らいばる・ざ・ろっく! 作:ベーシストベーシストベーシスト
作者は名前を伏せるのが正しいのか正しくないのかすらわからない。
そんな私の作品をいつも見てくれて、皆さまありがとうございます!(自然な流れでの感謝)
段ボールに突っ込んで仮面になってしまったが、とりあえずひとりをゴミ箱に封印できた。虹夏が後ろで騒いでいる気もするが、無視する他ない。
すまないひとり、今度新しいギターピック買ってあげるから許してくれ!
とりあえずは双葉だ。『ダサい人外生命体』こと、ひとりと会う前に速やかに帰宅してもらわなければならない。じゃないとひとりは再起不能の傷を受けるし、その余波で多くの人々が再起不能になる。
でも、なんと言えば双葉は帰るのだろう?……とりあえず、『下北沢にUFOが出たから逃げろ!』とか言えば良いのか?よし、これなら大丈夫だ、さっき私も信じかけたリョウ様のやり方に間違いはないはず。
「双葉!さっき下北沢に巨大UFOが来てバンドやってる人をキャトルミューティレーションしながら巡回しているらしいから逃げてくれ!」
「宇宙人って美味しいのかな」
……あれ?リョウ様しかいないのだが。
あとリョウ様、宇宙人は地球での人間みたいなものだから食べられたとしても不味いと思う。
「リョウ様、双葉はどこに行った?」
「……急用が出来たから帰った」
「マジかー……。無事に間に合えば良いのだが」
急用が出来たのなら仕方ない。双葉にも双葉のプライバードがあるしな。だけど貼り紙は置いておいて欲しかったな、店長さんに実物もないのに許可を取るのってイタズラみたいに思われないか不安だ。
「……千尋にとって、西雪はどんな人?」
「急だな。……唯一無二のドラマー、それが私にとっての彼女だ」
「そっか」
リョウ様が急に質問してきたから驚いたが、返答を聞いたら穏やかな顔をし始めたからさらに驚いた。百面相でもやってるのか?
まあ、双葉が大事な存在なのは間違いない。初めて出来たひとり以外の友達で私の唯一のバンドメンバー。それらもあるが、もっと言えば……。
……あれ?なんか忘れてる気が……。
双葉の件はリョウ様が説明してくれて、貼り紙の件はとりあえず保留して、巨大UFOは存在しなくて。
大体解決したはずなのに何かが引っ掛かるのだが……。
「ちょ、ぼっちちゃんが抜けないんだけど千尋ちゃんどうにかしてよ!」
「あっやべ」
「忘れてたの!?」
忘れてた、ひとりがゴミ箱の中に封印されたままだ!?
とりあえず、虹夏が引き抜けられないのなら人体が可動する範囲の話は過ぎている。ならギターで割ってドラムスティックで砕いた後にゴミ箱からひとりの破片を出して、それをボンドで接着させれば実質抜け出せるはずだ。
待ってろひとり、今からお前のレスポールでお前を粉々にするからな!
「虹夏、ドラマスティックを持ってこい!ひとりを塵にするぞ!」
「あたしを共犯者にしようとしてない!?」
「大丈夫、ロックバンドなら前科持ちでもやれる」
「せめてリョウは庇ってよ!」
◻︎
あの後、ひとりが軟体動物になることでゴミ箱から抜け出せた。軟体動物になるってなんだろうな、私が聞きたいよ。明らかに骨が消えていたのを確認した時には質量保存の法則を疑ったよ。理科ってこう言う時に役に立つんだな。
「……で、なんでこうなったの?」
「段ボールの中、落ち着くなあ……」
「ぷっ」
ひとりが軟体動物から脊髄動物へと進化したのを見送った後に受付の仕事に戻ろうとしたのだが、良心の呵責がそれを許さず。罰としてリョウ様から提案された『私は人を骨抜きにしました』と書かれた段ボールの中に入っている。完熟マンゴー系統段ボールの素晴らしさを今実感しているよ、押し入れのような心地よさがあるな。ちなみにこれは元々黒烏龍茶の段ボールだったらしい。
そんな格好で受付をしている私を呆れたように見ているのが店長さん。
段ボールの中で受付の仕事を続けているのが私。
段ボールの横で嘲笑っているのがリョウ様だ。
「とりあえず脱げ」
「あっ……黒烏龍茶ァァァァァ!!」
「そんなに段ボールの中良かったのか!?」
そりゃそうだ、今店長さんが投げ捨てたそれは簡易的な押し入れ領域を展開していた神具の一種なのだ。押し入れを思い出すとひとりを思い出して、ひとりを思い出すと和む。つまりさっきの段ボールはひとりである、証明完了だ。
「また被ろうとするな!仕事の邪魔になるから被るなっての!」
「ァァァァァァァァァァ!……それもそうか」
「急に落ち着いたな」
冷静に考えてみると店長さんが正しい。せっかくバンドを見にイケイケでバイブス上がりまくってるSTARRYというライブハウスに来たのに、受付で黒烏龍茶段ボールの怪物見たら帰りたくなるよな。……完熟マンゴーなら親しみやすさ出るかな?
「……まあいいや。受付変わるから、お前らドリンクの方に行ってこい」
「そんな、私を見捨てると言うのか!?まだ出来ます、どうかご慈悲を!」
「急に土下座するなよ、こえーよ!」
「千尋、別に解雇されない」
てっきり解雇通知かと思ったが、違ったらしい。臨時バイトに解雇も何もないことに気がついたがそこは置いておく。
なんでもリョウ様曰く。今日のバンドは参考になるものが多く、店長さんが私たちのことを思ってくれて見させてくれるそうだ。優しい。
……いや結束バンドのメンバーは分かるが、何故に私も?
「……お前もバンドやってるってリョウが言ってたからな。ついでだよ」
「……ッ!うぐっ、ひっぐ」
「なんで泣いてるんだよ!?」
店長さんはリョウ様から聞いた情報から私のことを思考に入れ、罰として労働をしている私にも気遣いをしてくれたということなのか。
泣く……。店長さんが優しすぎる……。何この人、天使か何か?そうか、店長さんの『てん』って天使の『てん』か。これはノーベル賞ものの発見だ、総理大臣になれるぞ、
「うっうっ……わ"、わ"たしは大丈夫でず。も"とも"と、うぐっ、見返りをも"と"べで、まぜんので……うぐっ」
「あー!泣くな落ち着け!」
「じゃ、私は行ってくる」
「あ、リョウ様お疲れ様だ!」
「切り替えはえーな!」
リョウ様がドリンクの方に行ったので、とりあえず労いの言葉を……あれ、あいつ仕事してたっけ。さっき私が段ボールに引きこもってた時も隣で笑ってただけで何も助けてくれなかった気が……。
まいっか!おかげで店長さんへの詫びも出来たし、リョウ様には感謝だな!
「お前、そこまで情緒不安定だと怖いんだが……」
「店長さん、そこまで褒めなくても〜」
「お前の将来が不安だよ」
受付の椅子に座った店長さんから心配の言葉まで掛けてもらってしまった。ひとりのようだと褒められた後にそこまでしてしまうとは……。店長さんはやっぱり良い人だな!
「店長さん、あなたは良い人だな!」
「きゅ、急にどうした」
「いや、事実を述べただけだ。あなたは私がこれまで会ってきた人たちの中でも、五本の指に入るほど優しい人だ!」
「……あっそう」
店長さんが不意にそっぽを向いてしまった。心なしか顔が赤いのは気のせいか?優しいのは本当なのに。
こんなに優しかったら世界平和とか実現するキーウーマンになれるんじゃないだろうか。ひとりの真の敵はこの人だったのか。
もしかしたら、知り合ったばかりの私ですらここまで心を開いてしまった店長なら……。
「店長さんがいたら、『お茶ノ水の
「……お前今なんつった?」
私がぼやくと、店長さんがものすごい勢いでこっちを見てきて質問してきた。気のせいか顔も青い。
「え、待ってお前どこでそれ聞いたの?」
「私のバイト先だな。『イシバ◯楽器』というのだが」
そんなに興味があるのか、
「私は直接会ったことがある訳ではないのだが、私のバイト先にいたと言われている伝説の悪魔だ。……また聞きになってしまうが、噂によるとハイエンドの楽器を勝手にいくつも仕入れたり、店にある楽器を勝手に試奏したり、挙句の果てに気に入った楽器を自分のものにするために店のシステムを改竄したりと、暴虐の限りを尽くしたらしい……」
「ハイエンドのやつは仕入れてねぇし、システムも改竄してねぇよ!」
「……ん?」
「……なんでもない」
何でもないらしい。
まあ、バイト先で話す人って双葉か店長さん……ややこしいな、楽器店の方の店長さんしかいないから今言ったのは。他の人が言っていたのを他の人が言っていたやつだから事実と齟齬があるかもしれない。一人でずっといると聞き耳スキルが高くなっていくものなのだ。
「店長さんなら、きっとそんな奴でも改心させられるだろうな……」
「……そ、そうだな」
なんで店長さんはさっきから壁の方を向いて会話しているんだ?
もしかして私が知らないだけで『後藤ひとりモノマネ選手権』開かれてるのか?
「そ、そういえばさ」
「……?はい」
店長さんが気まずそうに話題を変えた。まあ、ライブハウスを経営している社会人として仕事をしない人の話は嫌なものがあったのだろうな。
いつか会ったら説教しよう、お茶ノ水の
「さっき来てた緑髪の子ってお前の知り合いか?」
「お、その通りだ。というか彼女が私のバンドメンバーだな」
あれ、店長さんさっき双葉が来てたの見てたのか。私たちに声をかけないで遠くから見てた感じなのか?別に紹介したというのに。
……もしや、これが『大人の気遣い』というやつなのか!?
感動していた私を他所に、店長さんの顔が少し曇る。
思わず私は呆気に取られた。一瞬店長さんに不快な思いでもさせたのかと不安になったが、そんな考えもすぐに吹き飛んでいった。
なにせ、さっきまでの優しげな瞳と違って。
「……昔バンドやってた身から言わせてもらうと。
お前はあいつと別れた方がいい」
まるで遠くの空を見つめるような、今という時間に焦点があっていないような。
そんな瞳をしていた。
◻︎
ちなみに全く関係ないが。
「ごほっごほっ!」
「ひどい熱……パパ、氷枕作ってきて」
「ひとりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「一応、千尋ちゃんの分もお願いね」
その日の終わり。
健康体だった私と異なり、ひとりは病に臥した。
そろそろオリ主ちゃんの抱えてる問題について書いていきたい。