吐き出したい言葉を飲み干して、胸の内に隠してゆく。ヒラリヒラリと胸の内に降り積もる。
それはまるで、開いたばかりの花が散るような、春の趣を感じさせる光景。
私はそれを残念そうに眺める。
___けれど、花ならば、来年にはまた咲いている。
「さよなら」と言った後に、「また明日」と返してくれるような、そんな救いのある光景。

だから私も同じだ。

明日また、トレーナー室で会えるのならそれで良いと思っていた。
そんな恋だった。

1 / 1
移りゆく季節の中で

[chapter:うつりゆく季節]

 

 

 10月も始まり、私の周囲は慌しくなってきた。

 高等部3年の同級生は進路の事で奔走し、未だ現役を続ける後輩達は秋シニア期間が始まり、その為に並列してトレーナーさんも多忙を極めたり。等と落ち着く暇もない。メジロマックイーンの18歳の秋は波乱の中で始まった。

 

.....

 

 その日、帰宅する事を躊躇っていた。

 何の理由もない、勿体無いと思っただけである。

 見飽きた校舎を彷徨っていると、程なくしてトレーナー室に着いてしまった。

 曇りガラスから漏れ出る光、中に人がいるのは明確だ。

ドアを引こうと手を掛けるが、僅かに躊躇ってしまう。

 その一連の映像は、今や色褪せたフィルム映画を彷彿とさせた。

 ____何故そう思ったのかは、昔からよくある陳腐な二流映画の演出と、今の情景が重なってしまったからだ。

         

♦︎

 

 

 10月も幾らか過ぎた夜、事前の連絡もなくメジロマックイーンがやって来た。

 

「こんばんは。トレーナーさん。お邪魔してもよろしいですか?」

 

 いつもの来訪者は引戸を閉めて、丁寧に挨拶をする。

 

「ここに来る前にですね、窓の外を見たら三日月が見えました。とても綺麗でしたよ。折角ですし、来週はお月見でもしませんか?」

 

 応接用ソファに沈みながら、そんな事を言われる。

 

「秋シニア期間終わったらな」

「でしょうね。聞いてみただけです」

 

 お断りの返事は、僅かに安堵した表情によって受け止められる。

 仕事に戻ろうとキーボードに手を走らせるが、ガサゴソというビニール音がして目を向けてしまう。

 彼女は手に持ったビニール袋の中から、ハーゲンダッツのストロベリーを1つ取り出した。

 

「今日はラクトアイスです。ご一緒にいかがですか?」

 

 その一連の動作は若手女優が起用されるテレビCMを幻想させた。

 時計を見ると既に19:08。

 残業は確定している。なら、ここで糖分補給をする事も大事か。

 

「じゃ、お茶するか。俺が淹れてくるよ。マックイーンは何が飲みたい?」

「ミルクティーをお願いします」

 

 執務机から立ち上がり、トレーナー室から出ようと入り口に向かう。すると入れ違うようにマックイーンが執務机へと向かう。

 「帰るまでに少しお掃除してますね」

 

「そうか。ありがとう。....実は昨日掃除したばかりだから、埃一つ無い予定なんだなこれが」

「わかりました。それでは重箱の隅をつつくように探しますね。まずは本棚です」

 

 今日のお嬢様は何故かご機嫌のようで、狭い部屋の中を軽やかに歩いては掃除をしている。

 まぁ良いか。放っといて、自分はお茶を淹れようと給湯室へ向かう。

 

「マックイーン」

「はい?」

 

 トレーナー室の扉を半分閉め、顔を半分だけ出して名前を呼ぶ。

 突拍子も無く自身の名前を呼ばれ、キョトンとした表情を浮かべる。

直後、微笑む。

 

「何ですか、トレーナーさん?」

 

 彼女が微笑んでいるのは、まぁ、深い理由は無い筈。単にご機嫌だからだろう。

 しかしご機嫌であれ、トレーナーという立場から一言だけ言っておかないといけない。

 

「今日のおやつはハーゲンダッツにミルクティー...脂質の塊と糖質の権化。知ってるか?...甘いもの食べすぎると____太るんだぞ?」

 

 直後、顔面の位置に投げ込まれる雑誌。

 それをドアの閉鎖によって防ぐ。

 日々の楽しみを一つ消費し、一呼吸挟んで聞こえてくるだろう可愛らしい暴言の数々を想像しながら緩やかに給湯室へ向かっていった。

 

♦︎

 

 シリウスのトレーナー室の隣には給湯室がある。

 元は学生棟の水飲み場として使われていただけに蛇口は4つも並んでいる。うち2つは使用禁止のラベルが貼られていた。理由は不明。先代のトレーナーにそれとなく聞いてみたが、彼が来た時にも既に使用禁止だったらしい。口ぶりからして藪蛇な雰囲気を感じたので会話はそこで切り上げた。以来、ここに来ると気持ちが殺伐としてくるので好きじゃない。

 さて、とコーヒーメイカーを起動させる。

残業する際には必ずコーヒーを淹れる事にしているので、今では体内時計でタイミングを測れるようになっていた。

 自分がトレセン学園に就職して5年近くが経つ。

 いや、就職というのはかなりおかしい。なにしろトレセン学園のトレーナー業はごく一般的に思い浮かべる「就職」という形から逸脱しているケースが多い。形取るなら「無償福祉活動」に近い。

 残業や休日出勤をするのは当たり前であれ、それが自分の利益に直結しない事も当たり前だ。

 それを覚悟でトレーナー業を続けてしまうのは、ひとえにウマ娘の走りに惚れ込んでしまったからだろう。

 自分は目的もなく高校を卒業して大学生になった。その大学に入るのは母との約束だった。母はもう他界していて、約束を覚えているのは自分しかいないけど、どうしても守りたかった。

 けれどその後は何も出来なかった。大学生になった自分は、ただ日が昇っては起きることを繰り返していた。そうして無気力に過ごしていた時、友人の誘いで何かの映画を見た後、東京レース場に足を運び、初めてのレースを見た。

 それは芯を取り戻せた体験だった。

 ウマ娘が走っているだけの光景、それは同時に彼女らが切磋琢磨して競い合い、見えない人生の奥深くから熱を持ち今も尚止まる事なく走り続けている事を肌で感じ取れた。

 異様だった。およそ同年代の娘達は街中で歩き流行りのモノで取繕いながら自己を保っている中、彼女達は今にも命に果てそうな緊迫感を持って疾走していた。

 その熱量に、自分は虜になった。

 およそその在り方全てを「美しい」と思えたからだろう。

 レースの勝者は覚えていない。空気感を覚えていたいが為に、個に集中する余裕が無かった。

 覚えているのはレース名のみ。第35回有馬記念。

 あの揺れる客席を魅了し尽くした18人の熱量は、帰った後もフラッシュバックを繰り返し、今も尚、脳裏に焼き続けている。

 大学を中退した俺は僅か3年足らずで中央トレセン勤務を果たし、今は引退したシリウスの前トレーナーから引き継いだ娘達を皆引退まで見届け、手塩をかけてジュニア期から育てた娘達は今やシニア期。ようやく一区切りつけそうだ。経験の浅い自分が信じられない大躍進である。

 先代トレーナーとは引退してから連絡を取り合っていないが、URAに進出でもしたら改めてお世話になったことも含めて連絡をしたいモノだ。

 

「____トレーナーさん大丈夫ですか?」

 

 隣の部屋からそんな催促が届く。

 見れば、とっくにコーヒーカップには黒色の液体が満たされていた。

 

 

「進路は決まったのか?以前聞いた時は決めあぐねていたようだけど」

 

 ブラックコーヒーの一口目を啜りながら、唐突にトレーナーさんは切り出した。

 高等部3年生になり、卒業を半年後に控えた私の進路を案じての事だろう。

 

「進学に決めました。ただ、まだ第一志望をどこにして良いものか迷っていて...」

「時間はあるんだしゆっくり考えれば良いさ」

 

 他人事のようにトレーナーさんは口にする。実際、他人事なのだが。

 チラリとカレンダーに目をやると、日付は9月のままだった。

 今日は10月3日。

 進路希望最終調整日が10月14日。

 残り2週間も無い...憂う感情が湧いたが、すぐに意識の底に沈んでいった。

 

「大学中退したオレからの進学アドバイスはズバリ、自分が何をしたいか明確なイメージ持ってる人しか学業は続けられないって事だけかな。マックイーンは将来は何をしたいんだ?」

「将来、ですか。...大学に入ってから考えようとしたのですが...」

 

 言い吃り、思案を始める。

 彼の言った将来とは、学生を卒業した後、社会人としてどう生きるか?という事だろう。

 手探りにスーツ姿の自身を想像してみたが、輪郭が鮮明に浮かばず、ボヤけて消えた。

 

「想像つかないか。まぁ、まだ18歳だし、その年で考えられているような人の方が少ないよ。...オレだって当時は全然考えられなかったし。せいぜい、後2年したらお酒が飲めるなーくらいしか思いつかなかったよ。ほい、ハーゲンダッツ貰うね」

 

 表情から察せられたのか、フォローする一言と共に会話は緩やかに締められた。トレーナーさんはビニール袋の一つからハーゲンダッツのストロベリー味が取り出す。見れば、蓋を開けた先の表面は若干溶けていた。ラクトアイスの食べ頃のサインだ。

 それに倣い私もハーゲンダッツを取り出して口に運んだ。...美味しい。...口元は満足してもそこで止まってしまう。喉元へ流せない。

 進路の話は好きじゃない。大好きな甘味さえ味わう余裕がなくなってしまう。日付を追うごとに目を閉じながら歩くような、見えない道を歩くような不安がして堪らなくなる。

 昔はこうじゃなかった。メジロ家の模範となるような生き方をしていた。変わったとすれば、チームシリウスに来た4年の間だろう。

 

「マックイーンは大学ってどこ行くの?一応の第一志望」

 

 その問いに思案に耽っていた脳は引き上げられる。見ればアイスクリームは半分も無くなっていた。

 

「一応。第一志望は中央のトレセン大学部です」

「じゃあ将来はトレセン関係か。もしかしたらマックイーンもトレーナーさんって呼ばれるかもしれないな」

 

 冗談半分で口に出しているのが見て取れる。断定できないが、彼は冗談を言う時に目を合わせながら話す事はしない。

 

「そうですね。将来は私がチームシリウスの主任トレーナーになっているかもしれないですね」

「おお、戦力外通告。怖い怖い。マックイーンが怖い怖い」

 

 怖い、そう言いながらも顔をしかめる事は無く、冗談混じりに笑みを浮かべている。つられて私も笑ってしまう。

 

「せめて副トレーナーから育てて...と思ったけど、名家のお嬢様なら抱えの指導員の方が詳しそうだし。突発性大学中退野郎の俺よりは良いだろうよ」

「中退野郎なんて自身を卑下しないで下さい。貴方の指導する腕は私含めシリウス全員の折り紙つきです。もっと胸を張っても良いと思います」

 

 僅かに食い気味になった。彼のつまらない思惑について感情が逆撫でされたから。

 彼はコミカルに「大学中退」と卑下した言い方をして自己を紹介する癖がある。多分、自身の経歴をコンプレックスに思っているので、笑い話にしようとしているのだろう。

 トレセン学園に席を持つトレーナーは幼少期より教育を施されてきた人が多い。そんな中、彼1人だけが大学中退をして今やチームトレーナーを任されているのだ。

 経歴だけ見れば天才のそれだが、彼は実績をひたすらに偶然と言い張る。自分には足りない所が多すぎる。天才だなんて者じゃない一般人だ、と。

 皮肉でも謙遜でも無い。本気でそう思っているのだ。

 少なくとも、私は自身の足りない点は他人に指摘されないと気がつけないし、自分で補完できる人を見れば羨ましいとさえ思う。多くの人が同じ事を思うだろう。

 そんな私ですら周囲からは「天才」と呼ばれている。自分の欠点すらも自分で見つけられない癖に。

 彼の「目」の良さは周囲の人なら誰もが一目置く才能だ。本人が自覚できないだけで。

 ...その事実が歯痒くって仕方がない。

 

「少なくとも。私がトレーナーになるのなら、貴方に教えて頂きたいと思いますよ」

「そいつは光栄だね。教え子が後継者になってくれる展開は胸熱だ。アニメで言うと2期に入った直後の展開」

 

 幾ら本音をぶつけたところで、彼に言葉は届かない。

 遠い絵空事なのだろう。幾ら本気で誉めようが、彼は自身の実力を知らないので世辞だと思っている。

 溜息を一つ吐き、仏頂面でコーヒーを啜る。気がついたらアイスクリームは全部溶けてしまっていた。

私は本気だった。なんならトレーナーになるのも良いと思うし、シリウスの副トレーナーになるのも良いと思ってる。

 試しに思案をしてみる。

 私が大学を卒業してトレセン学園のトレーナーになる。指導者として経験を積むためにシリウスへの志願を出して採用される。そして副トレーナーになって、彼の隣に居続ける。

 

 ...なんと明白なイメージ。細部まで明瞭に思い描けた。

 

 

♦︎

 

 

 時刻は午後7時30分。

 糖分補給は済んだので、書類仕事に戻る事にした。

秋シニア期間になるとチームレース研究が忙しく通常業務をこなす暇が無くなる。少しでも仕事は片付けておきたい。報告書作成を再開すると、客人であるメジロマックイーンが立ち上がった。

 

「お邪魔でしたね。そろそろ失礼します」

 

 お盆にコーヒーカップを入れて帰り支度を始める。

 

「アイスのゴミはそこに置いといて良いよ。こっちで捨てるから」

「わかりました。それではお願いしますね」

 

 見惚れるほど無駄のない動きでマックイーンは扉から出ようとする。

 

「....差し入れありがとな」

 

 小さい背中は振り返ると、嫋やかに微笑んだ。

 

「また来週、来ても良いですよね?」

「おう。良いぞ」

 

 また。と言い残し、彼女は去って行った。

 シンっと1人。

 僅かに巣食った感傷を払い、書類作成に戻った。

 

 メジロマックイーン。

 名家メジロのお嬢様で、先代トレーナーから引き継いだ担当ウマ娘の1人。

 その仕草は流麗で暖かい。歳下なのに纏う品格は上品。一言で例えるなら高嶺の花だろう。

 メジロマックイーンはチームシリウスに在籍していた。

 在籍期間は4年目。厳密には、選手期間を続けた中等部3年から高等部2年の間で契約終了の予定だが、籍を外す手続きをしていないので4年目になっている。

 その事について自分は何も言わないし、選手期間を終えた彼女がシリウスのトレーナー室に出入りしていても何も言わない。

 太りやすい体質である彼女の献立表管理は今も行なっている。

 その行動全ての理由は何となくは気がついている。

 彼女は隠しているつもりだろうけど、バレバレだ。

 ...バレバレだから彼女には悪いけど、知らないフリを続けさせてもらおう。

 自分の望んだ将来像はチームシリウスを日本1の名門チームに育て上げる事。今はそれだけを見ていたい。

 

 この時期になると流石に夜も冷える。暖房のスイッチを入れ、上着を一枚羽織り書類仕事を再開する。

 執務机に置かれた小さなカレンダーを捲る。9月から10月へと移った。

 

 

 冷たい銀の冊子から手を離す。

 残留した温もりが薄れてゆく。

 指先が冷たい。夜の校舎は暗い。

 もう帰ろうか。

 コツコツと、足音だけが夜の校舎に反響する。

 校舎は静かだ。私の息遣いと鼓動だけが煩く響いている。

 鼓動は強い。不整脈を思わせるほどに動悸を感じる。されど不快だとは思わない。心地良さすら覚えてしまう。

 

「何をしてるんでしょうね、私は」

 

 空の廊下を歩きながら、そんな独り言をぼやく。

 10月3日の日曜日。普段なら屋敷に戻ってる時間なのに、見慣れない夜のトレセン学園に足を運んだ自分がちょっと理解できなかった。

 休日の夜に来ても、友達も誰も居ないとはわかっている。

 残業しているトレーナーさんが居ることしか、わかっていないのに。

 

 正門から抜け出すと、凍えるような秋風に肩をすぼめて歩く。ほどなくして正門を抜け、住宅街を歩きながら家路を辿った。今日は風があるので周囲の環境音が強く音には困らない。

 それでも広い暗闇に1人。こんな所で誰かに襲われたらどうしよう。と冗談半分に思ってみたら、それは心の中で抽象的に浮かび上がり、やがて背筋に冷たさを帯びてきた。

 頭を振ってイメージを振り解こうとする。気持ちとは裏腹により鮮明に浮かぶ映像は強く心に結ばれて離れない。

 夜は怖い。

 帷が降りて視界が封じられるから、想像の余地ができてしまう。あの木の裏から誰かが出てくるんじゃないか、という恐怖心を煽られる。子供の頃はオバケが怖かったのに、今は人に会う方が怖い。

 ...ほんと、嫌な予感というのは中々消えてくれない。

 その中、燦然と輝く街の灯りは対照的な私を見下ろす。更にその上から、明るい光が覗き込む。

 月光だ。雲に隠れていたようで長らく存在を忘れていた。今日は三日月。見上げると不安になる程の細い弧を浮かべながら夜を薄めてくれる。太陽ほど強い光は無いけれど、包み込むような優しい光で見守ってくれている。

 視界が広がる。

 足元に影ができる。

 

 と、その後ろにもう一つ影が入り込む。

 

 __後ろに、人がいる?心臓が早鐘を打つ。嫌な想像が借りたつ。背中にムカデが這いずり回るような___

 

「こんばんは、マックイーン」

 

 突然の声に振り返、いやこの声の主は知ってい

 

「あなた、は___ 」

「はい、トレーナーさんです。見送りに来たぞ」

 

 見知らぬ影の主は意外な人物だった。

 トレーナーさんは先ほどの姿に秋物のコートを上から羽織っていた。

 月明かりに照らされる街を背にして、トレーナーさんがそこにいる。

 

「全く。今日は休日だったから車での送迎は無いかも、って心配したら案の定これだよ。走ってきて正解だった」

 

 彼は一歩だけ踏み込んだ。

 寒さからか血色の引いた素手は僅かに悴んでいる。その手の反対側にはビニル袋を手下げている。

 

「あぁ、これ?気になる?」

 

 目線に気がついたのか手下げてたビニル袋を私に見せた。中身は白色の膨らんだ饅頭が二つ。

 

「肉まんとあんまん。好きな方を選んで。一緒に食べよう」

 

 湯気の出ているそれを、袋ごと突き出す。冷める前に食べろ、という事らしい。

 私の為に買ってきたのか...走ってきたのか息も切れ切れだ。

 

「紳士ですね。...ふふっ、ありがとうございます」

 

 袋の中に手を入れ、あんまんを手に取る。

 トレーナーさんは肉まんを手に取り、2人並んで夜道を歩いた。

 

♦︎

 

 当然の事をしただけだ。

 女の子が1人で帰る事を知りながら、不躾に夜道を歩かせる程人間ができてない訳じゃない。

 それは休日出勤をしないと片付けられない業務を放ってまで?と聞かれても、胸を張って肯定出来る。

 

「あんまん、美味しい?」

 

 問いかけられて、コクンと頷く。

 

「....はい。美味しいです。ありがとうございます」

 

 その花開くような笑顔が帰ってくるのなら充分。久しぶりに全力疾走してコンビニで温かいものを買った甲斐があるものだ。

 メジロマックイーンは隣を歩く。___人の隣りを歩くのは慣れない。気を抜いたら自分の歩幅がズレてしまうが、彼女は何事もなかったように隣を歩いてくれる。

 その、年頃にしては出来すぎた人を、自分はボウと観察する。

 メジロマックイーンという少女は、前シリウストレーナーから引き継いだ担当ウマ娘、という仲である。

 数々のレースが開催されては疾走し、挙句掴むことのできないトロフィーが多い中、数多くのG1トロフィーを取りながらも鼻に掛けずにメジロのお嬢様という形を維持し続けた貴重品だ。

 髪も染めないし、伸ばしすぎない。化粧も付け過ぎなければ飾り物もしない。言葉遣いも上品で生徒の模範となる優等生。背は160に届くか届かない程度。整った顔立ちは綺麗系で、全ての辺を整えた見た目がその雰囲気を一層強めてた。

 今は大好きな甘味を頬張って気が緩んでいるが、気を引き締めて街中を歩けば、通行人の半分は目に留めるぐらい、実は綺麗なのではないだろうか。

 

「トレーナーさん。聞いてます?お仕事が煮詰まっているのは分かりますけど、お休みを取ることも大事ですよ?タズナさんも言ってましたが、ここのところ連勤続きだとか」

「38連勤だな。まだまだ余裕だぞ」

「あのですね。まだ出来るとかそういう話ではなく....そのうち、誰も知らないところで身体を壊してしまいますよ?」

 

 健康指導の先生のような、当たり前の事を頭ごなしに言ってくる。

 どちらも身体を気遣っている事に変わりないのだが、こちらも事情が有り仕方なく手を動かしているので大目に見てほしいな。耳が痛い。

 

「.....その、大変なのは分かりますので。せめて、秋シニアが終わったら息抜きをしませんか?」

「息抜きと言うと?」

「お疲れ様会みたいなものです。ほら、トレーナー室にお鍋やオードブルを持ってきて、チームのみんなで小さなパーティーを開く。と言うのはどうでしょうか?皆も喜ぶと思いますよ?」

「あー...なるほど。そいつは良いな。じゃあやるか」

「わかりました。それでは一応、企画の旨をタズナさんに伝えてみますね。トレーナー室でのガスコンロ使用の有無を聞いておかないと後で怒られてしまうかも。ですからね」

 

 そう言って月夜の中で笑う彼女はとても綺麗だった。

 夜もじき更けて、朝には太陽が昇るだろう。

 秋空の下で咲う彼女を、ただ眺め続ける。

 思えばそれが、メジロマックイーンという少女を始めて直視できた夜で、初めて見れた本当の笑顔だった。

 

 

「それではまた明日」

 メジロ家の邸宅前まで送ってくれて、彼は歩いて帰って行った。タクシーを呼ぼうとしたが、運動不足解消の為。という理由で断られた。

 また1人。夜空の中に取り残される。

 それでも今は独りじゃない。心に残った温もりがまだ消えていないから。

 

 空を見上げれば今日は三日月。その主役の背に、満点に輝く星空が見えた。

 綺麗だな。...と、一つため息をついて、誰にも見られないよう力無く微笑む。

 再度、月に手を伸ばしてみる。やっぱり届かない。

 

 ...でも。もし例えば、月に手が届いてしまったら?

私1人が月を独り占めしてしまえば?それはどうなる?

 ...答えは簡単。夜空が寂しくなる。それはとても悲しい事だ。こんな広い闇の中、照らしてくれる存在がいないなんて悲しいでしょう?暗闇の中は怖い。朝が来ないと太陽が出ない。光が無いと前は見えない。夜には月が必要なんだ。

 ...チームのみんなにも。彼の将来を考えても。やっぱり、この気持ちは届かない方が良いんだよね?諦めた方が良いんだよね...

 

 気持ちと相反して、手だけは月を掴もうと更に手を伸ばす。

 掴めなくって、やっぱり1人。

 だからこそ、我慢できない息苦しさで悩ませてくる月が好きだし、掴めないことに今日も安堵するのだ。

 

 

[newpage]

 

[chapter:桜流し]

 

 

 

 その日、古びた頁の隙間から押し花を見つけた。

 うんと昔に、屋敷の花壇で見つけた花だ。かつては燃えるように赤かった花も、今や色が抜けて茶色く焦がれている。

 いつ本に挟んだかは覚えてない。

 今日、気まぐれに本棚の整理をしなかったら思い出す事も無かっただろう。

 その事実が酷く悲しく、気まぐれのなかった未来を連想しても悲しいものだった。

 感情とは、やはり薄れることで過去に成ってゆくのだろう。

 書に取り込まれ平面になった押し花を、同じ頁に戻して閉じた。

 

 

 

 目覚まし時計より早く起きた。

 冬の終わりにしては暖かく、柔らかい陽射しが次季の趣を感じさせたからだろう。

「マックイーンお嬢様。今日のお帰りは何時頃になられますか?」

 玄関口で靴を履いている私に、送迎係の湊がそんな事を聞いてくる。

「いつも通り。夕方で大丈夫ですわ」

「承知いたしました。それでは、お帰りのお時間に合わせてお迎えに上がります」

 幾度も繰り返された会話。半ば反射的に返答して送迎車に乗り込む。湊も予定調和が如く無駄のない動きで運転席に乗り込み車を発進させる。

 窓辺の景色に没頭しようと窓から外を眺める。この車両には無線ラジオは搭載されて居ない。退屈を紛らわすのは変わり映えの無い走行音と、生乾きの絵の具を引き延ばしたような景色だけ。もう一つ選択肢は有るのだが、今日の送迎係は湊だ。彼女は口下手で必要以上の会話を好まない。よって私は、窓辺の景色を選ぶことにした。

 最初のうちは巡り巡る景色と共に抽象絵画は何枚も移り変わっていたのだが、車両が減速すると共に緩やかに輪郭が整えられ、額に入った風景画に戻ってしまう。車は赤信号で止まった。

 

「お嬢様。さしでがましい事なのですが、本当にお帰りは夕方で...お車でよろしいのですか?」

 

いきなりの質問に、ぼんやりした意識が戻された。

 

「.....当主様も、今日くらいはご学友の方々と門限までなら遊ばれても良い。と仰っていましたが」

 

 続けてポツリと溢した。

 あの湊が喋るなんて珍しい。という感情よりも先に、言葉の意味に疑問が行く。

 

「お父様が?どう言うことで......」

 

 言い切る前に、問いの真意に気がついた。

 止まっている窓辺の景色。その中で、開いたばかりの花が散っている。...冬の終わりにしては残念に思うほど早すぎる光景を見つめる。

 

「そうでしたね...。今日は友人と一緒に歩いて帰ります。教師の方々にも、最後は挨拶して回りたいので遅くなるかもしれません」

 

 承知しました。湊は頷き、いつもの抑揚の無い声に戻った。

 信号は青色に変わり、車も走行する。窓辺の景色も移りゆく。ヒラヒラと舞い散る花弁を見つめながら、流れてゆく時間の無情さを噛み締めていた。

 

 メジロマックイーンは18歳。

 トレセン学園高等部の3年生。

 今日は3月10日、卒業式。

 

 どんなに願っても明日は必ず訪れるし、同じ日には2度と戻れない。そんな当たり前の事実に、ようやく気が付けた。

 

 

 

 イメージは蝶。花に誘われたのかユラユラと浮かんでいる。

 何千羽と蝶は居るけれど、翅は1羽も持っていない。蝶はいつしか力無く落ちる。

 小さな弧を幾重にも重ねて、枝先から落ちていく。

予定調和のように繰り返された事象は、けれど春の趣を感じさせる。

 その姿が、ひどく悲しい。

 一緒に落ちる事は出来なくても、せめてあと少しは傍にいてあげたかった。

 ひらりと一枚、花弁が落ちた。

 

 

 長かった卒業式も終わり、お世話になった教師の方に最後の挨拶を済ませた。学友とも最後の別れを済ませ、後輩からはいっぱいの言葉と、両手に抱えきれないほどの花束を渡された。

 後輩からは別れを惜しまれた。彼女らから受けた言葉全てにお返しをして、やはり最後は「では、また」と残して別れていった。

 別れの言葉にも2種類ある。また会いたい時に言う言葉と、サヨナラを告げる言葉の2種類。

 私が残したのは、前者の言葉。

 そうしていると、玄関口で靴を履き替える頃には陽が傾いていた。

 湊には徒歩で帰ると伝えて正解だった。こんなに長く待たせる羽目になっては良い顔はされなかっただろう。

 春の初めにしては外気は暖かい。下校のピーク時刻はとっくに過ぎてしまい、学園内は静まり返っていた。閑静で、暗くて、無表情な、別人のような雰囲気を感じてしまう。見知った学園なのに、人通りも温もりもない学園は不気味なほど人工的で、知り合いと似ている人に話しかけてしまった気分と似ている。

 別人、他人、どちら様。

 何もかもそう思うのは、私の心の片隅で、この校舎とはサヨナラしてしまいたい。等という深層心理があるからなのだろうか。はたまたその逆を感じ取ったか。

 そんな中、伸びる射影は刻々と夜を寄せてくる。全てが中和された夕焼けの世界。色の無い月だけが夜に忘れられているようで、ひどく、疎外感を感じる。

 ....だから、卒業とはそう言う事だ。

 此処もいずれ、私を知る人が居なくなる。

 私の使っている下駄箱も、来週になれば別の誰かが使っている。私の使っていた椅子でさえも、来月には顔も知らない新入生が目を輝かせながら座っている。

 卒業とはそういうことだ。誰かが築いてきたものを引き継ぎ忘れられる事で成り立っている。だから、私が卒業して数年もすれば学園からメジロマックイーンという存在はなくなってしまう。記録としてなら残るだろう。でも、記憶からは薄められる。

 ...それはとても悲しい事だが、私はそれで充分だ。

 在学中にメジロとして恥じない成績を掴む事ができた。学問だって充分だ、進路だって進学する事ができる。交友関係だって不自由はしていない。きっと何人かとは、卒業後も会うだろう。

 だから大丈夫だ。私は大丈夫だ。この学校に未練は無い。この学校を卒業して忘れられても大丈夫。大丈夫、大丈夫。

 

「大丈夫じゃ、ない」

 

 _________呟いた自分の声に驚いた。

 そんな衝動の中、トレセン学園の正面玄関前に歩き着いた。

 その校門。トレセン学園の敷地境界線にあたる鉄筋を見て、少女は立ち止まる。この外門を抜けるだけで、メジロマックイーンは晴れてトレセン学園を卒業する事ができる。簡単だ。一歩足を動かせば門出を迎えられる。

 

 ____足が動かない。

 

 目線が胸元に下がり、唇を噛んでしまう。

 目に掛かる髪の毛を指でかき分ける。

 射影によって浮き彫りにされた背中は壊れそうなほど小さく、寂しげなほど影を浮き彫りにした。

頭上には三日月。それは始まりのメタファーとしても古 来から使われる存在だ。それは早く空に出すぎたのか、未だ白色に剥げていた。

 

 あぁ...____。春という季節を、これほど淋しいと思った事もないだろう。

 

 メジロマックイーンは校舎に引き返した。

 彼女が佇んでいた場所にはヒラヒラと。

 開いたばかりの花が蝶々のように、ヒラヒラと散り落ちていた。

 

 

幕間

 

「ねぇ、メジロマックイーンさん話、聞いた?」

 

「あったりまえでしょう。そんなの、みんなずーーーっと知ってるわよ。あんなお堅いメジロ家のお嬢様が何年も何年も片想いしてるなんて、学園じゃ周知の事実よ」

 

「ううん、違うよ。ま、確かに彼女の片思いの話なんだけどね。それって最新の進展は知ってるかな。....彼女、秋頃から毎週土曜日にシリウスのトレーナー室に行ってるの。驚くなかれ、そこまでして、未だに告白の一つもしてないんですって」

 

「____なによそれ、ほんとの話?」

 

「うん。私もね、あんまり情報通ってわけじゃ無いけどね、昨日モール店でドーベルちゃんとライアンちゃんにばったり会ったから、もののついでに聞いてみたんだ。彼女に1番近い娘達から聞いたからホントだよぉ」

 

「待って、あの子、4年間シリウス居て...引退した高三の間もずっと居たんでしょ?なら、タイミングだっていっぱいある筈じゃん。なのにどうして」

 

「そうなんだけどぉ。...アレじゃない?親しくなりすぎて告白するタイミング見失っちゃった〜!って言う関係。ほら、ドラマとかでもあるでしょ?幼なじみから恋人に変わる話」

 

「____なるほどね。...確かに、それなら納得できるわね。...にしても、ニブいのも困りものね。トレーナーさん。少なくとも高三からの1年はメジロマックイーンさんの個人的な感情でトレーナー室に行ってたのでしょう?obが意味もなくトレーナー室に行くなんて迷惑な伝統があるはずないし。そこまでアプローチ続けてたら普通は気がつくと思うんだけどね、好きなことくらい」

 

「ううん逆じゃない?多分、あの人は気がついてだと思うよ?」

 

「____その心は?」

 

「女の勘」

 

「あんたねぇ」

 

「じょーだんじょーだん。...でもさ、とっくに気がついていて、敢えて触れないようにしてるって思うよ。あの人って本気で選手の事考えてくれてる人だし、夢は全国制覇だー!なんて言っちゃうくらいのドリーマーだし。今はトレーナー業に力入れたいんじゃないかな?色恋沙汰に興味が注がれないくらい」

 

「今は恋人は要らないって事ね...私にはよく分かんないかな」

 

「へー、その口ぶりだと欲しかったのかな?」

 

「当たり前でしょ。私だって欲しいと思うわよ」

 

「あっはは。そうだね。私達、結局卒業式まで恋人できなかったものね」

 

「女子校なのが悪いのよ。私だって共学ならきっと」

 

「そうだね。大学生になったら乞うご期待、ってところだよね。...私達、ここに来て恋人もできなかったし、結局レースで一勝も出来なかったものね〜。ま、私はトレセン学園に来て、ベガで本気にレースに取り組めて良かったと思ってるよ?」

 

「それは私も同感よ。未勝利なのは悔しかったけど、悔いはないわ」

 

「だよね。うん。_____でも、やっぱり、寂しいね」

「そうね____もう散ってる。今年も早いね」

 

 ひらりと一枚、花弁が落ちた。

 きっと皆が知らない場所でも、ヒラヒラと。

 蝶のように、花のように、短い春が終わってゆく。

 

 

 

 卒業式も終わった夕方。残った書類仕事を片付ける為トレーナー室に篭っていると、いつもの来客が現れた。

 

「....こんにちは、トレーナーさん」

 

 開かれたドアの向こうで、オズオズと顔を覗かせる少女。メジロマックイーンだ。

 

「マックイーン、どうして?」

 

 彼女がここに来るのは珍しくない。毎週土曜日は必ずやってくるし、最近だと平日もやってくる。お昼だって一緒に食べている。

 それでも、今日に限っては疑問を抱かずにはいられない。彼女はついさっき、卒業生として送り出されたばかりなのだ。

 

「卒業式は終わったけど...何か忘れ物か?」

「いいえ、忘れ物では無いのですが」

 

 彼女は扉を閉めながら、視線を泳がせていた。

 中空を何度か往復すると、やがては押し黙ってしまう。

 午後。閉ざされた窓からはオレンジ色の夕陽が差し込んでトレーナー室を染め上げる。暗影が刻々と迫る中、移りゆく景色になぞられて花樹からはヒラヒラと花弁が散ってゆく。

 マックイーンは未だ扉の前から動こうとしない。二の句を継ごうと言葉を探すが見つからないようだ。

 

「まぁ、とりあえずソファに座りな。長い長い卒業式も終わったんだし、ゆっくりしてきなよ」

 

 重苦しい空気を破るように明るく努めた。それに安堵したのか、彼女はホッと胸を撫で下ろした。

 執務机から腰を上げ、トレーナー室中央に位置する応接机を綺麗にする。そのまま入り口にいるマックイーンの背中を押して、自分は入れ違うように廊下側に出ていく。

 

「ほらほら座りな。今から給湯室でお茶淹れてくるよ。マックイーンは何が良い?」

「...それでは、ミルクティーをお願いします」

「了解。じゃ行ってくる」

 

 すれ違う隙間に背中を押して、パタンと扉を閉めた。

 トレセン学園、教員棟3階の渡り廊下に出る。その左右を見渡す。誰もいない。気配すら感じられない。今は卒業式を終えたばかり。残業する教師は自分を残して1人も居ない。生徒だってそうだ。今日は全チーム休みの予定だし、家路を辿る生徒だけのはずだ。無論、卒業生が校舎に残る理由は一つも無い筈。

 ____だから、そういう事なんだろう。

 よくある話だ。卒業式を終えた後、一世一代の覚悟を決めて異性の元へ行く、なんて話は。

 給湯室に続く短い廊下を歩きながら、窓辺から見える桃色の花弁を眺める。日本人が懇意にしているその花樹は、先週あたりまで満開に咲き誇っていたのに、いつしか散り散りになっていた。

 

「今年も早かったな」

 

 移りゆく景色の無情さを噛み締めながら、一枚の花弁が散るのを見続けていた。

 

 

 高校1年生の時。チームシリウスに所属して2年目の時に、長年にわたってチームを牽引してきた主任トレーナーが引退してしまいました。

 引退理由としては歳を取り、過酷なトレーナー業を続ける事が難しいという理由でした。そのシリウスの後継として任されたのが、当時の副トレーナーさんでした。

彼は若く、腕も立つ事から後継として任せても構わないと箔を押されて主任トレーナーに就いたのですが、その出来事に納得できない人達も数多くいました。

 納得出来ない人達は、他トレーナーと、シリウス内のメンバーでした。

 本来、主任トレーナーとは10年以上の実績を副トレーナーとして積んでから任されるものが常識だった。それをトレセン学園に就任して3年目、しかも出自もパッとしない経歴の人が持つだなんて目の上のたんこぶでしかない。と言う人達が多くいた。

 そして、チームシリウスとはトゥインクルシリーズ出場経歴を何年も保ち続けてきた強豪だ。

 その威光に当てられてチーム編入をしてきた選手も多い中、どこの出自がわからない若人が牽引すると知った時は、皆の内心穏やかでは無かっただろう。

 ウマ娘にはそれぞれ、内なる夢をかかえて生きている。

 私だってそうだ。名家メジロの為に生きてきた。天皇賞の祈願、ひいてはトゥインクルシリーズで走り抜く事を使命として生きてきた。

 それなのに、どこぞの馬の骨ともわからない若人が主任になってしまったのだ。幾ら今の主任トレーナーに拍を押されたとしても関係ない。背景もわからない若人に自分の未来を任せるなんて本気で走ってきた人達ほど不安で不安で仕方がない。

 結果、主任トレーナーが引退したと同時に、シリウスの既存メンバーの半数は脱退した。皆、他チームに移籍したのだ。

 副トレーナーが、初めて「シリウスの主任トレーナー」としてミーティングルームに入った時の表情は今でも鮮明に覚えている。今にも怪我をしそうなくらい危うい表情をしていた。...後1人でも多く辞めていたら、その場に崩れていたかもしれないくらいに。

 実際、トレセン学園のトレーナー業とは表向きは実力主義の世界だが、その本質は血筋至上主義である。親の意向、その人からのコネクション、名家の面汚しをさせるなと言う圧力。その輪に入ると彼の経歴はこの上なく異常だった。血筋は平民の出、秀でた特技によって全国大会進出した記録も無ければ、企業を立ち上げたなんて実績も無い。あるのは一般大学を中退してトレセン学園のトレーナー試験に受かった。と言う変歴くらい。幾ら彼がトレーナー試験に受かるほどの実力を持とうが、長きにわたる「名家の価値観」を植え付けられた人程に彼を避けていた。

 それはトレーナーでも、選手でも同じ価値観。シリウスで半数やめてしまった人は、その価値観の人だった。

 

 ....でも、私を含め、チームに残った人もいる。

 

 私は、彼を副トレーナーの時代からよく見ていた。

 主任トレーナーから言われた事はそつなくこなす。基本的なレース場の特徴を暗記していて、各選手に見合った戦略も組み、主任トレーナーに相談してからアドバイスをくれる。選手の顔色をよく見ており、体調が良くない時にはいち早く気がつく。気が急いてオーバーワーク気味な娘が居たら、一緒に残って練習を見てくれる。保健室に送られたチームメンバーがいれば、好物の差し入れを持っていく事もあった。

 彼は目が良い。観察眼が優れている。そして人当たりも良い。振り子のように不安定な思春期の精神衛生を、行動の機微で気がついてくれる。何より知識量が多く、口調も丁寧で穏和だ。私は彼を良く見ていた。

 

 経歴という外見を見る人もいれば、

 行動という内面を見てくれる人もいる。

 

 その点を踏まえて、私はチームシリウスに残った。

 残った半数のチームメンバーも同じ意見だった。彼になら「強豪、チームシリウス」を任せても良いと納得した人達ばかりだ。

 半数も辞めてしまい軽いショック状態を迎えても不安を感じさせないよう力無く微笑む、病的に他人を思いやるその人に向かって。私達はこう声を掛けた。

 

「これからもよろしくお願い致します。トレーナーさん」

 

 朝起きて挨拶をするような、変わらない声色で____

 

 

 それからの日々は目まぐるしいほど早くて、長いように感じた。

 チームメンバーを集める為に奔走していたら春クラシック期間のエントリーを忘れてしまい、合宿明けまで重賞獲得をお預けされてしまった事。それを超えて、菊の花を取り、春の盾も勝ち取り、天下の集成に選ばれ、秋の盾を取った。メジロの祈願を成就した。私が活躍した事により、チームシリウスの箔が戻り、メンバーとしての貢献も果たした。

 同時、あからさまにチームシリウスを避けていた人達の態度が丸くなるように感じた。思うところはあるが、トレーナーさんが何も言わないなら私も何も言わない。

 トレーナーさんも成長が見られた。今にも怪我をしそうなくらい危うかった彼の風格は、時間が経つにつれて薄れていった。チームを牽引する者としての貫禄も見え始めた。強さと優しさを兼ね備えた人になった。

 

 そんな彼の隣に立っている事が、私の使命だと感じていた。

 

 そうして、私は選手としてやるべきことを果たした。

 選手としての引退表明も出して、引退手続きを済ませた。

 あとはチームを脱退すれば、私は晴れて選手生活を終える事ができる筈だった。

 

 それが高校二年の冬の話。今は高校三年の春。卒業当日。私は今でも、チームシリウスから脱退できないで彼の隣に居続けている。

 なんで私、こんなところにいるんだろうな...誰に言うでもなく自問する。...答えなんて分かりきってる。

 

 メジロマックイーンという少女の初恋は、とっくに奪われていたんだ。自身の気持ちを自覚するよりも、ずっと昔に。...チームシリウスのトレーナーさんに。

 

 

「何見てるんだ?マックイーン」

 

 トレーナー室のソファに座りながら、一枚の紙を眺めていると背後から話しかけられた。

 見ればトレーナーさんは給湯室から戻ってきていて、手にはお盆に乗せられたコーヒーカップが有った。

 

「シリウスの募集ポスターです。デーブルの端にあったので、つい見てしまいました」

「あーそれか。今年も募集するんだよ。レイアウトとかどうかな?今年は俺1人で作ってみたんだけど」

「良いと思いますよ。今年も沢山来て頂けたら嬉しいですね」

 

 そうだな、と返し。コーヒーカップの一つを私の前に置いてくれた。ミルクティーの甘い香りがする。

 トレーナーさんは対面のソファに座り、2人の間を挟む長テーブルの上にお盆を乗せた。お盆の上には透明ビニルに梱包されたクッキーが2つ。

 

「今日のオヤツはクッキーです。給湯室漁ってもコレしか無かったから許してくれ」

「いいえ。文句なんてあるわけないですよ。わざわざ用意して下さってありがとうございます」

 

 梱包されたクッキーの一つを取り出して口に含む。ミルクティーを一口啜る。

 

「美味しいです」

「さんきゅ」

 

 言葉は空気に融けてゆく。

 それっきり会話が紡がれる事なく。

 緩やかに減退してゆく赤を眺めていた。

 予定調和。

 トレーナー室に来ても、多くの言葉を交わす事は珍しい。話すとしてもクッキーが美味しいだとか、今度の休日に買い物に行くだとか、他愛無い話をお茶請け代わりにするくらいだった。

 変わらず一年。何も変わらなく。...それが精一杯だった。

 だけど、やっぱり出会った時から、今にも怪我をしそうなくらい危うい彼を放っておかなくて、意味もなくトレーナー室に通い続けていた。

 春の日没は早く、トレーナー室は夕日で真っ赤だ。その、赤と黒の世界の中でトレーナーさんは対面に座っている。最初から変わりなく対面の距離。

 

「マックイーンも卒業か。...長かったような、短かったような。ありきたりな言葉しか思いつかないな」

 

 心ここに在らずといった風情で彼は話し始めた。

 

「...そうですね。長かったようで...本当に短かったです」

 

「この1年間あっという間だったな。いや1年だけじゃないな。3年間あっという間だったな」

 

「そうですね。1日は長いと思うのに、1年過ぎるのはあっという間に感じます。中等部に入った頃は想像もできなかった経験です」

 

「マックイーンも大人になったんだな。...と言おうとしたけど、キミは最初っから品格は大人のままだったか。成長したといえば腹」

 

「今日は卒業式でしたね。もし仮に、お茶を濁す発言があった際にはトレーナーさんの原型が止まる範囲でならどんな制裁をし下ても構わない、と思っていますので、お忘れなきよう。...それで?言葉の続きは?」

 

「____何でもないです」

 

 ええ、まったく。と頷きながらコーヒーカップを啜っている。その奥、首筋に僅かに冷や汗が垂れているのを見逃さなかった。

 きっと失礼な事を言い掛けていたに違いない。

 

「...でもさ、それってすごく大事な事だよな。

中学の時に気がつけなかった変化に気がつく。少し前の事を俯瞰して成長を感じる事は大切なんだよ、マックイーン。

人間は少しずつ変わっていくから、微細な変化に気がつかないんだ。身長が一年で10センチ伸びても1日に何ミリ伸びたかは計測できない。久しぶりに会った親戚に身長伸びたね〜って言われてもあまり実感沸かないとかあるだろう?それと同じで、人間は知らず知らずに成長をするんだ。だから定期的に振り返る儀式をするのは大切なんだよ」

 

 夕焼けの赤色が、彼の横顔を染める。

 この時____彼が誰に対して喋っているのか、私には判別つかなかった。

 そして、それは意味のないことでもある。どちらであろうと、それは彼個人の独白なのだから。

 

「子供の頃は自分のことしか見れなかった。成長して他人を観れて、心を知って、自分を識って。俺自身も変わっていった。トレーナー業に就いて、色んなモノを俯瞰して変化に気がつける用になってきた。そうして指導の腕をつけていくと、自分の事を認めてくれる人が増えてきた。

俺はこのトレーナー業を経験してさ、大人になってもまだまだ成長できるって実感したよ。 最近、人生がようやく楽しいと思えるようになったんだ。

....こんな俺が腐ることもせず成長する事を辞めずにトレーナー業を続けてこれたのはさ.....あの日、空っぽのミーティングルームで、残ってくれたメンバーのおかげなんだよ_____

.....だからさ、マックイーン。ありがとう」

 

そう彼が、面と向かって語る。

 

ありがとう。とは、よく言われていた。

 

 みんな勝ってくれて良かった。ありがとう___安心

 勝っても負けても、みんなが無事に帰ってきてくれたなら充分だよ。ありがとな。だから泣くな___励まし

 お茶請け持ってきてくれたのか。あんがと___感謝

 

 ______その"ありがとう"が、今まで言われてきた表現と違う意味合いなのは、何となく理解できた。

 

「...そんな事、ないですよ。貴方は初めから優しかったじゃないですか。それに貴方は最初から大人でした」

 

「みんな思ってるほど大人じゃなかったよ。必死に取り繕ってた」

 

 毅然とした顔で彼は言う。

 そこには謙遜も何もなくて、彼にとっての真実だったのだ。

 

「キミがシリウスに居てくれて良かったよ。本当は、ずっと心細かったんだ。経歴も浅くて右も左もわからなくて、敬遠されて誰も隣に居てくれなくって、今にも怪我しそうなくらい心細かった。...ずっと俺を気に掛けて、隣に居てくれたんだよな。今振り返っても俺はさ、君が居なかったらここまで成長出来なかったと思うよ。___改めて。マックイーン、今までありがとう」

 

 今までありがとう____最後

 

 改めて口に出された言葉は、感謝の言葉。

 目を外さず、恥ずかしげもなく。どうかな?と笑う彼の姿は、とても遠かった。酷く遠い___嘘偽りのない、笑みだった。

 

「今までありがとう、だなんて。...そんな事、言わないでくださいよ。まるで今日が最後、みたいじゃないですか」

「....最後だよ。卒業式、終わったからさ」

 

 その時、落ちる陽の光が朱に見えて、地平線に沈んでいった。

 

「...そうですね。今日が卒業式でしたね、...最後ですね」

 

 彼女の声はトレーナー室によく響く。

 今日が卒業式。それを忘れていた訳ではない。卒業証書も貰った、世話になった先生にも挨拶は済ませた、学友とも後輩とも最後の別れは済ませた、あとは帰るだけだ。

 ただ一つ心残りがあって、シリウスのトレーナー室に来てしまった。

 けど、どうだ。トレーナー室に来たは良いけど、いざ直面すると身体が強張って緊張してしまう。変わらない態度で接してくれた居心地の良さに甘えてしまっている。

 

 そうして今日も、何も進展せずに帰っても良いんじゃないか?と思っている。

 

 今日が最後なのに。

 明日には、もう会えないのに。

 

 

 ...だから、どうか。どうか。最期だから。_____言おう。

 

 

「あの、___トレーナーさん」

 

 ...だから、たぶん今のような状況での勢いで告白はする事は良くある事だし、その行為は勇気を出す行為に他ならない。

 _____けど、違う。幾ら勇気を振り絞っても、コレは愚行だ。「シリウスのトレーナーさんに告白する行為」が愚行なんだ。どんなに内なる想いが芽生えようが想いを募らせようが、そこで過ってはいけない。

 過ったら、彼はきっと辛い想いをする。

 彼は告白をされても、きっと断るだろう。

 丁寧に、丁寧に、相手の心情を汲んで言葉を選んで、少しも傷つかないように私を振るだろう。

 

「____私、...私、トレーナーさんの事が」

 

 なんとなくわかっていた。

 彼の言葉の一つ一つを思い出してみたらそれは決定的だった。

 彼が私に言う言葉は全て「選手・生徒としてのメジロマックイーン」だった。

 それは4年間変わらず、ずっと。

 さっきもそうだ。「シリウスに残ってくれて、独りきりだったトレーナーの隣に居てくれてありがとう」なんて言葉は、想い寄せる異性に対して言う事では無い筈だ。

 もっと思い返してみる。星の数ほど思い出はあるけれど、やっぱり全て同じだった。

 決定的だった。そしてそれは知っている事だった。だって彼は教師でトレーナー。私は生徒で選手。立場上、互いに異性として干渉する事は禁止されている。彼は真面目だしチームトレーナーとしての立場もある。断られるのは当然だ。

 

 彼は4年間、私に対する対応は変わらなかった。

 それは今も同じ。

 私が卒業して、その立場を気にしない状態になっても尚。対応は変わらなかった。

 

 _________なら、そういう事だ。

 

 わかってた事だ。ずっと密かに胸の内に残された最悪の結末が、形になっただけだ。

 答えがわかってる質問をするなんて、愚行でしょう?

だから私は、自分の心を一つ、嘘に変えます。

 

 

「_____________やっぱり、何でもないです」

「...そうか。言いたい事があるなら、言った方が良いぞ」

「........いいえ、無かった事にさせて下さい」

 

 何とも半端な言葉で纏めると、トレーナーさんは僅かに嘆息をついた。

 

「そうか。ありがとう」

 

 心を見透かしたような言葉。それは感謝の言葉なのに、どこか謝っているように聞こえた。

 

 ...喉の奥から湧いてくる感情。それを曖昧に濁して嘘にする。その当事者の心情はどうであれ、失恋はやはり失恋として扱われる。彼女の最期の意思は玉砕でもなく未練でもなく、諦観という単語で纏められてしまう。そこにあるのは虚しさだけだ。曖昧に濁さないと未練になってしまいそうで怖い。

 言わなくて良いの___嘘。

 本当にいいの?___嘘。

 好きなんでしょう___嘘。

 嘘、嘘、嘘、嘘、嘘。

 濁流のように流れてくる感情を堰き止めることはできなかった。涙が流れてきた。涙は頬を伝い、やがては落ちてゆく。

 

「ハンカチ、使うか?」

「ありがとうございます」

 

 トレーナーさんからハンカチを貰い、目に押し当てる。湧き出る涙は止めどない。

 

「...ごめんなさい、やっぱり...ごめんなさい」

 

「あぁ。卒業だもんな、泣いたって良いんだ。マックイーンはまだ泣けるんだから」

 

「...はい」

 

それから暫く、嗚咽を殺して泣き続けた。

 

 

.....

 

 _____その中で、ふと俯瞰する。

 

 高校3年生の10月3日。日曜日の夜、トレーナー室からの帰り道。夜空に三日月を浮かべ、肩を並べながら帰った、初めての夜。

 ...あの時は、私は付き添って欲しいだなんて頼んでいない。彼から追いかけて来てくれた。暖かい食べ物も買って来てくれて、仕事を放ってまで走って来てくれた初めて夜。

 ...たった一度しか付き添ってくれなかったけど、あの時だけは違かった。言葉も行動も、私は私として。1人の少女として扱われていた。その微細な変化に気がつけたのは、今になってだ。

 ...あの時から時間が経って、"過去"を俯瞰する事で、感情を紐解き理解できるようになった今だからこそ、当時の微細な変化に気がつけた。

 

 ___もしもあの時、私にほんのちょっぴりの勇気が有って、その手を掴む事ができたのなら...今ここで、泣く事もなかったんだろうな。

 "もしも"だなんて、そんなありもしない今を考えてしまうなんて人間の脳は幸せモノだな。...なんて幸せな、現実逃避______

 

 

.....

 

 今に戻る。

 目を開けば、赤と黒の変わり映えのない空間。

 泣き腫れた顔を見て、苦しそうな顔をするトレーナーさん。

 

 ソファを挟んで対面する、私と彼の変わらない距離。

 何度も、何度も、トレーナー室に来る度、同じ光景を見た。ついにその関係が変わることはなかった。

 揶揄するように、窓の外は移りゆく景色を彩っていた。

 夕闇が映す景色は赤色を描き、空中にはヒラリヒラリと蝶のように舞い散る花弁。

 ヒラリと一枚、花弁が落ちる。

 

「桜、散るの早かったな。...キミも大学生になるんだな...」

 

 春にしては早すぎる開花を迎え、やはり早すぎる散り際を迎えた花弁を見ながら____

 

「マックイーン。...もう、サヨナラにしよう」

 

 ____残念そうに突き放され

 

「_____はい、サヨナラ、です」

 

 ___泣きながら、決別した。

 

 

 別れの言葉にも2種類ある。

 また会う言葉と、もう会えない言葉。

 私達が最後に口にしたのは、後者の言葉だった。

 

 優しい人____きっと、彼は私の恋心に気づいていて、最後まで、答えようとはしなかったんだろうな。

 私の恋心の起源が、「思春期の頃、広い世界を知らない少女の前に現れた、魅力的な異性に向ける、青すぎる恋」だと知っていたのだろう。___それはまるで、昔から今や色褪せたフィルム映画にしか残っていないような、フランスの恋愛映画のような_____

 

 

 ヒラリと一枚花弁が落ちて、ただ「好き」と伝えたかった女の子の、短く青い春が終わってしまった。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。