ダブルフェイス!   作:川内かまぼこ

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ずっと前から書きたいと思っていた2次創作をついに書くことにしました。完結まで持っていきたいです。


厄災の双子
第1話


カンピオーネとは覇者である。

天上の神々を殺戮し、神を神たらしめる至高の力を奪い取るが故に。

カンピオーネは王者である。

神より簒奪した権能を振りかざし、地上の何人からも支配され得ないが故に。

カンピオーネは魔王である。

地上に生きる全ての人類が、彼らに抗うほどの力を所持できないが故に。

そして、また新たにカンピオーネが誕生する。

 

「新しいチャンピオンはどんな人だろうねアヴゲイル」

 

「どんな人だろうね?ジャンヌ」

 

喪服のような黒いドレスに身を包んだ2人の不気味な双子がロサンゼルスの空港で飛行機を待っている。彼女たちは世界で4人しかいない神殺しの魔王の中でも、新参である“伯爵”が結成したカルト宗教“黒の使徒(ブラックサーヴァント)”の構成員である。彼女たちは“伯爵”の命令によりこの度中南米にて誕生した4人目のカンピオーネの調査をしに日本へと向かう途中である。

 

「日本、楽しみねジャンヌ」

 

「どこから観光しようかアヴゲイル」

 

「ダメよジャンヌ。お仕事が先でしょ」

 

「ごめんなさーい。でもアヴゲイル、“伯爵”が知らないことなんて私たちが調べても分かるの?」

 

「違うわジャンヌ。私たちは4人目のチャンピオンを調べるために行くんじゃなくて、試しに行くのよ」

 

新参でありながらカンピオーネの中でも最も謎に包まれた存在が“伯爵”である。自身の情報は外に漏らさず、しかし他人の情報はなぜか知っている。それが、“伯爵”ことジョン・ドゥである。

 

「私たちはただあの方の指令に従うだけよジャンヌ」

 

「わかったはアヴゲイル。つまり、新しいチャンピオンを呪殺せばいいんだね」

 

「もう、ジャンヌったら本当にわかってる?」

 

クスクスと不気味な笑みを浮かべる双子は遠目から見ても近寄り難い雰囲気を醸し出している。彼女たちの求める4人目のカンピオーネとはいったい誰なのだろうか。

 

******

 

「へいわだーー」

 

彼の名は蘭丸(らんまる)。大学3年間を無駄に過ごした挙句、残りの学費を先月中南米のメキシコ旅行でに注ぎ込み見事に中退した実績を持つ。現在は母の叱責から逃れるために地方の片田舎にある祖母の家に身を寄せていた。スカジャンに白のインナーイージーパンツといういかにもチンピラ風のファッションをしており、首から安全運転の御守りを下げている。常に裸足に下駄をはいており、髪は赤みがかった茶髪で畑仕事をする姿は田舎ではなお一層目立っていた。

 

「たいくつともいうーー」

 

成人しているとはいえまだまだ遊びたい年頃の青年である。片田舎で畑を耕す日々に飽き飽きしてきているところだった。

 

「らんちゃんお茶が入ったばい」

 

「おばあちゃん」

 

蘭丸の祖母、静江(しずえ)である。祖母と言うにはあまりにも若々しく、まだ30代と言われても納得する様な美貌を持っていた。我が家の家系の女性は皆、ある一定の年齢になると老けなくなるらしく、その姿は正直童顔と言うより年をとっていない様にみえる。祖母は蘭丸たちが母親から金を借りパクして逃走中にも関わらず快く世話してくれていた。

 

「おばあちゃん(かおる)は?」

 

「かおるちゃんは今近所の金さんのところにおつかいにいってもらっとる。もうすぐ帰って来ると思うばい

 

そう言った瞬間に激しいエンジン音と共に軽トラックが超スピードでこちらに向かってきたと思えばドリフトをきめ、畑スレスレの位置で停車した。車から降りてきたのは赤が強い茶髪を腰まで伸ばして、オーバーサイズの下には白いワンピースのみと言う薄着でこちらも裸足に下駄というスタイルの女性。蘭丸の半身である薫である。

 

「今帰ったよー!おばあちゃん!」

 

「おかえりかおるちゃん」

 

「おい、薫!その軽トラどうした!」

 

「金さんにもらった!」

 

「いや、お前免許持ってねえだろ!」

 

薫と蘭丸、背格好容姿に類似点が多く、側からみれば同一人物にしか見えない。違うところといえば性別ぐらいなものである。

 

「細かいことは気にすんなよ蘭丸」

 

「細かいことじゃねえーよ!普通に捕まるわ!」

 

容姿に差異はほとんどない2人だが、性格は正反対なところが多い。

 

「ほらほら双子で喧嘩せんと、兄妹仲良くせんばいかんばい」

 

「いや、おばあちゃんはちょっとは気にしようよ」

 

「おばあちゃん!今日のおやつなにー!」

 

あまりに能天気すぎる薫に呆れ返っていた蘭丸だが、何かを思いついたが如く薫から軽トラの鍵を貰い、祖母に「今日晩御飯いらないから」と言って軽トラに乗ってどこかに出かけて行った。ちなみに、彼も無免許である。

 

******

 

「ここが日本、もっと都会だと思ってた」

 

「しょうがないわジャンヌ。ここは日本の都市部じゃ無いんだもの。どこの国も都市部以外はこんなものよ」

 

ついに日本に降り立った不気味な双子。彼女たちは目的のため動き出そうとしている。

 

「アヴゲイル、仕事が終わったら秋葉原に行きましょう。私一度行ってみたかったの」

 

「そうね早く終わらせて存分に観光しましょう。じゃあ、さっそくお願いねジャンヌ」

 

「任せてアヴゲイル」

 

ジャンヌは自身の黒い水晶がついた首飾りを外し、ダウジングの用に手に持ちかざす。

 

「悪魔さま悪魔さま。あなたの敵である神殺しはどこ?」

 

ジャンヌがそう問いかけると先ほどまでピクリともしなかった水晶が1人でに動き出す。双子はその指し示す方へと向かって、歩みを進める。彼女たちがカンピオーネと接触するまであと僅か。

 

******

 

「ただいまあー」

 

「おかへり〜」

 

太陽が沈み、夜が深くなってきた頃、ようやく蘭丸は祖母の家へと帰宅した。自宅に上がって真っ先に強い酒の匂いに襲われた蘭丸は急いで居間へと足を運ぶ。するとそこには薫がほとんど下着姿で、酒瓶に直接口をつけてごくごくと飲んでいる姿が目に入った。周りには既に飲み干したと思わしき酒瓶が4、5本転がっている。

 

「おい、いつから飲んでんだよサケカス」

 

「かれこれにじかんほろ。いいでひょこれ〜きんしゃんからもらったのぉ〜。いも!むぎ!こめ!しょうちゅうせっしょ〜」

 

「いや、金さんもお前1人で飲むようにって渡したわけじゃねぇだろ」

 

自身の半身の酒癖の悪さには毎回手を焼く蘭丸。しかし、薫も納得がいかないと言いたげな顔を蘭丸に向ける。

 

「なんだよーらんまるこしょどうれぱちんこかすろっろにいってたんらりょーおばあちゃんかりゃのおこづかいとかしてりゅすろかしゅにいわれたくないも〜ん」

 

とまたぐびぐびと酒を飲む薫。そう何を隠そう蘭丸・薫が大学3年間を無駄に過ごしたのは酒癖とギャンブル狂いのせいである。

 

「仕方ないだろ。定期的にスロット見ないと頭おかしくなるんだから」

 

「すろかしゅきめ〜」

 

「サケカスよりマシだ。それより早く服着ろ。客が来るぞ」

 

「んあ?」

 

蘭丸は半ば強引に服を薫に着せて外へと連れ出す。外に出たちょうどのタイミングでタクシーから2人の少女が降りて来る。顔は瓜二つなため双子だろう。メイクのせいか顔色が青白く不気味だが、2人とも紛れもない美少女である。タクシーは双子が降りるとそのまま闇の中に消えていった。

 

「はじめまして、恐ろしくも悍ましい神殺しの魔王よ。私たち魔術結社“黒の使徒(ブラックサーヴァント)”の構成員。私は姉のアヴゲイルと申します」

 

「同じく妹のジャンヌと申します」

 

双子は丁寧に深々と頭を下げた。

 

「おっすオラ薫!」

 

「俺は蘭丸よろしく。で?おたくら何しに来たの?」

 

双子は顔を見合わせクスリと笑った。その姿があまりにも揃い過ぎていて不気味であり、美しくもあった。

 

「おそれながら我が親愛なる協力者より新しきチャンピオンに託けを賜っておりますジャンヌ」

 

「はいアヴゲイル。我が親愛なる協力者“伯爵”からのお言葉を読み上げさせていただきます。“親愛なる我が同胞であり後輩である新たなチャンピオン蘭丸薫へ。私は皆から伯爵と呼ばれている名もなき君の同胞だ。皆からはジョン・ドゥ伯爵などと呼ばれている。まずは、まつろわぬ神を倒し新たなるチャンピオンの仲間入りをしたことに祝福の言葉を送らせていただく。おめでとう。しかし、聞けば君は今まで魔術や神とは縁遠い生活をおくっていたと聞く。それではこれから大変だろうから、私の友人に君の手助けをする人員を割いてもらった。今、君の前にいる2人だ、好きに使ってくれたまえ。まだまだ話し足りないが、それは君と直接会える時まで取っておくとしよう。では、君の神殺しとしてのこの先の人生に大いなる刺激と混沌があることを願っているよ。君の親愛なる友人より”託けは以上になります」

 

読み終わるとジャンヌの持っていた手紙がボッと青白い炎を身に纏い、あっという間に燃え尽きてしまった。

 

「ということですので、今日より私とジャンヌがお側でお仕えいたします」

 

「どうぞよろしくお願いします」

 

と言って、双子はドレスの両裾を持って深々とお辞儀した。

 

「え〜やったあ!こんなかわいくておにぎょうさんみたいなこがふたひもそばにいてくれるの〜うれひいい」

 

「馬鹿か!明らかになんかの企てがあるだろうが、こっちはこの馬鹿とおばあちゃんの世話と金をスロットに溶かすので忙しいんだ。帰ってくれ」

 

その2人の言葉に双子はまたもや同時に向き合ってニコリと笑う。まるで今から行うイタズラが楽しみでしょうがない子供のようだ。

 

「お断りされてしまったわねジャンヌ」

 

「どうしようアヴゲイル」

 

「きっと私たちの有能さを知らないからよジャンヌ」

 

「じゃあ、私たちの力を示せばいいのかしらアヴゲイル」

 

「ええきっと受け入れてくださるわジャンヌ」

 

「それじゃあ始めましょうアヴゲイル」

 

双子は向かい合って両手を合わせ握り合う。その動きはまさに一心同体。そのあまりの美しいシンクロに見惚れていて2人は気づかなかった。自身の身に禍々しく黒ずむ杭を投げつれられたことを。

 

「いって!!!!」

 

黒き杭は蘭丸の足の甲に深々と突き刺さった。

 

「エリ・エリ・レマ・サバクタニ。主よなぜ我を見捨てたもう」

 

「憎悪と絶望のゴルゴタの言霊。神をも傷つけるゴルゴタの丘の冷気を纏わせた杭です。たとえチャンピオンであっても傷を負わせられるですよ」

 

ふふふっと不気味に笑う双子たち。痛みに顔を歪める蘭丸。それを見てゲラゲラ笑う薫。

 

「いって!!!!くそいて!!!!!」

 

「あははは!なにしてららんまりゅ〜」

 

「クソが‼︎何わろてんだ薫!クソクソクソ!」

 

蘭丸は自身に突き刺さった杭を引っこ抜く。

 

「クソ痛え!ムカつく!やるぞ薫!」

 

「よっしゃあ〜やるぞ〜」

 

薫は持っていた酒瓶の残りを飲み干して空になった瓶を放り出す。薫と蘭丸は拳を突き合わせた。その瞬間に2人の頭上に黒曜石でできた鏡が虚空から現れる。

 

「せかいでいちばんしんらいしてりゅ」

 

「俺も」

 

2人の拳には太陽をモチーフにしたお揃いの入れ墨が入っている。その言葉を口にすると黒曜石の鏡は割れて黒い灰が薫に集まっていく。

 

「さあけんかだけんかだ!まけたらわたしがあきるまでチュッチュしてだきしめてやる!」

 

薫が走り出すとその姿が徐々に変わっていく。肌に斑紋が浮かび上がる。体型は猫背になり、四足歩行になっていく。その姿はまさしくジャガーだが、普通のジャガーよりもひと回り以上巨大な姿。その姿で猫まっしぐらに双子へと突っ込んでいく。

 

「あら、こちらがチャンピオンだったのね。それじゃあジャンヌお願い」

 

「わかったわアヴゲイル。悪魔様悪魔様お力をお貸しください」

 

ジャンヌの周りに突然風が吹き荒れる。風は竜巻をおこし、ジャガーとなった薫に向かっていく。

 

「うわあー」

 

突風に巻き込まれた薫は吹っ飛んでいった。

 

「そちらはまかせたわジャンヌ」

 

「まかせてアヴゲイル」

 

竜巻はジャンヌの背中に束ね、羽のように収束していく。その風に乗って、宙に浮き空を飛んだ。ジャンヌは吹き飛ばされた薫を追って飛び立つ。

 

「お互いに自分より優れた妹がいると大変ですよね。私の妹は悪魔憑きで一時的になら悪魔の力を使うことができるんです。しかも、ジャンヌに憑いている悪魔はとある神話では悪霊の王とまで呼ばれた存在です。いかにチャンピオンでもそう易々とはやられませんよ」

 

「あいつは妹じゃねぇ」

 

「あら、お姉さまでしたか。じゃあ、弟として誇らしいでしょう。自身の姉が神殺しの魔王なのですから。あのジャガーの姿、南米に現れたまつろわぬ神から簒奪したことを考えるとテスカトリポカから簒奪した権能でしょうか」

 

にこりと笑うアヴゲイルの手には先ほど投げた杭と同じものが握られている。その姿に苛ついた顔で睨み付ける蘭丸。

 

「わかってねぇな。俺とあいつは2人で1人だ」

 

(最初に見た時に私たちと同じ双子で驚いたわ。“伯爵”からは何も聞いていなかったもの。女性の方がチャンピオンかと思ったけど、よく考えたら常人なら心臓麻痺で死んでしまうゴルゴタの丘の冷気をうけて無事だということはこちらがチャンピオンなのかしら。だとしたらあれはジャガーになる権能ではなく、ジャガーに変える権能?なら、私も触れられたらダメかしら)

 

「こいよ、さっきの礼だ。めちゃくちゃにしてやる」

 

アヴゲイルは一度考えるのをやめ、杭4本にゴルゴタの丘の冷気を纏わせる。今自身の目の前にいる蘭丸がカンピオーネかどうか再び確かめようと杭を放つ。

 

「我が敵を穿て!聖杭よ!」

 

「…イツトリ」

 

蘭丸が懐から取り出したるは刃渡12センチ、全長23センチほどの黒曜石のナイフである。彼はそれで自身に飛んでくる杭を全て払い除ける。

 

「それは…」

 

「遥か昔、アステカ帝国で生贄にトドメを刺すために使われた神具。これには生贄文化の信仰心と生贄たちの怨念が染み付いている」

 

(これほど禍々しい神具を使っても使用者に害が見られない。やはりこちらがチャンピオンだったのね)

 

アヴゲイルは自身の選択ミスに内心舌打ちをする。カンピオーネの相手は本来妹のジャンヌの役目だからだ。自身ではカンピオーネに対抗できないのを彼女が一番知っているからである。

 

(でもそれならジャンヌの相手はチャンピオンではないということ。なら、そう時間が経たずにジャンヌは彼女を倒して私の元に来るはず。そしたら2人でこのチャンピオンの相手をすればいい)

 

しかし、ジャンヌは魔女故か自身の安否より、自分より圧倒的に強い妹に何故か嫌な予感を感じ取っていた。

 

******

 

「ギャハハハハハハハ!!!!!」

 

(なにこいつなにこいつなにこいつ)

 

ジャンヌには自身の能力に誇りと少しの驕りを持っていた。一族の中でも最も早く、そして最も悪魔の力を引き出すことが自分にはできたからである。この力さえあればチャンピオンにも引けを取らないと自負していた。しかし、その甘い考えは目の前の強者によって解らせられることになる。

 

「ギャハハハハハハハ!!!!!!たのしいねー!!!!!」

 

(完全に遊ばれてる)

 

森の中に入ったのが悪かったのだろう。そこは完全にジャガーとなった彼女のフィールドだった。笑いながら高速で木から木へと移動する薫の動きを目で捉える事がジャンヌにはできないでいた。

 

「どうしたの〜?おびえてるの〜?かわいいね〜!!!!!」

 

あの巨大で音もなく木々を飛び交い、闇に溶け込むジャガーに、確実に迫り来る脅威にジャンヌは死の恐怖心を抱いていた。

 

(やだ!死にたくない、アヴゲイル!)

 

「こっちだよ‼︎」

 

声のした方を振り返ることもできずにジャガーの爪の餌食になるジャンヌ。背中から右肩にかけてできた傷から血が迸る。確実に重症だ。

 

「きゃあああ!!!!!」

 

「いい声で鳴くね‼︎もっと聞かせて!!!!!」

 

完全に舐めていた、驕っていた。自身の力は決してカンピオーネに引けを取らないと。そんなジャンヌのプライドはいまの傷と一緒にズタズタに引き裂かれた。薫はなおも追撃を喰らわせようとジャンヌに突進する。

 

「いただきま〜す!!!!!!」

 

(ごめんなさいアヴゲイル。私死んじゃう)

 

死を覚悟したジャンヌの前に人影が現れた。

 

「いただくな馬鹿」

 

ジャンヌと薫の間に割って入ったのは蘭丸だ。蘭丸は今にも噛みつこうとしている薫に対して右腕を差し出した。蘭丸の腕は薫に噛み砕かれ血飛沫が溢れ出る。

 

「キマリ過ぎだ。目覚せ」

 

蘭丸の血をゴクリゴクリと飲んだ薫はみるみる顔を顰めていき、それと同時にジャガーの姿から元の人の姿に戻っていった。

 

「うえぇまずい。スロカスの味がする」

 

「チッいってえーな!折れたぞこれ!お前、いい加減に制御しろよ!」

 

「ごめんごめん。あの姿になるとつい調子乗って何にでも食いついちゃうから」

 

その光景を見てジャンヌはゾッとする。噛み付いた方も噛みつかれた方も常人離れしすぎていたからだ。それと同時にある最悪な結論を導き出そうとしていた。

 

(もしかして、誕生した新たな神殺しのチャンピオンは2人だった?)

 

カンピオーネ1人が生まれるのでも、あらゆる奇跡が重なった上で起こる偉業なのだ。それが2人同時にとなるといったいどれほどの奇跡が重なったのだろうか。

 

「あっほら」

 

蘭丸は無造作に左脇に抱えていた人物をジャンヌに放り投げる。

 

「アヴゲイル!」

 

アヴゲイルは意識がなくぐったりしていた。その左頬ははれており、拳の跡がくっきりと付いている。

 

「よくもアヴゲイルを!」

 

「自業自得だボケ」

 

「えー女の子気絶するぐらいの勢いで殴ったの?ひくわー」

 

「男女平等だボケ!」

 

ジャンヌはアヴゲイルをギュッ抱き締めると言霊を呟く。

 

「悪魔さま悪魔さまお願いします。私はどうなっても構いません。この男に大いなる災いを」

 

今もなおドクドクと溢れ出すジャンヌの血が方陣を描く。それと同時に風が吹き荒れ、竜巻を呼ぶ。

 

「たく、こりねぇな。教えてやるよ。俺が廻すのはスロットだけじゃねぇってことをよ」

 

蘭丸がかざした左手の甲には太陽のタトゥーが刻まれている。左手の平には翡翠の球体が現れ、それを中心に風が吸い込まれていく。ジャンヌが呼び出した竜巻もその球体に向かって吸い込まれる。霊視の力を持たないジャンヌだが、この力は間違いなくまつろわぬ神から簒奪した権能だと言うことがわかる。

 

(“伯爵”はなんでも知っている。だけど、全てを教えてくれるわけじゃない。新しいチャンピオンは2人同時に誕生したんだ)

 

薄れゆく意識の中、ジャンヌはこれからこの新しきカンピオーネ達が呼び起こす厄災を憂う。この時代にカンピオーネは5人誕生してしまったのだ。しかも、この2人は兄妹である。決して結託しないカンピオーネが結託するこの恐ろしさはこの上ないことだ。未来に絶望しながらジャンヌの意識は闇に溶けていった。

 

******

 

『古の巨人を駆逐するジャガーの戦士の権能、古き時代を終わらせ、新しき時代を切り開く自由なる風の権能。やはり、神殺しのチャンピオンは同時に2人誕生していたのか』

 

「そんなことよりも“伯爵”。あれほど我に寄越せと言っていた“黒の使徒(ブラックサーヴァント)”の双子を新参のカンピオーネにくれてやるとはどういうことだ?」

 

古びたラジオのスピーカーから流れる電子音のような声に文句を垂れるは、白銀を思わせる髪と透き通るような白い肌を持つ少女。

 

『この恐ろしさが分からないのかい大佐。僕が誕生してから6年間新しい神殺しが生まれなかったのに、ここにきて一気に2人もチャンピオンが生まれた。しかも双子だ、僕は震えが止まらないよ』

 

「我はそれより、魔女と悪魔憑きの双子が気がかりなのだよ。死んでいないか心配だ。死体だけでも取りに行くとしよう」

 

『なんだい。レディ、興味がないと言っておきながら自分は確認に行くのかい?』

 

「黙れ臆病者。我はあくまで、我の望むものを取りに行くだけだ。そのついでに新しきカンピオーネに挨拶をしに行くだけのこと」

 

少女の両脇に白髪の老執事と赤髪の若いメイドが影から這い出てきたように現れる。

 

「では日本に行くとしよう」

 

『いい旅をエリス・ヴォルフ少佐』

 

******

 

「んん〜ん」

 

身体の痛みにより、目を覚ますアヴゲイル。片方の頬がズキズキと鈍い痛みを放っている。アヴゲイルの隣にはスースーと寝息をたてている妹ジャンヌがいた。こちらはアヴゲイルよりも明らかに重症のようだが、見たところ命に別状はなさそうだ。

 

「あっおきた?」

 

声のする方へとアヴゲイルは目線をうつす。声の主である薫は自身の手の爪に黒いマニキュアを塗っている。塗っている右手の甲には太陽のタトゥーが刻まれていた。

 

「昨日ので剥がれちゃって、ぬりなおしてんだー」

 

朗らかな薫の声には一切の敵意はない。アヴゲイルは自身のいる空間を見渡す。よくある日本家屋の六畳一間である。

 

「蘭丸ならいないよ。また、スロットしに出かけたから」

 

「ここはどこですか?」

 

「私のおばあちゃん家。あっそうだ。おばあーちゃーん!」

 

その声に反応して襖の向こうから足音がする。襖があき、優しい顔立ちの老女が現れた。

 

「どがんしたと?かおるちゃん。あら、お友達起きたとねぇ。はじめまして、らんちゃんとかおるちゃんの祖母の東雲静江(しののめしずえ)といいます。かおるちゃんたちから聞いたんやけど、崖崩れに巻き込まれたんやってね。大変やったやろ」

 

頭に疑問符が浮かぶアヴゲイル。いったい自分達はいつ崖崩れにあったと言うのだろうか。と思っていると静江の後ろで薫が唇に人差し指を当ててシーッという合図を出している。どうやら、昨日のことを全て崖崩れのせいにしたいらしい。

 

「でも怖かねぇ。山が一個無くなる崖崩れとか今までなかったばい。本当に怪我する人がおらんくてよかったばい」

 

「え?」

 

静江が入ってきた襖とは反対方向の障子を開けると外の景色が見える。そこには昨日まであったはずの山が跡形もなく消え去っていた。アヴゲイルが唖然として薫に視線を戻すと気まずそうに視線を逸らしていた。

 




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