魔法少女まどか☆マギカ 焔の物語   作:かばお

5 / 9
Ⅳからの続きです。


焔の物語Ⅴ

〇 朝 風見野市の廃教会

   教会の聖堂で眠る二人の少女の姿、杏子と桃子である。桃子にはジャンバーが毛布がわりにか   けられている。

桃子「……」

   目を覚ます桃子。見たこともない場所に自分が眠っているので、驚き辺を見回す。杏子が背を   向けて寝ているのに気づく。

桃子「……杏子、お姉ちゃん?」

  杏子の背中に呼びかける桃子。

杏子「あ……うん、桃子起きたか」

   体を起こす杏子目が腫れてクマができている。不安と興奮とで結局眠れずにいた。

桃子「わたし……」

   母親に殴られている時に気絶して記憶のない桃子。

杏子「あー桃子のお母さんがパニクってたからな、割り込んでちょっと話をつけて引き取ってきたん だよ。頭が冷えるまでな」

   適当に話を濁す杏子。

桃子「そう……なの……」

杏子「大丈夫だよ、お母さんはちゃんとわかってるから。な」

桃子「う、うん」

   それでも心配そうな表情の桃子。

 

 

〇 朝 通学路

   いつもの場所に立って待つマミとほむら。フラフラと歩いてくる昨日と同じ私服さやか。結局   家に帰らずにずっと杏子の捜索をしていた。

マミ「美樹さん、あなたどうしたの? 制服は?」

さやか「……ほむら、あたし二、三日学校休むわ」

ほむら「一体どうしたというの?」

   当然知らぬふりをしてとぼけるほむら。

さやか「杏子が……杏子が……」

   声を詰まらせるさやか

マミ「一体どうしたというの?」

さやか「……あたしが……見つけて連れ戻さなきゃ」

   うわ言のように呟くさやか

ほむら「あなた、ふらふらじゃないの。少し休みなさい」

さやか「そんな時間ないんだっ!」

   怒鳴った拍子に力が抜け崩れる落ちるさやか。昨夜家を出てからずっと歩きっぱなしだったの   で疲労がたまっている。

   さやかの体を受け止めるほむら。右手の指にソウルジェム型指輪がはめられていることに気付   く。

ほむら「あなた……魔法少女になったの?」

   ほむらには珍しく感情のこもった声でさやかに聞く。

さやか「……こんなことになるんだったら、もっと早く魔法少女になっとけばよかったよ」

   ほむらに答えるというよりもマミに向かって言うさやか。

   心底悔しそうに歯噛みするほむら。その様子を怪訝な表情で見るマミ。

マミ「さやかさん、わたしも学校を休んで杏子ちゃんを探すわ」

   こんな状況で学校に行っていられるかと決意を決めるマミ。

さやか「あたしが引き起こしたことだもん。マミさんたちまで巻き込みたくないよ」

ほむら「あなたは家に帰って少し休みなさい、わたしたちが引っ張ってでも杏子を連れてくるから、 後で何があったのかちゃんと説明しなさい」

さやか「……」

   立ちすくむさやか。

ほむら「ほら、行きなさい。わたしたちがついているから」

さやか「ありがとうほむら」

   だるそうな足取りで歩き出すさやか。

マミ「……さやかさん」

ほむら「巴さん、わたしは見滝原市の郊外を回ってみるわ。あなたは中心部の方を探してくれないか しら」

   マミ、命令するほむらを敵意のこもった鋭い目つきで睨みつけると、踵を返し歩き出す。無言   のはっきりとした敵対宣言。

 

 

〇 朝 学校

   一時間目の授業中。授業にイマイチ集中できないまどか。さやかとほむらと杏子の三人の席が   空席のため心配した様子。

   同じように三つの空席を見る無表情の仁美。平静を装っているが不安が胸の中で渦巻いてい    る。

 

 

〇 朝 風見野市の廃教会

   聖堂の階段に座りコンビニの菓子パンやコンビニのジャンクフードを食べる桃子。

   その横でグリーフシードを使いソウルジェムの浄化をする杏子。

   全てのグリーフシードを使ってもソウルジェムの穢れは取りきれない。手持ちのソウルジェム   が無くなり不安そうな顔をする杏子。

桃子「お姉ちゃん、お外でご飯食べるのって美味しいね」

   笑って杏子に言う桃子。

   突然教会の中からガラスの割れる音がする。

   無言でソウルジェムを槍に変える杏子。

杏子「ちょっとここにいろ」

   杏子槍を構え物音を立てない用心した足取りで奥の方へ向かう。

   部屋の一室からほむらが出てくる。

ほむら「やはりここにいたのね」

杏子「なっ! なんでこの場所を知ってる? さやかだって知らないはずだぞ」

   誰も知らないはずの自分の元家に思いもしなかった人物が現れたので、驚く杏子。昨夜ほむら   は杏子を尾行したため居場所を知っている

ほむら「昔、連れてきてもらったことがあるから」

   嘘をつくほむら。(過去の時間軸の出来事を暗にほのめかす)  

杏子「なんだ、そういうことか」

   ほっと一息をつく杏子。杏子、ほむらがこの教会の元信者だと勘違いする。ほむらが意外にも   同じ教派の人間であったことに少し安心する杏子。

ほむら「さやかがあなたを探しているわよ」

杏子「やっぱり、あいつに言われて来たんだな。言っとくけどな、もうあいつとは姉妹の縁を切った んだ、もう二度と会いたくないね、それでも連れて帰ろうってならあんただろうと一戦を交えるつ もりだぞ」      

   槍を構える杏子。

ほむら「安心しなさい、さやかの味方できたわけではないわ。取引の話があってきたの」

   怪訝な顔をする杏子。

ほむら「巴マミをこの街から追い払うのに協力して欲しい」

杏子「あんたら仲間じゃなかったのか?」

ほむら「今も表面上はね、だけど最近巴マミは自分の力を過信して増長している」

杏子「……」

   ほむらを警戒した様子で睨みつける杏子。

×   ×   ×

   桃子が教会の庭でクララシスターズの女の子たちと鬼ごっこを遊んでいる。それを遠くから見   ている杏子とほむら。

ほむら「巴マミはなぜ、魔獣狩りに熱心になっていると思う?」

杏子「わからねえ、正義の為だとか青臭い考えなんじゃないかな」

ほむら「ちがうわね、全て自分のためよ」

杏子「自分の? そうは見えないけど」

ほむら「あの子はね、わたしが助けたときはあんな前向きで社交的な子ではなかった。大らかな体格 の自分に深いコンプレックスを持っていて、孤独な少女だった」

杏子「本当かよ、今見る限りでは想像がつかないね」

ほむら「だったら思い出してごらんなさい。あの子の会話の節々に体格を気にする発言があったり、   魔法の力で自分を変えられるって誘い文句があったでしょう」

杏子「そういえばさやかを勧誘するときにそんなことを言ってたなぁ」

ほむら「あの子は魔法の力を使ってどんどん変わっていったわ、見違えるように……」

杏子「じゃあ、マミを一言で言うと魔法改造人間みたいなもんか」

ほむら「言い方は悪いけどそういう事になるわね」

杏子「おもしれーマミにそんな過去があったなんて」

   ケラケラ笑う杏子。

ほむら「だけど心までは変えることはできなかったみたいね。最近なぎさちゃんと組んでから相当な 数の魔獣を狩っているはずだけど、彼女からのグリーフシードの分け前が異常に少ないのよ、詮索 してもとぼけるし、逆に疑っているのかって怒るのよ」

杏子「今の姿を保つために上がりのグリーフシードをちょろまかしているってわけか。相当な魔法が 必要だろうな」

ほむら「パートナーのなぎさちゃんが幼くて何もわからないことを利用してね。そしてこの前この地 区の半分を寄越せって遠まわしに要求してきたわ。もちろんわたしは応じる気はない」

杏子「グリーフシードのちょろまかしと縄張りの要求をされたから。マミの奴を追い出したいわけ  だ」

ほむら「そうよ」

杏子「まぁ、ちょろまかしは許せないのはわかる、あたしの分け前もかかってくるし腹は立つよ。だ けど、こんなに広い街の半分位マミに任せればいいじゃねぇか、仮にもマミはあんたの弟子なんだ ろ、態度が気に入らないなら距離をとってほっとけばいいじゃねぇか」

ほむら「杏子、わたしはこの地区をずっと守ってきたのよ、戦いで何度も死にそうになったこともあ るし、よその魔法少女が侵入したら撃退して、命がけで守ってきたの。信頼できる魔法少女に任せ たいし、魔法の力に目にくらんだ人間には任せる気はない」

杏子「あんたもメンツがあるってわけだ。だけどマミの奴はどうするんだ? この街では狩らせない んだろ」

ほむら「巴マミには風見野市に行ってもらうことにするわ。あそこには魔法少女がいないから」

杏子「マミが素直に耳を貸すかね?」

ほむら「だから、あなたを呼んだのよ。どう? 引き受けてもらえる」

杏子「……きなくせー話は嫌だね、あたしはねそういうメンツがどうこうとか損得がどうこうとか、 そういう利権争いに首突っ込む趣味はないの。あたしも一端の魔法少女だ、自分のグリーフシード が確保できればそれでいいし、マミのやつから喧嘩を売ってこない限り争う気はないよ」

   賢い一匹狼らしく抗争に巻き込まれることを嫌がる杏子。

ほむら「将来に関わってくる話だからあなたに相談してるのよ。わたしはそのうちあなたとなぎさ  ちゃんに地区の半分を任せようと思ってる」

杏子「んん!?」

   突然の申し出にさすがに動揺を隠せない杏子。

ほむら「あなたは良い魔法少女よ。戦闘的で誰かに媚びる事を良しとしない。それに自分の身を犠牲 にしてこの世界を良くしようと高尚な理想を持っている。この地区を任せるには打って付けの人材 よ」

杏子「……よせよ」

   自分が起こした昨夜の事件を思い出し、自分はそんな人間じゃないと後ろめたく感じる杏子。

ほむら「だけどね、あなたは損をしている。並外れた戦闘能力があるにも関わらず、得られる報酬が 少ないから魔法を存分に発揮できていない。今、グリーフシードのストックはいくらあるのかし  ら?」

杏子「……ない」

ほむら「でしょうね、無理もないわ。わたしとあなたが狩った分しかないのだから。魔獣退治で得ら れるグリーフシードの数は限られている、でも、巴マミは自分のために独占しているの、この町の 平和を願っているあなたを差し置いてね。人間の欲に底はないわ、この町の半分をくれてやったと ころで今度はわたしたちの半分を奪いにくる、決して身勝手な要求に妥協してはいけないのよ。わ たしは平和にやっていきたかったけど、魔法少女の現実ってこういうことなの、少ないグリーフ  シードの奪い合いになることが多いのよ」

杏子「……そういう戦いが何度もあったのか?」

ほむら「あったわ、勘違いで攻撃されたこともある」

杏子「避けては通れねーんだな」

ほむら「ええ、わたしたちパートナーの死活問題よ」

   目を合わせたまま黙り込む二人。目が嘘を言っていないか探る杏子と答えを催促するほむら

杏子「わかったよ、今回は力をかしてやらぁ」

   本当のことを言っていると判断した杏子。ほむらの依頼を承諾する。

ほむら「信じてくれて嬉しいわ」

杏子「あんたの縄張りを半分くれるってのは、本当なんだな?」

ほむら「報酬の件で嘘はつかない。巴マミとは今夜にでも話をつけるわ」

  ほむらの目を見る杏子。杏子の目一点を見たままのほむら

杏子「……ほむら、裏切るなよ」

   予想しなかった杏子の言葉に眉をひそめるほむら。

杏子「あたしに縄張りをくれてやった後で、他の魔法少女をけしかけて攻めて来るのはゴメンだぜ」

ほむら「そんなまどろっこしい真似をするくらいならあなたを鍛えたりしないわ」

杏子「……それもそうだな」

ほむら「あと、さやかにはこの場所を教えないでおくわ。桃子ちゃんの件を知ってあなたを殺しそう な剣幕だったから」

   ほむらが事件を知っている事と、さやかの反応を聞いて動揺する杏子。

ほむら「わたしはあなたの正義の倫理に口を出さない、パートナーとして尊重するわ。あなたが正し いと思う事をすればいい」

   光る何かが入った小袋を杏子に渡すほむら。立ち上がり背を向け立ち去る。

   ほむらの背を見送り袋の紐を解く杏子。中には大量のグリーフシードが入っている。これも報   酬の一部。

 

 

〇 昼 さやかのアパート

   カーテンを締め切り、薄暗いさやかの部屋。ベッドで眠るさやか。

   眠っていたがふと目を覚まし、起き上がるさやか。まだ、眠気と疲労感が残っているが、体に   ムチを打ち起き上がる。

   さやか廊下を歩く、背後に人の気配を感じ振り向く。

   悪魔、さやかの顔に眠りの砂がかける。一瞬のうちに昏睡し倒れこむさやか。

悪魔、ベッドにさやかを寝かせる。

悪魔「歩き疲れたでしょう、今日は寝ていなさい」

   深い眠りに落ちたさやかに囁く悪魔。

 

〇 夜 工事現場

   見滝原市中心街にある高層ビルの工事現場。塗装していないコンクリート壁と組まれた鉄筋が   剥き出しで、まだまだ工事が終わりそうにない状況。殺風景な光景の中魔法少女姿の巴マミ    とキュウべえが歩いている。

   マミは人気の無い場所で杏子が野宿をするのではないかと推測したのでパトロールしている。

杏子「おい、マミ」

   声をかけられたため振り返るマミ。鉄筋の上に魔法少女姿の杏子と暁美ほむらの姿がある。二   人は腰をワイヤーのようなものでつないである。

マミ「杏子ちゃん!」

  ほむらの姿が一緒にあるので。一瞬声を詰まらせるマミ。

マミ「み、みんな心配してたのよ? どこに行ってたのかしら? 暁美さんも杏子ちゃんと一緒なら 連絡ぐらいしてくれればいいのに」

   杏子、ほむらと目を合わせる。

ほむら「巴マミ、あなたを別働隊から解任するわ」

マミ「な、何? どういうことなの」

杏子「ようするにこの街から出て行けってことさ。あんたは追放だ、明日から魔獣を狩るときは風見 野のクソ田舎まで行ってくれ」

マミ「ど、どうして? わたしがあなたたちに何かしたかしら?」

   ほむらが自分を陥れにきている事を感じ取り動揺するマミ。

ほむら「とぼけるつもり? あなたは手に入れたグリーフシードを独占し、わたしの縄張りを乗っ取 ろうとしたわ」

マミ「な、なによ? そんな事してないわ。杏子ちゃんそいつの言っている事は嘘よ」

杏子「はん、往生際の悪い奴だ、素直に認めっちまいな」

   マミが嘘を暴かれて無様に動揺していると思っている杏子。マミの言葉に耳を貸さない。

マミ「杏子ちゃん! そいつは悪魔なのよ」

   マミの口から飛び出した予想もしなかった言葉に思わず反応する杏子。

マミ「わたしはグリーフシードの独り占めなんてしてないわ、全部悪魔のつくり話なのよ!

 そいつは円環の理っていう神様の力を奪って、この世界を作り上げた悪魔よ! キュウ

 べえたちを支配して、魔獣を作ったの! そしてこの世界を悪い方向に導いているよ!」

   マミの話を聞いて一瞬キョトンとするが、すぐに大笑いをする杏子。

杏子「ははは、聞いたかよ? お前が悪魔だって!」

ほむら「それはなに? あなたの作った空想物語かしら」

   面白そうに爆笑する杏子とは逆に冷めた口調で問いただすほむら。

マミ「とぼけないで! あなたの事はキュウべえに全て聞いたし見せてもらったから知っ

 てるんだから! キュウべえ! 杏子ちゃんに全部説明してあげて」

   足元にちょこんと座っている、キュウべえに命じるマミ。

   キュウべえの名前が出ると、さすがに笑い止みキュウべえを注視する杏子。

   杏子にバレないように後ろ手でこっそり盾に手を当てるほむら。

キュウべえ「……」

   ほむらの動きに気付き、黙ったまま一向に話さないキュウべえ。

マミ「キュウべえなんで黙ってるの? あなたが説明してくれないと信じてくれないじゃない!」

キュウべえ「……」

マミ「ちょっと! キュウべえ何か言ってよ」

ほむら「ほら、耳を貸すだけ無駄よ」

杏子「こりゃあどうしようもない嘘つきだな。それに大した役者だぜ」

   これ以上話を聞くだけ無駄と判断した杏子、ソウルジェムを槍に変える。

マミ「お願い信じて! 悪魔の手先になっちゃだめよ」

杏子「今度そのお話の続きを聞かせてくださいね、マミ先輩よぉ!」

   槍を構え飛びかかる杏子とベレッタM九を乱射しながら杏子に続くほむら。弾は当たらず杏子   の斬撃を間一髪のところで避けるマミ。

   どさくさに紛れて戦いの場から逃走を図るキュウべぇ。

   もう戦うしかないと判断したマミ、銃剣付きマスケットを召喚する。

   杏子の斬撃をマスケット銃で受け流すマミ。

マミ「仲間同士で争ったらさやかさんが悲しむわよ」

杏子「口だけはよく回るやつだぜっ!」

   突然、ビル内に尋常ではない煙が発生する。ほむらの使用した大量のスモークグレネード。

   高く飛び上がり煙の中に姿を消す杏子。こっそりと分身を召喚する。

   マミ、リボンで煙を払おうとするが煙があまりに濃いために視界は晴れない。

   召喚したマスケット銃を盲撃ちで乱射するマミ。

   銃弾の間を掠めかまいたちのように斬りつけ攻撃をする杏子の分身。銃剣付きマスケット銃で   攻撃を受け流すマミ。

杏子「なかなかやるじゃねえか」

   声とともに突然背後から凄まじい打撃を受ける。ほむらの時間停止を利用した杏子本体の回し   蹴り。杏子はほむらと強化ワイヤーでつながっているため時間停止を受けない。

マミ「きゃあぁッ!」

   攻撃をくらい吹き飛ぶマミ。素早く側転して受け身を取る。

   側転するマミにpphs‐四一サブマシンガンによる機銃掃射をするほむら。

マミ「うっ!?」

   肩と腹部に被弾するマミ。しかし、それはリボンで作った身代わり。

   やたらめったらに、マスケット銃を乱射しながら逃走を図るマミ本体。

   マミ、必死に煙の中をかいくぐり階下に降りるが、ここも煙が満ちている。

   どこからか、弓矢を打ち込まれる(ほむら自製のボウ)。一気に左肩と右肘に突き刺さる弓    矢。さらにスタングレネードを投げつけられ完全に視力を奪われるマミ。

マミ「あああああああ! いやああああああああ!」

   視力を奪われ混乱するマミ。

   杏子の分身がきりかかりマミの体を寸刻みで切り裂く。ほむらの放った矢が脛と足の甲に突き刺さる。

   マミ半狂乱になりながら大量のマスケット銃を召喚し一斉射撃する。

   穴だらけになる部屋中の壁。ほむらと杏子本体は部屋の円柱の影に隠れ銃撃をしのいでいる。

   一斉射撃が終わり静かになった室内。半狂乱になり走りながら突き刺さった矢を引き抜くマ    ミ。

   ゴルフクラブのフルスイングを腹部にくらい、ついに崩れ落ちるマミ。今までに経験したこと   のない猛烈な奇襲にあい、恐怖のため泣き出す。

   泣きじゃくるマミを取り囲む杏子と杏子分身とほむら。

ほむら「巴マミ」  

   ほむらの声に反応し短銃を召喚するマミ。ほむらに向けられる前に短銃を蹴り飛ばす杏子。

ほむら「あなたが魔法少女姿でこの街にいるところを見かけたら、次はこんなものでは済

 まないわよ。その時はためらいなく命を奪いにくるから。それと学校でもわたしたちに

 近寄らないでちょうだい、あなたの顔なんてもう見たくない」

   冷たい口調でマミに警告し、後ろに数歩下がるほむら。

杏子「歯を食いしばれ。素直に謝れば許してやるつもりだったけど、くだらない作り話をするから頭にきたわ」

   冷たい目で見下ろす杏子と分身たち。

マミ「違う……嘘じゃない……信じて……」

   マミから顔をそらすほむら。

   杏子と杏子分身、舌打ちをするとマミに殴る蹴るのリンチを加える。

   血まみれになり痛みと惨めさと悔しさですすり泣くマミ。

   分身を消滅させる杏子。

杏子「グリーフシードをよこしな」

マミ「わたしはグリーフシードを盗ってない、全部あいつに渡したわ」

   ほむらに傷を負わされた肩を踏みにじる杏子。悲鳴を上げるマミ。

   悔しさで泣き声を上げながら帽子の中からグリーフシードの入った小袋を取り出すマミ。それ   をひったくる杏子。

杏子「なーんだ、こんだけしかないじゃん。その体づくり相当な魔力がいるんだな」

   袋の中身を確認すると馬鹿にした口調で言う杏子。グリーフシードの数は杏子が思っていたよ   りも少ない。

杏子「最後の情けだ、全部取るのは勘弁してやる」

    パラパラと五個のグリーフシードをマミの体に落とす杏子。

ほむら「行きましょう」

マミ「ダメよ……そいつと一緒にいたら……必ず……破滅する……」

   杏子、鼻で笑うとほむらと歩き出す。

   ひとり残されるマミ。ソウルジェムで負傷した箇所を魔法で直し始める。そこにのそのそと現   れるキュウべえ。

マミ「……なんで黙ってたの?」

キュウべえ「暁美ほむらが盾に手を触れていたのが見えたからね、あのまま真相を話そうとしていた ら僕もマミも瞬殺されていた。わざわざ君を殺さない程度に痛めつけたのも悪魔にとってはお遊び にすぎないのさ」

マミ「悪魔の魔術の正体を知ってるの?」

キュウべえ「悪魔の魔術は時間操作さ、魔法が発動すると悪魔に触れているもの以外の時間は停止す る。杏子とほむらがワイヤーで繋がっていたのは杏子が停止した時間の中を自由に動けるようにす るためさ」

マミ「だから気配を感じずに背後に回り込めたのね。あなたそんな重要な事をなんで黙っていたの? 絶対に教えないといけないことじゃないの」

キュウべえ「配慮が足りなくてすまない、急に襲撃されるなんて思いもしなかったからね。おっと、 それ以上魔法を使おうとすると大変なことになるよ」

   かなりの濁りを帯びたソウルジェムを見て忠告するキュウべえ。

マミ「……今度は何が起きるというのよ?」

   ふらふらと立ち上がるマミ。まだ切り傷と杏子の暴行で受けた傷が目立つ。

キュウべえ「円環の理に導かれて消滅するよ」

マミ「ええっ!?」

   怪訝な表情をするマミ。

 

 

〇 夜 繁華街の高級中華料理店

   極彩色の個室。大きな円形の回転テーブルで向かい合って座るほむらと杏子。

   回転テーブルに大量に置かれた中華料理。チンジャオロース、酢豚、春巻き、麻婆豆腐、フカ   ヒレスープ。

   皿に乗り切れないほど料理を乗せがっつく杏子。

ほむら「今日はありがとう、あれだけ痛めつければ思い知ったでしょう」   

   脂っこい食べ物は苦手なのかあまり手を出していないほむら。

杏子「いいってことよ、相棒。それに結構楽しめたし」

   くちゃくちゃと咀嚼しながら話す杏子。

ほむら「巴マミのこと?」

杏子「ふふふふ、あんな面白い事をいう奴、初めて見たぜ。あんたの正体が悪魔だって、もっとマシ な作り話を考えろっての」

   ニコニコ笑いながらコーラを飲んで食べ物を流し込む杏子。

ほむら「ところでここのお代大丈夫なのかしら。家出少女が入っていいような店じゃないような気が するけど」

杏子「大丈夫さ、ほれ」

   杏子ポケットから財布を取り出し、札入れを見せる。びっしり入った万札。

ほむら「……」

  一日のうちに非合法な方法で手に入れたであろう金を冷たい瞳で見下ろすほむら。

   それを見てムッとする杏子。

杏子「この世にはな、バチをあたっても仕方が無い奴がいるのさ、あんただってさっき言

 っただろ、人間の欲に底はなくて少ないパイを独占してる奴がいるって、それはこの世

 の中にも当てはまることさ、欲深くてエゴに忠実になれるやつが勝ち続けてほくそ笑ん

 でいるのさ。そんなやつらを退治して何が悪いんだ? あんたがあたしを非難する権利

 があるんだったら、マミの事も見逃すべきだったろ」

ほむら「言ったでしょう、わたしはあなたの行動倫理に口をださないって」

杏子「目があたしを見下してたぜ」

ほむら「違うわ、あなたはこの程度ことで満足する子じゃないと思ったから」

杏子「それはどういうことだ?」

ほむら「そのお金をどこから調達したかなんて別に興味はない、だけどそんな義賊みたい

 な真似をして、一皮剥けたつもりなのかしら? もっと強大な存在に立ち向かおう思わ

 ない?」

杏子「なに? そりゃあヤクザとか悪徳政治家とか言ってるのか?」

ほむら「そんな奴らには興味ない目標は円環の理よ」

杏子「円環の理?」

ほむら「いわゆる神……正しい言い方をするならば魔法少女を支配する概念よ」

杏子「んん? マミの妄想病が移ったか?」

   怪訝な顔をして自分の頭を指差す杏子。

ほむら「魔法少女がこの世界の物理的法則システムの枠内から一つ外れたところにあるも

 のだから、それを構築し支配するシステムというのは存在するのよ、長い経験のうちで

 わたしはそれを発見し証明したのよ」

杏子「どうして証明したといえるんだ?」

ほむら「魔法少女の恩人だった人の消滅に居合わせたのよ、そこでわたしは魔法少女の真

 のシステムを知ったの、わたしの目的は円環の理を克服して、その人を奪還するのが目

 的なの」

杏子「その恩人っていうのは戦闘で死んだってわけじゃないのか?」

ほむら「あれは生物的には死んだとは言わないわ、ソウルジェムの汚れを溜め込んだ結果その人は消 滅した」

   何かひっかかったような顔をする杏子。

杏子「どういうことだ? その恩人はソウルジェムが穢れをためこんだからこの世から消

 滅したのか?」

ほむら「そうよ、ソウルジェムはね、わたしたち魔法少女になるために契約者の魂を形な

 のよ」

   ガシャンと皿を落とす杏子。

杏子「てめぇ……なんでその事を黙ってたんだ」

ほむら「真実を明かすわけにはいかなかったから。だったらあなたは魔法少女にならなか

 った」

   立ち上がりほむらの横に歩いていき胸ぐらを掴み持ち上げる杏子。

杏子「ふざけんな、お前はあたしをゾンビになるよう誘導したのか?」

ほむら「ゾンビではないわ。わたしたちは人間としての肉体を放棄した代わりに魔法と不

 死身の人体を手に入れた。ある意味人間を超越した姿なの。魔法を自分の為に使える、

 ソウルジェムを砕かれない限り、いくら体を傷つけられても死ぬことはないし、老いて

 いくこともない」

杏子「その倫理は神に反してんだよ、人は生まれて必ず死ななきゃいけないから、自分の

 悪と強欲を殺して正義と良心の為に生きるんだ。魂をこんな石ころに変えて人間を超越

 しましただなんてルール違反だ」

ほむら「今の神は円環の理よ、あなたの信仰する人間の神じゃなくてね、だからわたしも

 円環の理に抗おうとしているのよ。わたしたちを取り巻くシステムをできるだけ、人間

 のものに近いように変えるためにね」

杏子「……」

   真実を告げられ顔を青くする杏子。

ほむら「あなたを仲間に選んだ真の理由はね、あなたの正義感とあなたの教会の教義がわ

 たしの目的と共鳴しそうだとおもったからなの」

杏子「あたしをずっとマークしてたのか。いつかその円環の理とやらと戦わせるために」

ほむら「そうよ、この理不尽なシステムを破壊すための戦士としてあなたを選抜したのよ、

 円環の理を崩壊させた時の報酬はいくらでもよこすわ、あなたは魔法少女を救う救世主

 になるのよ、佐倉杏子」

   怒りにまかせ、ほむらを殴り倒す杏子。

 

 

〇 夜 見滝原市高級ホテルの一室

   家出少女には不釣合いな豪華な一室。杏子がチェックインした部屋に帰ってくるほむらと杏子。室内のダブルベッドの上では桃子がすやすやと寝息を立てて眠っている。

   桃子にそっと毛布をかけてやる杏子。そのままベッドの側に立ちすくむ。

杏子「……」

   いまだにほむらの話に動揺している杏子。マミが事実を言っていたことを思い知らされた。

ほむら「逃げるわけにはいかないわ、あなたとわたしは戦う運命よ」   

杏子「その円環の理とやらとどう戦うつもりだ」

ほむら「それは今、言えないわ」

杏子「お前を信じろっていうのか?」

ほむら「そうとしか言えないわ」

杏子「くそっ!」

   眠る桃子の顔を眺めながら、歯ぎしりする杏子。

杏子「これ返す」

   グリーフシードの大量に入った小袋をほむらに投げ返す杏子。

ほむら「それは持っておきなさい」

杏子「嫌だね、あんたに義理を受けるわけにはいかない」

   ほむら、受け取った小袋を床に落とす。

ほむら「いい加減子供みたいにふてくされるのはやめてちょうだい。魔法少女になった以

 上消滅は避けるには戦うしかないのよ。わたしはあなたに散々魔法少女になる危険を説

いたし、覚悟が必要だと言い聞かせたわよね、今更おじけつかれては困るわ」

杏子「そのことで腹立てるんじゃねぇ。あんたは騙した。あたしがあんたのことを信頼し

 てたのを利用して……信心と良心につけこんで人間を辞めさせた、それに、あたしを操

 ってあんたにしか頼れなくするように仕向けた。許せるわけがねぇだろうよ」

ほむら「あなたを巻き込んだ以上わたしも最善を尽くすわ」

杏子「謝れよ……あんたは裏切り者だ……」

   杏子の声は怒りで震えている。

ほむら「騙してごめんなさい……杏子」

   申し訳なさそうに謝るほむら

   ほむらに背を向け胎児のように丸まる杏子。

杏子「帰れよ……あんたなんて大ッ嫌いだ」

   ボソリと呟く杏子。

ほむら「……わかったわ」

   ほむら、こっそり悪魔に変身すると眠りの砂を杏子にかける。

   すぐに安らかな眠りにつく杏子。

   本当の姉妹のように並んで眠る杏子と桃子。眠る二人の上に悪魔の影が重なる。

 

 

〇 朝 さやかのアパート前

    私服姿で出て行くさやか。アパートの前には暁美ほむらの姿。

ほむら「おはよう、美樹さやか。昨日は連絡したのにでなかったわね」

さやか「ああ、昨日はごめん。帰ってから一日中寝てたみたいなのよ。こんな時なのに」

ほむら「ねぇ、杏子と何があったのか話してくれないかしら、あなたたち姉妹の友人であ

 る以上この問題を黙って見過ごせないわ」

さやか「わかってる」

ほむら「一昨日の事件だけどまさか杏子が関わっているんじゃないでしょうね」

さやか「……もうしかしたらそうかもしれない……杏子が家を飛び出したあと事件がおこ

 ったみたいだから」

ほむら「……やっぱり。あの子は桃子ちゃんを自分の妹のように心配してたみたいだから」

さやか「……どうしよう、あいつ捕まったら少年院に行っちゃうのかな」

ほむら「警察の捜査はまだ杏子まで及んでいないわ。関与を結びつけるのは難しいと思う。

 もし特定されても彼女の固有魔法は幻惑魔術だから、人間の警察の目をくらますなんて

 簡単でしょうね」

さやか「素直に安心していいのかわからないけど、ほっとした」

ほむら「杏子の安否よりも連れて帰った後が大変よ、さやかあなたは杏子をどうするつもりなの?」

さやか「……」

ほむら「辛い選択でしょうけど、はっきりさせないと杏子との距離は離れるばかりよ」

さやか「ほむら……本当にあたしどっちをとればいいんだろう、この世の一般的な常識と

 妹。あたしは今まで罪を許しちゃいけないと思ってたけど、そう簡単に割り切れるもん

 じゃないんだね。あたしは今、そう思いたくない、杏子が戻ってきて何もなかったこと

 にしてまた家族に戻れたらって考えてる。都合がいいよね、いざ妹が自分のせいで犯罪

 者になったら価値観が簡単にかわっちゃったんだ……」

ほむら「わたしには分からない、残念だけどわたしは答えを出せるような人間ではないの。

 あなたが納得できる答えを選ぶしかないわ、後で後悔しないように」

   ふいにさやかの携帯が鳴りだす。

さやか「もしもし、あっマミさん? おはようございます、昨日は連絡しないですいませんでした。 えっ? 今はほむらが一緒ですけど」

   電話口で会話するさやか。ほむらが一緒だと知ると電話が急に切られる。

さやか「あれっ、切れた……一体何だったんだろう?」

   マミの挙動不審な態度に首をひねるさやか。

ほむら「……行きましょう、今日は杏子が昔住んでいた風見野市の方を探すわよ」

   さやかに促すほむら。

 

〇 昼 新興宗教団体施設

   宗教団体施設の地下にある巨大な金庫。地下施設の割にはかなり広く、室内は小さな非常灯と   警報装置の光源しかなく、かなり薄暗い。

   いくつものセキュリティを魔法の力でかいくぐりその前に立つ杏子。 

   杏子、金庫を多節棍でいとも簡単に破壊する。鳴り響く警報。金庫内に侵入し現金だけをス    ポーツバックの中に詰め込む。

   バタバタと音がして教会の警備員たちが数人なだれ込んでくる。警備員というよりは作務衣を   着た教団の僧兵、手にマカロフ自動拳銃やAKMアサルトライフル等を持っている。

警備員「貴様どこから入ってきた」

杏子「あぁ、お前らなんてもの持ってんだ。それでも坊主かよ」

警備員「撃て! 撃て!」

   一斉射撃をする警備員たち。杏子、結界を発生させ弾丸を防ぎきる。

   唖然とする警備員たち。

杏子「全く本当にどうしようもない奴らだな。まぁ、これで気兼ねすることなくゴミ掃除ができるけど」

  多節棍を使い警備員を一気になぎ払う杏子。

 

 

〇 昼 繁華街

   街を歩く制服姿の仁美とまどか(土曜日なので半ドンです)。

   教会を脱出し、大金を詰めたカバンを持った杏子が二人の姿を発見する。

   目に鋭い光がやどる杏子。

杏子「おっす、まどか、仁美」

   手を上げて二人にあいさつをする杏子。

まどか「え? 杏子ちゃん?」

仁美「きょ……杏子さん」

   長いこと姿を見せていなかった友人が突然現れて驚くまどかと仁美。邪悪なニヤニヤ笑いを浮   かべながら近づいてくる杏子。

杏子「なんか、ひさしぶりだな」

まどか「……そうだね、杏子ちゃん学校に長いことこないから」

   必死に杏子から目をそらしている仁美。

杏子「そうだな、誰のおかげやら」

   仁美を見ながら言う杏子。

まどか「あの……杏子ちゃん家に帰ってないんだよね、さやかちゃんからメールが来たよ、

 お姉ちゃんに心配をかけたらいけないよ」

杏子「……あんなやつ、今は何の関係もねぇよ……それよっかさ、今から一緒に遊ばねぇ? あたし暇 なんだ」

   姉の動向を聞かされ一瞬動揺するが直ぐに気を取り直す杏子。

まどか「で、でも」

仁美「あの、わたしたちは結構です。これから二人で行くところがあるので」

   仁美立ち去ろうとするが杏子に手を取られる。

杏子「友達なのに冷てぇこというなよ、仁美。あたしがエスコートして庶民の遊びを教え

 てやるからさ」

   怒りで煮えたぎった目で仁美を見据える杏子。

 

 

〇 昼 路地裏

   大通りから離れた人気のない路地裏、まどかと仁美が並ばされている。二人を見据える杏子。

杏子「あるだけでいいから出せって言ってんの、家出暮らしも金がかかって大変なんだよ」

   威圧感を出し横柄な態度で友人に金を催促する杏子。

仁美「……」

   恐怖で足が震え青ざめる仁美。

杏子「なんだよ、クラスの連中に囲まれてる時はあんなに強気だったのに。サシとなるとなにもでき ないんだな」

   震える仁美を見て嘲る杏子。

   ゆっくりと頭を下げる仁美。

仁美「……ごめんなさい、杏子さん。わたしはさやかさんをこらしめたかっただけなんです。まさ  か、あなたまで巻き込まれるなんて思いもしなかったんです」

   軽く腹にパンチを入れる杏子。

杏子「ごめんで済むかよ、バカ。人の生活をぶっ壊していて後悔するくらいだったら、最

 初からするんじゃねぇ! 後になってわたしが悪ぅございましたって、謝ってくるんだ

 ったら、一体何のためにあたしにまでこんな目にあわせたんだ! いっそのことせせら

 笑われて馬鹿にされたほうがすかっとすんだよ!」

   悲鳴をあげて腹を抑える仁美。

まどか「やめて! 杏子ちゃんが来なくなってから、仁美ちゃんは本当に反省してたんだ

 よ。言葉にはしなかったけど……元気がなくて……後悔してたのがわかったもん」

杏子「嘘つくな、仁美についたお前の言うことなんて信じたくないね」

まどか「……杏子ちゃん……そ、それは……」

   思わず反論が飛び出そうになるまどか。

杏子「今度は自己保身かよ、そういうどっちつかずの態度が一番ムカつくんだよ」

   杏子、まどかの胸ぐらを掴み上げ持ち上げる。

まどか「ああっ……杏子……ちゃん……お願い……やめ……」

   苦しげに呻くまどか。 

仁美「もう、やめてください! お金は全て差し上げますから。まどかさんに酷いことをしないで」

   見かねた仁美が声を振り絞り叫ぶ。

   仁美カバンから財布を取り出し杏子に札を渡す。

   仁美から札を取り上げる杏子。しゃがみこみ恐怖で泣き出すまどか。

杏子「まどか、お前もだせよ」

   冷たい目で泣きじゃくるまどかを見下ろす杏子。まどか、カバンから財布を取り出し杏子に札   を全て渡す。

杏子「ふん、もうこれで勘弁してやら。じゃあな、次会っても友達ヅラするんじゃねぇぞ」

   足早に立ち去る杏子。

   地べたにしゃがみこみ泣いているまどかと茫然自失の仁美。

 

 

〇 昼 風見野市三叉路付近

   風見野市の三叉路付近を歩いて捜索するさやかとほむら。ほむらがさやかを先導するように歩   いている。

   なりだす携帯電話、それを取るさやか。

さやか「もしもし、まどか」

   なぜか露骨に反応し振り返るほむら。

まどか「さやかちゃん……杏子ちゃんに今、会った」

   シャクリ声を上げながら語る、まどか

さやか「えっ! 杏子に会った? どこで」

ほむら「鹿目さんがどうしたの? さやか」

   話している最中にも関わらず心配そうにさやかに聞くほむら。

まどか「今すぐ……早く来て」

   電話口からまどかがすすり泣いているのがわかる。

さやか「ねぇ、あんたなんで泣いてるの?」

   ほむらさやかから携帯電話を取り上げる。

ほむら「まどか! 何があったの? 今どこ?」

まどか「ほむらちゃん?……今、公園のベンチ……仁美ちゃんも一緒だよ」

ほむら「待ってて、今行くから」

   急に冷静さを失ったほむらをぽかんとした表情で見るさやか。

 

 

〇 昼 噴水公園

   ベンチにまどかと仁美が座っている。仁美はまどかに寄りかかるように座り辛そうな表情をし   ている。

ほむら「鹿目さん!」

   走って現れるほむらとさやか。

まどか「……ほむらちゃん」

ほむら「どうしたの? 杏子と何かあったの?」

まどか「ねぇ、ほむらちゃん、さやかちゃん……杏子ちゃんを怒らないであげて」

さやか「まどか、わかったから何があったのか話して」

まどか「……杏子ちゃんに仁美ちゃんが殴られてお金をとられたの」

   思い出したのかシャクリ声をあげて泣き出すまどか。

さやか「……」

   妹の犯した紛れもない犯罪行為に言葉を失うさやか。

   眉間に皺を寄せ巌しい表情をするほむら。

まどか「お願い、杏子ちゃんにあっても、怒らないであげて杏子ちゃんも傷ついて正しいことを見  失っているだけだから、わたしも仁美ちゃんも悪かったから」

ほむら「大丈夫、あなたはなにも悪くない。あなたには何の罪はない……」

   優しい口調で言うほむらだが、怒りか悲しみか声が少し震えている。

まどか「杏子ちゃんに言ってあげなきゃいけなかったのに弱虫でダメな子だから、何も言えなかっ  た。友達が間違ったことをしてたのに……」

   余計激しく泣き始めるまどか。

   本当に辛そうな顔をしてまどかを見るほむら。

   仁美、まどかとほむらを横目で見た後、さやかを見上げる、目が合うさやかと仁美。お互いバ   ツが悪そうな顔をして目をそらす。

ほむら「志筑さん、もうこれで満足でしょう。あなたの望み通りになったじゃない、さや

 かを傷つけ、杏子は道を踏み外した。何もかも壊したわ」

   仁美、何も言わず、手でスカートの裾を強く握る。

まどか「……仁美ちゃん、ほむらちゃんとさやかちゃんに謝ろう……仁美ちゃんは間違っ

てたよ……」

仁美「……」

   最後の意地か杏子の言葉を思い出したためか口を閉ざす仁美。

ほむら「鹿目さん、その子に何を言い聞かせても無駄よ」

まどか「ほむらちゃん……わかってあげて。本当は悪かったって思てるから」

ほむら「言葉がなければ許されないわ。鹿目さん、今日は家に帰りなさい、わたしが送っ

 てあげるから」

まどか「大丈夫だよ、わたしは仁美ちゃんの側にいてあげたいから」

ほむら「……そう。さやか、事は一刻を争うわ、今から二手に分かれて探しましょう」

   仁美を冷たい瞳で睨みつけ去っていくほむら。

さやか「まどか、あたしたちは行くね」

まどか「さやかちゃん……ごめんね」

さやか「まどかは何も悪くないよ」

   俯く仁美を半ば哀れみの視線を向けると去っていくさやか。

   ほむらとさやかを見送るまどか。

仁美「……まどかさん」

   俯いていた仁美が聞き取りづらい声でまどかに呼びかける。

仁美「余計なことをしないでください」

   弱々しい声で辛辣な言葉を投げかける仁美。

 

 

〇 夕方 繁華街

   人でごった返し賑やかな繁華街。

   ゲームセンターから出てくる杏子と桃子。ホテルに一旦帰還した後に再び来た。

   二人の手にはUFキャッチャーで獲得した景品が握られている。

   杏子、通りを出ると人ごみの中にさやかの姿を見つける。

   焦る杏子、来た道を逆走するが、逆に人にぶつかり、目立ちさやかに感づかれる。

さやか「杏子!」

   人の流れに逆らい、追いかけるさやか。

   邪魔なゲーセンの景品を捨て、疾走する杏子。手を引っ張られ必死についていく桃子。

   杏子魔法を使い分身の技を使い三人の分身を召喚する。

   三又の交差点を三手にわけ逃走さやかをまこうとする杏子。

   三人の杏子の背に立ちすくむさやか。

   左の道を走る杏子がちらりと振り返る。それに気付き本物の杏子だと確信し左の道の杏子を追   いかけるさやか。

 

 

〇 夕方 路地裏

    桃子の手を引き必死に走る杏子。後から追うさやか。

さやか「杏子!」

   さやかの声で立ち止まる振り返る杏子。

杏子「おめぇとは何も関係ないって言ったよな」

   距離を取り立ち止まるさやか。

さやか「ほっとける、わけないでしょう、こんな大事になってしまって」

杏子「あたしがなにをしようが勝手だ、悪い奴を退治するのは正義の味方の使命だろ、魔

 獣だけじゃなくて人間の悪人も標的に入れただけさ、あんたみたいに口だけの偽善者の

 代わりにこの世界の掃除をやっているの」

   悠々と持論を述べる杏子。

さやか「そんなのは正しい方法じゃない、ただの暴力じゃん。魔法を使って、一方的に人

 を襲ってやってることは魔獣と変わらないじゃない。それに悪人を退治してお金を盗ろ

 うなんて真っ当な事をだと思えない、人からとったお金で桃子ちゃんにご飯を食べさせ

 てなんとも思わないの?」

   さやかの発言を聞いて驚く桃子。

杏子「あたしは違うんだ! 犯した罪の当然の報いを受けさせてやっただけだ、汚い金を

 あたしが使って世の中に還元して何が悪いんだ? 受け取って当然の報酬だ! 魔法

 少女の特権だろうが!」

さやか「友達からお金をとってそれも特権なの?」

   さやかの鋭い指摘に動揺する杏子。

杏子「うるさい! あいつらも悪人の仲間だ。あんたが自分からなにもしないから、自分

 で復讐しただけだ」

   魔法少女姿に変身する杏子。

杏子「あたしはもう後戻りなんてできねぇんだよ……ずたずたにされなければさっさと消

えな」

   槍を振り回し叫ぶ杏子。

さやか「……杏子、あんたを助けたいから魔法少女になったんだよ」

   ソウルジェムを杏子に見せるさやか。同時に魔法少女に変身する。

   剣と大小幾層の刃車でできた円形の盾を装備している。対悪魔用の新装備。

杏子「バカ野郎……いつもしなくていいことばかりしやがって……バカ野郎」

   魔法少女の真相を知る身としてショックを受ける杏子。

桃子「……杏子おねえちゃん、さやかお姉ちゃんとちゃんと喧嘩したらいけないよ、杏子

 姉ちゃんのお姉ちゃんなんでしょう」

   訴えかける桃子との間に魔力で結界を作る杏子。

杏子「もうさやかとは関係ないんだ。早く先に帰ってな」

桃子「……でも」

杏子「桃子、巻き込んで怪我をさせたくねぇんだ。早く」

   杏子の訴えに走り去る桃子。

杏子「一生魔獣を狩れないくらいズタボロにしてやる」

   槍を持ち突進する杏子。

さやか「このバカ妹!」

   猛突を剣で防ぐさやか。

   次々と攻撃を仕掛ける杏子。まるで攻撃パターンを知っているかのように剣と盾で攻撃を受け   流すさやか。

さやかM『なんであたしパターンがわかるんだろう、杏子の全く動きについていけてない

 はずのに、本当だったら当たってるはずなのに、体が自然に反応してる。まるで昔戦っ

 たことがあるような……』

杏子「ちっ! 少しはやるじゃねぇか! だがなっ」

   多節棍で路地裏の壁にはりめぐらされたパイプを次々と破壊する。吹き上がる蒸気にひるむさ   やか。

   その隙に四体の分身を発生させる。

   次々と攻撃する分身と杏子。さやか一方的に攻撃を受けるだけで自分から攻撃しようとしな    い。

   流石に四体を相手の防戦に対応できずに、ボロボロに切り刻まれるさやか。杏子の打撃で壁に   打ち付けられる。

杏子「逃げる時間をくれてやる。さっさとあたしの前から消えな」

   壁にもたれるさやかに宣告する杏子。

さやか「嫌だ、逃げない……あんたを連れて帰るまでは」

杏子「……なんでほっといてくれないんだよ、あたしは帰る気なんてないんだぞ」

さやか「あんたはわたしの妹だ、連れて帰るまで絶対に諦めない」

杏子「もう、うんざりなんだよ……あんたの姉妹ごっこには。あたしたちは本当の姉妹じ

 ゃないんだよ、血も繋がっていない赤の他人じゃねぇか。あたしの本当の家族はとっくの昔に

 死んだんだよ、その時からずっと一人ぼっちなのさ」

   さやかに槍を突き立てようと構える杏子。

さやか「一人じゃないよ、わたしがついてるから」

杏子「もうやめろ! 騙されるか! どうせあたしを連れて帰って警察に引き渡すんだろ、

 そしてあんたは犯罪者の姉さ、どこに行ってレッテルがついてまわるぞ! それでいい

 のか?」

   自分が悪の道に落ち切ったと信じて疑わない杏子。さやかまで世間から悪人の身内扱いされる   ことを恐れている。

さやか「……」

   突きつけられた現実にさすがに黙るさやか

杏子「やっぱり、そうじゃないか。後のことなんかなにも考えてない」

   踵を返し立ち去ろうとする杏子。ゆっくりと立ち上がるさやか

さやか「自分から逃げなるなよ、杏子、だったらあんたの罪をあたしも一緒に背負う、絶対に一生を かけて償わせるから」

杏子「うるさい! そんな道理がまかり通ると思っているのか? あたしは悪に堕ち切った罪人なん だぞ! 魔法の力を使って悪事を働いてきたんだぞ! 今更誰かに許してもらおうって……」

さやか「あたしは全部許すよ、あんたを」

杏子「そしたらあんたも悪の仲間入りなんだぞ!」

さやか「あんたのためだったらいいよ、だから……」

   杏子に優しく微笑みかけるさやか。しかし、杏子は余計に混乱してしまう

杏子「だったら! あんたを殺さないといけないじゃないか! あたしはあああああああ!」

   半泣き状態でさやかに猛進する杏子。さやかは避けようとすらしない。恐怖で目をつぶる杏    子。

   槍はさやかを外れ壁に突き刺さる。硬い感触に驚き目を開ける杏子。辺りを見渡すとさやかを   抱き抱え滑空するほむらの影を発見する。

   ほむらは時間停止能力を使いさやかを救出した。

   杏子、胸が締め付けられる思いでその場を後にする。胸のソウルジェムが濁りを帯びる。

 

 

〇 日暮れ 雑居ビルの屋上

   ほむらさやかを地面に下ろす。

ほむら「美樹さやか、あなたは何を考えているの? 杏子に殺されるつもりだったの?」

さやか「邪魔をしないで」

ほむら「杏子に命をくれてやって償うつもりだったの? 愚かな行動にしか思えない」

さやか「そんなんじゃない、あたしはあいつの目を覚まさせるつもりさ、全部悪い夢なんだよ」

ほむら「杏子のしたことは悪夢では済まされない、一生ついてまわるわ」

さやか「……それでもいいんだ、あいつが苦しんで悩んでいる時も側にいる、あたしが一

 生をかけてでもあいつと償う。それが叶うまで絶対に杏子を一人にしたりしない、死な

 せもしない、牢屋に入れられることもしない」

   立ち去ろうと歩き出するさやか。

ほむら「もう今日は杏子を追いかけてはダメ、これ以上彼女を刺激したらまずいわ」

さやか「違うよ、もうひと押しだよ」

   ほむらの言葉を背に立ち去るさやか

 

 

〇 夜 高級ホテル

   変身を解き自分の部屋に帰ってきた杏子。桃子が心配そうな顔で出迎える。

杏子「ただいま」

桃子「……」

   精神的に憔悴した様子の杏子に何も言えない桃子。

杏子「そんなに心配そうな顔をすんなよ、あたしは怪我してないからさ」

桃子「さやかお姉ちゃんはどうしたの?」

杏子「……ああ、あいつか? ただの生まれたてのヒヨコさ簡単にぶっ潰してやったよ」

   ベッドに横になる杏子。

桃子「杏子お姉ちゃん……さやかお姉ちゃんに酷いことをしたなら謝って」

杏子「……」

   黙り込む杏子。

桃子「喧嘩したらいけないよ、お姉ちゃん達は家族なんでしょう。ずっと一緒に暮らしてきたんだよ ね」

杏子「……」

桃子「わたしお姉ちゃん達がいがみ合うのを見てるのは悲しいよ、どうしてお姉さんと喧嘩したの?」

杏子「……」

桃子「杏子お姉ちゃん……お母さんはいつになったら迎えに来るの? お母さんに電話させて、声が 聞きたいの」

   顔を伏せて泣き始める杏子。

桃子「黙ってないでなんか言ってよ……杏子お姉ちゃん」

   桃子も泣き始める。高級ホテルの一室に二人の泣き声がこだまする。

 

 

〇 朝 ほむらの家

   長椅子に座って眠っている喪服姿のほむら。手には四十四オートマグナムを握っている。

   チャイムの音が鳴り体を震わせ覚醒するほむら。

   銃を後ろ手に隠しチェーンロックをかけたままドアを半開きに開けるほむら。隙間から私服姿   の鹿目まどかの姿見える。

ほむら「……鹿目さん」

   銃を背中のベルトに差しドアを開ける。

まどか「今日も杏子ちゃんを探すんでしょう、わたしも一緒に連れて行って」

ほむら「鹿目さん、あなたは」

まどか「杏子ちゃんがいじめられたのに何もしなかった、責任をとりたいの」

ほむら「……支度をする少し待っていて」

   ドアを閉めるほむら。

 

 

〇 朝 街路 

   日曜日の賑やかな繁華街をまどかと制服を着たほむらが二人で歩いている。今まで会話を交わしていない。

まどか「……」

ほむら「……」

   ほむらのことがやはり少し怖いが意を決して話しかけるまどか。

まどか「ほむらちゃん」

ほむら「何かしら?」

まどか「あれから杏子ちゃん見つかったの?」

ほむら「街でさやかが見つけたわ」

まどか「ふ、ふたりはどうなったの?」

ほむら「さやかが殺されそうになったわ」

   自分の知らないその後の出来事を知り黙り込むまどか。

まどか「……」

ほむら「鹿目さん昨日も言ったけどあなたに罪はない」

まどか「でも、結果的にさやかちゃんが危ない目にあって、わたしがみんなの間に入って

 頑張らなかったせいもあるんじゃないかなと思って」

ほむら「あなたの処置は普通の女の子として当然のものよ、あなたが一人で志筑さんとさ

 やかの仲を取り持とうとしても状況を混乱させるだけだったでしょう。むしろ魔法少女

 同士で固まって、周りに壁を作って孤立してしまったから、わたしたちにも落ち度があ

 るの」

ほむら「……そうなのかな」

まどか「あなたみたいな優しい子を卑劣ないじめの標的にしたくなかった。だからわたし

 はあなたから距離をとったの」

まどか「優しくないよ、ずるくて卑怯なだけだよ」

ほむら「いいえ、あなたは怖くなるほど優しくて強い子よ、自分を過小評価してはダメ」

まどか「……」

   怖いほど優しいという言い回しが気になるまどか。

まどか「……さやかちゃんは大丈夫だったの?」

ほむら「あなたは知らないでしょうけど、さやかも魔法少女になったわ、簡単に殺される

 ことは無いでしょう」

まどか「……さやかちゃんも魔法少女に」

ほむら「魔法少女になったからって杏子が帰るわけではないけど」

まどか「……さやかちゃんも今をどうにかしようとしてるんだね」

ほむら「そうよ、わたしはあの子がどうにかしようとあがくだけそのあがきに答えてあげ

 たいの」

   歩き続けるほむらとまどか、背後から肌の露出の少ない服を着込み、帽子をかぶりサングラス   をかけ顔に大きなガーゼを貼った少女(巴マミ)が二人をつけている。

 

 

〇 昼 見滝原タワー展望室

   望遠鏡で街の人ごみを眺め杏子を探すほむらとまどか。こっそりと杏子の泊まっている高級ホ   テルにピントを合わせているほむら。

   レンズ越しに疲弊した様子でベッドに寝転んでいる杏子。杏子の隣で少女漫画を読んでいる桃   子が見える。

まどか「ほむらちゃん、杏子ちゃん見えた?」

ほむら「いいえ、見当たらないわ」

   知らない顔で嘘をつくほむら。

 

 

〇 昼 見滝原市街地

   日曜日の賑やかな市街地を歩き、杏子の姿を探し回るまどかとほむら。当然の事ながらどこを   歩いても杏子の姿は見えない。二人とも全く言葉を交わさない陰気なデート。

 

 

〇 夕方 河川敷

   疲れ込み堤防に座り込むまどかとほむら。

まどか「そんなに広くない街のはずなのにどこにもいない……」

    努力も虚しく杏子の影すらも見つけられずにぼやくまどか。

ほむら「広くはないけど大きすぎるわ、見なきゃいけないものが多すぎる」

まどか「この街もたった三年でかわっちゃったんだね、わたしは三年アメリカに行っても

 わたしは何も変わっていないのに」

ほむら「……それはあなたがまだ自覚していないだけだと思うわ」

まどか「この二ヶ月ちょっとでいろんな事がありすぎて、自分が今までなんて平和で平凡な人生を  送ってきたんだなって思っちゃった」

ほむら「そうね、あなたはこの町の三年以上に大きく変わった。知ってしまった、人知れ

 ず戦い人知れず死んでいく少女たちがいる。魔法の力で怪物退治だなんて非現実な裏の

 現実をのぞき見た、わたしたちの事を知っただけでも大きな変化だわ」

   ただそのせいで現実が変わってしまったことを実感し憂い顔のまどか。ふとほむらの頭に巻い   たリボンに目を付ける。

まどか「ほむらちゃんって毎日その赤いリボンを付けているよね、大切なものなの?」

まどかに冷めた目線をよこすほむら。

まどか「あっ、あのね、どうしてもってわけじゃないの、ただ毎日大事そうに巻いているから気になって」

   触れられたくない過去なのかと思い遠慮しようとするまどか。

ほむら「これはね、わたしの魔法少女の先輩の付けていたもの」

まどか「……」

ほむら「その人はわたしの命の恩人であったし、魔法少女に導いた人でもあったの、強く

 て優しくて……わたしの今があるのはその人のおかげなの、たった一人の親友だった」

まどか「ほむらちゃんにもそういう人がいたんだね、わたしとは真逆の人だ」

ほむら「いいえ、あなたみたいな人よ。とても似てるのよ」

まどか「その人どうしちゃったの?」

ほむら「……最後に私が殺したの」

   最後の一言に凍りつくまどか。

まどか「……どうして」

ほむら「彼女がそれを望んだから」

   壮絶な過去をくぐり抜けたうつろな瞳のほむら。ほむらの横顔に何も言えないまどか。

ほむら「あなたに魔法少女の才能がなくてよかったわ、戦いに巻き込まれなくて済んだ、

 わたしみたいに誰かを殺したり、死ぬところを見ないで済むから」

まどか「ほむらちゃん……あなたは死んじゃうかも知れないのに」

ほむら「わたしはいつか戦いの中で死ぬだろうけどあなたは生き続ける、わたしが死んで

 もあなたの記憶の中に生き続ける、それで戦う価値があると思うの」

まどか「だけど辛いな……何もできないだなんて、ほむらちゃんが居なくなってもあなた

 の存在を覚えているしかできないだなんて」

ほむら「そんなことはない、また明日からわたしの側にいて。ただそれだけでいい、ずっ

 とあなたを守ってあげたいから」

   手でまどかの頬を寄せ頬ずりするほむら。目にはしっとりと涙が浮かんでいる。

   対岸から二人を観察する謎の人物(巴マミ)。

 

 

〇 夜 高級ホテルの一室

   ベッドの上で胸をかきむしり苦しむ桃子。

杏子「おい、しっかりしろ、一体どうしたっていうんだ」

   杏子に答えられないほどの激痛にのたうち回る桃子。

杏子「くっそ……救急車を……いやそんなことをしたら……」

   警察に関与を疑われてしまうと思う杏子。

ほむら「どうしてこんな状態に?」

   突然後ろに現れる魔法少女姿のほむら。杏子素早く振り返る。

杏子「ほむら! 晩飯を食べたあとに急に桃子が苦しみだしたんだ」

ほむら「どうしたの、アレルギーかなにかかしら」

杏子「わからねぇ……桃子はそんなこと何も言ってなかったし」

   頭を抱える杏子。

ほむら「まず応急処置をしましょう」

   ほむら盾から注射針と薬品のビンを取り出す。

杏子「おい、それを注射するのか」

   警戒してほむらを制する杏子。

ほむら「ただの鎮痛剤と安定剤よ」

杏子「本当か?」

ほむら「こんな時にまで人を疑わないで」

   苦しむ桃子の腕に注射するほむら。呼吸が落ち着き安定する桃子。その様子を見て胸を撫で下   ろす杏子。

ほむら「わたしが来てなかったらどうなっていたことやら」

杏子「すまねぇ、ほむら」

ほむら「この子をどうするつもりなの?」

杏子「……まだあたしが面倒をみるよ」

ほむら「またこんな状態になったらどうするの? その時あなたに対処できる? 今はま

 だ安定しているけど、薬が切れたらまた苦しみ出すわ」

杏子「病院から薬を盗んでくる」 

ほむら「原因がわからないのに」

杏子「じゃあ、どうすればいいんだよ」

   壁をなぐりつけ八つ当たりをする杏子。

ほむら「この子をしかるべきところに連れて行くことよ」

杏子「嫌だ、それは桃子にあんな所で惨めな思いをさせたくない」

ほむら「……だけどここに留まっているよりかはいい、なにか解決するわけじゃないでし

 ょうから」

杏子「お前にはわからないだろうよ、あんな所にいる惨めさは……」

   過去のことを思い出したのか悲壮な顔でぎりぎりと拳を壁に当てる杏子。

ほむら「……」

   その様子を冷たい瞳で見続けるほむら。

杏子「……ほむら、桃子を見ていてくれ、病院から薬を盗んでくる。また苦しみ出したら

 さっきの薬を注射してくれ」

   ドアへと歩き出す杏子。

ほむら「杏子……」

杏子「あたしの無茶に付き合わせてすまねぇ、だけどこれからあんたの手先として戦うん

 だ、せめてこれだけのことぐらいしてくれよ」

   ドアを閉め外に出る杏子。

   心地の良い寝息を立てる桃子。眠る桃子を見下ろすほむら。

 

 

〇 夜 ショッピングモール

   昨日から家に帰らずに捜索したせいかぐったりと憔悴しきった様子でソファーにもたれかかるさやか。テーブルの上には飲みかけのブラックコーヒー。

謎の声「さやか……さやか……」

   どこからか聞こえる謎の声(キュウべえ)に反応するさやか。

さやか「誰? あんた誰なの」

謎の声「杏子が危ない! すぐに病院まで行くんだ、急いで!」

得体のしれない謎の声に不信感を感じながらも走り出すさやか。

 

 

〇 夜 病院

    薬品が大量に入った袋を抱えて病院の裏口から出てくる杏子。素早く辺りを見回すと闇夜に   紛れて動き出す。

   ×    ×    ×

通路を走る杏子。

さやか「杏子、やっとみつけた」

   闇夜からぬっと姿を現すさやか。なぜここにといった顔でさやかを見る杏子。

杏子「あ、あんた、なんでここが」

さやか「頭の中に誰かの声がしてあんたがここにいるって教えてくれたんだ」

   直感的にほむらが裏切ったのかと思い込み歯軋りをする杏子。

杏子「くそっ……なんでいつもあたしの前に立ちふさがるんだ、あんたは」

さやか「あんたが本当に今を楽しんでいるならあたしもあきらめるけど、どう見ても苦しんでるから ね、ほっとけないんだよ」

杏子「あたしは今の生活に満足してんだよ」

さやか「そうは見えない、今のあんたはボロボロだもん」

杏子「だからなんだってんだよ、邪魔するんだったら、また昨日みたいに半殺しにしてや

 る」

   杏子、薬品の入った袋を下ろすと魔法少女に変身する。さやかも同時に変身すると剣と盾を召   喚する。

杏子「本当はあんたのことなんて大嫌いだったんだ!」

   半泣きになりながら槍を構え突進攻撃をする杏子。盾で防御するさやか。

杏子「いっつも、いっつも、余計なおせっかいを焼いて!」

   槍で攻撃する杏子。剣で受け流すさやか。

杏子「人の心の中にまで干渉してきて! 気分屋で強情張りで! マヌケですぐに騙され

 るお人好しで!」

さやか「……」

杏子「あんたもあんたの家族も大嫌いだったんだ、なんでこんな家に引き取られたんだと

 思った! 毎日ただ他人だったらと思った!」

   ボロボロ涙をこぼしながら攻撃する杏子。本心と正反対のことを次々とまくし立てる杏子。

杏子「それだけ嫌いだったんだ、毎日作り笑いを浮かべて生きてきたんだ! 演技をして

 馬鹿な他人の機嫌をとって生きてきたんだ! いい加減自由にさせてくれよ」

   一語一語を叫ぶようにまくしたて多節棍で攻撃する杏子。流すように攻撃を受け流すさやか。

杏子「あんたがいて、あんたの優しさがこんなに痛くて苦しいなら! あたしは! あた

 しは!」

   分身を大量に召喚する杏子。

   無抵抗のまま杏子の分身にずたずたに切り裂かれるさやか。

杏子「……さやか」

   分身にまぎれて槍を構え突進する杏子。槍の穂先はさやかのソウルジェムを狙っている。

   反射的に体をそらし串刺しになるさやか。分身たちの槍も次々に突き刺さる。人間なら死んで   いるがソウルジェムの直撃は避けたので生きている。

   消滅する杏子の分身。全身串刺しになりずたずたになった姉を見つめ唖然とする杏子。

   さやか、自分に突き刺さった杏子の槍を掴むと思いっきり杏子の顔面を殴りつける。

   吹き飛ぶ杏子。

さやか「このバカ妹……そうやっていっつも、いっつも自分一人で突っ走って……」

   腹部に突き刺さった槍をゆっくりと引き抜き投げ捨てるさやか。ふらふらと杏子に近づいてく   るさやか。

さやか「あんたが傷つくと同じだけ苦しむ人がいるって考えたことあるの」

   傷だらけになったさやかから目を離せない杏子。

さやか「あんたの無鉄砲がみんなどれだけ苦しんだと思ってるの? まどかも仁美もほむ

 らもマミさんもあんたと関わりたくないとでも思ったと思う? 桃子ちゃんもこんな

 こと望んだと思うの」

杏子「……あたしが全部背負い込めばいい話なんだ、あたしが他の誰かが手を汚す前にと

 ことんまで悪い奴になって、この世界の悪を全部ぶっ潰してそれで済む話なんだ。あた

 しがボロボロに傷ついてもそれでも世界が変わってくれればそれでいい、あたしは自分

 が悪魔の手先になっても世界を変えたかったんだ……だから」

さやか「あんたが傷ついて何が変わるの? 自分ひとりで世界を変えられると思ったの?」

杏子「わかってたさ、それでもあたしは何かを変えたかったんだよ! 無力でいることが

 我慢できなかったから! 桃子さえ救えない自分がムカついたから」

   さやか、血まみれのまま杏子を見て優しい微笑みを浮かべる。

さやか「このバカ妹、だけどあたしは鼻が高いよ。あんたみたいないい子が妹で」

   地面に伏して泣き始める杏子。さやか、自分も涙を見せないように背を向ける

さやか「でも、あたしはあんたにボロボロになってまで救世主なんかになって欲しくない

 よ。秩序なんかよりも自分の家族の方が大事だもん、身も心もボロボロになってまで一

 人で戦って欲しくない、そんな事の望まない」

   傷を自己治癒能力で直していくさやか

杏子「ごめんなさい、お姉ちゃん……あたし……間違ってた……魔法の力を手に入れて

 知らないうちに惑わされてた。自分がなんでもできる……気味悪い夢を見てたんだ」

さやか「……わかればいいよ、家に帰ろう、みんなが待ってるから」

杏子「姉ちゃん、あんたの妹でいていいの?」

   首を縦に振り頷くさやか。

   泣き伏す杏子とそっと涙を拭うさやか。

   病院の屋上から二人の様子を伺う悪魔の姿。

   ×     ×     ×  

   泣き止んだ杏子すっと立ち上がる。

杏子「……桃子を病院に連れて行かなきゃ」

さやか「桃子ちゃんがどうかしたの」

杏子「あいつ、晩飯を食べたあとに苦しみだしたんだ……今、ほむらの奴が面倒を見てい

 るから連れて行かなきゃ」

さやか「ほむらが?」

   ほむらがすでに杏子と接触している事に驚くさやか。

杏子「ああ、帰ってから全てを話すけどあいつが全ての元凶さ。まだわからない事が多い

 けどあいつの言うことは信用しないほうがいい」

   今まで仲間だと思っていたほむらが何かを操っていた事に驚愕するさやか。

さやか「杏子、気を付けて」

杏子「すぐに戻る」

   弱々しい笑みを浮かべると虚空に飛び立つ杏子。

   今までのほむらの言動と出来事をつなぎ合わせようと考え込むさやか。

 

 

〇 夜 高級ホテル

   部屋に入る杏子。辺りを見回しほむらの姿を探す杏子。部屋にほむらの姿はない。

杏子、桃子の寝顔を覗き込む。桃子が呼吸していないことに気づく杏子。

杏子「桃子! 桃子!」

   桃子の頬に触る杏子。まだ、生暖かいが呼吸をしていない。

   絶望に打ちひしがれる杏子。

杏子「あああああああああ! ほむらああああああああああ!」

   ほむらに罠にかけられた事を知り絶望で打ちひしがれる杏子。

   杏子、一一九に電話をしようと携帯を取り出すが、手が震えプッシュできない。

杏子「だめだ、そんなことをしたらさやかは……」

   殺人鬼の姉になってしまうと躊躇する杏子

   ×    ×    ×

   桃子の亡骸を背負う魔法少女姿の杏子。

   大窓を開け飛び立つ杏子。

   ビルの間を飛び回る杏子の目は絶望に沈んでいる。

 

 

〇 夜 風見野市の廃教会

   教会の聖堂内に安置された棺桶。周りに置かれた教会の廃木材。

   棺桶の中に入った桃子の亡骸。

   私服姿の杏子、棺桶の薪を積み上げるとポケットに入っていたマッチを取り 出す。

   手が震え中々火がつかない。マッチ箱を放り投げ激しい自己嫌悪と悲しみがぶり返し泣き始め   る杏子。

杏子「なんでだよ……どうして……あたしが桃子を殺しっちまったんだ……」

   今となってはなすすべもなく泣き崩れる杏子。

   杏子マッチを拾うと素早く火を点け棺桶に投げつける杏子。

   激しく燃え上がる聖堂、棺桶。逃げようともせずにそれをうつろな瞳で見つめる杏子。桃子の   遺体もろとも自害するつもり。

   炎に包まれる聖堂内。突然、どすどすと叩く音が棺桶の中からする。

桃子「熱い! 熱いよ! 熱い! 誰か!」

   棺桶の中からの声に気づく杏子。

杏子「と、桃子!」

桃子「杏子お姉ちゃん! 出して! 熱いよ! 熱い! 熱い!」

杏子「桃子!」

   棺桶内からの悲痛な叫び声。杏子棺桶に近寄ろうとするが直後聖堂の窓枠と梁が落下し、棺桶   に直撃する。

杏子「う、うわああああああああああ! ああああああああああああ!」

   棺桶を破壊した様子を目の当たりにした杏子。錯乱状態になり本能的に崩壊する聖堂から脱出   する。

杏子「ちくしょおおおおおお!」

   怒りと悔しさで地面に拳を叩きつける杏子。

   自分の不注意だったのかこれもほむらの罠なのか、だが結果的に自分が桃子の息の根を止めて   しまった事実に打ちのめされる杏子。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。