銀魂小編   作:佐倉シキ

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エスパー編 上

 

 

 

 

「護衛の依頼ですか?」

 

重たい雨が滝のように降り注ぐある日のことだった。雨音が瓦屋根を叩きつけ、外の景色を白く霞ませている中、一人の男が万事屋の戸を叩いた。男は長い黒髪をきっちりとオールバックにし、後ろで一つに結んでいる。その姿はまるで一枚の絵画から抜け出てきたような威厳をたたえていた。名前を平田篤元(ひらたあつもと)というらしい。年の頃は四十前後だろうか。やや日に焼けた肌と鋭い目つきは、ただ者ではないことを物語っていた。新八はその威圧感に思わず縮み上がりながら応対する。

 

「ええ、少々困ったことになっていましてね」

 

平田が静かに語り出す。その声には重みがあり、雨音に負けない強さを持っている。「というと?」と新八が恐る恐る促すと、平田は眉間にわずかに皺を寄せながら答えた。

 

「これは私の養子に関するトラブルなのですが……」

 

養子の話を切り出した平田は、まるで何かを隠すかのように視線を一瞬落とす。彼の話によれば、その養子は占いが非常によく当たると評判になり、超能力少年として一躍話題の的になっているのだという。

 

新八はその言葉に心当たりを覚えた。最近、テレビで見かけた少年のことを思い出す。超能力を使い透視や未来予知を披露していた彼の姿がぼんやりと脳裏に浮かぶ。

 

「超能力だぁ? 胡散臭ぇな」

 

銀時が鼻をほじりながら無愛想に言い放った。そのあまりにも率直な発言に新八は慌てて咎めるが、平田は特に気を悪くした様子もなく、むしろ冷静に答えた。

 

「まあそのように思う人も少なくありませんからね。天人の到来によって技術が大きく発展した今、超能力はありえないものと考える人も少なくありません」

 

とは言えだ、結野衆や巳厘野衆等の陰陽師達を見てきた今そこまで疑わしいものではないとも思う。とはいえ、それを知らない人々からすれば信じ難いと思うのも当然のことなのだ。

そんな時、万事屋の小さなテレビから超能力に関する話題が流れ始めた。

 

「あ、これ」

 

新八の声に反応し、皆がテレビに目を向ける。画面には、神楽と歳が近そうな少年が映っていた。無邪気な笑顔と愛嬌のある仕草が印象的だ。

 

『──無邪気な笑顔と朗らかで愛想の良い性格から人気を博していた超能力少年、天狗小僧の辰吉(たつきち)くん。占いから未来予知まで、その素晴らしい力で一躍人気者に。しかし、そんな彼にインチキ疑惑が上がっています!』

「インチキ?」

『数々の星を回って占いや超能力について修行をしてきたという寅五郎氏からの指摘ですね。彼もまた素晴らしい超能力者として話題になっていますよね』

『そんな彼が辰吉くんの超能力をインチキと指摘した件についてですが』

 

銀時が口を挟むのと同時に、新八は慌ててリモコンを探し出し、テレビを消した。画面には、辰吉の能力に疑問を呈する一人の人物の姿が映っていたのだ。平田の表情が目に見えて険しくなり、低く舌打ちする音が聞こえた。

 

「あのド腐れ豚野郎が……」

 

平田の吐き捨てるような言葉が室内の空気をさらに重くする。新八は心臓が跳ねるような音を感じながら席に戻った。

 

「超能力者が超能力者をインチキって、泥試合だなこりゃ」

「証明する手段などありませんからね」

 

銀時がため息交じりに言うと、平田は短く答えた。

 

「で、何? 俺らはその辰吉くん? を守ればいいわけ?」

「ええ、そうです。インチキと思って頂いても構いません。ただ、どうか辰吉の身を守っていただきたい」

 

深々と頭を下げる平田。その姿に銀時たちは顔を見合わせた。まあ金になるならいいか、と銀時は気軽に引き受けることにした。

 

 

 

 

*  *  *

 

 

 

 

雨脚が弱まることなく続く中、銀時たちは平田の案内で彼の自宅へと向かった。辿り着いたのは立派なお屋敷だった。屋根瓦は重厚で、庭には手入れの行き届いた植木が並んでいる。その規模からして、平田が思った以上に立場のある人物であることがうかがえた。

 

「銀さん、これ……」

 

新八が呻くように呟く。その声には驚きと困惑が混じっている。

 

「報酬がっぽがっぽかもしれないアルヨ」

「こいつぁいいや、ガキのお守りするだけで滞納してた家賃払えそうだぜ」

 

と神楽も銀時も機嫌が良さそうだ。

 

「辰吉は基本的にこの屋敷にいますので、どうかよろしくお願いします」

 

平田が深々と頭を下げる。その時、不意に声変わり途中のような掠れた少年の声が響いた。

 

「本当に護衛なんてつれてきたんですか?」

 

そちらに目を向けると、微笑みながら困ったようにこちらを見つめる少年が立っていた。袴に一本下駄を履き、長い淡藤色の髪を稚児髷に結い上げた姿は、いかにも伝統的で古風だ。辰吉に違いなかった。

 

「ぼくは平気って言ったのに」

 

辰吉はどこか拗ねたような表情を浮かべながら、ゆるりとした調子でつぶやいた。掠れた声にはまだ幼さが残るが、その言葉にはどこか達観した響きもある。

 

「そう言う訳にも行かない。辰吉、事が終わるまでなるべく屋敷から出るなよ」

 

平田は、低く重々しい声で命じた。言葉に逆らう隙を与えない威圧感があり、辰吉は困ったように眉を下げながらも、素直に頷いた。

 

「はぁ〜い」

 

それだけ返すと、平田は雨の音に溶け込むような足取りで屋敷の奥へと去っていった。

 

取り残された辰吉は一つ息を吐き、濡れた縁側に立ったまま振り返る。その仕草はあまりにも自然で、大人びた風格すら感じさせた。新八は少し緊張しながらも、これから一緒に過ごすであろう少年に向き直り、努めて明るく話しかけた。

 

「ええと、辰吉くんだよね? 僕たち三人、護衛で雇われたから、少しの間だけどよろしくね」

 

新八のぎこちない挨拶に、辰吉は穏やかな笑みを浮かべながら、きちんと頭を下げた。その仕草は年齢にそぐわないほど礼儀正しく、どこか洗練されている。

 

「はい、よろしくお願いします。志村新八さん」

「えっ? あれ? 僕、名乗ったっけ?」

 

新八が驚いて首をかしげると、辰吉は微笑みながら答える。その声は雨音に溶け込むような柔らかさを持っていた。

 

「奥にいるのが坂田銀時さんと神楽さんですよね。面倒事に巻き込んでしまって申し訳ないです」

 

名乗る間もなく名前を当てられた新八は目を丸くし、すぐさま銀時の方を振り返った。

 

「凄いですよこの子!」

 

興奮気味に話しかける新八に対し、銀時は鼻を鳴らしながら一蹴する。

 

「そんなもん、あらかじめ調べときゃいくらでも分かるだろ」

 

あまりにも投げやりな返答に、新八は呆気に取られながらも、辰吉に再び視線を戻す。

 

「とりあえず中に入りましょうか。いつまでもお客人を雨に濡らしている訳には行きませんから」

 

辰吉は微笑を保ったまま静かに言い、三人を先導して屋敷の中へ招き入れた。

 

屋敷の中は雨の湿気をほとんど感じさせない清潔さだった。広々とした和の空間は見事に整頓されており、正面には巨大なテレビが一つだけ、静かに鎮座している。床は磨き上げられた木材が光を反射し、掛け軸や陶器の壺がその空間をさらに引き締めていた。

 

銀時は遠慮なくどかりと胡座をかき、大きなテレビの前に腰を落ち着けた。そして当たり前のようにリモコンを手に取り、スイッチを入れる。

 

「ちょっと銀さん! 僕たち護衛として来てるんですよ。わかってます?」

 

新八が鋭く声を上げるが、銀時は気だるそうに手を振りながら返事をした。

 

「分かってる分かってる」

 

その言葉はあまりにもおざなりで、新八の怒りはさらに募るが、銀時は気にも留めずチャンネルを変え続ける。画面に競馬中継が映し出されると、「またギャンブルか……」と新八は呆れたようにため息をついた。

 

その様子を眺めていた神楽がふと辰吉に目を向けた。

 

「そういやオマエ、超能力できるアルよな? 何ができるアルか?」

 

彼女の問いかけに、辰吉は柔らかく頷きながら答える。

 

「何がと言われましても、結構いろいろできますよ?」

「さっき僕らの名前当てたのもそれですか? 超能力って、一体どうしてそんなもの使えるんです?」

 

新八が興味津々で尋ねると、辰吉は少しだけ困ったように笑った。

 

「そうですね、ぼくが天狗小僧と呼ばれているのはご存知ですか?」

 

その問いに、新八たちは頷いた。確かに辰吉の装いは天狗を意識したものだが、それはただの演出に過ぎないらしい。辰吉はひと呼吸置いてから、過去について語り始めた。

 

「ぼく、捨て子なんです。三歳くらいの時に森に捨てられたんですが、そこで出会った不思議な老人に育ててもらいました。彼に連れられて奇妙な世界へと辿り着いたぼくは、十二歳までそこで育てられたんです。この世界とは異なる文化のもと、たくさんの修行を積みました。書法、武術、神道、祈祷、呪い、医学、占法などなど。それでまあ、一応免許皆伝みたいな感じで、十四歳でこっちの世界に戻ってきたんです」

「免許皆伝? 天狗の術に免許とかあるんですか?」

「そうですね、ぼくゴールド免許ですよ。すごいでしょう、無事故無違反です!」

「ゴールドって何!? 天狗の免許ってそんな運転免許みたいな感じなの!?」

 

新八が驚愕する中、辰吉は肩を揺らして笑う。

 

「ええ。ぼくの師匠は以前飛行中に朱雀と事故っちゃって、なんか保険入ってなかったとかで慰謝料やばかったみたいですよ」

「生々しいよ!! 天狗とか言うファンタジー案件なのに何か生々しいよ!!!」

「とまあ、そんな事は置いておきましょう。免許皆伝で戻ってきた後は帰る場所も行く所もなくて途方に暮れていたんですけど、そこを平田様に拾ってもらったんです。ぼくの話に興味があるとかで、ありがたい事ですね」

 

辰吉は話を締めくくるように湯呑みを手に取り、静かにお茶を啜った。その一連の動作があまりにも自然で、新八は思わず用意されていた煎餅を眺めながら、自分たちがどこか異次元に迷い込んだような気分を味わっていた。

 

「と、そういう設定ね。はいはい了解」

 

ばりばりと煎餅を噛み砕きながら銀時が何でもないことのように言うと、辰吉の表情が一瞬険しくなった。

 

「ちょっと銀さん!」

 

新八がたしなめるように声を上げるも、辰吉は小さく息をついて落ち着いた様子で口を開く。

 

「別に構いませんよ。疑われるのもバカにされるのも当然ですから、いちいち怒っていてはキリがありません」

 

彼の冷静な物言いには、どこか達観した響きがあった。その落ち着きぶりに新八は感心しながらも、やはりどこか腑に落ちない表情を浮かべる。

 

一方で神楽は興味津々の様子で辰吉に身を乗り出した。

 

「何かすごい事できないアルか? 私見てみたいヨ」

 

神楽の無邪気な言葉に、辰吉は少し考え込むように目線を落とすと、やがて銀時に視線を向けた。そして自然体のまま歩み寄り、静かな声で話しかける。

 

「ついてきてくれませんか?」

 

不意に声をかけられた銀時は煎餅のカスを払いながら立ち上がり、面倒そうに肩をすくめた。

 

「何だよ。変なことさせんじゃねぇぞ」

 

そう呟きつつも、辰吉の後をついて屋敷の庭へと出る。外では雨がようやく止み、庭の木々がしっとりと濡れて光を反射していた。辰吉は銀時を庭の中央あたりに立たせると、じっと彼の位置を観察し始める。

 

「あと2センチ、いや、3センチ左です」

 

そう言いながら何度も微調整を繰り返し、銀時を絶妙な位置に立たせた。その様子を見ていた新八と神楽は、不思議そうに顔を見合わせる。

 

「何? 何なの?」

 

銀時は眉間にしわを寄せて振り返るが、辰吉は満足げな表情を浮かべながら一歩下がり、言葉を続けた。

 

「あと5秒です。4、3、2……」

 

辰吉のカウントが「1」に到達した瞬間、庭に湿った音が響いた。

 

べちゃり。

 

「おお!」

 

神楽が声を上げる一方で、銀時の頭には何かがべっとりと乗っかっていた。その匂いと感触から正体を察した瞬間、銀時の表情が凍りつく。

 

「鳶の糞です」

「やるアルなオマエ!」

「何くだらないことに超能力使ってんだよ……」

 

辰吉の冷静な声が事態を説明する中、神楽は拍手をしながらはしゃぎ回った。新八は呆れたように目を細め、深いため息をついた。一方、銀時は震える手で自分の頭を触り、べっとりとしたそれの感触を再確認する。途端に怒りの声を上げた。

 

「オイィィィィィ!! 何してくれてんだクソガキ!! よりによってテメッ、鳶って……ウンコでか! 一々怒ってたらキリが無いとか言っといてお前、実はめちゃくちゃ怒ってるし根に持ってるだろ!!」

「いえいえ、まさかそんな」

 

辰吉は馬鹿にしたように口元を緩めて笑う。その様子に銀時の怒りはさらに燃え上がった。

 

「何笑ってんだテメェ人の頭にウンコぶっかけといて!!」

「ぼくのせいじゃないですよ〜、鳶のせいです。ぼくは超能力を持っていると言う設定なだけなので、どこに落ちるか知ってたとかそういうのは全然……」

「どんだけ根に持ってんだよ、どこが朗らかで愛想の良い少年!?」

「あと2歩後ろです」

「冗談じゃねぇ! 誰がその手にハマるか!」

 

銀時は声を張り上げると、前方に体を動かした。しかしその瞬間、今度は肩にべちゃりと何かが落ちてきた。

 

「今度はカラスですか。鳥さんとのスカ○ロプレイが趣味とは、マニアックですね」

「ウッゼーよこの子!! 全然無邪気じゃねえよ! 邪気しか感じられねぇよ!!」

 

銀時は怒り狂いながら屋敷に戻り、タオルを手に取ると必死に汚れを拭き取る。しかし拭き取るたびに「取れねぇ!」と嘆き声を上げていた。

 

その間にテレビでは競馬の中継が映し出されていた。銀時はタオルを放り投げ、画面に釘付けになる。

 

「一番人気の馬を軸に3連複のフォーメーションですか。それとワイドボックス。安パイですね」

 

突然辰吉がテレビを見つめながらさらりと言った。

 

「え? 何の話ですか?」

 

新八が眉をひそめると、辰吉は続けた。

 

「彼の買った馬券です。ですが残念。一番人気は開始早々落馬しますし、このレースを勝つのは単勝16番人気の大穴です」

 

その瞬間、銀時は驚愕の表情で振り返る。ゲートが開いた途端、一頭の馬が躓き、ジョッキーが落馬した。

 

「あ、本当に落ちたアル」

「ギャァァ!! 何やってんだジャスタウェイ!!」

「ジャスタウェイはランナウェイでゴーアウェイです」

「うるせぇ韻踏むんじゃねぇ! 腹立つんだよ!!」

 

辰吉が怒る銀時を尻目に「15、6、10、8、2、7 、12、18、1、11、2、4、13、14、3、5、16、17。9は競走中止ですね」と呟く。淡々と告げる横で、馬たちは次々に彼の予言通りの順番でゴールしていく。それを目の当たりにした新八は口をぽかんと開けたまま動けなくなっていた。

 

「ちなみに次のメインレースですが……10、1、7です」

 

その言葉を聞いた瞬間、銀時は残像を残して消えた。

 

「まずいアル! 金に目が眩んだ銀ちゃんの速さはマッハ20を超えるアル!」

「殺○せークラスの速さだ!」

 

そう騒ぐ新八と神楽の横で、数分後、大量の汗を流しながら銀時が震える手で帰ってきた。そして辰吉の前に跪く。

 

「何なりと御命令を、マイロード。御身は命に変えても、この若輩が守らせて頂きます。素晴らしい能力、感服致しました」

 

その姿は臣下そのもので、新八と神楽は呆れ顔で銀時を見つめていた。

 

「さっきまで疑ってたヤツがものすごい勢いで媚び売ってるアル」

「本当に分かりやすい大人だな……」

 

辰吉は微笑みながら茶を一口啜り、言葉少なに応じた。

 

「へへ、旦那ぁ。肩凝ってやせんか? 揉みますぜ」

 

銀時は辰吉の後ろに控え、これでもかと媚びへつらう様子で手を擦り合わせた。その態度のあまりの低さに、新八がため息交じりに呟く。

 

「下手に出るっていうか、最早レベルの低いチンピラなんですけど、プライドとかないんですかあの人」

「金の前にプライドは無力アル」

 

神楽が冷ややかにそう言いながらも、ふと何かを思いついたように銀時の元へ歩み寄った。そして目を輝かせながら問いかける。

 

「いくら当てたアルか?」

 

銀時は周囲を警戒するように左右を見回した後、神楽の耳元で小声で何かを囁いた。瞬間、神楽の表情がぱっと明るくなり、勢いよく辰吉の前に跪いた。

 

「よろしくお願いするアル、マイロード」

 

その姿は銀時とまるで同じ態度であり、あまりの露骨さに新八は叫んだ。

 

「お前もかいぃぃぃ!! さっきと同じ流れじゃねえか、何をしてんだテメェらはぁぁ!!!」

「新八ィ、辰吉様の前で大声出すんじゃねえよ。無礼だぞ」

「さっきまで一番無礼だったヤツが何を言ってんだ!! 何様付けしてんだ!! 何でそんな態度取れんだ!!」

 

新八の叫びにも関わらず、銀時と神楽は全く意に介さない様子でひたすら辰吉に媚びを売り続ける。そのぐだぐだとした空気が場を支配し始めたころ、不意に「ふふふふ」という笑い声が響いた。

 

「ちょっと! 勝手に入られたら困ります!」

 

慌てたような平田の声が縁側から聞こえ、その声に釣られるように四人は同時にそちらを振り向いた。

 

そこには、でっぷりと肥えた男が立っていた。彼の後ろには、4人の男女が控えている。彼らは揃って冷ややかな視線を送りながらゆっくりと歩を進めてくる。

 

寅五郎(とらごろう)さん……」

 

辰吉が眉をひそめ、苦々しい口調でその名を呟く。その名前に新八たちの記憶が呼び起こされた。確か、彼は辰吉の超能力を「インチキだ」と断じた男だったはずだ。

 

「またそんなインチキ超能力で気持ち悪い信者を増やしてるの? 辰吉くん」

 

寅五郎は声を張り上げ、いやらしい笑みを浮かべて言葉を投げかけた。それに対し、辰吉は顔色一つ変えず冷たく言い返す。

 

「何の御用ですか? デブ五郎さん」

「誰がデブだぁッ!!」

 

激昂した寅五郎だったが、すぐにゴホンと咳払いをして取り繕うと、再び冷笑を浮かべて彼らを見下した。

 

「そろそろインチキ超能力者の君に引導を渡してあげようと思ってね」

「おい!」

 

平田が怒りに駆られて掴みかかろうとしたが、寅五郎の後ろに控える男に突き飛ばされ、無様に尻餅をついてしまう。新八が慌てて駆け寄り、平田を助け起こした。

 

「平田さん、あの人達は一体……」

「超能力者、寅五郎。数多の星を巡り能力を身につけたと語る男です。後ろの連中は彼が集めた素晴らしい能力者だとか。『我らこそが本物で辰吉は偽物だ』と主張する厄介な連中ですよ。最近は嫌がらせまでしてくるようになって、彼らの金儲けのためには辰吉が邪魔なんでしょう」

 

平田は地面に唾を吐き捨て、不快感をあらわにした。

 

「占いだの、陰陽師だの、天狗だの。この国には偽物が多すぎる。時代遅れなんですよ、どいつもこいつも。だから私が、この江戸に本物のエスパーというものを見せてやるのです」

「そんな事、いちいちぼくに言いに来たんですか?好きにしたらいいですよ」

 

辰吉の冷淡な返答に、寅五郎は再び冷笑を浮かべた。そして懐から書状を取り出すと、辰吉の足元へ投げつけた。

 

「ですが、民衆はもっと愉快なものを見たがっている。どちらが本物で、どちらが偽物か。白黒付けることをね。勝負しましょう辰吉くん。今度エスパー特集のテレビ特番があるので、そこでケリをつけましょう」

 

そう言い放つと、寅五郎は身を翻し去っていく。

 

「もちろん、怖ければ来なくても大丈夫ですよ。君のような可愛らしい少年であれば皆許してくれるでしょう」

 

最後に皮肉たっぷりの言葉を残し、寅五郎の高笑いが庭に響いた。その音が消えると同時に、平田が「塩撒いてやる!」と叫びながらキッチンへ駆けていった。

 

辰吉は縁側に腰を下ろし、渡された書状を開いて中を確認し始める。その様子を見守っていた銀時が興味を示し、尋ねた。

 

「なんて書いてあんだよ」

 

辰吉は淡々とした口調で内容を要約する。

 

「“このままでは決着がつかない。故に分かりやすく勝負をしよう。もちろん危険な勝負となるから命の危険もあるだろう。怖いのなら逃げ帰っても構わない”と書かれていますね」

 

辰吉の落ち着いた声に反して、場には緊張感が漂い始めていた。

 

「今日の夜七時、大江戸テレビにて“スーパーエスパーバトル”ですか」

 

辰吉が書状を読み上げる声は、どこか諦観を帯びていた。その口調とは裏腹に、新八は顔を青ざめながら叫んだ。

 

「何ソレ、スーパーエスパーバトルって?」

「5対5の超能力バトル、そんなにぼくを晒者にしたいんでしょうか」

 

辰吉の呟きに、新八は慌てて指を振り回して反論する。

 

「5対5って、こっちは辰吉くんしかいないのに! 卑怯ですよ、こんなの!」

 

その言葉に、神楽が冷ややかな視線を辰吉へ向けた。

 

「でも、あの調子だともうテレビ局に辰吉は来るって話してそうアルヨ」

 

そう指摘されると、辰吉は小さく頷いた。書状を懐に仕舞いながら立ち上がると、一本下駄が床板を打つ硬い音がカタリと響く。

 

「1人でも行く気かよ。どう考えてもワナだぜ」

 

銀時が面倒くさそうに呟きながら辰吉を引き止める。だが、辰吉は振り返らず、静かに言葉を続けた。

 

「ぼく1人で大丈夫ですよ。なんせゴールド免許なので」

 

不意に、彼の口元に皮肉げな笑みが浮かぶ。だが、それもすぐに消え、真剣な表情で語り始めた。

 

「……それに、これはぼくの責任なんです。みんなが喜んでくれるのが嬉しくて、能力をひけらかしました。師匠は“見せびらかしちゃダメ”って言ってたのにです。だからこれは、ぼくが招いた災禍なんです」

 

新八が「そんなことない!」と声を上げようとするよりも早く、辰吉は柔らかな微笑みを浮かべた。

 

「決着をつけてきます。どんな形であれ、それであの男は満足するでしょう」

 

辰吉の声には覚悟が宿っており、誰もそれ以上止めることはできなかった。

 

「もう嫌なんです。ぼくがインチキだの偽物だの言われるだけなら構いません。しかし、平田様までもが叩かれる。それはとても嫌だ」

 

その言葉を紡ぐ辰吉の瞳は、静かでありながら燃えるような決意を秘めていた。

 

「嫌がらせは少しずつ過激になっていく。このままいけば、やがて屋敷に火を放たれるでしょう」

 

彼の言葉に、新八は小さく息を呑んだ。その視線が辰吉に向けられる。

 

「平田様は素晴らしい医者で、素晴らしい学者で、そして……素晴らしい、ぼくの父です」

 

辰吉は一呼吸置いて、さらに言葉を続けた。

 

「だからぼくが守ります。あの方がぼくを守ろうとしてくれたように、今度はぼくが守るのです」

 

力強く、しかし静かにそう言い切ると、辰吉は縁側から庭へ飛び出した。その身のこなしは軽やかで、跳ねるように去っていく。その背中を見送りながら、銀時が髪をぽりぽりとかきむしる。

 

「だってよ、大層な孝行息子じゃねえか」

 

銀時のぼやきに、いつの間にか戻ってきていた平田はそっと涙を拭い、歩き出した。

 

「本当に、勿体無いくらい出来た息子ですよ」

 

その背を追いかけるようにして、新八が声を掛ける。

 

「平田さん……」

「息子が父を思うのと同じく、父も息子を思うものです。私は辰吉を助けにいきます」

「危ないって言ってたアルヨ!」

 

神楽の忠告にも、平田は全く聞く耳を持たず、毅然とした足取りで歩み続けた。

 

「関係ありませんよ。それでも私は行くのです」

 

その言葉に、銀時が肩をすくめて続いた。

 

「坂田さん?」

「もうギャラ貰っちゃってるからな。あのガキの護衛が俺らの仕事だ」

 

銀時が悠然と答えるのを聞き、平田は苦笑いを浮かべる。

 

「そこまでして頂くほど払っていませんよ」

「それなら問題ねぇ」

 

銀時は懐から何かを取り出し、それをひらひらと見せつけた。それは、先ほどの当たり馬券の払い戻しだった。

 

「さっき追加の報酬もらったからな」

 

銀時はにやりと笑って言い放つ。

 

「ガキが根性見せてんだ、大人が頑張らねえでどうするよ」

 

そう言い切ると、銀時は先頭に立って歩き出した。その背中を見つめていた神楽と新八も、ついに覚悟を決め、2人も銀時の後を追って走り出した。その後ろ姿が、次第に夜の闇に溶け込んでいった。

 

 

 

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