Cyberpunk:RunOver   作:ヴラドミア

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Remedy for … / 進路補正

時刻はすでに日付を跨いでいて、空は真っ暗だった。いつも通り、明るすぎてどうせ星は見えないが、企業や車が吐き出すガスが空を覆って曇天を作り出す。

週末、初めての仕事が終わって、ここに仲間といるはずのデイビッドの姿がない。その仲間もいくらかいなくなっていて、時間が遅すぎたことに気付くのに少しかかった。

 

その間、ボケーっと彼らを見ていたせいで、サイバーパンクの人達もイーサンに視線を送っている。

 

「いてっ……」

 

威嚇程度の意味合いでなにかを仕掛けられた。あの青い髪の女性はネットランナーらしい。彼女は顎でどっか行けと指示してくる。デイビッドの行方は気になるが、ここにいてあちらにいらぬ疑いを掛けられても困る。足早にその場から歩きだし、ワトソンへ帰ることにした。

 

 

 

家に帰ればいつも通り……となることはなく。バイト疲れと肩を透かされた不完全燃焼な感覚にしばらくボーッとしていた。

デイビッドは果たしてサイバーパンクになったのだろうか。これで全てが変わると言っても過言ではない。さっき見たあの人達と共に行動して、来年には―――

 

「ああーー……」

 

落胆の声である。何に?もちろん、自分にだ。

イーサンはここまで考えて、情報収集すれば良かったと後悔したのだ。普通の会社員はフィクサーなんてものと接点を持つことはない。もちろん知り合いにサイバーパンクがいれば話は別かもしれないが、現に前回の2076年ではイーサンにフィクサーの知人などいなかった。

 

今回だって正直フィクサーの知人など出来る気がしない。その点、サイバーパンクはフィクサーから仕事を請け負うのだ。仲の良し悪しはともかくとして、連絡を取るくらいはできるはず。

 

情報は多ければ多いほど良い。人脈だってそうだ。今回、アラサカに入社した後の行動を変えるなら情報か人脈、可能であれば両方を増やさなければ選択肢なんてそもそも出てこないのだから。

 

ならばデイビッドに連絡をするかとふと過ったが、そもそもサイバーパンクに成り立ての彼にそんな人脈などあるはずがない。あそこにいた誰かがリーダーとしてフィクサーから仕事を受けているか、フィクサーそのものの可能性だってあった。

 

デイビッドからリーダーに取り次いでもらうか。いや、そもそも今の段階でイーサンがデイビッドの所属を知っているのはおかしい。アラサカアカデミーの生徒であるというのもあって、サイバーパンク側に怪しまれるのはまずい。

 

考えたところで、いい案は思い浮かばなかった。椅子に座って作業をしようにも、一度更け込んだ思考に脚を掴まれてなかなか抜け出せない。

今日はそういう日なのだ。仕方ないと睡眠薬を飲んで、とにかく寝ることにした。

 

 

 

目が覚めても事態は特に進展することなどなく。そんなことがあればどれだけ良かったかといつも通り着替えを始め、今日はオフだったと思い出す。

 

「今日は何を……お?」

 

ネットサーフィンでもしようと椅子に着こうとした時、一件のホロコールが表示される。発信元はデイビッド・マルティネス。こんなときに通話とはタイミングが良いと進んで応えた。

 

「もしもし、デイブ?」

「お、おはようエタン。急にごめん、ちょっと話そうと思ってさ。時間、ある?」

「あるよ、大丈夫。どうしたの?」

「いや、特に重要な連絡って訳でもないんだけどさ。」

「うん。」

「俺、アカデミー辞めたからさ。今まで、いろいろ助かったって言うか……」

「気にしないでよ。仕事とか、見つかった?」

「……うん。一応。俺、サイバーパンクになろうと思って。」

 

やっぱり、彼がこうなることは運命付けられているらしい。ここでサイバーパンクにならない道があれば、こうして暗躍紛いのことをしなくてもよくなるのにと本の少しだけ落胆した。

 

「あんまり危ない仕事、請け負わないようにね。」

「それは約束できないよ、サイバーパンクなんだから。」

「それはそうかもだけど、俺はデイブのことが心配だよ。いつでも頼ってもらって良いから――」

「わかった、わかったから!母さんじゃないんだから。」

「無茶は、してほしくないからさ。」

「大丈夫。暫くして、俺がちゃんと仕事出来るようになったら、また会おう。」

「……そうだね。頑張れ、デイビッド。」

 

これも、前に聞いた話だ。それから出会えることはなく、結局会えたのはアラサカ社の中。デイビッドを逃がすために腕を吹き飛ばして、ドクターに怒られて。

 

いや、そんな思い出に耽ってる場合じゃない。切れたホロコールの音が頭に残る。

デイビッドの運命は相変わらずの道を歩き始めた。このまま何も変わらなければ、やがてはサイバースケルトンにたどり着く。それまでの道程は知らないが、そこだけは阻止しなくてはならない。

 

 

 

行動は早い方が良いというが、早く行動出来るのは事前に必要なものが揃っているか、自分で揃えられることが前提にある。

 

「ねぇドクター、聞きたいことがあるんだけどさ。」

「なんだ?」

「この前全身クローム人間のこと話してくれたじゃん、アダム・スマッシャーだっけ。」

「ああ、そんな話をしたな。」

 

サイバーウェアについて聞くなら専門家に、ということでヴィクター診療所にやってきた。

 

「そのアダム・スマッシャーはサイバーサイコシスじゃないの?」

「サイバーサイコになって暴れようもんならマックスタックが出て処分するだろうさ。」

「あー、それはそうか。」

「変なことを考えるのはよせ、って俺は前に言ったはずだが?」

「いやいや、変なことは考えてないよ。気になることがあって。」

「へぇ、勉強熱心なのは良いことだが。」

「『が』じゃないよ!勉強熱心なのは良いことでしょ!」

「悪知恵を働かせようとしなきゃな。」

 

ヴィクターからすればイーサンは悪ガキらしい。クイックハックを試した時に信号機を停止させて大規模な交通事故を起こしかけたり、放置された車のブザーを鳴らし続けさせたりはしたが、自分の持つ力がどんなものかを試したいのは誰しもが持つ欲求のひとつだろう。イーサンはまるで反省などしていない。

 

「悪知恵なんて考えたことないし。」

「どうだか。それで?」

「あ、そうだ。例えば軍が使う強いクロームとか、弱くてもいっぱい着けてたり、そもそも耐性が低くてサイコになりやすいとかあるじゃん。」

「ああ、クロームの耐性は人によるからな。」

「医療用のクロームでサイバーサイコシスになることはないと思っていい?」

「絶対にないと言いきれるわけじゃないが、可能性は軍用やサイバーパンクが好むそれよりは低いだろう。」

「ふーん……なるほどね……」

 

医療用のクロームとは自分の意思で動かせるようになった義肢である。遥か昔はそんなものもなく、棒を足に装着しただけというのだから驚きだ。

ただそれでも、四肢の代わりをする以外に機能のないクロームでもサイバーサイコシスの可能性があるかが気になった。可能性があろうとなかろうと、装着者の負担が軽減されるという点で言えば間違いはないが。

 

「じゃあさ、サイバーサイコシスを一度発症した人は寝ても覚めてもサイバーサイコシスのままかな?」

「それは、サイバーサイコシスに医療用インプラントを装着させれば――」

「サイバーサイコシスを一時的に抑えられるんじゃないかって。」

 

そう、強いインプラントを使い続けたことでサイバーサイコシスになるのなら、弱いインプラントに落とすことで負担を軽減すれば侵蝕された精神は平静を取り戻せるのではないか。

 

「サイバーサイコシスを既に発症している場合は、人間性コストがもう底をついてるってことだ。」

「人間性コスト?」

「人間らしさ、ってところだな。共感、理性、人に出来て機械には出来ないもの。それらを人間性コストって呼ぶ学者がいる。」

「サイバーサイコシスは共感なんてできないし理性もないってこと?」

「さあな。まあ、細かいメカニズムがわかっているわけではないから、そうかもしれないってだけさ。」

「でも、それじゃ、サイバーサイコシスで人間性を失ったら……」

「医療用のクロームを着けても、人間性が回復するはずがない。つまりクロームの換装じゃサイバーサイコシスを治す手立てはないってことだな。」

 

サイバーサイコシスが発症した時点で、何をしようともその人物は正気に戻れないということだ。例えサイバーウェアを外しても、廃人同然になるだけなのかもしれない。

 

「まぁ、実際のサイバーサイコシスの治療にはBDが使われる。」

「BD?」

「俺もその内容を詳しく知ってるわけじゃないが、BDによって感覚や感情を共有させることで、その精神に強制的に人間性を思い出させてるんだろうよ。」

「ああ、なるほど!なるほ…ど……」

 

ブレインダンス。他者の主観で記録された映像をそっくりそのまま体感することができる映像コンテンツ。それはその視点だけでなく、撮影者が感じたもの全てを体感することができる。視覚はもちろん、五感全てを。そして、その時の感情を。

サイバーサイコシス患者を、BDで治す。それはつまり、他人の思考で上書きするというものなのではないだろうか。

 

「ドクター、それってさ……」

「ああ、そうだ。倫理的にアウトだと思うか?ところが、世間一般的にはサイバーサイコシスをそのままにしておく方が不味い。実際、表沙汰にならないだけで、医療用の臓器インプラントでサイバーサイコシスになる奴もいるんだ。多少強引でも、治る方が優先だろうさ。」

 

お互いに言葉にはしなかった。治った方が良いというのは確かにそうだ。ただそれは他人の感覚で自我を上書きする洗脳のようなもの。

 

自分の感覚で自我を上書きすれば、それは元に戻ると解釈しても問題はないのか?

 

「それは、そうかもしれないけど……」

「今のところ、有効な手段がそれしかないってだけだ。画期的な方法があればそれを試すだろうが、今のところは見つかってない。」

「精神系の薬も?」

「ああ。強いて謂えば抑制剤だな。」

「そっか……」

 

目標のひとつはサイバーサイコシス化したデイビッドの救出と治療。未然に防げない場合には、そうするしかないのだから対策を考えないわけにはいかないのである。

だが、その手立てもやはり一筋縄では行かないらしい。抑制剤にだって一定の副作用と許容限界がある。無限に投与できるものではない。

 

やはり考えるべきはサイバースケルトンのインストールの阻止であって、サイバーサイコシスの治療ではないようだ。少しでも負担を軽くすることができればとは思うものの、完治を見込むのは難しい。

 

「ありがとう、ドクター。」

「まったく……サイバーサイコシスといいアダム・スマッシャーといい、最近何を企んでる?」

「何も企んでないよ。俺なりに将来のこと考えてるの、一応ね。」

「将来、ね……」

「ふざけてるわけじゃないよ。もうすぐ、就職だしね。」

「アラサカ、か。お前はネットランナーかサイバーセキュリティ志望かと思ってたよ。」

「それはそれでやりたいし、サイバーウェアの研究もやってみたい。身体ひとつじゃ足りないよ。」

「へぇ、夢があるのはいいことだ。頑張りな。」

 

 

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