勝利特急、カツタダイスカイ   作:だぶるすたぁ

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モノレールC:大荒れのなかで

「私から言わせてもらいたいことは1つ。そんなに悠長にしてはいられないということだ」

 

 St(サン) Simon(シモン)はヒカリエターナルの出してきた案にそう答えた。

 

「3年すら待てぬというのか」

「既に数年待っている。それに確かに若い有望な選手の参入への補助は必要だろう。だがしかし」

 

 シモンは彼女のウェポンたる鞭で地面を叩くと、エターナルの顔を見上げて覗き込んだ。

 

「それはつまり、日本にはいま現役の強い選手がいないということだ、違うか?」

「否! それは決して違う。もし貴様がそう考えているのならば、()()()()()()()()

 

 シモンは目を細め、そしてこう言い返した。

 

()()()()()()、ではないのか」

「机上だけの監査だというのなら、我々は貴様の提言は机上の空論だと拒否することもできる。忘れるな、日本のレースは世界に窓を開いてはいるが、国内だけで興行を完結させるだけの内需は存在している」

 

 エターナルはそう言ってシモンを睨み返した。

 エターナルの主張はこうだ。別に日本のレースが世界から孤立してガラパゴス化しても問題はないと。そして逆に、その門戸が閉ざされれば被害が大きいのは英国側であると暗に伝えているのである。

 

「ふん、いいだろう」

 

 シモンはその提案を呑んだ。これでエターナルは、彼女が来日するまでの間に追加の時間を得たのだ。

 次に問題になってくるのは、その時間をどれだけ稼げるのかというところだ。しかしエターナルには秘策があった。それを1年後のレースにする秘策が。

 

「日本は来年、鉄道の開業から150周年を迎える……そのイベントとして大々的な特別競走を行うという案が出ている」

「……面白いじゃないか。受けて立とう」

 

 エターナルは内心ガッツポーズをとった。日本の鉄道開業は10月だ。そう理由をつけておけば、シモンの来日をそこまで遅らせる口実となる。

 そして綱渡りのような交渉を終え、シモンのサインアウトを見届けてから、エターナルもまたサインアウトしたのだった。

 


 

 レールレースは、鉄の車輪で鉄の線路を踏みしめるもの……というのは、よくある誤解の1つだ。確かに大多数のレースがそうなのは事実だけど、中にはそうじゃないレースだってある。

 車輪のフランジの先を保護するようにゴムチューブを取り付け、そしてそのままアスファルトを走る……なんて光景を町中で見たことのある方も多いと思う。それと同じように、ゴムタイヤでコンクリートの線路の上を走るレースだって存在しているんだ。

 

 東京都大田区羽田空港、第2ターミナル。

 東京の空の玄関口たるこの地から、12名の選手による戦いの火ぶたが今、切って落とされた。

 今回は私は右側一番前からのスタート。なので本当はできれば早いうちに誰かに追い抜いてもらって後ろに入りたいんだけれど、そうも言っていられないのが現実というもので。

 このスタート位置は、逃げが得意な選手からすると一番理想的な位置だ。何せ前には誰もいないし、後ろからもあんまりアタックされないのだから。だけど逆に、私みたいに後方に控えるタイプだとしたら? 後ろから追いつかれれば失格、左に逃げようにも左には別の選手で、スタミナを消費して風を切り前へと進むしかないのに?

 結局のところ、まともに走ろうとするならば逃げ戦法に出るしかない。なのにここにはさらに厄介なところがある。羽田空港第2ターミナルから新整備場の先までが地下を走るトンネル区間なことだ。押しのけた空気が逃げられる場所が少ないぶん、先頭を走るときにより大きな負荷がかかってしまう。

 だけど――不利を承知で走らなければ、結局は失格である。初手で脱線して後追いでスタートをやり直すというイレギュラーな戦法もなしではないけれど、あんまり美しい手段じゃない。

 ……ならば。私はぐっと足に力を入れ、真っ先に前へと踏み出した。

 すると左の線路では、同じく一番前に配置されたナンコウスミノエ号が負けじと加速してきて並んでくる。

 

「ウチらなんてゴムタイヤの方が本性や。鉄輪のあんさんらには負けへんで。たとえあんさんが今期表彰台を逃しておらんとしても、でもウチの方が速いねん」

「それはどうかな? やってみなきゃわかんないでしょ?」

 

 でも、これでいい。羽田空港第1ターミナルまでの左カーブで、どうしても左側が先行する。そこで1タミの駅の先で左に合流すれば、目論見通り私は車列の中に入り込める。この先は天空橋にだけ地下区間があるから、それを抜けるまではこっちのほうがいい。

 

 それに、今日はもう1つだけ懸念事項があるから、風よけは多いに越したことはないからね。

 

 その懸念事項を確かめるためにも、覚悟を決めて新整備場から羽田空港第3ターミナルに上がる坂を駆け上り、地上に出る。すると風と雨がレースを走る私達に襲いかかった。

 

 台風14号チャンスー。史上初めて福岡県に上陸したこの台風は、気象の研究者すらも頭を抱えるわけのわからない進路をとった。それがゆえ、レースが行われるか否かすらも直前になるまでわからないままだった。とはいえ、さっき見た感じでは羽田を発着する飛行機もそれほど欠航はしていなかったし、何名か走るのを辞退した選手はいてもこうしてレースも開催されているのだから事前に騒がれていたほどの強さではない――それが、私の認識だった。

 

 だけど、現実はそうではなかった。

 地下から3タミへとモノレールならではの急勾配を駆け上る最中ですら、風が身体を強く押している。これが普段の鉄輪ならば、それがレールに引っかかるぶん姿勢の維持はし易いけれど、あいにくゴムタイヤは引っかかるところもなく横に滑ってしまう。

 正直言って、これでよくレースが中止にならないなと思うほどの風だ。

 

 そしてその風は、3タミを過ぎてカーブを曲がると凶悪なものになった。風の強さが変わったわけじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。

 一際強い風が吹いた。

 

「……あっ! あーっ!」

 

 前を走っている選手の中から、悲鳴が聞こえる。風に煽られてよろけて軌道から足を踏み外しちゃってる。脱線だ!

 当然モノレールでの脱線は普段のレールでの脱線より大惨事。たぶん彼は復帰せずにリタイアを選ぶんじゃないかな。

 風以外の要因で、ブルリと身体が震えた。

 

「この風……どーしよっかな」

 

 天空橋のトンネルに入ったら、風の影響は束の間だけれどなくなった。そして、集団もまた大きく姿を変え始める。中には速度を大きく落として、トンネルを出るまでの考えられる時間を稼ぐ選手まで。

 当たり前だよね。こんな恐ろしいレース、普通に走ったら京浜運河に真っ逆さまだ。どうやって風の影響を受けないようにするか……それが一番重要なファクターになってるんだ。

 この先天気はどうなる? 良くなる? それとも悪くなる? それがわからないのが、戦略を立てるのには本当にもどかしい。

 

「悪いけど、これ以上天気が悪化しないうちに行かせてもらうよ!」

 

 ある選手は、こういい残して前へ行った。スピードを上げれば安定性は下がるけど、突風に晒されるかもしれない時間は減らせる。スピードを落として走ればその逆になる。少し考える――とりあえず、風がほぼ追風になりそうな整備場駅の先、海老取(えびとり)運河の羽田海底トンネルまでは前者にしよう。

 判断が早かった選手を追いかけて加速して、再び地上に出る。私とほとんど同じ速度の強い南風に運ばれるように整備場駅を突き抜け、羽田海底トンネルに入ってゆく。

 

 でも。そのスピードの南風が吹いているなら、この先は? もちろん、左から強い風を受けることになる。姿勢を維持できる? 厳しいかもしれない。

 羽田海底トンネルの出口の上り勾配でスピードを殺す。前にあった背中がぐんぐんと遠くなっていく。

 

 だけどその時、また強い南風が吹きつけられた。

 バランスを少し崩しながらも体勢を整えて前を見る。あったはずの背中は線路の上になく、かわりに視線を下に向ければ、平和島運河には同心円状に波が広がっていた。恐ろしいよ?

 

 そして、どうしてこんな恐ろしいレースが中止にならずに始まってしまったのか――そのものすごく単純な理由も、つぎの昭和島の駅横の車庫に止まってるモノレールの車を見てようやく推し量ることができた。

 

 私達ノリモンは基本的には車よりも風に強い。それは単純に風を受ける断面積が小さいからだ。

 だけど、モノレールでは逆だった。モノレールの車はこのレールをがっちりと抱え込むようなコの字型の断面の台車を履いている。でもノリモンに成ったあとは、ただその軌道桁の上をゴムタイヤでなぞるだけ。つまり、成った後もフランジがついている鉄輪とはちがって、風に煽られても引っかかって受け止めてくれる構造がないんだ。その上に今は雨が降ってもいるのだから、横滑りだって起きやすくなってる。

 ……もしかして、普通のモノレールが普通鉄道より風に強いことを根拠としてこのレースの実行の可否を決めてたりしてない? さすがにそこまで協会の方も莫迦じゃないとは思うけど、既にレースへの復帰を諦めてリタイアせざるを得なくなってしまいそうなレベルの脱線を目視だけで2例も見ちゃったら疑いたくもなる。

 突風を警戒しながら、恐る恐る、だけど素早く瓦斯澪(ガスミオ)運河を渡る。風はだんだんと強く――いや、違う! 遮るものがなにもない運河の所じゃ風が直接襲いかかってきて、より強く風が当たってくるんだ。

 ならば、一番危ないのはこの先の勝島(かつしま)南運河を超えた先。それに備えて流通センター駅に入線しようかというところで、私はブレーキに手をかけた。

 

 もう、前に走っていった選手に追いつけるかどうかの次元じゃない。きちんと、ゴールのモノレール浜松町に辿り着くこと。それさえできれば万々歳。少なくとも、今の風の中で京浜運河に飛び出すのは自殺行為だよね。 本当は運河の近くまで行って風を読むべきだけど、そんなことはもはやできない。その点駅構内はホームや壁なんかの構築物が風除けになってくれるから、脱線するリスクは少ないだろう。

 だから。

 

「……()()()()()()()()

 

 私は、一旦そこで全ての速度を殺した。

 横を見れば、ホームドアの向こう側にはやや困惑している観客さん達がいる。やった私が言うのもなんだけど、耐久レースでもないのにレース中に止まるというのはだいたいが故障や不具合が起きてレースを続行できなくなって、棄権(リタイア)を表明するときくらいだから仕方がないよね。

 そしてその確認なのかな? 観客さんたちをかき分けて、駅員さんがホームドアの際までやってきた。

 

「カツタダイスカイ号。故障ですか?」

「いや、私はオールグリーン。運河を渡れるような風待ちで止まっただけ」

「リタイアではない?」

「もちろん」

 

 このやりとりが聞こえたんだろうね。駅員さんが後ろに戻ると、困惑していた駅構内も、次第に私を応援してくれる声が目立つようになってきた。こういう声は、背にすれば追い風になる。それはとってもありがたいことだった。

 

 だいたい1分くらいして、街路樹の様子からは風はおさまってきたようにも見える。……よし、行ける。

 私は右手をピシッと前に伸ばして、そして元気よく歓呼した。

 

「進行!」

 

 その一声で、駅構内はワァっと歓声が上がる。それに応えるように、左手では後ろからもはっきりとわかるように敬礼のポーズをとって前に進みだした。

 緩やかな右カーブの先では、左からは平和島競艇場に続く勝島南運河が現れ、そして右からは寄り添うように京浜運河が近づいてくる。その勝島南運河を超えれば、線路は京浜運河の西端を通ってゆくことになる。ここから先、天王洲(てんのうず)アイルまでずっと。

 

 そして、流通センターを出てまだ数十秒も経っていないというのに、風はまたしても牙を剥いてくる。……いや、違う。流通センター駅のあった平和島の風と、この京浜運河の風は性質ごと違う風だった、と言ったほうが正しいのかもしれない。ともかく、お前なんか脱線してしまえとでも言いたげなその風は、急激に風向きを変えて右下から吹き上げてくるように襲いかかってくる。

 ここまで来てそれを言うか? 落ちてなんてたまるものか。私は辿り着くんだ。絶対に、絶対に! この危険な風の中とはいえ、次の駅までは耐えてみせる!

 

 だけど。そう思ってブレーキをかけて飛び込んだ大井競馬場前は、流通センターとはまったく雰囲気のことなる雰囲気の駅だった。

 入線して最初に私に刺さってきたのは、お世辞にも上品とは言えないヤジだったんだ。

 

「おい! おい! 何やってんだよ! おい! 何してんだよ!」

『お客様にお願い致します。ホームドアから顔を出したり、もたれかかるのはおやめください』

「巫山戯んじゃねえぞテメエおい!」

 

 いやね、気持ちは分からなくもないよ? レースで駆け抜けてく姿を見たくてわざわざ入場券を買っているのに、やってきたのは明らかに徐行してきて、しかもゴールではないのに停まってしまった私。しかも、流通センターからここまで誰にも抜かれてないのだから、前の選手からは相当引き離されている……どころか、そっちは既にゴールインしていてもおかしくない。そりゃ怒りたくもなるだろう。

 でもね、でもねぇ? ちょっと聞くに堪えない言葉とか暴言とかが普通に混じってるのは、流石に良くないと思うなぁ。

 その時、駅のスピーカーから今度は私に向けた放送がかかった。

 

『業務放送、業務放送。カツタダイスカイ号へ、流通センターからのレラカニスミ*1、一応カニのため判断お変わり無ければ挙手ヨロ*2願います』

 

 放送越しにも疲れがわかるようなその放送に答えて手を挙げる。こんな対応ばっかりしてたら、そりゃ駅員さんも大変だなぁ……。

 正直なところ、本音を言ってしまえばこんなヤジの止まらない駅はとっとと後にしてしまいたい。だけど進行方向に目を向ければ、京浜運河に白波が立つほどの風が吹いていて、雨が線路を濡らしてる。流通センターからの1マイルですらウインドシアーがあったのに、ここから天王洲アイルまでその倍近い2マイル弱もあることを考えると、到底出発できる気象条件じゃない。

 

「どれだけ待ったと思ってるんだ、こんなの金だろ、金! いやマジで、金だろ普通に」

『ホームドアから離れてください!』

「走れ走れバカヤロー」

「おい! お前レース舐めてんのか?」

 

 ……ねぇ、このヤジは流石に怒っていいかな? いや、流石に怒るよ。

 

「レースを舐めてるって? その言葉は取り消して」

「あぁ? 舐めてんだろ。途中の駅で止まるなんてよ!」

 

 それの何処が悪い。なぜ順位が1位2位ではなく、1着2着という表現になるのかも知らないくせに。

 

「そもそも、止まっちゃいけないなんてルールはない。確実にゴールに到着するために()()()()()()のだって戦略の1つだけど?」

「それを舐めてるっつってんだ。終わるまで、止まるんじゃねえぞ。()()()()のその精神を忘れたか」

 

 ……あっ。

 このクレーマー、『我らが母』なんて言い回してる。そんな言い回しをするのはシモニストしかいない。

 シモニストっていうのは、現代レールレースを始めたSt Simon号を信奉する者たちのことだ。少し思想が過激というか……理想論で言えば間違ってはいないんだけど、ちょっと実現や持続性に無理があるというか……まぁ、そういう思想の連中。

 

「ならば私はこう返すよ。『Never the last even if stop, everlasting until arrival』ってね」

「ならば走れよ」

「こんな天気でも京浜運河で泳ぎたい変わり者っているんだね。止まったらそれで終わりだなんて、そんなふざけた理想論はもう古いよ」

 

 天王洲アイルまての2マイル弱。そこを通過するのには、少なく見積もっても2分はかかる。その間に風向きが変わったり、突風に吹かれたりするようなことがあれば、リタイアを余儀なくされる事態に陥るかもしれない。

 たった2マイル。されど2マイル。この2マイルが、今まで走ってきたどんなレースのどの2マイルよりも長いようにも思えるほど遠く感じられるほど、出発の判断を下すのには慎重にならざるを得ない気象なんだ。

 

「『安全の確保は、輸送の生命である』って言葉を知らない? 確実に到着することこそが、レースの本質だから」

「到着、なぁ? 遅れて到着したところで何になる? もはやお前は乗客や貨物を乗せているわけではないだろうが」

 

 確かにそうかもしれない。車だった頃にはお客様や荷物を乗せて走っていたけれど、今はそうじゃないってのは。

 だけど、その頃から変わってないものだってある。運び続けているものが。

 

「私は昔っからね、この背中に想いを乗せて走ってる。昔は出会い、別れ、そしてビジネスにレジャーのために動く方々の。そして今は、私を応援してくれる方たちの、流通センターの皆さんの想いをね」

「その想いってのは、とっととゴールしろってことだろーが」

『ホームドアから手や顔を出したりしないでください!!』

「走れ走れ走れ走れ、走れバカヤロー!」

 

 何名かの観客が、そうだそうだとホームドアから身を乗り出してクレーマーに同調する。

 

「そりゃねえ、早くゴールに到着するのが一番に決まってるでしょうが! だけどね、それは必ずしも常に全速力で前へと進むことを意味してない!」

 

 特にこういった時には。だいたい脱線してリタイアするくらいだったら、速度を落としたほうが良いに決まってる。それが今回はたまたま0まで落としただけなんだ。どうしてわからないかなぁ?

 あぁ、早く風よ止んでくれ。進みたいのに、進めないじゃない。風はますます強くなって、止まってるのに気をつけないとよろけそうになるほどだ。

 

 そんな中で、誰も聞き入れやしないホームドアの注意喚起だけをし続けていた放送設備が、ついに新たなるインフォメーションをもたらした。

 

『皆様にご案内いたします。現在開催中のモノレールカップにつきましてですが、風の弱まる見通しが立っておりませんため、えー、大変申し訳ございませんがコールドゲームとさせていただきます。コールドゲームになりました』

 

 ……は?

 いや、待って。ちょっと待って。

 

『尚お手持ちの入場券につきましては、本日より1年以内に窓口にお申出いただければ、全額払戻しとなりますので……』

 

 コールドゲーム!? それって、ゴールに到着できないってこと?

 嫌だ。そんなのは。

 だけど、運営の判断は絶対だ。おそらく覆ることもないだろう。

 

 また1つ、強烈な南風が大井競馬場前駅の構内を吹き抜けた。

 


 

 

【モノレールC】完走者は1着ナンコウスミノエのみの大荒れの展開に

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9/18(土) 15:14 配信

               

 

 

 

 

吹き荒ぶ風の中、ゆっくりとモノレール浜松町に到着するナンコウスミノエ(記者撮影)

 

◆モノレールカップ(11M0C、18日)

 

 台風14号チャンスーが迫る中開かれたモノレールカップは、強風と雨の影響により脱線する選手が多発する大荒れの展開。競走終了時点でゴールに到着できていたのはナンコウスミノエただひとりだけだった。

 

 悪天候に長い時間晒されるのは悪手だと感じた――ナンコウスミノエはレースをそう振り返る。その言葉通り、ナンコウスミノエは序盤から大きく逃げると、ほぼ単独で後続を大きく引き離して天王洲アイルを通過。ここで風が強まり一時芝浦付近で速度を落とすことにはなるも、後ろに誰も続いていないことを確認するとそのままモノレール浜松町にゴールインした。

 

 一方対象的にその後続は嵐の洗礼を受けることになった。羽田空港第3ターミナル〜天空橋駅間でウィングヘイワジマが脱線すると、その先の区間でも風に煽られ脱線が続出。あっという間に残るはカツタダイスカイのみとなる。

 

 そのカツタダイスカイも、風の対策により一時流通センターで抑止。タイミングを見計らいながら次の大井競馬場前にこそ進めたものの、ゴールもリタイアもしていない選手が彼女のみとなり、これ以上順位が変動する見込みもまったくなかったことからそこで無念のコールドゲームとなった。

 

 この大荒れの競走についてナンコウスミノエは「できればもう二度と走りとうない」と苦虫を潰したような顔で答えた。また、コールドゲーム規程により2着となったカツタダイスカイは表彰式には姿を見せなかったが、それについて自身のSNSで『到着できていないのに2着になるのはおかしい』と欠席の理由を語った。ただし規定どおりSPは付与され、今期もG2ステイタスの防衛が確定する運びとなりそうだ。

 

 また、コールドゲームとなったことにより、観戦者用の入場券は全額払戻しの措置が講じられるとともに日本レールレース協会では荒天時の大会の在り方についての再検討を行うことを表明している。

 

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 東京都品川区八潮、大井ふ頭中央海浜公園。

 あのあと打ち切られたレースから、駅員さんに誘導されて裏口から駅の外に出してもらった私は、表彰式の方には出る気にはなれなかった。

 そもそも、2着って何が2着なんだろう。私はゴールのモノレール浜松町どころか、その1つ手前の天王洲アイルにすら着けていない。そんな私が2着として表彰される? そんなの、ありえない。

 

 そして、もう1つ。これも後でわかったことなんだけど。どうやら私が流通センターを出た時点で、ゴールしていたナンコウスミノエ号以外の他の選手はもうみんなリタイアしていたのだという。その結果、それ以降の各種配信サービスではゴールしたナンコウスミノエ号へのインタビューか、それか大井競馬場前で出発を窺っていた私だけが映されている形になってたんだ。放送事故じゃん……。

 

「あのやりとりも、かぁ……」

 

 京浜運河の向こう、大井競馬場前駅を見つめる。あの醜いやり取りも全て、インターネットの海に。きっとSNSや匿名掲示板じゃ、きっと私の悪口が大量に書き込まれているんだろうな。

 

「どうして、あんな受け答えなんかしちゃったんだろ。莫迦じゃん……」

 

 だいぶ弱まってきたとはいえ、まだそこそこ強い風がその呟きをかき消した。

 


 

カツタダイスカイ号 今期の成績

1月2日成田山初夢杯
1着
標034M25C(スカーレットセイロン)

2月21日名阪PYDS
1着
標116M00C(ナラビスタ)

3月28日胆振最速決定戦4R
1着
狭095M20C(Ozark State Zephyr)

4月3日青春18杯(春)
2着
狭694M00Cビシャスオサナジミ

5月22日皐月杯
1着
狭108M65C(ナリタエクスプレス)

6月12日五月雨賞
1着
馬027M55C(メジロプラトー)

7月17日国交デーC
1着
狭048M40C(シナノグリーン)

8月27日箕面記念
1着
標015M15C(アシガラ)

9月18日モノレールC
2着
単011M00Cナンコウスミノエ

勝利回数7回獲得SP80

ステイタス
G2
前期ステイタス
G2

 


 

「許してほしい、カツタダイスカイ号。我々には英雄(ヒーロー)が必要なのだ」

*1
連絡確認済

*2
宜しく

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