ダブルフェイス!   作:川内かまぼこ

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第一章「厄災の双子」次回完結です。


第4話

「世界で一番信頼してる」

 

「俺も」

 

お揃いの太陽のタトゥーの刻まれた拳を突き合わせ、いつもの合言葉を口にする二人。これがオセロトルの太陽の滅び“4のオセロトル”の権能の発動条件である。

 

「“第一の太陽死せり、世界を滅ぼすは数多の巨人を捕食する者なり、故に4のオセロトルなり”」

 

その瞬間、薫は黒き煙にその身を包まれる。黒ずむ煙の中より、ギラリッと獣眼光が輝く。間も無く、飛び出したのは斑紋様の毛皮をもつ通常よりひと回りも大きいジャガー。

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャガー!ジャガーになった私はさっきと一味違うぞう!」

 

ジャガーになった薫は、その野生の解放感から酔っている時と同じような感覚になる。つまりは気が大きくなり、すべてがどうでも良くなるという半暴走状態となるのだ。

 

『我が熱風は大地を干上がらせる』

 

パズズの放つ風は灼熱を帯び放たれる。その熱風に触れた大地は途端に水分をなくし、ヒビが入り、地割れが起こった。薫は地割れの起こった大地を難なくその四肢で飛び越え、熱風へと突っ込む。今の彼女には太陽の加護が備わっているため、この程度の熱風など意にも解さない。そのまま風を突き進み、薫はパズズを素通りする。

 

『…?』

 

薫はそのままジャンヌを咥え、踵をかえし蘭丸、アヴゲイルの元へとひとっ飛びで持ち帰る。

 

「はい、アヴゲイルたそはジャンヌちゅわんと一緒に避難してて」

 

「しかし…」

 

「どうせここにいても対して役に立たないんだから行けよ」

 

「ツッ……どうかご武運を」

 

アヴゲイルはジャンヌを抱え、飛翔術を使いその場を離脱する。

 

『我が巫女を真っ先に助けるとは、今までに戦ったどの神殺しとも違うな』

 

「ジャンヌちゅわんたちがいたら戦いづらいからね」

 

「足手まといがいられると戦いづらいんだよ」

 

『ふッ汝ら2人を相手にしていると奇妙な気分だ。似ているようで似ておらず、しかしやはりどこか似ておる。まるで、歪な写鏡のようだな』

 

「こんなサケカスと一緒にするなし」

 

「それはこっちのセリフなんだけどスロカス。まあ、今からが本番なんだから正々堂々やろうよ」

 

瞬間、薫は高速移動のように地をかけ、地を蹴り、パズズ目掛けて跳躍する。その爪はパズズに今度こそ届くと思われたが、パズズは旋回しその脅威の爪から逃れ、さらには追撃に熱風の渦を引き起こし、薫を吹き飛ばす。

 

「くっそー‼︎やっぱり私!四足歩行向いてない!」

 

「お前は無闇に突っ込みすぎなんだよ!ちょっとは頭使え!」

 

「なにをー!真っ向勝負のなにが悪い!」

 

「どうする変わるか?」

 

カンピオーネの権能は、ときに1柱の神から複数の権能を簒奪したものがある。そういった権能には使用条件や使用制限がある場合が多い。蘭丸と薫の権能は使用条件に発動できる順番があり、一方が権能を発動している際にはもう一方は権能を発動できないという使用制限がある。現在は薫が権能を使用しているため、蘭丸は権能を使えないのだ。

 

「まだだ、まだ1発もあいつを殴れてない。それは悔しいからやだ」

 

「ああそうかよ。好きにしろ」

 

薫は再びその四肢で大地を蹴り、パズズに向かって飛び掛かる。

 

『学習しないやつだ』

 

パズズは再び灼熱の渦を創り出し、薫に向けて放つ。薫も無策で飛び込んだわけではない。ネコ科の動物特有の身体の柔らかさを利用し、空中で身体を捻り横回転を加える。

 

「秘技!溶けるねこ!」

 

これにより、空気抵抗を軽減させ一気に突っ込むつもりなのだ。戦闘中に並列思考で、あらゆる勝ち方を検討する事に関しては蘭丸が優っているが、戦闘中の突発的な発想力や応力力は薫が優っている。いわば野生の感であり、その行動力はまさに何を仕出かすか分からないのだ。

 

「まずは1発!」

 

結果、薫の爪はパズズの身体に届いた。薫の一撃はパズズの方翼の一枚を切り裂く。

 

『くッ⁉︎やはり貴様ら神殺しはなにを仕出かすか分からぬな‼︎』

 

「あと2、3発喰らわせてやる!」

 

地上に着地した薫はそのまま第二撃目を加えようと大地を蹴り、跳躍する。

 

『さて、そう簡単にいくかな?』

 

薫が再び天に向かって喰らいついた瞬間であった。山の木々の葉が一斉にざわめき、動き出す。いや、よく見ればそれは葉ではなく。飛蝗と呼ばれる昆虫が葉に擬態しているだけで、あたり一面の木々の葉という葉はすべて、大量発生した飛蝗に食い尽くされていた。

 

「うわあ!!!キモ!!!!!」

 

飛蝗たちは空中の薫に群がり、自身の主人に食らいつかんとする獣に逆に喰らいつく。

 

「いたたたた!!!!!いたい‼︎いたい‼︎」

 

パズズは風の魔王と呼ばれる故に忘れがちになるが、彼は山より産まれし荒々しき風であり、大地を傷つける大地より産まれし神である。大地の神は大地を潤し、豊穣をもたらすだけがその性質ではない。その本質は死の循環であり、春に誕生し、夏に生い茂り、秋に実り、冬に死ぬというサイクルの象徴である。ゆえに旱魃や蝗害を引き起こす悪霊の王という特性を持つパズズもまた、紛れもなく大地が産み出した神なのだ。

 

『見たところ、汝の簒奪せし権能は強大なものに対して力を発揮するのだろう。ならば、我が矮小なる眷属たちに相手をさせるまでよ』

 

「痛い!いたい!蘭丸助けて!」

 

「んじゃ、バトンタッチだな」

 

蘭丸は薫に群がる飛蝗を掻い潜り、薫の身体にタッチする。すると、薫の体は再び黒ずむ煙に溶け、ジャガーの姿から人の身体へと姿を変えた。

 

「“我誕生せり、故に第二の太陽は誕生せり、故にこれなるは風の太陽なり”」

 

言霊を唱えることにより、第二の太陽“風の太陽”が発動する。蘭丸の掌には翡翠の球体が現れ、乱回転を始めた。蘭丸が球体を放り投げるとまるで風穴が空いたように、風が中心に向かって吸い込まれていく。

 

「俺が廻せるのはスロットだけじゃないぜ」

 

その風に流されて、周囲を埋め尽くしていた飛蝗たちがどんどん吸い込まれ風圧で押し潰されている。

 

「絡め手はこっちにだってあるんだよ」

 

『風の魔王たる我に対して同じく風で対抗するか面白い』

 

パズズは地上に降り立ち、はじめて地上に足をつける。流石に方翼を損傷しているためか、あらゆる物を吸い込む風穴が空いている状態で飛んではいられないのであろう。

 

「これで空と風は封じた。あんたの脅威は半減したも同然だ」

 

「いてて〜よくもやりやがったなボコボコにしてやる」

 

蘭丸は黒曜石のナイフを構え、薫は両手を前に掲げファイティングポーズをとる。

 

『我を地上に下ろしたからといって調子に乗るでない。なに、今まで我に付き合わせたのだ、次は我が汝らに付き合ってやろうと考えたまでよ』

 

「地上戦だったら俺たちはあんたに遅れは取らないぜ」

 

「私は昔から空手とキックボクシングを齧ってんだ。あと、何気にプロレスも見てる」

 

『ごたくはいい、かかってくるがよい』

 

先に地を蹴ったのは薫だった。左手を顔の前、右手を顎の下に構えた状態でパズズに近づき、左ジャブを繰り出す。パズズはその拳を己が獅子の腕で防ぐが、すかさず左ジャブを2発加え、右ストレートのコンボを放つ。が、そのどれも獅子の腕によって塞がれてしまう。なおも猛攻を続ける薫の影に隠れ、蘭丸は黒曜石のナイフで切りつけるタイミングを探っている。

 

(この二人、最初は息があっていないように見えたが一度戦闘が始まればなかなかにいい連携を見せてくれる)

 

薫の猛攻を防ぎながら、改めて2人の神殺しに対して疑問を浮かべる。それは、なぜ彼らが権能を順番に出すのかだ。いったいどんな神から簒奪すればそんなややこしい権能になるのだろうか。そんな考えがよぎると同時に蘭丸のナイフの刃もパズズの身体をよぎる。

 

(この黒曜石で作られたナイフ。一撃では神を屠るまでの力はないが、何かややこしい呪いが秘められているようだ。あまり、傷つけられるのも得策ではないか)

 

パズズは薫の攻撃をいなしながら、蘭丸に対しての警戒も緩めない。それどころか、自身の蠍の尾を使い追撃を加え始めた。薫はサイドステップで尾をかわし、蘭丸がそれをナイフで受け止めているうちに薫が攻撃を仕掛ける。

 

(素晴らしい連携だ。2人を相手にしているはずなのに、まるで1人を相手にしているようだ)

 

一進一退の攻防がつづき、両者共に集中力は最大限に高まっていた。故に、現在進行形でとある企みが進んでいる事を、企みを企てる彼以外は気づかなかった。

 

(俺が合図したら、パズズから離れろ。あとは任せたぞ)

 

(了解)

 

蘭丸は黒曜石のナイフに再び己が血を捧げ、マクアウィトルの状態へと変化させる。今まで薫が前線を占めていたが、ここに来て後退し蘭丸が前線へと躍りでた。そこに違和感を感じたのはパズズであり、そこに来て自身が誘導されていることに気がつく。しかし、もう何もかもが遅い。

 

「“第二の太陽死せり、世界を滅ぼすは数多の人類を猿に変えし大風なり、故に4の風なり”」

 

薫がそう言霊を唱えるとパズズの頭上には風穴を空ける翡翠の球体にヒビが生える。そのヒビは球体を破壊し、翡翠の結晶が薫へと収束した。途端に薫の姿が影に溶け、辺りからキーッキーッとけたたましい猿の鳴き声が聞こえてくる。猿の大群の影が現れ、その発する声に呼応するかの様に風が渦を巻き、大風を呼ぶ。蘭丸はマクアウィトルでパズズを押さえつけ、逃げられないように渾身の力をそそぐ。

 

『くッ!自らを犠牲にして我を葬るつもりか!』

 

「馬鹿が!誰がテメェと心中なんかするかよ!」

 

猿の群衆が呼び寄せた大風は、まるで巨大台風が落ちてくるかの如く、大地を穿つ。

 

『ぐああああ!!!!!』

 

「ぐうぅぅ!!!!!」

 

やがて風はやみ、土煙の中から二つの影が浮き上がる。一つは服はボロボロになり、全身に刀傷のような損傷によりズタボロになった姿の蘭丸。もう一つは4枚の羽のうち3枚はもげ、残った翼も折れてぶら下がっている状態のパズズであった。

 

「くそッ‼︎仕損じた!」

 

『風の魔王たる我が!風によって滅びる事など許されんのだ!』

 

風の魔王たる意地がそうさせたのか。蘭丸よりもパズズの方が軽傷で済んでいる。

 

『ひとつ解せぬな』

 

「ああ?なんだよ」

 

『なぜ自らを囮にした?もう1人をそのまま囮にすれば我に気付かれる前に先ほどの攻撃を当てられたのではないか?やはり、血を分けた半身を庇ったのか?』

 

「はあ?んなわけねぇだろ。俺が一番大事なのは俺自身だ」

 

『ならばなぜ自らを囮にした?』

 

蘭丸は少し沈黙し、重々しく口を開く。

 

「俺は自分第一の屑だけどな。自分第一だからこそ、自分に優しくしてくれたやつは大切にしようと思ってる」

 

『……ほう』

 

「言っておくが、薫のことじゃねえぞ。お前が依代にしてる双子の姉の方の料理は美味いんだよ!俺らのためにな丁寧に下ごしらえしてっから、なのに今日はまったくうまくなかった!」

 

蘭丸は突然激怒し、パズズに向かって怒りをぶつける。

 

「お前のせいでな、双子姉はな妹に劣等感抱きまくってんだよ!だから、お前を倒したら今よりは双子姉が妹と本当に笑えるようになるかも知れねぇだろが!」

 

『それが貴様の正義か?神殺し』

 

「正義じゃねー大義だ!」

 

蘭丸は己の視界が霞み出したことに気づく。血を失いすぎてマクアウィトルは元のナイフへと形が戻っている。あと一歩でも進めば倒れてしまいそうだ。しかし、蘭丸は勝ちを確信し、笑みを浮かべる。

 

「俺がわざわざ自分から囮になったのはな!俺が仕損じた時に世界一信頼してるやつに後を任せるためだ!風の魔王よ周囲をみろ、第一の滅びの真の姿を見るがい!」

 

『なに⁉︎』

 

周囲を満たすのは焦げ臭い黒い煙。蘭丸と薫の権能は使用条件に発動できる順番があると言ったが、それは太陽の順番ではない。重要なのは創造からの破壊、第二の太陽は沈み破滅を呼び寄せた。そして、すでに第一の太陽は沈んでいる。

 

「“ 第一の太陽死せり、世界を滅ぼすは数多の巨人を捕食する者なり、故に4のジャガーの戦士達(オセロトル)なり”」

 

周囲の煙は形を成していく。頭部はジャガーであり、マクアウィトルを所持していた。第一の太陽が沈みし時、地上の巨人たちを駆逐する数百人のジャガーの戦士たちである。

 

「「「……「「「ぶちのめすの賛成!この世には絶対に揺るぎない正義があるんだ!それはな!“かわいい”だあーーーーー!!!!!」」」…」」」

 

薫の声を発する数百人の煙のジャガーの戦士達がパズズを囲み、パズズに向けて進行を開始する。

 

『なんだこれは⁉︎貴様らはいったいなんの神を殺めたというのだ!』

 

パズズはジャガーの戦士たちの進行を熱風を起こし、妨げようとする。

 

「もう朝寝の時間だ!いい加減ゆっくり寝かせろ!三千世界の烏を絶滅させる《ジャガーの太陽(ナウイ・オセロトル)》!!!」

 

薫はパズズの抵抗に呪力を高めて対抗する。

 

『舐めるな小娘!』

 

しかし、パズズも最後の力を振り絞る。

 

「ああ、あと一歩だったな」

 

蘭丸も最後の一歩を踏み出し、自身の残りの全てを搾り出し黒曜石のナイフに込めるとパズズに対して振り下ろす。

 

「終わりだクソ神ヤロウ」

 

『おのれえぇえぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!』

 

パズズの悲痛の声が山にこだまする。

 

******

 

今川夏彦はようやく神殺しの元へと辿り着くことに成功した。車で向かう途中でいきなりまつろわぬ神が出現したという知らせ、吹き荒れる嵐のような暴風、夜中にもかかわらず登った太陽を目撃し、神殺しの実在を確信する。

 

「これが、まつろわぬ神とそれを簒奪した神殺しのみが使用できる権能の力」

 

辺り一面、あったはずの木々も民家も全てが焼け野原になっており、その中心部に二人の若い男女が倒れているのが見える。

 

「大丈夫ですか⁉︎いったいここでなにが行われたというのですか!」

 

男女ともに身体を譲るが応答はなく、体からは滝のように汗をかき、高熱でうなされる声だけが帰ってきた。

 

『さすがは神殺し、最後の最後になってやっと病の呪詛が効いたか』

 

どこからともなく聞こえてくる声に驚き、今川夏彦は辺りを見渡す。そこには黒い靄のような存在が鎮座していた。

 

『よもやこの我をあと一歩で打ち倒す寸前で二人とも倒れるとはな。人の子よ、この神殺し二人に伝えておけ。次に合間見える時こそ、決着をつけようぞ。その日まで、我はまた我が巫女の中で眠るとしよう』

 

黒い靄はそう言い残すと色が失われていき、やがて消えた。

 

「ふ、二人の神殺し?」

 

向上心が高く出世欲の塊のような彼が、出世街道から外れ、二人の神殺しの世話役になろうとは、この時の今川夏彦は知る由もなかった。

 

******

 

「いかがでしたかお嬢様。新参者の戦いは」

 

「話にならんよミハイル・ヘシアン。二人がかりでたった1柱の神も倒せないとはがっかりだ」

 

「作用ですか。では、これからいかがいたしますか」

 

「興がさめた。悪魔憑きも手に入れたのだ、日本にはもう要はない」

 

「作用ですか」と言ってミハイルは黒塗りの高級車の後部座席のドアを空ける。エリスは車に乗ると椅子に深く座り、ため息をつく。

 

「しかし、彼奴らの権能。なんの神だったかは最後まで分からなんだ。それだけが心残りであった」

 

「男性の方がケツアルコアトル、女性の方がテスカトリポカの権能ではないのですか?」

 

「戯けが。あれはどう考えても権能を分け合っておる。いや、分け合っているというのも正しい表現ではないな。まるで、一つの権能を二人で共有しているようであった」

 

本来ならそんなことは絶対にあり得ない。なぜなら、カンピオーネとは全ての神殺しの母であるパンドラが認めた戦いをし、まつろわぬ神に打ち勝った者のみがなる事ができる頂上の存在である。それを2人で協力して行い、1柱の神を打ち倒したとしても、そんなもの認められる訳がない。認められたとしても、権能を簒奪できるのは1人のみ。それがなぜ2人で共有する事になるというのだ。

 

「まあ、いずれ分かることか」

 

エリスの今回の目的は悪魔憑きの娘を手に入れる事である。なにも本気で他のカンピオーネとことを構える気はなかった。

 

「せいぜい、楽しむがいい神殺しという数奇な運命をな」

 

エリス・ヴォルフと蘭丸・薫が欧州にて激闘するのはこの数週間後の出来事である。




《五つ太陽(ライジング)》
蘭丸が創った太陽の化身を破壊する事で薫が破滅の化身に顕身する事ができる権能。一方が権能を使用しているときはもう一方は権能が使用できない。また、蘭丸が創った太陽を破壊しない限り薫は権能を使う事ができない。逆に太陽を破壊して仕舞えばいつでも薫は権能が使えるが、蘭丸は52日しないと同じ太陽は創造できない。結果、薫の権能使用期間も52日となる。
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