〇 昼休み 屋上
五人仲良く並び弁当を食べるまどか、ほむら、マミ、杏子。横目で街の風景を見るマミ。さや かはまだ来ていない。
まどか「えーっ! 杏子ちゃん魔法少女になったの」
マミ「えっ?」
杏子「そうさ、あたしも魔法少女の仲間入りさ」
ほむら「朝聞いたときには驚いたわ、あれから直ぐに魔法少女になったんだもの」
本当は一部始終を知っているが知らないふりをするほむら。
マミ「うそ! おめでとう杏子ちゃん」
喜ぶふりをして手を握るマミ、同時に横目でちらりとほむらの反応をうかがう。モクモクとお かずをつつくほむら。
杏子「ナイトメアに襲われている女の子がいてさ、助けねえとあぶねぇと思ったから契約
したんだ」
まどか「それで女の子は助かったの?」
杏子「ばっちり助けたさ、ナイトメアが一匹だけだったし」
ほむら「……」
淡々と無言で弁当のご飯を食べるほむら。
まどか「あの……今日から戦うの?」
ほむら「杏子は戦力にならないわ。一か月ばかりは特訓ね」
あきらかに突き放した口調で言うほむら。
杏子「なんだよ、あたしの決定に文句があるわけ?」
腹を立てた杏子、ほむらを睨みつける。
ほむら「まさか勢いで契約するなんて、昨日何のためにわたしがよく考えなさいといった
の?」
杏子「後悔なんかしてねぇ」
ほむら「死んでいった子たちみんなみんな最初はそういったわ」
杏子「……」
黙り込む杏子。
マミ「まあ、暁美さんなったものはなったものだし、これからは仲良くしていきましょう
よ。ね!」
仲間が増えたのに不機嫌なほむらを少し不審に思うマミ。
杏子「……あたしはさ、昔神父の娘だったんだ」
全員に向かって語りだす杏子。
杏子「親父は常に正しくて優しい人でさ、毎日新聞を読んでは涙を流すそんな人だった。
親父はこの病んだ世の中を治せるのは新しい教えだって思って教義にないことまで説
教するようになったんだ。もちろん信者の足は途絶えた。教会本部からも異端派として
認識され破門された。困ったのは私たちの生活さ。本部と信者から金が入ってこなくな
ったから生活は貧しくなった。一日一食食べるのにもかなり苦労をするようになった」
箸を止めるほむら。
杏子「そして、ある日おふくろがキレた。オヤジに今まで溜まった鬱憤をぶちまけた、現
実味の無い理想に走って家族を顧みないロクでないしだと罵った。オヤジもその頃は酒
に逃げるようになってて、言い争いがどんどんヒートアップしていた。あたしは凄く嫌
な予感がしたからすぐにその場から逃げて自分の部屋のクローゼットの中に隠れた。
お袋の悲鳴がして、すぐにパニクった声でオヤジの呼ぶ声がした。隙間から覗くと血
まみれのオヤジが包丁を持って目をギョロつかせながらあたしを探していた」
瞬き一つせずに杏子の話に聞き入るマミとまどか。
杏子「どのくらい、神に祈ったかわからない。もうやめてください親父から悪魔を追い払
ってくださいって。気づいたら親父の声はしなくなってた……あたしは小さいなりにな
にもかも理解して警察に連絡したのさ」
杏子の凄絶な過去に何も言えない三人。立ち上がる杏子。
杏子「きっと神様がくれたものだと思ったんだ、弱くて力のなかった親父の代わりに神様
があたしにさずけた力なんだって。昨日だってあたしが魔法少女にならなかったらあの
子は死んでた。たった一人救われたそれだけでも充分嬉しいんだ。だから後悔なんてし
てないよ。きっと生まれた時からこういう宿命をあたしは背負ってたのさ」
手を組み天に祈りを捧げる杏子。それを見ながら何か思いはせる顔をするほむら。
ほむら「それがあなたの祈りなのね」
杏子「ああ……」
ほむら少し間を置き。
ほむら「……今日からあなたを嫌というほど鍛えてあげる。期間は一週間。これまでに魔獣と戦える だけの実力をつけてあげるから覚悟しなさい」
杏子「ああ! よろしく頼むぜ」
ほむらに思いが伝わり笑顔を浮かべる杏子。ほっとするまどか
まどか「ほむらちゃん、今日はわたしついて行ってもいいかな?」
ほむら「ええ、タダの特訓だし構わないわ。巴さん、あなたはなぎさちゃんと街のパトロ
ールをしてくれる? 東部線路沿いが気になるからその辺を回ってくれないかしら」
マミ「え、ええいいわよ」
ぼーっとしていてハッと我に返るマミ。
ほむら「どうしたの巴さん? 今日は様子がおかしいわよ?」
マミ「えっ……特に何もないけど」
ほむら「いつもの明るさがないような気がするけど」
ほむらの目が詮索するような鋭い目つきになっているように感じるマミ。
マミ「ええ、放課後の見回りのことを考えていたの」
ほむら「そう、心配しなくてもいいわ。いつもの通りに戦えばいいわ」
さやか「皆さん揃ってますなー」
弁当を抱え現れるさやか。
杏子「遅かったじゃねえか」
さやか「ちょっと呼び止められちゃってね」
ほむらと杏子の隣に座るさやか。
ほむら「さやか今日の放課後、河川敷で杏子の特訓をするけどついてくる?」
さやか「ああ、今日は放課後人と会う用事があるからパスかな」
〇 放課後 河川敷橋の下
河川敷の橋の下にいるまどか、ほむら、杏子、キュウべぇ。まどかは少し離れたと
ころで見ている。まどかの肩にはキュウべぇが乗っかっている。
る。ほむらと杏子は魔法少女の姿に変身している。
ほむら「お手柔らかに」
まどか「杏子ちゃん! ファイトー」
ソウルジェムを槍に変える杏子。
ほむら「特訓の内容はあなたが一度でもわたしを攻撃できたら終わり、それが全プログラムよ」
杏子「なんだ、簡単じゃねえか」
ほむら「そのかわり、わたしも攻撃するから、ちゃんと避けるのよ」
杏子「ああ、わか……」
次の瞬間時間操作で時を止めたほむらが目の前に現れる。深々と杏子の腹にパンチを叩き込む ほむら。
杏子「うぐっ」
今までに味わったことのない重い打撃を味わう杏子。
まどか「ああ! 杏子ちゃん!」
ほむら「どうしたの? 殴られたんだから早く殴り返しなさい」
一飛びで距離をとり挑発的な言葉を杏子に投げかけるほむら。激しく喘ぐ杏子。
杏子「こんにゃろ……」
荒い息で喘ぎ、ほむらを睨みつける杏子。
〇 放課後 敷地内に小川の流れるおしゃれな高級カフェ店
向かい合って座る恭介とさやか。さやかの前にはテーブルには空になったパフェグラス。恭介 はホットコーヒーが置かれている。
さやか「なんか悪いね、ご馳走になって」
目だけでキョロキョロと周囲を見回すさやか。知り合いに見られていないか気にしている。
恭介「気にしないでくれ」
さやか「で、あたしに話ってなんなのさ」
ぶっきらぼうな口調で恭介に聞くさやか。
恭介「実はさやかだけに言っておきたいことがあるんだ」
さやか「あたしに?」
恭介「ああ、先生や中沢達クラスのみんなも知らないことだ」
さやか「?」
恭介「実は僕さ……来年外国の学校に行くかもしれないんだ」
さやか「……えっ」
予想だにしなかった告白に言葉を詰まらせるさやか。
恭介「スイスにある音楽学校にね、資金を提供してくれるパトロンが現れたから進学にあ
わせて試験を受けてみろって。話が進んでるんだ」
さやか「そそ、えっ! 本当? よかったじゃん。あんたの腕が認められた証拠だよ、それ」
焦るのを隠しわざとテンションを上げて喜ぶさやか。その一方浮かない顔の恭介。
さやか「どうしたの恭介?」
恭介「それがそのパトロンって言うのが志筑さんのお父さんなんだ」
さやか「仁美の?」
恭介「うん、この前志筑さんの家におじゃましたんだけど。その時に志筑さんの家族の前でヴォカ リーズを演奏したんだ。そしたら志筑さんのお父さんがすごく感激したみたいでね。僕を外国で勉 強できるように支援してやるって言われたんだ」
さやか「うん、うん」
うなずくさやか。
恭介「その時はただの冗談だと思ってたけど、知らないうちに父さんに会って打診してたみたいなん だ。父さんも乗る気で是非とも話を受けなさいって言われたんだ」
さやか「へえ……すごい話だねぇ、一度あっただけの彼氏にそこまでしてくれるなんてね」
恭介「ありがたいと言ったら、ありがたいよ。唐突に絵空事みたいな話が進んで僕もびっくりしてい るんだ」
さやか「で、恭介はどうしたいの」
恭介「受けるつもりさ。父さんの指導にも限界があるし、外国に行って著名な講師にレッスンを受け たほうがいいだろうし……でも、志筑さんにお世話になるというのが……」
さやか「別にいいじゃん、仁美んちだと何か問題があるわけ」
恭介「だって志筑さんとも付き合い始めて一か月位だし、なんでそこまでしてくれるのかなって思っ てさ、もしかしたら何かあるのかなって勘ぐっちゃって」
さやか「そんなものあるわけないじゃん、仁美のお父さんも恭介の演奏に感激して援助してくれるっ て言ってるんでしょう」
恭介「……うん」
さやか「恭介は世界に出るべきだよ、あんたの演奏はあんたが自分で思っているより凄いんだ。外国 の一流の教育をうけてプロを目指すべきだよ」
恭介「だけど、日本を出るのもちょっと不安で」
さやか「迷っちゃダメダメ、あんたにとって最大のチャンスだよ。これを逃したらもう二度とないか もしれないんだよ……あんたが行きたくないって言っても無理やり飛行機に押し込んでやるんだから」
恭介「ハハハ……」
控えめに愛想笑う恭介。
さやか「……あたしは恭介が夢を叶えてくれるに越したことはない、子供の時始めてあんたの演奏を 聞いた時からずっとあんたを応援してたファンの一人なんだ。あんたの演奏がさらに良くなってた くさんの人を感動させられるなら、わたしは無理にでも背中を押すよ」
恭介「……さやか、外に出ようか」
寂しそうな暗い顔をする恭介
〇 放課後 川沿いの道
川沿いの道を並び歩く恭介、さやか。
さやか「恭介、あたし……」
恭介「さやか」
ほぼ同時に話しかけ会話の出鼻をくじく恭介とさやか。
恭介「あっ!」
さやか「え、あ……どうぞ、どうぞ」
立ち止まるさやかと恭介。
恭介「さやか、僕の演奏聞いてくれないか」
さやか「えっ!」
恭介「僕の演奏を聴いて欲しい。朝のレッスンの時には良くなったって言われたけど、なんだか自信 がないんだ。君が聴いて悪いところがないか教えてくれないか」
さやか「あたしなんかでいいの?」
恭介「うん、君に聞いてほしんだ。幼い頃からの僕のファンなんだろう、おかしなところがあったら 指摘できるくらい耳が肥えてるはずだよ」
君に聞いてほしんだとはっきりと言われ照れて顔を赤らめるさやか。
さやか「えっえっ……う、うん構わないよぉ! このさやかちゃんが聞いてあげるよ。おかしなとこ ろがあったらボロカスいってやるんだから覚悟しなさいね!」
照れを隠せず焦る。近くにあったベンチにすわるさやか。ヴァイオリンを取り出す恭介。
〇 放課後 川沿いの道
三人並んで歩いているまどか、ほむら、杏子、キュウべぇ。
杏子「あーいい汗かいた。めっちゃ、暴れたから腹が減ったなぁ」
ギュルギュル腹が鳴らす杏子。
まどか「結局、ほむらちゃんに攻撃当たらなかったね」
ほむら「当たり前よ、ほんの二日三日で当たれるわけないわ」
杏子「ちくしょう、明日は当ててやるからな」
ほむら「やるだけやってみることね、無理だろうけど」
髪をかきあげるほむら。
杏子「なんだとテメー」
まどか「ハハハ、余裕の構えだね」
ヴァイオリンの音が聞こえることに気付く三人。流れてくる曲はサラサーテのツィゴイネルワイゼン。音楽に反応して耳をピクピクさせるキュウべぇ。
まどか「誰かがバイオリンを弾いてるよ」
ほむら「綺麗な音色ね」
立ち止まり柄にもなくうっとりと演奏に聞き入るほむら。
杏子「どこから聴こえてくるんだ?」
奏者をさがし辺りをキョロキョロ見回す杏子。
杏子「あれ? あそこにいるのって」
反対側の川岸にいるさやかと恭介に気付く杏子。
さやかは目を瞑って恭介の演奏に聞き入っていて対岸にいる三人に気づかない。
まどか「あれって、さやかちゃんと上条君だよね」
ほむら「偶然会ったって感じじゃないわよね」
杏子「さやかの会う人って上条だったのか」
さやかと恭介を見て何かを考えるほむら。
ほむら「今日のことは見なかったことにしておきましょう」
杏子「ええ、どうしてだよ? 家に帰ってから、からかってやろうと思ったのに」
ほむら「うっかり話して話がこじれるとマズイわ」
杏子「だからどういうことだよ」
ほむら「上条君は志筑さんと付き合っているんでしょう。今日のことをうっかり誰かに話して志筑さ んの耳に入るようなことになったらまずいわ、三人の仲に亀裂が入りかねない」
杏子「姉ちゃんが上条を盗ろうとしてるっていいたいのか?」
まどか「ほむらちゃん、流石にそれは邪推だよ、さやかちゃんはそんなことしないよ」
ほむら「わたしもそんなこと思ってないけど、他人のプライバシーをいいふらしていいと思わないか ら」
まどか「うん」
杏子「わーったよ。黙っとくよ」
歩き去るまどか、ほむら、杏子、キュウべぇ。歩きながら何かを探るような目つきでほむらを 見るキュウべぇ。
〇 放課後 川沿いの道
恭介の演奏が終わり礼をする恭介。さやかのスタンディング・オペレーション。
さやか「ばっちりだったよ、恭介」
恭介「本当かい」
嬉しそうな顔をしてうなずくさやか。
さやか「本当だよ、今まで聞いたプロの演奏家よりずっと良かった。あんたなら絶対最優秀賞を取れ るよ」
恭介「ありがとう。君がいってくれるんだったら自信がついたし、絶対に受かるような気がしてき た」
ヴァイオリンをケースに仕舞う恭介。
さやか「あたしからも頼み事があるんだ。恭介」
恭介「なんだい?」
さやか「仁美をさ、もっと大切にしてくれない」
恭介「えっ」
さやか「仁美にこの前相談をうけたんだ、恭介にかまってもらえなくて寂しいって」
恭介「そうなのかい」
さやか「あんた、もうちょっと仁美のことに気を使ったほうがいいと思うよ。あんな可愛くて思いり のある子なのに酷いよ」
恭介「うん、いつか会う日をつくろうって思ってたんだけど、なかなか作れなくて」
さやか「だったらさ、今日でもよかったんじゃないかな」
恭介「……」
痛いところをずばりと突かれて反論できない恭介。
さやか「彼女がいるみでさ、こうやって他の女の子と会うのは良くないことだよ。あんたには悪気は ないだろうけど」
恭介「さやかはただの友達じゃないか」
さやか「あんたはそのつもりでも他人はそうとは思わないよ。誰かが見たらきっとおもしろおかしく 尾ヒレをつけて噂を広めるよ」
無自覚だったがさやかの指摘にさすがに責任を感じる恭介。
さやか「二人きりであうのは今日限りにしよう、あたしと恭介と仁美の為に良くないと思うよ」
恭介「……そうなのかな」
さやか「じゃあ、あたしは帰るよ。綺麗な演奏を聞かせてくれてありがとう」
背を向けて歩き出すさやか。思い切って言ったものの背中には寂しさがにじみ出ている。
恭介「さやか、さっきは言わなかったけど。志筑さんも一緒にスイスに行くんだよ」
我が耳を疑い振り向くさやか。物言いたげな目を向け立ち去る恭介。
〇 放課後 線路沿いの小道
魔獣の結界が崩壊し、景色が夕暮れの街に戻る。初めての魔獣を撃破したマミ、なぎさ。二人 並んで線路内に立っている。
なぎさ「マミ! やりました初めてのグリーフシードですよ!」
散らばるグリーフシードを嬉しそうに拾い集めるなぎさ。ぼーっと立ちすくむマミ。
なぎさ「マミ、どうしたのですか?」
マミ「えっ? 何?」
なぎさ「マミ今日は元気がないですよ。何か悩み事があるんですか?」
心配そうな目で見るなぎさ。
マミ「な、なんでもないのよ本当に」
なぎさ「マミ……なにか悩んでいる顔をしているのです」
なぎさの心配そうな顔を見てはっとするマミ。こんな幼い子を巻き込んではいけないと思うマ ミ。
マミ「う、うん実は昨日ね、お風呂上がりに体重測ったらちょっぴりだけど増えてて……夕御飯のカ ロリーを低くしなくちゃねって思って」
笑ってごまかすマミ。
なぎさ「ええっ、カロリー」
マミ「そう、今日一日中体重計の数字が頭を離れなくて」
嘘を言いに作り笑いを浮かべるマミ。
なぎさ「なんですかそれーなぎさ心配してたんですよ!」
怒りながらも安心して脱力した様子のなぎさ。
マミ「ごめんなさい、わたしそんなこわばった顔をしてたかしら?」
なぎさ「マミはしばらくお菓子を食べちゃダメです」
頬をぷくっと膨らませるなぎさ。
マミ「心配させてごめんね、なぎさちゃん」
無理に作った笑顔を浮かべなぎさの頭を撫でるマミ。
〇 夜 見滝原番外地 桃子のアパートの前
喧騒から忘れ去られたように静まり返った貧民街。大型のテープレコーダーとスピーカーを背 負った男が不安を煽る説法を垂れ流しにして歩いている。たまに改造バイクの爆音や外国語で 怒鳴り合う声が聞こえる。
それを聞きながら未開封のスナック菓子を片手にアパート二階を見上げる杏子。桃子の為に 買ってきたものである。桃子の家の明かりがついていることにひとまずホッとする。
ほむら「杏子……」
後ろからの呼びかけに振り返る杏子。
杏子「見回りおつかれさん」
ほむら「もう帰ったかと思ったわ?」
杏子「昨日助けた子が気になってさ、ご飯ちゃんと食べたかなって思ってさ」
ほむら「……」
一緒になりテラスを見上げるほむら。
桃子の母「こんなにご飯粒散らして何考えてんよッ!」
突然明かりの中から怒鳴り声がする。何かを殴る音。桃子の悲鳴。
桃子の母「食事の作法すらできてない馬鹿な子は出て行きなさい」
二階の戸が開き部屋から蹴り出される桃子。
杏子「ああっ!」
何か嫌な記憶が蘇ったのか顔を引きつらせ小さな悲鳴をあげる杏子。無表情のまま冷徹な瞳で 二階の出来事を眺めるほむら。
泣きながらしゃがみこむベランダにしゃがみこむ桃子。趣味の悪い冗談のように桃子の頭の上 にエビフライが乗っている。そのエビフライをつまみかじる桃子。
それを見て顔一面に怒りの表情を浮かび上がらせる杏子。アパートの方へ向かい歩いていく。
ほむら「待ちなさい、何をするつもり」
杏子の腕を掴み静止するほむら
杏子「あのバカ親どやしつけてやる」
ほむら「そんなことをしてはダメ、余計あの子にあたるわよ」
ほむらの言葉に我に戻る杏子。顔を歪め、歩みを止める。
ほむら「これは私たちの管轄外よ、しかるべきところにまかせておけばいい(杏子の腕を離す)」
杏子「そんなやつらなんの役にも立たないよ」
静かに吐き捨てる杏子。アパートの方に歩いていく杏子。
うずくまりしくしくと声を上げずに泣く桃子。小石をベランダの柵にぶつける杏子。
物音に気づいて下を見る桃子。下には昨日助けてくれた魔法少女がいる。
杏子スナック菓子を桃子に投げる。それを見事キャッチする桃子。
桃子「お姉ちゃんありがとう」
涙を拭き笑顔を浮かべる桃子。
桃子に手を上げて挨拶をする杏子。淋しげな表情を浮かべ立ち去っていく。
体を丸めてこっそりとお菓子を早食いする桃子。
ほむら「あの子……気の毒ね」
杏子「魔法少女でもあれだけはどうにもできねぇよな」
腹立ちまぎれに空き缶を蹴り飛ばす杏子。
スピーカの声「この世の混沌は限度を極めようとしています。神の死は世界に堕落と退廃を生み良き 子羊たちの祈りさえ嘲笑われ無残に食い荒らされるのです」
スピーカ男が曲がり角から現れ杏子とほむらの前を横切る。
杏子「ちっ! うるせーなクズども」
忌々しげに呟く杏子。
ほむら「あれは?」
杏子「人の不安につけこんで荒稼ぎをする新興宗教さ、親父もあいつらに散々いじめられたんだ。忌々しいたらありゃしない」
ぶつぶつ呟く杏子を見ながら思案顔のほむら。
〇 夜 前と同じ時間帯 マミのマンション
洗面器の中で湯船に浸かっているキュウべぇ。浴槽に浸かっているマミ。一応胸元にはバスタ オルを巻いている。
マミ「杏子ちゃんが魔法少女になったわ」
一日中考えてキュゥべえのことにも耳を貸そうと思ったマミ。
キュウべぇ「知っているよ、僕の別の個体が彼女と契約をしたからね」
マミ「あなた他にもいっぱいいるの?」
キュウべぇ「うん、そうだよ」
マミ「杏子ちゃんの契約もあなたは暁美さんの策謀のうちと言うのかしら?」
キュウべぇ「僕にもまだわからない、彼女の真の狙いが何なのか見当がつかないからね」
マミ「どうにかして佐倉さんに真実を教えられないのかしら? 彼女を説得してわたしたちの味方になってもらったほうがいいと思うんだけど」
キュウべぇ「うかつに動くとまずいよ、マミ。今の美樹家には魔法少女と候補が二人いるんだ、使い 魔の監視は鹿目家と同じ位の規模で厳しい。もし僕たちの動きを悪魔が察したら、悪魔と常に行動 している美樹姉妹が葬られかねない、そして次は必ず君の番だ、百江なぎさも巻き添えで殺される かもしれない」
息を呑むマミ。自分の立場が死に直結する位置であるとはっきりと自覚する。
マミ「ねえ、どうすればいいかしら。杏子ちゃん純粋だからきっと悪魔にいいように操られるわよ」
キュウべぇ「美樹さやかを魔法少女になるように誘導しよう。彼女が魔法少女になってくれれば千人 力だ、悪魔に対抗できる戦力になる。そうして二人とも魔法少女になってから真実を教えよう」
マミ「明日、明後日でも美樹さんとだけ接触できる機会があったら話してみるわ」
キュウべぇ「そうしてくれ、できるだけ早いほうがいい」
マミ「ねえ、さやかさんをやたらと気にしているけど彼女には特別な才能があるのかしら」
キュウべぇ「……ある意味神に選ばれた才能さ」
意味ありげに呟くキュウべぇ。
〇 数日後、昼 運動場
校舎外の運動場。まどかのクラスの全員、男女混合で体力測定中。
男子は少し離れたところで砲丸投げと反復横跳びの測定中。女子は百メートル走の測定と砂場 での走り幅跳び。
銃の爆音とともに走者が一斉、クラウチングスタートの体勢からでダッシュ。女子の中に杏子 の姿もある
杏子「うおおおおおおおお!」
雄叫びを上げ百メートルをあっという間に疾走する杏子。
砂塵と疾風に巻かれながらもきっちりと役目を果たす記録係の女子
女子A「うっそぉ! 何この記録?」
女子B「人間の速さじゃないわ!」
杏子「しゃあああああ!」
全体重をかけ踏ん張りグラウンドに轍を作りながら速度を落とす杏子。
杏子「この力があればオリンピックも夢じゃないぜ」
一人ガッツポーズを取る杏子。
杏子を運動場外れの木陰に座り見守るまどかとさやか。まどかの膝の上で寝ているキュウ べぇ。まどかとさやかはもう百メートル走の測定が終わったところ。
さやか「あの……大バカ……」
頭を抱えるさやか。妹の魔力チート全開を目の当たりにして先行きに不安を感じる。
まどか「ハハハ、ぶっちぎりだったね」
さすがに苦笑いのまどか。スヤスヤと眠りながら寝返りを打つキュウべぇ。
さやか「全く、ほむらが見たらなんというか……」
砂場で走り幅跳びをしているほむらを見るさやか。
思いっきり助走し飛び上がるほむら。楽に三メートル越えを出す。驚愕を飛び越えてドン引き する計測係の女子。
ほむら髪をファさっとかきあげる
さやか「ってお前もかよ! おい」
一人でツッコミを入れるさやか。
さやか「なに? 魔法の力をそんなに簡単に使っていいのかオイ? お前ら使うとこ間違ってねえ か? おいっ!」
さやかの声にパッチリと目を開けるキュウべぇ。突然さやかに飛びかかる。
さやか「わっ! なに?」
さやかの背中に回り込みハチマキを奪い逃げ去るキュウべぇ。
さやか「コラ! あんた何すんのよ?」
体育館の方へ走り去るキュウべえ。
さやか「ちょと、キュウべえからハチマキ取り返してくる」
まどか「あっ! うん」
キュウべえを追って走り去るさやか。砂場からその様を見るほむら。
さやか「ちょっと待ちなさいよ! キュウべえー!」
走りながら追いかけるさやか。角を曲がり体育館の裏に消えるキュウべえ。
さやか「はぁ!」
体育館の裏に回り込むさやか。しかし、キュゥべえの姿はなくハチマキが地に落ちているだ け。
ハチマキを拾い上げパタパタと叩いて砂を落とすさやか。
マミ「さやかさん」
突然声をかけられビクつくさやか。
さやか「なんだ……誰かと思ったらマミさんか……こんなところで何を」
倉庫の物陰からマミが現れる。
マミ「実はあなただけに言いたいことがあってキュウべえに呼んでもらったんだけど」
さやか「マミさんがキュウべえをけしかけたんですか?」
キュウべぇとマミの謎の行為に困惑するさやか
マミ「あなた魔法少女になってくれない?」
さやか「えっ?」
マミ「できるだけ尚早にして欲しいの、今すぐにでも戦力が必要になるから」
さやか「な、なんなんですか急に?」
マミ「詳しいことは言えないけど、この街で強大な敵との戦いが始まるかもしれない、その時の為にどうしてもあなたの力が必要なの」
さやか「なっ……なんですかそれ?」
マミ「このことは誰にも話さないでいて。全てはあなたが魔法少女になった時に話すわ」
走って去っていくマミ。自体を把握できずに立ちすくむさやか。
校舎の屋根に乗り二人を見下ろすほむら。
〇 昼 学校の屋上
並び仲良く弁当を食べる五人。今日はマミも会話の輪に加わっているマミの言葉が引っかかり ぼーっと思案顔のさやか。
杏子「いいじゃねーかよ、こういう時に使わないと何のために魔獣狩りをしてるのかわか
らねーし」
マミ「だからって、測定を誤魔化すのはいけないわ」
ほむら「魔力も自分の実力のうちよ」
マミ「てゆうか、先輩のあなたがズルしてどうするの」
マミを無視する代わりに髪をパサっとかきあげるほむら。
マミ「不貞腐れないの、暁美さん」
まどか「ティヒヒ、もうどっちが先輩かわからないね」
チラリとマミの方を見るさやか。あわせて目を向けるマミ。
マミ「もうこの子達はあてにならないわ。ねぇ美樹さん」
さやか「え、ええ、そうですね」
マミ「だけど、美樹さんも本当は羨ましいんじゃないかしら、魔法でパワーアップができるのよ」
さやか「ええっ! そんなことないですよ、マミさん」
マミ「テストも簡単に一番になれるし、好きな男の子もメロメロにできるのよぉ」
杏子「おいおい、ねぇちゃんを勧誘してんのかマミ?」
マミ「そんなのじゃないわよ」
冗談交じりのとてもわかりやすい誘導方法。
まどか「さやかちゃんにそんな人いませんよぉ」
本能的に嫌な予感を感じて話題をそらそうとするまどか。
マミ「本当かな? 今日ちらっと噂に聞いたんだけどなぁ」
小耳に挟んだ話題を冗談交じりに持ち出すマミ。一瞬にして張り詰める空気。マミ以外の誰も が数日前のことを思い出す。
さやか「マ、マミさん? 噂って」
動揺を隠して聞き返すさやか。
マミ「何日か前の話なんだけど、この学校にヴァイオリンの神童って言われてる、有名な男の子いる でしょう、その子が川岸で女の子にヴァイオリンを聞かせているのを見たってファンの子が噂して いたのよ。確かさやかちゃんたちと同じクラスの子でしょう。青い髪の女の子って言ってたから、 ひょっとしたらって思っちゃって」
ほむら「それは違うわね」
まどか「あの、上条君には彼女がいますけど」
おずおずと言うまどか。
マミ「ええっ、そうなの」
まどか「あまり、目立ったらいけないからってほんの数人しか知らないんですけど」
マミ「じゃあ、その子は……」
まどか「見間違いだと思いますよ、その子の髪の色は緑色です」
マミ「ええっ! そうだったの? ごめんなさい、てっきりあなたのことかと」
さやか「いっ……いいですよ別に。む、無責任な噂を流す奴がいるもんだなぁ」
数日前の出来事がもう噂が広まっていることに内心動揺するするさやか。
マミ「はあ、ただの噂に踊らされちゃったなー」
ほむら「これからはくだらない噂に惑わされないようにしなくちゃね」
よけいなことを言ったマミに追い打ちをかけるほむら。
杏子「うわ、ほむらきっつ」
マミ「もーそこまで言わなくていいんじゃないかしら」
さやか「しょうがないよ、マミさんだけ学年が違うんだし」
たははと笑うさやかだが内心は不安が渦巻く。さやかの心中を察して心配そうにさやかを見る杏子。
〇 昼休み 音楽室
二人で座って向き合い弁当を食べる恭介と仁美。
仁美「珍しいですわね、お食事にわたしをお誘いになるなんて」
恭介「コンクールの課題曲が君に聞かせられるレベルに完成したんだ。」
仁美「そうですか……」
恭介「信頼できる人のお墨付きがついているから確かだよ」
すぐに信頼できる人を察する仁美。二人の間に流れる気まずい沈黙。
仁美「上条君……あのっ」
恭介「なんだい」
耳にした噂の真意を聞き出そうとするが上手く切り出せない仁美。
仁美「あのっ……そのっ……なんでもないです」
恭介「ごちそうさまっと」
おにぎりだけランチをさっと食事を済ませる恭介。ヴァイオリンの準備を始める。
仁美の前でツイゴイネルワイゼンを演奏する上條恭介。恭介の演奏を聞きながらひとり黙々と 豪華な食事を食べる仁美。目に見えて浮かない顔をしている。会話もなく箸使いの音と澄んだ ヴァイオリンの音色だけが辺りに響いている。
さっき話していた時は切り出せなかった話題を今話そうと思う仁美。
仁美「あの……上条君お話があるのですが」
仁美「あのう……上条君……」
寂しそうに話しかける仁美。集中して聞こえないのか黙って演奏する恭介。
仁美「上条君……」
集中しきって呼びかけに耳の入らない恭介。
無視されていると感じた仁美。恭介の態度に突然抑えようのない怒りがこみ上げる。手がブル ブルと震え歯ぎしりをする。弁当の中身を箸でぐちゃぐちゃにかき回す。
さすがに奇行に気づき仁美を見る恭介。
恭介「志筑さん?」
荷物を持って泣きながら音楽室から走り去る仁美。
突然激昂した仁美を呆然と見送る恭介。
〇 夕方 人気のない廃工場
多節棍を振り回す杏子と時間停止を駆使し逃げ回るほむら。自分の戦闘スタイルをよく知り無 駄のない動きをものにしている杏子。
使われなくなったクレーン上の安全地帯で見守るまどか、さやか、魔法少女姿のマミ、なぎ さ、そしてキュウべえが二人を見ている。
大型の青竜刀を両手に持ち多節棍を受け流すほむら。受け流したところでもう一人の杏子が後 ろから突然現れ、槍で切りつける。
悲鳴をあげて吹き飛ぶほむら。工場の建物の壁に叩きつけられる。
まどか「あっ、やった!」
マミ「杏子さんが二人いるわ!」
さやか「分身攻撃?」
杏子「槍以外の別に攻撃方法がねえかなって考えてさ、魔力を練って形を与えてみたらあたしの分身 ができたのさ」
分身とパチンとハイタッチをする杏子。ニヤリと笑顔を浮かべ消滅する分身杏子。
ほむら「さすがだわ、一週間もせずに戦い方をマスターするなんてね」
立ち上がり青竜刀を盾に収納するほむら。
クレーンから降りてきた四人とキュウべえ、杏子を囲む。
マミ「これで杏子ちゃんも立派な魔法少女ね、おめでとう」
杏子「ああ、ありがとう」
さやか「分身なんてあんたにしては考えたじゃない。いたずらに使うなよっ!」
どんと背中をたたくさやか。
ほむら「おめでとう、これからよろしく明日からわたしたちはパートナーよ」
杏子「鍛えてくれてありがとよ、そしてこれからよろしくな。相棒」
握手をする杏子とほむら。微笑みながらほむらと杏子を見るまどか、さやか、なぎさ。このま までは杏子が悪魔に取り入られるのではないかと少し不安そうな顔のマミ。
まどか「ねぇ、みんな今日はせっかく全員揃ったんだし街で一緒に遊んでいこうよ」
杏子「おっ、いいじゃん久しぶりに街にでようか」
マミ「でも、今からパトロールに行かなくちゃ」
さやか「いいじゃないですか、たまには息抜きをしたってバチは当たりませんよ」
なぎさ「なぎさもたまには青春したいのです」
ほむら「せっかく、鹿目さんたちが気を使ってくれてるのだし、そうしましょう。パトロールは明日にでもすればいいわ」
有無を言わせぬ口調で決断するほむら。
マミ「そっ……そうね……久しぶりに楽しんじゃおうかしら」
〇 夕方 繁華街
喋りながら街を歩く一行。
人ごみに紛れて仁美が一人で歩いている。これから習い事の花道のお稽古。
まどか達の姿に気づき振り返る仁美。
仁美「さやかさん!」
呼びかける仁美。しかし、まどかたちは気がつかない。仁美の視線は無意識のうちに笑う親友 さやかの方に目が行く。人並みの幸せな人生を送る少女たちを見る目に羨望と激しい嫉妬が 込められる。
〇 夕方 繁華街
ファミレスで一緒にスウィーツを食べ、服屋や雑貨屋を見て回るまどかたち。ささやかなな幸 せな日常。