「いち、に! いち、に!」
「うん、いいね。その調子」
11月の山の中。まだ本調子に戻れていない私の調整を、サク姉ぇが見てくれていた。
「どうかな?」
記録を取ってくれているサク姉ぇのもとにかけよって、ログが表示されてるであろう画面を覗き込む。
「うん、あとちょっと。でも、ここのところで応答が遅れてる」
「ここっていうと……。蹴り出しのとこの足首かぁ」
確かに、車輪が離れてから後ろに蹴り出してる形になってる。これじゃ力のすべてを伝えきれていない。
これでもだいぶ良くなった方だ。いつの間にか、前に調整してできてたはずのフォームが大きくくずれてて。あのログを見たときは、ここまで酷くなってたなんて思ってもなかった。
「カッちゃんは前にできてた。今できない訳がない」
「そうだよね。じゃ、もう一周行ってくる」
「がんばって」
やっぱり、ちゃんとトレイナー資格を持ってるサク姉ぇに見てもらうのが、自分独りで抱え込んじゃうのよりはよっぽどいい。メンタルも、バイタルも。
……まぁ、サク姉ぇにだって仕事があるから、あんまり頼りっきりになるわけにもいかないんだけどね。
「良くなってる。今日はここまでにしよう」
「うーん、もうちょっと自主練しとく」
「わかった。じゃ、私はラボ寄ってから帰るから」
そう言ってサク姉ぇは機器類をひょいと持ち上げて公園を去ってった。……あと、3周くらいかな。
自分の方でもタイムをはかる。コンマ数秒の差ではあるけど、10マイル20マイルと重ねていけば、大きな差になってくるからね。
そして走ってからベンチに座って一息ついたところで、その方達は現れたんだ。
「……もしかして、カツタダイスカイ号?」
そう話しかけてきたのは、ライトブルーと青のドレスに白いアウターを纏ったノリモンだった。
「ありゃ、バレちゃった? お話は聞くから、できればもうすこし静かにしておいてもらえると助かるな」
「あっ……謝罪する」
せっかく変装しているんだし、あんまり騒いでほしくないというのが正直なところ。そうじゃなきゃ無駄に疲れちゃうからね。
「それで、何か私に用かな?」
「お礼というか……感謝の気持ちを伝えなければと思って」
……ん? んん?
何か感謝されるようなことをしたっけな?
「私とあなたとは初対面だと思うんだけど?」
「そうだ。だけど、あなたの言葉に私達は助けられた。あの時に、知り合いが大井競馬場前にいて、あなたのレースを見ていた」
あー。大井競馬場前かぁ……。
あのレースと言えるかすら怪しくて、協会から主催者の方に厳重注意が飛んでいったやつ。私も私で言葉には気をつけろと戒告が来ていたし、正直あのレース中で言わば一種の躁状態になってた時のことは、反省はしてもあまりほじくり返したいものではなかった。
だけどそんな私の心も知らないで、彼女はあついまなざしを私に向けてきている。
「ごめんね、あんまりあの時のことは……」
「本当に助かった。あの言葉に」
想定外の言葉に、拍子抜けしてしまった。そっちか。
あの時の私の言葉は、インターネット上でちょっとした議論を巻き起こした。巻き起こしてしまった。
そして議論を巻き起こしたということは、もちろん賛同してくれる方もいたってことでもある。そして彼女はこっちの側だということ。
「あの時にあなたが抑止の判断をした。走ることよりも安全を取った。その判断とその根拠を、スピードを競うあなたが主張した。そしてそれが中継で流された――この事実と思考の拡散に、どれだけ助けられる者がいることか」
そう言って彼女は俯いた。
話を更に詳しく聞いてみれば、彼女は過去に悪天候で失敗をしてしまい、大切な方を傷つけてしまったのだという。だからこそ、私の言葉が救いのように感じられたんだって。
「私は、ただ――風の息遣いを感じられなかった。今はその、償いをしている」
「償い?」
「そう。誰もが傷つかないような、そんな世界を目指して活動している。だからこそ大井競馬場前駅でのあなたの発言は、私達の力にもなってくれた」
昔に彼女が傷つけてしまった、その過去は変えられない。だからこそ、未来のために動いてる。そう切り替えができている彼女のことが、どっちかって言うと失敗を引きずっちゃうタイプの私には、少しだけ羨ましいなって思った。
……でも。
「なら、私も応援するよ! だってそれって、素敵なことだもの」
だれかが頑張る力になれる。いっぱしのエンターテイナーとして、それ以上に光栄でうれしいことはない。
「ありがとう。私は――ブゥケトスは、その言葉を胸に頑張ろうと思う」
「うん、がんばってね」
私が手を差し出すと、ブゥケトスさんは若干戸惑いながらも応えてくれた。――ファイト! 実際に手を繋いだのは短い時間だったけど、この想いはきっと届いたと思う。
そう考えていると、今度は白黒のドレスを着ている方がこっちの方にやってきた。
「……何をしているのですか、ブゥケ」
「あぁシャワァ。ちょうど良かった。彼女、カツタダイスカイ号」
「あぁ、ロペ様の仰っていた」
すると彼女はブゥケさんの横に立って、その穏やかそうな表情とは裏腹に、舐め回すような獰猛な目線で私を見つめてきた。
「……なるほど」
「いや何が?」
「こちらの話です。お気になさらず」
いやめちゃくちゃ気になるんだけど?
そんな私の内心もつゆ知らず、彼女はピトリと私の額に手を当てた。
「え、何……」
「妾からも感謝します。台風の時に、安全な場所で留まり続けるという良い事例を発信したことに」
「当たり前のことをしただけなんだけどな」
「それでも、です。『天気図』と呼ばれるほど気象に詳しかった知人がいるのですが、彼ですら台風の時でもなお進まなければならないという周囲の圧力により致命的な判断ミスをしてしまいました。貴女の行いは、そのような圧力を軽減させることができるものですから」
なるほどね?
つまり、この方もブゥケさんと
「ゆえに――あなたには、妾らが神の祝福を受ける権利があります」
「……祝福?」
「ですから――祝福を受け容れなさい」
「待って、祝福ってな……」
次の瞬間。
私の疑問が彼女に届くよりも先に、私の周りを緑色の光が舞った。
あ、これはいけない。
すぐさまたちあがりその手を振り払い、そして飛び跳ねてベンチの裏に着地する。緑色の光が、視界の隅にちらついている。
「……驚きました。祝福を振り払うとは」
「当たり前だよね? いきなり私に何しようとしたのさ。ドーピングとかに引っかかるようなことが起きたら大変なの、分かってるよね」
それでなくとも、調子を崩したらこの前の山百合ステークスみたいに思うような結果が出なくなるかもしれない。今からG1に到達するためには残る2戦はどちらも落とせないから、それはなんとしても避けなきゃいけないことだ。
「流石に今のは私も良くないと思うよ、シャワァ」
「そちら側につくのですか、ブゥケ」
「……はぁ。かわりに私から謝罪するよ、カツタダイスカイ号。シャワァはちょっと傲慢なところがあってね」
そのシャワァと呼ばれたノリモンの体を強引に押さえつけながら、ブゥケさんが謝罪した。
……まぁ、今のところ体に変なところもないし、だいじょうぶか。
「ほら、帰るよシャワァ。今日ここに来た目的は済んだでしょ。こんなとこで目をつけられたらおしまい」
「……わかりました」
「それじゃカツタダイスカイ号、今週末のレース、がんばってね」
「そちらも、活動頑張ってね」
そしてブゥケさんはシャワァさんを連れて去ってった。なんとも不思議な感じのする方たちだったなぁ。
さ、とにかく私も頑張らなきゃ。
シャチホコ
ゴールドカップ
愛知県豊川市伊奈町豊川新田、名古屋本線伊奈駅。
ホームの上では、鉄道会社のブラスバンド部の方たちが、この鉄道を象徴する旋律を響かせている。ボートレースとこなめや中京競馬場での冠競走でも使われているこのファンファーレは、言うまでもなくこのレースのスタート合図だ。
そして2コーラス目が鳴り止んで、レースは火蓋を切って落とされた。
スタート直後の位置取り争い。私の直後のパノラマメイデン号が、いつも通りに逃げを打つために前に出る。この名古屋本線はまん中あたり、中京競馬場前から丸ノ内までの間の都心区間にカーブが多いから、そこに差し掛かるまでの間にできるだけ後続を突き放しておきたいんだろう。
でも、させない。たとえ彼が
もちろん直接パノラマメイデン号の進路をはばむわけじゃない。引き離されずについていく。それだけだ。
本当は、パノラマメイデン号のすぐ後ろについていきたい。身体はそう叫んてでる。でも、がまんだ。
自分の走りを見失ったら、勝てっこなんかない。ノッチオンの時間を少しでも長く――そんなセオリー通りの走りが、結局一番早いんだ。冷静にやれば、勝機は、ある!
そしてレースは最初のコーナーに入る。ここからは美濃三河高原の谷を抜けるから、右へ左へとカーブが続く。
パノラマメイデン号にとって、この路線はホームグラウンドだ。あまり走る機会のない私達と違って、車の頃からこの名古屋本線のカーブや勾配をその頭に叩き込んでいる。
なら勝てっこないって? そんなことはない。その後ろを走る私からすれば、直前にお手本が走ってるってことになる。それもとびっきりの。下手に前へ出てしまえば、決して視界には入らなかったであろうそれを参考にできる――これこそが、スリップストリームと前方監視に並ぶ第三の後追いのメリット。それを最大限、生かさせてもらうよ。
そのまま先頭集団の中で前を走る選手を煽りながら、パノラマメイデン号から引き離されずに藤川を通過して谷を抜ける。
……まだだ。ここの高速区間に入ってもまだ仕掛けない。抜かないように、でも確実に戦闘についていく。ついていく。ついていくことができる限り、私にはいくつもの追い越すタイミングが生まれてくる。
東岡崎……まだだ。
そして、
一か八かの大博打。この前に石橋阪大前でやった、流体力学、ベルヌーイの定理を使ったカーブの通過。そして、さらに意図的に
だけど、ここで右への力は殺さない。ここはS字カーブ、続く右カーブでの遠心力で勝手にそれは殺されるものだから。しかもそれを持っていることにより今度は左への遠心力が弱まるというオマケつき。S字カーブは荷重の移動がしっかりできないと簡単に脱線してしまう恐ろしい線形だし、そのぶん
そして、速度差ができたこのタイミングだから、大きな仕掛けどころになるんだ。
さぁ、行こう。中京競馬場前まで!
高架化工事中の知立の駅を抜けて、落とさずに済んだ速度のまま進む。先頭パノラマメイデンまでの差は目視で7チェーン。ここで10チェーン引き離されていないのだから上出来だよね。
迫る私のモーター音や足音に動じもせず、私を引き離す最高のタイミングを伺っている君。車庫のある
なら、それを潰してあげよう。
中京競馬場前、通過。この先の曲線多発区間に向けて、決意の警笛を鳴らしたら、パノラマメイデン号もお返しと言わんばかりの
そして
……だけど、実際には移ってはこなかった。
移ろうとしたのは確かなんだけど、なんと線路と線路の間で、つまり空中で
一体、どういうこと?
これだけならまだわかる。だけど有松を抜けた左カーブでは、逆に左へと移ろうとしたんだ。一番左の線路なのに!
私はその遠くなっていく背中に羽を幻視した。パノラマメイデン号とおなじ、真紅の
それは空中を描く
どういう原理なのかはわからない。だけど、パノラマメイデン号の体が光に纏われているわけじゃない。つまり、『技』を使っている訳じゃない。なら、からくりさえわかっちゃえば
左京山を抜けて、
だけど、しばらくパノラマメイデン号はそれを使わなかった。少しだけ離れた私とのリードを保ったまま、
何がしたい。一向に近くならない背中は、遠くにもならない。そのコーナリングで私を引き離すことだってできるはず。なのにどうしてやらない?
タイムリミットは近づいてくる。神宮前のカーブをまたもや跳んで突破して左の線路に戻り、その背中を見つめる。
――目が、合った。先頭を走る選手が状況をしっかりと確認するために振り返ることはよくあることだ。だけど今のは違う。だって私は今、君が私
ふふっ。わかったよ。私と君との間に言葉なんていらない。奪ってあげるよ、あなたの大好きな
金山総合駅を抜けたあと、この先の
地下トンネルの先で、またあの旋律が聞こえた。名駅の観戦者に向けたサービスだろうか。それができるほど余裕だとでも言うのか。ならばとお返しにまた警笛を鳴らして、両側のホームから観戦客の視線に挟まれながら名駅を抜けた。
続いて、栄生。そこを出た右カーブを、またしても左に跳ぶかたちでクリアする。これでまた、真後ろに立った訳だ。
なら、見させてもらうよ、君のその、空中に描く進路をね!
そしてその予想は、当たった。なんのことはない。パノラマメイデン号は、遠心力で右の車輪を左側の線路に押し当てて、そしてそれだけで体を支えていたんだ。当然横圧は大きくなって、滑るように車輪はせり上がってしまうけど、私と同じようにその先で普通の位置に戻っている。いわば、私が複線を使ってやっていたドリフトを、単線でやっていた……それだけの話だった。
わかってしまえば、できる。だけどたしかに難しい。遠心力、つまりスピードとカーブの半径が一定の関係にならなかったら、上手にバランスを取ることができずに滑ったり逆に倒れたりしてしまう。しかも内側の車輪は浮いているからブレーキだって効く訳がないし、逆にコーナーの出口できちんとせり上がって遠心力で飛ばされなければ、その偏った片輪走行状態から復帰することだって不可能だ。
流石に同じコーナーじゃそれを真似するのは無理だから、私のやり方で左に跳んでコーナーを突破する。計算しろ、次のコーナーは……いや、ダメだ。
ダメだ。これじゃ勝てない。
……勝てない?
そんなのは、嫌だ。負けたくない。ならばどうする? 限界を超えるしか、ない。
だけど、大きな力がかかるってことは、逆に粘着力だって上がる。それは
この先
「はぁぁぁぁっ!」
自然と、喉元から音が出る。それはまるで、足元のモーターが唸るかのよう。ここで限界まで速度を出さなかったら、どこで力を出し切るって言うんだ。
じわり、じわりと前の背中が近づいてくる。ときどき奏でる音色が、さっきよりも気持ちだけ高く感じる。
そして力を出し切って、
だけどまだ、こっちのほうが速度は高い。それに、今の私には2本の足が生えているんだ。それを根詰めて動かせば、スピードだって殺されはしない!
じわり。じわり。いや、行ける。まだ行ける。ほら、行ける! まだ上がっていける。根性だけで! 加速! 加速するんだぁっ!
「お前……モーターはどうした」
「そんなもの、とうに尽きてる。尽きてなお、走り続ける! 全てはあなたを抜くためにね!」
「状況判断すらできていない、狂った戯言を」
「果たして戯言かな?」
何のために足が生えてるとおもってるのかな。それは車輪が回らなくても、前に進むため。そうだよね、Novelty様。
――あなたはそう考えているんだね。
知らない誰かの声が、頭の中に突き刺さる。
「ならば戯言だと証明してあげよう」
そして新木曽川で、また旋律が響いた。
だけど私は勝つ。必ず勝つ。その熱い想いは可能性に満ちた未来へと駆けてゆく。そしてその夢は限界さえ超えた眩い光の差す場所へと、私を導くために動き始める。この想いを力に変えていく力こそが根性ってものだ。
その根性の強さなら、私は誰にも、決して負けやしない!
木曽川の堤防へとのぼる坂道も、この足さえあれば決して苦じゃない。速度を、落とさせはしない!
木曽川を渡る鉄橋の上でふと左を見れば、歯を食いしばるパノラマメイデン号の顔が目に入る。
「前面の展望は、私のものだァっ!」
「それは、どうかな?」
退けよ退けよそこ退け、そこ退け退けよ。
今はなき東笠松の駅のあった場所で、またしても旋律が響いた。
譲らない。譲る気はない。それは私もそうだし、君もそうなんでしょ?
だけど私は掴み取る。この足で。ガガンガガン駆けてゆく。車輪は欠けて、命運を賭けて。それでも、夢という名の橋を架けて、そしてそこを翔けてゆくんだ。
「私が勝つ。それは私が! カツタダイスカイだからだあぁっ!」
その叫びが笠松の駅に響く。あと2つ。ゴールはもうすぐそこだ。
一歩踏み出すたびに、視界の端のパノラマメイデン号は、少しずつ後ろへと消えてゆく。
だけど決して気は抜けない。フィニッシュラインの先にある絶対停止線。そのデッドラインを超えてしまえば、私は失格、勝ち負けの舞台にすら立つことは許されない。
前にはデッドライン、後ろにはライバル。終わるその時まで、その間に挟まれなければならない。仮に突然追い風が吹いたとしても。つまりどれだけライバルと競り合ったとしても、最後は結局自分との戦いなんだ。
どのタイミングで、ブレーキを入れればいい? 時間の流れが、ゆっくりになる。
「《スラスト・リバース》!」
足を止める。モーターが回りだして、そしてブレーキシューが車輪を捕まえて、スピードを熱に変えてゆく。
足元から火花が散る。逆流してきたエネルギーが、ただでさえ昂ぶっていた私の気持ちを更にハイへと押し上げる。
――私だ。私を見ろ。私だけを見ろ。もはやこの線路の上は私だけの世界。そこにはもう、あとに続くパノラマメイデン号は存在しないも同義。世界中の者は、カツタダイスカイというノリモンを、存在をその目に焼き付けろ。
勝利特急、カツタダイスカイを!
目を瞑る。もう、前を視る必要はない。車輪がどれだけ回っているのか、それだけを感じ取るために。
そして、観客の悲鳴のような、歓声のような、そんな雄叫びが耳に入ってきた。次に私は、自分がもう動いていないことに気がついた。
目を開けて、左横を見る。停止位置目標――デッドラインを知らせる標識が、私の真横に立っていた。
「それは酷いことをしたね?」
「反省しております」
ライスシャワァは謝罪した。彼女がカツタダイスカイに対して、衝動的に祝福を与えようとしたことについてだ。
「シャワァもこう言ってるし、結局は祝福は与えられなかったんだからそのくらいで」
「……まぁ、ブゥケに免じて許すよ。君が過去に乗せている『天気図』を守れなかったことは聞いてるからね」
「寛大なお心に感謝いたします」
「だけど」
その言葉に、頭を下げたままのシャワァの体はビクリと震えた。
「どうして君が祝福を与えられなかったのか、それは気にならない?」
「気にならない、といえば偽りとなります」
「それはね、彼女には
必要がない、とは?
そんな疑問に釣られて、シャワァを顔を上げた。すると目に入ったのは、謝罪していたシャワァに向けられていたはずの視線が、既にそこから外れて小さな長方形の紙に向けられている姿だ。
「興味深い子だね、あの子は。私が出るまでもなく、根源に近づいている。でもそれは彼女だからだ。だからこそ、彼女は強いんだろうね」
そう言うと、Cyclopedは手に持つカツタのブロマイドへから視線を外した。
「ロペ様、それは――」
「大井競馬場前で会って、
そして、ロペは優しく微笑んだ。
「取られてしまったな、前面の展望を」
控室の中で、パノラマメイデン号がそう話しかけてくる。
「だけど不思議と、嫌な気持ちじゃなかったぞ」
「それって褒めてるの?」
「当たり前だろう。こっちだって、全力を出し切った。それで負けて、しかも先着した相手がデッドラインギリギリまで詰めていただなんて、負けた私からしても納得のいくものだ」
悔しくない訳では無いがね。彼はそう言って笑った。
私のゴールは、写真判定の結果デッドラインを完全には超えていなかったことが認められた。つまり、私が勝ったって事だった。
まだ、頭が回ってないのか、それとも疲れているのか、実感は湧いてはいないんだけど。
「スタミナ切らした後に粘られて抜かされるとは思わなかったが。よく諦めなかったな」
「そりゃ、だって。人間には車輪なんてついてないのに走ってるじゃん。サク姉ぇが人間が好きでさ、一緒になって色々見てたんだよね」
「それが活きた、ってことか。面白いな」
「面白い、かなぁ?」
「うん。私達ノリモンが人間の姿をしているのも、そういうものだと思っていたけれど、そう考えると急に興味深くなってきたぞ」
そう言って、パノラマメイデン号は笑った。それにつられて、私も笑った。そうしたら、なんだかスッキリして、気分が良くなった、ような気がした。
【シャチホコGC】カツタダイスカイ、G1に王手
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東笠松駅跡で抜け出し、先頭を奪い取ったカツタダイスカイ(左)(記者撮影)
◆シャチホコゴールドカップ(57M75C、23日)
G1到達にはもう後がないカツタダイスカイ。前走までの連敗もあり注目されていた彼女が、ここ2戦の様子も嘘のように快走し優勝を手にした。
序盤、まず抜け出したのはこの名古屋本線が地盤、パノラマメイデン。悠々とペースを作り上げるも、後続を引き離すことはできずにいた。
その後続集団の中にいたのがカツタダイスカイだ。知立のS字カーブで箕面記念を彷彿とさせる転線を駆使した突破を見せると集団の選手をゴボウ抜き、一気にパノラマメイデンに迫った。
しかしここで終わらないのがG1経験者の意地というもの。引き付けたカツタダイスカイの心を折るかのように伸びを繰り返し、中盤は膠着状態が続く。
展開が再び動き出したのは二ツ杁だ。パノラマメイデンのペース崩しにも諦めず、最終盤に向けたラストスパート。それに全速力でパノラマメイデンは応えるも、最後の最後の粘りが足りなかったのか笠松にて勝負は決着し、カツタダイスカイが先着となった。
このレースの結果を以てカツタダイスカイはSPがついに90に到達。来月のレースで優勝すれば今期累積積算SPが100に到達し、G1ステイタスに手が届くことになる。「もちろん、それを目指さないなんてことはありえない」と語ったカツタダイスカイの目は情熱、いや勝熱に溢れており、来月のレースからは目が離せなさそうだ。
【鵯越HC】ポーラーエクリプス、衝撃のデビューラン
【箱根路S】中距離に帰還のナリタエクスプレスはやっぱり強かった
【芝山SR杯】他を寄せ付けぬ記録、メカマセンゾクが達成
【高尾山オータムT】秋の高尾に響くデンエントシスズカケ
【南紀白浜きのくにC】スカーレットセイロン、取り戻した展望
カツタダイスカイ号 今期の成績
| 1月2日 | 成田山初夢杯 | 1着 | 標034M25C | (スカーレットセイロン) |
| 2月21日 | 名阪PYDS | 1着 | 標116M00C | (ナラビスタ) |
| 3月28日 | 胆振最速決定戦4R | 1着 | 狭095M20C | (Ozark State Zephyr) |
| 4月3日 | 青春18杯(春) | 2着 | 狭694M00C | ビシャスオサナジミ |
| 5月22日 | 皐月杯 | 1着 | 狭108M65C | (ナリタエクスプレス) |
| 6月12日 | 五月雨賞 | 1着 | 馬027M55C | (メジロプラトー) |
| 7月17日 | 国交デーC | 1着 | 狭048M40C | (シナノグリーン) |
| 8月27日 | 箕面記念 | 1着 | 標015M15C | (アシガラ) |
| 9月18日 | モノレールC | 2着 | 単011M00C | ナンコウスミノエ |
| 10月2日 | 白百合S | 6着 | 狭051M20C | ナマラシロイヤ |
| 11月23日 | シャチホコGC | 1着 | 狭057M75C | (パノラマメイデン) |
| 勝利回数 | 8回 | 獲得SP | 90 | |
| ステイタス | G2 | 前期ステイタス | G2 | |