Another days -case of Emma-   作:瑠和

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にじよん十話………最高すぎだろぃ………。
ありがとうともりる………。

さて、こちらも一応は最終回です。投稿が遅くなって申し訳ありません。年度末ということもあり、普通に多忙です。

最終回ですがちょっとした続編を作る予定です。


第八話 最高の今、そばにいるエマ

「お兄ちゃん」

 

かわいらしい声と、純粋な瞳が俺を見つめていた。その存在だけで、毎日の家事の疲れなんか吹き飛んだ。本当に大切な存在だった。

 

その存在を傷つけた。己のわがままで。それが耐えられなかった。久しぶりに会った時、もともと控えめだった妹の表情から感情は消えた。また会った時、そのことを責められる気がして会う勇気がなかった。

 

あの頃の思い出が大事だからこそ、壊したくなかったのかもしれない。

 

だが、それ以上に、俺はあの人が伸ばしてくれた手を無駄にしたくなかったのかもしれない。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「行こう、璃奈ちゃんに会いに」

 

「はい!」

 

放課後、エマに手を引かれるまま、瑠和は走り出した。もう迷うことはない。ただ己が持つ衝動のまま、目の前に人に笑ってほしいだけの感情のまま、走り出した。ほほえましい光景の二人を眺めながら彼方もそのあとを追いかける。何が待ってるかはわからないが何もかもうまくいきそうな気がした。

 

しかし、世の中というのはそう簡単に何でもかんでもうまくいくようにはできていないらしい。

 

同好会の練習場所にたどりついたはいいもののそこには璃奈の姿はなかった。残り二日で璃奈のライブだというのにその本人がいないのだ。何やら難しい顔をしているしずくとかすみがいた。

 

「璃奈ちゃんは?」

 

「それが………急に帰っちゃって……」

 

「本当に急で……どうしようかって話していたんですけど」

 

「いったいどうし………ん?あー!ニセ侑先輩!」

 

かすみは瑠和の姿を確認すると指をさして驚く。

 

「俺のことはどうでもいい。なんで急に璃奈は帰っちまったんだ?心当たりは!?」

 

瑠和はかすみの肩を掴んで揺らしながら聞く。

 

「わわわわかりませんよぉ!」

 

「くそっ!」

 

「落ち着いて、瑠和君!」

 

「とりあえずみんなを集めよう」

 

ようやく璃奈に会う覚悟を決められた矢先の出来事だ。普段はひょうひょうとしている感じの瑠和も焦りを隠しきれていない。連絡を聞いた同好会メンバーは集まり、話し合う。

 

「………そう、璃奈ちゃん、帰っちゃったの。まぁそれならそれでいいんじゃない?」

 

事情を聴いた果林は少し考えてから冷たく言い放った。その言葉に場の空気が凍り付いたのは誰もが分かった。

 

その中でも瑠和は目の瞳孔が開いている。それほど果林の言葉に怒りを感じたのだ。瑠和は果林の胸倉をつかみに行く。

 

「あんた………どう意味だよそれ!」

 

「どういう意味も何もそのままの意味よ。決めるのは璃奈ちゃんよ。そもそもあなたこそ何なの?いままで璃奈ちゃんに会う覚悟もなかったくせに急にしゃしゃり出てきて」

 

胸倉を掴んできた手を解きながら果林は瑠和を軽くあしらう。痛いところを突かれ瑠和はその場でたじろいでしまった。

 

「それは…………」

 

「私たちに任せたいんじゃないの?璃奈ちゃんのこと」

 

「最初は…………そのつもりでした。だけど、俺は……俺は………」

 

「なに?」

 

「もう逃げないって決めたんです!俺は、家族と、璃奈と向き合うために!」

 

「それはどうして?」

 

「え?」

 

「それがあなたの本音ってことは信じられないわ」

 

果林の言葉はもっともだった。瑠和の「璃奈に会えない」というわがままで果林や愛は今ここにいる。それなのに急に再び出てきたのだ。意見がすぐに180度変わるような瑠和の言葉をそう簡単に信用できないのだ。

 

だから果林は求めた。明確な理由、瑠和の心の奥底にあるであろう、そう決断させた気持ちを。

 

「それがあなたの本音だというなら、今すぐ証明して?この場で」

 

僅かに沈黙が生まれた。急にそんなことを言われ、瑠和は少し戸惑う。しかし、助けを求めるように視線を移したエマの眼を見て、ハッとする。

 

そうだ。いま、自分がここにいる理由は…………

 

「そんなの、決まってる。俺が、璃奈の兄ちゃんだからだ」

 

それ以上に理由はない。家族だからだ。それを聞いた果林は少し安心したような表情をした。

 

「そ、ならあなたが今できる最善だと思うことをしなさい?それがきっと、璃奈ちゃんに一番必要なことだと思うわ」

 

「………俺、行ってきます!」

 

瑠和は急に走り出した。

 

「ええ!?行くってどこにですか!?」

 

「璃奈ちゃんのところだよ!私たちも行こう!」

 

侑がそのあとを追い、ほかのメンバーもそれについていく。しかし、エマと果林はすぐには動き出さなかった。

 

「エマ?」

 

「果林ちゃん、ひょっとしてさっきの………瑠和君のため?」

 

最初に冷たい言い方をしたのはひょっとして瑠和をやる気にさせるためだったのかと尋ねてみる。

 

「さぁ?何のことかしら」

 

果林はお茶を濁した。

 

「それより行かなくていいの?」

 

「もちろんいくよ!ほら、果林ちゃんも!」

 

「え」

 

急に手を出され、果林は一瞬固まる。今の果林は同好会のメンバーでもなんでもない。ここで共にいくことを許容されるとは思ってなかった。

 

「………いいのかしら。私、瑠和に手伝い頼まれただけなのに……彼がやる気になった以上もう私は……」

 

「それでも、璃奈ちゃんや同好会のみんないとっては、一緒に練習した仲間。そう思うよ?」

 

「………そうね。行かなきゃかもね」

 

 

 

―天王寺家―

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

瑠和は天王寺家にようやくたどり着く。電子制御の鍵を開け、中にいるであろう璃奈の許可もなく勝手に家の中に入る。

 

部屋の中には懐かしい香りが漂っている。虹ヶ咲に入学は決まったが、家族と暮らすことを拒否したあの日の匂い。

 

瑠和は勇気をもって家の中へ足を踏み入れる。

 

一歩一歩進み、璃奈の部屋の扉を開ける。部屋の中には誰もいない。しかし変わりに大きな段ボールがあった。

 

もしやと思い、電気を着けてみると段ボール箱がガタッと大きく動いた。

 

「だ、誰っ!?」

 

怯えた声が段ボールの中から聞こえてきた。璃奈が家の中から操作したわけでもないのに、勝手に家に誰かが上がってきたらそりゃビビるだろう。

 

瑠和はそんな璃奈のことを置いてすこし考える。

 

今、璃奈になんて声をかけてあげるのが正解なんだろう。下手すれば、璃奈は一生ここから出てきてくれなくなるかもしれない。

 

そう思うと緊張してしまう。拳に自然と力が入るのがわかる。唇の震えを実感しながらもなにか言おうと必死に考えた。

 

しかし、そんな瑠和の耳にエマが囁いてくれた。

 

「大丈夫だよ。いつも通りで」

 

囁いてくれたことに驚きながらもエマの言葉の意味を考える。

 

いつも通りでいい。

 

ああ、たしかにそうだ。そうだった。瑠和はそう思い、天を仰ぐ。

 

家に帰ったのだ。まず言うことは決まっている。

 

「ただいま、璃奈」

 

段ボール箱の中の璃奈は目を丸くする。聞き間違いじゃないかと思った。ずっと聞きたかった相手の声がした。ずっと会いたかった相手の声がした。箱の中で顔をあげて小さくつぶやく。

 

「お兄ちゃん?」

 

「ああ、兄ちゃんだ…………なぁ、璃奈。俺、お前と話がしたいんだ。そこから出てきてくれないか?」

 

瑠和は箱の前に座り込んで語り掛けてみる。箱の中の璃奈は瞳を輝かせてすぐに出ようとした。しかし、そんな璃奈の脳裏にあの光景がよみがえり、動きが止まった。

 

「…………できないよ」

 

「…璃奈?」

 

「こんなところ………お兄ちゃんに見せられない…………」

 

璃奈は箱の中で頭を抱え、涙をこぼした。

 

「…………どうしてだ?」

 

「私が、私がこんなだから、お兄ちゃんは、お父さんやお母さんと喧嘩して、家族が、ばらばらになって………変わりたかったのに、私が変われば、お兄ちゃんも帰ってきてくれるかもって思ったのに………私は結局変われなかった!みんなはそんなことでって思うかもしれないけど、どうしても気になっちゃうんだ!自分の表情が!これのせいで、きっとお兄ちゃんは帰ってきてくれなくなったから!この表情のせいで何度も失敗してきたから!」

 

璃奈は家族と瑠和の間に亀裂が入り、それをここまで長くした原因は自分だと思っていた。

 

瑠和が六年ぶりに実家に顔を出した時、瑠和は最初に璃奈の顔を見た。

 

璃奈は瑠和が周りの人間の表情の色が見えるのは知っていた。だからこそ、瑠和が璃奈の状態を理解するのに時間はかからなかった。感情を表情に出せないこと、そのせいで周りに友人がいないこと、そしてそれを瑠和が自分のせいだと決めつけたのも璃奈は瞬時に理解した。

 

「お兄ちゃんが私がこうなったのは自分のせいだってって思ってるの、なんとなくわかってた、だから、私が変わって、私はもう大丈夫だよ、お兄ちゃんのせいじゃないよって伝えたかった…………心を、つなげたかったのに…………ごめんなさい………ごめんなさい!」

 

「……………」

 

璃奈の言葉を聞き、瑠和はその場に立ち尽くしていた。

 

かける言葉が見つからない。

 

妹が表情を表に出せないのは、自分のせいだ。そう思っていた。そしてそのことを怒っていると勝手に思い込んでいた。

 

 

それなのに、妹は、自分が悪いと思い、変わろうと必死に努力していた。

 

それに気づけず、ただ妹の眼に怯え、逃げてきた自分が情けない。

 

「…………っ!」

 

瑠和は決意を固め、璃奈が隠れている段ボールを外して投げ捨てた。璃奈が驚き動揺するよりも先に、瑠和は璃奈を立たせ、そして思いっ切り抱きしめた。璃奈は瑠和の胸に埋められた。

 

「お兄ちゃ…」

 

「ごめん…っ!ごめんな璃奈………璃奈がそんな気持ちだったこと…俺は理解していた!だけど………璃奈に責められるんじゃないかって………璃奈に拒絶されるのが怖くて……………」

 

「お兄ちゃん……」

 

「璃奈が俺を許さないっていうなら………俺も、もうお前には近づかない…けどもし……こんな俺を…………許してくれるなら…………お前を近くで支えたい…………もう一度…………お前の兄ちゃんに……………戻ってもいいか?」

 

初めて聞いた兄の心情。璃奈はそれに驚きながら瑠和を抱き返した。

 

「当たり前だよ…………私のお兄ちゃんはお兄ちゃんしかいないよ………今までだって、一緒にいたかった……これからだって!ずっと、一緒にいたい!」

 

その言葉に瑠和は瞳から涙をこぼした。

 

ずっと、璃奈に拒絶されることを恐れ、まっすぐ向き合うことをしてこなかった。だが、それがようやく終わった。

 

「俺もだ………。明後日のライブ…………行けるか?俺も一緒にいるから……」

 

「………だけど、このままの私じゃ…」

 

確かに大きな問題の一つは解決した。だが、ライブを行えない原因の根本は解決していない。

 

「りな子、自分のダメなところも武器にするのが、一人前のアイドルだよ」

 

「………でも…」

 

「璃奈にはいいところ、できるところがたくさんあるだろ……?だから、できることで、できないことをカバーすればいい。同好会だってそうやって今やってきているんだ。そうだろ、お前ら」

 

瑠和は振り返って同好会メンバーに尋ねた。

 

「その通りです!」

 

「今はまだ、できないことがあってもいいんじゃないかな?」

 

「方法を考えてみようよ。まだ、時間あるし」

 

「…………ありがとう」

 

璃奈は瑠和の胸に顔を埋めたまま礼を言った。いける。そう思った。瑠和一人ではどうしようもないが、今はこんなに仲間がいる。

 

「………璃奈とこんな風に話したの、初めてだな」

 

「うん………」

 

璃奈はその言葉にハッとする。璃奈は瑠和の着ているベストを借り、顔を隠しつつ部屋のカーテンを開いた。

 

「…………もしかしてっ!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

それから、璃奈のライブは大成功に終わった。

 

璃奈は自身の顔を隠していると少なくとも声に感情を乗せられることに気づいたのだ。表情を見られることもないから素直な心でいられる。だから、璃奈の表情を代わりに表現してくれる電子制御のマスクを作り、それでライブを行った。

 

瑠和はうれしかった。長く続いた兄妹関係の歪みにようやく終止符を打てたのだ。翌日、瑠和は学校に行こうとした。もう不登校になる理由もない。何も恐れず、学校に行けるのだ。

 

「………あれ」

 

ドアノブを掴んだ手が震えている。そしてその手はノブを回せない。

 

「…………どうして」

 

瑠和はドアに寄りかかり、そのままずるずるとしゃがみこんでしまう。胸の鼓動がうるさい。妙な汗が瑠和の服を濡らす。

 

「なんだよ………これ」

 

しばらくして、瑠和の部屋にはエマが訪れていた。今日からは一緒に学校に行く約束をしていたエマは、いつまでたっても来ない瑠和を心配してきたのだが、そこで目にしたのは今まで見たこともないような表情でうずくまる瑠和だった。

 

「瑠和君………?」

 

「エマさん…っ!」

 

瑠和はエマの姿を確認すると助けを求めるようにエマにしがみついた。

 

「瑠和君!?どうしたのっ!?」

 

「ごめんなさい、わかりません………だけど…………エマさんを見たら……少し、気持ちが落ち着いたから………」

 

「大丈夫!?どこか具合が悪いの?」

 

「…………外に……出れなくて…体が震えて………」

 

少しづつ積みあがった一人の時間は、瑠和を臆病にさせるのには十分だった。いままで普通に暮らせていたのは、璃奈のために一人でいようとする決意だった。

 

それがなくなった今、瑠和は人のぬくもりを、家族の愛を求めていた。それを、エマは不思議とそれを感じとれた。その姿はまるで、故郷の兄弟たちのように見えたからだ。

 

「……………大丈夫だよ。瑠和君」

 

エマは瑠和を抱きしめる。

 

「私がそばにいるから。大丈夫、大丈夫だよ」

 

「エマさん……」

 

「あなたは、一人じゃないよ?璃奈ちゃんだっている」

 

「………」

 

(違う………そうじゃない………)

 

そういわれて瑠和はようやく一つ気づいた。

 

いままで自分が頑張れていたのは、璃奈のためにという決意もあった。だが、璃奈がそばにいてくれても今の瑠和は外に出れない気がした。

 

だが、目の前にいるこの人なら、今の自分に足りない何かを埋めてくれる。そんな気がした。

 

いいや、確証があった。

 

ようやくわかった。

 

「俺は………あなたにそばにいてほしいんだ」

 

「え?」

 

「エマさんに、ずっと………傍にいてほしい」

 

「………瑠和君」

 

「俺はもう、あんたなしじゃ生きていけない。俺の全部をあんたのために使わせてくれ…………」

 

「瑠和君…?」

 

救われた。あの瞬間に。自分のすべてを受け入れ、それでもなお純粋な心で自分に手を差し伸べてくれたエマに。瑠和は決めたのだ。この人のために生きたいと。

 

「決めたんだ。あの瞬間から………俺はエマさんのためにしか…………多分もう生きられない」

 

人の顔色を見て生きてきた瑠和にとって、ここまで純粋な心の持ち主は珍しかった。この人のためになら何でもできるし、逆にこの人のためにしか何かする気になれなかった。

 

今、家からすら出られないような現状がその証明になっていた。しかし、当然エマもそんなことを急に言われれば困惑する。

 

「そんなこと言われたって…………大丈夫だよ。瑠和君にはもっといい人が………」

 

「あなたしかいないんだ!今までたくさんの人に出会ってきた!それでも、あなたみたいに、純粋な心の持ち主は誰もいなかった…………」

 

「………わたししか……」

 

そのことを伝えられた時、エマの心に何か特別な感情が芽生えた。いや、もともとあった感情が大きくなったというべきか。もともと困っている人を放っておける性格でないエマは、その影響で世話好きという面がある。

 

誕生日に他人の世話をさせてほしいというほどに。それが特定の個人に向けて大きくなればどうなるか。

 

それはある種の独占欲に近い感情へと歪んでいく。

 

「本当に私でいいの?」

 

「………ああ」

 

「この先のことはあんまりまだ決めてないけど。私はきっといずれスイスに帰っちゃうよ?」

 

「だったら俺も行く。あんたのそばにいさせてほしい…………」

 

「…………それはよくないよ。ちゃんと自分の将来を自分で決めないと。まだ瑠和君には時間があるんだから。でも、瑠和君がちゃんと決められるように私が支えるよ」

 

エマはそう言って瑠和を抱きしめる。瑠和は甘えるようにエマの胸に顔を埋めた。

 

瑠和を抱きしめるエマの表情はどこか喜びに満ちていた。求めていたものをようやく手に入れた子供のような、どこか狂気さえ感じる満ち足りた表情だ。

 

「私が…………………そばにいてあげるね?」

 

 

 

End……?




はい、一応これで終わりです。もともとAnotherDaysの果林編での分岐としてエマ編を作っていたのでこういう終わりとなりました。
少しエマさんらしくないと思うかもしれませんが、こういうエマさんも私は好きです。ポムっぽさをほかのキャラに出したかった。
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