裏ボスはメアリー・スー 作:後書きは信用するな
メアリー・スーでは長いので。
サッカー、野球、バトミントン、ほとんどのスポーツには引き分けこそあれど
一時期流行ったお手手繋いで一等賞、なんて茶番なら話は別だが。
「マジにすごいぜホークス。まさか『大嘘憑き』と『雀蜂』の欠点を瞬時に見抜いて対応するとは、流石は公安所属。いずれNo.2ヒーローの座に手をかける男は格が違うね。でもまあ俺も目的を達成できた、最低限の格は保てたかな」
現実における死と共に行われる実戦、そこでは互いの勝利条件が食い違う時がある。
例えば人物Aの勝利条件はBの足止めだが、BはAを殺すことが最優先の目的なんてことがあったとしよう。
この場合ゆっくり時間をかけてBがAを殺せばあら不思議、両者共に勝利という現象が為される。
今回も例に漏れず、メアリー・スーとホークスの勝利条件は全く違っていた。
「俺にとっての最優先事項はレディナガンの元に辿り着くこと。ホークスは・・・・・・恐らく『収監されているヴィランを一人も外に出さない』ってとこかな。できれば元凶の俺も捕縛したかったんだろうけど、まあそんな余裕ないよね」
空を飛び回り得体の知れない武器で攻撃を仕掛けてくる女、それに対応している間にセキュリティの隙を突いて凶悪ヴィランが脱獄してしまう。
といった事態は絶対に避けなければいけない、それがホークスの認識だった。
実際既に戦いの余波で幾つかの独房の鍵が壊れてしまっている、状況としては最悪だ。
故に戦闘開始から百十秒後、ホークスは再生の力を持つ女の捕縛と殺害を諦め脱獄しようとしているヴィランへの対処に当たったのだ。
その隙をついてメアリは地下へと侵入、ナガンの場所へと向かっていたのだ。
「ってのが俺の認識なんだけど合ってる?どうせ聞こえてるんだろホークス」
タルタロスの地下にてメアリは問いかけた。
ウィニングヒーローホークス、背中に生えた剛翼を操る彼は羽を通して声を聴くことができるのだ。
原作知識というある意味
「悪いけどこの真白の空間ではその羽は目立ちすぎる、付かず離れずの距離で尾行したかったんだろうけど無理だよ無理」
一枚の羽、それを使ってメアリの後方から追跡していたのだ。
捕縛を諦めつつもタダでは終わらない、冷静な判断力と経験が成し得る技。
今現在地上でのヴィラン制圧をほとんど成してる彼はある意味この防衛戦に七割勝利したと言っても過言ではないだろう、更にこの後メアリを倒せれば完全勝利。
またもや彼の名声が世に響き渡り、元から高い支持率が上がることだろう。
それかタルタロスの惨状の責任が後から参戦したホークスにも押し付けられるか。
それはメディアの報道次第だ。
まあ、仮に勝てたらの話だが。
「まあ、見つかったからと言って何も君が悪いわけじゃない。あの時恐らく打てる手としては最善手だ」
そんな慰めにもならない言葉を後方に潜む羽に投げかけながら、メアリは着実にレディナガンの独房へと近づいていた。
ヴィランにそんなこと言われても微塵も嬉しくないと、地上のホークスは思ったとか思わなかったとか。
「それに
彼女はとある独房の前でピタリと立ち止まった、目当ての場所へと行き着いたのだ。
「さてホークス、そろそろお別れだ。君とはいずれじっくりのんびり語り合いたいのだけど、それは今じゃないらしい。ここから先は俺とナガンの女子トークの時間、男は立ち入り禁止だぜ」
自分の前世が男であることを棚上げして、メアリはやれやれと被りを振る。
「それとも公安の闇の話とか、
その羽は会話の内容から衣摺れの音まで全てを聞き取る、そんな羽が消滅する寸前に聞いたのは「カチ」というボタンが押されたような音だった。
炭が舞い落ちる、羽は跡形もなく燃え落ちてしまった。
「何をブツブツ独り言言ってんだ?看守・・・・・じゃねぇよな」
独房の奥、うずくまっている女がいた。
彼女の名は筒美火伊那、かつてのヒーロー名をレディ・ナガン。
元公安所属のヒーローだ、民衆は公安云々なんて微塵も知りはしないけれど。
「看守はこんなところ来ないさ。いや、食事運びに来るかな?」
「メシはロボが運んでくる」
「おっとそうだったか、徹底してるねタルタロス。万が一にも脱獄させねぇってわけか」
人が近づければ人質にされる恐れがある、だがロボならば纏めて銃撃してしまえばそれで済む話。
一度入れば二度とは出られない、普通の監獄と違い屋外での運動すら許されない。
一生薄暗い独房の中に閉じ込められてまま、詳しい実態が漏れれば人権侵害と騒ぐ人間も出てくることだろう。
「まあ、そんなことはどうでもいいんだ。ロボットはここにくるまでの五キロの橋でだいたい壊し尽くしたし、看守は上の対処で手一杯。制御室は俺が狂わせたロボットが制圧してるから、独房は開かないにしてもいきなり銃撃されることはない。つまり君と話す時間はこれで確保できたってわけだ」
「・・・・・・お前マジで何者だ?」
「それもどうでもいいだろ?それとも政府の陰謀で生み出された人工生命体とでも言っといたほうがいいか?カルト宗教が地獄から呼び寄せた悪魔って設定でもいいぜ」
真面目に答える気がないと判断したナガンは、ハァとため息をついた。
こんなところまで来るヴィランにまともなのがいないのは分かり切っていたのだが、それでも久々に外の人間と会話ができる。
ほんのちょっぴり楽しみにしていたというのに。
「で、何のようだ。わざわざここに来たってことは公安のことも知ってるんだろ?」
「そう、そのことだよ。それについて聞きたかったんだ。なぁ筒井火伊那、いやレディナガン。君は現状についてどう思ってる?」
急に真剣な表情になったメアリはナガンの目を見据えて問いかけた。
雰囲気が変わった、まずナガンが認識したのはそれだった。
強化ガラス越しにメアリを眺めるナガンにも、その明らかな変容は伝わったのだ。
本人は『裏ボスとしてはギャップも必要だな』なんてことを考えてるとは思ってもいないようだ。
わかるわけない、
「独房生活なら退屈としか言えねぇな」
「違う、君がここに入れられた経緯さ」
ピクリとナガンの眉が細められた。
思い起こされるのはあの日の記憶、自らの手で上司を撃ち殺したあの日のこと。
「たかだか一人殺したくらいじゃとてもじゃないがタルタロスには入れられない、そのくらい公安にいた君なら知ってるはずだ、ああ、勿論公安命令の殺人は除外しての数だ」
ナガンは何も答えない、目を伏せて沈黙を貫くだけ。
「ここにいるには凶悪な個性を持ち大きな犯罪を犯した者や影響力のある思想犯だけ。人殺しも重大な犯罪行為だがタルタロスの出番じゃない。じゃあ何故君がここにいる?答えは一つ、君という存在が持つ情報の全てだ」
ピンとメアリは指を立てる。
まるで名探偵がトリックの解説をしているかのように、全てを見透かしているような目をして。
実際はただただ原作知識を垂れ流しているだけだなんて、メアリは口が裂けても言えないだろう。
あまりにもダサすぎる。
「公安によるまだ罪を犯していない市民への暗殺命令、それが漏れるだけで世間による公安のバッシングはとんでもないことになるだろう。陰謀論も湧き上がるだろうな、フリーメイソンすら超える新たな陰謀論が生まれるかも知れねぇぜ?歴史的瞬間だ」
「・・・・・・つまり、ここから連れ出して真実を世の中に知らしめようってか?」
「いや別に?絶対嫌だねそんなこと。どうせ混乱するのも声を上げるのも一部の層だけだ。多くの一般人はただただ話のタネにするだけ、面白がるだけだ。君の人生も葛藤も罪も何もかもががスナック菓子のように大衆に消費されるのはゴメンだね」
さっきの風格あるムーブは何処へ行ったのやら、メアリはいつ通りのテンションでナガンの言葉を否定した。
その勢いで彼女は扉を開ける。
厳重なシステムによって施錠され、開くはずのない扉が今開かれる。
「つくづく化け物だな、どうやって扉を開けたんだ?」
「元から開いてたのさ、誰も知らなかったけどね」
呆れ顔のナガンに対して意味深な言葉を残して、彼女は部屋に一歩踏み入れる。
ナガンは未だ部屋の隅に座っているだけ、個性を使う様子もなければ脱獄しようとする気配もない。
彼女は元公安、殺気を見抜くスキルには長けている。
メアリに殺意がないことを理解しているのだ、だが仮にあったとしても動く気はなかっただろう。
今の彼女に生きる目的はないのだから。
「決め台詞って大事だよな」
一歩。
「絵的に映えるシーンで劇的なセリフを出力できる漫画家には憧れるぜ、俺にそんなセンスはないからね」
また一歩。
「だから俺は武器も台詞も
そしてメアリはナガンの眼前で腰を下ろす。
ナガンの顔を正面から見据え、彼女は口を開く。
ナガンは予感していた、これが人生の分岐点となると。
何かが起こる予感を感じ取っていた。
「俺と契約して世界を救わないか?」
「代わりに俺が世界を壊すからさ」
ホークスとの具体的な戦闘はいずれ彼自身の口から語られます。