ダブルフェイス!   作:川内かまぼこ

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次回、決着。


第9話

巨大な石像(ゴーレム)は、現在は静止しているが蘭丸の合図ですぐに動き出す事ができようにしていた。蘭丸は地べたに横たわる薫を抱き起こし、その唇を奪う。もちろん、治癒の魔術をかけるためでもあるが蘭丸と薫は同一人物であるため、ダメージをお互いに等分する事ができる。その際は触れるだけでいいのだが、あえて経口摂取の形をとることにより、蘭丸と薫が同一人物であることを気づかれるリスクを抑えているのだ。

 

「ちょっと…乙女の唇を無理矢理奪うのは良くないよ」

 

「黙ってろ、俺だってしたくてしたわけじゃねぇ。で、どうだ動けるか?」

 

「なんとか、でもまだきついからあとは任せた」

 

薫はそう言うとスーッと寝息をたて始め、眠ってしまった。

 

「いや、じゃま。せめてどっかいってから寝ろよ」

 

「待ちわびたぞ蘭丸。これで我が勝利する条件は整ったな」

 

優美なる女主人は強者の風格で乱入者を迎え入れる。蘭丸はエリス・ヴォルフに目線を向け、迎え撃つために石像を自身の側に移動させた。

 

「王同士の戦いにはその石像は些か不細工だな。すぐさま破壊してやろう」

 

エリスがそういうと、2丁拳銃を構え連続で空砲を響かせる。空砲が鳴り響くとすぐさま雷が弾丸のように天から撃ちだされた。目算で16発ほど石像に向かって降り注ぐ。しかし、石像はまったく効いておらず無傷のままだった。

 

「こいつは雨の太陽の化身だ。雷如きで傷つきはしない」

 

蘭丸は石像に指示を出し、左手の平に自身と薫を乗せる。石像は雷が平気でも、それを操る蘭丸を狙われては元も子もないからだ。また、呑気やな寝息を立てている薫を保護する役割もあった。

 

「効かぬか、ならばこれならばどうだ?」

 

エリスはそういうと鮮やかな手つきで2丁拳銃の弾丸を装填し直す。そして、すぐさま銃口を石像に向け引き金を引く。今度は空砲ではなく、実弾が発射される。しかも、その実弾には雷が纏っていた。一直線に飛んできた雷を纏った弾丸は石像の胸板を破壊する。

 

ブウゥゥゥゥゥゥン!!!!!

 

石像から赤く染まった水が血のように迸り、石像は悲痛の声を上げる。

 

「くそッ‼︎」

 

蘭丸は己の呪力を石像へと流し込む、すると石像の傷は修復される。古来より太陽は不死の象徴である、故に太陽の化身たるこの石像も蘭丸の呪力が続くかぎり動き続ける事ができるのだ。

 

「どうやらこちらは効くようだな」

 

エリスは神速のスイッチをオンにする。エリスの身体は影へと溶け、神速で移動しながら四方から拳銃の引き金を引き雷を纏った弾丸を石像に叩き込む。蘭丸は呪力をさらに石像に注ぎ込み、石像の動きを素早くする。しかし、神速を捕らえることが出来ず石像の腕は空振りをおこす。

 

「クハハッ‼︎そんな愚鈍な動きでは当たらねぞ!」

 

エリスはさらに弾丸を撃ち込む。さらに、3発に1発は空砲で蘭丸自身を雷が襲う。それを2丁の拳銃それぞれランダムに行うので、それだけで蘭丸の集中を削いでいく。しかも、弾丸を撃ち込んだ逆方向から再び周囲の影と同化させて創り出した影の刃で攻撃を開始し始めた。

 

「どうした、どうした!防戦一方ではないか!」

 

蘭丸は石像に指示を出し、自身と薫を出来るだけ包み込ませエリスの攻撃を耐える。その間も蘭丸は身体の中で力を貯めていく。すべては逆転の瞬間に備えるために。

 

******

 

約1時間前、アストラル界にての出来事。蘭丸が薫に対して権能のアドバイスをした後、アヴゲイルと再び作戦を練っていた。そこで、アヴゲイルに蘭丸はとある提案をする。

 

「双子姉、俺にあの魔術を教えてくれないか?」

 

「あの魔術?」

 

アヴゲイルは蘭丸が魔術の才に恵まれていることを知っている。実際に彼が黒曜石を変形させ戦うのは、彼の権能ではなく錬鉄術に連なる鍛石術による者だとアヴゲイルは気づいていた。故に、魔術を教わるの自体は賛成だ。

 

「あの俺たちを最初に襲ってきた時に使ってきた奴だよ」

 

「もしかして、ゴルゴタの言霊のことですか?」

 

「そうそう、あの冷たい奴」

 

「冷たい奴って、ゴルゴタの言霊は本来なら聖騎士の位階に達した騎士しか修得を許されない、戦闘魔術ですよ」

 

神への憎悪と絶望の言霊でゴルゴタの丘の冷気を呼び出す戦闘魔術。神をも傷つける強力な死の呪詛を冷たい奴呼ばわりするのはさすがはカンピオーネと言ったところか。

 

「え?お前、聖騎士だったの?」

 

「いえ、うちは黒魔術専門の家なので騎士とは無縁です。ですが、呪詛には長けている家柄なので」

 

アヴゲイルは内心「言えない」と思っていた。

 

(家長が大金を叩いて伯爵が盗み見た“ダヴィデによる勲の書”の内容の一部を売ってもらったなんて口が裂けても言えない)

 

アヴゲイルの所属する“黒の使徒(ブラック・サーヴァント)”の構成メンバーは古き血を受け継ぐ者も数多く存在するが、所詮は西洋での権力争いや魔女裁判から逃れてきた所謂負け組の烏合の衆なのである。表向きは新興宗教のていをとっている歴史の浅い魔術結社なのでだ。しかも、現在の家長は優秀だが見栄張りの老害である。“黒の使徒(ブラック・サーヴァント)”は現在結構な資金不足なのだ。

 

「し、しかしカンピオーネには魔術はまったく効きませんからあまり意味がないと思われますが」

 

「ああ、まあでも完全に効かない訳じゃないし、何よりはあった方が便利かなって」

 

「そんな感覚で奥義を教わらないでください。それにあれはそう易々と習得できる者ではないですよ」

 

「でも、この間は薫に一瞬で魔術教えてたじゃん」

 

「あ、あれは……」

 

カンピオーネはその有り余る呪力により魔術の類が一切効かない。しかし、例外はある。それが、内側から魔術をかけること。つまりは経口摂取である。

 

「それより知っていますか?ゴルゴタの言霊と対をなすダヴィデの言霊というものもありまして実は私はこちらの方が得意なんです」

 

「へぇ〜じゃあ、それも教えてくれ」

 

「………」

 

「この間の薫にやった一時的に魔術を習得させる奴やってくれ」

 

簡単にいってくれるとアヴゲイルは恨めしく思った。しかし、ここでハッと気づく。蘭丸と薫は厳密には同一人物であるから感覚を一部共有できるということを。

 

「もしかして、わかってて言ってます?」

 

「?、キスするんだろ。早くやってくれ」

 

こいつ何言ってんだと殴りたくなった。あまりにもデリカシーというものがない。薫はあれだけ渋ったのに、蘭丸に関してはなんの照れも躊躇いもない。

 

「あの、乙女に接吻を求めるのは些か紳士としていかがなものかと」

 

「でも、アメリカの人は挨拶でよくするんだろ?」

 

この男は何を言っているんだと怒鳴りたくなった。日本人にありがちな勘違いだが、挨拶がわりにキスなんて他人ではやらない。しかも、唇通しとなれば尚更だ。

 

「あの蘭丸さま、それは偏見が過ぎます」

 

「なんだよ、薫にはしたんだろ?同一人物なんだから1回も2回も変わんねえだろ」

 

「変わります!薫さまは女性ですから、気持ち的にギリギリセーフですが、蘭丸さまは男性ですからダメです!少なくとも私は好きな殿方としかキスはしません!」

 

あまりにデリカシーに欠けた蘭丸の発言にアヴゲイルはいよいよ声を張り上げた。

 

「俺じゃ駄目なのか?」

 

蘭丸は急に真剣な顔になり、そんな言葉を吐いたため、アヴゲイルは不意をつかれてドキッとしてしまった。

 

「俺は双子姉のこと結構好きなんだけど?」

 

「な、なななな何を言っているんですか!この間はガキには興味がないとおっしゃってたじゃないですか」

 

「あれは、まあ、照れ隠し?てきな……」

 

蘭丸は真っ直ぐに見つめていた目線を外し、少し顔を俯かせる。その仕草に少し胸が高鳴るのをアヴゲイルは感じていた。

 

「駄目、か?」

 

上目遣いで懇願する蘭丸に思わず顔を背けてしまうアヴゲイル。それを見越した様にアヴゲイルの手を掴み、自身の元へと強引に弾き押せる蘭丸。アヴゲイルの心臓の鼓動が高鳴る。

 

「いやだったら言ってくれ」

 

蘭丸はそういうと自身の口をアヴゲイルの口に近づける。アヴゲイルは顔から火が噴き出すかと思うほどの熱を感じていた。

 

「いや、です……」

 

「………そうか」

 

「名前で呼んでくれなきゃ嫌です」

 

蘭丸はアヴゲイルのその力を入れれば折れてしまいそうな細い腰に手を回す。体が密着し、少女として程よく発育した胸が蘭丸の体に押し付けられる。

 

「アヴゲイル」

 

「蘭丸さま」

 

お互いの息がかかるほどに顔が近づく。

 

『類人猿が盛ってやがる』

 

突然、声をかけられたことによりアヴゲイルは蘭丸を突き飛ばしてしまう。声がした方を見ると、ジャガーの石像から微かに神気が宿っていた。

 

「いいところで邪魔すんじゃねぇよテスカトリポカ」

 

『は!俺様の前で猿どもが発情してんのが気にいらねぇんだよ!あとなあ、メス猿いくらなんでもチョロ過ぎんだろ!腐ってもそいつは俺様の神官だぜ?現世ならともかく、この領域だったら経口摂取以外で魔術をかける術がある事なんて当然知ってるんだぜ?』

 

「ちょッおまッ!」

 

「え?蘭丸さま、どういう事ですか?」

 

蘭丸はアヴゲイルからの視線から目を背ける。

 

「いや……お前、最近俺をおちょくったりチョーシ乗ってんなぁ〜と思って、ちょっと揶揄ってやろうかなぁ〜ッて」

 

蘭丸はアヴゲイルの方を見えなかった。彼女が憤怒の気に満ちているを肌で感じていたからである。

 

「蘭丸さま………」

 

「……はい」

 

「最低です」

 

「ごめんなさい」

 

******

 

蘭丸は懐から黒曜石のカケラを数個取り出し、新たな言霊を紡ぐ。

 

「ダヴィデの哀悼を聞け、民よ!ああ勇士らは倒れたる哉、戦いの器は砕けたる哉!殺めし者の血を呑まずして、ヨナタンの弓は退かず! 勇士の油を喰わずして、サウルの剣は虚しく還らず!ああ勇士らは戦いのなかに倒れたる哉!」

 

黒曜石は姿を変え、蘭丸の左手に漆黒の弓が形造られる。

 

「ヨナタンの弓よ、鷲よりも速く獅子よりも強き勇士の器よ、今こそ我が手に来たれ!」

 

青き輝きを放つ黒曜石でできた鏃の弓矢が呼び出さる。蘭丸はその矢を漆黒の弓につがえて、頭上へと解き放つ。空中に向けて放たれた矢は哀悼の呪詛が込められており、その矢は分裂し四方八方へと散らばる。しかし、神速の状態のエリスはこれを悠然たる態度で眺めているだけであった。

 

「ユナタンの弓か、ダヴィデの言霊か」

 

エリスは頭上に降り注ぐ矢に向けて銃口を向けて放つ。雷の宿った弾丸は1発のみで無数の矢をすべて消滅させる。辺り一面閃光が迸った。蘭丸はその好きに石像より飛び降りて黒曜石のナイフを取り出し、その刃を握りしめスライドさせナイフに血を飲ませる。

 

「贄の血をここに捧げる。誉れ高きジャガーの戦士よ!今こそ目覚め我がもとに新たな贄をはこべ、マクアウィトル!」

 

黒曜石のナイフは膨張し、長さ1.5m幅10センチの木板の溝に黒曜石の刃を挟めた木剣へと変貌する。さらに蘭丸は続けて言霊を口にした。

 

「エリ、エリ、レマ・サバクタニ!主よなぜ我を見捨て給う!主よ、真昼に我が呼べど、御身は答え給わず。夜もまた沈黙のみ。されど御身は聖なるお方、イスラエルにて諸々の賛歌をうたわれし者なり!我を助け給え、急ぎ給え!剣より我が魂魄を救い給え。野牛の角より救い給え!我は世界の中心にて御身を讃え、帰依し奉る!」

 

その言霊をいい終えると蘭丸の周囲に神をも傷つけるゴルゴタの冷気が漂う。蘭丸はその冷気をマクアウィトルに纏わせて、エリスに向けて振り下ろす。

 

「良いぞ、楽しませてくれる!魔術での戦いはカンピオーネになって久しい。ならば、我も久しぶりに魔術を使うとしよう」

 

エリスは呪力を高めて魔術を使うために言霊を吐く。

 

「彼の者ら、主のモーセに命じるがごとくミデアンを攻め撃ち、婦女および童を生け捕りたり!」

 

エリスがそう唱えると今まで身に包んでいた軍服にウルトラマリンのマントへが顕現し、それを羽織る。それはまるで夜の星を映し取った海の様だ。

 

「これは聖なる殲滅の特権と言ってな。欧州戦闘魔術の最高秘儀だ。ゴルゴタの言霊やダヴィデの言霊とは比にならんぞ」

 

ミデアンの殲滅。ミデアンの民と王を地上から殲滅した滅びの言霊。その青き光は周囲の影と同化したエリスの影にうつっていく。影は束になり、2匹の巨大な影の大蛇へと変わる。

 

「さあ、これはどう受ける?」

 

影の大蛇はその巨大に似つかわしくないスピードで蘭丸に迫る。蘭丸は内心舌打ちをして、一匹をマクアウィトルで受け止めた。そして、もう一匹に対しては石像へと指示をだす。

 

「捕まえろ!」

 

石像はすぐさまその手でもう一匹の影の大蛇を捕らえた。しかし、大蛇もただ捕まえられたわけではなく石像に纏わり付き締め上げる。石像にヒビがはいる。

 

「クハハッ!どうした、魔術戦はこれで終いか?」

 

「あんた相手に付け焼き刃の魔術なんて通用しないってわかったんだよ」

 

嘘である。蘭丸は最初から魔術でエリスのことをどうにかしようとは考えていなかった。蘭丸は少しでもエリスを先程散らばらせた矢の近くに置きたかったのだ。蘭丸が放った矢の鏃は全て黒曜石で出来ている。これは、アヴゲイルにダヴィデの言霊を授かった際にテスカトリポカが細工してくれたおかげだ。黒曜石で出来ているなら、蘭丸は遠隔でもその鏃を動かすことができる。

 

「不可解だな?」

 

「ッ⁉︎」

 

蘭丸は自身の策略がバレたかと思い焦り、冷や汗をかく。

 

「厄災の双子の片割れはどうした?まさかとは思うが、単身で妹を取り返しに行ったか?」

 

しかし、蘭丸の策略はまだバレてはいない。ひとまずは安堵する。

 

「ならば、無謀なことだ。悪魔憑きの娘のそばには我が最も信頼を置く男であるミハイル・ヘシアンがいる。奴の戦闘力は神獣並みだ。あの程度の小娘が勝てる道理はないぞ」

 

アヴゲイルのことを侮る発言に対して蘭丸はムッとする。自身の知人を貶されるのは気分のいいものではない。

 

「あんたはちょっと他人を見下しすぎだ」

 

「当たり前であろう。我はカンピオーネ、神々すら殺しめた魔王だぞ?上に立つ者として当然の態度だ」

 

「そうだろうな、誰だって自分が1番だ。あんたは自分を持っててすごいよ。その点俺は自分第一で他人の評価を気にすぎるからな。そういう点はあんたを尊敬するよ。だけどな!」

 

蘭丸は石像に呪力を注ぐと石像は閃光を発し始める。石像は自身に巻き付いた大蛇を引き剥がし、もう一匹の大蛇へと投げつけ諸共押さえつけた。

 

「くッ⁉︎」

 

「双子姉を…アヴゲイルを舐めるなよ!」

 

蘭丸は合図をおくる。すると、エリスの周りに散らばっていた黒曜石の鏃が弾けた。

 

「黒曜石の刃よ!いまこそ、贄の心臓を抉れ!」

 

黒曜石の砕けた無数のカケラはエリスに向かって散乱する。

 

「くッ!聖ヨハネよ、我を庇護し給え!」

 

エリスは聖絶の力を防御へと回す。しかし、蘭丸はそれを見越し石像に命じる。

 

「天の恵みを司るトラロックよ!いまこそ、我が敵に天の恩寵を還したまえ!」

 

石像から雷が迸る。雨の太陽の化身たるこの石像は天からの恵み、すなわち雨や雷を体内に内蔵することができるのだ。そして、これは先程エリスから散々食らった雷のお返しである。

 

「なに⁉︎」

 

黒曜石のカケラは雷の後押しを受け、聖絶の防御を撃ち破りエリスのその美しき肢体に喰いこんだ。さらにはそのカケラはエリスの心臓めがけて体内を突き進む。

 

「ぐッ!舐めるなよ!」

 

エリスは自らの体をズタズタにし、黒曜石のカケラを抉りとる。エリスの周囲に血溜まりができるほどの血が噴き出す。

 

「アヴゲイル!」

 

「アルテミスの翼よ!」

 

蘭丸の合図を受けて、アヴゲイルは飛翔術によって一瞬のうちにエリスに近づき、その血をすくいあげる。

 

「悪魔よ、かの者の血を持って呪詛の人形は完成せり、かの者に呪いの鉄槌を!」

 

アヴゲイルはエリスの血を黒い人形に擦りつけ、蘭丸に向かって放り投げる。

 

「黒魔術ごときがカンピオーネに効くものか!」

 

「確かにな、カンピオーネは外から魔術は効かない。でも、内側からなら効くことは知ってんだよ!黒曜石のカケラはあんたの体の中にいくつか残ってるぜ!」

 

「⁉︎」

 

テスカトリポカは魔術を司る神でもある。そのテスカトリポカから魔術の手解きを受けた蘭丸は黒曜石を媒介すれば魔術を受信することができる。蘭丸はマクアウィトルを黒曜石の槍に変形させて構え、身体を捻り人形に向かって投擲した。もちろん、この槍にはゴルゴタの冷気を纏わせてある。槍は見事、人形の心臓部分を貫いた。

 

「くはッ‼︎」

 

「あんたの敗因はカンピオーネだからって驕ったことだ」

 

呪いの人形の呪詛とゴルゴタの丘の冷気が黒曜石を媒介にエリスの体内に流れ込み、エリスの心臓を破壊した。

 

「な、めるな!」

 

エリスは口から血を吐きながらも地面に倒れることなく、たっている。

 

「我の肉体は滅びぬ。我は最後の審判を見届けるものなり」

 

エリスの身体の傷が癒えていく。悪魔リリスは不死の悪魔であり、最後の審判の時までその肉体が滅びることがない。そのリリスを殺めたエリスは再生能力が備わっているのは当然だろう。

 

「やってくれたな小娘が!」

 

エリスは激怒よりも寧ろ感激に近い表情をし、アヴゲイルに向けて銃口を向ける。しかし、エリスは自身に巨大な影が迫っていることに気づく。

 

「第三の太陽の化身よ!我が敵を押し潰せ!」

 

エリスはハッと何かに気づいたように空を見る。そこには太陽のように黄金に輝く石像、いやもはや30メートルを超えた巨像が右腕を振り下ろすために天高く振り上げていた。

 

「お得意の神速で逃げてみろよ!この広範囲攻撃を逃げられるならな!」

 

巨像は全身から漏れ出す黄金光りを纏い、振り上げた拳をエリスに向かって繰り出す。その太陽の如き光はエリスの影も闇も等しく焼き尽くしてしまう。

 

「ラグナロクの開戦の咆哮聞け!さすれば太陽は消え失せる!ワァオオオオオオオォォォォォォンンンンッ!」

 

エリスは巨像に向かって遠吠えを繰り出す。すると、巨像の全身から溢れ出していた光が弱まる。太陽を飲み込む北欧神話のハティの咆哮だ。この権能は本来封印解放の権能だが、太陽神由来の権能を封じ込める付属効果がある。巨像はそのまま光を失い、さらに存在自体も空に溶け透明になって消えていった。

 

「まだだ!!!!!」

 

蘭丸の叫びに呼応する様に今まで寝息を立てていた薫が目を覚ます。

 

「“第二の太陽死せり、世界を滅ぼすは数多の人類を猿に変えし大風なり、故に4の風なり”」

 

薫がそう言霊を唱えると薫の姿が影に溶け、辺りからキーッキーッとけたたましい猿の鳴き声が聞こえてくる。猿の大群の影が現れ、その発する声に呼応するかの様に風が渦を巻き、大風を呼ぶ。猿の群勢はエリスを取り囲むように配置され、中心にいるエリスに向けてサイクロンを直撃させる。

 

「ぐッ!ぐああああ!!!!!」

 

けたたましい猿叫の中、エリスの悲痛の声が児玉した。

 

******

 

サイクロンに巻き込まれた周囲の建物は全壊している。不幸中の幸いか避難指示で周りの住民が避難していたのが唯一の救いだろう。蘭丸はゆっくりと目を開けると自分が覆いかぶさるように庇ったアヴゲイルの顔が見える。どうやら気絶しているようだ。蘭丸は、自身の身体を確認するが致命傷の傷はなかった。蘭丸は辺りを確認すると「ゼェ、ゼェ」と肩で息をする薫がすぐ近くにいる事がわかった。蘭丸は薫に近づき、抱え起こしたずめる。

 

「薫!やったんか!」

 

「わかん、ない、でも手応え、あった、ゼェゼェ」

 

「息の根を止めたんか!」

 

「いや、わから、んて」

 

白い煙によって視界が定まらない中、あの高貴なる笑い声が響き渡る。

 

「クハ、クハハ、クハハハ、クハハハハハ!!!!!」

 

白い煙より、少佐と呼ばれる少女は悠々と現れた。軍服は所々破け、かなりセクシーな状態になっており、そこから覗く雪のような肌には深紅の切り傷が乱雑に彩られている。しかし、それもすぐさま塞がりほぼ無傷と言っていい状態へと戻っていく。

 

「さあ、第2ラウンドの始めよう」

 

エリスはそう高らかに宣言した。




次回決着!

《雷管の撃鉄(サンダラー)》
雷を操る権能。エリスのオリジナル拳銃であるダイモス・ファボスの銃口をむけて引き金を引いた相手に雷を落とす。また、弾丸自体に雷を纏った状態で発射されることもできる。さらに今回は使わなかったが実は実弾でも雷を落とす事ができ、相手は空から降ってくる雷か、雷を纏った弾丸かの二択を迫られることになる。

《雨の太陽》
第三の太陽の化身たる石像を呼び出す。なんか、デカくなったり光ったりできる。多分、頑張ればビームも出せるようになる。
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