カカン、カカンと心地よい鉄の音が響く。
その音を立てているのは、レールレースを知っているなら知らない者はいない、白と紺のノリモン。
そしてそんな彼の真横で走っている、アップルグリーンの髪と装いに身を包んだノリモン――それは本来ならばエターナルの横にはいないはずのノリモンだった。
彼女の名は、
どうしてこの2名が隣にいるのか? それはこの空間がメタ・バース空間だからだ。最新鋭の超次元科学によりモヤイを通じて同時接続しているのである。彼らの姿もまた素晴らしい超次元コンピューターグラフィックスによって描画され、電子的に作られた仮想現実のトラックの上を駆けているのだ。
「ヒカリエターナル号。あなたに伝えなければならないことがある」
1恒河沙にも及ぶ膨大なデータを学習したAIにより、シモンの発した言葉は即座に英語から日本語へと翻訳され、そして彼女の声色の音声データがエターナルのもとに届く。
「日本のレースは問題を抱えている」
「貴様になど言われなくともわかっている。この俺が何もしていないとでも思うのか?」
「フッ」
シモンは不気味に微笑んだ。続く言葉は、エターナルにいくつかの悩みの種を植え付け、そしていくばくかの焦燥感を与えるのには十分すぎる言葉だった。
そもそも、SPは1レースにつき同着でもない限り全員合わせて21しか付与されない。日本ではだいたい10名以上の選手が参加するにもかかわらず、ね。それに、付与されるのだって5位までに入った者だけなのだ。それ未満の選手には、1点すら入らない。最低でも点が入れば付与されるG5のステイタスにすら届かない子だって、少なくはないんだ。
その点で言えば、自慢じゃないけど私は一握りのエリートの方に分類される。デビューランからしてこの世界の先輩たちの中で3位に入ることができてたというのも、そもそも上出来な戦績なんだ。
閑話休題。
それで、G3の防衛に成功した私は、ありがたいことにレース以外でもお仕事のお声がけを貰ったりすることが少なくはないんだ。
例えば、商品の宣伝のポスターやMVなんかに出てほしいって言われたり、あるいは今日のようにイベントに呼ばれたりね。
299 りつぶやき 35 件の引用 233 いいね
東京都小平市小川西町、日本ノリモン研究開発機構、通称JRN。
日曜日にも関わらず研究を進めるっていうナリ姉ぇと一緒に、私はここの門を潜っていた。
……というのも、富士見祭は成立ちからしてJRNが協力して行われてる。だから出演者である私達の控室も近くにあるこっちにあって、それでJRNの持ってるバスに乗って会場入りすることになってるんだそうだ。
姉さんと別れて、予め伝えられていた建物の方に行くと、そこで見知った顔と、そして懐かしい顔に会うことになった。
「おはようございます、今日はよろしくお願……って」
「久しいねカツタ。元気にしていたかい? ……いや、聞くまでもないか」
「と、トレイナー!? どうして……」
いや、どうしても何も。昔私が面倒を見てもらってた生路トレイナーは、今でもJRNで仕事をしてる。それだけの話なんだけど……。
「あの、ユニットの仕事とかは……」
「うん? あぁ。前々から教官の方をやってくれないかってお誘いは受けていてね……」
現場でバリバリにクィムガンの対応にあたってたトレイナーももう50代も折り返し。身体の衰えにも備えなきゃいけないし、それに若い世代にも活躍の場を与えたほうがいいってことで、代わりの良さげな後釜を見つけてから先月末に現場の方を引退したらしい。それで今はこういったイベントの手伝いの方にも、とのこと。
「富士見祭は学園出身の私にとっては特別な催しだからね。今までも非番だったりした時には手伝っていたよ」
「えっ、あの貴重なお休みを……?」
「それほど大事なものなんだよ。そんな富士見祭に君が来てくれたことは、とてもありがたいと思っているよ。さ、控室についたし準備とかぎ装のチェックとか、ばっちり宜しく頼むよ?」
そう言って、あの頃と変わりのない少しぎこちない笑顔で私を控室の中へと案内すると、他の子の案内があるからと建物の入口の方へと戻っていった。
控室――いや、転用された講義室は、あの頃のまんまだった。懐かしいな、と思いながらぎ装を広げて、汚れや埃がないかをチェックする。うん、ピッカピカの状態だ。車輪だけはレースでは使わないような摩耗して径が小さくなった*1やつだけど……。それから、トークショーの原稿の最終確認――といっても、大まかな流れだけでかなりアドリブな部分も多かった――もね。
それらが一通り終わって、一息ついてからSNSを確認して、そしてさらに一息ついた頃。他のスタッフさんに呼ばれて、他の出演者と一緒にバスに乗り込んだ。
事前に聞かされていた通り、共演者たちはだいたいが知っている顔だった。マツモトアズサ号、ビシャスオサナジミ号、ナンプウメモリアル号、ハイロマンス号。唯一初めましてのはずだったナマラシロイヤ号はデビューしたばかりで、何でもいきなり1位に入った有望株だと聞いてる、んだけど……。
「あれ、胆速のときの……」
「肯定。先導等をしておりました」
やっぱり。どうも見覚えのある子だと思ったら、あのときのスタッフさんか。どうやら、いつの間にかレールレースの世界に選手として入ってきていたらしい。
「感謝。あのレースが私をこの世界に
……そう直球に言われると、なんだかこそばゆいような。でも、私を追ってきてくれる子がいるっていうのは、純粋に嬉しい。それ自体が私を前へと進ませてくれる力になるから。
「そっか、一緒に走れるのを楽しみにしてるよ」
きっとこの子は強い。それは今、対面していても感じられたことだった。
……私も、気を引き締めないとね。そう思ったところで、バスは会場に到着した。
特設ステージの裏ですら、にぎやかな様子を見せる舞台の向こう側の熱気が伝わってくる。当然、ステージの上の司会の方に呼ばれるまではここで待たなきゃいけないんだけれど、なんとももどかしい時間だ。
そう浮足立っていると、スタッフさんからもうすぐだというアイコンタクトが飛んでくる。
『それでは、本日の特別ゲストの方をご紹介しましょう! 現役レールレーサー、一桁世代の皆様です!』
行って行ってとジェスチャーで伝えてくるスタッフさんを横目に、6名でステージに上がる。
ステージの上から見る景色は、ホームの上の観客達が私達を見逃さないように目を凝らしているいつもとはまったく逆の景色で、視界いっぱいの観客達がこっちを見ているのがよくわかる。でも、悪くはないかな。
そう思いながら、指定された席にかける。『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』とニーチェは言ったけれど、こうやって高揚しているファンの方たちを見ると高揚してしまう自分がいる。
そして、トークショーがはじまった。
まずはここにいる全員の軽い紹介のあと、事前に受け付けていた質問のコーナー。と言っても、ベタな質問にフリップに書いて答えて、そして司会者がそれにコメントをしたり話を聞いたりする形だ。
例えば、『今までで一番思い出深いレースは?』といった質問には――。
『そうですよね、ロイヤさんはまぁそのレースですよね』
「当然。それ以外あり得ません」
『そりゃまだ1戦しかしていませんからね! そーしーて、おっとマーサさん。一昨年の武蔵野線24時間耐久*2ですか。その心は?』
「やっぱりね、初めて優勝したレースってのは、そりゃ思い出深いですよ。その次の期でG3に到達したって言ってもね、僕の心に残ってるのはこの24耐」
……とまあ、こんな感じで。他には注目してる選手や、走ってみたいレースについて聞かれたりと、わりと和やかな時間が続く。その質疑応答のあとにちょっとしたレクリエーションがあって、最後にその場でのちょっとした個別インタビューで〆る形だ。
正直、難しいことを聞かれるようなところでもないし、それに台本だって事前に用意していたから、ステージの下のファンの方たちの反応も楽しみながら、気楽に考えてたんだけど……。そうはいかないのが常なもので。最後のインタビューのときのことだった。
「カツタダイスカイ号は今期でのG1の獲得を目指していると伺っていますが」
「現状半分残してすでにG3防衛できてるので、頑張れば行けると思っています」
ここまではまあ、想定もできた普通の質問だった。
だけどその質問にそう返すと、インタビュアーさんは今度はマイクの先を別の方へと向けたんだ。
「……とのことですが。G1経験のあるお二方はどう思われますか?」
「大丈夫だと思いますわ。私がG1に到達したときはたしか46でしたから」
「ナジミさんもそう思うわ。ちょうどこの前18
そう2名は私の発言を肯定した。
……うん。否定されるよりははるかにマシだけど、これはこれでなんというか、プレッシャーが……。
「なるほど、お二方とも彼女には可能性があると。ここ数年G1到達者は出ていませんし、カツタダイスカイ号には頑張ってほしいですね!」
「そうですわね。私がとった頃とはかなり状況も変化しておりますし、選手のレベルも上がって来ておりますわ。そのような意味では厳しい道のりにはなるかと思いますけれど、決して不可能な道筋ではございません」
「まぁ、厳しくしてるのは私たちなんだけどね!」
そのナジミさんのジョークに会場は噴き上がった。こちとら内心かなりビクビクしてるのに。
「でも、応援してるからって言っても手は抜かない。それは失礼だもの。ね、カッちゃん?」
「……うん、受けて立ちますよ!」
「まぁ、同じレースを走るかはわかんないけどね」
ここでまた笑いが会場を包む。メディア露出も多いナジミさんだけあって、こういう手腕は、手腕は……。
あれ? 今、私、
気づいたときにはもう遅くって、パシャパシャとシャッターを切る音が耳に入る。後でどんな記事にされてしまうんだろうと思うと、今から恐ろしくなってきた……。
そんな感じで、無事……ではないけど、トークショーは終わった。
バスでJRNに戻ると、どうやら動画配信で見ていたらしい生路トレイナーにめちゃくちゃ笑われた。
「まぁでも。君ならばできる。君もそう思っているんだろう?」
「まぁ、ね」
「なら頑張りなさい! 応援してるから。……それと、今日は来てくれてありがとう。富士見祭が盛り上がるのは、学園に居た者として……そして私個人としてはやはり嬉しいよ」
そう言ってトレイナーは私の肩を叩いた。
「今でも思い出すさ。中学の時だから、もう40年以上も前のことだ。初めて富士見祭に行って……その時に、私は初めてトレイナーという仕事を知って、そして志すようになった……」
「生路トレイナーがトレイナーになったのって」
「あぁ、富士見祭のおかげさ」
富士見祭は、昔は学園祭だったのだという。今は公園になっているあの場所には中央鉄道学園という国鉄の教育施設があって、富士見祭はそこの学園祭だった。そしてその敷地に普通の人が入れるのは、敷地の中を通る東京競馬場前行きの電車の中と、この富士見祭のときだけだったのだと。
「なら、よかった。思い入れ深い催しで力になれたみたいで」
「はは、そう言ってもらえるとありがたいよ。それに……
……え?
言われて気がついた。さっきまで緊張していたということに。しかもトレイナーにはレース中より緊張していたようにも見えたそうで……。それに気がついて、昔話でその緊張を解してくれたんだ。
「なんか……ありがとうございます」
「いやいや、こういうのが私の仕事だというのは君も知っているだろう? それじゃ、君もレースの方……次は来週だったか? 頑張ってくれよ」
そう言って、トレイナーは控室から退室していった。
その激励のおかげかどうかはわからないけど、次のレースである国土交通Dayカップでは、後ろを大きく突き放してのゴールを決めることができた。
《big》【国交デーC】大楽勝だ!カツタダイスカイのひとり旅
|
|
単騎のカマシで博多へのラストスパートをかけるカツタダイスカイ(記者撮影)
◆国土交通Dayカップ(48M40C、17日)
今年は九州、鹿児島線で行われた国土交通Dayカップは、今期のG1が期待されているカツタダイスカイが中盤遠賀川から大きく抜け出しはじめ、そのまま変則的な逃げ切りを決めた。
湿った空気と寒気により梅雨が戻ったかのような天気で視界の悪い中、いち早く先頭に躍り出たのはウノシコイチャルシベ。そのまま先頭を進みペースを形成し始めたものの、全体的にペースの遅い展開となっていた。
北九州市を出て遠賀川までこの状況が続いたが、これを幸いにと抜け出したのがカツタダイスカイで、空転を心配するほどの猛加速を披露すると、曲線の多い区間にも関わらずゴボウ抜きを見せ、結果として戦闘に出ての単騎のカマシとなり、そのまま逃げ切りでの勝利を決めた。
視界不良も合わさりカーブを使った追抜は功を成し、これには2着シナノグリーンも、「最後まで自分が先頭だと疑わなかった」と苦笑いを浮かべた。
【山手線チャレンジC】ナンプウメモリアルが優勝 大会新記録
【天王台SR】シャトルラン王者アオキジェットがV G1に王手
【七夕杯】連覇のノゾミタキオンの足は衰えない
【ギャラクシーC】大伏兵のウィングヘイワジマが初勝利
【蒲田記念】勝利のメカマセンゾクはシャトルラン挑戦へ
カツタダイスカイ号 今期の成績
| 1月2日 | 成田山初夢杯 | 1着 | 標034M25C | (スカーレットセイロン) |
| 2月21日 | 名阪PYDS | 1着 | 標116M00C | (ナラビスタ) |
| 3月28日 | 胆振最速決定戦4R | 1着 | 狭095M20C | (Ozark State Zephyr) |
| 4月3日 | 青春18杯(春) | 2着 | 狭694M00C | ビシャスオサナジミ |
| 5月22日 | 皐月杯 | 1着 | 狭108M65C | (ナリタエクスプレス) |
| 6月12日 | 五月雨賞 | 1着 | 馬027M55C | (メジロプラトー) |
| 7月17日 | 国交デーC | 1着 | 狭048M40C | (シナノグリーン) |
| 勝利回数 | 6回 | 獲得SP | 65 | |
| ステイタス | G3 | 前期ステイタス | G2 | |