らいばる・ざ・ろっく! 作:ベーシストベーシストベーシスト
やあみんな、私の名前は後藤ひとり!
クラスにひとりはいる根暗コミュ障インキャだよ!多分ミジンコと同程度の強さを持ってる。
生物としての強さも弱々な私なんだけど、今日すっごいことが起きたんだ!いつものように幼馴染の千尋ちゃんと下校していたら、なんと夢だったバンドに誘われたんだ!最初は不安でいっぱいだったし、話についていけなかったけど、これから楽しいことがいっぱい待ってる気がするんだ!
それに、千尋ちゃんに私のカッコいいところ見せたいしね!
なのに。
「ド下手だ……」
「ぷっ」
「え"……!?」
最初から壁にぶつかってしまった。
なななんで私ギターヒーローなのに、登録者三万人なのに!?
誰かと演奏するのも初めてじゃないし、千尋ちゃんはいつも『お前はセッション上手いな』と褒めてくれてたのに!?
『説明しよう!
バンドは生身の人間と呼吸を合わせることがとっても重要だけど、コミュ障のひとりは目も合わせられないので、突っ走る演奏をする!
ソロ弾きは最強でも、バンドになるとミジンコ以下、最弱になるんだ!
確かに千尋ちゃんとセッションをしてきたけども、それは旧知の中だからギリギリ成り立っていただけで、実態は千尋ちゃんがひとりを全力で支えてただけ!褒め言葉も半分お世辞、半分狂信だったのだ!』
「どうも、プランクトン後藤です……」
「売れないお笑い芸人みたいな人出てきた!」
ごめんなさい、ミジンコの皆様。私が勝手に同列になってたとか思い上がっていて。どうやら、私はあなた方とは全く別のステージにいたようです。悪い意味で。
そうか、私ってセッション下手なのか……。
千尋ちゃんが気遣ってただけで、私ってばただのクソ雑魚バンドマンだったのだ。千尋ちゃんは優しかったんだなぁ……。
昔から千尋ちゃんは私に優しかった。
私が風邪で休んだら家にプリントを届けてくれたし、遠足の時はいつもおかずを交換してくれた。小学校の夏休みの時は一週間くらい私の家に泊まったし、私がギターを始めた時も一緒にギターを始めてくれた。
自意識過剰、というのは私だからあり得るけども、千尋ちゃんはいつも私のことを考えてくれていた。
千尋ちゃんがいたから、私は孤独ではなかったのだ。
でも、中学二年の時だ。
朝、いつも通り一緒に通学していたら千尋ちゃんが突然『友達をやめよう』と言い出したのだ。
あの時は焦ったし、ちょっと昇天もした。
けど昇天仕掛ける私を慌てて蘇らそうとする千尋ちゃんを見た時、千尋ちゃんは優しい千尋ちゃんのままなのだと分かって、少し安心した。
なので落ち着いて聞いてみたら、『ひとりのライバルになりたい』と、訳のわからないことを言ってきたのだ。
ミジンコのライバルって、魚とかなのかと思っていた。でも生存競争の話ではなく、私と対等の関係でいたい、という話だった。
結局訳がわからなかった。だって、千尋ちゃんは私よりもちゃんとした人間だ。優しいし、度胸もあるし、ギターだって上手い。たまに劣等感を感じてしまうことがあるくらいだ。
だから、私は千尋ちゃんのライバルにはなれない。だって、私が彼女と対等な人間に成れてないのだから。
◻︎
「ねー出てきてー!本番始まっちゃうよ!」
「ややややっぱり出来ません……」
「しょうがないよ、即席バンドなんだし!あたしだってそんな上手くないし」
「私は上手い」
結局、プレッシャーに負けた私はゴミ箱の中に帰った。やっぱり狭い場所は落ち着くなあ……。
でも実際問題、私が演奏したとして、それは誰に響くのだろうか?千尋ちゃんの音楽を、他人の音楽を間近で聞いてきたから、私の音楽が誰かに響かないのは痛感している。だって、私の音楽を認めてくれるのは家族以外だと千尋ちゃんとネットのみんなだけ。現実で認められたことなんて、一度もないのだ。
私は現実のことを、何もわからない。だから、怖いのだ。押し入れの中に籠って、千尋ちゃんと二人でセッションして、ネットの人々にチヤホヤされて。
狭い世界での生き方しか知らない私にとって、現実は未知でしかないのだ。
「えっMCでも全くお役に立てないですし……あっはははは、わっ私の命をもって腹切りショーでも!ばっバンド名くらいは覚えて帰ってもらえるはず……千尋ちゃんにも前にウケてたし……」
「千尋ちゃんの笑いの壺ロックだね……」
「大丈夫、ひとりが野次られたら私がベースで『ぽむ』ってするから」
「ぎっギターはともかく、ベースってそんな音しますかね……」
「……いや、ギターもそんな音しなくない?」
「まっ前に千尋ちゃんが『ぽむ』ってしてました」
「え、嘘本当に出来るの!?」
千尋ちゃん、本当に出来ました。
「楽器の可能性は無限大」
「なんでリョウがドヤるの……とにかく!今日うちのバンド見にくるの多分あたしの友達だけだし安心して!」
「私、友達は虹夏だけだから」
「普通の女子高生に演奏の良し悪しなんて分かんないって」
「私は良し悪し分かる」
お客さんに聞かれたら炎上しそうな発言だなぁ……。
「……ごめんなさい」
二人がここで一生懸命私を励ましてくれているのは、私が土壇場になって怖気付いているからだ。私がダメなせいで……。
「けど……」
「無理強いするもんじゃない」
「……だよね。無理なお願いしちゃってごめん」
「あっいや、そこは……。本当に、嬉しかったんです、声かけられて」
初めてだったのだ。千尋ちゃん以外の人に、必要だと頼られるのは。
初めてだったのだ。誰かに、バンドに誘われたのも。
「バンドはずっと組みたいと思ってて……でもメンバー集まらなくて……。千尋ちゃんは私と組みたがらなかったし……。普段はカバー曲をネットに上げてて……」
「普段は何弾くの?」
「あっ結成した時にすぐ対応できるように、ここ数年の売れ線バンドの曲はほとんど……」
「え、すご!」
「いや全然……。結局こんなのになっちゃって……」
こんなままだから、私はあの日の千尋ちゃんの言葉に向き合えない。
ずっとうじうじしてて、ミジンコ以下の私は、きっと永遠に千尋ちゃんと対等にはなれない。
「売れ線のカバーばっか……。なんかギターヒーローさんみたいだね。って知ってる?多分あたしらと歳そんな変わんないと思うんだけど」
虹夏ちゃんが褒めるって、すごい人なんだろうな、ギターヒーロー……。って私じゃん!?
「知らないなら後でURL送るよ、もー最高に上手いからさ、聞いてみて!」
「私も、おすすめに何度も出るから見たことあるけど、すごく上手かった。多分『悪党ギタリスト』さんよりも上手い」
「あー、あの人も上手いよね!でも、確かにギターヒーローさんの方が上手いかも」
『悪党ギタリスト』……って千尋ちゃんじゃん!?
いつからかは忘れたけど、千尋ちゃんもオーチューブにアカウント持ってるんだよね。今の登録者は二万人くらいだっけ。千尋ちゃんのスマホを覗いちゃった時に知っちゃったんだよね。
名前を見た時は私のアカウントがバレたかと思って慌てたけど、本人にそれとなく聞いたら何も知らないって言ってたから知らないんだろう。
それにしても……最高か……。
「ネーミングセンスはどっちもちょっと痛いけど……」
えっ、あれ痛いの!?
「あたし、フォローして新着通知もオンにしてるんだー!いつか一緒に演奏してみたいなー」
実はさっき演奏したんですけどね……。まあ、さっきの下手くそな演奏を聞いて私がギターヒーローだとは分からないだろうけども。
「えっとね、何が言いたいかって言うと。上手くて話題の人もね、あたしたちが見てないところでたくさんたくさん、ギターを弾いてきたんだろうなって。後で見てみて!動画見てると伝わるから!」
現実世界の人は、みんな私に興味ないと思ってた。
そんな私が、千尋ちゃんと対等になるなんて夢物語だと思ってた。
だって、千尋ちゃんが私のことを見ていたのと同じくらい、私は千尋ちゃんを見てきた。だから、彼女のすごさが分かる。
けど。
こんなに優しい人が私のことを、千尋ちゃん以外の人が、ずっと私を見ていてくれて。
千尋ちゃんじゃなくて、私に声を掛けてくれた。
たまたま千尋ちゃんがギターを持ってなかっただけかもだけど、それでも『悪党ギタリスト』じゃなくて『guitarhero』を選んでくれた。
私の今までの演奏が、誰かの心に響いてたんだ。
「ひとりちゃん……?おっ」
「立った」
こんな人に会えた、こんな奇跡的なこと、多分一生起こらない。
絶対に無駄にしちゃダメだ。
それに、千尋ちゃんと約束したんだ。
私の演奏を聴かせるって!
「わっ私、出ます!」
「ひとりちゃん……。ありがとう!って、言ったそばからゴミ箱に戻らないでー!」
ごめんなさい、色々考えた上で覚悟したけどやっぱり怖い!
お客さんの目線は怖いし、もしかしたらネットで『下手くそ』ってタイトルで動画をネット拡散されるかもしれない!ネットに黒歴史が刻まれる!学校にも『下手な演奏をしたで賞』で退学にされて、そしたらそのまま路頭に迷うんだ!
「怖いならこれに入って演奏したら?」
◻︎
「初めまして!『結束バンド』でーす!」
ひとりの演奏を聞くためにドリンクチケットも買ってスタンバイしてたんだが、ひとりがいないし、代わりあそこにいる完熟マンゴー段ボールギタリストは一体何なんだ?
いよいよ後書きに何を書けばいいか分からなくなってきました。