裏ボスはメアリー・スー   作:後書きは信用するな

6 / 7
今回差別的な人間がたとえで出ますが作品の思想には一切関係はありません
時系列はちょっと前、トガヒミコとメアリの出会いです


好感度はそう簡単に上がらない 前編

 未成年であるためにトガヒミコの顔写真は公開されていない、日々凶悪犯罪が起きているこの国で単なる傷害事件の犯人をいつまでも追い続ける余裕はない。

 されど顔写真程度ネットに上がっているのが今の時代、トガヒミコは世間から隠れながら逃亡生活を送ることを余儀なくされていた。

 そんなこんなで彼女は今日も廃ホテルで万引きしたコンビニ弁当を食べていた。

 

 「ここは……ラブホの成れの果てかな?懐かしいなぁ、あの頃はよく隠れ家にしてたよ」

 

 昔を懐かしみながら彼女は現れた、予想もしなかった場所から。

 背後から月光が差し込む割れた窓、それを飛び越えて彼女はやってきた。

 

 「……あなた誰です?」

 

 「誰?そうだなぁここは少年漫画のボスキャラらしく転生者らしくイイ感じの名乗りを───」

 

 「ニヤニヤしてるその表情可愛くないです,気持ち悪い」

 

 「……俺に『暗黒微笑』はまだ早かったか、もうちょい場数を踏まないとカッコいい笑みすら出来ねぇ」

 

 ニヤつきながら自らの登場をカッコよく締めようとしたメアリ、トガヒミコはそれをバッサリ切り捨てた。

 冷静に考えて欲しい、いきなり窓から現れた他人が『少年漫画のキャラ感を出す』なんてことをしているのだ。

 普段は裏ボス故の奇妙で不気味な格の高さで誤魔化されているが、自らの素性を一切知らない相手からすれば気持ち悪いだけだろう。

 『藍染惣右介』のセリフをそこら辺のオタクが真似ところで威厳もクソもないのと同じだ。

 

 「あぁそういえばTVで見たことあります。確か……カサラ……カララ……」

 

 「カララギ社、アメリカでもトップクラスの企業だぜ。ということで株式会社カララギ社の社長であるメアリー・スーだ、以後よろしく」

 

 漫画で見たような華麗なお辞儀ポーズ、それの上っ面だけ真似してメアリは自己紹介をした。

 それに呼応する様にトガヒミコも自ら口を開く。

 

 「私はトガヒミコ、よくわからないけどよろしくです」

 

 そのまま両者は近づいて握手をした、それはさも仲のいい友人のように。

 だがトガヒミコは一切の油断をしていなかった。

 彼女は咄嗟の状況判断や危険察知に優れている、逃亡生活がもたらしたものだ。

 それ故にメアリに殺意がないことは分かっていた、しかし油断はせずに袖に隠したナイフを取り出す準備を握手と同時進行で行っていた。

 右手で握手、左手でナイフの準備。

 何かあったらメアリを殺さんとする殺意、それを一切表情にも気配にも出さないのは天与の才かはたまた身につけた技巧か。

 

 「いいね、ファーストコミュニケーションは良好。しかもよく見ればそこに向かい合わせの椅子があるじゃん、ゆったりと話せそうだ」

 

 「社長さんは私を捕まえるために来たんです?」

 

 「いいや、話をするために来たのさ。それと社長さんじゃなくてメアリって呼んでくれよ、なんとなくむず痒い」

 

 はっきり言ってトガヒミコは側から見たら可愛い少女だ、絶世の美少女というわけではないが十分平均よりは上の顔立ちをしている。

 そんな彼女だからこそ『行き場のない犯罪者の少女に優しくするフリをして騙して犯そうとする』そんな相手に会ったことは一度や二度ではない。

 その経験が行っている、メアリからは騙そうと言う意思が全く感じられないと。

 一切の毒気を感じられないのだ、まるで喫茶店に紅茶でも飲みに来たかのように犯罪者の自分に会いに来たのだ。

 それはトガヒミコにとってはあまりに異質だった。

 

 「まあいいです、パスタが冷めちゃうのでお話は食べた後に」

 

 「りょーかい、部屋の隅でスマホでもいじってるよ、多分そろそろ日が変わるから「エタロ』の最新話がアップされる。それでも読んでTwitterのパチモンアプリで感想でも漁るさ」

 

 そんなメアリを尻目にトガヒミコはパスタを啜っていた、もちろんパスタ既に冷えている。

 万引きした商品なのだからそもそも最初から冷たい。

 ならばなぜそんな嘘をついたか。

 それは、まあ、うっかりだ。

 パスタといえば暖かいと言う前提がトガヒミコの中にあったのだろう、再び啜ってみて『冷めてる』の気づいた。

 それだけの話。

 

 「そうだなぁトガヒミコ、食べながら雑談でもしようじゃないか。別に大事な話でも本題でもない。井戸端会議にも劣る無駄話さ」

 

 「恋バナとかです?」

 

 「恋バナは嫌だね、好きな人はとっくの昔に自分で殺したし。思い出したくないことばっかりだ」

 

 どこか遠くを眺めながらメアリは言の葉を宙に撒き散らす。

 はてさて本当に彼女に好きな人はいたのか、なぜ自分で殺したのか、そもそもそんな事実存在しないのか。

 それはメアリのみが知る。

 だがまあ、真偽などどうでもいい。。

 所詮は前世の話、この世界に彼女の前世話の真偽を確かめられる人間なんていないのだから。

 嘘発見の個性でも使えば話は別だが。

 

 「……好きな人を殺す」

 

 思い起こされりるには自分が警察から追われることになったキッカケ、好きな人の血を吸ったあの日。

 

「別に重い話をするわけじゃないって、悪いね俺の言い方が悪かった。過去の悪行自慢か不幸自慢みたいになってたね、反省だぜ」

 

 スマホで80ポイントを使い、好きな漫画の最新話を読みながら彼女は謝罪する、もちろん上っ面のものだが。

 

 「そうだな……なぁトガヒミコ。とある白人至上主義の男の話でもしようか」

 

 「いきなり危なそうな話」

 

 「まあ聞いてくれよ、その男は学校の教師でさ、思想の割にあまりに外面が良かったんだ。『家族の誕生日には大きなケーキを振る舞い』『肌の色関係なく人と接し』『物腰は柔らかく万人に優しく』『成績を理不尽に下げることなどない』『素行不良の生徒はしっかり導く』『体罰はなく常に理論的な人間』そんな人だ」

 

 そして彼女は語り出す、もう既に勧誘は始まっておることにトガヒミコは気づいてない。

 

 「でもね、思想だけは最悪だった。『白人以外の人種は死滅すればいいと思ってて』『常に黒人を汚らしいものと思い人間とすら認識していなかった』でもそんな思想を持っていても、黒人白人誰にも暴力を振るったことがなく裏でリンチをしてるなんてこともない」

 

 「なんでそんな考えなのにみんなに優しいんです?」

 

 「単純なことさ、そんな思想は隠していた方が生きるのは楽だし人に好かれやすいから。本当に差別思考は思ってるだけなんだ」

 

 いつのまにかパスタは半分にまで減っていた。

 

 「そして、その男は思想が合う一人の人間にのみ自らの胸のうちを明かしていた。『誰にもいえないけどお前にだけは言える秘密だ』なんてね。けど些細なことで二人は喧嘩して、絶交してしまった」

 

 「悲しいです」

 

 「さて、人間の怒りのパワーは怖いぜ?秘密を打ち明けられた方は腹いせとして『対象の人の心の声を音声として周囲の人間に聞かせる』そんな個性の持ち主を連れてきたんだ」

 

 「都合がいい個性」

 

 「例え話だからね、そして高校の授業中に教室の外から個性を使い『男の差別思考を教室中にばら撒いたんだ』」

 

 「それで、どうなったです?」

 

 「当然男は学校を退職させられた。今の時代に相応しくない思想だからってさ」

 

 ここでメアリは真剣な目でトガヒミコの方を見た。

 パスタはもうなくなっていた。

 

 「でもさ、男は何もしてないんだぜ?いくらこのご時世問題になるような思想を持っていたって思うだけでなーんにもしてこなかったんだ。でも彼は社会的制裁を受けた……俺はね、思うんだよ」

 

 そこで彼女は立ち上がった、パフォーマンスのように両手を広げて演説を始めた。

 

 「だって、理不尽だろう?黒人が嫌いでもなんでも『被害を出してなければ何一つ問題はないはずだ』、彼は行動だけを見れば善人なはずなのに。でも人間は社会一般的に善とされていない価値観を持つ人間を叩くんだ、『血が好きな性癖』を持つ少女も同じ」

 

 ピクリ、トガヒミコの繭が動く。

 

 「君の生存ルートはは男のような存在になることだった、ひたすらに善人を演じ続ける道。でもその道でも男のように些細なミスで全てが終わる。どこかで綻びが出る。ただそんな思考に性格を持ってしまっただけなのに普通の人間よりずっと苦労を強いられてる」

 

 「だから何ですか、捕まえるんです?」

 

 だったら刺し殺してやるよ、とでもいいたげに彼女はナイフを取り出す。

 

 「健常な人間どもがヘラヘラ笑って日々を過ごしていると言うのに、『持って生まれたそのサガ』のせいで常に普通を演じることを義務付けられた少女に、一つのチャンスを。堕落と墜落への片道切符、もう戻れないけれど」

 

 「何が……言いたいんです?」

 

 「『何はあっても罪は罪、どんな事情があっても』なんの事情もないカスどもは揃ってそう言う、だーれも君の苦しみを理解しようとはしなかった」

 

 「あなたにだって知ったようなこと言われたくないです」

 

 「そりゃごめん、これから君のことをもっとたくさん知るから許してくれよ」

 

 一歩、また一歩メアリはトガヒミコに近づく。

 

 「ねぇトガちゃん、俺と一緒にゲームをしよう。世界を滅ぼし世界を救うゲームだ」

 

 真剣な目で彼女は夢物語を口にする。

 

 「俺、勧誘とか下手だからストレートに気持ちだけぶつけるよ」

 

 「幸せ者どもに、一矢報いないか?」

 

 「高校に入ってみないか?」

 

 「俺の、友達になってくれないか?」

 

 その目は、トガヒミコが今まで見てきた中で一番綺麗だった。

 誰よりまっすぐ少女を見据えていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。