ぼざろロスのダメージってヤバいですね。
連日猛暑が続く真夏のある日、下北沢のとあるマンションの一室で、俺は目覚めた。
高校入学と同時に入居した、俺の自宅だ。
「ん〜〜、よく寝た。今何時だ?」
俺は眠い目を擦りながら、ベッドの側のサイドテーブルに置いてある電子時計を見た。
そこには、AM 10:38 と表示されている。
もう朝食には遅い時間になっているが、夏休み中なので、全く問題はない。
かなりの長時間寝ていたので背中に痛みが走るが、体を起こして洗面所へ向かう。
顔を洗ってからリビングでしばらくスマホを弄ってのんびりしていると、そろそろ12時になるところだった。
「とりあえず腹減ったな。冷蔵庫に何あったっけ?」
俺は昼食の準備をするため、冷蔵庫を開けた。
すると、卵が切れていることに気づいた。
気分的には卵焼きが食べたかったが仕方ない。
買い物に行くのも面倒なので冷蔵庫の中にある野菜でシーザーサラダとベーコンを炒めてトーストを焼く事にした。
食パンは焼くだけでいいのでこういう時結構役立つ。
ブランチを終えてからは、部屋の掃除をすることにした。
現在一人暮らしをしている俺の部屋には、俺の服とはサイズが違う部屋着やマニアックな音楽雑誌といった日常的にうちに入り浸っているあいつの私物が増えてきている。
俺も知らないうちに増えていることもあるのでこうやって定期的に整理している。
ここ最近、あいつがうちにくる頻度が高くなってきている。
彼女曰く、胃袋を掴まれたらしい。
料理は結構好きなので、純粋に俺の料理を褒めてくれるのは嬉しい。
噂をすればなんとやら、あいつからロインが来た。
『夕方そっち行くね』
『あと』
『カレー』
『食べたい』
どうやら、今晩はカレーをご所望らしい。
早速材料買ってくるか。
俺はカレーの材料を買うため、近所のスーパーに来ている。
野菜は玉ねぎ以外は揃っていたので、あとは玉ねぎと肉とルーを買うだけだ。
昼過ぎのスーパーには、まだ主婦達はおらず昼食を買いに来たサラリーマンや小遣いを握りしめて来たのであろう小学生が多い。
俺は目当ての品を購入して、自宅に帰って来た。
あとは夕方まで待つだけなのだが、やる事もなく暇なので少し昼寝する事にした。
「桐野、お腹すいた。」
「今何時?」
「6時」
どうやら、少し昼寝するつもりが、4時間も寝てしまったようだ。
ソファでぐっすり眠る俺を起こしたのは、少し前に偶然出会ったベーシストの山田リョウだ。
山田は普段から俺の家に来て飯を食べて家主の俺より寛いでいる。
「桐野、カレー食べたい。早く作って。」
「今作るからちょっと待ってろ。山田。」
俺はソファから立ち上がりキッチンに向かった。
そして、米を炊き、カレーを作り始めた。
その間、山田はテレビを観ていた。
「桐野、今度この辺にカフェができるんだって。出来たら一緒に行ってみない?」
「いいね。自分の分はちゃんと払えよ?」
「今金欠だから難しい。」
「いっつもだろ。」
この女は常に金欠である。
かなり裕福な家庭で、結構な小遣いを貰っているらしいのだが、金遣いが異常に荒くよく野草を食べるレベルで金欠なのだ。
カフェで俺に奢らせようとしていたようだが、流石にもうその手には乗らない。
「山田、今何観てんの?」
「録画してあった音楽番組」
「俺そんなの録画したっけ?」
「この前来た時私がした。」
もう俺より満喫してるやん。
山田はもう俺よりもうちに馴染んでいる気がする。
まず俺あんまりテレビ観ないし録画なんて観たい映画が用事で観れなさそうなタイミングでしかしない。
でも最近ちょっとずつ変わってきた気がする。
これまではあまり音楽に興味は無かったが、山田とよくつるむようになってから少しずつ音楽に興味が湧いて来た。
それまでは中学の頃まで一緒に住んでいた従妹がギターを弾いていたくらいしか音楽との接点が無かったが、今ではたまにライブハウスに行くほど音楽に関心がある。と言っても山田のバンドのライブを観に行く位だが。
「そろそろカレー出来上がるからちょっと待っててくれ。」
「わかった。あとどれくらい?」
「あと5分くらいでできるぞ。」
もうすぐカレーが出来上がると言うと、山田は目を輝かせていた。
彼女は最初は表情が分かりづらいと思ったいたが、最近は割と何考えてるか大体わかるようになって来た。
少しすると、カレーが完成した。
俺はカレーを皿に盛り付け、山田の待つテーブルまで持って行った。
「美味しそう。絶対美味しい。」
「不味いカレー作る方がむずいだろ。」
「確かに。いただきます。」
山田は、カレーを一口食べるとすごい速さでカレーを食べ始めた。
「凄い。こんな美味しいカレー初めて食べた。桐野、カレー屋さんすれば?」
「大袈裟だろ。市販のルーじゃなくてスパイスからこだわればもっと美味いの作れるだろ。手間はかかるけど。」
「カレーにこだわる男は結婚できないって聞いたことある。」
「ほっとけ。誰かいるだろ。あと山田の方が心配だよ。相当器の大きな男じゃなきゃ無理だろ。」
なんか今さらっと酷い事言われた気がする。
将来のことなんて、将来にならないと分からないしまあなんとかなるでしょ。
あと山田の方が心配だ。
ルックスこそ抜群に良いが、中身がかなり残念である。
「桐野は結構大きいと思うよ。」
「何が?」
「器」
ん!?
今の結構な爆弾発言だったと思うんだけど。
「山田の方こそ、俺でいいのか?」
「嫌なら今桐野の家通ってない」
どうするんだこれ。
ポーカーフェイスを装いながらカレーを食べる山田だが、耳が真っ赤に染まっている。
それからしばらく、お互い無言でカレーを食べ終えた。
その後は二人でソファに並んで座り、映画を観た。
「山田、今日泊まるのか?」
「うん。シャワー浴びてくるね。」
「わかった。」
山田は最近週2でうちに泊まっていく。
多分親には女友達の家に泊まると言ってあるのだろう。
俺が親なら、こんな頻繁に男の家に娘を泊らせないだろう。
そんなことを考えていると、山田がシャワーを浴びて出て来た。
「桐野、髪乾かして。」
「はいはいわかりましたよ。」
山田の髪って綺麗だよな。サラサラで触り心地が良くて結構好きだ。
とか本人に言ったら気持ち悪がられるので心にしまっておく。
「桐野って妹とかいるの?」
「妹はいないけど、中学まで従妹と一緒に住んでたからな。割と慣れてるかも。」
俺は中学まで叔父夫婦の家に預けられており従妹の髪をよく乾かしていたので、結構こういうのには慣れている。
従妹は今大丈夫だろうか。今年受験生なのでちょっと心配している。
「ふーん。」
山田はちょっとホッとした表情をみせた。
なぜ安堵しているのかよくわからないが、山田がよくわからないのはいつものことなのでスルーした。
「じゃあ俺もシャワー浴びてくるわ。」
「いってらっしゃい。」
こうして俺は、シャワーを浴びに浴室に向かった。
それからしばらくして、俺がシャワーを浴びてリビングに向かうと、ヘッドセットをつけて何やら盛り上がっている山田がいた。
「何やってんの?」
「部屋にあったVR」
そういえば今年お年玉で買った気がするわ。
そんなの。
買ったは良いものの、ゲーム内容的にすぐに飽きがきたのでちょっと買ったことを後悔している。
衝動買いは良くない、という良い勉強になったので少し感謝もしているけど。
しばらくすると、山田も満足したようで、ヘッドセットを外した。
「飽きた。」
「結構すぐ飽きるよな、あれ」
「でも最初は面白かった。」
「最初はな」
どうやら、山田も同じ意見だったようだ。
また今度面白そうなソフトでも買ってこよう。
気づけば結構遅い時間になっている。
そろそろ寝る時間だ。
「桐野、眠い。」
「じゃあ寝るか。俺はソファで寝るから山田はベッド使ってくれ。」
そう言って、俺はソファに寝転がった。
「待って。」
寝転がった俺を、山田が呼び止める。
何かあったのだろうか?
「どうした?」
「ソファは寝心地悪いし、ベッド行こう。」
何言ってんの?
俺のベッドはシングルベッドなので、かなり密着しないと二人は寝れない。
あと年頃の男女が同じベッドで寝るのはまずい。
「それはまずいでしょ。」
「桐野は別に何もしないでしょ。ヘタレだし」
「言いたい放題だなぁ。」
それから、何度かこのやりとりを続けたが、山田の考えは変わらなかった。
「結構近いね、顔」
「だから言ったろ、狭いって」
「別に。嫌じゃないから大丈夫。」
この体勢だと顔がかなり近い。
無駄に美人すぎてちょっとドキドキしているのが恥ずかしい。
しばらくすると、山田はぐっすり眠っている。
俺は、ドキドキしすぎて暫く寝れなかったが、無事眠りにつくことができた。
「もうちょっとかな。桐野、大好き。」
ぐっすり眠っている桐野拓海の頬を撫でながら囁く山田リョウの姿をみたものは、誰もいなかった。
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