クリスマス
エクスプレス杯
関西レースの1年の総決算、聖なる夜のナイターレース。それがこのクリスマスエクスプレス杯だ。
先月の頭からこの総決算のレースに出る事をSNSで宣言していただけあって、私の
アオキジェット。シャトルラン無敗王者。
アカイミドリ。パラドキシカル・サガの異名で知られてる。
ウェストブライト。蘇りし
カツタダイスカイ。――私だ。
カラーテレビジョン。ここが地盤のランドロード。
キューカンバーヒカリ。フレッシュグリーンの侵略者。
ナラビスタ。長年君臨し続ける関西の中長距離功者。
ナリタエクスプレス。私の一番のライバル。
ナンプウメモリアル。一桁世代のニュースター。
ノーザンフィールド。強豪チーム【一体、陣馬】のエース。
ノゾミタキオン。ひかりよりも速い
ヒタチネモフィラ。タキシードボディのすごいヤツ。
以上、12名。例年からレベルの高いレースになることで知られているこのレースも、今年は更に豪華な面子が揃っているとのことで、深夜帯の開催にも関わらず沿線は大盛りあがりになっているらしい。
「今年こそ、手が届くところまで行っちまったんだな」
出町柳のホームの上で、エクスプがそう声をかけてきた。意外にも、彼はいつもよりも――レースの時だけじゃなく、休日に会うときよりも――リラックスしている様子だった。
「手が届くところなんかじゃない」
「諦めたのか?」
「まさか。手にするって言ってる」
それが何のことを指しているのかは、言わなくても分かりきっていた。
「始まる、か」
大阪、京橋駅。このレースのゴールであるこの駅でヒカリエターナルはスタートの様子を中継でうかがっていた。
「……タキオン」
『なんだよ』
「手は抜くな」
『当たり前だろうが。ただでさえこのカーブの多い線路条件はカツタの方が有利なんだ。手なんて抜いてられっかよ』
そのノゾミタキオンからの無線を受けて、エターナルはフフッと笑う。
その結末は、エターナルも望んでいたものだった。ゆえにいざそれが目前で達成されようとするとなれば、彼であろうと興奮を抑えることなど難しいものなのである。
(来るがいい、カツタダイスカイ号。我らと同じG1の高みへとな。簡単なものだとは当然言わぬが、しかし貴様に超えることのできぬ壁でもないわ!)
入線してしばらくすれば、モーツァルトの『フィガロの結婚』の音楽が流れはじめる。
それと同時に、私の視界はキュッと前だけに狭まって、そしてその中のものがよりきめ細やかに映る。
そう、レースがはじまるんだ。
2度目のメロディが鳴り止む。スタート。
七条までの地下区間は差がつきにくいから軽く流して前の選手についていく。七条の出発信号をこえたところが、事実上のスタート……の、はずだった。
「げ、あの莫迦行きやがった!」
タキオンさんの叫ぶ声が聞こえる。
エクスプだ。先頭にアサインされたエクスプがいきなり逃げをうち、全力で加速を始めたんだ。そしてそれに競り合うように、反対側の線路でもアオキジェット号が強引な加速で前へと引っ張ってゆく。
普段から単騎のカマシを決めて他の選手を支配してくるエクスプのこの走り。私としては慣れっこで、だいたいいつも中盤になるとモーターを切り、足だけで動いて速度がやや落ちることもわかってる。だけど、慣れてない選手にとっては訳がわからないようで。
恨めしそうな声色で、とんでもない暴言が飛んできた。
「ラビットか……そこまでするかカツタダイスカイ!」
「は?」
……おい。
今、なんて言った?
「ラビットだって? エクスプを侮辱しないでよ」
真後ろから聞こえたその声に、反論するように威圧感を飛ばす。
エクスプは、強いんだ。単騎で逃げて、そしてそのままゴールまで逃げ切る。それがかなわないレースがいくつあったとしても、きちんとそれで勝利を重ねてきたレースだってたくさんあるのがナリタエクスプレスという選手なんだ。
それをあろうことか、自分自身の勝利は狙わないラビット呼ばわりだって? ふざけてる。
「エクスプはラビットじゃない。ラピッドだ、リミテッドエクスプレスだ! 彼自身、勝ちを狙ってないとでも思ってるの?」
決めた。
このカラーテレビジョン号には必ず先着する。仮に一着はとれなかったとしても。
神宮丸太町の駅を横に見ながら、私は強く決意した。
むかしから、走ることが大好きだった。
海外からやってくるお客さんを、海外へと飛び立つお客さんを乗せて、毎日走っていたあの日々。
そして、空港でだけ顔を合わせる、因縁のライバル。彼女たちと競って、お客さんにより自分達を選んでもらう――そんな楽しかった日々。
だけどそんな日々は、ある日終わりを迎えた。
後輩に線路を譲り、ラストランを迎え――そして、車としての生涯を終えたあの日。俺はこの姿を得て、ナリタエクスプレスという名は俺固有のものになった。
そしてあの日々のように競い合えることを願って入ったこのレールレースの世界。だけどその日々は、思っていたよりも退屈だった。
そんな中だった。車の頃からライバルだったお前がまた、俺と競い合う関係に追ってきたのは。
お前がやってきてからの日々は楽しかった。同じレースに出る頻度は決して多くはなかったが、そのレースは他のどんなレースよりも満ち足りていたんだよ。
最初の頃は、いつも俺が先着していた。だが時を経るに連れて俺が早くなるよりも速く、お前は疾くなって、そしていつの間にか追い越されていた。追い越されて、そして俺の手の届かないところに進んでいこうとしている。それが今日のこのレースだ。
だけど、な。
「お前だけを、先には行かせない。京橋まで、絶対に逃げ切ってやる」
だから。
――覚悟しろよ。カツタダイスカイ!
七条を出て地上に上がれば、本格的な転線や追越が始まりレースは本格化する。ここから全開バトルの始まりだ!
とはいえ、いきなり思い通りに走れるわけじゃない。ここの線路は
そんな中を、エクスプの作った速いペースに集団で食らいついていく。すこしでも気を抜いたら、脱線してしまうようなスピードで! こんなの、カーブが一段落した
しかも龍谷大前深草を過ぎたからと言って、左右のカーブは収まっても上下のカーブが襲いかかってくる。正直なところ、車輪が無意識に線路から外れてしまう上下のカーブは、左右のそれよりもよっぽどキツい。
だけど。
ここで突き放されたら、追いつけなくなっちゃう。確信はないけど、そんな気がしている。みんながみんなそう感じているからこそ、誰も速度を落とすことができないでいるんだ。
「ノーフィーは勝てると思う?」
「可能性はゼロではなかろう」
チーム【一体、陣馬】は関東を中心に活躍する強豪チームだ。そのチームメンバーのヤマダ、メジロプラトー、ギャップの3名は、中継でチームメイトのノーザンフィールドの健闘を見守っていた。
たしかに、かつてG1にまで辿り着いたノーフィーが健闘せずに敗退するとは考えにくい。だがしかし、今日のこのレースの顔ぶりは有力者ばかりなのだ。
「メロはどう思う?」
「明らかに、カツタは強い。負けるかも」
「えらくカツタダイスカイ号を評価するではないか」
「それはそう。SP90は伊達じゃない」
諸外国、それこそ欧州のように有力チームがカルテル組んで出るレースを調整し、有力選手同士が当たることがめったにないのとは違って、普通に有力者同士で潰し合うのが日本のレースの現状だ。そんな混沌の中でこのレースに勝てばG1到達まで辿り着いている事自体が、カツタダイスカイ号の強さの裏付けにもなっている。それがメロの考えだった
「むしろミストにとって想定外だったのは、カツタダイスカイ号以外の有力選手がわらわらとあつまって来たことだろうよ。果たして5位圏内に入れるかな」
カツタダイスカイ号の参戦に敬遠して、他の選手が逃げる。それが故に2着以上を難なく取れる……それがシルバーコレクターたるヘミストレージの考えで、それをもとにノーフィーを送り込んだのだ。
だが、現実はといえば。ノーフィー意外にもノゾミタキオン号やナラビスタ号などの有力選手が集まる始末。
「……健闘を祈ろう」
そして3名は、モニターへと視線を戻した。
ここまでは1マイルと経たずに次の駅がやってくる。だけどここからは急に駅間が広がって、中書島と次の
その駅間のイメージとは裏腹に、この区間のアップダウンは思ったよりも少ない。それもそのはず、ここに駅がないのは水害地帯で人口が少ないからだ。裏を返せば、水害が発生してすぐに洪水が広がっちゃうような、そんな平べったい地面が続いてるってこと。
つまり、とっても走りやすく、スピードを出しやすいんだ。
だけど忘れちゃいけない。そもそもこのレース、エクスプが莫迦みたいに引っ張ってくれているおかげで!もともとペースが速い。その速いペースが更に加速したら?
コーナーがあんまり得意じゃない選手がいたら気づけていたかもしれない。私達は、あまりにも危険な速度までスピードを上げていた。
それに私達が気がつくことができたのは、淀駅の手前まで走ってからだった。
淀の高架駅に上がるための登り坂。その終わりは、左コーナーの中にあったんだ。
スピードがでている状態で登り坂が終わる。それが何を意味するかって? 愚問だよね。
スキージャンプめいて、飛び出してしまう。何も対策しなければ。
そしてそれが直線の上なら、浮いている間加減速がままならない程度で済む。だけど淀の坂の終わりはコーナーにある。つまり。
「しまっ……!」
私の右で、キューカンバーヒカリ号が線路から逸脱し、脱線してしまった。ここで脱線してしまったということは、リスタートするには中書島まで戻らなきゃいけない。継続するのだとしたら、とんでもないロスだ。
「フッ……。淀の魔物に召されたか」
前を走るカラーテレビジョン号がそう呟いた。
だけど、魔物に召されたのはキューカンバーヒカリ号だけじゃなかった。
淀駅を駆け抜けたあと、この高架を作るより前に作られた道路の陸橋をくぐるために、急勾配で坂を駆け下りることになる。
下り坂っていうのは想像以上に厄介なもので、ただただ単純に加速に使える便利な地形ってワケじゃない。加速に使える、じゃなくって
しかもこのハイペースと来たもんだ。何が起こるかなんて、想像なんてできやしなかったんだ。
突然、前の方から爆発音が響いた。
前を走る選手たちが次々と不本意に転線して、私もそれに続く。走るはずだった線路の上で燃えているそれは、人の形をしていた。
抜き去り際に、それが何なのかを確認することができた。足元のモーターが爆ぜて吹っ飛んだアオキジェット号だった。
爆発するなんて、恐ろしい故障だ。あの感じからするに、スピードの出し過ぎでモーターに過負荷がかかって発熱して強度が落ちてる。さらにそこにハイスピードと下り坂で粘着力の落ちた車輪に大出力を突っ込んで空転して、それで回転数が限界を超えて遠心力に耐えられなくなって中から木っ端微塵ってとこじゃないかな?
アオキジェット号が無事だといいけど……。そう心配しながら、私はまた堤防へと上がる坂を駆け上って先を急いだ。
『ご案内いたします、只今の状況ですが、淀〜石清水八幡宮間におきましてアオキジェット号、故障のため競走中止との情報が入っております。繰り返します……』
淀のホームは、突然響いた爆発音に混乱していた。そんな中で独り、状況を冷静に分析できていた者がいた。
(限界を超えるほどまで力を出し切って壊れちゃう。懐かしいね、床板を突き破ったあの日みたい)
紫色の帽子を深く被り、根源の女神Cyclopedはそれが起きた方を見つめる。
(日本のレースは、勝利に固執するがあまり英国紳士・淑女達が失ったものを持ち続けてくれてる。ニュートン・エイクリフでそれを教えてくれた彼には感謝しないと。それに……)
カツタダイスカイ。小さな声で、その名前を口に出した。
あの日、大井競馬場前でその芯を貫いた彼女の姿に、Cyclopedは興味を持った。そしてライスシャワァが与えようとした祝福を拒否したという情報もその興味を加速させた。
そして今、もう一度このレースで鎬を削る彼女の姿を間近で目にして、Cyclopedはもしやと思った。
すみれ色のロングスカートの中で、彼女の尻尾はゆらゆらと揺れていた。
右カーブを曲がりながら宇治川、木津川を超えればすぐに石清水八幡宮駅に差し掛かる。このおたりは石清水八幡宮のある男山と木津川に挟まれてカーブが続いてる。
……わかった。ここが仕掛けどころだ。誰から言われるまでもなく、そうわかった。ここで行かなきゃ、エクスプに追いつけない!
「なっ……! このカーブの中で、気でも狂ったのか!?」
「正気のままで、走れる訳がないでしょうが!」
箕面記念のときから、何度も試行錯誤を繰り返して、ついに完成させたこの『
「なっ……貴様」
驚くような声色で、カラーテレビジョン号は転線した私を見た。思えば、ここまでここがホームコースの彼の後ろにつけていられたのはとても幸運なことだったと思う。
だけど、これはレースなんだ。最終的に全員追い越す。それが彼には、このタイミングだったってだけ。それに……。
「悪いけど。始まったときから、あなただけは抜くって決めてたから」
そう言い残して、スタートからずっと前にいたカラーテレビジョン号を抜き去る。そして橋本駅を過ぎて、レースは大阪府内へと駒を進めてゆく。
さぁ、ぶっ飛ばすよ。
「来たね、カツタ。いいぞ、そのまま行くんだ」
武豊生路は、かつての教え子の姿を中継映像で観戦していた。G1への挑戦――教え子が栄光を手にする様を見届けるのは、師にとってこれ以上にない幸せだからだ。
その横で並んで画面を覗く者がもう1人。名松一志である。彼は本来【
「この場面でエクスプさんとの差が1マイル……行けるっすよ、カツタさん!」
「コーナリングとブレーキングのスキルで言ったら、お前は世界でもトップクラスの実力――それこそ、エターナルに勝るとも劣らないものを持ってる。これだけコーナーだらけのこの路線、存分に暴れて見せてくれよ」
そう言いながら、武豊は自らの長いトレイナーとしてのキャリアを振り返る。彼が指導した中でいちばん優秀なノリモンこそヒカリエターナルであることは揺るがなかったが、当時からカツタダイスカイはその次くらいには目を引くものがあった。
そして、その目は間違いではなかった。それが今、証明されようとしているかもしれないのだ。G1という、最上級のステイタスによって。
「行け。行くんだカツタ!」
「伝説を、見せてくださいっす!」
至る所にカーブがあった京都府内と違って、大阪府内のカーブの頻度は幾分か少ない。それでもカーブだらけだけど!
でも、この程度の曲線! 車だった頃に攻めていたあの10チェーンカーブに比べりゃどうってこと、ない!
そのまま、右。
そして
萱島まではあと4駅、5マイル。ここでがんばらなくちゃ、いつ頑張るんだっていうんだ!
私の体を青い光が包んで
体が、軽い。行ける。
……そろそろ行くか。
ノゾミタキオンは心の中でそう呟いた。
曲線の多いこのコースは、タキオンにとって得意なコースではなかった。
それでもこのレースに彼女が出たのには意味がある。それはこのレースでG1に手が届く可能性のある者で、なおかつ彼女と歳の近い者がいたからに他ならない。
「さぁ、見せてもらおうかカツタダイスカイ号。G1にその手を届かせんとするお前の『走り』ってヤツをなぁ!」
――楽に勝てると思ったら大間違いだ。【
これは私の持論だけれど、こういう高速区間では差はむしろつきにくい。さっきまでのカーブの多い区間なんかをどれだけ速度を殺さずに突破できるかのほうが重要だと思う。
それに、この高速区間に入る速度が速いということは、そこからの加速をするぶんにもそこでのアドバンテージがある。だから石清水八幡宮から抜け出しておく必要があったんだよね。
複々線区間に入って、そのまま上り急行線、右から2番目の線路に入線する。一番右じゃないからこそ追い越され義務もないし、いざとなったらその線路にも反対側にも移れるここがいちばんスムーズだ。
そして、古川橋のコーナーを抜けたところで、ようやく
エクスプの後ろ、私との間にいるのももうナンプウメモリアルとノーザンフィールドだけ。もう前はがら空きだ。今日の私は調子がいい。派手に行ってやる。ゴー!
『
「カツタさん……」
数年ぶりのG1への到達がみられるかもしれないこのクリスマスエクスプレス杯。深夜であるにも関わらず、ライブ中継の同時接続数は異例の数字に到達しようとしていた。ナマラシロイヤもまた、その数字を増加させた者のうちの1名だ。
「やはり貴女の背中は、遥か遠くにあるかと。目標、追わせていただきます」
ロイヤが憧れて追ってきた背中。その一度追いついたかのようにも見えた背中は今、また遥か遠くに旅立とうとしている。それはロイヤの新たなる目標となり、そして彼女の成長の糧となる。
――だから。
「応援。勝利をその手に」
ロイヤはそう願った。
……来る。
それは後ろなんかを見なくてもわかった。そうだよね、そうは甘くないよね。
――ね、タキオンさん!
最後の最後にあるこの直線。直線というのはこんなにも走りやすいものなのかと思う一方で、既に最高速で追っているにも関わらず粘る前と追い上げてくる背中への気配は、私に冷や汗をかかせるのには十分だった。
逃げながら、追いかける。どちらもスピードを出すということに変わりはない。口で言うのは簡単なことだ。
近づいている。前も、後ろも!
そして、
こっちの方を見るエクスプ。一瞬だけ目が合った。そこに言葉はいらない。
それと同時に、私達の間、下り急行線にはタキオンさんが並びかけてくる。最高速は明らかにタキオンさんが速い!
だけど! これはレースなんだ! どんなに速く走れたって、それだけじゃダメなんだ。
――関目。
タキオンさんの向こうで、エクスプが粘る。私も粘ってる。もうゴールはすぐそこ。
「があぁぁぁあぁぁあぁっ!」
「うおおぉぉおぅ!」
「ハァァァァッ!」
言葉にならない雄叫びが、それぞれの首元から上がる。もはや誰が一番前に出ているかなんて、確認している余裕もない。最初に突っ込んで、そして、
――だから。
「《スラスト・リバース》ゥゥッ!」
ブレーキをかけながら、青い光が体を包む。強烈な逆噴射が私を後ろへと推している。
減速しながら競り合う私達。だけど、まだゴールまでは若干の距離がある。減速が早ければ先行され、遅ければデッドラインを超える――最後は、自分の選んだタイミングが他の2名よりも正しかったことを願うしかない。
そして、私達は京橋駅に入線した。
――勝った。
朧げながら、だけどたしかにそう確認した。そして大地を揺るがしながら、私は急速にスピードを落として止まった。
「4年ぶりのG1到達。お見事と言えましょう」
ライスシャワァの覗く画面の端には、カツタダイスカイがこのレースで優勝したことを示す印が光っていた。
「そうだね。彼女には勇気をもらったんだ。私達も頑張らないと」
「えぇ。次はブゥケ、貴女の番ですよ」
「うん。さぁはじめよう、
ブゥケトスは机の上に用意された鐘を仕舞った。
スピードを落とし切って止まってから、しばらく私はその場から動けなかった。自分を含めて、世界の全てが止まっているようにも感じられた。
いや、本当に止まっていたのかもしれない。観客がいっぱいいるはずの京橋の駅は嘘のように静かだった。
――あぁ、そうか。
きっと、私を待っていたんだ。勝利特急、カツタダイスカイを。
そう思って、真上――だと思う方――へと左腕を伸ばし、そして人差し指を立てた。
瞬間。
耳を貫くかのような歓声が、堰を切ったようになだれ込む。
そして、デッドラインの先、
「おめでとう。それと、ようこそG1ステイタスホルダーへ。カツタダイスカイ号。我々は君を歓迎し、そして感謝しよう」
顔をあげると、エタさんが私の方に手を伸ばしていた。それをとると、もう一度歓声が大きく響いたのだった。
【XmasEXP杯】大快挙!カツタダイスカイが国内4年ぶりとなるG1ステイタスを獲得
|
|
追い上げに入り大和田駅のコーナーを駆け抜けるカツタダイスカイ(記者撮影)
◆クリスマスエクスプレス杯(30M15C、25日)
クリスマスの早朝に行なわれる伝統のナイターレースは12名で争われ、ここで勝てばG1ステイタスの獲得となるカツタダイスカイが激戦を制し優勝した。
事前の予想ではカツタダイスカイを中心にレース展開が動くとの見方が強かった。しかし序盤にナリタエクスプレスが一気に前に出ると、彼に引っ張られるように全体のペースが上がりハイペースな戦いとなる。その異例なハイペースによりキューカンバーヒカリ、アオキジェット、アカイミドリが次々にリタイアする波乱の展開となった。
そのナリタエクスプレスは果敢に逃げ、後続すらも突き放し始めこれは決まったかと思われたが、最終直線に入りここで後ろから飛んできたのがカツタダイスカイとノゾミタキオン。しかしナリタエクスプレスも譲らない、最後の最後で粘りを見せ、勝負はゴール前のブレーキ合戦に。そこで勝利の女神が微笑んだのは、鮮やかな逆噴射を最後まで温存していたカツタダイスカイだった。
この勝利でカツタダイスカイは今期累積積算SPが100に到達し、2017年のトライゼット以来4年ぶりとなるG1ステイタスを獲得。「途中心が折れそうになったときもあったけど、最後まで諦めずに頑張ることができたからこそ手が届いた。応援してくれたファンの皆さんには感謝の意を示したい」と報道陣の質問に笑顔で答えた。
【シンデレラ杯】アサヒスーパーレラが混戦制す
【上皇賞】期待通りにビシャスオシャナジミが快走快勝
【師走杯】エイトプリンシスが大差で圧勝も「なぜかわからない」
【ジルコンS】ハイロマンスが異例の逃げ切り勝ち
【桜島賞】最後に笑ったのはキリフリだった
「
「
『
「
シモンは微笑んだ。これでようやく、日本にも役者たりうる者が揃ったのだと。しかもその役者を集めたレースまでもをエターナルが用意してくれるというオマケつきで。
「
『
「
そう答えて、シモンはニヤリと笑った。
カツタダイスカイ号 今期の成績
| 1月2日 | 成田山初夢杯 | 1着 | 標034M25C | (スカーレットセイロン) |
| 2月21日 | 名阪PYDS | 1着 | 標116M00C | (ナラビスタ) |
| 3月28日 | 胆振最速決定戦4R | 1着 | 狭095M20C | (Ozark State Zephyr) |
| 4月3日 | 青春18杯(春) | 2着 | 狭694M00C | ビシャスオサナジミ |
| 5月22日 | 皐月杯 | 1着 | 狭108M65C | (ナリタエクスプレス) |
| 6月12日 | 五月雨賞 | 1着 | 馬027M55C | (メジロプラトー) |
| 7月17日 | 国交デーC | 1着 | 狭048M40C | (シナノグリーン) |
| 8月27日 | 箕面記念 | 1着 | 標015M15C | (アシガラ) |
| 9月18日 | モノレールC | 2着 | 単011M00C | ナンコウスミノエ |
| 10月2日 | 白百合S | 6着 | 狭051M20C | ナマラシロイヤ |
| 11月23日 | シャチホコGC | 1着 | 狭057M75C | (パノラマメイデン) |
| 12月25日 | XmasEXP杯 | 1着 | 標030M15C | (ノゾミタキオン) |
| 勝利回数 | 9回 | 獲得SP | 100 | |
| ステイタス | G1 | 前期ステイタス | G2 | |
【あとがき】
本編第四章が完結し、五章のための資料集めのために本編の更新を一時休止にせざるを得ない中、Twitterのおすすめツイートに流れてきたこの『毎週更新・一クール小説杯』の告知。それを見て、「これだ!」と思い突撃し、全12回の更新を重ねてきたこの3ヶ月。短い期間ではありましたが、緊張感をもって執筆し、無事完結に至ることができました。
本編を書き始めたときは全く予定になかったのに、プロットを進めている作業中にオリンピックのロードレースやら電車でDのRTAやらを見てあっという間にルールができてしまった『レールレース』。それだけで番外編を書ききれるのかは見切り発車な部分も多かったのですが、それでもやってみれば意外とどうにかなるもので、私自身気づきと学びがかなりありました。これを本編の方にも続けて生かしていければと思います。
最後に、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
「おめでとう、カツタ」
「ありがとう。そして、待ってるよ、エクスプ」