「お前が女子だったら好きになっていた」といったら本当に女子だった件 作:タン塩レモンティー
「なんで今まで言わなかったんだ……」
俺はベッドに寄りかかり、天井を見つめながらそう言った。
まさか、男だと思っていた友達が女だったとは。
陽川のこれまでの挙動を考えても、確かに怪訝に思う点は多々あった。
一緒にトイレに行ったことはなかったし、昨日、俺の目の前での着替えを拒んだのもそれが理由だったのだろうと考えれば辻褄が合う。それに加え、保険証の性別表記とかいう確固たる証拠の提示をされては、俺も認めざるを得なかった。
「だって、だい君最初から勘違いしてたし。僕のこと完璧に男だと思ってたし。言うタイミングとかなかった……」
「馬鹿かよ……無理矢理にでも言うべきだろ……」
「だってだって……男だと思ってるから仲良くしてくれてたんだろうし、女って言ったら、友達でいてくれなくなるかもって思って……。初めての友達だったから……」
「まじか……信じられない……」
俺はあまりの衝撃に頭を押さえる。
背丈は確かに、男にしちゃ低い方だけど。顔が中性的で、整っているからこそ性別の見分けがつかなかった。
なんならちょっとキリッとしてて男寄りであったし、髪型からもあからさまに女子ってわかることはなく、男子にしてはちょっと長いかなって感じる程度。女子にしちゃ相当短いはずだ。
服装もそうだ。スカートとかなんだとか、THE・レディース物を陽川が着ているのを見たことがない。いつもシンプルな服装で、下はズボンばっかりだった。そういった服装からは男子を思わせる。
それに、男子にしてはちょっと高いが、女子にしてはちょっと低めだと感じるほどの微妙なラインの声も相まってか、色々と考えた挙句、俺の脳内CPUは完全に陽川を男だと認識していた。
あと、胸もないし……。多分最後のが一番でかいかもしれない。陽川のはでかくないんだけど。
ただ黙っていると、陽川はまだ疑っていると思ったのか、
「まだ信じられないなら、証拠……見せるけど」
と、ゆっくりとズボンへ手を伸ばした。
「いやいい、それはダメな気がする。倫理的に。いや、うん、ダメだ。絶対に」
「じゃあ信じてよ……」
「信じてるさ……ただ、ちょっとびっくりしてるだけだ」
「鈍感すぎなんだよ……ばか」
俺以外の者は陽川が女子だとわかっていたのだろうか。
一目見ただけでは女子だとは分からないはずだ。だから俺が鈍感だとか、そんなことはないと思うんだが……いや、そんなことよりも、これからどうしていけばいいのだろうか。
男だと思っていたから、俺は陽川と気兼ねなく接することができていた。それが女とわかっちゃ、どう接していいのかもわからなくなってしまう。
それは陽川も同じことなはずだ。さっき、女だと告白したら俺が仲良くしてくれないかもと言っていたように。
なら、なぜこのタイミングでカミングアウトをしたのだろうか。別に俺が気づいたわけじゃない。あっちから言ってきたのだ。黙っていれば、きっと一生気づくこともなかっただろう。
「ていうか、なんでこのタイミングで言ってきたんだ……」
俺はその真意を問う。
すると、陽川は麺を食らったかのように少し驚いた顔をしたのち、気恥ずかしそうに視線を右往左往させる。
「それは、えっと……だい君が、僕が女だったら好きになってたとか……そんなこと言ってくるから……」
ごくりと唾を飲み込む音が聞こえてくる。陽川は、どこか緊張している風だった。
ちなみに俺も緊張してる。目の前にいる男友達が急に女に変わるとかいう訳のわからん事態にドキがムネムネしている。
「好き、なんだよね?僕のこと」
女であるとわかったなら。昨日の俺の言葉が本当であったのなら、俺は陽川のことが好きであるはずだと、それを確認してくる陽川。
「まあ、そうなる、な……」
こくりと頷くと、陽川は安心したかのようにため息をついた。
「そっか……僕も好きだからさ、だい君のこと」
「そう……え、え!?」
ちゃんと聞こえてはいたのだが、耳に入ってきた言葉がちょっと予想外なものだったため、聞き間違いじゃないかだけを確かめるべく、今なんて?と目線で問うと、陽川はかーっと顔を赤く染めた。
「っ……2回も言わせないでよ……」
「お、おう……ごめん」
赤面した陽川の顔を見て、つい謝ってしまう。
なんかすごいさらっと告白されたんだけど……え、好きってlikeの方じゃないよな?この話の流れと雰囲気的に。僕も、って言ってたし。
ていうか、その前に俺も陽川に告白しちゃってるし……。昨日の時点でそれを言った相手は俺の中では男であったわけだし、てんでその気は無かったのだが、女であると言う前提が露呈すると、あの言葉は正真正銘の告白に変化してしまう。
なんだ、このアハ体験的な告白の仕方は。新しい告白の仕方?みんなも是非試してみてね!……いや、試せるような状況はかなりレアケースだろうな……。
そんなことを考えている間も、部屋はずっと静かなまま。二人とも黙っているだけだった。
今更だが、知らず知らずのうちに女子に告白してしまったという事実を目の当たりにし、俺の緊張はマックスに、鼓動が高鳴る。
陽川も先程のさらっと流れるような告白に恥ずかしさや緊張を覚えているのか、服の上から胸を押さえつけていた。
「あー……、えっと、陽川、俺のこと……好きなんだ?」
何かを言おうと言葉を絞り出す。
率直な感想を言っただけなのだが、陽川はふしゅーっと頭から煙が出ちゃうんじゃないかと思うほどに顔を赤くすると、ビシッと俺を指さして言い募る。
「で、でででも!最初にこ、告白してきたのはそっちだからね!?」
「告白って……!い、いや……!俺は陽川が女だなんて知らなかったから、ふざけて言っただけで」
途端、陽川の表情が曇った。
「え、ふざけて言ったの……?じゃあ、好きじゃないってこと?」
「あ、……いや、あれは本音だ」
「そっか……よかった」
ぱぁっと陽川の表情は輝きを取り戻す。
ほぅっと小さく息を吐くと、微笑を湛えた陽川は遠慮がちにちらと俺のことを見た。
「じゃあ、ちゃんと両想いだね……」
「そ……そうだな、確かに、そうかもな……」
うわ、なにこれやばい……超ドキドキするんだけどこれ今どういう状況?
事の展開が予想外の方へと向かっていることに緊張を覚え、俺はつい視線を逸らしてしまう。朝日に照らされたカーペットをじっと見つめていると、陽川がわざとらしく咳払いをした。
「な、なに……その曖昧な反応」
顔を上げると、陽川はむっと少しお怒りの表情だった。
どうやら、俺の誤魔化すような相槌が気に食わなかったらしい。
「いや……なんて言っていいかわかんなくて。びっくりだし、その、好き、だなんて……」
なんて言えばいいか分からずしどろもどろ。
こ、こういう時なんて言うのが正解なの?教えて神様!しかし、神様は教えてくれない。自分で考えろってか……。
俺が神様による無言の啓示を噛み締めていると、陽川が口を切った。
優しい声音で、儚げな笑顔を浮かべながら。
「好きだよ……僕は。だい君のこと」
真正面から言われ、俺は言葉を失ってしまう。
一方で、陽川はなおも続けた。
「僕のこと男の子だと勘違いしちゃう鈍感さはどうかな?って思うけど、それ以外は全部好き。……いや、その鈍感さももはや好きかも」
陽川はふふっと微笑み、過去のことを思い返しているかのような遠い目で床を見つめていた。
「だい君の昨日の言葉、すごい嬉しかった……」
そして、現在のことに目を向けるかの如く、陽川は俺の目を見つめる。
俺も、逸らさずにその目を見ていた。
「そっか……」
「うん。でもさ、僕まだ……ちゃんと、好き、って……言ってもらってないんだけど……」
そう、ジト目で見つめてくる。
「え、いや……それは流石に恥ずいって言うか、なんと言うか……」
「僕は言ったのに……?超恥ずかしかったけど?」
自分も同じ思いをしてるんだからお前も言え、と言わんばかりにアピールをしてくる。一応渋るが、陽川はずっと無言のアピールをしてくるだけだった。これは言わないと、先に進まなさそうだな……。
「……陽川」
そして、俺は改めて口にする。言い淀んでいただろうが、確かに言った。大きな変化が二つあった日だった。