銀魂小編   作:佐倉シキ

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エスパー編 中

 

 

 

『テレビスペシャル!! スーパーエスパーバトル!!』

 

司会者の張り上げた声が、広大な会場に高らかに響き渡った。煌びやかなセットに取り囲まれたステージの中央で、ライトが激しく踊り、観客たちの興奮を煽る。観覧席には所狭しと見物客が押し寄せ、熱気と喧噪が空間を支配している。

 

辰吉は一本下駄を鳴らしながら、静かに舞台の中央へと歩み出た。カラカラという音がざわめきの中で鋭く響き渡る。その瞬間、観客席から歓声が上がった。だが、歓声の中には明らかな罵声も混ざっている。

 

「インチキ野郎!」

「見せ物にされるのがお似合いだ!」

 

そんな言葉が飛び交う中でも、辰吉の顔に動揺は見られない。彼にとって、そんな声は取るに足らないものだった。

 

対して、彼の視線の先には5人の対戦相手が揃い踏みしていた。その中心には寅五郎が勝ち誇った笑みを浮かべながら仁王立ちしている。彼の背後には見るからに個性的な面々が並んでいた。若々しく陽気そうな青年、桃色の肌が目立つ妖艶な女、小柄で尖った耳を持つ老人、そして、筋骨隆々でツノの生えた巨漢の男。中には天人と思われる者も混ざっており、その異様な存在感が一層の圧を生んでいた。

 

寅五郎は余裕たっぷりの笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「おやおや、辰吉くん? この試合は5対5ですよ。他の4人はどうしたんですか?」

 

その挑発に、辰吉は「1人で問題ありません」と啖呵を切ろうとした。だが、その瞬間、背後の扉が大きな音を立てて開いた。

 

「お待たせしましたぁ!」

 

軽薄な声が響くと同時に、会場の全員が一斉に振り返る。そこには、銀時が気怠そうな表情を浮かべながら立っていた。

 

「チーム辰吉、参上仕りましたぁ~」

 

銀時が堂々と宣言しながら歩み寄ると、辰吉の隣に立ち、気軽に彼の肩を叩いた。

 

「よろしく、大将」

 

その言葉に辰吉は驚きの表情を浮かべた。

 

「皆さん、何故ここに?」

「水臭ぇぜ、大将。俺らはお前の護衛だぜ?」

 

銀時が薄ら笑いを浮かべながら言うと、新八と神楽、そして平田が次々と辰吉の前に並んだ。

 

「辰吉、お前1人では行かせないよ」

 

新八が真剣な眼差しで言えば、平田も静かながら力強い声で答える。

 

「父ちゃんって呼んでやれよ。父親として、お前を助けにきてんだからさ」

 

その言葉に辰吉は一瞬戸惑ったように見えたが、すぐに小さく頷き、感謝の言葉を口にした。

 

「……父上、皆さん。ありがとうございます」

 

その表情には、決意を新たにした凛々しさが滲んでいた。辰吉は再び敵チームに向き直り、寅五郎を見据える。

 

寅五郎は相変わらずのいやらしい笑みを浮かべ、辰吉たちを露骨に見下した。

 

「それが君のチームですか? 何も出来なそうな貧相なチームですね。貴方にお似合いで」

 

その嘲笑に、銀時が鼻で笑いながら言い返した。

 

「うるせぇぞ、豚。お前から見たら全人類貧相だろうが」

「そうだぞコノヤロー! なめんなヨ! お前をボンレスハムにすんのに10秒もかからないからな!」

「豚じゃねーしハムでもねーよ!」

 

寅五郎が顔を真っ赤にして怒鳴ると、周囲に咳払いを響かせながら気を取り直し、自分のチームを振り返った。彼の態度は、自分の仲間こそが超能力者として圧倒的に優れているという自信に満ちていた。

 

その時、会場に銅鑼の音が響き渡る。

 

『ええ~、両チームお揃いのところでルールを説明させていただきます!』

 

司会者が意気揚々と声を張り上げる。

 

『さて、このスーパーエスパーバトルでは、どちらがより優れたエスパーであるか、プライドを賭けたバトルをしていただきます! 皆さんの能力を最大限生かして試練をクリアしてください! 課題は5つです。本物のエスパーであれば心技体揃って当然!』

 

観客が沸き立つ中、司会者は次々と説明を続けた。

 

『1人につき1つの試練に挑戦していただきます! 1人で2つというのはなしですので、己の得意分野を誤らないようお気をつけて! 種目は借り物競走、クイズ、パン食い競争、チャンバラ、大将戦です。大将戦に関してはその時のお楽しみとさせていただきます!』

 

盛り上がる観客を背に、司会者が締めくくる。

 

『では両チームとも控室へ行って作戦を考えてください! 10分後に再集合です!』

 

辰吉たちは指示に従い、スタジオの裏を抜け、階段を下りながら控室へと向かう。その途中、新八が口を開いた。

 

「5競技とも僕らでも何とか出来そうでしたね。案外何とかなるかも」

「向こうのチーム、運動できそうなの3人しかいなかったアルよ」

「こりゃ案外楽勝かもしれねぇな」

 

銀時が鼻をほじりながら気楽な声を出す。

 

「客がいっぱいのテレビデビューネ! きっと視聴者も沢山いるアル! 姉御に電話しなきゃ!」

「ギャラどんくらい出んだろ」

「大したことないですよ。1人5000円です」

「そんなもんか」

 

軽口を叩き合う中、新八はふと平田の様子が静かであることに気付いた。

 

「どうかしましたか?」

 

平田はどこか険しい表情を浮かべていた。

 

「いや、エスパーバトルと言うくらいだ。そんなに簡単なものではないのではないかと思ってね」

 

不安げに答える平田の声は硬かった。だが、彼は無理に微笑みながら言葉を続けようとした。

 

「……頑張らねばならないね」

 

だがその直後、平田の足が階段の縁を踏み外した。

 

 

ドゴッ──

 

 

鈍い音が響き渡る。平田は頭から床に倒れ込み、そのまま微動だにしなかった。嫌な沈黙が、その場にいる全員を包み込んだ。

 

 

「え? あの、うそ……え? やだこれ、うそこれ」

 

新八の声は震え、額には見るからに汗が浮かんでいる。信じられないといった様子で平田を見下ろすその顔には、動揺がありありと表れていた。

 

「お父さぁぁぁぁぁん!!!」

 

銀時が叫ぶと同時に、地面に伏した平田へ駆け寄る。その足音だけがやけに響き、空気は重苦しい沈黙に包まれる。しかし、銀時が平田を揺り起こそうとするも、彼は白目を剥いたまま失神していた。

 

「なんてこった……忘れてました。平田様はこう見えてあがり症。シャイだからテレビ放送にメンタルが耐えられなかったんだ」

「もっと早く言いなさいよ!」

 

辰吉の何気ない一言が場の緊張感に油を注ぎ、新八が勢いよく声を荒らげた。

 

無情にも1人が脱落した現実を前に、4人は頭を抱えた。この試合は5対5。しかも競技ではなく、完全に別の理由で脱落者が出るという想定外の展開に、誰もが一瞬黙り込む。しかし、思考はすぐに次の一手へと移る。

 

「とりあえずお父さん隠さねえと」

「そうですね」

 

銀時が冷静に言うと、辰吉も同意するように頷いた。そうして2人はあっさりと平田を抱き上げ、近くにあった大きなゴミ箱へと突っ込んだ。

 

「何してんだテメェらは!! 切り替え早すぎんだろ!!!」

 

新八の激しいツッコミもどこ吹く風。銀時は無表情でさらりと答えた。

 

「問題ない、奴は四天王の中でも最弱」

「どちらにせよ、この戦いにはついてこれなかったのです」

 

辰吉が真面目な顔で続けるその様子に、ツッコミどころしかない光景が広がる。そんな中、神楽が困惑しながら言葉を投げかけた。

 

「でもとりあえず5人いなきゃダメアル。あと1人どうしよ」

「そうだな」

 

銀時が軽く呟きながら木刀を抜き、それを何のためらいもなく天井に向かって放り投げた。その突然の行動に、新八は「まさか」と嫌な予感を抱く。そして、その予感は見事に的中した。

 

ドサッ───

 

鈍い音とともに、天井から人影が落ちてきた。

 

「よし、これで5人だ」

 

銀時はそう言って木刀を肩におく。

 

「ストーカー、お前は今日だけ辰吉パパだ」

 

床に転がっていた眼鏡を拾い上げたその人物は、呆れたように「何ソレ」と呟いた。落ちてきたのは猿飛あやめ。銀時のストーカーであり、元御庭番衆の忍びだ。現在はフリーの始末屋として活動しているが、その異常な執着心は銀時を辟易させていた。

 

「急に呼び出したと思ったらいきなりパパになれ? そんなの全然意味分からないじゃない。しかも二次創作のショートストーリー集なんて永遠に出番ないと思って諦めてたところだったのに、こんな、突然こんなに激しく求められるなんて……」

「激しく求めてねぇよ。苦渋の決断だ」

 

銀時が冷たく突き放すも、猿飛は一向に気にする様子はない。それどころか、彼女の表情はますます高揚していった。

 

「ずっと影から見守ることしかできないと思っていたのに、いきなりテレビデビューにパパデビュー、こんなのって、こんなのって……興奮するじゃないのォォォ!! いいわ!! いくらでもこき使うがいいじゃない!! いくらでも辱めるがいいわよォォォ!!」

 

一人で悶え狂う猿飛を、冷ややかな目で見つめる新八。いつも通りの光景だ。そうして、新たに猿飛を仲間に加えた一行は控室に向かい、作戦を練る。そして10分後、準備を整えた彼らはスタジオへと戻っていった。

 

 

 

*  *  *

 

 

 

『さぁ両チーム、スタジオに揃いました!』

 

司会者が力強く叫ぶ。舞台に整列した両チームはそれぞれ個性的な装いをしていた。寅五郎チームは黒いスーツにサングラスと統一された格好。一方、辰吉のチームは用意されていた山伏装束に身を包んでいる。しかし、その中で一際異彩を放っていたのは猿飛だ。彼女だけが平田に似せたつもりなのか、黒いウィッグを被って髪型を寄せていたが、顔は猿飛のままであり、誰が見ても完全に別人である。

 

「いや、なんか1人知らない人いるんだけど」

 

寅五郎が訝しげに眉を潜める。

 

『おやぁ、これは辰吉チーム、1人様子がおかしいぞ』

 

司会者のコメントに、銀時が目を細めながら静かに言い返す。

 

「は? どこが様子おかしいって言うんだよ。言い掛かりはやめてくんない?」

「いやどう見てもおかしいだろ! 性別も年齢も掠ってすらいないじゃん! 誰それ!?」

「私は平田篤元以外の誰でもないわよ。辰吉くんのパパの。ちなみにママは銀さん」

「誰がママだ。ぶっ殺すぞ雌豚」

「隠す気一切ねえだろテメーら!」

 

寅五郎の苛立ちを含んだ声が響くが、銀時は全く動じる様子を見せない。

 

「うるせぇなごちゃごちゃと。もう良いって、しつこいって。誰もそういうリアクション求めてねぇから。展開がタカティンと丸被りだから流せよめんどくせぇ」

「なんつー態度してんだテメェ!!」

 

寅五郎が声を荒らげるが、司会はそれを無視して進行を続けることにした。

 

『ええ~、とりあえず第一種目ですが、借り物競走となります! では両チーム代表、前へ!!』

 

「いってこい新八」

「気合入れるアルヨ」

 

2人に背中を押されるようにして、新八はゆっくりと前に出た。対する寅五郎チームからは、筋肉質な巨漢が進み出てくる。その身体は薄緑色の肌に覆われ、額には鋭いツノが生えている。一見して力強さを誇るその相手に、新八は内心の動揺を抑えながら深呼吸を繰り返した。

 

(タイマンは勝てなそうだけど……借り物競走であれば勝機はある、はず!)

 

自分に言い聞かせるように、そう心を定める。静寂の中、第一種目が始まろうとしていた。

 

『志村新八選手VS阿賀野(あかの)選手! では、よーいドン!!』

 

司会者の掛け声とともに、新八は全力で走り出した。隣を走る阿賀野もまた、鋭い眼光を浮かべながらスタートダッシュを切る。2人のスピードはほぼ互角で、会場内の空気が熱を帯び始める。勢いよく50メートルを駆け抜けた新八は、前方に置かれた鉄の箱に目を留めた。

 

「これか!」

 

足を止めた彼は、目標物に向かって突進するように歩み寄る。その重量感のある箱を力任せに持ち上げ、すぐさま開けようと試みた。しかし……。

 

「……あれ?」

 

何度やっても蓋が開かない。金属音を立てながらかちゃかちゃと弄ってみるが、手応えはゼロだ。額にじっとり汗が滲み始める中、背後から迫る重たい足音が聞こえた。振り返ると、阿賀野が猛然と箱の元へ到着する。

 

『これは超能力対決! 当たり前ですが、ただの借り物競走ではありません。選手の方はその箱の中身を透視してお題の品を手に入れてください!』

 

司会者の説明に、新八の顔が引き攣った。

 

──なっ!?

 

その瞬間、彼の脳裏には無理という言葉が鮮明に浮かんだ。超能力なんて使えない、そんなの誰がどう見たって無茶振りだろうと、心の中で激しくツッコむ。焦りに駆られ、反射的に振り返って仲間たちに助けを求めるよう視線を送った。

 

「新八ィ、お前はやればできる子だ」

「頑張れヨ~」

「グッとやってガッと見るんですよ~」

「何の為の眼鏡よ、根性見せなさい」

 

銀時、神楽、辰吉、猿飛。誰もが無責任極まりない応援を飛ばしてくる。

 

──使えねぇ!!

 

新八はすぐに彼らを見限った。自分ごとだと思っていないせいで、好き勝手言いやがる。そもそも眼鏡関係ないし。それでも再び箱に目を戻し、ひっくり返したり目を細めたりしてみるが、当然中身は見えるはずもない。

 

「そうだ、隣の人はどうしてるんだ……?」

 

一縷の希望を抱き、阿賀野の様子を伺う。すると、彼は無言で箱をじっと持ち上げていた。

 

──まさか、見えているのか?

 

一瞬、そんな可能性が脳裏をよぎる。しかし、次の瞬間、新八は愕然とすることになる。阿賀野は何の躊躇もなく箱を両手で掴み──

 

「うおおおおおっ!!」

 

叫び声を上げながら、力任せに引きちぎったのだ。鉄の箱がバラバラになり、破片があたりに飛び散る。

 

「え、エスパー関係ねぇじゃねえか!!!」

 

新八が咄嗟にツッコむ。対する寅五郎は勝ち誇ったように大笑いを響かせた。

 

「ウチの阿賀野は夜兎と荼吉尼のハーフでね、とんでもなく怪力なんだよ。すごいんだよ」

「なんだと。言っとくけどな、ウチの神楽なんか純血の夜兎だからな。宇宙最強の星海坊主の娘だからな。しかもウチの家の隣なんか屁怒絽とかいう荼吉尼のバケモンが」

「おいどうでもいい事自慢しあってんじゃねぇ!! こっちなんとかしないと!」

 

新八が怒鳴り声を上げたその時、辰吉がギリギリ近くまでやってきて、観客席から箱の中を覗き込んだ。

 

「……忘れられない、一夜の過ちを犯してしまった人」

「どんなお題だ!? どういう意味だ!?」

 

新八が慌てて声を上げるが、神楽が急かす。

 

「言ってる場合じゃないネ新八! 早く忘れられない一夜の過ちを犯してしまった人を探すアル!」

「幸いにも観客は沢山いるわ! 誰か! 忘れられない一夜の過ちを犯してしまった人はいませんか!」

「一夜限りじゃなくても構わねえ! 過ちを犯した人!」

「おいやめろ! 絵面が酷ぇ! つーか名乗り出る訳ないでしょう!!」

 

新八の制止も聞かず、銀時たちは観客へ必死に声をかけ続ける。そんな中、辰吉が観客席に向かって一直線に歩き出した。そして迷いなく1人の女性の手を掴み、強引に連れてくる。

 

「いました! 忘れられない一夜の過ちを犯してしまった人です!」

「マジか! アンタ忘れられない一夜の過ちを犯してしまった人なのか!?」

「オイィィ! やめろっつってんだろ!?」

 

新八の必死の制止を無視して辰吉は自信満々に言い放つ。

 

「ええ、間違いありません! この人、姉妹でおんなじ人に惚れてしまったみたいです。しかもその人は親友の彼氏だったんですけど、諦めきれずに寝取ってしまって……。それなのに職場で口説いてきた年下の上司からの誘惑を断りきれずに一夜の過ちを犯しています! そして驚くべき事にその上司は親友の弟みたいです!」

「なんてこった! 間違いねぇ! 完璧な忘れられない一夜の過ちを犯してしまった人だ!」

「ドロドロじゃない貴女! 完璧だわ、完璧な忘れられない一夜の過ちを犯してしまった人よ」

「昼ドラアル! リアル昼ドラアル!」

「だからやめろっつってんだろ!? なんつうこと口走ってんだテメェらは! 公開処刑じゃねえか!!」

 

女性はうつむき、一言も発することができない。とんでもない放送事故である。全国に彼女の人間関係が晒されてしまった。しかし、そんなことをしている間に阿賀野はゴールに向かって走っていた。持っているのは赤い帽子。こっちとあっちの難易度の差がおかしいだろと思いながら慌てて走り出す。

 

「そんなんじゃ間に合わないアル、歯ァ食いしばれ新八ィ」

 

神楽の声が、新八の耳に届く。その不穏な響きに彼は困惑し、思わず振り返った。

 

「へ?」

 

次の瞬間、神楽は構えた傘を大きく振り上げた。

 

「ほあちゃぁッ!!!」

 

掛け声と共に、神楽の傘が新八にフルスイングで直撃。その一撃を受けた新八は、弾丸のように宙を舞った。

 

「うわああああぁぁぁぁ!!!」

 

絶叫が夜空に響き渡る中、新八の体は一直線に50メートルを突き抜けた。観客の視線が一斉に彼の飛行を追う。そんな中、阿賀野がゴールへ向かおうと走っていたが、突然後方から突進してきた新八に巻き込まれた。

 

二人は絡み合いながらゴールテープを切る形となったが、新八はそのまま地面に叩きつけられ、動かなくなる。彼は完全にダウンしていた。

 

会場は一瞬静まり返り、その後大きなどよめきが起こった。阿賀野も派手に転び、手にしていた赤い帽子を取り落としてしまっている。

 

『ええ、両者共にお題の品を持ってこられなかったため、失格となります!』

 

司会者の冷静な声が会場内に響き渡った。

 

『続いて第二試合はクイズです! さあ両チーム代表者前へ!』

 

さて、少しして新八が意識を取り戻した時には、次の試合の準備が進んでいた。辰吉チームからは猿飛が出場し、寅五郎チームからは桃色の肌をしたスタイルの良い女性、エロイーズがゆっくりと歩み出る。

 

「ふん、学者の平田であれば警戒したが、あのような小娘であれば問題ないな」

 

寅五郎は鼻で笑いながら言葉を続けた。

 

「ウチのエロイーズは知力を持って発展してきた一族の娘だ。透視もできる。負ける理由がない」

 

その言葉を聞き、銀時が眉をひそめながら反論する。

 

「は? エロい? 言っとくけどな、あの雌豚もスゲェど変態だからな。変態、ストーカー、マゾ。最悪の事故物件だ。多少エロいくらいで簡単に勝てると思うなよ」

「だから何の争いしてんだよ!? みっともないからやめろって言ってんだろ!!」

 

新八が怒声をあげてツッコむが、二人はどこ吹く風。

 

『ええ、平田篤元選手VSエロイーズ選手! では、回答してください!』

 

司会者の掛け声に、猿飛とエロイーズがそれぞれ前を向いた。

 

「は? 問題は!?」

 

新八が疑問を口にした瞬間、ハッと気づく。これは前の借り物競争と同じく、超能力を使って問題を読み取る形式なのだと。

 

「辰吉くん! 問題は!?」

 

慌てた新八が辰吉に声をかけると、辰吉は冷静に答えた。

 

「マリオロス銀河に所属する赤い海が有名な星の名前は? ヒントは独特の突起を持ったエイリアン、ティルティロが生息している国」

「し、知らねぇ! 聞いたこともありませんよそんなの!」

 

新八が顔を青ざめさせる横で、寅五郎は高らかに笑う。

 

「ふははは! この勝負貰ったな。この程度のことエロイーズが分からないはずもない!! さあ答えろエロイーズ!!」

 

だが、エロイーズは答えない。それどころか頬を赤らめ、もじもじと挙動不審な様子を見せていた。その異変に気づいた寅五郎の部下が、彼の耳元で何事か囁く。すると寅五郎は一瞬驚愕の表情を浮かべ、次に苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

「なるほど、確かにそうだ」

「あん?」

「このクイズの正解はウィラマーチオ。下ネタみたいな国名ランキング常に上位の国だ。ああ見えてピュアなアイツがそんな言葉を叫べる訳もない」

「はッ! なるほど、この勝負貰ったな! アイツにそんな恥じらいはねぇ!」

 

何とか答えを猿飛に伝えられれば勝ちであるがリスキー過ぎる。しくじればただの下ネタを叫ぶ人でしかないからだ。

 

「辰吉、お前テレパシーとかで伝えられねえの?」

「相手次第ですけど、やってみますね」

 

そうやって彼等が作戦を実行に移している時、猿飛は深く悩んでいた。

 

──そんなこと知る訳ないじゃない。

 

腕を組み考えているふりをしているが実際のところは何も思いついていない。隣の女の様子を見て推察しようと思ったが彼女もまた何も答えない。

チラリともう一度様子を見る。顔を赤らめモジモジとしている様はまるで初夜の乙女だ。

ここから推測してみる事にしよう。つまりこのクイズの答えは顔を赤らめるようなもの。顔を赤らめるようなものといえば恥ずかしいもの、恥ずかしいものといえば……。

 

──下ネタか。

 

猿飛はそう当たりをつける。

しかし下ネタと言えども回答は腐るほどある。クイズになるようなものといえば何だろうか。〇〇〇〇や△△△△△△△なんかは直球すぎてないかもしれない。いやしかし、わからない。

 

……下ネタ、下ネタか。

 

そう悩んでいる時、突然天啓が舞い降りてきた。

 

(……きこえますか…猿飛さん……今、あなたの心に…直接… 呼びかけています……)

 

──天の声だ!?

 

間違いない、天啓である。

猿飛が驚愕して空を見上げる。その声が続く。

 

(…ウィラマーチオ。答えは…ウィラマーチオです……)

 

その言葉を聞いた瞬間、猿飛は全力でボタンを押した。

あまりの勢いにボタンは砕け散る。

 

そして叫ぶ、

 

「イラ〇〇オォォォ!!!」

 

放送できないほどのド下ネタを。

 

叫び声が会場に轟く。場の空気は瞬時に凍りついた。敵味方全員が白目を剥き、沈黙が支配する。猿飛もようやく己の失態に気づき、照れ隠しに“あ、いっけね⭐︎”とでも言うように頭をコツンと叩く。

 

ブッブー、と不正解の音が響いた。

 

エロイーズはその場で倒れ込み、会場内には一層重苦しい静けさが漂った。

 

 

「な、何を言ってんだテメーはぁぁぁぁ!」

『ええ、失格! 失格です!! 放送禁止用語を叫んだ平田選手も、失神したエロイーズ選手も失格です!』

 

会場全体がどよめきに包まれる中、トボトボとした様子で猿飛が戻ってきた。その肩はひどく落ち込み、まるで大雨に打たれた犬のようだった。

 

銀時が呆れ果てた顔で猿飛の頭を軽く叩いた。

 

「恥じらいがねぇにも程があんだろお前は。何口走ってんだバカタレ」

「頭にウィラマーチオって単語が浮かんだ瞬間イラ〇〇オみたいだなって思って、気がついたらそっちを口走っていたわ」

 

猿飛は反省している様子もなく、頭をかきながら平然と答える。その軽率な態度に銀時はさらに呆れ、深々とため息をついた。

 

「新八もさっちゃんも失格アル。後は私達3人が何とかするしかないアルな」

「フリじゃないからなお前、しっかりやってこい」

「おう、任せるヨロシ」

 

神楽は肩を回し、気合を入れるように大きく伸びをした。やる気に満ちたその姿にチームの面々は期待半分、不安半分のまなざしを向ける。

 

彼女は会場中央に設置されたスタートラインに立っていた。向かい側には小柄な老人が現れ、静かにスタンバイする。

 

『さあ、第3種目はパン食い競争! 今度こそ白黒つけてくれぇ! 両チーム代表者前へ!』

 

観客たちの歓声が上がる中、神楽と老人。象暝と呼ばれる男がそれぞれのスタート位置に立つ。

 

『神楽選手VS象暝(しょうめい)選手! では、よーい、ドン!!』

 

合図とともに神楽は弾丸のごとく飛び出した。爆発的なスタートダッシュで一気に距離を稼ぎ、瞬く間に象暝を置き去りにする。

 

「おお、すごい!」

「これはやったんじゃないか?」

 

仲間たちは歓声を上げ、期待に胸を膨らませる。しかし、すぐに状況は予想外の展開を迎えることとなる。

 

神楽は50メートルをあっという間に走り切り、パンがぶら下がるゴール地点に到着した。そして、ぶら下がったパンを見上げた瞬間、顔をしかめた。

 

「って、これは……」

 

神楽の目の前には、無数のパンがぶら下がっていた。ざっと見積もって100個ほど。それぞれ微妙に形が違い、同じものは一つとしてない。

 

『さあこのパン食い競争! 100個の中に正解が一つだけあります! その正解のパンには鍵が入っています! しかしそれ以外の99個は激辛あんぱんとなっていますのでご注意を! 先に鍵を持ってきた方が勝利です!』

 

アナウンスが響き渡ると同時に、観客席からもどよめきが起こる。

 

「ふふふ、100個の中に1つ。今度こそ私たちの勝ちだな」

 

寅五郎が自信満々に笑みを浮かべる。その隣で、新八が呆れたように肩をすくめた。

 

「もういいってこの流れ」

 

寅五郎は意に介さず自分たちの戦略を語り続ける。

 

「象暝は非常に嗅覚の優れた天人だ。アフリカゾウよりも遥かに優れた嗅覚を使えばパンの中にある小さな鉄の匂いを探し出すことすら容易い」

「なめんなよ、優れた鼻なんか無くてもウチの神楽にかかりゃ一瞬で鍵を見つけ出せるんだよ」

「なんだと」

「みてな」

 

神楽はパンを見定めると猛烈な勢いで食べ始める。その勢いはまるで全てを食らいつくさんばかりだ。

 

「圧倒的な“飢え”の前では激辛なんて無意味なんだよ。その程度じゃハズレにはならねぇ」

「カッコつけてるとこ悪いですけど、めちゃくちゃカッコ悪いですからね、飢えって」

 

『なんとこれは凄い! 神楽選手、激辛をものともせず物凄い勢いであんぱんを喰らい尽くしていく!!』

 

「飢えた神楽は通常の30倍のスピードで全てを食い尽くすぞ」

「凄いわ、シ〇アの10倍じゃない!」

 

言ってる側から神楽は半分以上を食べ尽くしていた。そこでようやく象暝はパンの元へと辿り着く。象暝が匂いで鉄を探している間にもどんどん神楽はあんぱんを食べていき、やがて残り一つになった。そこでようやく彼らは異変に気がつく。

 

「あれ? 神楽ちゃん、これ…あの」

「これ多分……」

「やっちゃったわね」

 

新八と辰吉が青ざめた顔で顔を見合わせる。すでに神楽は最後のパンも平らげた後だった。

 

「……鍵は?」

 

神楽も全てを食べ尽くしたところでようやく思い出した。鍵を探していたんだったと。己の手をじっと見つめた後、腹を摩る。

 

「……鍵、食べちゃったアル」

「何してんだお前ぇぇぇぇぇ!!!」

『おおっとこれは何と言う事だ神楽選手、鍵を探す事をすっかり忘れて鍵ごと全てを平らげてしまったぞ!!』

「吐けぇぇぇ!! 神楽テメッ、吐けぇ!!!」

 

神楽は指を口に突っ込みえずき始める。バカやめろと寅五郎が騒ぐがお構いなしだ。辰吉と寅五郎のそばに立つ男は展開を察してハンカチで口元を押さえる。そこに至ってようやく象暝は鍵を見つけ出した。あんぱんを掴み、千切り、中から鍵を引っ張り出す。そして駆け出そうとした瞬間、

 

「おえっ、ぅ゛ッ……う゛ぉ゛ぇッ」

 

神楽が吐いた。

 

吐瀉物は津波のように会場に広がり全てを飲み込んでいく。その匂いに耐えきれず象暝は失神した。

 

「あれ? 鍵どこだろ?」

 

神楽は何事もなかったかのように口元を拭うと吐瀉物の中から鍵を探す。当たり前だが見つけられない。

 

『ええ、う゛、え〜……お゛ぇ゛…。失格! 失格です! 神楽選手は鍵を紛失! うぅ゛、象暝選手は失神。よって第3試合も無効となります!』

 

司会者が泣きそうな声で宣言を終えると、後ろを向いて大きく嘔吐した。貰いゲロだ。こうして3試合目も決着がつかず、すべての勝敗がラスト2試合に持ち越されることとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

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