らいばる・ざ・ろっく! 作:ベーシストベーシストベーシスト
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あの後、完熟マンゴー段ボールギタリストがひとりだと分かった。
分かった理由?演奏を聴けばひとりだと分かる。伊達に三年間一緒にギターを弾いているわけではないのだ。
演奏を聴いていて分かったが、やはりひとりはセッションが苦手だった。二人でやる時も走りがちだったから心配していたのだが、いつもの比じゃなかった。いつもの走り具合が競歩だとしたら、今回の演奏はひとりだけF1カーで爆走していた。
だが、音を聴けば分かる。誰かと一緒に演奏するのは楽しかったのだろう、いつもよりも音が生き生きしていた。
段ボールで表情が見えないのに何で感情が分かるかって?経験だよ。
音を聴け、音を。
とにもかくにも、初ライブは成功……とは口が裂けても言えない出来だったが、重要なのはひとりが遂にバンドで演奏が出来たと言うことだ。三年間、バンド関係の知り合いすら出来なかったひとりにとっては大きな一歩だ。このまま加入出来たら最高なのだが。
まあ、さっそく労いに行こう。初ライブで疲れているはずだし、ライバルの進歩は素直に嬉しいからな!
「ひとり、初ライブお疲れ様……」
「つ、次のライブまでにはクラスメイトに挨拶出来るくらいになっておきます!」
「何の宣言!?……って千尋ちゃんいつの間に膝から崩れ落ちてたの!?」
仕方ないだろ、まさかひとりがここまで進化するとは思わなかったんだから!
その宣言はひとりにとって大きすぎる一歩だぞ、例えるならコロンブスが新大陸に辿り着いたレベルだ!
「偉いぞひとり……よしよし……」
「あっえっ、えへへへへ」
「ぼっちちゃんがクラスメイトに挨拶するのってそんなに難易度高いんだ……」
「……ん?『ぼっちちゃん』?まさかひとりのあだ名か?」
「あー。千尋ちゃん、これは別にイジメとかじゃなくて、そのー」
「私が名付けた」
「リョウはちょっと黙ってて!」
そうか……。お前が、ひとりにそのあだ名をつけたのか……。
「ありがとう!お前いい奴だな!」
「ごめん!これは言葉の綾というか……って、え……?」
「ドヤ」
「いいなー!私はあだ名をつけられたことがないからなー!ひとり、お前ずるいぞ!」
「えへへ、はっ初めてあだ名つけてもらいました……」
あだ名をつけられるのは、ひとりの方が先だったかー。
正直に言うと、心の底から羨ましい。あだ名をつけてくれるような仲の友達が人生で二人しかいなかったし、二人とも私のことをあだ名で呼ばなかったからな。
それにしても、『ぼっちちゃん』か。可愛いし、ひとりっぽさが出ているから私は好きだ。命名した彼女は抜群のセンスの持ち主だな、さっきは敵認定してごめんな。
「さっきはすまない。ひとりにあだ名をつけてくれて感謝してる」
「どういたしまして。出来ればお礼としていくらかお金を」
「もー、そうやってお金を借りようとしないの!」
「あだ名のお礼としてお金か。何万あればいいんだ?」
「あだ名一つに対する報酬じゃない!」
いや、適正価格だと思うのだが。
っと、あだ名が衝撃的過ぎてここに来た目的を忘れていた。
「改めてひとり、初ライブお疲れ様……っていないな」
「あれ、ぼっちちゃんどこ行った!?」
「多分帰ったな。一日に許容できる人の数を超えたから疲れたんだろう」
「え!?」
「ごめん虹夏、私眠い……」
「え!?」
「二人とも、今日はありがとう!これからもひとりをよろしくな!」
「あっうん、どういたしまして……じゃなくて!結束力全然ない!!」
ライブ終わりの控え室で。
虹夏の叫び声が虚しく響いた。
◻︎
STARRYから下北沢駅への道で、ようやくひとりを見つけられた。
勢いで逃げてきたはいいものの、体力が尽きて息切れしていたようだ。後先考えないで逃げるからだ。
「ひとりー!」
「はぁはぁ、ふー、ち、千尋ちゃ、ん、はぁはぁ、ひー」
「まずは深呼吸だな」
息が乱れているし、顔が青い。これはこれでひとりらしくて好きだが、周りから見たら不気味らしくみんな遠巻きに見ている。なんでだ、うごめく屍みたいなひとりも可愛いだろ!
「すーはー、すーはー」
「とりあえず落ち着いたか?」
「うっうん、とりあえずは……。ねっねえ、千尋ちゃん」
「何だ?」
「いっ一回、私を殴ってみてくれない?」
「分かった」
「ひでぶっ!?」
私のコークスクリューパンチがひとりのお腹にクリーンヒットし、ひとりがゴミのように吹っ飛んでいった。というかゴミ山に沈んでいった。
頼まれたからアドリブでやってみたが、即興にしては良い一撃だったと自負する。
「げほげほ」
「自分で頼んでおいて、衝撃に対する構えが出来ていなかったのか……」
「こっ、ここまで本気で殴るとは思わないじゃん……!」
いや、ひとりに頼まれたことなら全力でやるだろ?そうしたら、気づいた時には自然と私の本気のパンチが繰り出されてしまっていたのだ。顔ではなく腹を狙ったのは無意識だが。
後悔はしていない。何せ、この惨状はひとりの頼み事を全力で遂行したことの証明なのだからな。むしろ達成感で満ち溢れてすらいる。
「で、急にマゾヒストに目覚めたわけじゃないだろう?そうだとしたら今から専門店で専用の器具を買わなきゃいけなくなる」
「ちっ違うよ……」
ゴミ山から息絶え絶え、というか瀕死の状態でひとりが這い上がってきた。
体はボロボロ……私のせいか……だし、髪も乱れている……これも私のせいか……し、体力を消耗していた……これは私のせいじゃない……から、周りから見たら散々な姿だ。
でも、顔には笑顔が浮かんでいた。
「わっ私、夢じゃなくて、本当にバンドに加入出来たんだよね!」
「バンドに加入出来たのは今初めて聞いたが、そうだな。夢じゃなくて、ひとりが掴み取った現実だ」
私が口角を上げるのと同時にひとりの顔がニヤける。きっと、今日のライブを振り返っているのだろう。
バラバラで不出来な、最悪のセッション。
でもひとりにとっては、今までで最高のライブ。……比較対象私だけだけども。
「改めて、初ライブお疲れ様」
「あっありがとう。……あっあのね、千尋ちゃん」
「どうした?」
私に呼びかけてきたひとりの顔を覗くと、その顔はさっきよりも険しい。
けども、私は知っている。この顔は、ひとりが何かを決意した時の、カッコいい時の顔だ。
「わっ私、いつか結束バンドで全力の演奏が出来るようになって、それで、今度こそ、千尋ちゃんのライバルになってみせるから!」
「…… お前」
……もしかしたら、今日一番ひとりのことを理解できていなかったのは私だったかもしれない。
ひとりは、私と並べるか不安だったのか?だから今までライバル関係の話には曖昧な返事ばかりをして、自信なさげに顔を背けていたのか。
「……ひとり」
「なっ何?」
「覚えてるか?私たちが最初にセッションした日のこと」
「あっうん……。酷かったよね」
「あいや、演奏する少し前の話だ」
「……ごっごめん、覚えてない」
それもそうだろう。彼女にとっては胸に秘めた想いを少し出しただけで、彼女自身にとってはセッションをしたのがあの日一番の出来事だったからな。
だけど、私は一生あの日のことを忘れないだろう。
「お前が、『世界平和』のためにギターを始めたってことを教えてくれた時の話だ」
「……へ?」
「私はあの時感銘を受けた。何せ、押し入れに籠っていた幼馴染が壮大な夢を持ってたんだからな」
「え」
だから、彼女が心配することは的外れだ。
何せ、私が本格的にギターをやろうと決心したのはあの日がきっかけだ。ひとりがいなかったら、私は今頃ギターを辞めていただろう。
そしてそれはいつものことだ。ひとりは、いつも私の人生に火を点けてくれる。彼女が私を引っ張ってくれるから、私は今胸を張って自分を誇れる。
私は、私の大好きな幼馴染が私をここまで引っ張ってくれた、その恩返しがしたいのだ。
「だから、ひとりが引け目に感じることはない。むしろ私がひとりに……って、なんでバグってるんだ!?」
「縺斐a繧薙↑縺輔>縺昴s縺ェ縺ォ豺ア縺?炊逕ア縺ッ縺ェ縺?s縺ァ縺吶◆縺?繧、繝ウ繝峨い雜」蜻ウ縺ェ縺ョ縺ォ繝√Ζ繝帙Ζ縺輔l縺昴≧縺?縺九i縺」縺ヲ縺?縺代↑繧薙〒縺」
何か喋ってる気もするけど、私は基本的には日本語以外聞き取れないんだ!ごめんひとり、早く再稼働してくれ!
「……あ、ああ」
「良かった、今回は短めだったな」
前にバレンタインで浮かれてたカップルを直視した時には一時間くらいデータが安定しなかったからな。あの時は風呂でショートさせるという荒療治で戻ったから良かったが。
「まあ、とにかくだ!」
「はっはい!」
「……私はお前に負けない。だからお前も私に負けるな。いいな!」
「……!うっうん、望むところだ!」
「……ぷっ」
「えっ、なっなんで急に笑うの!?」
「すまん、ひとりにシリアスは似合わないなーって思ったのさ」
「えっえぇ……」
私が望むライバルとは、二人で切磋琢磨し合う好敵手だ。だからひとりが悩んだら私が助けるし、ひとりが躓いたら私が手を差し伸ばす。今までに彼女から貰った分のものを返したいから。
だから彼女が動いた今、私もそろそろ動き出さないとな。
ただ、今はまだその時じゃない。だから二人で話しながら夜の下北沢の街を歩くのも、今のうちに楽しんでおこう。
これでストックが切れたので、私は草を食べて生きていきます。