〇 夜 電車内
深夜、誰も利用客のいない列車に揺られる私服姿の杏子。全気力を失いうなだれている。ポ ケットの中で携帯電話が鳴っているが出ようとしない。さやかからの着信。
杏子人の気配を感じて顔を上げると、対面に暁美ほむらが座っていることに気付く。
杏子「てめぇが……全部企てたのか」
蚊の鳴くようなか細い声。もはや怒鳴る気力もない杏子。
ほむら「……望むもの全て手に入れたっていうのに」
澄んだ静かな声で杏子に言うほむら。
力のない目で睨みつける杏子。
ほむら「佐倉杏子、あなたはどうしてそうやって破滅の道を選んでしまうの? 優しい家族、恵まれ た環境、学校生活、友人たち。あなたは望むもの全てを手に入れたのにどうして? 一体何が気に食わなかったというの?」
杏子「その望んだものをぶち壊したのは誰だよ?」
ほむら「あなた自身よ」
杏子「お前がそうなるように仕組んだんだろう」
ほむら「わたしは善処した。人の気も知らないくせにそんなことを言わないで」
杏子「善処だって? 桃子を殺して、マミの始末をさせて、さやかとも喧嘩をさせてこれの何が善処 だ。あたしををさんざん利用しただけじゃないか!」
憎しみで満ちた目で睨みつける杏子。
ほむら「そうね、確かにあなたの為ではないわ」
杏子「お前の本当の狙いは何なんだ?」
ほむら「鹿目まどか」
杏子「お前、まどかを嫌ってるんじゃなかったのかよ」
ほむら「勘違いしてくれてたのね。あの子を傷つけないために距離をとっていただけ、わたしがつか もうとするとあの子との距離はどんどん離れていくから」
魔法少女衣装が溶けるように消え悪魔の姿に変わる暁美ほむら。
杏子「てめぇは……」
本当の姿を現したほむらを見て目を剥く杏子。
ほむら「佐倉杏子。あなたには感謝している。こんなことで消滅してしまうのは正直言って予想外だけど、おかげで美樹さやかを味方につける口実ができたわ」
呆然とする杏子の頭に手を置くほむら。
杏子「やめろ……なにをす……」
今日この頭の中に入り込んでくるイメージ。杏子から悪魔が奪った円環の理の創造した時間軸 の全記憶。そして暁美ほむらが知りうる全ての時間軸の出来事も断片的に流れ込んでくる。
杏子「あ……あああ……」
本当の記憶と暁美ほむらに植えつけられた断片的な記憶がよみがえり、様々な感情がせめぎ合 う杏子。壊れたようにだらだらと涙を流す。
ほむら「これで次の世界では誰も不幸にしようと思わないでしょうね」
涙を流す杏子を見て呟くほむら。
〇 夜 駅のプラットホーム
駅で停車する列車。ふらふらと降りてくる杏子。そのまま駅のベンチに座り込杏子。
階段を上ってくるさやか。ベンチでうなだれている杏子を発見する。
さやか「杏子、ここにいたの」
杏子「……」
杏子の隣に座るさやか。
さやか「桃子ちゃんはどうしたの?」
涙を流してうなだれている杏子を見つめ言うさやか。
杏子「あたしは思い出したんだよ……どうあがいても運命からは逃れられなかった。どんな世界に居 ても孤独だった。家族は死んでしまうし、あんたの事がわかった瞬間にわかれが来てしまう。あん たは知らないだろうけど、あたしたちの運命ってさ、いつもこう定められていたんだ」
さやか「杏子あんた何を言って?」
杏子「神父の娘のくせして悪魔の誘惑に乗せられてさ、運命に抗おうとして、あいつが作った世界の せいでボロボロになってまるでバカみたいだ」
自嘲気味に笑うと真っ黒に染まったソウルジェムを手のひらに乗せる。
さやか「杏子! あんたのソウルジェム……」
杏子「だけど、こんな世界だったけど……運命に逆らって生きて、少しの間だったけどあんたと楽し く仲良く出来てよかった」
さやか「あんた何言ってるの? 早く浄化しなくちゃ」
嫌な予感を感じて叫ぶさやか。
杏子「やっぱり運命には勝てないんだね、あたしたちって」
だらだらと涙を流す杏子。掌に置いたソウルジェムが真っ黒に汚れきる。
突然宇宙空間になる駅プラットホーム。魔法少女として死を迎える杏子。
さやか「な、何なんなのよこれ」
星の煌く銀河の最果ての暗黒空間の中から現れる円環の理。人間部をもぎ取られているので姿形はあるが顔は黒く潰されている。
杏子の遺骸を抱きとり暗黒空間へ帰ろうとする円環の理。
さやか「ちょっと、あんたなにものよ? 杏子をどこに連れて行こうとするのよ」
杏子の遺骸に抱きつき円環の理から取り返そうとするさやか。
円環の理「ぐおおおおおおおおおおおおお!」
黒く塗りつぶされた顔面に怒りの形相が浮かび上がり慟哭する円環の理。
さやかをふりほどこうと回転をしたり上昇下降を繰り返し暴れる円環の理。
さやか「は、離せっ! 離せよっ! 杏子をどうするつもりだ!」
円環の理を逃すまいと必死に捕まるさやか。
円環の理、杏子の魂を肉体から引き裂くと一目散に暗黒空間へと飛び去る。杏子の遺骸をあき らめ魂だけを回収し逃走した。
人気のない深夜のプラットホームにさやかの荒い息が響いている。
突然現れた怪物に戦慄し微かに体を震わせるさやか。腕にまだ温かい杏子の遺骸 を抱いて いる。
さやか「な、なんなの? 今の?」
一人つぶやくさやか。腕に抱いた杏子を見る。
さやか「杏子、大丈夫? 杏子?」
目をつむったままピクリとも動かない杏子。
さやか「ちょっと! 杏子! 杏子!」
さやか、杏子を揺さぶるが起きない。手を胸に置くと杏子の心臓が動いていないことに気付 く。突如訪れた妹の死に絶望にうちのめされる。
ほむら「さやか、あなたも見たのね」
背後の看板の影から現れる魔法少女姿のほむら。声のほうに振り向くさやか。
さやか「なんなのよ、今の悪魔みたいなやつは……それにどうして杏子が……死んでるの
よ!」
ほむら「あれは円環の理。魔法少女を支配するシステムであり、魔法少女を救済するため
の機関。杏子は自分のソウルジェムに呪いを溜め込んだために円環の理に導かれ消滅し
た」
さやか「呪いを溜め込んだ? なんだよそれ……ソウルジェムが呪いを溜め込んだなら、
ソウルジェムだけ回収すればいいじゃないか! どうして杏子まで連れて行くのよ!」
ほむら「……そのソウルジェムは契約者の魂を肉体から切り離し変化させたものなの。ソ
ウルジェムの汚れは魂の汚れ。呪いを溜め込んだソウルジェムは自らが呪いを産む前に
消滅しなければならないの」
さやか「なんだって……」
杏子の遺骸を地べたに下ろすとほむらに掴みかかるさやか。
さやか「ふざけるな! あんたどうしてその事を黙っていたのよ」
ほむら「あなたたちが聞かなかったから」
憎しみに満ちた目で睨みつけるさやか。
さやか「教えなきゃいけないことでしょうが、この体の価値が無くなるんだよ! あんた
はあたしたちをゾンビにしたのよ」
ほむら「もうかして、リスクなしで魔獣たちと戦えると思っていたの。ただでさえ人体は
柔らかくて壊れやすいのに、そのまま戦えるはずがないわ。あなたは昨日の戦闘で何回
死んだと思う? 槍で切り刻まれて不思議に思わなかったのかしら?」
表情を変えずに言うほむら。人間の肉体になんの価値を持っていない。
一般的な人間倫理が通じないことを理解したさやか、ほむらの無表情に歯ぎしりをする。
さやか「わたしたちをこんな目にあわせてどうしてそんな平気な顔をしていられるのよ」
ほむら「あなたが自分で先走ってなったものじゃない、わたしは頼んだ覚えはないわ。そ
うやって不幸に酔って、自分の価値観を守ろうとするのね」
さやか「あたりまえだっ!」
形相を変えて叫ぶさやか。
呆れ顔のほむら、盾から四十四オートマグナムを取り出す。
銃で撃たれると本能的に思い、ほむらから離れるさやか。ところがほむらは自分の頭にオート マグナムを突きつけ発砲する。
硝煙と共にほむらの血があたりに飛び散る。それでも普通に立っているほむら。
拳銃で頭を撃ち抜いても平然と立っているほむらを呆然と見るさやか。
ほむら「ほら、人間でないことがわかった?」
盾にオートマグナムをなおしながら言うほむら。
さやか「あきらめて運命を受け入れなさい、死んでしまった人間が元に戻らないように、
もうあなたが人間に戻るすべはないわ、そしてこれから私と一緒に戦いなさい。今のあ
なたにできることはそれしかない」
踵を返し立ち去るほむら。それをうつろな表情で見送るさやか。
ほむら「美樹杏子はあきらめて病院に持って行きなさい。魂が円環の理に導かれた以上、
もう何をしたって手遅れよ」
闇の中に消えるほむら。
地べたに横たわる妹の遺体に近づき見下ろすさやか。
目の前で突然死を遂げた杏子の体を抱きしめ、死に顔を眺めるさやか。知らないうちに涙が流 れている。妹を失った悲しみが突然ぶり返し声をあげて泣くさやか。
〇 夜 教会
月明かりで照らされた葬儀会場。杏子の通夜。
男性アナ「昨夜、見滝原市で行方不明になっていた美樹杏子さんが遺体となって発見されました。遺 体は外傷がなく警察は……」
女性アナ「自宅から誘拐された富野桃子さんが火災を起こした風見野市の廃教会の焼け跡で遺体と なって発見されました……」
柩の安置された葬儀場にニュースの音声が重なる。
壇上に安置された棺桶。離れたところで椅子に座り一点を見たままのさやか。さやかを茫然自 失の表情で見つめるなぎさ。
喪服を着せられ桶の中で静かに眠っている杏子。
西洋の宗教の風習に従い杏子の棺桶に花を入れていく同級生たち。全員顔色が悪く罪の意識に 苛まれている様子。
制服姿のほむら、杏子の死に顔を一瞥し花を入れ無表情のまま立ち去る。
ほむらの後ろに並んでいた黒い喪服とベールを被った女性(マミ)が一瞬のうちにほむらの足 に魔法でできたリボンをかける。
壇上に上がるまどか、手には魔法少女の変身ノートと花を持っている。
まどか「杏子ちゃん、ごめんね……ごめんなさい……」
泣きながら花を手向け、ノートを置こうとするまどか。その手が誰かに止められる。
まどか「……ほむらちゃん」
無言で首を横に振るほむら。
× × ×
人気のない葬儀会場裏通路に立つまどかとほむら。まどかは手にノートを持ってい
る。
まどか「杏子ちゃん……まさかこんなことになってしまうなんて」
ほむら「……」
まどか「どうしてこんなことになっちゃったんだろう」
ほむら「鹿目さん……」
まどか「わたしって最悪だ、昨日杏子ちゃんを見つけていればこんなことにはならなかったのに」
ほむら「……違うわ、あなたのせいじゃない」
まどか「違うよっ! わたしが原因なんだよっ! わたしがっ!」
ほむら「誰もあなたを悪いとは思っていないわ」
ほむらを睨みつけるまどか。ゆっくりとほむらに近づき抱きしめる。
まどかの突然のアクションと腕の力の強さに驚くほむら。
まどか「わたしね、仁美ちゃんにさやかちゃんの事話したんだよ」
ほむらの耳元で冷めた自嘲的な口調でゆっくりと話すまどか。
まどか「ほむらちゃんがさやかちゃんたちの関係にヒビが入るから誰にも話しちゃいけないって言われたから、わかってたのに……」
自分の裏切りをほむらに懺悔するまどか。
ほむら「違うわ、志筑さんがあなたを脅したから話したんでしょう。あなたが自分から話すような子 じゃないって知ってるわ」
そうではないと探りを入れるほむら。ふとまどかの首に仁美がプレゼントしたネックレスが 光っているのが見える。
ほむら「志筑さんは人当たりが良くて転校してきて日が浅い鹿目さんだったら必ず本当のことを話す だろうと見込んで、あなた一人呼び出したのよ。志筑さんの企みに乗せられた被害者だから責任を 感じる必要はないの」
ほむら、話しながらまどかの首に手を回しこっそりとネックレスを外す。まどかは気づかな い。
まどか「そっか、仁美ちゃんはわかってたんだよね、わたしが弱い人間だってことを」
ほむら「違う! あなたは弱くない!」
まどか「……ほむらちゃんはわたしの事を傷つけるんだね」
想像だにしなかった言葉にハッとするほむら。
まどか「わたしはあなたが思っているような子じゃないの!」
突然ほむらを突き放すまどか。
まどか「ずるくて、弱くて、泣き虫で、優柔不断で自分のことしか考えてないそんなダメな子なんだよっ!」
怒りにまかせ魔法少女変身ノートをぶん投げるまどか。
ほむら「ち、違う……あなたは……」
まどか「あなたはどうしてそんな人の肩を持つの? どうして優しい言葉をかけるの? どうして守 ろうとするの? わたしにはそんな資格無いのに……どうしてわたしなんかに優しくしてくれるの かが、わからないよ、もうあなたの優しさが怖いの、優しい言葉をかけられるたびに苦しくなる の」
ふるえる自分の体を抱きしめるまどか。
ほむら「まどか……やめて……自分を責めないで……」
自己嫌悪に陥ったマドカを見てついに泣き出すほむら。
まどか「……ほむらちゃん、もうわたしに近づかないで放っておいて欲しいの」
ほむらに背を向け歩き出すまどか。
ほむら「まどか!」
まどか「お願いだからついてこないで!」
泣きながら走り出すまどか。なすすべもなく呆然とまどかの背中を見送るほむら。
自分が招いた結果とはいえまどかの自暴自棄な心情を知り愕然と肩を落とすほむら。
まどかが投げ捨てたノートを手に取るほむら。
× × ×
会場に一人もどるほむら。弔問客の中に志筑仁美を発見する。
まるで犯罪者のようにオロオロと周囲を見回す仁美。
壇上に立ち震える手で杏子に花を手向ける仁美。
力なく椅子に座るさやかをちらりと見る仁美。一点を見たまま仁美の方をみようともしないさ やか。
震えながら下がる仁美。周囲から浴びせられる冷めた視線が痛く顔を伏せる。
突然凄まじい殺気を感じ、顔を上げる仁美。
人混みの中から凄まじい形相で睨みつけているほむらと目が合う。
あまりの恐ろしい形相に恐れをなし足早に会場から出る仁美。後を追うほむら。
黒いベールを被った女性(マミ)がほむらの後を追う。
〇 夜 住宅街
街灯が少なく暗い住宅街。おろおろと辺りを見回し警戒しながら早足で自宅へと急ぐ仁美。
ほむら「……志筑仁美」
突然声をかけられ立ち止まる仁美。
突然背後からから何者かがが飛びかかり路地に引き込まれる仁美。
仁美を羽交い締めにし、締め付ける魔法少女姿のほむら。
うめき声をあげながら失神する仁美。
ほむら、失神した仁美の首にまどかとのペアルックのネックレスがかけられていることに気付 く。
首にかけてあるネックレスを引きちぎり盾の中に失神した仁美とともに放り込み虚空に飛び立 つほむら。
〇 夜 立体駐車場
失神状態から覚醒し目する仁美。半身を起こして周囲を見回すと自分が立体駐車場らしき場所 いることを認識する。
ほむら「志筑仁美」
仁美、背後からの声で素早く立ち上がると仁王立ちをしている魔法少女姿の暁美ほむらと対峙 する。
仁美を睨みつける暁美ほむら。負けじと睨み返す仁美。
仁美「こ、こんなところに連れ出して一体何をする気ですの」
内心恐れながらも威厳を持ってほむらに問いただす仁美。異様な衣装とにじみ出る殺気を感じ 取り本能的に暁美ほむらには屈してはならないと感じる。
ほむら「志筑仁美。よく考えたらあなたも散々わたしの邪魔をしてきた一人だったわね」
仁美「一体なんのことですの」
ほむらが多くの時間軸を巡ってきた事を知らない仁美には意味がわからない。
ほむら「あなたは美樹さやかから上條恭介を奪い、わたしとまどかの心労を増やしてくれた」
仁美「何を言ってらっしゃいます? 上條君を奪おうとしたのはさやかさんの方ですわ」
自分の正当性を主張する仁美。
ほむら「そんなことは何の関係ないのよ! 志筑仁美! なぜくだらない子供の恋愛ザタでなぜわた したちが苦しまなきゃならないの! 今回に至ってもあなたたちの愚かな諍いのせいでわたしの計 画が狂い、まどかをボロボロに傷つけ、杏子を死に追いやった。あなたの余計な行いのせいで!」
凄まじい形相で叫ぶようにまくし立てるほむら。その形相の凄まじさに驚く仁美。
怒鳴り声を上げたせいで荒い息のほむら。
ほむら「そして一番の大罪はまどかに寄生したこと、あの子の優しさを利用して脅し、友情を利用し て自己満足のはけ口にした」
ほむら、盾からちぎれたネックレスを二つ取り出すと地面に落とし足で踏みにじる。
自分の友情の証を踏みにじられるのを目の当たりにし恐怖が消え逆に怒りがこみ上げてくる仁 美。
仁美「あなたにそんなことをする権利がありますの?」
ほむらを睨みつけドスのきいた低い声で言う仁美。
ほむら「黙りなさい! 許されないわ! あなたはわたしの大切な人を傷つけた! 修復不可能なま でに痛めつけた! 許さない! まどかをここまで傷つけられたのを見たのは初めてよ。あの子に つけた傷をどうやって癒す気なのよ!」
ほむら混乱しているせいか仁美の問いかけに答えない。
仁美「あ、あなた少しは落ち着いたらどうです」
あまりの怒りっぷりに異常を感じる仁美
ほむら「黙りなさい! あなたの犯した罪ここで償わせてあげるわ」
盾の中からチェインソーを取り出し起動させるほむら。エンジンの轟音が辺りにこだまする。
仁美「暁美さん! あなた何をなさいますの」
盾の取り出したものを見て青ざめる仁美。
ほむら仁美を睨みつけながらチェインソーを構えて詰め寄る。後退りをする仁美。
仁美「きゃあああああああああああ!」
叫びながら逃走する仁美。チェインソーを振り上げ追いかけるほむら。
仁美の背後からチェインソーを振り下ろすほむら。空振りに終わり仁美を切り裂くにいたらな い。
仁美、バランスを崩したほむらを突き飛ばす。チェインソーを落としくるくる回りながら転倒 するほむら。
ほむら「あああああああああああああ!」
転倒した拍子にチェインソーで自らの体を切り裂いてしまうほむら。
仁美、凄まじい悲鳴をあげるほむらを一度振り返る。
ほむら、平然と立ち上がり血に塗れたままチェインソーを持って追いかけてくる。
その様子を見て再び逃走を図る仁美。車の整列している場所に姿を隠す
仁美、車の車体の影に隠れ少しずつ距離を離そうとする。接近するチェインソー
の唸り声。
仁美、身を隠したワンボックスカーのドアのロックが外れていることに気付く。
音を立てないようにドアを開き、体をすべり込ませる仁美。音を立てないようにドアを閉め る。
車の中で震えながら丸まる仁美。接近するチェインソーの唸り声。声を上げないように口を押 さえる仁美。
すぐそこまで迫るチェインソーの音。壁に浮かぶ浮かび上がる悪魔の影。恐ろしい影絵を見て しまい恐怖で震える仁美。
車内の仁美に気付かず素通りする悪魔。遠ざかるチェインソーの音。気づかれずにほっとため 息をつく仁美。
突然、音を立てて閉まる車のロック。始動する車のエンジン(ほむらの機械操縦魔術)。
仁美「きゃあああああああああ!」
運転席には誰も乗っていないのに暴走を始めるワンボックスカー。車の上に座っているほむ ら。
スピードを上げて上の階層へと上がっていくワンボックスカー。
仁美「誰か! 誰か助けて! 誰か!」
窓ガラスを叩いて助けを求める仁美。だが、駐車場内には誰もいない。
× × ×
立体駐車場の屋上。外壁は簡単に突き破れる薄い壁とフェンスのみ。スピードを緩めることな くフェンスに向かって突進する車。
フェンスを突き破る前にワンボックスカーから飛び降りる悪魔。仁美を車ごと突き落とす魂 胆。
高速を保ったままフェンスと壁に突っ込む車。同時に車体に絡みつくリボン。
リボンの束縛の圧力に負けエンストするワンボックスカー。
煙を上げ停止したワンボックスカーを無表情で見るほむら。足元に打ち込まれる銃弾。
反射的に時間操作魔術を発動するほむら。
マミ「見てたわよ、全部」
マスケット銃を構えるマミ足元にはキュゥべえ。マミはまだ、顔にガーゼを貼っており負傷を 直しきっていない。
マミ「あなたの魔法のネタは知っているの」
面倒くさそうに顔をしかめるほむら。足首にはリボンが付いていてマミとほむらを結びつけて いる。時間停止魔術を解除するほむら。
マミ「あなた自分の同級生を殺そうとしたわね。それでも魔法少女なの?」
ほむら「……わたしは志筑仁美が犯した罪の精算をしようとしただけよ」
マミ「だからといって命を奪うような真似をしていいと思っているの」
ほむら「彼女の犯した罪は死に値するものよ、杏子の人生を狂わせ、まどかの事を傷つけ
た、買った恨みに値にする当然の罰ではないかしら」
マミ「違うわ! 杏子ちゃんを殺したのも、鹿目さんを傷つけたのもあなたよ。自覚は全
くないの?」
ほむら「まどかを傷つけるつもりなんて全くないわ、それに佐倉杏子があんな最後を迎え
るのは予想外だった。杏子があんなイレギュラー事態を引き起こすとは思わなかったか
ら、事態に沿った対処をするしかなかった」
キュウべえ「それは違うね、暁美ほむら、全て君の計画通りに進んだんだろう。君はこの
世界を構築した時から美樹さやかと佐倉杏子にはいずれ自分の戦力として保持しよう
と考えていた。まず偽の近親者である記憶を植え付けて二人の行動範囲広げないように
した。そうするとさやかと杏子の活動範囲が狭まるし、生活範囲も固定されるから監視
体制が簡易化する。それに万一この世界のからくりに気づいたら僕が接近する前にまと
めて排除できるから君にとっては便利な人間関係なわけだ」
キュウべえ「さらに別次元では杏子の実の妹である佐倉モモを生成し、杏子と接触し悲劇的な演出し て杏子に同情の念を抱きやがて暴力的な行為に走るように仕向け、佐倉杏子を家族や仲間たちに頼 れない状況下に置いた。ところが罪の意識に目覚めた杏子を君は持て余し、いずれ敵対関係になる と察したため佐倉杏子を精神的に追い詰め排除するに至った。これが君の描いたシナリオじゃない かな」
相変わらずの無表情で淡々と自分の推測を語るキュウべぇ。
ほむら「……」
無表情のまま黙り込むほむら。
マミ「どうなのよ! 本当はあなたが殺したんじゃないの」
ほむら「巴マミ。そいつの言うことを鵜呑みにするの」
マミ「だったらどうだっていうのよ! わたしを納得させられるだけの証拠があるの?」
ほむら「……そいつの言うことは全部でたらめよ。わたしにそんな手の凝った真似をでき
るほどの力はないわ」
キュウべえ「苦しいいいわけだね」
マミ「嘘よ! キュウべぇに教えてもらって全部知ってるんだから。世界を改変した時か
らあなたの企み通りなんでしょう」
ほむら「……」
言葉に言いよどむほむら
マミ「あなたは一体何がしたいのよ! 杏子ちゃんを貶めて何を企んでいたの」
ほむら「わたしは杏子を殺そうと思っていない、全部予想外なのよ」
激高してほむらの足元に威嚇射撃をするマミ。思わず後ずさるほむら。
マミ「答えなさい! 暁美ほむら! 本当に全て予想外の出来事であなたに罪悪感がある
なら、本当の事を話せるはずよ!」
ほむら「……あなたがそいつの影響下にある以上話せないわ」
マミ「ほら、やっぱり後ろめたい事じゃないの」
ほむら「後ろめたいことなんてないわ。わたしには一つやり遂げればならないことがある
の。目標を達成するためにはインキュベーターの影響下にある魔法少女は誰であろうと
信用できない。例えあなたでもね」
ほむらの返答に呆れ返り軽蔑に満ちた笑みを浮かべるマミ。
マミ「さぞかし、大層な理想があるようね。だったら人を騙してもいいんだ。人をリンチ
してもいいんだ。人を操ってもいいんだ」
ほむら「わたしは誰も操ってもいないし、騙してもいないわ、あなたを操ろうとしている
のはその足元にいる宇宙人よ、そいつは被害者なんかじゃない。わたしたちを利用して
仲間割れを引き起こそうとしているのよ」
マミ「キュウべぇは人を騙したり、リンチしたりしないわ」
ほむら「そのことはわたしも荒っぽい手段だったと思っている、だけど……」
マミ「さっきから言い訳ばかりね、暁美さん。なにも思っていないんでしょう! あなた
の言葉は全部上っ面だけ、感情がない、まるで台本のセリフを読んで下手なお芝居をし
てるみたい。あなたの言葉には何もないわ」
突然無表情に感情が蘇り、はっと目を見開くほむら。
ほむら「……巴さん……信じてよ……わたし杏子を殺してない!」
嘘か本心か、突然泣きそうな顔になり声を震わせ訴えるほむら。
マミ「そんな下手な芝居はやめなさい! あなたは杏子ちゃんのことなんか何も思ってない! 死ん でくれて喜んでるの! 本当は全部計画通りに進んで心の中ではせせら笑っているんでしょう」
ほむらの突然の豹変に激怒するマミ。
マミを睨みつけるほむら。泣きそうな表情が変わり、今度は修羅の如く怒りの表情。
その形相の凄まじさにすくみ上がるマミ。
ほむら「巴マミ……あなたはわたしの中の何かを壊したわ」
魔法少女衣装が溶け、悪魔の姿になるほむら。
悪魔「わたしの理想に立ち向かい、邪魔をしようっていうなら、あなたを許さない。世界を蝕む魔な るものとしてあなたの相手になってあげるわ」
盾の中からベレッタM九を取り出す悪魔。
マミ「っっ! やっと本性を現したわね! 今度こそわたしが葬り去ってやる」
悪魔「地獄を見せてあげるわ、巴マミ」
銃を乱射しながら飛び立つ悪魔。それを追撃するマミ。
× × ×
ビルの合間をかいくぐっての銃撃戦。
マミ「なんであたらないのよ!」
複雑怪奇な動きでマミの弾丸をかわし、必要な時だけ銃弾を発射しマミの弾丸を確実に破壊す る悪魔。
× × ×
銃を撃ちながら工場地帯へとなだれ込むふたり。
悪魔、後方のクレーンの鉄柱に激突しバランスを崩す。
悪魔「ぐっ!」
マミ「油断したわね! 悪魔! ティロ・フィナ……」
巨大な魔大砲を召喚するマミ。
悪魔、素早く反転すると火炎放射器を盾から取り出し掃射をする。
炎を浴び砲身が溶け大爆発するマミの魔大砲。
マミ「あっ!」
爆発に巻き込まれて吹き飛ぶマミ。マスケット銃を召喚し反撃しようとするがそれも火炎放射 器の掃射によって焼き払われる。
火炎放射器を盾に直しMG四十二マシンガンによる機銃掃射をする悪魔。
マミ、リボンを使い工場への地下部へと逃走を図る。
人間戦闘機の如く急降下し追撃する悪魔。
悪魔、機銃掃射でマミと自分をつなぐリボンを切断するがマミは気づかない。
× × ×
工場の地下施設。規則よく大型タンクが並んだ見通しの悪い空間に降り立つマミ。。
素早く移動しタンクの影に身を隠すマミ。
降り立つ悪魔、機関銃を捨てると火炎放射器に持ち替える。
ブーツを脱ぎ捨て、足音を立てないように移動するマミ。遮蔽物を利用しうまく悪魔の背後に 回り込む。
悪魔の頭部に狙いを付けるマミ。
引き金を飛行とした瞬間、突然マミの目の前に現れる悪魔(時間操作魔術を発動)。
マミ「きゃあ!」
悪魔の強烈な蹴りをくらうマミ。
タンクを貫通して部屋の工場の奥まで飛ばされるマミ。
体が壁にめり込みダメージが酷く、立ち上がれないマミ。マミの前に立ちふさがる悪魔。
悪魔「あなたに真実を受け止める勇気なんかないくせに」
火炎放射器の発射口を突きつける悪魔。
マミ「……悪魔」
悔しそうに悪魔を睨みつけるマミ。
悪魔「安心しなさい、殺しはしないわ、しばらく人前に出られない体になってもらうだけだから。こ れ以上わたしの邪魔をさせないように」
ちろちろと火を吹く火炎放射器の発射口。
マミ「あなたはどうしてこんな世界を作ったの……なぜ円環の理から鹿目さんを引き裂いたの?」
悪魔に問いかけるマミ。無表情の悪魔。
悪魔「全て鹿目まどかとわたしの愛のためよ、あの子は概念なんかになるべきではなかった。あの子 がわたしの前から消え去ってしまったのが腹立たしかった。だから彼女を引き裂いてこの世界を 作ったの」
マミ「鹿目さんを不幸にしたくせに!」
悪魔「黙りなさい、あの子を傷つけてしまったなら何度でもやり直すだけよ。そうやってわたしは何 度も世界を創ってきたの、あの子が幸せになってくれる事を祈って。今度こそ必ず出口を見つけ出 してみせる!」
マミ「そうやって自己満足のために何人もの鹿目さんを見殺してきたのね」
ほむら「……」
眉間に皺をよせマミを睨みつけるほむら。
ほむら「次会ってもお友達でありましょうね、巴マミさん。だけど友達として一つ忠告してあげる、 あなたには余計な一言が多すぎる」
火炎放射器の引き金を引く悪魔。観念して目をつぶるマミ。
突然壁を突き破りなだれ込んでくる龍のような怪物(お菓子の魔女)。壁ごとマミを飲み込 む。
お菓子の魔女の体当たりで吹き飛ばされる悪魔。体に装備していた火炎放射器が暴発し火だる まになる。
長い体をじたばたさせながら体勢を整え、上昇するお菓子の魔女。
体にまとわりつく炎を消す悪魔。
時間停止魔術を発動させ大量のロケットランチャーをお菓子の魔女めがけて乱射する悪魔。
攻撃を受けた個体を脱ぎ捨てやりきるお菓子の魔女。
遠くに見えるお菓子の魔女を無表情で見送る悪魔。