Another days -case of Emma- 作:瑠和
本当はエマさんの誕生日から始めようと思っていたこの物語。まさかの誕生日投稿回がほぼエマさんの登場しない回になってしまいました。次回からようやく関係が大きく発展していく!………のか?そして同時に今日はおそらくですが、せつ菜役のともりさんの最後のライブになるかと思われます。今までありがとうそしてこれからも頑張ってほしいです。
ともりさんがせつ菜役を降板する3月31日、Another Days‐case of Setsuna‐ 投稿します。
この日、瑠和は一応学校には来たものの授業には出ていなかった。不登校や授業をサボる行為の常習犯だった瑠和はそれを利用し、授業中で一人も人がいない生徒会室に来たのであった。
ここに来た理由は一つだ。生徒会が管理している生徒名簿を覗きに来たのだ。瑠和は生徒名簿を引っ張り出すと、その中から「優木せつ菜」の名前を探す。
どこを探しても見つからない彼女の行方を探すにはこれしかなかった。
しかし、生徒名簿の全てに目を通しても優木せつ菜の名前は見つからなかった。
「いったいどういうことだ…?」
その時、生徒会室に向かって近づいてくる足音が聞こえてきた。生徒名簿を眺めるので夢中になって気づかなかったがいつの間にか休み時間に入っていたのだ。
瑠和は慌てて生徒会長の机の下に隠れる。扉が開き、誰かが入ってきた。入ってきた人物は何かしらの資料を漁った後部屋を出ていった。
「………ふぅ、あぶねぇ」
とんだ冷や汗物だと思いほっとしたところで瑠和は生徒会長の机の下に紙袋が置かれていることに気づく。何の気なしにその紙袋を開いてみた。
「…こいつは」
ー普通科廊下ー
一方、いつも通りの日常を過ごしていた高咲侑。休み時間に友人との談笑を終え、教室に戻ってくると自分の机のところで幼馴染みの歩夢が立ち尽くしているのを見つける。
「歩夢、どうかしたの」
「ゆ、ゆゆゆゆゆ侑ちゃん!!こ、こここ、これ!!」
動揺しまくりながら歩夢はなにやら紙を差し出してきた。よく見ると手紙であることに気づく。
「これ!いつの間にか侑ちゃんの机の上にあって!!ひょっひょっとしてラ、ラ、ララブ…ラブレ…」
動揺している歩夢を尻目に侑は手紙の封を切って中身を確認する。紙にはただ一言だけ書かれていた。
「これ……」
「なに!?なにが書いてあったの!?」
「歩夢、私たちが探してたことの答え、見つけたよ」
「…えぇ?」
―中庭―
「はぁ……」
瑠和は中庭でため息をつく。エマの笑顔のためにできることは何でもしたかった。次にやることは決まっているが、解決に向けてどうするかはきまっていない。
次はどうしたものかと考えていると、物陰からはんぺんが出てきた。
「はんぺん?」
「みゃ」
はんぺんは何かから逃げてきたような様子で瑠和の背後に隠れる。
「どうかしたか?」
「待って」
はんぺんの後にそれを追いかけていたらしき人物が角から出てきた。その人物を見た瞬間、瑠和は固まる。出てきたのは誰あろう、天王寺璃奈だったからだ。
「…………璃奈」
「…………お兄ちゃん?」
曲がり角から出てきた璃奈の手には猫じゃらしが握られていたが、瑠和の姿を見たと同時にそれを地面に落とす。
「お兄ちゃん……っ!」
理奈は瑠和に駆け寄ろうとする。しかし瑠和ははんぺんを抱えて璃奈の方へ投げた。
「え?わぷっ」
はんぺんは璃奈の顔面に飛びつく形で難を逃れた。璃奈が何とかはんぺんを引きはがすとそこにはすでに瑠和はいなくなっていた。
「………」
―部室棟―
「はぁ、はぁ、はぁ!!」
瑠和は中庭から部室棟まで走ってきていた。息は絶え絶え、昂る心臓は決して走っただけの理由で早く鼓動を打っているわけではないのは、誰でもない瑠和が知っていた。
予想外の遭遇に焦り、つい逃げてしまった。いや、どうあれ璃奈に会う勇気がないのは事実だ。己の情けなさに打ちひしがれながら走っていると曲がり角で誰かにぶつかりそうになる。
「わっ!」
「おっと!」
目のまえで倒れかけた女の子の手を取り、倒れるのを阻止した。
「ごめん、周りが見えてなくて……」
「いえ、わたしこそぼーっとしてて……」
そこで瑠和は手をつかんだ少女の顔に見覚えがあるのに気づく。そう、エマからもらったチラシの写真にあったスクールアイドル同好会のメンバーの一人だ。
「………君は…確かスクールアイドル同好会の」
そこまで言ったとき、少女は瞳を輝かせて瑠和に近づく。
「ええ!?かすみんのこと知ってるんですかぁ!?」
「お、おう……」
「え~、まだろくな活動もできてないのにファンがついちゃうなんて~かすみんの魅力は隠し切れないってことですかねぇ~」
別にファンとは言ってないのだが。と思いながら瑠和は一人称がかすみんという少女に話を聞こうとする。
「なぁ、同好会は……」
「あ、聞いてくださいよ~!せっかくスクールアイドルできると思ったのに、いろいろあってスクールアイドル同好会がいま活動休止どころか廃部になっちゃって…今それでどうしようと思ってたんですけど、こんなところでファンに出会えるのなんてきっと運命だと思うんですよ!」
「はぁ」
「かすみんと一緒にスクールアイドル同好会復活させるの、手伝ってもらえませんか!?」
「………」
勝手に話が進められ、なんだか同好会復活の手伝いをさせられる流れになってしまった。
だが、ある意味いい状況だと瑠和は考えた。今回の同好会解散の大きな要因となっているのはせつ菜とこの「かすみん」と名乗る少女。一人称から察するに近江彼方から聞いた中須かすみのことだろうと思った。
「そうだね。俺も君のアイドルとしての活躍、ぜひとも見てみたいから同好会復活の手伝いをさせてくれ」
「え………本当ですかぁ!?」
半分くらい冗談で言ったのだろうか、それとも断られるかもしれないと思ったのだろうか。瑠和が快く承諾したことにかすみは思いのほか喜んだ。
「あ、一応自己紹介しておきますね!普通科一年、中須かすみです!」
「普通科二年……………高咲侑だ」
瑠和は偽名を使った。感謝されたいわけじゃない。それに同好会さえ復活してくれれば瑠和はこれ以上同好会にかかわる必要も、学校に行く必要もなくなるのだ。変に関りを深くしたいわけじゃなかったからだ。
「はい、よろしくお願いしますね、侑先輩!」
―翌日―
次の日、瑠和は学校外の公園で待っているように言われくつろぎながら待機していた。しばらくするとかすみが遠くの方から走ってくるのが見えた。
「どうも、お待たせしました!」
「おう。どうしたんだよ?」
「一応、前のメンバーも集めようと思ったんですが………エマ先輩も彼方先輩も連絡つかないし……しず子も演劇部だし……」
「そうか……なら、助っ人を呼んでおいてよかったな」
「え?」
瑠和がいうと、近くの木の陰から宮下愛が現れた。
「やほ、情報処理学科二年の宮下愛、よろしくね。スクール…アイドルだっけ?るなりんに誘われてさぁ。愛さんアイドルとかはよくわからないけど楽しそうだったから来てみた!とりあえず体験入部ってことで!」
愛が自己紹介をするとかすみは愛をじろじろと眺める。
「ふーん?ま、かすみんほどではないにしろ、まぁまぁかわいいですね。いいでしょう。入部を認めます」
「うん、よろしくね!かすかす!」
「な!かすかすはやめてください!かすみんってこんなにアピールしてるんですからかすみんって呼んでください!」
「ほんで、こんなとこに呼び出していったい何するんだかすみん」
「侑先輩~ありがとうございます~♪」
かすみの呼び名が決まったところでとりあえずこれから何をしていくのかが話し合われる。
「ダンスや歌の練習はおいおい始めていくとして、まずはメンバー集めです!」
急な提案に瑠和と愛は顔を見合わせる。
「なんでいきなり部員集め?」
「人がたくさんいた方が、かすみんの可愛さが引き立つからです!まぁともかく手っ取り早く人を集めるなら………これでしょう」
かすみはスマホを取り出した。
『やっほ~!みんなのアイドル、かすみんだよ~!かすみん~虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部長になったんだけど~そんな大役が務まるかとってもふあ~ん…でも~、応援してくれるみんなのために日本一かわいい~アイドル目指して、がんばるよ!』
かわいらしい、何なら行き過ぎてわざとらしさもかんじるくらいの自己紹介兼アピール動画の撮影が完了した。だが、これだけのセリフと動作を一発で成功させられるのは才能なのかもしれない。
「かすかすって部長なん?」
「かすかすって言わないでください!ほら、わざわざこれだって!」
かすみはカバンの中からプレートを取り出した。それはおそらく廃部になったスクールアイドル同好会部室にかけられていたプレートであるようだったが、そこには明らかにかすみが書き足したであろう装飾、何より左上に「かすみんの」と書かれている。
「かすみんが生徒会から取り戻したんです!………無断で」
「だからこんなとこで集まったのか…」
「ともかく!この動画を動画サイトにアップして部員を募集します!さ、次は愛先輩ですよ!かすみんみたいにかわいくお願いしますね」
「ん~。愛さんはあんまりかわいいっていうのはよくわからないなぁ、愛さんいつも通りやるとげんきな感じになっちゃうかもだし………」
たしかに愛はかわいいというよりパッション系のイメージだ。本人もかわいくというのはどうやればいいかわからないらしい。
「しょうがないですねぇ。じゃあ今からかすみんがいうとおりにしてみてください?」
かすみのアドバイスがあってから愛の撮影がスタートする。
撮影が開始されるとともに愛は手でハートマークを作る。
『ちゅっちゅっ♪ちゅきちゅき♪ラブラブりんっ♪』
ハートマークからの舌を出したあざとい笑顔。そこから自己紹介に移行する予定だったのだが、愛はそのまま固まってしまっている。
「………?」
「愛先輩?」
愛は小刻みに震えている。
「ぷ………あっはははははは!!むりむりだめだ、やっぱり愛さんにかわいいは難しいって~!」
唐突に愛は吹き出し、腹を抱えて笑い始めた。
「ちょっ!愛先輩!ちゃんとしてくださいよ!!」
「だって無理だって~ついつい笑っちゃうもん。やばすぎるってこれ~」
「なっ!かすみんのかわいいレクチャーを馬鹿にするつもりですかぁ!?」
「違うけど……ぷ……あははは!愛さんには合わないって!」
「愛先輩!そんなんじゃファンにかわいいは…………」
そこで、言葉が止まった。
(そんなことでは、ファンの皆さんに大好きは届きませんよ!)
かすみの中に以前の記憶がよみがえった。
「………かすみん?」
「……………今日はこれくらいにしましょう。明日、また撮影にします。練習しておいてくださいね」
「え………うん…」
かすみは荷物を片付けて公園から去って行った。
「どうしちゃったんだろうね。かすかす」
「………気づいたんだ。大事なことに。お前を呼んでよかった」
瑠和は何かに気づいたようだが愛は瑠和の言っている言葉の意味を理解できていない様子だった。
「どういうこと?」
「いいや、ありがとうな宮下」
◆◆◆
同時刻、生徒会室。
夕暮れ迫る生徒会室には三人の生徒が集まっていた。
「普通科二年、高咲侑さん、上原歩夢さん、何の用ですか?」
「ちょっとね。少し前に、音楽室で優木せつ菜ちゃんの話したでしょ?」
「そうですね」
「その時からなんとなく感じてることがあるんだ………ねぇ、優木せつ菜って…奈々ちゃんなんじゃないかな?」
「………いったい、何を証拠に?」
「証拠はないけど、生徒会長なら優木せつ菜ちゃんの連絡先くらいわかるでしょ?もし別人っていうならいまからせつ菜ちゃんに連絡、してみてくれない?」
「…………」
菜々は小さくため息をつく。
「どう?」
「まぁ、いつまでも隠しきれるものじゃないと思ってましたから」
「本当に生徒会長が優木せつ菜ちゃんだったんですか?」
菜々自身の正体を認めたことに、歩夢は驚いている様子だった。侑の机の上に置かれていた手紙はせつ菜の正体が菜々だという内容だった。その証拠に顔の似ている部分や、生徒会長の机の下にせつ菜の衣装が置いてあった写真があったのだ。
「ねぇ、せつ菜ちゃん」
「優木せつ菜はもういません!!!もう、いないんです…………これ以上、優木せつ菜について話すことはありません」
「…」
菜々は固く口を閉ざした。正体を破ればなにか変わるかもしれない、そうおもった侑たちは思い切って聞いてみたが、何か状況が変わるわけではなかった。
それほどまでに、菜々は自身とスクールアイドルを切り離そうとしている様子だった。
「………そっか。わかった。ありがとうね。歩夢、行こう」
「うん………」
二人は生徒会室を出た。
「ねぇ、侑ちゃん、これからどうするの?」
「とりあえず情報が不足してるから情報集めかなぁ。ごめんね歩夢、スクールアイドルやりたいって話してくれたのに…」
「ううん、せつ菜ちゃんは私たちに夢をくれた人だもんね。私も手伝うよ」
あの日、優木せつ菜のライブを見た日、侑はスクールアイドルを応援したいと思ったのだ。そして歩夢もスクールアイドルをやってみたいと心を打ち明けた。そして二人でスクールアイドルを始めようと決意した日の夜、瑠和からスクールアイドル同好会をどうにかしてほしいという連絡も来たのだった。
「あの、今スクールアイドルって聞こえた気がするんですけど………」
「え?」
二人が話していたところにエマがやってきた。たまたま通りかかっただけだったが二人がスクールアイドルの話をしているのを聞き、訪ねてみたのだ。
「あなたは確か………スクールアイドル同好会のサイトに書いてあった……」
「私、スクールアイドル同好会のエマ・ヴェルデです!あの、どうしてスクールアイドルの話を………」
―翌日―
翌日の放課後、かすみは一人でなやんでいた。
「はぁ………あ~もうどうしたらいいんですかぁ!?かすみん困っちゃいます~!」
「困ってんのか?」
かすみは全く気付けていなかったがいつの間にやら真横に瑠和が座っていた。
「………うわぁぁぁぁぁ!侑先輩いつの間に~!」
「かすみんは何に困ってんだ」
「え………」
瑠和はかすみから話を聞いた。
かすみとしてはかわいいあふれる同好会にしたいのだが、せつ菜のようにやりたいことを押し付けることはしたくない。だが、いつの間にか同じことをしていこと、なによりこれでは前の繰り返しになってしまうかもしれないこと。
「………実はさ、前の同好会で何があったか事情は聴いてたんだ」
「え?」
「けどかすみちゃんは夢をあきらめてなかったみたいだったから。いちおう一緒にいた。かすみちゃんがどうしたいのか、知りたかった。けど、うん、大事なことに気づけたみたいでよかった」
「よくないですよ!このままじゃまた同好会がうまくいかなくなっちゃいます!」
「………少し、気になってたんだ。みんなが目指すもの、やりたいことってひとつなのか?」
「どういう意味です?」
「みんながライブをする場所って、ラブライブって大きいステージじゃないといけないのかって話さ」
「…………」
「今日、みんなに聞いてきたんだ。桜坂しずくちゃん、エマ・ヴェルデさん、近江彼方さん……みんなどんなライブがやりたいのか、どんなステージを目指すのか………かすみちゃんがいうように、みんなそれぞれやりたいステージがある。そして、それを一つの色にまとめるのは、きっと無理だ。良くも悪くもな」
瑠和は今日の休み時間の間にせつ菜以外のスクールアイドルに話を聞きに行っていたのだ。どんなステージをやりたいのか。
「……そう…なんですか?」
「だから、みんながみんな、やりたいステージをやればいいさ。それ魅力になるんだよ。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の」
「それが………魅力」
「明日、みんなで話し合う時間を用意した。だからさ、絶対にあきらめないでくれ」
「侑先輩………?」
瑠和はそれだけ伝えて去っていった。
今日、エマに話を聞きに行ったときに高咲侑がせつ菜の正体にたどり着き、どうにかしようとしていることを聞いた。かすみはもう大丈夫だと判断し、あとは侑に全部任せたのだ。
(………あいつならきっとうまくやってくれる)
侑は瑠和の予想した通りいい働きをしてくれているみたいだった。やはり彼女にはこういうことをうまくまとめる適性がある。そう感じた。
やっと、静かになる。そう思って瑠和は寮に帰った。
それから数日。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は復活した。そのことをホームページで確認した瑠和は、それ以降、部屋から出ようとはしなかった。
続く