らいばる・ざ・ろっく! 作:ベーシストベーシストベーシスト
STARRYに来たのは、ほんの出来心だった。
この間の話し合いで園田が嫌というほど後藤の勇姿を語った時に言っていたライブハウスの名前がSTARRYなのは覚えていた。
そして真面目なボクはメンバー募集の貼り紙を作り終わっていたので、どこかに貼ろうと思いStarryの名前を思い出した。
バンドをやりそうな人が集まる場所にそこまで心当たりがなかったのもあったけど、後藤がライブをした場所というのも気になった。一体どんな魔法を使ったんだ?
でも、まさか園田がそこでバイトを始めていたとは思わなかった。元々のバイトのシフトは園田のスケジュールギリギリにまで入っていたよな。園田とは一緒のバイト先だが、あいつはバイト先の店長……ボクの従姉妹になんて言うつもりなんだろうか。
……幼馴染がライブをしていたからバイト先も鞍替えするのか?
一瞬黒い思考がよぎるが、園田がそんな不義理な奴ではないことはボクがよく知っている。
ので、ゆっくり話を聞こうとしたら急にクラウチングスタートで走り出してしまった。時たま思うけど、あいつは確実に後藤因子を受け継ぎ始めている気がする。いや、後藤はロケットにでも変形して飛び出すか。
とりあえず、目の前にいる人を見てみる。さっき軽く挨拶したが山田リョウ、という人らしい。女性か男性か分かりにくい見た目をしているけど、嫌なことにボクも女性なのに少年みたいな顔をしているからわかる、彼女は女性だ。毎日鏡で睨み付けてたら観察眼が鍛え上げられてた。
……この人、園田のクラウチングスタートに動揺していない!?
いや、むしろ笑っているのか?少し楽しげだ。……フフフって少し聞こえるから本当に楽しそうだ。
この人、多分あれだ。普通の人よりも頭が良くてボクたちがその思考を理解できないだけだ。見た目すごいインテリな感じがするし、何考えてるかわからないミステリアスな雰囲気が余計にそう感じさせる。
「……えーと」
「……?どうかした?」
「あっいや別に」
やっぱりだ、この人は思考する能力が高くてボクたちが理解できないタイプだ間違いない。自分の反応が当たり前みたいな顔しているし、園田のこと『おもしれー女』みたいな目で見てた。
とりあえず、なにか会話したほうがいいよね。ここのスタッフなら張り紙の件についても意見言えるだろうし、印象を良くしておいたほうが良いはずだ。
「山田さん、えーと……」
しくじった、知らない人と話すの久しぶりだからこういう時に何を話せば良いのか何もわからない!
こういう時に園田だったら堂々と天気の話でもするのだろうか。……後藤だったら天気を眺めながら衛星になりそうだな。
「山田でいいよ。千尋のバンドメンバーだっけ?」
「あっはい。西雪双葉って言います」
「西雪、よろしく」
この人、コミュ強だ……!
知らない人に対して怖気付かないで喋れるし、さらっとボクの名前も聞いてきた。コミュニケーション能力が高くないと出来ない芸当だ。
……いやまあ、ボクの中のコミュニケーション能力が中学二年の頃から進歩していないからわかんないけど。嫌なこと思い出した。
「山田……はここのスタッフなのか……ですか?」
「敬語いらない。……うん、後バンドやってる」
「……助かるよ。山田は楽器何やってるの?ギター?」
「いやベース」
「あっごめん」
「……」
「……」
やばい明らかに不機嫌になったよ!
もしかしてあれなの、これが噂のベーシスト最大の地雷、『ギターと変わらないって勘違いされる』なの!?
山田も一端のベーシスト、ギターをやっていると勘違いされたのは侮辱に等しかったりするのかな?だとしたらまずい、早速コミュニケーション失敗だ!
「……うん、ベース」
「し、知ってるよ!ギターと違って弦が太いし、リズム隊としての役割がある楽器でしょ!す、すごいなー!」
「ドヤ」
ドヤ顔への切り替わり早。
とりあえず、急死に一生を得たらしい。昔園田にギターとベースの違いを聞いておいてよかったー!……二時間くらいギターの素晴らしさについて演説されたけど。
今のうちに媚び売ったほうが良いか。
「いつも園田がお世話になってるね」
「千尋、良い子だよね。今も無給でバイトしてる」
「えっ。ここってブラックなの……?」
「そうじゃない」
山田の話を聞くに、STARRYの店長を山田のバンドメンバーの母だと勘違いしたけど、本当は姉だったらしい。それで、そのお詫びにバイトしていると。
とりあえず疑問は解決した。園田らしいというか何というか。
……冷静に考えて、逆のパターンは聞いたことがあるけど母と勘違いされる姉ってどうなんだ。結構な老け顔とかそういう話なのかな?
「……西雪は、千尋のことどう思ってるの?」
「急だね。……まあ、恩人かな」
園田本人は、あの日のこと何とも思ってないだろうけどね。実際、ボク自身の話をする頻度よりも後藤の話をする頻度の方が高いし。
「そっか」
「本人はそう感じてないだろうけどねー」
「だから、千尋のこと縛っておきたいんだ」
「……え?」
山田の雰囲気がガラッと変わる。
さっきまでの楽しそうな顔が鳴りを潜めて、何を考えてるかわからない瞳が、冷たくボクのことを見抜く。
「千尋にぼっちと……あっ、ぼっちって千尋の幼馴染ね。二人にバンドを組ませようとしなかったのは、西雪が千尋を手放したくないから。違う?」
「……さあね」
「少なくとも、千尋の考えを縛ったのは西雪」
どうやら第一印象が正しかったようだ。
山田は頭がいい。他人の感情を即座に見抜けるくらいは頭が回る。けど、ボクたちが彼女の考えてることがわからないのと同じで、彼女もボクの考えてることは理解できない。
「……千尋がぼっちのことが大好きなのはわかる。けど、バンドメンバーを置いてけぼりにするとは思えない」
「そりゃ、園田は不義理じゃないからね。人には善意で接するし、他人の悪意には鈍い。……嫉妬とかそういうのにも」
園田は、ボクが後藤のことを羨ましいことにずっと気づいていない。
後藤は……わからない。でも、気付いてない気もする。ボクの視界の中に入るといつもスライムになってるし、何か考えてるようには見えない。
「……別に他のバンドのメンバーに説教する気はない」
「なら、ほっといてくれ。君に言われなくても、ボクはボクのやり方が醜いってわかってる」
「仲間の心を縛ろうとしてるのが、心を殺してるのと同じでも?」
「……っ!わかったような口を聞くな!」
わかってる、後藤は何も悪くない。
わかってる、園田が幼馴染とバンドを組むって考えを消したのはボクだと。
あの時、後藤とバンドを組むかどうか迷ってた園田に何回もダメ出しをしたのはボクだ。
頑なに後藤を入れたくないボクを、園田が尊重した結果、園田は後藤とバンドを組もうとしなくなった。
だって、ただでさえ園田が夢中になってる後藤がバンドに入ったら。
ボクが園田に切り捨てられないか不安だった。
「君にわかるのか!誰かに見捨てられる可能性が、一緒にいる仲間がいなくなる未来が!どれだけ怖いのか!……一人でいる孤独が!」
「わかる」
「……っ!出鱈目言うな!」
ボクの慟哭に対して、山田は即答した。
表情も変わってない。目つきも変わってない。ボクを見る目も変わってない。
でも、声色はボクに同情するものだった。
「ならほっといてくれよ!」
「心を縛って、個性を殺して」
「そんなバンド、死んだも同然だよ」
「……っ帰る!」
山田の顔から目を背けて、階段を無我夢中で駆け出す。
ライブハウスは見ないで駅の方だけ見て走る。
作ってきたバンドの貼り紙を握りしめて走る。
眼鏡が曇って見えにくいけど走る。
……いや。
「はっ……泣いてるのか」
曇ってるんじゃなくて、湿ってるのか。
山田の言葉は痛いほどわかる。ずっと思っていたことだ、今更他人に言われたってなんとも思わないはずだ。
嫉妬してるって言葉にすればいいだけなのに、園田の反応が怖くて遠回りなことをして、結果的に園田の希望を一つ壊した。
後悔してて、でも安堵した。
そんな自分が悪いのはわかってた。
でも、最後の山田の、悲しげな顔が頭にへばりついて、心臓が消えたような気持ちになった。
人に歴史あり。
山田にも歴史あり。