銀魂小編   作:佐倉シキ

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ラストファンタジー編 4

 

 

 

 

その日の夜、新八は実家の静かな部屋の中でゲームを起動していた。外は薄暗く、雪の降り始めを感じさせる空気が漂っている。座布団に座り込んだまま、新八はコントローラーを握りしめ、少しだけ期待を込めて画面を見つめた。

 

「ゲームなんて久しぶりだなぁ、少し楽しみかも」

 

自分の声が部屋に響くと同時に、新八の胸の奥にほんの少しの不安が広がるのを感じた。万事屋でのゲームの思い出は、正直言って碌なものではなかったからだ。あの“モンキーハンター”では、銀時と神楽と一緒に奮闘して散々な目にあったし、“owee”ではもう、本当に悲惨な結果になった。そして、タマの病気を治すときだって大変な目にあったことが蘇る。

 

「銀さん達、真面目にやってくれるといいけど」

 

その言葉を呟きながら、新八はゲームを起動する。画面が立ち上がると、壮大なオーケストラのようなBGMが流れ、ゲームのタイトル“Last Fantasy”の文字が浮かび上がってきた。それを見た新八は、思わず声を漏らす。

 

「おお、かっこいいな」

 

二木の説明によると、このゲームはオリジナルの世界『リヒトヴルム』を舞台にしたアバター作成型のRPGだ。バトルだけでなく、酪農や釣り、アイテムのクラフトなど、さまざまな遊び方があるという。もちろん、恋愛要素も存在している。ただし、他のプレイヤーにガチ恋をするなという厳重な注意を受けたことを新八は思い出す。

 

ぽちぽちと進めていけば、すぐにアバター作成の画面に入った。

 

「アバターか、どうしようかな……」

 

と新八は少し悩んだ。適当に初期アバターに眼鏡をかけてみようかとも思ったが、それでは少し面白くない。銀時や神楽が自分に似たアバターを作らないのなら、せめてネットの中では少しカッコイイ姿でやってみてもいいかもしれない。そう思いながら、アバターの設定を始める。

 

──背は普通で

 

──髪型はこのデザインなんかオシャレじゃないか?

 

──目はこれかな、真面目そうだし

 

──眼鏡は……たまにはなしでもいいでしょう

 

──服はやっぱりコートかな、少しスタイリッシュに決めてみよう

 

一生懸命考えた結果、新八が作り上げたアバターは、見るからにライトノベルの主人公そのものだった。

 

「うーん、なんかライトノベルの主人公でよく見る顔に……まあ、いいか」

 

名前は本名を付けるわけにはいかないので、代わりに『新一』と名付けた。銀時もよくレベルアップしろだのと言っているし、これならそれっぽいだろう。新八は、名前が決まると、深呼吸を一つしてから、「よし、とりあえずスタートっと」と言いながら、いよいよゲームを始める。

 

豪華なBGMとともに、短いオープニング映像が流れる。シンプルではあるが、印象的な映像が画面に映し出されると、ゲームがスタートしたことを実感する。広大なフィールドが広がり、初めて見る光景に新八は少し驚きながらも、少しワクワクしていた。

 

「わあ、すごいな。やっぱり人がたくさんいる」

 

目の前に広がる広場には、数えきれないほどのプレイヤーたちが集まっていて、それぞれが思い思いのアバターを動かしている。その姿を見ていると、思わず感嘆の息が漏れた。こんなにも多くの人と同じ時間を共有できるなんて、時代の進歩は本当に凄いものだと新八はしみじみと感じる。そして、ふと思う。

 

「約束の時間まではまだ少しあるし、広場を歩いてみようかな」

 

広場の周囲を歩きながら、新八は感動していた。建物のディテール、自然の美しさ、そして、ただ目の前に広がるこの景色が、まるで本物のようで、心が躍る。こんなにリアルで美しい世界がゲームの中にあるなんて、やはり今の技術の進歩は素晴らしいと改めて思った。依頼の内容に少し緊張もあったが、それを上回るワクワク感に胸が高鳴った。

 

「っと、そろそろ銀さん達も来てるかな」

 

時計を見て、約束の時間が近づいてきたことに気づいた新八は、始まりの広場へと戻り、しばらく噴水のそばで待つことにした。広場の中には、既にいくつかのアバターが集まり、談笑している様子が見られる。あれやこれやと思いながら待っていると、突然、目の前で何か騒がしい声が響き渡った。

 

「うるさいな……って、あれ? 何か揉めてる?」

 

新八がその方に視線を向けると、小さな少女のアバターが二人の男に絡まれているのが見えた。その少女は少し戸惑いながらも、なんとか自分を守ろうとしているが、明らかに困っている様子が伝わってくる。

 

『あの、そういうのは…ちょっと。困ります』

 

少女の声は小さく、震えている。

 

『良いじゃん、良いじゃん!』

『俺たちがこのゲームの遊び方教えてあげるよ』

 

二人の男が笑いながら言う。

 

『ふぇぇ……』

 

少女はその言葉に、思わず声を震わせる。

 

新八は、その光景を見て、急に心の中で何かがこみ上げてきた。こんな悪質な行為を見過ごすわけにはいかない。立ち上がり、彼はすぐにその場に駆け寄った。

 

『ちょっと、その子困ってるじゃないですか!』

 

新八は、声を荒げて言った。

 

『あン?』

『何様ですか? コラ?』

 

男たちは新八に気づき、面倒くさそうに振り向き、一人が鼻で笑いながら言う。

 

『悪質な絡み方したらダメですよ! 良心的にプレイして下さい!』

 

新八は毅然として立ち向かう。

すると、突然、男の一人が新八のアバターを殴り飛ばした。その衝撃で新八のHPバーが大きく削れ、ゲーム内の体が吹き飛んだ。新八は驚きと焦りの入り混じった表情で、すぐに立ち上がろうとしたが、その瞬間、男たちの一人が突然消えた。

 

『ティン=ポー!?』

 

いや、どんな名前だよ、それ。

 

『テメー何しやがる!?』

 

男は慌てて叫んだ。

 

『え? これって僕がなんかやっちゃったんですか?』

 

新八は全く心当たりがなく、困惑した。

 

それを見て、ゲーム内のシステムが表示された。始まりの広場は戦闘禁止区域で、ここでアバターに手を出した者は強制的にログアウトさせられるということだった。

 

『そういや、そうだったな』と男は不快そうに言いながら、しぶしぶその場を去って行った。

 

新八はその場に立ち尽くし、肩の力を抜いて息を吐き出した。

 

「開始早々、こんな目に遭うなんて……」

 

少し疲れたように目を閉じ、しかしすぐに少女のアバターに声をかける。

 

『君、大丈夫だった?』

 

困ったように絡まれていた少女のアバターに歩み寄る。少女は、ふと顔を上げて小さな声で答えた。

 

『チッ、面白いところだったのによ』

 

その言葉には、どこか無関心で冷たい響きがあった。新八が少し戸惑っていると、少女は気怠そうな表情に変わり、まるで年長者のような態度に切り替わった。手でガシガシと頭を掻く仕草は、どこか荒々しく、まるでおっさんのようだった。

 

『ま、そろそろ待ち合わせ時間だから良いか』

 

新八は一瞬、その少女の行動に目を見張ったが、胸の中で一気に不安の兆しが広がるのを感じた。その予感は、すぐに現実となる。少女のプレイヤー名。

 

──『シルバー』

 

『あれ? プレイヤー名“新一”? ああ、ひょっとしてお前新八か?』

 

その一言で、新八の心臓が跳ねた。思わず目を見開き、肩が震える。

 

オイ、嘘だろ、勘弁してくれ…。

 

新八はその言葉を飲み込み、冷や汗が額を伝うのを感じる。

 

『丁度いいなオイ。俺だよ俺、銀さんだよ』

 

「銀さんんんんんんん!!?」

 

──何でだァァ!? 何がどうしてそうなった!!

 

新八は道場で1人大声を上げて仰け反った。画面の向こうにいるのは、ふわふわとした長い銀の髪を持つ、クリクリとした潤んだ瞳が可憐に輝く少女。どう考えても銀時には程遠い、清らかな少女の姿だった。

 

「な、な、な、何をしてんだテメーはぁぁ!?」

 

その思いもよらない姿に、新八は心の中で叫びたくなる衝動を抑えるのが必死だった。銀時が『ふぇぇ』などと打ち込んでいたところを想像するだけで、気持ちが悪くなり、吐き気さえ覚える。さらに、またしてもネカマかよと思う気持ちを押し殺し、拳を床に打ち付けた。

 

『何してんですかアンタ!? 何でそんな可憐な姿に!?』

 

新八は本当に驚き、怒りをこめて言う。

 

『可憐てお前、気持ち悪い事言うんじゃねーよ』

『気持ち悪いのはテメーだろうが!!』

 

その言葉のやり取りの中で、新八は自分でも理解できないくらいの怒りが湧き上がるのを感じていた。銀時は、画面の向こうで胸を張りながら、まるで意気揚々としている様子だった。

 

『バカお前、二木は釣りするって言ってたじゃねえか。そんならやっぱ女だろ。実際開始してすぐバカ2匹釣れたしな。いや、3匹か』

『今、僕の事もそのバカに含めたか!? 少女が絡まれてたら誰だって心配すんだろうが!!』

 

新八の声が少し高くなる。その反応に、銀時は口を軽く開けて笑っていた。

 

『違うだろ。絡まれてたのが少女だったから心配したんだよ。定時党だが大痔党だが知らねえけど、情報集めんならやっぱこういうのが有利だ』

 

その言葉が妙に理屈っぽく聞こえて、新八は心の中でイライラを感じる。銀時は、どこか無駄に得意げに胸を張っている。

 

──何かムカつくなチクショー。

 

『お前はラノベ主人公の様な出で立ちになり、ラノベ主人公の様な行動をして、ゲームの世界で眼鏡を外し、“新一”にレベルアップした。それなら銀さんだってレベルアップしますよ。今日からこの作品の原作は銀魂じゃなくてロリ魂な、ちなみにロリタマじゃなくて読み方はロリコンだ』

『認められる訳ねえだろ何を言ってんだテメェは!』

 

この人に付き合ってるとキリがない。そう考えて一旦ツッコミを終了させる。

 

『とりあえず広場行きますよ、神楽ちゃんと二木さんが待ってるかも』

『へいへい』

 

銀時はそのまま、無駄に余裕を持った態度で応じる。それを見ながら、新八は少しだけ息をつき、広場に向かって歩き始めた。途中、広場へ向かう途中で、騒がしい声が響いてきた。三人のプレイヤーが何か揉めているのが見えた。

 

『何だよパーティー組んでくれないの!?』

『先約がいますので』

 

そのやり取りを聞いた新八は、呆れた顔をしてしまう。

 

『じゃあさっきのクエストで落としたアイテム全部返してよ、俺ら無駄骨じゃん』

『アイテムは頂いても構わない。そういう約束でクエストした筈ですが』

『それは俺達と遊んでくれるならだよ』

 

その会話から、ゲーム内の雰囲気が意外と荒れていることに気づく。治安が悪いな、と思いながらも、呆れ顔の新八は、無言でその場を通り過ぎようとした。

 

『新八、助けてやれよ。ヒロイン増えるぜ』

『ヒロインって何だよ』

 

新八はぶっきらぼうに答えながら、喧嘩を止めるために一歩踏み出した。

 

『あーもう、ちょっと! こんな所で喧嘩しないでください』

 

しかし新八の言葉など聞こえていないかのように二人の男は少女にくってかかる。

 

『俺は二葉ちゃんとリアルで会えるならって参加したんだよ』

『俺もだよ』

『いえ、ヨシズゥミさんとはリアルで何回かお会いした事ありますよ』

『は?』

 

その言葉を聞いて、もう一方のプレイヤーが驚いたように反応する。

 

『え、いや何のこと』

『お前抜け駆けしたのか? ふざけんなよ』

 

そして、あっという間にサークルが壊れていくのを見た新八は、口をキュッと結んだ。これが「サークルの姫によるサークルクラッシュ」なのだろうか? その姿を横で見ていた銀時は、呆れた顔をしていた。

 

絡まれていた少女は、さっさとその場を抜け出し、こちらへと歩いてきた。

 

その動きにはどこか慣れた様子があり、歩く度に軽やかな音が響くような気がした。彼女のアバターは和服に黒い長い髪、大きなリボンをつけた清楚な女の子。どこか古風で、どこか繊細な美しさを感じさせる姿だ。

 

『さっきはどうも、助けてくれようとしたんですよね?』

 

その一言に、新八は軽く息を呑んだ。彼女の微笑みが、どこか無邪気で素直なものに見えたからだ。

 

『え? いやあの、僕なんて何もできなかったですよ』

 

新八は少し顔を赤らめながら、恥ずかしそうに答える。

 

『いえいえ。そのお気持ちだけで私、とても嬉しかったです!』

 

彼女は言うと、まるで天使のようにふわりと微笑んだ。その微笑みが、新八の胸にふわっとした温かさを運んでくる。

 

──あれ、何だろ。何か胸がふわふわするな。

 

それは、間違いなく新八がこれまで感じたことのない感情だった。彼女がサークルクラッシャーであることを忘れさせるくらい、その微笑みは魅力的だった。可愛い子がこうしてこちらを見ているだけで、無意識にドキドキしてしまうのは、悲しき童貞の性だ。

 

『て、あれ? “新一”と“シルバー”って……ひょっとして新八くんと銀時さん?』

 

しかし次の瞬間発せられたその言葉に、新八の心臓が一瞬止まりそうになる。

 

──おい、ちょっと待て、ふざけんなよ。

 

『何だよラッキー。探さなくても会えたっスね! 俺っち二木っス! ちゃんと来てくれて感謝感激っスよ!』

 

その声が耳に届いた瞬間、新八の頭がフル回転し、今までの余韻をすべて振り払う。

 

「何でお前までネカマだぁぁぁ!!!」

 

思わず絶叫した。どうしてこんなことになっているのか、新八は頭を掻きむしりながら、何度も自分に問いかけた。

 

──お前はダメだろ。奇抜なアバターにするなって言ったのお前だろ。

 

二木のアバターは、まるで女子高生のような可愛らしいものだ。その姿に、新八は絶望感を覚え、もうどうしていいのか分からなくなった。

 

『ああ、何? オタクもアバターは女にするタイプなの?』

 

銀時の軽い声が耳に届くと、新八は無言で拳を握りしめる。

 

『情報収集ならコレ一択っしょ、女アバターの方が8割増で優しくなるんで』

『やっぱり? そう思う? ほら見ろ新八。間違ってんのはテメーだ』

『バカな男騙くらかして情報やらアイテムやら巻き上げんなら女一択っス。バカ共が勝手に発情して人間関係ぐちゃぐちゃになってく様なんて抱腹絶倒っスよ』

『こっち男なのに何してんだコイツらって思うと笑い止まんなくなるよな』

『まじソレっス』

『『ブハハハハ!!!』』

『うるせぇから一旦黙ってろネカマコンビ!!』

 

新八はもう、どうにでもなれといった感じで頭を抱え込んだ。予想していた以上に面倒臭い事態になってしまったことに、ただ呆れるばかりだった。

 

──そうだ、とりあえず神楽ちゃんを探さないと。

 

思い立って、すぐに周囲を見回すが、すぐには見つからない。その名前が頭に浮かんだ瞬間、いくつもの嫌な思い出が頭をよぎる。

 

──カグーラ=ジャスアント。神楽惇。

 

その名前だけで、新八は一瞬動きが止まる。心の中で、彼女とのさまざまなやり取りを思い出し、どうしても避けたかった感情が再び湧き上がる。しかし、ここで立ち止まっていては何も進まない。

 

バカ共は無視して、急いで神楽を探し始めた。だが、アバターを動かして少し進んだところで、突然誰かとぶつかってしまう。

 

「あわわ、ぶつかっちゃった」

 

慌てて振り向き、謝罪の言葉を口にした。

 

『すみません、周りをよく見てなくて』

 

すると、目の前のプレイヤーは、微笑みながら優雅に言った。

 

『構わないわ、初心者の頃は誰でも失敗をするものだから』

 

その言葉には、ただの優しさだけでなく、どこか妖艶な響きが混じっていた。

 

「ふふふ」と、そのアバターはまるで誘惑するように微笑んだ。その笑顔は、新八の目に強烈に焼きつく。

 

「うわすごい綺麗なアバターだ」

 

思わず口に出してしまったその言葉に、自分でも驚きながら目をそらすことができなかった。

 

鋭い瞳に、長いまつ毛。真っ赤な唇が、艶やかに光を受けている。その顔立ちは美しく、どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。そして、耳の先がわずかに尖っている。彼女のアバターには、非現実的な美しさが宿っているように見えた。

 

とても大きな胸に、締まった腰、長い足。そのバランスの取れた体型には、思わず目を奪われてしまう。サーモンピンクの髪が、彼女の魅力を引き立てている。そのアバターの装備も、並外れて素晴らしいものだ。新八は、すぐにこれがゲーム内での上位プレイヤーだと直感した。

 

『見惚れちゃった? 可愛い坊やね♡』

「うわやだどうしよう、引かれてないかな」

 

その言葉に、新八は顔を真っ赤にして慌ててコメントを打ち込んだ。

 

『すみません! すごい装備だなって思って見惚れちゃいました。すごいですね、どこで手に入れたんですか?』

『ふふ、この鎧は竜王の鱗で作られてるのよ。名前はパランギーナ。こっちの剣は魔王の使っていた伝説の剣、レーヴァテイン』

『すげぇ激レアボスドロップじゃん、よく手に入れたっスねそんなん』

『あら、アタシにかかれば容易いものだったわよ。愛らしいお嬢さん。何せこの、カーグラー・ドレヴァンツに敵はいないのだから』

 

その瞬間、新八は自分の心臓が止まったかのような感覚に襲われる。

 

──え、カーグラー?

 

カーグラー、かーぐらー、かーぐら、かぐら、神楽

 

その言葉を繰り返しているうちに、新八は真実に気づいてしまう。

 

「お前かよォォォ!!!」

 

新八の叫びが、虚しくも響き渡った。

 

 

 

 

 

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