魔法少女まどか☆マギカ 焔の物語   作:かばお

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Ⅵからの続きです。


焔の物語Ⅶ

〇 深夜 廃ビルの屋上

   工場地帯から遠く離れた廃ビル。マミを吐き出すお菓子の魔女。マミを飲み込んだのはマミを   保護するための強引な手段。

   目を覚ますマミ。目の前の巨大な怪物の姿に怯える。

マミ「……あなたはなんなの」

   百江なぎさへと姿を変えるお菓子の魔女。

マミ「なぎさちゃん!」

   怪物が自分の妹分の少女の姿に変化したことに驚きを隠せないマミ。

なぎさ「マミ、ごめんなさい……まさか、あなたもキュウべぇから真実を知らされていただなんて知 らなかったんです」

マミ「なぎさちゃん、どういうことなの……あれがなぎさちゃんの本当の姿なの」

なぎさ「話せばとても長くなることなのです」

   いつの間にかフェンスの上に座っているキュウべぇ。

   なぎさ、キュゥべえをきつい目で見据える。

なぎさ「キュウべぇ話が違うのです! さやかとなぎさの準備が整うまで真実を誰にも明かさないと 約束したじゃないですか!」

キュウべぇ「……」

なぎさ「魔法少女のマミを直接悪魔と戦わせるなんて何を考えてるのです?」

キュウべぇ「……」

   表情を変えず沈黙を守ったままのキュウべぇ。

なぎさ「やっぱり何か企んでいるんですね……もうあなたは信用できないのです」

   フェンスから飛び降り姿を消すキュウべぇ。

   味方だと思っていたキュウべぇがなぎさと対立している様子を目の当たりにして同様を隠せな   いマミ。

マミ「なぎさちゃん、あなたは知ってたの」

なぎさ「はい、悪魔に記憶を書き換えられていましたが、キュゥべえの催眠術で記憶が覚

 醒しました」

マミ「あなたは何者なの?」

なぎさ「わたしもまた円環の理。神なる存在の一部だったのです」

マミ「あなたも円環の理の一部……」

なぎさ「そうなのです、今まで誰にも明かさなかったのは、キュウべぇとの約束だった

 のです、悪魔がマミと杏子が二人に危害を及ぼさないようにと、さやかとわたしの覚醒

 が済むまで静観させるはずだったのです、なのになぎさが知らない間にキュウべぇが勝

 手なことを……」

   悔しそうな顔をするなぎさ。

なぎさ「ごめんなさい。わたしの配慮が足りなかったせいで杏子が死んでしまい、マミま

 で危険な目にあわせてしまったのです」

   ぺこりと頭を下げるなぎさ。

マミ「……なぎさちゃん」

なぎさ「本当にごめんさい、だけどこんなことマミは言えなくて……悪魔が怖くて……キ

 ュゥべえなんかでも当てにするしかなかったのです……なぎさが早く気がついていれ

 ば……」

   取り返しのきかなくなった現状に責任を感じ涙を流すなぎさ。

マミ「なぎさちゃん!」

   泣き出すなぎさを抱きしめるマミ。

マミ「いいのよ……しょうがないことだわ……なぎさちゃんは頑張ったから、これからは

 二人で戦おう」

なぎさ「マミ……許してくれるのですか」

マミ「なぎさちゃんを誰も責めはしないわ、今まで一人でがんばってきたのね。小さいの

 にとても偉いわ」

なぎさ「……」

   シャクリ声を上げるなぎさ。

マミ「これからちゃんと作戦を立てて、悪魔と戦いましょう。もうわたしたち独りじゃな

 いからきっと勝てるわ」

なぎさ「……マミ」

マミ「今から家に一緒に帰りましょう、そして本当のことを全部教えて」

なぎさ「……はい」

    マミの胸に顔をうずめるなぎさ。

 

 

〇 夜(杏子の葬儀から帰った後) 鹿目家

   鹿目家の玄関、沈み込んだまどかを詢子が迎える。

詢子「おかえり」

まどか「……ただいま」

詢子「杏子ちゃんにお別れをいってきたか」

まどか「……うん」

詢子「……そうか……お風呂沸いてるから、入ってきな」

   娘の悲痛な表情を見て、慰めの言葉すらかけてあげられない詢子。

まどか「まだいいや」

詢子「そうか……」

   階段を上っていくまどか。

×   ×   ×

   まどかの部屋。ベッドに倒れこむまどか。

   泣く気力もなく疲れきった表情。

まどか「……ほむらちゃん……わたしことをいっちゃったんだろう、あの子はわたしのこ

 とあんなにも思ってくれたのに……バカだよ……あんな事を言っちゃうなんてもう救

 いようがないよ」

   頭を抱え込むまどか。

   ×   ×   ×

   鹿目家リビング、憂い顔で椅子に座っている和久。手にはウイスキーの入ったグラスが握られ   ている。テーブルの上にも詢子のグラスがある。    

   携帯電話を取り出し和子の携帯電話にダイアルする詢子。

詢子「もしもし、あたしだよ。学校の方はどうだ?」

和子「明日は学校半日授業にしてその後保護者説明会するみたい。まどかちゃんはどう?」

詢子「精神的にきてるみたいだな」

和子「杏子ちゃんとさやかちゃんとは仲が良かったから。こんなお別れをすると辛いでしょうね」

詢子「なんでこんなことになったのかな、まどかのやつ最近変だと思ってたんだ、学校のことを聞い ても話したくなさそうだったし」

和子「まどかちゃんはさやかちゃんと男女関係のトラブルになった一人の子との間で板挟みになって 相当苦しんだみたい。杏子ちゃんもその件で学校に来なくなってみたい、家庭訪問を計画してたん だけど、そんな時にこんなことになるなんて」

   電話口から嗚咽が聞こえる。

詢子「しっかりしろ、そんなんじゃ明日の説明会乗り切れねぇぞ」

和子「わたしのクラスでまさかこんなことが起こってたなんて、なんで気付かなかったかなぁ……み んな仲が良くてこれ以上にないクラスだったのに」

詢子「この時代の子供は自分たちの周りだけで世界を作って引きこもってしまうからなぁ……そこの 空間にあたしたち大人がそこに首を突っ込むのは難しいさ、子供は本当の醜い世界を隠すために大 人にいいところだけ見たがるから」

和子「……あの子たちの世界は大人と変わらないのね」

詢子「世界が違うのさ、狭い世界だけで生きるから見えるものも見えなくなっちまう」

   テーブルに置かれたウイスキーのオンザロックを飲み干す詢子。

 

〇 朝 教室

   教室に入るほむら。

   バツの悪そうな顔をしてほむらを見るクラスメイトたち。

   教室を見回すほむら。空席のさやかの席。空席の仁美の席。空席の杏子の席。うつむいて席に   座っているまどか。

   まどかの席に近づくほむら。

ほむら「鹿目さんいいかしら?」

まどか「……」

    うつむいたまま答えないまどか。

ほむら「今夜二人で話したいの、九時に公園にきてくれないかしら」

まどか「……」

ほむら「これからのわたしたちのことと、杏子の死のことで話があるの。さやかも来るわ、だから必 ず来て」

   囁くように優しい口調で言うほむら。

   はっと顔を上げるまどか。

   無表情のまま教室を出ていくほむら。

   廊下を一人であるくほむらの姿を見て、腹をくくるまどか。    

 

 

〇 昼 ほむらの家

   部屋中にずらりと並べられた残り少ない武器。拳銃、小火器、重火器、爆薬。

   主人から漏れる異様な殺気に物陰でぶるぶる震える使い魔たち。

   ほむら、盾から自分の弓を取り出すと物憂げに見つめる。

 

 

〇 昼 仁美の家

   仁美の召使に案内され仁美の部屋に入るまどか。

   天蓋付きのベッドの中で横になっている仁美。一日中着替えていないのかパジャマのまま。

   仁美の様子を見るまどか。

まどか「仁美ちゃん」

   まどかの声に体をビクッと震わせる仁美。

仁美「なぜ来たんですか」

まどか「あなたの友達だから」

仁美「わたしはあなたを傷つけたのになぜそう言えるんです」

まどか「義務があるの、友達だったらね。友達が苦しんでたら助けてあげないといけない、それに間 違ったことをしてしまったら、謝らなきゃいけないの」

仁美「そうですの」

まどか「仁美ちゃん、さやかちゃんに謝ろう。今ここで謝らなかったらきっとこうかいするよ」

仁美「もう、後悔していますわ、なぜ自分に残酷なことができたのか不思議ですわ」

まどか「だったら、なおさらだよ。その後悔が永遠のものなっちゃうよ」

仁美「……あの時杏子さんに言われたことが心に残ってますの……こんな事態を引き起こしたわたしが 今更謝ってもさやかさんを怒らせるだけなんじゃないかとそんな事をするくらいならさやかさんに 恨まれたまま一生を過ごしたほうが……」

まどか「そんなことないよ! さやかちゃんはそんな事を思っていない、まだ仁美ちゃんとやり直せ るって思っているはず、自分できっかけをつくらなきゃだめだよ」

仁美「だけど、怖いのですの。さやかさんがわたしを否定しているんじゃないかと」

まどか「その時はわたしがさやかちゃんに言ってあげる、仁美ちゃんがどんなに後悔していて反省し てるか、耳を貸すまで話してあげる。それでもダメなら、仁美ちゃんと一緒に謝ってあげるだか  ら、ね」

仁美「こんな汚い心をさらけ出した自分を許してくれませんわ」

まどか「仁美ちゃんの心は汚くなんかないよ。寂しかったんだよね、杏子ちゃんもさやかちゃんもほ むらちゃんやマミさんたちと仲良くするようになったから、仲間はずれににされたような気がした んだよね。だから、さやかちゃんたちに嫉妬をしたんだよね」

仁美「……どうしてわかるのですの」

   無意識のうちに仁美の心の中を見透かしているまどか。

まどか「だって、仁美ちゃんはわたしの友達だよ。わたしが一緒にいてもビクビクしていたし、寂し がっているのがわかったもん、本当は普通の女の子らしくみんなと仲良くしたかったんだよね」

仁美「ううう……はい」

   感極まってついに泣き出す仁美。震える仁美の背中を撫でるまどか。

仁美「ごめんなさい、まどかさん。わたしみんなにちゃんと謝ります。心の底から謝ります。ちゃん と責任をとります」

まどか「そうだね、みんなに謝って仲直りしよう。仁美ちゃんが心の底から謝ればみんな

 わかってくれるよ」

仁美「はい!」

   やさしい言葉をかけられ感極まって号泣する仁美。

まどか「今日ね、さやかちゃんとほむらちゃんとで夜に会って話すんだよ、その時に、ね」

仁美「……暁美さんも?」

まどか「うん、そうだよほむらちゃんが提案したんだよ」

仁美「いや! それはいや!」

   急に泣き止み今度は怯え始める仁美。

まどか「仁美ちゃんどうしたの?」

仁美「行きませんわ……暁美さんと美樹さんだなんて……」

   そばにあった毛布にくるまる仁美。

   仁美の急変した態度に不信感を抱くまどか。

まどか「仁美ちゃん? ほむらちゃんと何かあったの?」

仁美「いや……殺される……あの人に殺される」

   恐怖で震える仁美。驚きの表情を浮かべるまどか。

 

 

〇 夕方 さやかのアパート

   カーテンが締め切られ暗い杏子の部屋。カーテンの隙間から斜陽の光が漏れる。

   杏子の使っていたベッドの上にうずくまる私服姿のさやか。隣には杏子の着ていた見滝原中学   の制服が置かれている。

ほむら「美樹さやか」

   頭に響くほむらの声に一瞬反応するさやか。

ほむら「今から魔獣退治に行きましょう」

さやか「あんたどうして人の気持ちがわからないかなぁ。行く訳ないでしょう」

    姿の見えないほむらに向かって呟くさやか。

ほむら「今夜は瘴気が濃い、あなたの力が借りたいの」

   いつの間にかベッドの横に佇んでいるほむら。

   そのことについては魔法少女だからなと納得し何も言わないさやか。

さやか「この街を守るのにあんた一人で足りるんじゃなかったの」

ほむら「わかってくれないのね、二人きりで話したいことがあるのよ」

   ほむらを見上げるさやか。

   無表情のままさやかを見下ろすほむら。

 

 

〇 夜 鹿目宅

   私服に姿のまどか。毛布にぬいぐるみを被せて膨らみを作る。鹿目家では夜間外出禁止令が発   令されている。

   足音を立てないようにゆっくりと階段を下りるまどか。

   階段の影からリビングの様子を伺うまどか。

   知久は台所で料理を作り、タツヤは椅子に座りお絵描きをしている。詢子はまだ帰っていない

   まどか、家族の位置を確認すると、足音を立てないように家を出る。

   ドアの開閉音に気付く知久。コンロの火を消すと二階に上がる。

 

 

〇 夜 繁華街の街角

   断末魔の悲鳴をあげ消滅する魔獣。

   ばらばらと飛び散るグリーフシード。さやかもほむらも拾おうとしない。

ほむら「お見事だわ。やはりあなたには素晴らしい素質があったのね」

   さやかの華麗な戦い方に拍手するほむら。戦闘に一切手を貸さずに静観していた。

さやか「……」

   胡散臭いものを見る目でほむらを見るさやか。

さやか「で、話ってなんなのさ」

ほむら「杏子を取り返したいと思わない?」

   突拍子のないことをいいだすほむらに呆れるさやか。

さやか「……円環の理に導かれたら何も出来ないって誰が言ったっけ?」

ほむら「手段が一つだけある。円環の理を撃破するのよ」

さやか「円環の理を……」

ほむら「ええ、あなたとわたしの戦力があれば不可能な話ではない。二人の力を合わせれ

 ば円環の理を撃破するだけの力がある。わたしと共同戦線を組んで欲しいの」

 ほむらを恨みのこもった表情で睨みつけるさやか。

さやか「信じるわけないでしょうが! あんたの言うことなんか!」

   たまりたまった怒りをぶつけるさやか。

さやか「本当は杏子の居所を知っていたんでしょう! 最後にあいつに会った時に言ってた、あんた の言うことを信用するなって。あんたは杏子と接触していたのにあたしに知らないふりをしてい  た。あんたは杏子を見殺しにしてあたしを裏切ったのよ。そんな人間を今更信用しろと言えるの」

ほむら「さやか、本当のこと言うと……」

さやか「黙りなさいよ! あんたの口八丁なんか聞きたくないのよ。そうやってあたしを言いくるめ て利用しようって腹なんでしょう」

ほむら「違うわ、あなたと混乱した状態の杏子を接触させるのは危険だと思ったから一時的に距離を 取らせようと思っただけよ、あなたに杏子が危害を加えられたら困るから、桃子ちゃんの件を収拾 してからコンタクトを取らせようと思っただけよ」

さやか「杏子を止められるのはあたしだけだったんだ! 他人のあんたなんかに何が出来たっていう のよ。杏子はあんたの事を悪魔って言ってたのよ、恨んで、恨んで消えていったのよ、いらないこ とを吹き込んで杏子を追い詰めていったんでしょう」

ほむら「悪魔……ね、確かに彼女に恨まれてもしょうがなかったのかもね。わたしは杏子に円環の理 の共同戦線を依頼したの」

さやか「あんたが杏子に」

ほむら「そうよ、わたしは魔法少女を支配する円環の理というシステムに恨みを抱いてた。わたしの 大切な人を奪われてからずっと円環の理を倒す方法を模索し同士を探していた。自分たちが消滅と いう結末から逃れるには円環の理を倒さなければならないと真実を明かしたの。だけど杏子は、神 殺しという目的に恐れをなして去っていった。あの子がわたしを悪魔呼ばわりする理由はそれな  の。そしてあんな結末を迎えた」

さやか「……桃子ちゃんがあんな死に方をしたのにもあんたが関係してるんでしょう、杏子はあんた に桃子ちゃんの世話を任せてるといってたから」

ほむら「それは杏子の早とちりが原因よ。わたしが皮下注射の薬品の量を間違ったせいで呼吸が止  まった時点ではまだ魔法の力で蘇生できた。だけど、パニックを起こした杏子は桃子ちゃんを連れ て立ち去った。あの子はわたしが桃子ちゃんを殺したと疑ってわたしの言うことに耳を貸さなかっ たの」

   平気な顔で嘘を並べるほむら。

さやか「ふん、それも本当の話なのかね」

   ほむらの言い訳のきな臭さを感じ取ったさやか、侮蔑の表情でほむらを見る。

ほむら「その下りなら、円環の理を倒した後に杏子に話を聞けばいいわ、わたしと杏子の

 話が食い違うようだったらわたしを倒しに来ればいい、その時は裏切り者としてあなた

 の相手をする」

さやか「あたしから見たら、あんたは十分裏切り者なんだけどね」

ほむら「……あなたを騙したのは申し訳ないと思っているわ、だけど、わたしには時間が

 ないの。円環の理との対決が近づいている」

さやか「あんなのとどうやって戦うつもり、大体円環の理は私たちを支配する神なんでし

 ょう、一魔法少女のあんたとわたしで戦えるというの?」

ほむら「わたしのソウルジェムの濁りが激しい、魔法少女としての死が近づいている」

   さすがに驚きの表情でほむらを見るさやか。

ほむら「ソウルジェムが汚れきり、円環の理がわたしに接近した時に全戦力を持って攻撃

 を開始する。あなたはそれに続いてわたしを支援してくれればいい」

さやか「……あんた」

   ほむらが最後の戦いに命をかけていることを知ったさやか

ほむら「美樹さやか、もうあなただけが頼りなの、わたしたちがこの呪われた運命から逃

 れるには戦うしかない、わたしとあなたなら運命を変えられる。だからわたしに力を

 貸して」

   誠実にさやかに訴えるほむら。

さやか「あんた本気で言っているの?」

   運命を変えるという文句に杏子の最後の言葉を思い出すさやか。

ほむら「本当よ」

さやか「杏子を取り戻せるの?」

ほむら「ええ、円環の理が崩壊した時に杏子の魂を引き出せば、あとは何か肉体の一部があれば魔力で 復元すれば完全に蘇るわ」

   目の前の魔法少女に希望を見出すさやか。

さやか「……嘘を付いてないな」

ほむら「誓ってもいいわ、わたしは自分の命をかけてでも円環の理を倒す、杏子を取り戻

 す、決してあなたを裏切らないわ……」

   黙って見つめ合うふたり。

さやか「そうならば……あたしあんたに力を貸すよ……杏子を本当に取り返せるなら。わ

 たしとの約束を守るなら」

ほむら「さやか……わたしを信じてありが……」

   笑みを浮かべながらさやかの手を取ろうとした瞬間、ほむらの顔面にチーズがぶつけられる。

   怒りの表情でさやかの後ろにいる人物を睨みつけるほむら。

なぎさ「さやか、そいつの話を聞いてはだめです」

   後ろを振り向くさやか。なぎさが二個目のチーズを構えている。

なぎさ「そいつは嘘を言っているのです」

さやか「なぎさちゃん?」

ほむら「逃げましょう。あの子は巴マミと組んでわたしを倒そうとしているの」

   さやかの手をとって走り出すほむら

さやか「マミさんがどうして」

ほむら「あの子と巴マミは魔法少女の真実を知ってキュゥべえに洗脳された。あの子は円環の理に歯 向かう者を始末するための追ってにされたのよ。捕まったら殺されるわよ」

   あらかじめ考えていた嘘設定をさやかに話すほむら。

ほむら「コノヤロー! 何を言うのです!」

   チーズを構えて追いかけてくるさやか。

さやか「キュゥべえが?」

ほむら「あいつも円環の理の手先。魔法少女を製造して監視するためのマシーンよ」

なぎさ「さやか、自分の本当の使命を思い出してください! あなたは円環の理の一部だ

 ったじゃないですか」

さやか「そんなこと知るもんか! あたしは魔法少女美樹さやかだ!」

   ほむらの手を離すさやか。

さやか「ほむら、先に行って。あいつはわたしが倒す」

ほむら「さやか」

さやか「大丈夫、あとで合流しよう」  

   抜刀しなぎさに斬りかかるさやか。なぎさチーズと皿で斬撃を防ぐ。

   その場から逃走するほむら。

なぎさ「さやか!」

さやか「あんたには悪いけど、わたしにはやり遂げなきゃいけないことがあるんだ!」

   なぎさに向かって刀を振り回すさやか。

なぎさ「こうなったら、実力行使しかないのです」

   二個のチーズをさやかに向かって投げつけるなぎさ。

   剣でチーズを叩き斬り盾で粉々にするさやか。

   隙のできたさやかにラッパを吹きシャボン玉を吹きかけるなぎさ。

   大量のシャボン玉攻撃に怯むさやか。

   さやかが怯んだ隙に自らの魔女形態を変え(ベベ形態)さやかの背中に張り付くなぎさ。

さやか「なにっ!」

   なぎさ頭部だけがお菓子の魔女形態になりさやかにかぶりつく。

   さやかをくわえたまま上空に飛び立つお菓子の魔女。なぎさの口から飛び出たさやかの下半身   がじたばた暴れている。

 

 

〇 夜 廃ビルの屋上

   ビルの屋上で待機しているマミ。なぎさがさやかをくわえたまま現れる。

   なぎさ、さやかを勢いよく吐き出す。

   なぎさの口から飛び出たさやかをリボンで縛り上げるマミ。

マミ「キュウべぇ、さやかちゃんに催眠術を」

キュウべぇ「はいはい、わかってるよ」

   どこからともなく現れるキュゥべえ。地面に横たわるさやかに幻覚を見せる。

   キュウべぇの赤い瞳を横切る円環の理

   さやかの瞳に現れる円環の理の幻影。さやかの記憶が完全に蘇る。

   リボンが解かれ立ち上がるさやか。その顔は悪に立ち向かう英雄の顔。

   さやかを囲むマミとなぎさも決意の表情。

   心が一致団結した三人を無表情で見るキュウべぇ。

 

 

〇 夜 仁美の家

   ベッドに寝転ぶ仁美。疲労と絶望が顔に浮かんでいる。

   不意に携帯の着信音が鳴る。

   携帯を取り液晶画面を見る仁美。着信はさやかから。

   恐る恐る電話を取る仁美。

仁美「はい」

さやか「仁美、こんばんは」

   意外に落ち着いてきさくで仲良くしていた時と変わらない口調。

仁美「……はい」

さやか「あんたには辛い思いをさせたね」

仁美「どういうニュアンスでで言っているのでしょうか?」

   不安になって聞く仁美。

さやか「あたしにも責任があるってことかな」

   からっとした口調でいうさやか。

仁美「何をおっしゃいます! 悪いのは全部私です。わたしが加害者です。あなたには一

 生を償わなければならない位にひどいことをしました。そんなわたしに……」

さやか「もうあたしは気にしてないよ。あんたの気持ちはよくわかってるんだから」

仁美「止めてください……わたしなんて人間失格ですわ……生きてる価値なんかないのに」

さやか「あんたは心から反省してるからもう責めないよ。恭介とずっと仲良くね。あいつ

 を支えてやって」

仁美「待ってください! さやかさん、早まらないでください」

   さやかが自殺をすると勘違いした仁美。さやかを止めようとする。

   さやか電話を切ると投げ捨てる。

   なぎさ、マミ、さやか。悪魔との決戦に向け歩みを揃えている。

 

〇 夜 街角

   一人さやかを待つ魔法少女姿のほむら。

   魔法少女姿のままほむらの前に現れるさやか。

ほむら「さやか!」

   明らかにさやかの無事に安堵している様子のほむら。

   敵意をむき出しにした顔のさやか。ほむらと距離をつめ立ち止まる。

   さやかの様子を見て全てを察したほむら。自嘲ぎみな弱々しい笑みを浮かべる。

ほむら「人間として安穏に暮らしておけば佐倉杏子を失わずにすんだのに」

   悪魔へと姿を変えるほむら。

悪魔「やっぱりあなたはそういう奴よね、独りよがりの正義の為に何度でもわたしの世界

 を壊そうとする。本当に目障りな存在だわ」

   刀の柄を握り居合い切りの構えを取るさやか。

悪魔「わたしは愚か者には容赦しない。特に身の程知らずの叛逆者には……」

   悪魔、盾をいじり時間停止魔術を発動させようとするが、さやかの居合い切りで歯車に刃を喰   い込ませ防ぐ。

   悪魔、盾から青竜刀を抜き出し斬りかかる。盾で受け止めるさやか。

   さやかの盾の刃車が回転し、なまくら青竜刀を粉々に粉砕する。

   一瞬の隙を付いて九㎜機関拳銃を取り出し乱射するほむら。

   至近距離から発射された九㎜パラベラム弾を粉々に粉砕するさやかの盾。悪魔を前にして本領   発揮をする新兵器。

   弾切れになったサブマシンガンを捨て代わりにM十六アサルトライフルを乱射しながら逃走を   図る悪魔。

   路地裏から脱出し大通りに出るさやかと悪魔。夜だがそれなりの人通りがある。

   低空飛行をしながら人の多さにも関わらずアサルトライフルを乱射する悪魔。

   弾丸で破壊される商店のガラスや看板。パニックを起こす通行人たち。

   盾で銃撃を防ぎながら怒りの表情で追撃するさやか。

   ×   ×   ×

市街地を抜け、工場地帯を逃走する悪魔と追撃するさやか。

   どこからともなく爆音が轟き、悪魔に体当たりをするマミ。みずからを人間大砲の弾丸にして飛来した。

悪魔「こざかしいのよ、あなたたち」

   マミとさやかをの二人を相手にし、さすがに押されがちの悪魔。

   盾から武器を取り出そうとするが何も無いことに気付く悪魔。

   悪魔、急上昇をして盾の中からありったけの瓦礫(前時間軸の世界の遺物)をさやかとマミの上に落とす。

   剣と盾でコンクリ片を破壊し、悪魔を追撃するさやか。

   さやか、悪魔を盾で殴り叩き落とす。急落下する悪魔。追撃するマミ。

   さやか、悪魔、マミの上に巨大な銀蓋が覆いかぶさる(百江なぎさの技)。

   轟音をたて地面に落ちる銀の蓋。

銃撃音と剣戟の音が響き、蓋がべこべこにへこむ。

   銀の蓋が消滅し、リボンで縛り上げられた悪魔とそれを見下ろすマミ、さやか。

   憎々しげに二人を睨みつける悪魔。

マミ「もうこれで終わりよ」

   悪魔に一方的に宣言するマミ。

   ポツポツと降り出す雨。

   ×   ×   ×

   雨に濡れながら工場地帯狭い通路を歩く魔法少女三人と悪魔。

   リボン縛られたままで引き立てられる悪魔。それを先導するさやか、マミ、なぎさ。

悪魔「わたしにこんなことをしてタダですむと思っているの」

   憎々しげに先導する三人を睨みつけるほむら。

マミ「どっちが優勢なのかまだわからないのかしら」

なぎさ「もう、あなたの負けです観念するのです」

さやか「……」

   ふりかえりか哀れみの視線を向けるさやか。

悪魔「なんなのよ……その目は」

   その目を睨みつけるほむら

さやか「もういいんだよほむら」

悪魔「ふっ」

   さやかの発言に悪魔らしいニヒルな笑みを浮かべるほむら。

さやか「もう強がるなって言ってんのさ、あんたの使命は終わったんだよ」

   薄笑いが消え無表情でさやかを睨みつけるほむら。

ほむら「わたしの使命は円環の理を倒すことよ。それを成し遂げてない以上、あなたたち

 に倒されるわけにも、この身が焼かれて消滅するわけにもいかない」

さやか「円環の理が憎いの?」

ほむら「あたりまえでしょう、あの子に呪いを押し付け、一生魔法少女たちの汚れを引き

 受ける地獄のような運命をさずけた。憎むべき概念よ」

さやか「なんでそういう風に解釈しちゃったかなぁ、あんたは……」

ほむら「あなたはまどかの言ったことを知らないのよ。あの子は言ってたわ、今の生活を

 捨てたくないって、誰とも別れたくないって、だからまどかの思いを踏みにじってでも

 この世界を作ったのよ。あなたにはわからないわ、わたしの願いはただ一つまどかを救

 うただそれだけが望みだったの」

さやか「だからって、あんたの願いでまどかの使命を奪ってもいいの? あんたが自分の

 願い自体を使命だと思っているように、まどかだって自分の願いが魔法少女たちを救う

 ことが使命だって思っている。まどかは人間の生活を捨てても後悔はしていないよ」

 ほむら「使命だなんてあんたが勝手に思っているだけよ」

さやか「あたしはね、あの子の一部だった時にそう自覚してた」

   円環の理の一部だった存在がピシャリと言う。

ほむら「……まどかは人間として生きるべきよ。あの子はこんな事態になるまで、人間と

 しての生を楽しんでいたわ、不完全な呪いでも覚醒の兆しを見せなかった。それは戻り

 たくないって証拠よ」

   苦し紛れの自己解釈をする悪魔。

マミ「あなたいい加減に……」

   往生際の悪いほむらにしびれを切らすマミ。ほむらを混乱させたくないと思ったさやかマミを   手で制すさやか。立ち止まるほむら。

ほむら「わたしをまどかの所に連れて行って。わたしはやり遂げなければならないの」

さやか「……」

マミ「往生際が悪いにも程があるんじゃないかしらあなた」

ほむら「黙りなさい、わたしをまどかの所に連れて行かないと大変なことになるわ。今す

 ぐによ」

さやか「ほむら、もう肩の荷を降ろしなよ……なんでそんなに強情をはるかなぁ」

ほむら「あなたの言葉に貸す耳はないのよ。今すぐ黙って離しなさい」

   ほむらのいいようにさすがにムッとするさやか。

   ふと、ほむらのダークカフスを見るとから邪気を放っていることに気付くさやか。

さやか「ほむら、ちょっとソウルジェムを見せな」

ほむら「なんで、あなたに見せなきゃいけないのよ」

   明らかに動揺するほむら。

さやか「なにもないなら普通に見せられるはずだよ」

ほむら「嫌よ!」

さやか「マミさん、なぎさ、ほむらのソウルジェムをとってください」

   ほむらのイヤーカフスを奪おうとするマミ。

   トカゲに変形しほむらの耳から逃走を図るイヤーカフス。

   ほむらの体を伝って地面に降りるが、なぎさが猫のように飛びかかり捕らえられるイヤーカフ   ス。

さやか「ほむら、それをソウルジェムに変えな」

ほむら「……いやよ」

さやか「……マミさんお願いします」

    マミ、拘束していたリボンで悪魔を締め上げる。

ほむら「うああっ! ううう……」

さやか「あたしだってこんなことを望んでいないんだよ。あんたが手遅れになる前に助けてあげた  い。頼むからわかってよ」

   さやかを睨みつけ狂ったように首を横に振るほむら。

   さらにほむらを強く締め上げるマミ。

ほむら「うあああああああああ!」

   あまりの苦痛に耐えかねてイヤーカフスをダークオーブに変形させる悪魔。

なぎさ「ひえええ! な、なんなんですかこれは!」

   なぎさの手の上で立ち込めるどす黒い炎。あまりの強大な呪いで形を無くしたダークオーブ。

さやか「な、なんでこんなことに」

ほむら「ふふふ……言ったでしょう。円環の理を倒すって。これだけの呪いを集めれば円

   環の理を破壊し、まどかと完全に分離できるわ」

   不気味な薄笑いを浮かべるほむら。

さやか「何を言ってるのよ! 呪いを貯めた魔法少女が行き着く果てを知ってるでしょう

 が。あんたほどの強力な魔力を持った魔法少女がここまで呪いを貯めたらこの世界は持

 たないわよ」

なぎさ「魔女になってしまったらコントロールが効かなくなることをあなたは知って

るはずなのです」

ほむら「そうよ、ここまで呪いを貯めてしまっては、もうわたしは誰にも止められない」

   自暴自棄な狂気に満ちた笑顔を浮かべるほむら。

さやか「ふざけるな、今すぐ呪いの浄化しろ。もうまどかの救済すら届かなくなる」

ほむら「フフフ、覚悟の上よ。この世界を壊してまどかと一緒になるのよ。今度こそは永

 遠に」

   目が完全にすわり殺気が溢れ出ているほむら。

さやか「あんたは! まどかがこんなこと望んでいると思ってるの」

   様々な感情がこみ上がりほむらの肩をわしづかみにして怒りの表情で睨みつけるさやか。

   笑うのを止め冷たい瞳で見返すほむら。

さやか「そうよね、あなたにわかるわけがないわよね、ずっと孤独だった人間気持ちなん

 か」

 

 

〇 ほむらの回想

  病室で夕闇に染まろうとしている街を独り寂しそうに見下ろす眼鏡ほむら。

  

 

〇 夜 工場地帯

   肩をつかんだまま向かい合うさやかとほむら。

ほむら「今更、わたしを救おうだなんて虫がいいのよ。いい迷惑だわ」

   救いようがないほどに冷たい瞳のほむら。

さやか「……あんたはあたしのことが嫌いなのかよ。この世界で少しはあんたが掴めたか

 と思ったのに」

ほむら「そうよ、みんな大嫌い。わたしは今までまどか以外の全員の前で演技をしていた

 のよ」

   愉快そうに言うほむら。薄笑いを浮かべるほむらと対照的に悲しく辛そうに顔を歪ませるさや   か。

   笑う悪魔をドン引きの表情で見るマミとなぎさ。もはや、まどか以外の誰に心を開けず壊れたほむらの心に同情できるものはいない。

ほむら「フフフン……フフフン……フフフフフ……」

   鼻歌(まだだめよ)を歌い出すほむら。

ほむら「……美樹さやか。あなたとは最後までわかりあえなかったわね」

   背後から殺気を感じて振り向くさやか。

 

 

〇 夜 異空間(悪魔の結界内)

   刀を振り上げ雄叫びを上げる人魚の魔女。

   さやかを蹴り飛ばし飛び上がるほむら。

   人魚の魔女、刀でほむらを縛るリボンを切り裂く。

   結界を抜け出し闇夜へ飛び去る悪魔。

   マミ、なぎさたちに車輪攻撃をする人魚の魔女。

マミ「なんなのこいつも悪魔の手先」

   車輪攻撃を避けながら銃撃をするマミ。

なぎさ「違います、これはさやかの憑依魔女。姿が見えないと思ってましたが、まさか悪魔に取り込 まれていたなんて」

   ぴょんぴょんと飛び回り車輪攻撃をかわすなぎさ

さやか「ちっ! 我ながら情けないよ」

   悪魔の手先になって暴れる自分の異体を見て呟くさやか。

 

 

〇 夜 噴水公園 

   月明かりに照らされる公園。だが雲がかかり雷鳴が轟いている。

   ベンチに座りほむらたちを待つまどか。

   何かの気配を感じ自分の隣を見るまどか。

   ベンチにちょこんと座るキュウべぇ。

まどか「なんだ、キュゥべえか」

   ほっとするまどか。

キュウべぇ「まどか、暁美ほむらを待っているのかい」

まどか「キュウべぇ! あなた喋れたの」

   当然、驚くまどか。

キュウべぇ「杏子も死んでしまって。大変なようだね」

まどか「……うん、すれ違いだらけでみんな傷ついて……それを元通りにしたいの」

キュウべぇ「全て元通りっていうのは難しいね、感傷が過敏な第二次性徴期に受けた傷はずっと忌ま わしい心的外傷として残るだろう。君も暁美ほむらも美樹さやかも罪悪感と後悔とで生きるんだろ うね」

まどか「そうだろうね。だけど人間はね、後で後ろめたい気持ちにならないようにみんなで努力をし なきゃいけないんだよ」

キュウべぇ「後ろめたいというと特に暁美ほむらのしたことについてだね」

まどか「……知ってるの」

キュウべぇ「マミと一緒にいたからね」

まどか「ほむらちゃんがなんであんなことをしたのかわからない……仁美ちゃんが許せなかったのは わかるけど、殺そうとするなんて……わたしはそんなことを……」

ほむら「暁美ほむらは君のことを誰よりも大切にしているからね、傷つけられたのが許せなかったん だろう」

まどか「そんなことをされたってわたし嬉しくなんかないよ! 仁美ちゃんに仕返しなんて望んでな いのに……」

キュウべぇ「確かに暁美ほむらの行動は常識を逸脱している。彼女は君という保護対象のためならば どんなことでもするようだね」

まどか「ほんの二ヶ月ちょっとの付き合いしかない転校生なのに」

キュウべぇ「まどかは暁美ほむらのことが気になるのかい」

まどか「当たり前でしょう。ほむらちゃんのことが知りたいの、あの子のことをわかってあげてあげ たいの」

キュウべぇ「わかるようになるよ、君の全知全能の力を解き放てば」

まどか「全知全能の力?」

キュウべぇ「君の持つ本当の力はね神にも及ぶ凄まじいものさ、だけどその力はある存在によって封 じられていて発揮できないようになっている。その力を使えば暁美ほむらの魂さえも救済できるだ ろう」

まどか「キュウべぇはわたしをからかってるの? わたしにそんな力ないよ。魔法少女になる実力の ないなんの取り柄もない子なんだよ」

   自嘲気味に笑うまどか。

キュウべぇ「なぜ、君は確固たる証拠もないのに必要以上に自己否定をしたがるんだい」

まどか「……」

キュウべぇ「まどか、自分で気付いていないだけさ。君は運命を変える力を持っている。そやって君 は現に罪深いものに慈悲を与え、怒れる者たちを救済してきたんだよ。真の力を解き放てば、君の 願いを叶えるなんてよういだろう」

   突然まどかの肩に登るキュウべぇ。少しおどろくまどか。

   キュウべぇ、悪魔の刻印を浮かび上がらせる。

キュウべぇ「まどか、これが君の力を封じ込める呪いだ」

   まどか、ポケットから鏡を取り出し首筋を見る。

まどか「……これは」

キュウべぇ「これは悪魔の口づけという呪術だ。これが君の力を封じ込めていたんだ」

まどか「こんなものがわたしについていたなんて」

キュウべぇ「これはその場しのぎの簡易呪術だ、僕でも解除できるよ」

まどか「これを消せるの?」

キュウべぇ「……簡単なことさ」

まどか「本当にほむらちゃんを助けられるんだね」

キュウべぇ「うん、本当のことだよ。だけど決心はして欲しい」

    一瞬だけ逡巡するまどか。

まどか「……消して……呪いが消えてみんなが助かるのなら。わたしの力を解き放てるなら。わたしに 優しくしてくれた、あの子を救えるなら、どんな目にあったっていい! だからお願い」

   決心を固めキュウべぇに懇願するまどか。

   キュウべぇ、耳でまどかの首筋を抑え、魔力を注入する。

   苦痛で悶えるまどか。

   魔女の口づけの紋様の上に新たにキュウべぇの呪いの紋様が上書きされる。

   失神したまどかを満足げに見下ろすキュウべぇ。

   ×   ×   ×

   しばらく後、寒気で目を覚ますまどか。自分が雨に打たれていることに気付く。

まどか「キュウべぇ?」

   起き上がりキュウべぇを探し辺りを見渡すまどか。だが、キュウべぇの姿はない。

   雨宿りをしようと立ち上がるまどか。その足元に百江なぎさの使い魔が三匹集まる。

まどか「……どうしたの、あなたたち?」

   何かを訴えようと足元にまとわりつき飛び跳ねる使い魔たち。

まどか「なっ……なんなの?」

   使い魔の意図が分からずに流石に少し怖くなるまどか。

   何者かが飛来し、使い魔を思いっきり殴り倒す。魔法少女衣装のほむら。

ほむら「ふっ! ふっ! ふうんっ!」

   必死な形相で使い魔をゴルフクラブで殴り続けるほむら。

まどか「やっ! やめて」

   ほむらに抱きつき止めようとするまどか。

まどか「やりすぎだよ! この子達死んじゃうよ!」

   まどかを見るほむら、顔一面に返り血が付いており表情は虚ろ。

ほむら「まどか……怪我していない」

まどか「……大丈夫だよ。さやかちゃんは」

ほむら「さやかは来ないんですって」

まどか「本当?」

ほむら「本当よ」

   ほむらの目を見るまどか。

   目に狂気の光が宿っており少し恐怖を感じるまどか。

ほむら「雨が降っているからわたしの家に行きましょう。美味しいお菓子と紅茶を用意したわ」

   ゴルフクラブを盾の中に収納し傘を取り出すほむら。

   まどかの手を引くほむら。あまりの力の強さにたじろぐまどか。

まどか「あの子達は……」

   ぐちゃぐちゃに潰れ足をヒクヒクさせている使い魔の身を案じるまどか。

ほむら「大丈夫よ、死にはしないわ」

   振り返りもせずに言うほむら。

 

 

〇 夜 ほむらの家

   隣り合って二人座るまどかとほむら。

   疲労困憊といった様子で椅子に座っているほむらを心配そうに見るまどか。

   物陰からガクガク震えながら見ている使い魔たち。

まどか「ほむらちゃん……人を憎んだらダメだよ」

ほむら「……」

   何も言わないほむら。

まどか「仁美ちゃんにどうしてあんなことをしたの?」

   がっくりと頭をうなだれるほむら。

まどか「答えてよ。じゃないとほむらちゃんの事がわからなくなっちゃう」

ほむら「ううう……」

   顔を手で覆ってすすり泣きをするほむら。

まどか「わたしはほむらちゃんに憧れてるの。優しくてだけど普段は隠していて厳しくてとても強い 人。わたしを颯爽と助けてくれた、あの時のままのほむらちゃんでいて欲しいの」

ほむら「憧れるほどのものじゃないのよ、わたしは……」

まどか「あなたのことが分かりたいの。今のずっとわたしの為に頑張ってたんだね。本当は辛くて悲 しいのに我慢をして、わたしを支えてくれてたんだよね。もう、本当の自分を出してもいいんだ  よ」

ほむら「……本当の自分をさらけ出せることなんてできないの」

まどか「……いいんだよ。苦しんでるほむらちゃんを見ていたくないの」

   魔法少女衣装が溶け悪魔の姿に変化する暁美ほむら。

   本性を現したほむらの姿に驚愕するまどか。

悪魔「まどか……これが本当の姿なの……わたしは魔なるもの、呪いの力でこのおぞましい世界を作っ た張本人」

まどか「……ほむらちゃん」

   恐ろしいほむらの姿に震え始めるまどか。

悪魔「ええ、怖いでしょうね……悪魔ですもの……魔法少女から堕ち切った魔性の存在ですもの」

   ふらふらと立ち上がるほむら。

まどか「……正義の味方っていうのは嘘だったの」

悪魔「そうよ……あなたに気に入られたいがために、善の皮をかぶっていた。この世界を守るために 自分の正体を隠していたの」

まどか「……」

   ほむらの言うことを理解しかねているまどか。

悪魔「わからないでしょうね……わかるわけがないものこの気持ち。だけど、こんなことになってし まっては願いさえももう叶わない」

  まどかの肩を持ち立ち上がらせるほむら。

  自分のリボンを外しまどかの髪に結びつけるほむら。

  ほむらの姿に哀れみを感じ、涙を流すまどか。

悪魔「鹿目まどか。あなたはこの世界が尊いと思う? 欲望よりも秩序を大切にしている?」

   まどか、泣きながら首を横に振る。ほむらが自分に別れを告げていると本能的に感知する。

悪魔「そうだよね。だけどそれでいいの。それがわたしの大好きな鹿目まどかだから」

   まどかに向かってニッコリと微笑むほむら。

   呪いの力で砕け散るダークオーブ。

 

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