魔法少女まどか☆マギカ 焔の物語   作:かばお

4 / 9
Ⅲの続きです。


焔の物語Ⅳ

〇 夜 住宅街

   歩いているまどかたち。それぞれ自分が買った品物の袋を下げている。

まどか「今日は楽しかったね」

ほむら「本当にね、久しぶりに遊べて楽しかったわ」

マミ「わたしもいっぱい洋服買っちゃった」

   紙袋をいくつも下げているマミ。

杏子「それはちょっと買いすぎじゃねぇか」

   マミの得物の数に呆れる杏子。

なぎさ「長く着れるためにも今の体型を維持しないといけないですね」

マミ「ちょっと! なぎさちゃん」

なぎさ「昨日ダイエットしなきゃって、ぼやいてたのです」

   ニヤニヤしながらマミをからかうなぎさ。

さやか「なるほどぉ! だから昨日浮かない顔をしてたんですね。マミさんもやっぱり乙女だなぁ」

マミ「余計な事を言わないのっ!」

   なぎさの口を引っ張るマミ。

なぎさ「いたい、いたい! ほっぺたが裂けるのです!」

   二人のやりとりを見て笑う全員。

 

 

〇 夜 見滝原番外地

   暗く静かな住宅街を歩くさやかと杏子手にはコンビニの買い物袋が握られている。

   アパートの前でクララドールのメンバーと石投げ遊びをして遊ぶモモ。母親は帰ってきていな   い様子。

杏子「よぉ!」

   手をあげる杏子。

桃子「あっ! お姉ちゃん」

   さやかと杏子に駆け寄る桃子。スタスタと歩いて退散していくクララドールズのメンバー。

   ×   ×   ×

   アパートの階段下にしゃがみ込み肉まんにかぶりつく桃子。母親のような目で見つめる杏子、   さやか。

桃子「おいしかったです。ありがとう」

   コンビニのジャンクフードを一気に食べきった桃子。にっこり笑って礼を言う

さやか「いいよ、あたしたちのおごり」

杏子「あんたのお母さんはまだ帰らないのか?」

桃子「うん、だけどもう少しで帰ってくると思う」

   少し不安そうな顔になる桃子。

杏子「そうか、だったら帰ってくるまで一緒に待とうか」

桃子「それはダメ、お母さんに見られると怒られるから一人で待ってる」

   杏子の提案に焦る桃子。

さやか「あんた友達と遊んじゃいけないって言われているの?」

桃子「うん、人と遊ぶと悪い幽霊が付くんだって。わたしたちはただでさえ不幸になんだから、幽霊 につかれるともっと不幸になっちゃうんだって。だから誰とも遊んじゃいけないし、教団の人にし か頼っちゃいけないんだって」

さやか「なにそれ! あんたのお母さん絶対おかしいよ」

桃子「……お母さんは間違ってないよ、わたしたちはビンボーで不幸だから」

さやか「それはあんたのお母さんが……」

杏子「やめろ、さやか」

   子供の前で母親を責めるのは気が引けたのか、ぴしゃっと制止する杏子。世の不条理を噛み締   めるさやか。

さやか「それじゃあ、わたしたちがいるとまずいねさっさと退散しようか」

   冷静になったさやか素早く立ち上がる。

桃子「……ほんとうはお姉ちゃん達や友達と遊びたい」

   涙声になり、すすり泣きをしはじめる桃子

杏子「わかってるよ、一人ぼっちはいやだもんな」

   涙を拭いてうなずく桃子。

桃子「お姉ちゃん達が……幽霊を全部退治してくれれば……わたしも堂々と遊べるのかな?」

   シャクリ声を上げながら杏子に問いかける桃子。

杏子「ああ、きっとお母さんも許してくれるよ」

   笑顔を浮かべて頭を撫でる杏子。涙を拭いて笑顔を返す桃子。

桃子「富野桃子」

杏子「うん?」

桃子「わたしの名前、富野桃子。あんたじゃあ嫌だから」

杏子「あ、うん。そうだったな、名前を教えてなかったな。あたしは杏子、美樹杏子だ」

   桃子と本日二度目の握手をする杏子。

 

 

〇 朝 通学路 

   清々しいほど晴れた朝。元気よくシャキシャキと歩くさやかと杏子。

さやか「今日はいい天気だねぇ! 何かいいことがありそうだ」

杏子「ふわぁ……学校なんか行かずにお菓子をいっぱい持ってどこかに遊びに行きてーな」

さやか「財布がすっからかんのくせに、なにを言ってるのよ」

   先に来て待っていたまどか、ほむら、マミ。さやかと杏子の顔を見てそれぞれ挨拶をする。

杏子「おはよー」  

さやか「みんな、おはよー今日はいい天気だね。あれ? 仁美は?」

まどか「わたしが来た時も来ていなかったよ。おやすみかなぁ」

杏子「休みだったら、連絡が来るはずなんだけどな」

   首をかしげる杏子。

   女子生徒AとBがまどかグループの側を通り過ぎる。

さやか「綾音、聖子おはよう」

   露骨に無視して通りすぎる女子生徒AとB。

さやか「ちょっと、なんで無視するのよ」

   振り返りもせずにそそくさと歩いていく女生徒A、B。

さやか「な、なんなの?」

マミ「なんだか、様子がおかしかったわね」

ほむら「気にしないで行きましょう」

 

 

〇 朝 教室

   それぞれ、散らばり雑談をしている生徒たち。まどか一同教室に入ってくる。

さやか「おはようみんな」

   あきらかな無視、クラスメイト全員の冷ややかな視線。不気味な雰囲気におじけづくまどか。

   頬杖をついて冷淡な瞳で四人を観察するように見つめる仁美。

杏子「なんなんだよ……いったい」

   不気味な雰囲気に狼狽える杏子。

   黙って自分の席に行くさやか。どんと音をたててカバンを机の上に置く。

さやか「おはよう、仁美」

   負けるかとばかりに明るい声で挨拶をするさやか。

仁美「おはようございます、さやかさん」

   ニコリともせずに挨拶をする仁美。

さやか「ねえ、みんな感じ悪くない? なんかはぶられているようなきがするんだけど」

仁美「そうでしょうか、いつもとなんの変りもありませんよ」

   表情を変えずに淡々と言う仁美。今まで見たことのない冷たい無表情に何かを勘付くづくさや   か。

さやか「なんなの? ひょっとしてあんたが喧嘩を売ってるの?」

仁美「突然なんですの? なにか誤解されてはいませんか?」

   小馬鹿にした笑みをあからさまに浮かべる仁美。

さやか「仁美、あんた……なんのためにこんなことするのよ」

   ぎりぎりと拳を作るさやか。

女子A「ちょっと、あなた仁美ちゃんをいじめないでよ」

女子B「そうよ、暁美さんたちとつるんで夜遊びしてるようなヤンキーが仁美ちゃんに近づかないで 欲しいなぁ」

   近寄ってきて仁美を擁護する女生徒A、B。

杏子「あたしたちは夜遊びなんかしてねぇよ!」

ほむら「聞き捨てならないわね」

   女生徒の発言を聞いて近寄ってくる杏子とほむら。おどおどするまどか。

ほむら「あることないこと、いいふらして恥ずかしいと思わないのかしら」

仁美「ないことではありませんですわ? あなたたちは自分で思っている以上に人に見られていると 自覚したほうがいいのではなくて?」

ほむら「あなたたちが考えているような、やましいことはしていないわ」

仁美「人はそうは思いませんことよ」

ほむら「……上条君の噂に腹立ててこんな事をするのね」

仁美「あれはただの噂ですことよ、くだらない噂に惑わされていると思ってるなら、お門違いですことよ」

   にらみ合うほむらと仁美。仁美も肝がすわっており目を逸らさない

ほむら「いきましょう、こんな人を相手にしてもしかたがないわ」

   杏子とさやかとまどかに促すほむら。

仁美「それはわたしの言うことですわ」

   不敵に笑う仁美。

女子A「鹿目さん、こんなワルたちと付き合ってちゃ、ダメだよ」

女子B「そうだよ、何させられるかわかったものじゃないよ」

   まどかに擦り寄る女子生徒を怒りのこもった目で睨みつけるほむら。

   凄まじい形相に肝を冷やす女生徒。

仁美「鹿目さんいきましょう。あの人達とは仕方なく付き合ってるだけですものね」

   ほむらの形相を気にもせず半ば無理やり自分のグループに引き込む仁美。

まどか「えっ……ああっ」

   嫌とは言えず言われるがまま仁美グループに引き込まれるまどか。それをじっと見るほむら。

 

 

〇 授業中 教室

   英語の授業中、教壇に立っているのは早乙女先生。エキセントリックでテンションの高い授    業。

   不安そうな表情で居心地が悪そうなまどか。気難しそうな顔をしているさやか。教科書で壁を   作り寝たふりをしている杏子。三人の様子をチラ見で観察する仁美とほむら。

 

 

〇 放課後 喫茶店

   お互い向かい合って座るまどか、仁美。少し居心地の悪そうなまどか。なぜかニコニコしてい   る仁美。

まどか「高そうなお店だね」

仁美「そうでもありませんわよ」

まどか「……」

仁美「……」

まどか「あの……志筑さん……」

   さやかの擁護をしようと沈黙を破りに行くまどか。

店員「ウルトラ特大パフェとブラックコーヒーお持ちしました」

   いつの間に頼んだのかまどかの前にゴトンと置かれる巨大なパフェ。仁美はブラックコー     ヒー。

まどか「う……うわ……こんな大きなパフェ、アメリカでも見たことのないよ……いいの?」

仁美「どうぞ、召し上がってください」

まどか「いただきます……」

   ハハハ、と愛想笑いをしてクリームを口に運ぶまどか。急に無表情になりその様子を見守る仁   美。

まどか「……お、おいしい! 普通のと全然違うよ」

   必死に笑顔を浮かべるまどか。たしかにとびっきりの美味だが心の底からそうと思えない。

仁美「それは良かったですわ」

   優雅な手つきでコーヒーを口に運ぶ仁美。胃が痛くて本当は食欲がないが無理にフルーツを口   に運ぶまどか。

仁美「今日は鹿目さんにお話があってこの席をもうけたのですけど」

   ぴたりとと止まるまどかの手。

仁美「わたしの婚約者上条恭介くんと美樹さやかとの間に流れている噂のことですわ」

まどか「……」

   さやかを呼び捨てにしたことで、噂のことについて呼ばれたものと察するまどか。

仁美「上条君と美樹さんが目撃されたのは今から五日前の話。あなたは誰と何をしてましたか? 美 樹さんと一緒にいましたか? または彼女を目撃しましたか?」

まどか「……暁美さんと杏子ちゃんと一緒にいたからさやかちゃんは見なかったよ」

   咄嗟に嘘をつくまどか。

仁美「……」

まどか「三人で一緒に河原の辺を一緒に散歩しながら帰ったんだよ」

   気迫に押されつい言わなくていいことを言ってしまうまどか。

仁美「……時間は何時頃ですの?」

まどか「えっと……五時か六時頃だったかな」

仁美「……」   

   なにか思案顔の仁美。

まどか「志筑さん……こんなこともうやめてよ……さやかちゃんは上条君と志筑さんの事を本当に心配 していたんだよ。きっとなにかの間違いだよ……さやかちゃんがそんなことをするわけないもん」

   スプーンを持つまどかの手が小刻みに震え始める。怖くてもさやかたちを擁護するまどか。

仁美「まどかさん、わたしも一緒に頂いてもよろしいでしょうか? 急に甘いものが欲しくなりまして」

   突然、名前読みに呼び方を変える仁美。

まどか「うん、いいけど」

   まどかの席の隣に座り擦り寄ってくる仁美。震えるまどかの手からスプーンを取る。

仁美「どうぞ、召し上がれ」

   クリームとウエハースをすくってまどかの口に運ぶ仁美。

まどか「うん、ありがとう」

   ボリボリとウエハースを噛み砕くまどか。

仁美「ふふふ、わたし前からこういうシチュエーションに憧れていましたの」

   笑顔でまどかに寄り添う仁美。

まどか「そ、そうなんだ」

仁美「嘘はいけませんわね、まどかさん」

   囁くように言う仁美。ビクッと肩をふるわせるまどか。

仁美「まどかさんたちとあの二人が河原にいたのはほぼ同じ時間帯、あなたたちが合わなかったとは 思いませんわ。本当は何か知っているんではありませんか」

まどか「本当に知らないんだよぉ……信じてよ」

   スポンジケーキをスプーンですくいまどかの口に押し込む仁美。

仁美「正直なところ上条君とさやかさんの関係ないことなんです。ただ噂の真相が知れ

 ばあの人たちの仲なんてうでもいいんですの、本当のことをおっしゃっていただけませ

 んんか」

まどか「……」

   余計なことを言わないように黙り込むまどか。。

仁美「あなたが嘘をついたとしても裏付けは整っていますのよ。あとはあなたの証言だけです」

   メロンをスプーンですくって容赦なくまどかの口に運ぶ。

まどか「……」

   ちゃんとスプーンの上のメロンを食べるまどか。

仁美「あなたを嘘つき女たちのお仲間だと思いたくありませんわ。クラスのみんなに軽蔑の目で見ら れて暗い青春をおくりたくないですわよね?」

   暗い口調と冷たい目でまどかを追い詰める仁美。完全に怯えて泣き声をあげるまどか。

 

 

〇 夜 住宅街

   閑静な住宅街のあるアパート。部屋の一室から男と女が現れ女を送り出す。

   少し離れた電信柱の上にキャッツアイな全身黒タイツ女。どこからか調達した暗視ゴーグルで   二人をのぞき見している和子先生。

和子「トシちゃんに相変わらず悪い虫がついているわね」

   電柱から飛び降りる和子先生。

和子「こんなにもあの人を愛しているわたしがいるというのに、なんで別に女を作りたが

 るのでしょう。全く男の人の心はわかったものじゃないですね、いやらしいですねこれ

 が男のサガなんですかね」

   病んだ顔でうふふと笑う和子。

和子「それにしても女も女でずうずうしいですね、ふふふ嫌な女ですね。遠慮というものがないのか しら、こんなにも愛している女が近くで見守っているというのに、今まで散々警告してきたのに恥 というものがないのですかね」

   ふらふらと歩き出す和子。いつの間にか風景がかわり魔獣の空間に飲まれている

和子「ですがあの人がわたしのもとに戻ってくるまで負けません。あの女がトシちゃんを奪えると  思ったらそれは大間違いです! ひゃっ!」

   魔獣の手のひらにぶつかり倒れこむ和子。

   和子を餌食にしようとつまみ上げる托鉢僧姿の魔獣。

和子「お坊さん! 乙女の扱いにはもっとデリケートにするのではなくて?」

   夢かなにかの出来事だと思い怒り狂う和子。

   どこからか現れた杏子、魔獣の腕を切り落とす。

   手から解き放たれた和子をもう一人の杏子がキャッチする。攻撃した杏子は分身。

杏子「たく! 魔獣と男の区別もつかねえのか」

   杏子魔獣のビーム攻撃をかわし、和子を抱えながらの防戦。向こう側ではさやか、ほむら、マ   ミ、なぎさが十匹の魔獣を相手に乱戦。

なぎさ「魔獣の数が多いのです」

ほむら「本当に、最近瘴気が濃いわ」

   魔獣の攻撃をかわし愚痴るなぎさとほむら。

マミ「杏子ちゃん、あなたはどこかに隠れてロッソ・ファンタズマで魔獣を攪乱して頂戴」

杏子「おい! 勝手に変な技名をつけるの、やめろ!」

   分身を五体囮にだして戦線離脱する杏子。

なぎさ「レガーレ・フォルマッヂオ」

   チーズを魔獣にぶつけるなぎさ。

さやか「……」

   いらだちを魔獣にぶつけるかのようにミニミ機関銃を乱射するさやか。

 

 

〇 夜 住宅街

   魔獣を全て撃退し結界が崩壊し、グリーフシードがあちらこちらに散らばる。

   路上に立つほむらたち、和子も横たわっている。杏子以外全員変身を解く。

マミ「どうしたの? みんな、機嫌が悪くない?」

   三人の様子が暗いことに気づき聞くマミ。

さやか「何もないです」

ほむら「ちょっとね」

なぎさ「なんでもないようには見えないのです」

杏子「あたし、もう帰る」

   魔法少女姿のまま屋根伝いを飛び跳ね去っていく杏子。

マミ「暁美さんどうしたの?」

ほむら「……」

   答えず和子を抱きかかえ去っていくほむら。

マミ「なにかあったの? 昼休み鹿目さんもいなかったし」

さやか「すいません、今は気持ちの整理をしたいんで、また明日」

   背を向けて去っていくさやか。心配そうな顔で無言のまま見送るマミ、なぎさ。

 

 

〇 朝 鹿目家

   鹿目家のいつもの朝餉。朝食を食べる詢子とタツヤとまどか。知久は三人の様子を見守ってい   る。

タツヤ「ねージュースジュース」

詢子「ほら、急がずにゆっくり飲むんだぞ」

   タツヤにオレンジジュースを飲ませる詢子。一方見るからに元気のないまどか。食があまり進   まない様子。

タツヤ「ねーちゃ、げんき、ない」

詢子「どうした? 食欲がないのか?」

まどか「うん、あんまり食べたくなくて……」

知久「じゃあ、パンは残して、デザートだけでも食べていきなさい」

   ヨーグルトにメロンが乗ったデザートを出す知久。

まどか「うっ」

   まどかメロンを見て吐き気を催す。立ち上がり急いでトイレに駆け込むまどか。

知久「まどか!」

   心配そうな顔の詢子と知久

 

 

〇 朝 さやかの家 

   制服に着替えたさやか、杏子の部屋の前に立つ。杏子はまだ、部屋から出てきていない。

   部屋のドアをノックするさやか。杏子からの返事はない。

   ドアを半開きにし、中の様子をうかがうさやか。杏子はまだ、布団の中でくるまっている。

さやか「杏子、早く準備しなきゃ遅れるよ」

杏子「……今日は休む」

さやか「具合が悪いの?」

杏子「……」

   ふて寝を決め込む杏子。

さやか「杏子……あんな奴らに負けちゃダメだよ」

杏子「うるさい! 休むっていってんだろ!」

   ふとんの中から怒鳴り散らす杏子。

さやか「……わかった、今日は休むのね」

   ドアを閉めるさやか。

   いやがらせに負けてたまるかと自分の顔を叩き、喝を入れるさやか。

   ×   ×   ×

   布団の中でソウルジェムを握り締める杏子。ソウルジェムはほのかに濁り始めている。

 

 

〇 朝 通学路

   わざとしゃきしゃきと早歩きをするさやか。待合場所にはマミとほむらが待っている。まどか   は仁美と先に登校したため居ない。

さやか「おはよーどうも、お待たせしました」

   笑顔を浮かべいつもの明るい調子であいさつをするさやか。

ほむら「おはよう」

マミ「おはよう、さやかさん大丈夫なの?」

   心配した様子のほむらとマミ。

さやか「ああ、昨日はすいませんした、ちょっと仁美と誤解があってですね」

ほむら「杏子は?」

さやか「あいつ、今日は休むみたい。お菓子でも食べすぎたんじゃないかな」

マミ「あなたがよければ話を聞くわよ」

さやか「ああ、実はですね……」

   さやか、いままでの経緯を歩きながら全て語る。

マミ「なるほどね、そういうことだったのね」

さやか「あたしが仁美に勘違いをさせるようなことをして、杏子とほむらとまどかまで巻

 き込んでしまって申し訳ないです」

ほむら「わたしは気にしていないわ、だけど志筑さんが鹿目さんと杏子にしたことは許し

 たくないわ」

マミ「暁美さん、くだらない噂なんか気にしてはダメよ。全て誤解が原因なんだから、ち

 ゃんと話せば志筑さんもわかってくれるわ」

ほむら「……」

   ぶすっと黙り込むほむら。

マミ「まずは誤解を解かなくちゃね。上条君も交えて事のあらましを全部話したほうがい

いわ」

さやか「はい、そうします」

   横目でさやかをちらりと見るほむら。

 

 

〇 朝 教室 

   教室に入るさやかとほむら。クラスメイトたちの間に緊張が走り沈黙する。

   仁美とまどかと取り巻きの女子A、Bに囲まれるさやかとほむら。

仁美「美樹さん、二人でお話したいことがありますわ。屋上に来てもらえますでしょうか」

   冷たい口調で言う仁美。

さやか「あたしもあんたと話をつけたかったんだ。あと、恭介も来てもらいたいんだけど」

仁美「恭介君はコンクールに備えて今日からお休みですわ。知らなかったんですの?」

   嘲るような笑みを浮かべる仁美。

   二人で並んで教室を出て行くさやかと仁美。その様子を静かに見守るまどか、ほむらとクラス   メイトたち。

 

 

〇 朝 屋上

   金網越しに外の景色を眺めている仁美。後ろで立っているさやか。二人の間には張り詰めた空   気が流れていて話を切り出せない。そうしているうちに学校の朝礼の鐘が学校に鳴り響く。

さやか「仁美、あんたに謝らなくちゃいけない」

仁美「……」

さやか「あの、噂さ……本当のことなんだ。恭介にバイオリンを聞かせてもらったし。一

 緒にお茶もした……否定はしないし、言い訳もしない。あんたたちの不仲につけこんだ

 って思っても仕方ないもんね」

仁美「……」

   ちらりと冷たい目で見る仁美。

さやか「わたしが悪かった。ごめん。あたしはいくらでも嫌ってくれていい、憎んでく

 れたっていい。だから、杏子やほむらまで巻き込むのはやめて。もう恭介とは話さない

 あんたたちのグループにも絡まない。だから許して、こんなこともうやめて」

仁美「ふふふふ」

   景色を眺めていた仁美が嘲るように笑う。

仁美「あなた、なにを勘違いされていますの? 嫉妬に狂ってこんなことをしていると思

 って?」

   思いもしなかった反応に驚くさやか。

仁美「わたしはあなたに宣戦布告をしていますのよ。噂は周りを味方につけるための口実

 に過ぎませんわ」

   くるりと振り向く仁美。顔には邪悪な笑みが浮かんでいる。

仁美「あなたの不幸がわたしの幸せなんです。当たり前だと思っていたものを次々に奪い、

 壊していく、今まで得たことのない快感で全身がゾクゾクしますわ、これが快楽という

 ものなのですね」

さやか「……」

   思いもしなかった友人の歪んだ一面に言葉が出ないさやか。

仁美「あなたは幸せ者ですものね、人生について悩んだことなんて一度も何もないのでし

 ょう。自分のやることに干渉しない両親がいて、明るくて優しい妹がいて、友達に囲ま

 れていて、才能にあふれた憧れの男の子がいて、楽しい人生を送ってさぞかしご得意な

 ことでしょう」

さやか「ッッ!……それがこんなことをする理由なのかよ」

仁美「ええ、だから嫌い。あなたはわたしの持っていない何もかもを持っていますからね。

 ただあなたが嫌いだからみんなを使ってのけものにしているのです、あなたもわたしを

 憎んでくれてもいいですことよ」

さやか「……そんな考えだから、周りからどんどん孤立していくんでしょうが」

仁美「あなたには日陰者の弱さなんてお分かりにならないでしょう、人の怒りや悲しみを

 自分の尺度でしか測れないくせに、全てわかったような顔をして、まるで偽善者ですわ」

さやか「わかってないのはあなたの方でしょうが、あんたより不幸で虐げられている人は

世の中にいくらでもいるんだよ」

仁美「そのわかったような口が気に入らないですのよ!」

   ドスの聞いた声で一喝する仁美。

仁美「あなたとは絶交させていただきます。美樹さやかさん。そして今日からはあなたの

敵。この学校からあなたの居場所をなくしてさしあげますから覚悟していてください」

   踵を返して立ち去ろうとする

さやか「……恭介はどうするのよ」

仁美「恭介君のことですか? わたしの将来の婚約者ですもの絶対に離しませんわ」

さやか「恭介の奴がかわいそうだよ。あんたみたいな女が彼女なんてね」

仁美「彼の心が離れるのはとっくに知ってますのよ。ですから、尚更離す気がしないので

 す。心は遠くに離れているのにそれでも心を壊して献身的に尽くすって、美しいロマン

 チックな愛の形だと思いません? 愛というのは決して甘い、美しいものではないので

 すのよ。本当はとても痛々しくて毒々しい一方的な狂気に満ちた代物なのですわよ」

さやか「誤魔化すな! ただ、お金で心を繋ぎとめてるだけだろ」

仁美「お金で買えないものに良いものはありませんことよ」

   冷笑を浮かべ立ち去る仁美。怒りを抑えるさやか。

 

 

〇 昼休み 屋上

   並んで弁当を食べるさやか、マミ、ほむら。

   食が細いさやか。その様子を心配そうに見つめるマミ。

マミ「さやかさん、大丈夫?」

さやか「さすがにショックですわ、仁美があんなふうにあたしを見てたなんて」

ほむら「これでわたしたちに敵意を向けていることがはっきりしたわね」

さやか「そういうことになるね」

マミ「二人とも喧嘩腰でいてはダメよ。先生や大人の介入が必要よ、これは質の悪いいじ

 めだわ」

さやか「いやです、それだと恭介も巻き沿いをくらうんで、このことで渡欧がチャラにな

るようなことになりたくないんで」

マミ「それは彼の問題よ。この件には関係ないわ」

さやか「マミさんにはわからないよ。それに大事なコンクールの前ですよ、恭介のコンデ

ィションを下げたくないんです」

   ため息をつくさやか。

   さっさと弁当を食べ終わり、弁当箱をカバンに仕舞うほむら。

ほむら「わたし杏子をみまってくる」

   さやかにカバンを押し付けるほむら。

さやか「へっ?」

ほむら「五時間目の授業には間に合うようにするわ」

   去っていくほむら。

マミ「ええ? 暁美さん」

   振り返りもせずに去っていくほむら。

さやか「……」

マミ「……」

   会話の切り口が見つからず黙り込んでしまう二人。

さやか「……あの」

マミ「何かしら」

さやか「この前強大な敵がこの街に来るかもしれないって言ってましたけど、本当なんですか?」

   ふと思い出した話題を口にするさやか。

マミ「確証はないけどね、どうもそうなりそうなの」

さやか「……確証もないのに、どうしてそういえるんですか? それにどこからその情報を手に入れ たんですか」

マミ「それは今、言えないわ。あなたが魔法少女になってから説明したいの」

さやか「一方的に信じろって、言ってるんですか」

   気が立っているせいでマミにもきつい言い方をしてしまうさやか。

マミ「……」

さやか「ごめんなさい、きつい言い方をして。でも、わたしも命をかけて戦うことになるんで判断は ちゃんとしたいんです。確実に大きな戦いになるって確証が得られないのであったらわたしは魔法 少女になる気はないです。今、この街は魔法少女が四人もいるから戦力は十分だなって思うんで  す」

マミ「それはわかっているわ、あなたに戦いを強いることになるから。だけどね、ひょっとしたら今 のこの状況が関係しているかもしれないのよ」

さやか「この状況って仁美や恭介の件ですか?」

   マミの発言に意外な顔をするさやか。

マミ「ええ、その敵の強大な魔力がこの世界の人間の人格に悪影響を与えて、悪い方向に導いてるか もしれないの。ひょっとしたらこの件も敵の精神攻撃の一種かも知れないのよ」

   キュゥべえの説明に自流の解釈をするマミ。

さやか「仁美が操られているかもしれないってことなんですか」

マミ「そういうことね」

さやか「……」

マミ「ごめんなさい、今言えることはそれだけなの」

さやか「とても、信じられることではないですけど……仁美はあんなことする子じゃないって、自分 がよく知ってるんで説得力はありますね」

マミ「……」

さやか「まだ、考えさせてください」

マミ「それがいいわ、でもできるだけ早くお願いね」

 

 

〇 前と同時刻 さやかの家

   ほむら、さやかのアパートの前に立ち呼び鈴を押す。八百屋で買ってきた林檎を片一つ手に    持っている。家は留守で返事は無い。首をかしげるほむら。

 

 

〇 昼 見滝原番外地

   小汚い街の道をぶらつく杏子。制服は着ておらず、私服姿。しらずの内に桃子の住むアパート   へと足が向かっている。

スピーカー「悪魔の計略が今そこに迫っております。世界は怒りに蝕まれ正義の心さえも

 侵していくのです」

   スピーカー男とすれ違う。振り返りガンを飛ばす杏子。

   杏子スピーカー男の進行方向に魔獣の結界が展開されていることに気付く。ズブズブと結界に   飲み込まれるスピーカー男。

杏子「ちっ!」

   気に入らない連中だが助けるしかないと思い、変身し結界に突入する杏子。

 

 

〇 魔獣の結界内

   網目のような迷路空間。

   男をさがしキョロキョロと見回す杏子。まるで邪神のようにそびえ立つ赤マント姿の7匹の魔   獣。

スピーカー男「うひゃあああああああ! 黙示録の魔物だぁー!」

   男の声が壁の向こうからする。

杏子「どこだ、今そこに行くから動くんじゃねぇ」

スピーカー男「ぎゃああああああああああ!」

   遠くだが男の悲鳴で錯乱しているのが手に取るようにわかる。

   壁を飛び越えて男を探す杏子。その間もひっきりなしに杏子にビーム攻撃する魔獣。

杏子「うぜぇ、攻撃してくんな」

   分身を召喚し魔獣の攻撃を必死にかわすわす杏子。

   壁を飛び越える杏子。男の姿をついに発見する。スピーカーを捨て逃走している。

   男の痩せた長身を担ぎ上げる杏子。

杏子「ちっ! 今回は見逃してやるよ」

   撤退をしようと飛び上がるが魔獣の集中的な包囲攻撃にあい脱出できない。魔獣に追いかけら   れたり空を飛んだりと目まぐるしい状況の変化に付いてこられず気絶するスピーカー男。

杏子「ちっ! 目障りなんだよ! ケダモノども」

   杏子攻ビーム撃をくらって吹き飛ぶ。それでも男を抱きしめ、しっかりとかばう。

   地面に叩きつけられ転がる杏子。杏子の腕から投げ出されるスピーカー男。

   地面に横たわる杏子を鷲掴みにし、ぎりぎりと締め付ける魔獣。

杏子「ちく……しょぉ……離せ……」

   体を圧迫され呼吸ができずに命の危機を感じる杏子。

   突然七匹全ての魔獣が爆発し消滅する。時間を止めたほむらによる爆弾攻撃。魔獣の手からこ   ぼれた杏子をほむらがキャッチする。   

   結界が消滅し、街の風景に戻る。グリーフシードがバラバラとこぼれ落ちる。

ほむら「杏子! 大丈夫」

   ぐったりとした杏子を揺さぶり呼びかけるほむら。

杏子「ほむら。しくじっちまったよ」

   かすれた弱々しい声で呼びかけに応じる。

ほむら「もう少しで死ぬところだったのよ、あなた」

杏子「……」

   恐怖と悔しさで何も言えない杏子。

スピーカー男「……うーん」

   目を覚まし立ち上がるスピーカー男。魔法少女姿の杏子とほむらを見て小さな悲鳴をあげる。

スピーカー男「悪魔だ、悪魔の手先だ……」

   小声で呟くと来た道を一目散に走り出す。

   それを聞いて無力感に襲われ悔しそうな顔をする杏子。

ほむら「たまにはこんなこともあるわよ」

   杏子のソウルジェムが濁りを帯びる。

 

〇 昼 桃子アパート

   黙ったまま歩く杏子とほむら。桃子のアパートの手前で止まる。

   杏子立ち止まりアパートを見上げる。桃子の母親も桃子もいない様子。

ほむら「また、ここに来たのね。どうしてあの子が気になるの?」

杏子「どうしてだろうな。なんだかほっとけないんだよね」

ほむら「わたしあの子のことを少し調べてみたの。あの子のお父さんは何年か前に事故で亡くなって いて母親と二人で暮らしているの、お母さんはお父さんが亡くなってから入った新興宗教に熱心  で、かなりのお金を活動資金に費やしているみたいなの」

   話しながらアパートの窓を見上げるほむら。

杏子「どうして、調べたのさ」

ほむら「ほんの老婆心よ、あなたがやけに気にしている様子だったから」

杏子「……なぁ、ほむら。さっきの奴助けない方がよかったのかな」

ほむら「……杏子」

   杏子の発言に眉をひそめる杏子。

杏子「あいつらはただの蟻だよ、胡散臭い教祖様のために金を稼いで貢ぐだけの存在。弱い人の不安 につけこんで入信させて、今度は自分が甘い汁を吸う側にまわろうとしてるやつらだ、ただのクズ じゃん、生きてる価値あるの」

ほむら「あるわ、さっきの人だってただの下っ端よ。ただ騙されてる側の人なのかも知れないのよ」

杏子「……」

ほむら「馬鹿いうのはやめて。あなたはこの力で世界を守るって、あなたのお父さんの代わりになる んだって言ってたじゃない」

杏子「言ったけど、気が変わりそうさ。所詮この世は何も反省せず何も顧みず、毎日なんの感慨もな く、自分のためだけに生きる奴らが大半なんだ。そんな奴らのためにあたしが命を張る必要あるの かよ?」

ほむら「その感慨もなく生きている人たちにも希望があって、守りたいものがあるのよ。あなたみたいに」

杏子「……」

ほむら「今のあなたはストレスが溜まっている、だからそんなひねくれた考えをするのよ、さっさと 家に帰って頭を冷やしなさい」

   どこからか取り出した林檎を杏子に投げ渡す。

   黙ってキャッチする杏子。

杏子「命令は聞きたくないね、しばらく街をぶらついてみるよ」

   背中を向けて立ち去る杏子。憂鬱オーラを放つ杏子の背中を見送るほむら。

 

 

〇 昼 教室

   六時間目の授業中。数学の授業に集中して授業を受ける生徒たち。

   結局授業にこなかったほむらの席を見ているさやか。クラス唯一の仲間が居ないことにさすが   に不安を感じている。まどかの方を見る。相変わらずつまらなそうに授業を受けている。

   どこからともなくケシカスが飛んでくる。ケシカスがさやかの髪に入る。

   さやか仁美の仕業かと思い、隣を見る。真面目にノートを取る仁美。

   目線を戻した瞬間、また別の方向からケシカスが飛んでくる。今度は四方八方からの集中砲    火。

   怒鳴り散らしたいのを必死にこらえるさやか。まどかそれを心配そうな面持ちで見ている。

 

 

〇 夕方 風見野市の廃教会

   入口のドアを蹴倒し教会に侵入する杏子。段々状の聖堂に上り懐かしそうに見回し、ほむらか   らもらった林檎をかじり出す。

   杏子かつての自分の部屋を見て回る。次々と脳裏に蘇る過去(植えつけられた偽の記憶)の思   い出。

杏子「……お父さん、ごめんなさい……ごめんなさい……もう悪には惑わされません……」

   さっきの自暴自棄な考えに自己嫌悪に陥る杏子。感情が波のようにせめぎあい、ついに目から   涙が溢れ崩れ落ちる。

  

 

〇 夕方 繁華街

   夕暮れの繁華街まどかと仁美が手をつないで歩いている。仁美が手を引いてまどかをリードし   ている様子。

   おしゃれで高級な雑貨店に入る仁美とまどか。

 

 

〇 同時刻 雑貨屋

   売り場を見て回る仁美とまどか。

仁美「見てください、まどかさんこのピアスとても綺麗ですわ」

   ピアスを手に取る仁美。

まどか「仁美ちゃん、ピアスは校則で禁止だよ」

   友達らしく仁美を名前読みで呼ぶまどか。

仁美「そうでしたわね、でもいつかはつけてみたいですわ」

   ピアスを元に戻す仁美。

仁美「ここの店の商品はとってもかわいくて、いいものがそろっていますのよ」

まどか「結構値が張るんだね。わたしには手が届かないや」

   商品の値札を見て全部自分に不釣り合いなものだと実感するまどか。

仁美「あら、わたしが買ってあげますわよ」

まどか「そんな、いいよ」

仁美「いいですわ、お友達ですもの。好きなものを買ってあげますわ」

まどか「だけど、値段が高いし……」

   流石に躊躇するまどか。

仁美「気にしないでください、お友達ですもの今日は友情の印として差し上げますわ」

まどか「う、うん」

   友情の印と言われるとさすがに断れないまどか。

仁美「これなんてどうでしょうか」

   ハートの形をしたネックレスを手に取る仁美。

まどか「わぁ、かわいいね」

仁美「色違いで同じものが二つありますわ」

   濃いピンクと淡いピンクの二種類。

仁美「ねぇ、まどかさんこれを二人で買いませんか?」

まどか「えっ!」

仁美「それで毎日一緒につけるのですの。ペアルックですわ」

まどか「えーなんだか恥ずかしいよ」

   顔を赤らめるまどか。

仁美「そう、おっしゃらずに、ねっ」

   ネックレスを持ってレジに向かう仁美とまどか。

   店の奥の物陰に隠れていたほむらが仁美を睨みつける。

 

 

〇 夕方 街路

   二人で並んで帰る仁美とまどか。二人の首にはさっき雑貨店で買ったペアルックのネックレス   が付けてある。薄いピンク色がまどかで濃いピンクが仁美。

仁美「久しぶりにお友達と遊べて、今日はいい日でしたわ」

   満足そうに言う仁美。

まどか「あの……仁美ちゃん今日はお稽古なかったのかな」

   気になっていた事を率直に聞くまどか。

仁美「もうお稽古には行きませんわ。普通の女の子として生きたいのですの」

   まどかに対してきっぱりと答える仁美。

まどか「でも、サボるのはいけないと思うよ」

仁美「なぜ、そんなことを言うんです? あなたはお稽古事が大変そうって同情してくだ

 さったじゃないですか、わたしは自ら自由に生きる道を選択したのですよ」

まどか「だけど、いけないよ。仁美ちゃんのためにならないよ、それに仁美ちゃんのお母

 さんたちも何かあったんじゃないかって心配するよ」

仁美「金持ちの娘だからって、やりたくないことをするのは嫌なんですの!」

   突然怒鳴る仁美。ビクッと体を震わせるまどか。

仁美「子供の頃からそうでしたわ、物心ついたころからずっと家名に恥じないようにと、

 やりたくもないお稽古事を無理矢理いくつも習わされて、あの人たちは今までわたしの

 意思を尊重したことなんてなかったのですわ。あんな人たちに心配される筋合いはあ

りませんわ」

   突然激昂した仁美に怯えるまどか。はっと我に返る仁美。

仁美「ああ、わたしとしたことがはしたないですわ、こんなところで怒鳴り声をあげて」

まどか「う、うん、わかったよ、十分に、今まで辛かったんだね。だから落ち着いてね」

   なだめるまどか。

仁美「ごめんなさい、つい感情が高ぶって」

まどか「うん」

仁美「なんだか、あなたみたいな人は初めてですわ、まどかさんと居るととても安心でき

 て落ち着きますのよ。あなたには人を包み込む不思議な雰囲気がありますわ」

   自己嫌悪で落ち込む仁美、つい本音を漏らしてしまう。

まどか「そうなんだ、他の人にそう言われたことないけ ど、仁美ちゃんが頼ってくれて

 辛いことを話してくれるんだったら、わたしも嬉しいな」

仁美「みんな恥ずかしいからいわないでしょうけど、感じとっていますわ……ねぇまどか

 さんこんなわたしですけど、ずっと友達でいてください。お願いいたします」

   しおらしく心細い声でまどかに言う仁美。

 

 

〇 夜 さやかのアパート

   杏子さやかアパートに帰ってくる。風見野市から帰った後。さやかが杏子を出迎える。制服を   着替え私服姿。

さやか「あんたこんな時間までどこに行ってたわけ?」

   さやかのきつい言いようにムカっとする杏子。

杏子「どこだっていいだろ」

さやか「学校をサボったうえに夜遊びかよ。あんた本当に不良になっちゃったの?」

杏子「ちげーよ! 気分が良くなったから散歩に出てただけだよ」

さやか「嘘つけ、あたしが夕方に帰った時にはいなかったくせに」

杏子「ちっ……人のやることに文句つけるなよ、子供じゃあるまいし」

さやか「文句じゃないよ、あんたが心配だから言うんでしょうが」

   つい声を荒らげてしまうさやか。

杏子「心配? それが心配してる人間の言うことかよ? 本当はあたしがサボったのが腹立たしいん だろ。仁美たちにハブられて、仕返しができなくてイライラするから、その分あたしに八つ当たり をしてるんだろ」

さやか「なっ! なんでそんな言い方をするのよ!」

杏子「ねーちゃんのせいであたしまで巻き添えをくらってこんな嫌な思いをしてるんだ。もう行きた くねーんだよ、学校なんて! 仁美もみんなもずっと友達だと思ってたのに、なんでこんな事を平 気でできるんだよ。あんたの妹ってだけで!」

さやか「……」

杏子「……あたし知ってるんだよ。あんたが上条のやつとデートしてたの、あの日まどかとほむらと 見てたんだよ。川原で。ほむらのやつは全部察してあたしたちの口を封じたけど」

さやか「なっ……違う、そんなんじゃない」

   杏子たちに見られていたことを知り動揺するさやか。

杏子「いいわけかよ、盗人猛々しいよな」

   さやかの横をすり抜けようとする杏子。杏子の発言にカッとして杏子に平手打ちをするさや    か。

杏子「……」

   突然殴られ呆然とする杏子。

さやか「あんた人の気も知らないで、なんでそんなことを言えるの……最低だよ。あたしだってこの 状況をどうしようかと……」

杏子「うるさい……謝れ」

   さやかを冷たい目で睨みつける杏子。次の瞬間力の限りさやかを殴りつける杏子。腕で攻撃を   防ぐさやか

杏子「謝れ! 謝れ! 謝れ! 謝れ! 謝れ! 謝れ!」

さやか「ちょっと、やめ……」

   さやかを突き飛ばす杏子。さやか壁にぶつかり倒れこむ。

   杏子振り返り体を起こそうとしているさやかを冷たい目で見下ろす。

杏子「あんたとは今日から赤の他人だ。次見ても、もう二度と妹扱いするんじゃねぇぞ。あたしには   魔法の力があるんだ、これからは自分一人で生きてやる」

   ドアを開け外へ飛び出す杏子。

さやか「杏子! 待って! 杏子ッ!」

   急いで家を出るが外に杏子の姿は無い。

 

 

〇 夜 見滝原番外地

   寂れた街をふらふらと歩く杏子。足は自然に桃子のアパートに向かっている。

   桃子のアパートの前にたどり着き、アパートの窓を見上げる杏子。

   窓には桃子が母親に殴られている姿が浮かび上がる

桃子「お母さん、やめてよ! 桃子いい子にするから」

   泣いて懇願するが容赦なく母親にボコボコに殴られている桃子のシルエット。

   怒りで我を忘れ顔面が悪鬼のように歪む杏子。

   魔法少女に変身し、アパートの階段を上っていく。

   同時にアパートの階段の影から魔法少女姿のほむらが現れ。誰の影も映っておらず急に静かに   なったアパートの窓を見上げる。

 

 

〇 夜 繁華街 

   夜の賑やかな街を一人走り杏子の姿を探すさやか。

ホストA「お嬢ちゃん、中学生? こんな時間に夜遊びしてたらいけないよ」

   親切なホストに声をかけられるが無視してがむしゃらに走り続けるさやか。

さやか「あたしは何言ってるのよ! あいつまで巻き込んで傷つけたのに。なんてこと言

 ったのよ!」

   いくらイラついたとはいえ、妹に八つ当たりをして怒らせてしまったことを後悔するさやか。

   サイレンの音を轟かせパトカーや救急車が、走っているのが目に入る。

   何か嫌な予感を感じ取ったさやか、車両を追いかける。

 

 

〇 夜 見滝原番外地

   いつもは静かな住宅街は群がり異常な熱気と喧騒に包まれている。

   古い木造建築のアパート周辺に黄色テープが貼られ。二階から女を乗せた担架が運ばれてく    る。

   一生に一度見られるかどうかの光景を我先に見ようと押し合う野次馬たち。マスコミの人間の   姿も見える。

   野次馬たちをかき分け、テープギリギリまで歩いていくさやか。

   担架が救急車に乗せられ走り去る。警察の鑑札が現場の調査をしている。

警察官A「現場の状況からして被害者は鈍器のようなもので激しく殴られた模様です」

女子リポーター「犯人に連れ去られたのは被害者女性の長女富野桃子さん十三歳とみられ

 ています」

   自分の妹が引き起こした事件の恐ろしさを実感しで体の芯から震えてくるさやか。現場の様子   が今見ている光景が夢幻のように思うが全て残酷な現実。

キュウべえ「キュウ」

   突然、タイミングを図ったかのように現れたキュウべえ、さやかの足元に擦り寄ってくる。

   キュゥべえの首根っこを掴みつまみ上げるさやか。やじうまをかき分け喧騒から離れる。

   誰もいない薄暗い路地裏に駆け込むさやか。手に掴んでいたキュウべえを地べたに下ろす。

さやか「キュウべえ、あたしを魔法少女にして」

   必死な形相で訴えるさやか。

キュウべえ「……」

   必死な形相のさやかと対照的に不思議そうな顔をしてさやかを見つめるキュウべえ。

さやか「杏子が大変な事になりそうなんだよ!」

キュウべえ「……」

   ゆっくりと耳をさやかの胸まで伸ばすキュウべえ。

   苦痛で声を上げるさやか。眩い光を放ちながらさやかの胸からソウルジェムが出現する。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。