銀魂小編   作:佐倉シキ

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ラストファンタジー編 6

 

 

 

 

「あれ? 本当に来たんスか? オフ会参加まではしなくて良かったのに」

 

指定されたホテル、オフ会会場として用意されたこの場所に、二木は遅れて到着した。そんな彼がドアを開けた瞬間に目に飛び込んできたのは、すでにくつろぎきった様子の万事屋の面々だった。

 

銀時、新八、そして神楽。彼らは既にテーブルを囲み、焼肉を楽しんでいた。その光景に二木は心底驚き、口元にあった火をつける前のタバコを慌ててポケットにしまう。

 

「ただで飯食えんならそりゃ来るだろ」

 

銀時は手にした箸で肉をひっくり返しながら、あっけらかんとした口調で返事をする。

 

「すいません二木さん。仕事の邪魔はしないんで」

 

新八は恐縮した様子で軽く頭を下げるが、その言葉を遮るように神楽の声が響いた。

 

「ハラミおかわり!」

 

元気よく叫びながら、既に空になった皿を掲げる神楽。その様子を見て二木はため息をつき、肩をすくめた。

 

「めちゃくちゃ寛いでるし」

 

軽くぼやきながら、二木は新八の隣に腰を下ろす。戦闘がいつ起きてもいいように、彼は真選組の隊服の上着を脱ぎ、シャツの上から着流しを羽織ってきていた。腰には刀も佩いている。座ると同時に持ち込んだ絡繰を取り出し、部屋に不審な仕掛けがないかを確認する。

 

ひとしきり調査を終えて異常がないと判断すると、二木も焼肉の皿に手を伸ばした。

 

「ニッキーべろにゴミついてるアルよ」

「ピアスっスよ」

 

軽く返しながら次に何を焼こうかと考えていたその時、不意にドアが大きく開いた。

 

「あ、もう皆さんお揃いで。すいません遅くなっちゃって。どうも、トロピカルパンチです」

 

軽快な声とともに桂が現れる。場の空気が一瞬で凍りついた。

 

静寂が支配する中、桂の堂々とした姿が妙に滑稽だった。銀時と神楽は完全に無視を決め込み、ひたすら焼肉を頬張る。一方で新八は眉間を押さえ、深くため息をつく。

 

そんな中、静かに二木が立ち上がった。

 

──カチャリ

 

「19:26。桂、逮捕」

 

冷静な声が響き渡る。二木は素早く桂の腕を取ると手錠を嵌めたのだ。

 

「んなぁッ!!! 貴様嵌めたな警察か!? おのれ卑劣な!! というか貴様らは何故ここにいる!?」

「バカだろ。お前バカだろ」

 

銀時が呆れた声を漏らす。

 

「ヅラお前革命家だろ? 恥ずかしくないアルか?」

 

神楽も冷たい視線を桂に投げかける。

 

「恥ずかしいも何もあるか! 俺はここに未来についての議論に来たのだ!」

「ヅラ、お前みたいなバカに未来はねえ」

「ヅラじゃない桂だ!」

 

二木はスマホを取り出すと、迅速に土方への連絡を入れた。

 

「いやー助かったっスよ! 桂捕まえたとなりゃ俺っちも切腹免れる! 仮にここが天大師党じゃなくてもどうにかなるっスよ!」

 

手際よく報告を終えた二木は、改めて腰を下ろす。その様子を見た新八が、不意に問いかけた。

 

「そういえば二木さん。気になってたんですけど切腹って、二木さん何かやらかしたんですか?」

「そういやそうだわ、お前何したの?」

 

銀時も肉をつまむ手を止め、興味深そうに尋ねる。神楽も視線を向けた。

二木は少し考え込むような表情を浮かべたが、やがて口を開いた。

 

「真選組局中法度第21条、敵と内通せし者、これを罰する。俺っち、裏切りを疑われてるんス」

「ええ!? そんな、何でですか!?」

 

新八が驚きの声を上げる。その反応を受け、桂が険しい表情で口を開いた。

 

「そうか、その顔見覚えがあると思ったら真選組九番隊隊長の二木二郎か」

「気付くの遅ぇだろヅラ、めちゃくちゃ特徴的なツラだろうが」

「ヅラでもツラでもない、桂だ。いやしかしそうか、合点がいったぞ。二木二郎といえば、真選組を裏切りクーデターを企てた伊東鴨太郎の弟だという噂があったな。そういうことか」

「伊東っていや、あの」

 

銀時が目を細める。過去の記憶が呼び起こされる。

 

――思い出すのは真選組の動乱だった。土方がトッシーとなり、局長の近藤が命を狙われたあの事件。伊東鴨太郎。かつて真選組を裏切り、隊を混乱の渦に陥れた男の名だ。

 

銀時の目には、ただ静かにそれらの記憶が映っていた。

 

「そうっスよ、本当なら俺も粛清されててもおかしくない。今俺が生きてるのは局長の温情のお陰っス」

 

二木は口元に浮かんだ苦笑を隠すように刀の柄を弄りながら呟いた。少し自嘲するような響きが混じっていたが、次に浮かべた笑みは明るいものだった。

 

「良い人っスよね」

 

そう言いながら、軽く肩をすくめて笑う。

 

「でも酷いアル。兄貴が悪い奴でもお前は良い奴だろ? 兄貴のせいでお前まで殺されるなんてあんまりネ」

 

神楽が頬張った肉を飲み込むと、真剣な眼差しを二木に向けた。その言葉は彼女なりの慰めだったのかもしれないが、二木は苦笑を浮かべて首を横に振る。

 

「いやいや、俺っちはそんな良い人じゃないっスよ。卑怯な蝙蝠野郎だったのは事実なんで」

「コウモリって何アルか?」

 

神楽が不思議そうに首を傾げると、桂が説明を引き受けた。

 

「何らかの争いがあった時に両方の味方の振りをする者の事だ、リーダー」

「なるほどね、そりゃ疑われるわ」

 

銀時は納得した様子で頷いた。一方で二木は目を伏せ、どこか遠くを見つめるような視線を落とした。

 

「俺は結局、兄貴か局長か選べなくてふらふら飛んでた卑怯者。これがラストチャンスなんスよ、真選組で居たいんなら誠意を見せろってね」

 

その言葉には、どこか覚悟のようなものが滲んでいた。二木は視線を上げると、テーブルの向かいに座る桂に目を向け、軽く笑みを浮かべる。

 

「桂連れてけばオールオッケーっしょ!」

 

そう言いながら桂に視線を固定した瞬間、硬質な音が響いた。

 

──ガチャリ

 

床に落ちたのは手錠だった。それを見た二木の表情が一瞬で強張る。

 

「だが残念だったな」

 

桂が自信満々の表情を浮かべて立ち上がり、手錠を外した手を掲げた。

 

「俺は捕まってはやれん」

「は!? どうやって外したんスか!?」

「ハハハ舐めるなよいつ何時手錠を掛けられても問題ないよう、手錠を外す訓練をしておいたのだ!」

「ルパンかテメェは、つーかまず捕まらないように努力しろアホ」

 

得意げに語る桂を前に、銀時が心底呆れた表情で口を開く。

 

「ではさらばだ!!」

 

桂はそう叫ぶと、懐から煙玉を取り出して地面に投げつけた。瞬く間に白い煙が辺りを覆い、視界が奪われる。その間に桂の姿は消えていた。

 

「何をしに来たんだあの人は……」

 

新八は眉間に手を当て、深くため息をついた。

 

「いいアルかニッキー? ヅラ逃げちゃったアルよ」

 

煙が徐々に晴れていく中、神楽が焼肉のタレで汚れた手を拭いながら二木に尋ねる。

 

「ま、剣で勝てるとは思えないし良いっスよ。副長には連絡したんで後は任せます」

 

二木は肩をすくめると再びスマホを取り出し、画面を弄り始めた。銀時は煙で焼肉が台無しになったと文句をこぼしている。

 

「ていうかそろそろ彼ら来る時間ですよ、大丈夫なんですか?」

 

新八が警戒した様子で周囲を見渡すと、二木はスマホから目を離さずに答えた。

 

「ああ、そっか。帰っていいっスよ。ガチで天大師党だったら危ないし」

「え!? でも」

「一応俺っち警察っスから。パンピーは巻き込めねえっスよ」

 

新八が反論しようとしたその時、廊下から足音が近づいてきた。

 

「おっと、そうだ。テメェらこれ付けとけ」

 

銀時が懐から何かを取り出すと、隣に座る神楽の額に押し付けた。

 

「銀ちゃん何アルかこれ? 取れないヨ、鼻糞アルか?」

「鼻糞じゃねえよ。これは源外の爺さん特製の──」

 

銀時の説明が途中で遮られた。ドアが開き、現れたのは祭服に仮面をつけた緑色の肌の人物だった。その背後には白いローブをまとった男たちが数人並んでいる。

 

「おいおい、こりゃあ当たり引いちまったんじゃねえの?」

 

銀時が木刀を手に取りながら軽く呟く。仮面の男は辺りを見回し、ゆっくりと口を開いた。

 

「おや? 1人足りませんが、まあいいでしょう」

「おいテメェら、とりあえずコレを」

 

銀時が動くより先に、仮面の男は手にした装置を高々と掲げた。その瞬間、二木と新八が激しい頭痛に襲われ、膝をついて苦しみ出した。

 

「新八!! 二木!!」

 

銀時は木刀を抜き、仮面の男に向かって叫んだ。

 

「私の発明はいずれ世界を変えます。貴方達にはその礎となって頂きたい」

「テメェ何しやがった!!」

 

仮面の男は不敵に笑いながら語る。それを聞いた銀時が怒りを込めて叫びながら木刀を振り下ろしたが、男の部下たちに阻まれる。

 

「昔、チップを埋め込んで人を操るという計画がありました。しかしそれは現実的ではないと諦められた。私はそれをさらに改良し、電波で人を操る絡繰を生み出したのです。これはその実験。どこまで私の思惑通りに人を動かせるか試しているのですよ」

「ふざけた事を吐かすんじゃねぇッ!」

 

銀時が叫ぶ中、仮面の男は余裕の笑みを崩さない。そして冷たく言い放った。

 

「さあ御二方、彼らを──」

 

その言葉が終わる前に、場に響いた銃声が仮面の男の言葉を遮った。

 

「ふむ?」

 

仮面の男の部下たちが血を流し、床に倒れる。銃口を向けていたのは二木だった。彼の腹からは血が流れ、足元には自らの刃物が転がっている。

 

「お前ッ!」

 

銀時が驚きの声を上げると、二木は苦しそうに笑った。

 

「こんな所で操られるなんてダセェ真似はゴメンっスよ。手を上げて武器を下ろせ! 投降しろ!」

「自ら腹を刺した事による痛みで洗脳を回避……。なるほど、洗脳中に激しい痛みが走ると失敗するのですね。洗脳後は手足が捥げようと関係なかったのですが、いいデータが取れました。ありがとうございます」

 

仮面の男が冷たく微笑む。視線を下げれば、神楽に殴り飛ばされたであろう新八の姿が目に入った。

 

「仕方ありませんね、お前達。彼らを殺しなさい」

 

その命令は冷徹で容赦がない。仮面の男の背後からゾロゾロと現れたローブの男たちが銀時たちを囲むように一歩ずつ間合いを詰めてくる。銀時は眉間に皺を寄せ、木刀を握りしめた。

 

「このホテルにいるのは全て我々天大師党の仲間です」

 

仮面の男が口元だけで微笑む。

 

「大人しくしておけば命は助かったかもしれないものを、愚かですね」

 

長い裾を翻しながら、仮面の男は優雅とも思える足取りでその場を去っていった。その背中から漂う圧倒的な自信が、彼が持つ計画の確かさを物語る。

 

「元々決起の時だったのですよ、我々は。貴方方には他の一般人の皆さんと共に陽動を起こして頂きたかったのですが、残念です」

「待てッ!!」

 

銀時が木刀を振り上げて彼の背中に向かって叫ぶが、仮面の男はその声を意に介さず、廊下の奥へと姿を消す。銀時は歯噛みしながら前へ踏み出そうとしたが、その前にローブの男たちが立ちはだかった。

 

「チッ!」

 

銀時の舌打ちと同時に、戦いが幕を開けた。木刀が振り下ろされ、神楽が鋭い拳を繰り出し、二木は正確な狙いで銃弾を浴びせる。ローブの男たちは優勢に見えたが、銀時たちの連携はそれを上回る。わずかな隙を見逃さず、数分も経たないうちに彼らを次々と地に伏せさせた。

 

「とりあえずテメェら、これ付けとけ」

 

一息ついた銀時が二木と新八に額に取り付けた小さな装置を手渡す。新八がそれをまじまじと見ながら問う。

 

「銀さん、何ですかコレ?」

「源外の爺さんに洗脳の事聞いてみてな。脳になんやかんやする奴ならコレで防げるって言ってた」

「へぇ、凄い絡繰技師っスね。会ってみたいな」

 

その言葉に銀時は焦りを隠せない。指名手配犯である源外を真選組と接触させる訳にはいかないのだ。

 

「え!? いや、それは、ちょっと、あのぉ。爺さん人見知りだから厳しいかなぁ、みたいな?」

 

しどろもどろで言い訳するが、幸い二木はそれ以上追及しなかった。銀時は内心安堵しつつ、場を仕切り直すように話題を切り替えた。

 

「それにしても、コレからどうします?」

「どうもこうもなぁ。このホテルに居るのは全部天大師党って言ってたし。奴さんらは俺達を殺すつもりだぜ? そんなら、ぶっ飛ばすしかあるめぇよ」

「洗脳なんてみみっちい事してる奴らは私達がぶっ飛ばしてやるネ!」

「いいんスか? アンタら巻き込まれただけの一般人っスよ。別に逃げても怒らねぇ。つーかむしろ、逃げんのが賢い選択だ」

 

銀時は一瞬だけ考える素振りを見せ、木刀を肩におく。

 

「殴られたら殴り返すのが俺の信条だ。ウチの者に手を出された訳だしな」

「そうアル、新八のほっぺこんなに腫れてしまって可哀想ネ! 許せないアルよ!」

「いやこれやったの神楽ちゃんだからね」

「そう言う訳で今更つれない事言うなよな。私達に任せるヨロシ!」

 

その言葉に二木は笑みを浮かべる。妙に頼もしいこの三人に任せる価値があると判断したのだ。そして思考を切り替え、今後の動きを練る。

 

(奴らが言っていた決起の時。つまり、洗脳マシーンはほぼ完成していると見て間違いない。電波で洗脳ってことは狙いは電波塔か?)

 

二木は素早くスマホを操作し、ホテル内の映像にアクセスする。そこには既にホテルの外へ向かうローブの男たちの姿が映っていた。

 

「奴らを電波塔に辿り着かせちゃダメっス! 止めねえと!」

 

そう叫びながら二木は全速力で駆け出す。銀時たちもすぐにそれに続いた。通路の曲がり角で立ち塞がる敵の姿が一瞬の判断を求めてくるが、彼らは次々と打破していく。30秒も経たないうちにホテルの入り口に到着した。

 

「万事屋さん、奴らを追いかけて下さい!」

「でもニッキー!」

「洗脳効かねぇのは俺らだけっス! 足止めは俺がやるんで追っかけて下さい! 報酬上乗せするんで!」

 

新八は二木の血がにじむ腹部に視線をやり、叫ぶように言った。

 

「でも二木さん1人でこの数は! それに、怪我してるのに!」

 

それでも二木は笑みを浮かべた。

 

「問題ないっスよ。これでも俺っち、真選組九番隊隊長なんで。男見せる時が来たって事っス」

 

その顔には覚悟がにじんでいた。銀時はその姿を一瞬だけ見つめ、短く頷く。

 

「どうか、頼みます」

「……死ぬんじゃねえぞ」

 

その言葉を残し、銀時は走り出した。新八と神楽もそれに続くが、何度か振り返りながら二木に声をかけた。

 

「報酬ちゃんと振り込んで下さいね!」

「またゲーム一緒にやるアルよ!」

 

その声に二木は微笑みながら呟いた。

 

「まだまだ死ねないぞ、頑張れ俺」

 

二丁拳銃を構え直し、目の前のローブの男たちを睨み据える。銃口が火を噴く音が、静まり返ったホテルのロビーに響き渡った。

 

 

 

 

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