こうして作品を公開することが初めてなので、アップするときにはどきどきしています。
投稿後に随時ここは違うなって思うところを修正しているので作者としては割とダメな方かとは思いますが、楽しんでいただけているでしょうか?
ご感想等、お気軽に送ってもらえたらと思います。
それでは本編へどうぞ。
イーサンは急いで階段を降りて、デイビッドに駆け寄った。その足音に反応したのか、好奇や警戒の視線が突き刺さるが、そんなものは気にならない。
デイビッドが学校から姿を消して、たったの数日。なんでもない学校生活が、本当に淡々としてしまって、どこか寂しさを感じていた。
「元気そうで、良かった。」
「そっちこそ。」
デイビッドの隣にいた大男は気を使ってくれたのか離れていく。色とりどりのネオンライトが場を照らしていて、デイビッドが照れくさそうにポケットに手を突っ込み、顎で植え込みに行けと指示を出す。
大男やら小さな少女やら、デイビッドを気にしていた人たちに少しばかり会釈をして、先に歩き始めたデイビッドに着いていく。
「……連絡、しなくてごめん。」
「気にしないで。元気そうで何より。」
デイビッドは顔を俯かせたまま、ぼそぼそと言った。イーサンは微笑を浮かべてそれに応える。立ち尽くすデイビッドを横目に、イーサンは植え込みに座った。
「炭酸、苦手じゃなかった?」
「え?ああ、これ。受け取っちゃったからさ。」
「そっか。」
しゅわしゅわと微かに音を立てるコップの中身にデイビッドは困ったように笑い、屋台の方に向き直る。
その姿がやけに眩しくて、イーサンは驚いて目を丸くした後、また微笑みを浮かべてデイビッドが見ている方向を見る。
「あの人たちは?」
「みんなサイバーパンク。俺の……」
言い淀むデイビッド。屋台側からちらちらとこちらを窺う視線はデイビッドを心配しているようで、学校の時のようなことにはなっていないのだろう。
「俺の、仲間、かな。」
デイビッドは照れながらそう言ってのけた。少しばかり疑問符が浮かぶような語尾と、頬を掻く仕草。学校でも見せなかった表情に少しばかりの嫉妬心もあるが、なんだかんだで楽しそうな彼を見ればそんなものは吹き飛んでしまう。
「……そっか。」
イーサンはそれ以外に何も言えなかった。学校に戻ってきてほしいだとか、コーポに勤めようだとか、そういった台詞は今のデイビッドに伝える気にもならない。明らかにこちらの方が充実しているように見えるのだから。願望をしまいこみ、デイビッドが苦手な炭酸を飲み込んで噎せる姿に笑った。
「背中のインプラント、どうしたの?」
イーサンはデイビッドの煌めく機械の背骨に気づいた。少なくとも、デイビッドは眼球と左手以外にサイバーウェアを移植していなかったと記憶している。そんなものは付いていなかったはずだ。
「ああ、これ?母さんの形見、みたいなもんかな。」
「グロリアさん、そんなの付けてたっけ?」
「違う違う、母さんは持ってただけ。俺にBD流してたリパーに入れてもらったんだ。」
「そうなんだ。カツオ殴るために入れたとか?」
「あー……まぁ、ね。」
「あいつ、教室でずっと痛い痛いって喚いてたよ。」
「え、わざわざ見に行ったの?」
「良い気味だった。」
「……そりゃ良かったよ。」
人を殴ったことに対してバツの悪そうな顔をする程度にはデイビッドは優しい人物だ。だからこそ、サイバーパンクなんて生き方はきっと彼には合わない。この先、人を殴ることはおろか、人を殺すことだってあるのだろう。きっと彼はそれを躊躇うし、その隙に撃たれてしまうかもしれない。
それでも、イーサンはデイビッドの選択を尊重することにした。彼が望んだ道か、はたまた強要された道かはわからない。それでも、今この瞬間のデイビッドは明らかに前よりも良いと言える。
「そういえば、エタンは何でこんなとこに?」
「バイト帰り。早く終わったから回り道して帰ろうと思ってさ。そしたら偶然デイブが居て。」
「バイトなんてしてたの?」
「お世話になったバーで簡単な手伝いをしてるんだ。注文聞いて届けて、掃除するくらいしか出来ないけどね。」
「へー、知らなかった。」
「週末だけだよ。エル・コヨーテ・コホってお店。俺たちが酒飲めるようになったら学校卒業してるけどね。」
「じゃあさ、エタンがコーポ入って、俺も稼げるようになったら一緒に飲みに行こう。」
「俺から情報を獲るなら奢ってもらうよ、なんて。」
「そん時は友達価格でよろしくな。」
「そうならないことを願ってほしいなぁ。」
将来の話なんて初めてしたんじゃないだろうか。学校では将来の夢を語るよりも企業戦略を考えるほうが多いのだから。
「さて、デイブとも会えたし、いろいろスッキリしたし、俺はそろそろ退散しようかな。」
「え、もう帰っちゃうの?」
「仕事の打ち上げみたいなもんでしょ、これ。俺が水差しちゃ悪いし、デイブも仲間の皆とちゃんと交流して来な。」
イーサンは立ち上がってデイビッドの背中を押す。少しよろけた後、振り返ってお互いに向き合う状態に。
「いつでも連絡してよ、友達なんだからさ。」
「もちろん。仕事であった面白いこととか、話してやるよ。」
「楽しみにしておく。」
拳をぶつけ合っていつかの約束をする。手を振って、デイビッドは屋台の方へ、イーサンはほの暗い道路へ、それぞれ歩いていった。
「ドクター、今いい?」
「イーサンか。どうかしたか?」
イーサンがふらりと立ち寄ったのはヴィクターの診療所だ。ヴィクターは珍しく手術用の椅子の前に居て、機材を何やら動かしている。
「結果報告、というか。って、もしかして手術明けだった?忙しいなら出直すけど……」
「いや、今は片付けてるだけだ。お前は気にしなくていい。」
カチャカチャと音を立てながらも、イーサンに気を向けているのは確かだ。その言葉に甘えて、イーサンはいつもの椅子に身体を預けた。
「それで、どうしたんだ?」
「この前さ、友達の話したじゃん。学校辞めちゃった子。」
「ああ。自分の思いの丈を伝えられたか?」
「ううん、無理だった。そいつさ、サイバーパンクになるんだって。もう仲間も居て、なんか仕事終わった後の打ち上げ現場にばったり遭遇しちゃってさ。」
ヴィクターの手術台からコロンとなにかが落ちた。ヴィクターは気付いていないようだから、とイーサンが拾いに行くとそれは眼球のサイバーウェア。生きているんじゃないかと見紛わしいそれが、イーサンをじっと見つめている。
「それで?」
「眩しかった。学校にいた時じゃ考えられないような、楽しそうな感じでさ。説得する気も失せちゃって。」
「お前はそれで満足できたのか?」
「そりゃ、サイバーパンクなんて危ない生き方はしてほしくはないけど……でも、あいつは学校なんかにいるより、サイバーパンクとして生きる方がもしかしたら性にあってるのかも。学校にいるときより、明るい顔してた。」
「後悔をするかどうかなんてのは、その時になってみないとわからないもんだ。選択を間違えたかどうかも、その時にしかわからない。」
目玉は無機質な虹彩でひたすら見つめている。反射して映る自分の顔に少しだけ恐怖した。そのサイバーウェアを受け取りながら、ヴィクターはくしゃくしゃとイーサンの頭を撫でる。
「うわっ」
「お前は後悔しないような人生を歩めよ。」
「……うん。」
いつの間にか片付けは終わったらしく、眼球のサイバーウェアを仕舞うとヴィクターは席に座ってイーサンに向いた。
「話はそれだけか?」
「あ、別もある!あのさ、背骨をまるまる換装するサイバーウェアって知ってる?」
「背骨?ああ、俺のところにもないわけじゃないが……カタログでも見てみるか?」
「あ、見たい見たい!」
ヴィクターはごそごそと机の上を漁り、一冊のカタログを取り出した。イーサンがそれを受け取り、ぱらぱらと捲り始める。
「急に基幹システムなんてどうしたんだ?」
「その友達がつけててさ、何つけてるんだろうって思って。」
「ほう……少なくともお前の歳で付けるもんじゃないが……」
「そうなの?」
「負担が、な。下手すりゃサイバーサイコになっちまう。」
その一言にイーサンは固まり、ヴィクターへ顔を向ける。
「もちろん、お前達でも付けられる弱い効果のものもある。が、俺は薦めない。せいぜい大人になってからだな。」
「う、うん、わかった……」
「サイバーサイコの兆候は付けて一度でも使えば顕れると思うが、そいつには特に何もなかったか?手足の震え、焦点が定まらない、幻覚に幻聴、苛立ちやすい。」
「……特に思い当たることはない、かな。会ったときはそこまで気にしてなかったからかもしれないけど。」
いつも通りのデイビッドだったと感じた。むしろいつもよりも苛立ちは少なそうで、いつもの癖―彼はストレスを感じると足を小刻みに動かす―は無かったように思える。どこかを見て少しだけ顔をしかめたような気もするが、些事だろう。
「それならいい。ただ、何かあったらそいつを付けたリパーか俺に報告しろ。いいな。」
「うん、気を付けておく。ありがとう、ドクター。」
「おう、また何かあったら聞きに来い。」
「あ、このカタログ、貰っていってもいい?」
「いいぞ。うちじゃそんなの付けに来るような奴いないからな。」
「ありがとう、ちょっと知っておこうと思って。」
「ハマりすぎるなよ。」
「はーい。」
どれだけ時間が経とうとも、いつもと同じ日常が繰り返される。今日もどこかで事件が起きたってニュースを見て、だいたいそれはギャングのせいで、今日はここかなんて他人事な感想を考えた後、学校に向かう。晴れ渡る空を貫通する太陽光に身を焼かれ、それを隠すようにトラウマチームのAVが宙を走っていく。
シティ・センターのラウンドアバウトに浮かぶホログラムの金魚は悠々と泳いでいて、その下はいつもと変わらぬ人の雑踏。アラサカやミリテクといった企業が軒を連ねているから、スーツ姿の人が多いのが印象的だ。
そんな変わらぬ世界を歩くと不意にコール音が響いた。発信元はデイビッド・マルティネス。あまり連絡を取れない状態が続いたから、久々に通話を繋ぐなと内心めちゃくちゃに喜んで通話に出る。
「おはよ、エタン。」
「おはよう、デイブ。久しぶりだね。元気にしてた?」
「もちろん。怪我とかはしてないよ。」
「それは良かった。それで、何かあったの?」
「ちょっと、聞きたいんだけど。jkってBDディレクター、覚えてる?」
「デイブが好きなスプラッタ系のBDの作者だよね、ジミー・クロサキ。」
「そーそー、それ!そのジミー・クロサキの目撃情報とか持ってたりしない?」
突拍子もなく何を行っているんだこいつは。イーサンは率直にそう思った。ジミー・クロサキは裏BDのエディター、ディレクターだ。『裏』なんだから人前に姿を見せるわけないだろ、という本音を飲み込む。
「俺がそんなの知ってるわけ……いや……」
「エタン?」
少し前にギブソンがエル・コヨーテ・コホで自慢話があるとイーサンに絡んできた。
彼もそういった刺激的なBDが好みらしく、デイビッドほどではないがいくらか見たことがあるらしい。イーサンはその記憶を掘り起こす。
「それらしい人をグレンの辺りで見た、ってのはちらっと耳にした、気がする……」
「グレン?ヘイウッドの?」
「そうそう、シティ・センターのちょっと南くらいに高級クラブだか高級バーだかがあるらしくてさ。エンなんとかってお店だったかな。その辺で見た、ってお客さんが言ってたような……」
「ほんと!サンキュー、助かる!」
「……あんまり危ないこと、すんなよ。」
「わかってる、大丈夫だって。じゃあまた!」
「うん、また。」
嵐のような電話だったが、デイビッドが元気そうだったことでイーサンは心なしか口元が緩む。彼も元気に頑張っているのだ、自分も早く卒業して仕事に就けるようにならないと。イーサンはそう意気込みながら、学校のエントランスを潜っていく。
デイビッドが何をしていたか、という視点は
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いる
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いらない
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どちらでも