勝利特急、カツタダイスカイ   作:だぶるすたぁ

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箕面(みのお)記念:加速する宝塚決戦(アクセラレート・デュエル・ラン)

「五元神を知っているか」

「知らぬわけがないだろう。持続神Rocket(ロケット)、速度神Novelty(ノヴェルティ)、根源神Cycloped(サイクロペッド)、出力神Perseverance(パーシヴァランス)、そして麗美神Sans(サン) Pareil(パレイユ)。レールレースとは彼らに捧ぐ儀式だ。違うか?」

()()、か……」

 

 St(サン) Simon(シモン)はそのヒカリエターナルの答えにプッと吹き出すと、高笑いをした。

 

「何がおかしい」

「エターナル。あなたは勘違いをしている。捧ぐのではない――レールレースとは、彼らが神へと至った事象の再現に過ぎない。あなたもこちら側に来ないか? その資格はあるように私には見える」

 

 エターナルは理解した。シモンが何がためにレールレースを普及させたのかを。

 

「リズランやランサーも知っているのか」

「もちろんだとも! 私達は別々の役割を担っている。そこにあなた方日本勢も加わることに……」

「断る」

 

 エターナルは権力には興味がなかった。力にも。

 彼の願いは、多くのノリモンの活躍のできる場を持続的に提供していくことだけだ。シモンの考える劇的な変化というのはむしろそれを妨げるものにすらなりうる。故に彼にその提案を受け入れる余地は無かったのだ。

 

「俺はそのようなくだらん目的のためにレースを広めようとした訳ではない」

「『くだらない』か。だがあなたの意志があろうがなかろうが、我らの計画が変わることはない。レールレースが開かれている限り、な」

 

 エターナルの脳裏には、ひとりのノリモンがちらついた。

 先月末。突然英国のレールレース、George Stevenson Cupに出場し、エターナルの預かり知らぬところで優勝を勝ち取ったノリモンのことを。その彼の上司でありエターナルの知己でもあるコダマに聞けば、彼は英国側から招かれたのだということもわかっている。

 

「イノベイテック号」

「あれはランサーが勝手にしたことだ。私()関与していないよ」

 

 どちらにせよ貴様らだろうが。エターナルはそう吐き捨ててシモンを睨みつけた。

 だがしかし、シモンは動じもせずに言葉を綴る。

 

「それはそうと、だ」

 

 シモンはエターナルの顎を掴むと、それを引き下げて自分の方へと向けた。

 

「今あなたは私の提案を断った。その意味は分かるだろう?」

「……汚い奴め」

「電車には分からないだろうから教えておこう。機関車というのは煤まみれで走るものなのだよ」

 


 

 世の中には何にでも甲乙をつけたがる者たちがどこにでもいる。それはレールレースだってもちろん例外じゃない。

 レールレースの中で最も格式の高いレースはどのレースか? っていう無粋な問いは、時々議論を引き起こしている。

 多くの場合、一定のステイタスを当期または前期に保有していることを条件とするリミテッド競走が格式の高いレースだという答えが出てくると思う。実際、世界に目を向けたら、G(グループ)2L(リミテッド)――すなわち、G2以上のステイタス保有者だけが走れるレースだって多く開催されてる。それどころか、中にはあの神話にもなった伝統のシャトルランRainhill(レインヒル) Trials(トライアル)や最古のレースPen y Darren(ペン=ア=ダレン) StakesのようにG1Lのものまである。

 

 だけど、日本じゃ公式登録された選手なら誰でも出走できる――とはいえ枠を超えたらSP(ステイタスポイント)で足切りされるけど――オープン競走がメインで、リミテッド競走はほとんど実施されてない。されていてもせいぜいG4Lがほとんどで、G3Lのレースも2つだけ。G2Lに至っては1つもないんだ。

 そしてそのG3Lで開催されている数少ないレースが、関東の目黒蒲田電鉄(メグロカマタテツ)記念(メモリアル)オリジナルトロフィー、通称蒲田記念と、今日私が走る関西の箕面有馬電軌(みのおありまでんき)記念クラシック宝塚、通称箕面記念なんだ。

 

 兵庫県宝塚市栄町、宝塚本線宝塚駅。

 単音3回、和音4回、和音4回のメロディの鳴る中、選手紹介を兼ねながら続々とランナーがホームから降りて入線している。

 この箕面記念は、ここ宝塚から大阪梅田までの15マイル15チェーンのワンウェイ。東の蒲田記念とおんなじで、この線路を持つ鉄道会社のルーツとなる路線を走るレースだ。

 それだけじゃない。このレースは4年前にトライゼット号が制して、それを以て2度目のG1ステイタスを獲得したレースでもある。何を言いたいかって言うと、単純に縁起が良いってことだし、これに勝つっていうことにはただの10点のSP以上の価値がある。

 

 いったんBGMが消えたあと、こんどはWenn der weise Flieder wieder bluhtのメロディが響いた。これは宝塚ならではの音楽であり、そしてこの駅でのスタートを告げる合図だ。

 1コーラス目で曲のメロディと長さを覚え、2コーラス目の終わりに合わせて走り出せるよう準備する。そして、少し間をおいて2コーラス目が鳴りはじめる。観客もランナーも息を呑む中で、メロディだけが鳴り響いている。

 

 3、2、1、スタート。メロディの鳴り終わりと同時に、みな一斉に走り出した。

 

 それと同時に。

 

 つまり、戦況の確認よりも前に。

 

 同じレースで戦う相手の歌う特急(ミュージックホーン)、アシガラ号が歌い出した。

 

「〽進め 進め 新時代到来 やったろー!」

 

 アニソンだ! それもゴールデンタイムの子供向けロボットアニメの!

 アシガラさんはなぜかレース中に歌うことでスピードを上げてくる生粋のエンターテイナー(トンチキランナー)だ。そもそも走るだけでも疲れるし、あれだけ大きな声で歌いつづけていればそれもそれで疲れるのにどうしてその2つを同時にやってのけられてるんだろう? 普通に狂気の沙汰だ。最初の頃は本当に困惑してしまったけれど、今となってはもうだいぶ慣れてきてはいる。

 ……まぁ、慣れたと言っても他の選手の音を聞くのにはめちゃくちゃ邪魔なことには変わりはないんだけどね!

 

「〽ワックワクが幕開けて 高鳴るZEファンファーレ 走れ走れ僕らの夢 遠慮はいらない」

 

 一呼吸入れて、清荒神(きよしこうじん)のカーブで戦況を確認する。川西能勢口(かわにしのせぐち)までの前半にカーブが続いて後半に直線の多いこの宝塚本線じゃ、スタートが後ろだっていうのはマイナスにはなるけど決してプラスにはなることはない。これが逆コースならば高速域でもスリップストリームが使えるぶん、後ろでもまだ良かったんだけど。

 しかし、そうは言っても現実は変わらない。

 

「〽欲張りだっていい 君となら強くなれる トキメキ探しに行こう」

 

 あと、やっぱりアシガラさんの歌はうるさい。

 たった15マイルの短いレースだし、早めに仕掛ける意味でも前に出ておこうかな。そう思って売布神社(めふじんじゃ)で早速ランウェイチェンジ、形成され始めた逃げ集団へとアタックをかける。

 この調子だと、服部天神(はっとりてんじん)……いや、蛍池(ほたるがいけ)駅の先のコーナー。そこがおそらくもうラストスパートの仕掛けどころだ。

 

 だけど、つづく中山観音(なかやまかんのん)のS字コーナーで気がついた。前を見ても後ろを見ても、集団が1つのまんまなことに。つまりは、分かれ始めていた逃げ集団は私のアタックで吸収されてしまっていたのだ。こうなるとスリップストリームの恩恵を受けられる後追いほどスタミナを温存できるから有利な展開になる。

 誰がアタックをかけて逃げ始める? いつ、どこで? ピリピリしながら山本(平井)、雲雀丘花屋敷(ひばりがおかはなやしき)と走りを進めるも、アタックをかけて吸収されずに逃げ出せた選手はいない。

 

 ……いや、ちがう。

 見なくたってわかる。歌が後ろから近づいてくることに。

 

「〽もっと鮮やかな景色を見たいだけ いつかじゃなくて 今叶えたい」

 

 そう、アシガラ号! 彼女は重心が低いから、コーナーを速く抜けられる。だからこそ、彼女は雲雀丘花屋敷を抜けたこのタイミングで仕掛け始めたんだ。そして私の右を抜けて、もう前へと進んでゆく。

 

 そして、今がまた私の絶好のチャンスにもなる。

 アシガラ号が風を切り裂いてくれたし、何よりこの先の川西能勢口から石橋阪大前まではしばらく高架が続くし線形も悪くはないから。さあ、コーナーを抜けたし、ここでランウェイチェンジだ!

 

 川西能勢口の緩やかなカーブを抜けながら、追うように速度を上げてゆく。同じことを考えて右の線路に移った選手も後ろから迫っているし前にもいるけれど、それはこっちが加速を鋭くすれば問題は一切ない話だ。

 そのままこのアシガラ号のアタックがきっかけになって、池田に差し掛かるころには逃げ集団が改めて形成された。……よし、いい感じ! なら、次の石橋阪大前(いしばしはんだいまえ)のコーナーが仕掛けどころだ。

 足元に力を籠める。下り坂で加速したこのままの速度で、突っ込んでみせよう!

 

 右コーナーに備えて上半身を右に傾けるとともに、右後ろ方向に大きく回す。こうすることで、進行方向から見て左に背中が、右にお腹がくることになる。すると、どうなる?

 答えは、『体が右に引っ張られる』だ。お腹側は背中側と比べて凹凸が多いから、この向きで風を受けると体の右側の空気の流れが速くなる。流れのはやい空気は、そうでない空気と比べて圧力が小さくなる……この圧力差により作用する力のことを揚力というんだ。

 当然、こんな無茶な体勢をするとバランス感覚も大変だし、前だってまっすぐ見るのは難しい。それどころか、線路にきちんと平行に足を動かすことすらままならなくなる。だからこそ、これを使える場面というのはかなり限られる。具体的には、速度が出ている状態で小さく短いコーナーを抜けなければならないとき……つまり、今のようなときだ!

 

 そうして強引なコーナリングで石橋阪大前を抜ければ、またしばしの間の直線が訪れる。

 歌が聞こえる。今や先頭になった、アシガラさんの歌が。蛍池のコーナーを同じように通過すれば、また直線に入ったのもあってだんだんとそれが近づいてくる。ここからもう、ラストスパートだ!

 

「〽誰にも 負けない スピードで 今を駆け抜けてくよ どれだけの壁が立ちふさがっても」

「その壁っていうのは、今はあなただけどね!」

 

 事実、車だったころに狭軌での最高速度、時速145kmをレコードし、新幹線(夢の超特急)への道を切り拓いた、現在の世界全ての高速鉄道の祖と言っても過言とすら言えない彼女は、ある意味ではその存在感はどんなG1の選手よりも大きい面がある。だけど、そんなアシガラさんだろうが私は追い越さなきゃいけない。私の勝利のためには!

 足元の鉄を強く踏みしめ、その先の線路に飛び出してゆく。岡町。ここで私は先頭に出た。このまんま振り切る。振り切って、ちぎって、テールランプすら見えなくしてやる。

 

 だけど、絶対に気はぬけない。この先の曽根を出ると服部天神までの間にはS字カーブが控えてるから。

 スピードが出ているときのS字カーブほど恐ろしいものはない。単純にコーナリングがどれだけ得意でも苦手意識を持つ選手がいるくらいに難しいのだ。なぜなら、逆側のコーナーを抜ける体勢の移行が遅れてしまえば、反対側のコーナーに入った瞬間に吹っ飛んでしまうおそれがあるから。

 しかもここのS字カーブは、高架駅の曽根から地上の服部天神に降りる下り坂に位置している。つまりスピードが出てしまうスポット。なのに、奥側のコーナーの曲線半径が小さいという恐ろしい配置になっているんだ。

 パワーとテクニックが両方要求されるこの宝塚本線。ここでトライゼット号がG1にたどり着いたという事実とその理由は、こうやって走ってみれば嫌でもひしひしと理解させられてくる。

 聞こえてくる歌に耳を傾ける。離れている。このチャンスを、不意にする訳にはいかない! 仕方ない、アレをやるか!

 

「服部天神……このコーナーで!」

 

 カーブへの入りは2種類ある。立ち上がり重視と突っ込み重視のカーブ対応だ。だけどこれからやるのはそのどっちでもない! どっちでもないけど、どっちでもある。トライゼット号が中津〜梅田で使っていた常識外れのテクニックを、まだ不完全ながらにもコピーしたアレを!

 

 服部天神のコーナー。内側、右の線路でそこへと突っ込む。それは素人が見てもまるでブレーキが故障して暴走でもしているんじゃないかと、曲がりきれないと思うような速度で。

 

 だって、()()()()()()()()()

 

 破滅的な速度で突っ込んだ私には、強烈な遠心力がかかる。それを受け止め切るには、レールの位置はあまりにも低すぎた。

 結果として私の体は、線路の外側に投げ出される形になった。その時観客の中にはこう思った者もいただろう。「何てことだ、もう助からないぞ」、と。

 ……だけど。

 

回転(ローテート)!」

 

 まだ左の車輪が引っかかっている最後の最後で、私は強く線路を蹴った。

 体が浮き上がる。空を飛んでいるみたいに、それは、まるで雲の中にいる時のようで。

 

 

 いや――気がつけば、私は雲の中にいた。自元(アイゲン)領域(ゾーン)を呼び寄せたんだ。

 前へと進めと、その雲の上の光が呼びかけてくるような気がする。そこに向かって進めば、視界はまた開けた。

 そして、雲の上の空は青いままだった。それは未来のように。

 

 ――世界へ導く果てなき空の道よ、今大地に繋がりてウイニングロードとなれ!

 

 

 視界が急に開けたのに、視線は線路に釘づけられる。遠くの踏切で観戦している観客の悲鳴すら聞こえてくるのに、自分の身体が風を切る音がはっきりとわかる。こんなにも興奮しているはずなのに、心は透き通るように澄みきって、落ち着いていて、そして静かだった。

 一対の鉄が輝きを見せている。それは私の進むべきランウェイだ。このままふわふわと浮いていられる訳なんて、ない。

 回る視界の中、冷静に足先の車輪を動かす。

 

「……見えた。ギアダウン」

 

 風景が恐ろしくゆっくりになって、一瞬が永遠のように感じる。

 少しでもタイミングがずれてしまえば、確実にその外側の線路すら超えてそのまま脱線してしまうだろう。だけど不思議と、かなりダートなフライトラインを描いているのに、そうはならないと自信をもって言えた。

 

着陸(ランディング)!」

 

 ガチャリと鉄と鉄とがぶつかる音が聞こえる。左足を左の線路に当てて突っ張る。右足のフランジを右の線路の外側に引っ掛ける。そう、私は今、右側の下り線から左側の上り線へと転線したんだ。そして重心を落としてぐっと堪えれば、服部天神のコーナーは過ぎて直線へと戻っていた。

 ここまで無茶をしてしまったので、もうスタミナなんてほとんど残っていない。だけど、それでももう十分すぎるほどにスピードを残したままカーブを抜けられていた。後は根性任せに足を運んで、スピードを維持するだけだ。

 

 ……まぁ、現実はそう甘くはないんだけどね。

 

 庄内を通過する頃になれば、後ろに引き離したはずの歌がまた聞こえてくる。それはだんだんと近づいてきて、神崎(かんざき)川の鉄橋を越えて三国(みくに)に差し掛かる頃には、その歌詞がはっきりとわかる程度まで詰まっていた。

 

「〽気合いだ 奇跡を 決めるぜ キンキラKING

 

 いくら足を動かしたって、スタミナが残っていて車輪を回して加速するのよりははるかに加速力は劣っちゃう。アシガラさんにどれだけのスタミナが残っているのかは分からないけど、それでも私よりは有利なことには変わりはなかった。

 でも、そんなことを行ったって大阪梅田まで逃げ切る外ない。

 

「〽君こそ 切り札 きらめけ キンキラKING」

 

 並んできたのが分かる。私とアシガラさん、ふたりの力の奏でる重奏が、十三(じゅうそう)の駅構内に響き渡る。泣いたって笑ったって、大阪梅田はすぐそこだ。

 

「〽理想の自分」

 

 鉄橋に入る。私だって負けたくない。

 

「〽届かず悔しくても」

 

 淀川を風が吹き抜ける。

 

「〽追いつけ追い越せ」

 

 隣の歌が、はっきりと聞こえてくる。

 

「〽夢はそこ」

 

 中津(なかつ)の最後のS字カーブ。レールの軋む音が、アシガラさんの歌に色を添えつけた。

 だけどその歌詞の続きが聞こえるよりも前に、彼女の足元が憎たらしそうに音を鳴らす。先にブレーキを扱ったんだ。その音は後ろへと消えてゆく。少し遅れて、私もブレーキを込める。

 

 このチキンレースの一瞬の差で、私は前に出た。そしてそのまま大阪梅田の駅に入線して、フィニッシュラインを真っ先に超えた。

 そしてフルブレーキで停止してから自信満々で右手を挙げると、わぁっとホームの上から私に歓声が浴びせかけられたのだった。

 

 ★

 

「やっぱり、最近の子は本当に制動*1力が違うね。いくら逃げたり、あるいは追いついたりしても最後に置いてかれちゃう」

 

 フィッシュアンドチップスをつまみながら、アシガラさんはレースをそう振り返った。

 レースのもろもろの後。アシガラさんに呼び止められて、会ってほしい方がいるのだとか何かで渡辺橋近くのバーに案内されていた。

 

「それでも凄いですよ。アシガラさんだって、レコードをとったのなんて半世紀以上も前なのに今でも走り続けてる」

「私は不器用で、走ることしかできないから。立派にみんなをまとめ上げてるコダマちゃんやオトメちゃんたちの方が、私なんかよりよっぽど立派よ。それこそ……」

「待たせたな、アシガラ号」

 

 突然かけられたその聞き覚えのある声に振り返れば、そこには白を基調に青のラインのモチーフを取り入れた外套に身を包んだ男がいた。それはこの世界に身を投じている者ならば誰もが知っているデザインだ。

 

「……そこの帝王(キング)ちゃんみたいにね」

「き、帝王……」

 

 そう、浜松(ハツ)の帝王の異名で知られ、日本初のG1ステイタス獲得や、そして最強のままにラストランを迎えたことでもまた知られているヒカリエターナル号が、そこには立っていた。

 ……え? もしかしなくてもアシガラさんの言ってた会ってほしい方って……。

 

「……さて、カツタダイスカイ号。単刀直入に聞こう」

 

 やっぱりか。

 ふとアシガラさんの方を見れば、ニコリと一笑みを返された。どうやらそうらしい。

 

「今季中のG1ステイタスの獲得を目指しているか否か。俺が聞きたいのはそれだけだ」

「……それを聞いてどうするつもり? いくら貴方でも、私の意志は変えさせないけど」

 

 ただ単純に答えを言っても面白くないから、そう逆に聞いてみる。するとヒカリエターナル号は顔をしかめてから少しだけ考える素振りをした。

 

「……トライゼット号以降の日本のレールレースの現状は知っているな?」

「G1が出てないってこと?」

「そうだ。我々には英雄(ヒーロー)が必要なのだ。胆振最速決定戦でOzark State Zephyr号に先着したカツタダイスカイ号だからこそ、依頼をしたい事がある」

 

 ……ねぇ。それってさぁ。

 

「アシガラさん? ()()()()()()()()()?」

「そんなことできるほど私は器用じゃないわよ。それに、それほど性根が腐ってるようにみえるんだとしたら、ちょっとショックよ?」

 

 そう言いながらアシガラさんは首を傾げた。流石に考えすぎだし、そもそも失礼だったか。

 それで謝れば、まぁさっきのは流石に疑われても仕方のないシチュエーションだったよねということで笑って許してもらえた。

 

「仮にそれで順位が動くことがあれば当然選手資格は当面停止となるだろうよ。……それで、だ。カツタダイスカイ号。俺の質問の答えを聞きたい」

「頼まれなければ目指さないなんで事があると思う?」

「意味のない質問をしたことを詫びよう。それで1つ提案をしたい」

 

 ――来月からのレース選びを任せてもらえないか?

 ヒカリエターナル号がしてきた提案はそんなふざけたものだった。

 

「ふざけてるの? それこそ八百長し放題じゃん」

「決してそのようなことでは……」

「とにかく、私は私の走りたいレースを走る。それすら叶わずに得たステイタスなんかに価値はない」

 

 なんだか急にイライラしてきた。きっとヒカリエターナル号は……いや、協会は私をG1に仕立て上げようとしていたんだ。G1到達者がここ数年出ていないからって。

 そんなの、こっちからお断りだ。そもそもそんなの、他の選手に失礼だ。

 

「それでG1に到達しなかったら?」

「また来季のチャレンジ。今までもずっとそれでやってきた。違う?」

 

 ともかく、協会の都合なんて知ったこっちゃない。私は私のレースを走る。それだけだ。

 それだけを伝えて、私はバーを飛び出した。

 


 

 

【箕面記念】カツタダイスカイがV、短距離路線にも意欲

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8/27(土) 13:34 配信

               

 

 

 

 

服部天神のコーナーで危うくも線路に復帰するカツタダイスカイ(記者撮影)

 

◆箕面有馬電軌記念クラシック宝塚(15M15C、27日)

 

 夏のレースの総決算となるG3L箕面記念。現在3連勝中と勢いに乗っているカツタダイスカイがまた勝利を重ねた。

 

 カツタダイスカイはいつも通りに前半、逃げ集団後方に控えると、アシガラに追い越されたのを期にそれを追いかけるように進出を開始。岡町で先頭に出る。

 

 しかし服部天神で大きく姿勢を崩し、あわや脱線の危機に遭遇。車輪が線路から逸脱する事態にまで進展してしまうも、空中で間一髪体勢を立て直し奇跡的に線路に復帰。競走を続行しアシガラの猛追もかわして逃げ切りそのまま優勝を飾った。

 

 これまで100マイル帯のレースを中心に勝ち星を重ねてきたカツタダイスカイだが、今回の箕面記念も含め今季では距離の短いレースでの勝利が目立っている。それについて尋ねると「短い距離でも勝てる選手のなっていきたい」と元気に短距離路線への意欲を口にしてくれた。

 

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「で、帰っちゃったけど。どうするつもりなの、エッちゃん」

「G1の資格があるか確認しただけだ。あの俺好みの答えを面と向かって言えるのであれば心配など無用だろう」

「でも、St simon号から色々言われてるのも事実なのよね?」

「ふん。そんなもの、直接奴に理解(わか)らせてやれば良いのだ。日本のレースは決して低度なものはではないとな」

 


 

カツタダイスカイ号 今期の成績

1月2日成田山初夢杯
1着
標034M25C(スカーレットセイロン)

2月21日名阪PYDS
1着
標116M00C(ナラビスタ)

3月28日胆振最速決定戦4R
1着
狭095M20C(Ozark State Zephyr)

4月3日青春18杯(春)
2着
狭694M00Cビシャスオサナジミ

5月22日皐月杯
1着
狭108M65C(ナリタエクスプレス)

6月12日五月雨賞
1着
馬027M55C(メジロプラトー)

7月17日国交デーC
1着
狭048M40C(シナノグリーン)

8月27日箕面記念
1着
標015M15C(アシガラ)

勝利回数7回獲得SP75

ステイタス
G3
前期ステイタス
G2

*1
ブレーキのこと

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