らいばる・ざ・ろっく! 作:ベーシストベーシストベーシスト
……さて、学校が終わった後に勢いでSTARRYに来るまでは良かったのだけれども。
『チケットの販売は17時から行います』
扉の横に掛けてある看板がボクを冷静にさせた。
そういえばここ、山田と会える場所じゃなくてライブハウスだった。昨日の山田の印象が強すぎたせいでSTARRY=山田みたいになってたけど、山田はここの従業員で別にいつもいる訳じゃないんだった。謀ったな山田の奴。
STARRYに来ても山田に会えない可能性が高いし、なんならそのためだけに来るのは営業妨害になる気もする。焦っていたのは認めるけど、だとしても早めに気づくべきだっただろうな……。
でもどうしようか。山田の連絡先を知っているわけではないし、彼女の交友関係を知っている訳もない。唯一の接点は園田だけど、今回の件は彼女に悟られたくない。
あ、後藤なら連絡先知ってるかもしれないか。ここでライブしたらしいし、従業員と親しくなってる可能性も……無いか。後藤は後藤だったね。
「チケットの販売は17時からですよ?」
「うわっ!?」
「わっ、びっくりした!」
急に声をかけいないでよ、驚くじゃん!
いや、ライブハウス前でうろちょろする不審者見かけたら防犯の意味で声かけたくなるか。ここの防犯意識高いなー。
声をかけてきたのは、サイドテールが特徴の金髪の女の子だ。申し訳なさそうにこちらを見てる。
こっちが勝手に驚いたのだし、罪悪感を抱く必要性全くないはずなのになんでそんな顔してるの?優しさ全開の子なの?
「ごめんね、驚かせちゃって」
「いや、むしろこっちが迷惑かけてたから。ごめん」
「大丈夫、前にも扉の前でうろちょろしてた人いたし!」
下北沢怖。似たような不審者が前にもいたとか治安悪くないか。やっぱりボクが詳しくないだけでバンドマンって酒、煙草、女遊びする奴がデフォルトなのか?
「それで、ウチになんか用?」
「あ……えっと」
『お前のとこにいる無礼なベーシストの連絡先教えろや!』とか言ったら人として駄目だろう。というか、わざわざ初対面の不審者に従業員と会わせてくれるのかな。
あーでも他に手がかりないしやるしかないねぇ!
「ここで働いてる人に会いたくて」
「働いてる人に?あたしも働いてるけど……そういうことじゃないよね」
「うん。山田っていう自称ベーシストの人に」
「あ、リョウか。……ごめんなさい!」
「突然の謝罪!?」
山田のことを聞いただけなのに頭を下げられたのだが、どういうことだこれ。会わせられない……という意味での謝罪ではなさそうだ。両手を合わせてるし、90度近く腰曲げてる。
「ファンの人じゃなさそうだし、またリョウが誰かに迷惑かけたのかなーって」
「あいつ日常的に迷惑かけてるのか……」
「ウチのリョウがすみません」
山田への 印象が 10下がった !
いや知人にクレームが来るのが日常なのはダメだろ。こんな良い子なのに山田の皺寄せがくるの不憫で仕方ないよ。
「とりあえず、中で待ってて!あたしも今日はガツンと言ってやらないと」
「あっうん……」
山田が悪者のまま話が進み、STARRYの中で待たせてもらうことになった。今回の件は別に山田が悪いわけじゃないけど、会わせてくれるらしいからこのままでいいか。
「ここがSTARRYだよ」
「おお……」
扉を開けて階段を降り、中に入ると目に入るのはアングラな雰囲気が漂うオシャレなライブハウス。狭いけども必要最低限のコンパクトさを備えていて、程よい暗さが心地よい。オシャレすぎて肩身が狭くなるタイプだ……。
「良い箱でしょ!」
「……うん。狭くて暗いのがいいアクセントになってる」
「……押し入れとか言わないでね」
「今の感想でその単語出てくる?」
彼女はボクの反応に対して、なんでもないー、と言いながら階段を降りていった。まさか過去に押し入れとか言った奴いたの?このオシャレなライブハウスを見てその感想が出てくるってセンスないな。
ぐるりとライブハウスを見渡してみても、やっぱりオシャレだ。押し入れとか言った奴は眼がどうかしてるな。ボクなんてオシャレベルが釣り合ってるかどうか心配になってるのに。
「そういえば自己紹介してなかったよね。あたし、下北沢高校二年の伊地知虹夏!その制服ってことは秀華高だよね?」
「うん、秀華高校一年の西雪双葉……って先輩だったのか」
「気にしなくて良いよ。西雪ちゃんって呼んでいい?」
「うん。えっと……伊地知、よろしく」
「堅いなー」
フ、フレンドリーだ。砕けた口調で話しかけてくるし、年齢を気にしてこない。さらに初対面の人にちゃん付けとか正気の沙汰じゃない。
多分どっちも緊張してるボクを気遣ってのことだろう。対応がギャグチックだし、安心させようとしてるのかな?
にしても、伊地知が良い人だったのがわかる度に山田のクズ度が増していく。あいつはどんな人生歩いてたら人格が釣り合わない聖人に会えるんだ。
……中学の時に伊地知みたいな人と知り合えてたら、ボクは救われたのだろうか。
あの時のボクは誰でもいいから友達が欲しかった。後輩でも先輩でも、大人でも学校外でも。なんなら鳩とか植物とか。もう本当に誰でも良かった。話しかけようとした鳩には逃げられたけど。
不安で仕方なかったんだ。誰もボクの存在を認めてくれないから。
「……伊地知はなんで山田と友達なの?」
気づいた時には口に出していた。出した後で後悔した。
今の発言は伊地知と山田の双方に失礼だ。遠回しに『山田のどこがいいのかわからない』と嫌味を言っている。
でも不思議だった。伊地知と山田は、性格とか根の部分が違って見えたから。
「……うーん」
ボクの後悔を知らずか、伊地知は真剣に悩み始めた。どうしてそうも、初対面の人に失礼なことを言われたのに真面目に回答しようとしてくれるのだろうか。ボクが言える立場じゃないけどお人好しすぎる。
「確かにリョウはいつもお金借りようとしてくるし、お金全然返そうとしないし、よく仕事サボろうとするし、お金遣いが荒いし、雑草食べたりするし、あたしに面倒見てもらうのが当たり前みたいな態度とってるけど。根は良い子だよ!」
「負の感情を誤魔化せてないよ」
マイナスのイメージが強すぎる。どんな人生歩んでたらそんなモンスターが生まれるんだよ。
……あいつ雑草食べてるの?
いや、それ以前に本当に山田か?さっきからインテリとは程遠い行動しか聞いてないんだけど……。
「山田ってそういう奴……なの?」
「そうだよ!西雪ちゃんも外見に誤魔化されないでね、リョウは頭良さそうだけど勉強全然出来ないから」
ここまで来ると詐欺だよ。何詐欺だろ。
山田の頭がいいと思ってたボクの時間を返してくれ。
そうやって考えていたら、伊地知がボクの顔を覗いてきた。
「……リョウはね、友達思いなんだよ」
そうやってボクのことを見ている伊地知の顔は、初めて見る顔だった。初対面の人に抱く印象じゃないんだろうけど、こんな顔もできるんだなって思った。
さっきまでの天真爛漫な伊地知とは違って、今の彼女の表情は悲しげというか……不安げというか……誰かを心配している目だった。
誰を?そりゃ目の前にいるボクだろう。でもなんで?
「……なんでそんな顔を」
「ごめん、雑草取ってたら遅くなった……あ」
「あ」
聞き覚えのある声を聞いたボクが振り返ったその先には。
両手のビニール袋に雑草を詰め込んだ山田がいた。
田舎でもその格好は見ないと思う。
早く続き書かないと……