らいばる・ざ・ろっく! 作:ベーシストベーシストベーシスト
前回から一週間が経過した!
特に何もなかった!
いや、ひとりが毎日憂鬱になっていっているという状態異常になってはいるが、それ以外進展が何もなかった。私たちのバンドのボーカルは見つかっていないし、結束バンドもそれは同じらしい。どこもボーカルは欲しいものなのだな。
さて、そんなこんなで今日も朝から学校に登校しよう……としていたのだが。
「ひとり……お前どうした」
「私が愚かでした……今日から新しい後藤ひとりとして、一人の人間として生きていきます……」
「お前人生観変わってないか!?」
今日の朝に会ってからからひとりがこんな調子で怖い。
ひとりが過去にこんな風に変わったのは、ギターを始めた時と歯ギターを始めた時くらいだ。前者のパターンだったら人生そのものを変えるものに遭遇したということだ。
「きょっ今日バイト初日だったんだけど、私サボろうとしてて。そっそんな私に虹夏ちゃんの優しさが染み渡って……」
「いや仕事はサボるなよ」
後者のパターン、一時の人格変化だった。お昼頃にはいつも通りになって、バイトがあることを思い出して震えていると予測する。
「ってバイト?」
「うっうん、バンドのノルマのためにSTARRYで」
「……断ろうとしたけど、勇気が出なかった感じか」
「うっ」
ひとりが自分から働こうとするイメージが全く湧かないし、多分虹夏達に誘われたのだろう。
いい加減嫌なことははっきりと断れるようになっておけよ。そんななのだと、将来ひとりの魅力に気づいた大勢の人に言い寄られた時に困るぞ?人形のようにウンウン言うことになる。
でもそうか。ひとりがバイトを始めるのか……。
私もノルマ(バンド活動は未定)のためにバイトをしているが、バイトを始めるのは怖いものだ。知らない人たちと知らない客を相手にして連携して業務を進めなければいけないし、第一に職場に馴染まなければならない。……私は未だに馴染めていない。
「今日こそは……ケーキ作るからな……」
「えっちょっそれは困る……ってちっ千尋ちゃんなんで泣いてるの!?」
仕方ないだろう、昨日今日とひとりが急成長を遂げているんだから!ここ最近、ひとり株はノンストップで上がっていってるんだぞ!現実だったらバブル崩壊待ったなしのレベルだ。
「とりあえず、バイトは一人で行けそうか?」
「わっわかんない……けど頑張る!」
◻︎
「千尋ちゃん一生のお願いですバイトに付き添いに来てください──!」
「朝の宣言はどこにいった」
放課後、帰ろうしていた私の目の前に現れたのは土下座をして懇願するひとりの姿であった。というか教室でそれをするのか。ほら後ろの方にいる喜多とか困惑した目でこっちを二度見してたぞ。
「駄目だ。バイトも立派な雇用契約であって、その契約は労働者と雇い主の間に発生している。部外者の私がその契約に手出しするわけにはいかないし、ひとりは既に契約を結んだ後だ。他人の手助けなしで雇い主の下で労働する義務が生じている」
「どっど正論だ……!」
一応バイト経験はひとりよりも豊富だ。こういうのは慣れることが一番大切で、とりあえず自分で経験するのが早いのだ。だから私は何があっても付き添いにいかないからな。
「でっでも、バイト怖いし、というか社会全体が怖いし……」
「安心しろ、ひとりの前では全てが塵芥も同然だ」
「そっそれに……結束バンド以外で頼りにできるのが千尋ちゃんだけだから……」
え?
頼りになるのは私だけ……。
いやっいやいやいや、血迷うな冷静になれ園田千尋。いくらひとりが新しく友達を増やしたと言うのに今までと変わらず私を慕ってくれていて尚且つ頼れるのが私だけと断言するほどに私のことを信頼してくれているのが嬉しいとはいっても、これはひとりの問題であって成長を促すためにひとり自身に解決させるべき問題だ、一旦冷静になれ。
でも、頼りになるのは私だけ…………。
「チケットの販売は五時からですよ」
「ひぃっ!?」
「……あれ?ここはどこだ?」
「どこって……ライブハウスですけど」
「……もしかしてSTARRYという名前ですか?」
「そうですけど」
あ……ありのまま今起こったことを話すぞ!
私はひとりに一人でSTARRYに行かせるつもりが、何故か私も一緒に来ていた……。
な……なにを言っているのか分からないと思うが。
私も何をされたのか分からなかった。
頭がどうにかなりそうだった……。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなものじゃ、断じてない。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぞ……。
「なんでこんなところにいるんだ園田千尋、お前はアホか、アホなのか!?今日はひとりにやらせるって決めたんだろうに何故付き添っているんだお前の意思力はどれだけ貧弱なんだ!あんなことを言われれば揺らぐのは当然だが、だからと言って素直に付き添う奴が一体全体どこにいるというのだ、ここにいるのだよ、あはははははは!」
「あっえっといっ一旦お、おち、おっ落ち着いててててて」
「そっちが落ち着け」
「すまない、落ち着いた」
「うわ急に落ち着いた!?」
そんな大袈裟に反応しなくても大丈夫だ。
心配げにこちらを見ていたのは、金髪の女性だ。なんかアウトローな感じがする、大人のレディーという奴だな。……というか、アホ毛すごいな。磁力で浮いているとかそんな理論なのか?その場合ひとりと同種になるわけだが。
……?人智を超えたアホ毛?なんか前に見たことがある気が……。
「あっ思い出した、虹夏だ!」
「あれ?虹夏の知り合い?」
「一応知り合いにはなるな。こっちにいるひとりが虹夏とバンドを組んでいる」
「……もしかして新しいバイトの子?」
「あっえっと、はいそうです」
「なら最初からそう言いなよ。とりあえず立ち話もなんだし、中入って」
そう言ってSTARRYの中に案内してくれた。普通にいい人だな。
にしても、あのアホ毛……。虹夏にもついていたが、この人にもついているってことは遺伝だろうか。伊地知家のDNAを分析したらひとりに近いものをもっているんじゃないだろうか?
とりあえず遺伝だと仮定すると、この人は虹夏の家族か?ライブハウスを経営している姉……にしては貫禄があるな。虹夏は高校二年生だし、姉は歳が離れているとしても二十歳くらいだろう。
となると。
「ってかいうか段ボールに入ってライブしたギターの子じゃん。確か……マンゴー仮面」
ひとりに二つ目のあだ名をくれた!この人いい人だ!
「ま、まままマンゴー仮面です!」
「いい人だな、虹夏のお母さん!」
「……お、お母さん……」
「?急にうなだれてどうしたんだ?」
虹夏のお母さんを褒めたら、机に突っ伏してしまった。どうしたんだろうか、まさか突然の腹痛とかか?ならばカバンに整腸剤があったはずだし、それを。
「
……待て。落ち着け園田千尋。落ち着くんだ。
そうだ、こういう時は素数を数えるんだ。どこかの誰かがそう言っていた。
素数は……あれどういう数字だっけ?奇数に多かったことは覚えているのだが、それ以上を覚えていない。とりあえず2は素数じゃなかった気がする。
「おね!……もしかして、虹夏ちゃんのお姉様……」
「前に説明したよ?ほらSTARRY来る時に……」
「本当に申し訳ございませんでした。私、園田千尋は責任を持ってこれから富士の樹海へと行きます。探さないでください」
「千尋ちゃん、ぼっちちゃんみたいなこと言わないで!」
これをひとりらしいと捉えるか。虹夏も後藤ひとり検定を上げているようだ。ひとりの解像度が上がっているということは仲が良くなっているということだし、今後のコミュニケーションに困ることも少なくなっていくことだろう。
って違う!?私は馬鹿か!歳が離れている姉妹なんてたまにいる、というか後藤家なんてその最たる例じゃないか!すごい身近にいる!?
不味い、このままだと私の第一印象は最悪だし、そのままその印象がひとりへの印象に影響する可能性だってある。このまま謝り倒すか、いや一旦外に出てお詫びの品を持ってくるというのも……。
「いや……うん、気にしなくても良いよ。たまにあることだし……。うん……」
「店長さん……!」
この人めっちゃ良い人だ!好き!
「でもそれだと私の気が晴れん!というわけで、今日の業務は私にも手伝わさせてくれ。乗りかかった船というやつだ」
「あ、うん……。じゃあ詳しいことは虹夏に聞いて……うん……」
「……そういえば今更だけど、なんで千尋ちゃんここにいるの?」
「いや、それが気づいたらここにいたんだ」
「え、なにそれ怖」
それはそうだ。もしかしてSTARRYは心霊パワーが集まる不思議スポットか何かなのか?
そうだとしたら一大事だ。ここでバイトをするひとりが妖怪の仲間として連れていかれるし、心優しい店長さんが危険だ。
……いや、店長さんなら妖怪を素手で殴り飛ばしそうだな。
「じゃあ、まずはテーブルから片そうかー。それ終わったら拭き掃除を……ってあれ?ぼっちちゃんは?」
「多分疲れて住処に帰ったな」
「家に帰っちゃったの!?」
「ん」
リョウ様が近くにあったテーブルを指差したので、虹夏がそこを覗いた。
「すみません、暗くて狭いところで一息つきたくて……」
「ほら、
「一息つくの早!」
ひとりのバイト、大丈夫か……?
(ぼっちちゃんに向かって)バイトに行け
(気づいたらオリ主が)バイトに行け
作者はバンドもバイトも素人なので、ほぼフィーリングで書いています。