『今朝のニュースって見た?』
『一応流し見程度には。』
『サイバーサイコシスの事件は?』
『ああ、軍人がマックスタック相手にドンパチ……って、まさかそれ』
『そうなんだよ!そのサイバーサイコのBD!やばくない!?』
『相変わらずjk……だっけ?が製作してるの?』
『そうそう!この人が作るBDってマジサイコーでさぁ!』
いつかの記憶が掘り起こされる。サイバーサイコシスがNCPDやマックスタックと戦ったのが夜。次の日の朝に、友人は嬉々としてそのBDを宣伝してきた。
どう考えても異常な速さだ。デイビッドのサンデヴィスタンでさえ、最速で手に入れられるのは同じタイミング。夜も更けきったところで、ジェームズ・ノリスの遺体が回収されているはずだから。仮にそこで抜き取ることができたとして、そこからデータを吸い出し、大衆向けにちょっとした加工を施し、チップやカートリッジの形にして売り捌くなんて芸当を朝までに終わらせることができるはずがない。
「ちょっと、どうかした?」
「ルーシーさん、ジミー・クロサキのBD編集している場所、見ましたか?!」
「え、ええ、もちろんあのくそ野郎の編集室みたいなところに乗り込みはしたけど……」
「どこに、どこにありました!?」
「ノースサイドだったと思うけど……なによ、急に。」
「ノースサイド……やっぱりおかしい。」
「何が?」
「あの日、デイブが売ろうとしてたBD、あんな速度で出回るはずがない。遺体を回収した人たちがいるんだから、ジミー・クロサキが遺体に接触できるとは考えにくいんですよ。」
「ちょ、ちょっと待って、私にもわかるように説明しなさい。」
ルーシーは戸惑ったように声を上げた。イーサンはそれに気づいて、やっと現実のルーシーの顔を直視する。
「あっ……ああ、すみません。順を追って話します。」
「最初からそうして。」
「すみません……まず、デイビッドが学生だった時、裏BDを捌いていたっていうのは知ってますか?」
「初耳よ。」
「じゃあまずはそこから。俺とデイビッドはアラサカ・アカデミーに通う学生でした。といってもデイビッドは貧民側、俺はそれを擁護する邪魔者として敬遠されていましたが。」
「アカデミーの生徒だったことは知ってる。それなりに成績良かったとか、そんなのも聞いたわ。」
「はい、あいつは成績上位で……いや、今は関係ないか。あいつはリパードクから横流しされた裏BDを学生に売ってたんです。小遣い稼ぎみたいな感じで。」
「それが?」
「デイビッドが学校を辞める直前に、サイバーサイコシス事件がありました。サイバーサイコ化したのは軍人のジェームズ・ノリス。シティ・センターの一角でNCPDやマックスタックと深夜に銃撃戦をしたニュース、覚えてますか?」
「ええ、覚えてるわよ。」
「その翌朝、ジェームズ・ノリスのサイバーサイコシスのBDをデイビッドが売ろうとしてました。そんな速度でBDが作れるとは思えない。」
「……そのジェームズってやつがサイバーサイコシスになったのがジミー・クロサキのせいだっていうわけ?」
「……それも、あり得るとは思いますが、そこじゃなくて。あのサンデヴィスタンに、使用者の記録を取る機能があって、それが直接ジミー・クロサキの編集室に送信されている可能性があるんじゃないかと。」
「それは……そうね、あり得ると思う。でも、あそこの機材はだいたいがタナカの攻撃でショートしてたみたいだし、そこまで重要だとは思えないわ。」
「まぁ、確かに。タナカがジミー・クロサキと繋がっていたという事実もアラサカは知らないはず……」
タナカが保存していたデータは破損データとはいえだいたいを持ち帰ってきているはずだ。あれはその内の一部。
「それに、あのクソディレクターはその編集室で死んだわ。追跡は難しいと思って良いと思う。」
「え、殺したんですか?タナカと会えたから用無しって?」
「違うわよ。タナカの武装が手からほぼ全方位に散弾を撃つやつで、流れ弾の当たりどころが悪くて死んだって。」
「へぇ、そんなサイバーウェアがあるんですね。ともあれ、ジミー・クロサキから情報が漏れることはない、か。」
口止めをする必要がないのは正直にいってしまえば助かる。バレてしまえば、きっと捕まえようとするはずだ。
アラサカのデータベースで見た限り、規格外の軍用品とはその負荷は一般に出回っているものと比較にならない。デイビッドのそれだって例に漏れないはずだ。それに平然と耐えているのが不思議ではあるが、彼がそういう体質であるというだけだろう。
では、ジェームズ・ノリスはどうだったのか。その他のサイバーサイコシス患者はどうか。
サイバーサイコシスの発症はサイバーウェアの着用後すぐというわけではない。しばらく使用して、徐々に許容限界を迎え、最終的に限界を超えてしまうことで精神に異常をきたす。
デイビッドも、今この瞬間にも蝕まれているはずだ。それがついたまま、サイバースケルトンなんてそれこそ人外の力を手にすれば瞬く間にサイバーサイコシスへ落ちていくだろう。
「ルーシーさん。タナカの件ですが。」
「何?」
「依頼主が誰か、教えてもらえますか?」
「……理由は?」
「わざわざタナカ……偶然じゃなく、アラサカの重役を狙った依頼をするなら、どっかの企業と接点があるはずです。うまくいけば、ミリテクと繋がることができる。」
「はぁ?あんた、アラサカの社員でしょ。ミリテクの情報を売りつけて出世したいって?」
「違いますよ、ミリテクを味方につけたいんです。」
「なんで?」
「俺が知ってるあいつは、ミリテクに追い詰められた結果、破滅するから。」
「……あいつはリーダーだけど、私はあくまでもあいつのチームメンバーなだけ。そいつが誰かは知っていても、連絡先は知らないし、直接話したりもできない。」
「それでもいいです。」
「名前はファラデーよ。タナカの情報をずっと狙ってた。それこそ……デイビッドの初仕事からそうだったんじゃないかしら。」
「初仕事、ですか?」
「ええ、あいつの社用車のルートを暴くって仕事だったんだけど失敗しちゃってね。運転したことないのにサンデヴィスタン使って無理矢理に追跡を振り切ろうとしたの。」
「へー、そんなことが。社用車のルート……ファラデーか、覚えておきます。」
ミリテクと繋がっているであろうフィクサーの情報。これは前々から欲しかったものだ。もちろん、そいつの見た目とか連絡を取ることもできないが、前に進めたことは確かだ。
それ以来、二人は頻繁に情報交換をした。デイビッドを狙う影を協力して倒し、アラサカが関係する依頼は積極的に情報を売る。チームで行動することはあまり無く、お互いが通信越しに話をするかデータのやり取りを行うくらいだが、それでも二人は浅くはない共闘関係を結んでいた。
「先輩、これで俺が解析可能な部分は終わりです。これ以上はパーツが細かすぎて、処理が追い付かなくて。」
「そうか。顔写真6枚と人名3件、大手柄だ。」
「ありがとうございます。」
そんなのはもちろん嘘だ。ルーシーが念入りに破壊したデイビッドの情報以外でイーサンに復元できない箇所はない。ただ、この情報を元に誰かがデイビッドに辿り着いてしまったら。データの完全復元が叶ってしまったら。
完成形がほとんど見えてきた今では、イーサンの修復速度で大体2週間もかからないくらいだろう。その内にデイビッドが特定される可能性が出てくる。
ファラデーというフィクサーの情報は相変わらず収穫なし。サイバーパンクの知り合いはルーシーくらいしかいないし、彼女も積極的に情報を明かすようなタイプではない。少なくとも、今の自分との関係性ではそうだ。
つまり、他のフィクサーとの繋がりもない。他の企業とのコネクションもゼロ。勤務先の向かいに聳え立つミリテクでさえ、その内部に何を飼っているのか知ることはないのだ。見えないところまで知ることなど不可能である。
それから1日だけの休みを経て、無事に長官命令なんていう大仕事から解放され、通常の業務に戻ることになったイーサンは困惑した。
「あの、先輩。」
「どうした?」
「その、俺の通常って、何したらいいんですか……?」
「……ああ。」
一瞬呆けたような表情になった
今思えば初仕事にそんな大役を押し付けるなと文句のひとつも出てくるが、なんだかんだで出来ることはした。出来る限りを尽くしてはいないが。
「そうだな、今のところは……ゼータテク、フユツキにいるスパイから送られてきたデータの解析を頼む。」
「ホントにいるんですね、産業スパイって。」
「……お前は防諜って意味、知ってるか?」
「さすがにそのくらいは。もしかして、バカにしてます?」
「……さて、仕事の話だが。」
この先輩は誤魔化すのがあまり上手くはないが、人を小馬鹿にするのは巧い。一発殴ってやろうかとイーサンは拳を握る。
そんなことに見向きもせず、ヴィーはモニター上でカチカチとファイルを操作する。
「ゼータとフユツキのデータはここに送られてくる。暗号化されている文章が大半だ、機密文書なら当たり前だが。」
「俺はその暗号化の解除が仕事ってことでいいんですか?」
「解除した上で、内容を要約しておいてくれ。ジャンル分け程度で構わない。サイバーウェア関連なら軍事向けとか、一般向けとか。」
「なるほど、フワッとしてていいんですね。」
「まぁ、そうだな。それでいい。」
産業スパイというものがどうやってそんな情報を抜いてきているのかは知らないが、単純にすごいものだと感心はする。機密文書なんてある程度上の立場じゃないと見せて貰えるものでもないし、あっちの仕事をちゃんとこなしながらこっちの仕事もやるなんて頭がこんがらがってしまうんじゃないか。
「仕事に関して以上だ。わかったか?」
「先輩が俺をガキ扱いしてるのはわかりました。」
「ならよし、仕事に取り掛かってくれ。」
やっぱり一発殴ろうかと改めて拳を強く握り締めた。
長らく間が空いてしまって申し訳ない、今後の展開に上手く結び付くようにとか普段考えないことを考えて書いていたら普通に筆が止まりました。慣れないことをするものではないですね。
基本的に物語のプロットを書いたりするのが苦手で、行き当たりばったりに文章を書いています。
今後も更新が遅れることがありますが、楽しんでいただけるよう頑張っていきます。
それはそれとして、UAが4000を超えていたり、お気に入りも100件を超えていたり、評価バーが赤くなっていたり。
本作を楽しんでいただけている方がいらっしゃるようで嬉しいです。ご感想も頂けて、励みになります。
誤字脱字報告、感想など大歓迎ですので軽率にコメントください。何卒、なにとぞ……!