソウはチリちゃんと寝るの嫌なんか?」

 

「そういうわけじゃないが…。「ならええやん。」 いや、もっとなんかこう…別の問題がたくさんあるだろ…。」

 

 添い寝は流石に危ないと思った俺はチリに反論するが、何かあった場合に被害を受けるであろう立場のチリ本人は全く引く気配を見せずに言い返してくる。そしてその目からは今日1番とも言えるほどの力強い意志を感じた。

 

「と、とりあえず俺シャワー浴びてくるから!その間にもう一回熱測っとけよ!あ、後あんま汗かいてないから洗濯とかはしなくていいからな!」

 

 いい負かされそうになった俺は逃げるように浴室へと駆け込んだ。…チリのやつ、なんか今日はいつにも増して要求が多いな。まぁ久々に風邪を引いて人肌が恋しくなったとかそんなところだろう。今日1日くらいは大目に見てやってもいいか。

 そんなことを考えつつ全身にお湯を浴び、その温かさに心癒されながら俺は少し微笑むのだった。

 

 

 

 ちなみにシャワーを終えた後、脱いだ服を入れておいた籠を見たらシャツが無くなっていた。気を遣ってなにかしてくれているのかと考えた俺が確かめるために借りたスウェットを来て脱衣所を出ると、ベッドの上で俺のシャツに顔を埋めるチリの姿が見えた。

…まじでなにやってんだ?あいつ

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 その後、結局勢いに押し切られた俺はチリと就寝を共にすることになり彼女の抱き枕と化しながら眠りについた。

 その際、少しでも煩悩が湧く余地を与えないように意識がなくなるまで『サウナでひたすら耐える熱血漢!アオキさん!』という妄想をしていたことは秘密である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、お待ちしております。
主人公は『特性:難聴』のため小声で発せられる言葉は基本聞き取れてないです。
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