東都のミドリさん   作:ラグ

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見つけて下さってありがとうございます!
読もうと思ってくださった器の大きいみなさんに感謝です!

原作知識はあまりないものが皆さんのお話を読ませていただいて書いているものですので、矛盾点やおかしなところがあると思います。
読む専門だった私ですが思わず書く方にも手を出してしまいました。
初めてですので文章力の方には期待しないで下さい。

細々と原作とは違うようになっています。

それでも大丈夫!という方はどうぞ。

すみません!
前回投稿させていただいた分と順番を変えさせていただいています。




彼女は

 

 

彼と出会った日。

 

 

 

「ごちそうさまでした」

「はい。お粗末さまでした」

 

収穫してきた苺を食べ終えて落ち着いたころ、となりから声がかかった。

食後のあいさつもきちんとできて感心感心。

 

 

声をかけられ、振り向いた先にいた彼はそれはもう不安定だった。

見た目がという訳ではなくて、こればかりは感覚の問題だからどうとも伝えにくいのだけれど、なんか足りてないですよねって感じ。

なんとなく気になったから声をかけてみたといった雰囲気だったけれど、多分無意識に体が引き寄せられたんだと思う。

ここの辺りは彼にとって求めているものが多いから。

 

 

植物といえば、二酸化炭素を吸収して酸素を放出する。人間に無くてはならないものだろう。

でもそれだけではなくて。

大ざっぱにいうと溜め込んでいる悪いものを吸収して、良いものを放出するというか

植物それぞれに何かしらの力があると思っている。

これは私がなんとなく信じていることだけれど。

だから私は植物には敬意を持って向き合うし、何かにつけて植物の身近にいるようにしている。

 

だってこんなにきらめいている。

 

見えるのだ。

夜明けとともに立ち昇ってきらめく雪のような光が。

育つとともに力を蓄えていく、生命を感じさせる光が。

 

感じるのだ。

不安なときでも落ち着かせてくれる安心感を。

満たされていく充実感を。

 

当たり前のように存在しているけれど、実はいろんな苦労を乗り越えて生き続けている。

物心ついたときから傍にいて、何を求めているのかがなんとなく分かった。

水が欲しい時も、日が当たらないことを嫌がっていることも、どの苗が元気なのかも教えてくれた。

 

ほんの少し手助けするだけでぐんぐんと力強く育っていくのを見るのが好きで、つぼみがほころんで開くときに溢れる光を初めて見た時の感動は今も忘れられない。

 

 

 

 

 

いつだったか、そんな溢れた光の粒がじんわりと人の中に入っていくのを見つけたときのこと。

私にとてつもない衝撃を与えた事件。

 

 

 

私が小学校に上がろうかという頃。

寒さも和らいできて少し暖かくなってきたなぁと思っていたら、いつの間にか桜が咲く季節になっていた。

この頃の私は幼稚園があまり好きではなくて、小学校に行かなければいけないということが、口にはしなかったけれどひどく憂うつだった。

だから桜が咲いてくることが、入学式へのカウントダウンのように思えてしまって、この時ばかりは好きになれなくて遠のいてしまっていた。

 

この時ちょうど母が職場復帰するタイミングだったこともあって、なにかとバタバタしていて大変そうで。

確か母の好きなコーヒーを買いに行こうと思い立ってそっと家を出たんだったか。

一応しっかり者で名が通っていて、それなりに家の事はしていたつもりだったけれど、ひとたび外に出るとどうしたらいいのか分からなくて戸惑ったことを覚えている。

いつもは父か母が手をつないで歩いていてくれた道はひどく大きく見えたし、そばを通る車はとても恐ろしく思えて。

すぐ近くにあるコーヒーショップには何度も行っていたはずなのに、歩けど歩けど一向に見えてこないし、いつの間にか知らない景色が続くばかりになってしまって、なんでなんでと、もはや半分泣きながら歩き続けていた。

平日のお昼間だったこともあって人通りも少なくて、道を聞くことも出来なかった。

まぁあの時の私が見知らぬ人に話しかけることができたかと言われると怪しいけれど。

 

 

だから余計に目に付いたんだと思う。

なんというか重苦しい雰囲気をまとう人が前を歩いていることに気がついた。

どことなくスーツもよれているし、猫背のせいもあってひどく草臥れた印象の人で、なんとなーく周りの空気が淀んでるというか、息しづらそうな感じが漂っていた。

え?大丈夫?と自分の状況も半ば忘れて思いながら、後ろを少し離れて歩いている内に、桜並木に差し掛かって。

 

 

目を見張った。

ふわりと舞う桜の花びらと、ふんわりとあふれてくる細かな白に近い桜色の光。

絶景に目が釘付けになった。

あれほど近付きたくなかった桜なのに。

 

そんな中、前を歩く人はひどくその光景から浮いて見えた。

なんとも言えない気持ちになりながら見ていると、光が降り掛かってじんわりと滲んでいくにつれて、その澱んだ色がだんだんと透き通っていったのだ。

むしろ力が満ちたような力強さを感じられるようになっていた。

この時は本当に驚いた。

 

その人はいつの間にかしゃんとした姿勢で立ち止まり、桜を見上げていた。

あれだけくたびれて見えた人はどこに行ったのかと思ってしまうくらい印象が変わっていた。

この変化が信じられなくて、まるで魔法にかけられたような心地だった。

いや、まさにそれは桜の魔法だった。

迷子になっていることも忘れて、しばらくその場に突っ立って見惚れていた。

 

その後、私がいなくなっていたことに気が付いた母が私を探しに来てくれて、一緒に桜を見て帰ることに。

ちなみにそれはもう怒られそうだったけれど、桜の魔法は私をお説教からも助けてくれた。

 

 

 

それからというもの、私の目は植物の持つあの美しい光がいろんな人を変えていくところを映すようになった。

その副産物としてなのか、疲れてるなーとか怒ってるなーとかそういうのもいつしか何となく分かるようになっていた。

 

 

 

だから。

 

目の前にいる彼にも陰りが見えたから。

普段のあなたはそんな色ではないんでしょう?

そう思えば、気がついたら彼を待たせて走っていた。

 

 

事務員さんのお部屋に置かせてもらっていたかばんから普段持ち歩いているお茶の葉を入れた小さなプラスチック容器を取り出した。

備え付けられている紙コップを一言断ってからもらってポットへ向かう。

 

摘んでから乾燥させたローズマリー。

それにリンデンのティーバッグ。

なんとなくだけれどそれを選んだ。

多分普段からハーブティーに慣れていなくても割と飲みやすいはずだし。

ティーバッグの中にローズマリーを足してから、お湯を注いだ。

ちらりと時間を確認したときに窓の外の赤色が目に入る。

 

 

5月も終わって6月。

そろそろ終わりを迎えてもおかしくない、けれど未だ実をつけてくれる苺。

学校のものだけれど、少し頂く分には許可をもらっている。

 

これも持っていってもいいかも。

 

自然と上がってくる口角を自覚しながら、苺を入れるためにもう1つ紙コップをもらいに向かった。

 

 

ハーブティーからティーバッグを引き出したあと、急いで苺を摘んでさっと洗ってから、待たせている彼のもとへ。

フェンスの向こうに行くには一度校舎の外に出ないと行けないから少し遠回りになる。

 

 

どうか力になってあげてね。

 

 

潰さない程度、でもぎゅっと紙コップを握り込むと、きらきらとした光がこぼれ出た。

 

それが、任せて。と言ってくれているようで、なんとなく心が暖かくなった気がした。

 

 

 

 

 

渡した自分が言うのもなんだけど、効果が劇的すぎて驚いた。

 

ハーブティーさんや

君たち、相性いいんだね…

 

じわりと染み入っていくのが視覚的に分かるくらい、さあっとご本人の色味が変わっていくように見えたんだけど。

 

気に入ったのだろう。

美味しそうに口をつける様子にこちらも嬉しくなってくる。

飲みきってしまう前にこちらも勧めておかねば、と手に持ったままの苺も差し出してみる。

どんなお味かとひとつだけもらっちゃう。

人に出す前に確認しておけって感じだけど、食べられない味なわけないので問題ない。はず。

うん、美味しい美味しい。

美味しく育ってくれてほんとありがとうねって感じだ。

 

 

口元に手を当てて目が丸くなっている彼を見て、笑いがもれる。

くるくるとよく表情が変わるものだなぁ。

うん。明るくなった。

今この時だけかもしれないし、

彼を悩ます原因が無くなったわけでもない。

きっとまた悩んだり、打ちのめされる時だってくるのだろう。

そうだとしても、今の明るく奮い立つような心の動きは彼の持っているものに違いはない。

ぜひ、これをきっかけに乗り越えて飛躍していってくれるといいのだけれど。

いつだって、立ち向かえるだけの強さはどこかに持っているはずなのだから。

大きな問題だって、見方を変えれば案外ちっぽけに感じられることだってあるもの。

助けになるものだって、いくらでも周りに転がっているはず。

それに気づけるかは本人次第。

負けるな、頑張れ少年。

 

 

 

 

 

 

 

 

別れ際の彼の瞳は輝きに満ちていた。

ひと回り大きくなったように感じるというか、一皮むけたようだった。

嬉しく思いながら別れて4日後。

まさかまた会うことになるとは思わなかった。

ましてや、一緒に散歩に巡るようになるとも思わなかった。

 

も、もの好きというか。

年ごろの男の子なんだから、もっと別に興味あることとかあると思うのだけれど??

何故にそうも嬉しそうにご近所巡りツアーに参加されるのでしょうか?

いいんだよ?私は。

むしろ嬉しいし。

行く先々でも人気者になってるし。

本人が良いのであれば拒む理由もないのだけれど。

来るもの拒まずが私の基本スタンスです。

疑問は尽きないけれど、ゆるりと行きますか。

ということで、合流。

 

 

今日も誘われるようにしてぶらぶらと歩いていくと、幼稚園の子の受け入れのママさん集団と出会う。

もちろん、ごあいさつ。

 

「こんにちは。お迎えですか?」

「あら、ミドリちゃん!こんにちは。そっちの子は初めましてよね?」

「もしかして彼氏くん?」

 

あのミドリちゃんがねぇ!って感じで本人そっちのけですっごい盛り上がってるよぉ…

 

「いえいえ、お散歩のお友だちなんですよ」

「どーも。はじめまして」

 

えーカッコイイじゃん!いいじゃんミドリちゃん!って感じで私たちそっちのけですっごい盛り上がってるよぉ…!

 

 

年下だよ?私じゃいかんと思うのですが…

あははと声が漏れ出てしまう。

あ、お隣さんはちょっと嬉しそうにしてる。

カッコイイとか言われ慣れてそうだから、さらっと流しちゃえそうなのになぁ。

 

「ミドリちゃん、こないだウチの子がすごい喜んでたわ。ほんと、ありがとね!」

「ウチの子も!また良かったらお願いできる?」

「あ、良かったです!私も楽しかったのでぜひ!」

「何なに?何かしてたの?」

 

なんてことはない、ちょっぴりお子さんをお預かりして一緒に遊んだだけのこと。

ちょうどプランターで育ててるナスとかトマトとかが出来てきてたから収穫手伝ってもらって、ごはん作ったり?そういうことしかしてないんだけどな?

どっちかというと特にちっちゃい子が好きそうなことやってないし、普段通りだったよ?

 

ということを説明。

むしろ私の方が一緒にお料理するのすっごい面白かった。

 

「そんな簡単に言ってくれるけど意外と大変よ!ちびっ子が4人も5人も集まると!」

「そうよねぇ。兄弟2人でもよくケンカして大変なのに。」

「あ、ウチの子あの後から料理したがるようになっちゃって。もうパパがメロメロ」

「うん。流石ちかちゃん。ご飯作るときみんなのお見本になってくれてたんですよ。苦手な子のフォローもしてくれたり」

「ウチじゃ妹放ったらかしなのに、あの子そんなことできるんだ。」

「すごく賢いというか、気が利く子だなぁって思いましたよ。もう頼りきりでしたもん」

 

 

ほんと、ちかちゃんすごかった。

 

そんなに前に出てくる子じゃないんだけど、周りの子のことよく見てて。手も口も出してないようでフォローしてるの。

私、同い年の時とか何やってただろう。

気を使ってるのを悟らせないように、でも人のために行動に移すのって大人でもなかなか出来ないよね。

 

 

「えーいいなぁ。俺もやりたい。次は声かけて?」

「えっ?」

「へえ!やっさしーぃ!これはやっぱ捕まえとかないと!」

 

キャッキャと楽しそうに皆さんされてます。

もうお腹いっぱいなので、勘弁してもらえますでしょうか?

 

「でも、冗談抜きでお兄さんも一緒だと助かるかも。やっぱりもしもお願いするってなった時にミドリちゃんひとりだと大変だし。」

「どうしてもどこにも預けられなくてどうしようっていう時って時々あって。本当にありがたかったの。」

 

どんどん出てくるお母さんたちの声。

そうだよね。

幼稚園に通ってる子のお母さん達だからお仕事とかはしていないのかもしれないけれど、やっぱりどうともならないときだってあるもんね。

子どもは宝っていうし、みんなで協力して大切にしていかないと。

お母さん達自身も体を休めたい時だってあるだろうし。

 

「出来ることならさせてもらいますね。彼も手伝って下さるようなので大船に乗った気でいてくださいね」

 

ちらりと彼を見ると、照れたように笑っていた。

なにこれ、可愛い。

 

 

ということで、ママさん集団とはお別れ。

てくてくとまた歩き出す。

すれ違うおばちゃんたちともおしゃべりしながらのんびりと進んでいると、後ろから呼ぶ声が。

振り向くと、時々一緒にお花のお世話をしているあいちゃんとあいちゃんママが走ってきていた。

どうやら先ほどのママさん達に私のことを聞いて、追いかけてきてくれたみたい。

──いつもありがとうね。この子がミドリちゃんにあったら渡すって言ってたものだから追いかけてきちゃった。

だって。

 

それだけで心がほんわりと温かくなった気がした。

あいちゃんがずいっと前に出てきて、差し出してくれたのはキレイに咲いている花。

とても大切に育てていたのだろう、キラキラと少し輝きが漏れている。

それも嬉しいけれど、満面の笑顔のあいちゃんとニコニコのあいちゃんママにも嬉しくなる。

この人たちの嬉しいのおすそ分け、本当にステキだなあと思う。

これだから止められないのだ。

今日しかない幸せを感じられる。

この人たちの思い出と、私に向けてくれているその温かい心が今日も私にじんわりと沁み込んで満たしてくれる。

隣で見ている彼も最初こそ目をぱちくりとさせていたけど、途中からは嬉しそうな顔であいちゃんを見ていて、流石の合わせ上手で話しかけたと思ったらもう仲良くなっている。

その光景で笑顔が止まらない。

変な顔になっちゃってないかな?

人に見せられる範囲かな?

うふふ。とお花を受け取って、また一緒にお世話しようねと約束してお別れ。

 

 

 

 

それから先もいろんな人とお話して、皆さんの畑とかにもお邪魔して、ご一緒してくれてる彼とお話しながらのんびりと歩いていく。

 

唐突にじんわりと嫌な感じ。

なんじゃいと思ってそちらの方を向くと階段の先に黒のもやもや。

場所的にはどうやら神社っぽいのに、雰囲気は全然神社っぽくない。

これ、このままってあんまり良くなさそうだよねぇ…

ってことでどうにか出来るかは分からないけど、様子だけ見に行くことに。

ただ彼にはあんまりここには近付いてほしくないので、少々お待ちいただきたく、とお願いして駆け足で石段を駆け上がる。

 

ある程度登ってきたけどこの原因はまだ上っぽいので、向かおうとすると後ろから呼ばれる。

そっかー。来ちゃったかー。そうだよねぇ。

頼りにしてない訳じゃないんだ。

ただ何を説明したらいいかも何があるかも分からないから、見に行ってみたいだけなんだと言っても意味分からんと思うし…

うんうん悩んだ結果。

ゴリ押し。

ごめんなさい。とりあえず行ってみます。

と進むと途中から彼の足は止まっていた。

すぐに戻ります!ごめんねぇ!!

 

 

 

そんなこんなで登り切ると下にいた時とは比べたくないくらい嫌な気配が漂っていた。

なんで?

「っ!」

思わず後ずさる。

すうっと引きつけられるように視界に入ってきたものは釘で縫い止められているわら人形。

 

ちょっっっと待って!!

しかも寄りにもよってあの木って御神木ですよね??

こういうのってさ、もっと見つからないようにこっそり奥の方でやるものじゃないでしょうか?

なんでこんなすぐに見つかるような開けたところでやってるかな?

あ、御神木にするおまじない的なもの?

んー私分っかんないよ?

こういう時の正しい対処法とか?

適当に引っこ抜いたらなんか呪われそう…って思いながら近づいてみる。

 

 

ここまで空気を変えられる程の悪意が恐ろしかった。

ぞわりぞわりとした空気は密度を濃くして周りを漂っている。

こうまで憎い人がいるの?

こうなるまでに何があったの?

恐ろしい以上に悲しくなってくる。

思わず木の肌に手を触れる。

途端、この土地に根付いて見守ってきたこの木の暖かさが伝わってくる。

でも、弱っていっているのも分かった。

何というか分厚くてふわふわの毛布なのに、ところどころ薄くなってしまっていたりザラザラになってしまっている感じ。

それがどうしても嫌で気になる部分に意識を向ける。

カリカリと指の先で感触を確かめるように意識の手を伸ばして触れてみると一層違和感が伝わってくる。

何となく撫でてみる。

 

むむ、と悩んでいると鼻先に光があたる。

気付けば周りには、いつも見る植物の光がちらほらと舞っていた。

おや、とこの縁起の悪そうな人形にあたらないように背を預けて後ろを向くと、まるで蛍の群れの中にいるような光景が広がっていた。

あら、珍しい。

下からも上がってくるなぁと思って目をやるとあいちゃんのお花からもふんわりと光がこぼれ出ていた。

どうしたの?とトンボの前で指を回すように、くるくると光に向かって指を差し出してみる。

すると、指に釣られるようにふわりと光が集まりだした。

指に触れた先からはほのかな暖かさ。

「君たちもこの木が心配なのかな?」

そうだよねぇ、と口の中で言葉をころがしながら集まった光を見つめる。

助けてくれる?

と半ば冗談のようなつもりで光が集まる指を回しながら目をつぶり背に当たる大木に意識を向ける。

 

その瞬間とぷん、と背中の支えが無くなって木の中に入ったような感覚。

うわっと驚いて目を開けようとするけれど、それよりも早くまぶたの裏がやさしい新緑の光でいっぱいになる。

ただ、ところどころ途切れたり濁ったりしていて。

直感で思った。

あぁ、これはさっき感じたこの木の暖かさの元だ、と。

見ているだけで、手の動かし方も体の動かし方も分からないけれど、不思議とさっき集まってきた光は動かせると思えた。

そっと濁っているところに光をのばす。

滲むように溶けて、あとにはやさしい新緑が広がった。

ほっとして同じことを繰り返す。

ただ、途切れてしまっているところは近くに光を寄せてもどうともならなかった。

それでもこの光がどうにかできるとしか思えなかったから、がむしゃらに光を集めた。

途切れているところをじいっと見つめると、いつかどこかで見た編み目を見た気がした。

 

そう、いつだったか。

おばあちゃんと一緒に布を織ったんだ。

ぱたんぱたんと縦糸と横糸が交差して、布が出来ていって。

おばあちゃんにしか作れない特別の布。

どうしても出来るようになりたくて、隣でよくしがみついて見てたっけ。

 

頭の片隅でそんなことを思っていると光は細い金の糸ように変わっていて、まるで編めと言わんばかりに近くをたゆたっていた。

途切れた新緑に金糸を通す。

そこからするすると糸が舞って、端から繕われていく。

途切れて光を失ってしまっていた場所は力強い新緑へと変わっていって、いつの間にか確かにあったはずの綻びは無くなっていた。

気がつくと目の前には太陽に透かされた葉っぱのように元気を感じさせる新緑が一面に広がっていた。

それに満足して眺めていると、ぐいっと引き上げられるように目が開いた。

 

 

気が付けば背中を御神木に預けてしゃがんでいた。

周りを見渡してもさっきのような蛍の光はなかったけれど。

 

握り込んでいた花束は隣に転がっていて、それを掴んでよいしょと立ち上がる。

振り返ると不吉な人形はあとも残さず消えていた。

嫌な気配は清浄な気配に変わっていた。

 

 

不思議だとは思ったけど、世の中そんなことばっかりだと思う。

良かったね、と木の肌におでこを当てて、小さな花束をさらりと撫でる。

お供え、じゃないけれど。

大切に育てたあの子の気持ちが、この木を支えてくれるといいなと思って木の下にそっと置いてみた。

ごめんね、あいちゃん。

心の中で謝りながら、少し元気を無くしてしまった小さな友人が育てた花を記憶に残すようにじっと見つめて数瞬。

下に待たせてしまっている友人の許へ走った。

 

 

 

木にもたれるようにして座っていた彼は待ちくたびれただろうに快く許してくれた。

さすが、器が大きい。

おまけにちょっと厚かましすぎるかなと思いながらお願いしてみたここのお花のお手入れも一緒にしてくれて。

 

きっとここのお花も御神木の力になってくれるだろう。

 

 

一輪一輪、様子を見て葉をさわるその丁寧な手付きが嬉しくて。

目の前の子にとって一番良いように、と掛けてくれる心がすごいなぁと思って。

なによりみんなが喜んでるって伝わっていることに感動して。

 

頼れるお兄さん。

散歩先で会う人にも人気だけど、みんなからも人気者になってきているお兄さん。

 

帰り道。

喜んでいたからものが集まってきたのかな?

今までにないくらい会う人会う人からおすそ分けを頂いてしまった。

ふたりして腕をパンパンにして持って帰ったのだけれど、そんな重さも苦じゃないくらい今日の散歩は有意義なものだった。

絶対美味しいから、ぜひご家族の皆さんで頂いてくださいね!

と上がったテンションのまま、あれもこれもと持って帰ってもらったけれど迷惑ではなかったかなぁ…

ま、大丈夫だよね!

 

 

 

 

 

 

はっと目が覚める。

朝だ。

 

 

懐かしい夢を見ただけのはずなのにどうにも落ち着かない。

いつまでも布団の中に転がっている訳にもいかず、起き上がって窓辺から見える朝焼けを眺める。

いつも気持ちを晴れやかにしてくれるのに、全く気分は晴れなくて。

そんな自分に気付かないふりをして一日が始まった。

 

 

 

 

虫の知らせ、というやつだったのだろう。

 

朝からどうにもおかしかったけれど、時間が経つにつれて不安がつのる。

ざわざわと肌が粟立っていた。

 

 

あぁ、嫌だ嫌だ。

どうとも言えないこの感じ。

絶対ロクなことがないんだろうな。

何とも言えない顔になっているのが分かる。

 

 

じりじりとせり上がってくる焦燥感と増してくる不安の中、ぐっと唐突に感じた衝撃。

いや、実際に何かにぶつかった、とかではないのだけれど。

 

 

萩原さん?

 

 

ふと、彼の顔が頭をよぎった。

 

 

 

ぴしり、ときしんだ音がする。

 

 

いつしか一緒に散歩をするようになった気の良い年下の男の子。

今では立派に成人して市民の安全と笑顔を守ってくれているのだから、男の子では失礼か。

人当たりが良くて、心の機微に敏い彼は、植物の扱いも上手かった。

目の前の人をよく見ていて、感受性の豊かな彼だからこそ、なんとなく、それこそ本能か何かで得るものも多いのだろう。

そういえば、彼にはミドリって呼ばれたことはなかったなぁ。

 

 

 

どきどきと早くなる心拍、しびれるような感覚が全身に走って動きが止まる。

私の異変に気が付いた周りから掛けられる、大丈夫?という声に応える余裕も無かった。

 

 

絶対、何かあったんだ。

 

 

 

ぴし、ぴき、と嫌な音が響く。

 

 

音を鳴らしているのはお守り。

神社で買ったわけではない、手製のお守り。

それでも無事を願って作ったもの。

厄除けになれば、と渡したけれど、きっと彼は身につけてくれているだろう。

何人かに渡したけれど、絶対にこれは萩原さんだ。

朝の夢もお守りが急にひび割れてきたことも、きっと偶然なんかじゃない。

素人が作ったものだけど。

神さまのご守護がある訳ではないけど。

 

 

 

お願い、どうか守って。

 

 

ぴしりぴしりと亀裂が入るそれを抑えるように握りこむ。

ぶわりと目の前が光に覆われる感覚と同時に全身の力が抜けて倒れ込んだのが分かった。

 

 

 

ちょっと?大丈夫?!だれか──っ

周りの声がどんどん遠くなっていって、いつしか聞こえなくなった。

意識が途切れる寸前、りん、と小さく耳の奥に響くように残る鈴のような音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

───ごめんなさい。

ずるいのは分かってる。

それでもあなたが必要だから…

 

──お願い…

 

 

 

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