裏ボスはメアリー・スー 作:後書きは信用するな
動くのは次回から
「いらないよ」
雨が降る。
「サーヴァントも直死の魔眼もいらない、ユミルの血統もゴムゴムの実もなにもかも」
もう涙と雨の区別すらつかない。
「神々の義眼だって!無下限だって!AFOだって!」
森にて泣き崩れる少年、彼は神を憎んでいた。
「もう何もいらないからさ!」
ただただ叫ぶ、なんの意味もないと分かっていてもそれでも。
「■■■を殺さないでくれよ、頼むから・・・・・・」
目の前には下半身のない人間が横たわっていた。
「あァ・・・・・・」
それはまるで自分の未来のようで、こうならなくて良かったと思ってしまった醜い自分を恥じたくなって。
「死にたくない」
これはまだメアリー・スーが誕生する前のこと、この物語の主人公であるとある少年の記録である。
『と言った攻防が繰り広げられていたそうですが、警備員囚人含め幸い死者は一人もいませんでした』
それは民放のニュース番組。
リポーターが現場の状況を伝え、ご意見番が意見する、どこにでもあるニュース番組だ。
『以上、タルタロスからの中継でした。スタジオでは専門家を────』
とある高級ホテルの一室、その場所でメアリはリモコンを操作してTVの電源を落とした。
「とまあこれが君が脱獄してから半日経った今、つまりは現時点での外部の状況だ。あくまでもメディアの報道ってだけでネット上ではもっと色んな情報が出回ってるけどね」
「私は脱獄してねぇ、お前が勝手に連れ出したんだろ」
ホテルのものであろう寝巻きに着替えたナガンが椅子に腰掛けていた。
その横でベットに寝転がりながらリモコンを持っているメアリ、互いが互いにいつでも相手を殺せる距離だ。
寛いでいるように見えてその実警戒しているナガン、平常時のような振る舞いで最大限の警戒を行う技術は公安に仕込まれている。
「・・・・・・かなり警戒してるね。そんなに俺が信用ならないかな?」
「ったくバレバレかよ、腕が鈍ったか?」
ナガンは公安所属のヒーロー、当然ヴィラン組織に潜入したこともある。
その時に仕込まれた擬態の技術にはある程度自信があったのだが、あっさりとメアリはそれを見破った。
メアリの観察力が高いのか、はたまた長年檻の中にいたせいでナガンの腕が鈍っているのか、答えは恐らく両方だろう。
「長年檻の中にいたんだし当然だろ。それとも『どうにも俺の観察眼が優れ過ぎてたようだ』ってらドヤった方がいいか?」
「・・・・・・まだお前と出会って一日しか経ってねぇけど断言できる。絶対ウザいから辞めろ」
ペラペラと聞いていないことまで喋り出すこの女、常にヘラヘラ余裕そうに振る舞っているこのヴィラン。
この上そんなことされたらキレてしまうくらいにはウザくなること間違い無しだとナガンは予想していた。
だがまぁ実際キレはしないだろう、彼女は大人なので。
公安のトップを殺した女がそんなこと言っても説得力はないかもしれないが。
「わかったよ、それに必要以上に自分を過大評価するのは性に合わないからな。さて、それはいいとして今後の話をしようじゃないか。長くなりそうだしなんか飲むか?」
「あるならオレンジジュース、ないなら水で」
「了解」
メアリは立ち上がるとスタスタと冷蔵庫の方へ歩いて行き、中からオレンジジュースとコーラを取り出した。
コーラは瓶のタイプではなくペットボトルだ。
そんなメアリを横目にナガンは窓から外を眺めていた。
思えば今日は色々なことがあった、ありすぎた。
不審な女に連れ去られたと思ったらホテルで風呂に入ったり、本当に驚愕の展開の連続だ。
「・・・・・・はっきり言って今の私に冷静にお前との駆け引きや騙し合いをできるとは思えない、対人交渉スキルも衰えてるだろうしな。だから単刀直入に一つ聞く、お前の目的はなんだ?」
公安時代なら時間をかけて目的を聞き出すところだが、今の自分に同じことができるとは限らない。
それに、最悪聞き出せなくてもいいのだ。
もはや今のナガンに生きる理由はないのだから。
故にこんな状況でも落ち着いていられるのだ。
だから今聞く、気になったから聞く。
ただそれだけ。
「目的?そりゃ君と話したかったからで───」
「そんなことは聞いてねぇ、最終目標だ。私を連れ出して結局のところ何したいんだ?目当てのものはマジでなんなんだ。テロか?公安の情報か?それともタルタロスへの攻撃自体が目的で私は副次目標か?」
タルタロスへの襲撃、それは前代未聞の大犯罪であり一部のヴィランからすればある意味偉業だ。
国を揺るがす犯罪者や思想犯画脱獄に成功していたかもしれないと考えると、これはもはや国家に対する反逆とも取れる。
常識的に考えれば今後行われるテロへの布石とか、警察信用を落とすためだとか、ともかく何かしらの目的があって行われた筈だ。
「最終目標?まあそりゃ『最終的にこうしたいなー』的な人生の目標的のはあるけど、君を攫ったのはあんまし関係ないし・・・・・・そうだな・・・・・・」
ただそれはあくまで
「──────ないよ」
彼女は転生者、この世の外から舞い降りし災厄。
そもそもタルタロスの無敵神話も脱獄不能の話も、転生者である彼女からしてみれば滑稽でしかないのだ。
事実として『僕のヒーローアカデミア』の作中でタルタロスはAFOによって破られているのだから。
彼女にとっては『破られた』という前例があるため、誰もが怖気付く監獄にも怯むことはなかった。
「は?」
当然、ナガンは困惑する。
嘘をついているようには見えなかったからだ。
「おいおいこの世界は紛れもない現実だぜ?誰もが『犯罪を犯したのには理由がある筈だ』なんて青年漫画のテンプレに沿うわけじゃねぇよ」
「・・・・・・わかりにくい例えだな」
「そいつは失敬。まああえて理由をつけるとすれば気に入らなかったから、本当にただそれだけだ」
『ゴキブリが気に食わないから潰した』これはよくある話だ。
『蟻は嫌いだから巣穴を足で消し潰した』少々露悪染みてるが理解はできる。
だが『気に食わないからタルタロスを壊す』なんて行動は完全に理外の外にあるとナガンは感じていた。
ただただスケールが違う。
「・・・・・・何が気に食わなかったんだ」
されど表に動揺を出していないと言うのは流石は元公安といったところだろう。
咄嗟の反応を抑えるスキルは衰えていなかったようだ。
「さぁ?理由は山ほどあるからね、行動に至った最後のきっかけはわからねぇぜ。けど君のことが大きかったのは確かだ」
「私のこと、何がだよ」
ナガンは少しだけ驚いた、自分とメアリじゃ会ったことすらないのに何故だと疑問を抱いた。
「あぁ、説明したいけど原作知識って言ってもわかんねぇだろうな・・・・・・」
ウンウンと頭を悩ませるメアリ、世紀のヴィランの行動としては酷く滑稽だったというのがナガンの感想だ。
そして十秒くらい経った後、彼女はゆっくり頭を上げてナガンの目を見た。
「ねぇナガン」
もし仮にこの言葉に肯定を返さなければ、違う未来があったんじゃないかと後に彼女は後悔する。
「いや、筒美火伊那」
だがもう遅い、既に運命は始まってしまっているのだから。
原作が、物語が動き出しているのだから。
レディナガンには止められない、元凶を殺すことでしか止められない。
「この世界の真実を知る気はないか?」
オリ主は元々は一般的な感性と常識を持つ中学生でした。
どうしてこうなってしまったんでしょうね。