青空の下、長閑な一日の幕開けだった。
澄み渡る空には雲ひとつなく、太陽の光が万事屋の窓から差し込んでいた。大気は温かく、鳥の囀りが耳をくすぐる。街は穏やかで、喧騒は遠く、平和そのものと言える日だった。
そんな平和な一日の中、万事屋の一室ではまるでその空気とは正反対の光景が繰り広げられていた。
「はい、という訳でウダウダぐだぐだとやって参りましょうという事でね」
畳に座った銀時がどこか投げやりな調子で語り始める。彼の手にはよく見るジャンプがあり、読むでもなく軽く叩きながら話している。
「銀さんすいません、誰に話してるんですか?」
突っ込みを入れるのはいつもの新八だった。彼は机を挟んで銀時と向き合いながら、眼鏡越しに呆れた視線を送る。
「誰にってお前アレだよ、読者に対してだよ」
銀時は軽い調子で言い放ち、新八をさらに困惑させた。
「居るかどうかも分からない読者にこれからの話をする予定アル」
神楽が酢昆布を齧りながら、面倒臭そうに口を挟む。その言葉に銀時は一瞬目を見開き、傷ついた表情を作ってみせた。
「居るかどうかも分からないって、そんな切ない事言わないでよ神楽ちゃん」
しかし神楽は鼻で笑うと、さらに酢昆布を齧るだけだった。
「まあアレだよ。これからのストーリー展開をどうして行こうかって俺らで話し合って決めようって事だ」
「ストーリー展開って、あらすじに書いてあるじゃないですか。僕達万事屋が新しい出会いを重ねていくって」
新八が真面目に返すが、それを聞いた銀時の顔には明らかな不満が浮かんでいた。
「ばっかオメ、それの何処に読者が惹かれるって言うんだよ。俺が言いたいのはアレだ、折角二次創作なんだから俺好みのめちゃくちゃスケベなヒロインとか出して良いんじゃないのって事」
「銀ちゃんスケベなんて今時オジサンしか言わないアルヨ」
神楽があっさりと銀時の発言を切り捨てる。その瞬間、銀時の顔が凍りついた。
「え!? マジで!? 言わないの!?」
「ていうか銀さん、ヒロインなんて欲張りですよ」
新八が冷静に言い放つ。
「そうアル。私という美少女ヒロインがいながらまだ上を望むアルか? 強欲は身を滅ぼすヨ」
神楽が当然のように言い放つが、それを聞いた銀時はすかさず反撃に出た。
「お前のどこが美少女だゲロイン」
その言葉が終わる前に、神楽の鋭い拳が銀時の顔面に炸裂した。鈍い音が響き、銀時の顔は一瞬で赤く染まり、両方の鼻の穴から血がダラダラと流れ始める。
「本編を見ても銀さんの周り綺麗な女の人多いじゃないですか。
新八がため息交じりに続けると、銀時は急に慌てた様子を見せる。
「綺麗な女の人って何? お前アイツらの事そういう目で見てたの?」
「嫌アル気持ち悪いネ。しばらく私に話しかけないで」
「うるさいよ! 誰もお前の事なんてそんな目で見てないから!」
必死に否定する新八だったが、今度は彼に神楽の拳が再び炸裂した。結果として新八の鼻からも血が流れ始めることとなる。万事屋の部屋には、二人がティッシュを鼻に詰める滑稽な光景が広がった。
「少なくても5人はそういう人挙げられますよ、僕。月詠さん、さっちゃんさん、たまさん、九兵衛さん、すごく嫌だけど姉上だってそう。他にも鉄子さんとか、火消しの辰巳さんとかもいるし」
「おい私を忘れるなヨ、私もヒロインだからな」
神楽が鼻息荒く主張するが、銀時は冷たく言い放つ。
「アーノルド酒乱ツェネ子、雌豚、ロボット、ストーカー、ゴリラ。どこにヒロインがいるっていうんだ。俺ぁな、もっとこう……お淑やかで嫋やかな……やっぱ結野アナかな……。うん、これからこの作品は銀結で行こう。」
「何が銀結だ! 言っとくけどそれpixivで4件しか無いからなッ! いい加減現実を見ろ天然パーマッ!!」
「なんだと!? 天然パーマ舐めんなッ! 俺が今から銀結広めてやるからな! 数話以内に結野アナとゴールインしてやるからなッ!!」
「私を忘れんなって言ってんだろーがッ!! ヒロインは私だぁッ!!」
「お前をヒロインとして認めたら俺が犯罪者みたいだろうが!! 大人しくお前は沖神しとけッ!! 検索したらめちゃくちゃ出てくるからな!」
「ふざけんなぁ!! “嫌よ嫌よも”って、嫌なもんは嫌に決まってんだろーがッ!!」
「ちょっと、喧嘩はやめて下さいよ! 最初の話はどこに行ったんですか?」
「黙ってろ万年童貞カップリング0!」
「黙るアル不人気メガネ!」
「上等だテメェら!! そこに直れ!! メガネの恐ろしさ思い知らせてやる! 僕がいなかったら銀魂終わってるからなッ!!」
そんな騒ぎの中、突如扉が開き、柔らかな女性の声が室内に響いた。
「あらあら何ですか? また喧嘩ですか?」
振り向いた新八の顔がパッと明るくなる。
「姉上!」
嬉しそうに声を上げた新八に、お妙は首を傾げながら事情を尋ねる。新八たちは慌てて先程の会話の経緯を説明し始めたのだった。
「まあ、これからのストーリー展開ですか」
お妙は小首を傾げながら語りかける。
「あれ? ヒロイン関連のやり取り丸々無かった事にしてませんか?」
「私がこんなまるでダメな男と付き合うなんて万に一つもありえないわ新ちゃん。反吐が出ます」
「そんな強めに否定する?」
銀時がやや半目になってお妙に反論する。死んだ目がさらに死に腐っていた。
「……それにしても、そうね。ストーリー展開。そういう事ならもっと早くに私に相談してくれれば良かったのに」
お妙がそう話し始めると、新八はその言葉に希望を見出したのか、勢いよく身を乗り出した。
「姉上! 何かいい案でもあるんですか?」
「当然よ、何せ私は原作銀魂の1話から登場しているのだから」
お妙は堂々とした態度で言い放つ。その言葉を聞いた神楽が、袋から酢昆布を取り出しつつ、やや怪訝そうな声を漏らした。
「あれ? さり気にマウント取られた気がするアル」
お妙は微笑みながら神楽に向かって言った。
「気のせいよ神楽ちゃん」
わざとらしく咳払いをすると、お妙は人差し指をピンと立てて皆の注意を引きつける。彼女の瞳にはどこか計算高い輝きが宿り、その場の空気を掌握しようという気概が感じられた。
「いいみんな、こういう時はまず分析をするの。二次創作で人気なジャンルは何なのかって。傾向を見れば分かるわ。そう、ずばり“可哀想は可愛い”よ」
お妙の声はどこか自信に満ちており、銀時も新八も思わず真剣な表情になる。だが彼女が続けた言葉は、やはりどこか軽妙だった。
「結局みんな闇落ちとかそういう可哀想な奴が大好きなの。こんな辛い過去があってこうなって、今はこんな感じに苦しんでて、あの子はこんな悲しい気持ちになってます……こういうジャンルが人気なのよね」
新八がそれに同意するかのように頷いた。
「確かにサ○ケしかりマ○キーしかり、闇堕ちは昔から人気ジャンルですよね」
しかし神楽は不満げな顔で眉をひそめると、勢いよく口を開いた。
「けっ、可哀想って同情すれば満足アルか? ウジウジと鬱陶しい奴らネ」
「本当だよ、何が獣の呻きだ。厨二病はもうオワコンなんだよ」
「2人とも、何らかの恨みが漏れてるよ」
お妙はそんな3人を見渡しながら、にこりと笑みを浮かべた。その目はどこか楽しげでありながらも、含みのあるものだった。
「ふふ、神楽ちゃんのお兄さんや銀さんのお友達は美味しい立場ね」
新八は驚きの表情を浮かべてお妙に向き直った。
「姉上!? 高杉さんや神威さんの事そんな目で見てたんですか!!?」
新八の問いかけをさらりとかわすように、お妙は話を続けた。
「話をストーリー展開に戻しましょう。つまりそういう可哀想なキャラを登場させればいいのよ。誰かいないの? そういう人」
彼女の問いかけに、万事屋の面々は考え込む。銀時は何かを思い出したように「あっ!」と声を上げたものの、すぐに首を振って否定した。その様子を見て、神楽が訝しげに尋ねる。
「何でダメアルか?」
「アイツはなぁ、おっぱいが大きすぎてシリアスにはなれない」
「誰アルかぁ!? その女はぁ!? どこで出会ったアルか!!」
如何わしいところで出会ったと疑った神楽が再び銀時に殴りかかった。
「しょうがないわね、みんなに心当たりがないのなら私が提出するわ」
お妙が話を切り出すと、新八は困惑した表情で尋ねた。
「あれ? 姉上、そんな知り合いいましたっけ?」
お妙の表情はどこか遠い記憶を辿るように変化していく。彼女の目にはわずかに懐かしさと、そして痛みが宿っていた。
「あれは、今から6年くらい前の事よ」
「おい、何か語り出したぞ」
お妙の語りが始まると、銀時が小声で呟いた。
お妙はそれに応じることなく黙って座り直す。部屋にはいつもの喧騒とは異なる、どこか緊張感の漂う静けさが訪れた。
志村家の道場は、時代の波に取り残されるように寂れ果てていた。門下生たちが次第に去り、物置のようになりかけた道場に足を運ぶ者はほとんどいない。だが、その中に唯一、明るく快活な少年がいた。
少年は晴れた日に道場へ顔を出し、黙々と稽古に励むかと思えば、時には冗談を飛ばし、沈みがちだったお妙たちの気持ちを持ち前の笑顔で照らしてくれた。その純粋さと明るさはまるで日差しそのもののようで、志村家の荒れ果てた庭にも、ほんの少し春の息吹が戻ったように感じられた。
しかし、そんな静かな日常も長くは続かなかった。ある日、志村家に降りかかったのは幕府からの理不尽な命令だった。父がその命令を断固として拒否したことをきっかけに、志村家は村八分にされ、生活は一変した。
それまでにも苦しいことはあった。それでも家族の絆を頼りに乗り越えてきたお妙たちだったが、今回ばかりは違った。周囲の冷たい視線や陰口、絶え間なく降りかかる非難の声が、志村家の人々の心を次第に蝕んでいった。お妙自身も、日に日に追い詰められ、気持ちは暗く沈んでいった。そして、ついに耐えきれなくなった彼女は、父親に対して思わず酷い言葉を浴びせてしまったのだった。
その後、お妙と新八は家を飛び出し、気まずいまま少年の家に身を寄せることになった。彼らの心は荒れ、謝るべきだと思いながらも、戻る勇気を持てずにいた。少年にその話を打ち明けたとき、彼はいつもの笑顔を浮かべて言ったのだ。
「じゃあ俺が代わりに謝ってきてあげる」
その言葉に、お妙たちは甘えた。その優しさが、どこか救いに思えたのだ。だが今になって思えば、それがすべての間違いだったのだと気づく。
少年が出かけてからというもの、お妙と新八の胸には得体の知れない不安が渦巻いていた。なんとなく落ち着かず、そわそわとしていた二人は、結局彼を追いかけることにした。一緒に謝れば良いじゃない……その思いが背中を押した。
薄暗い夕闇の中、道場へとたどり着いた二人が目にしたのは、血の臭いが充満する悲劇の現場だった。返り血を浴びた少年の姿と、その足元に沈む血の海。そして、その中心で動かなくなった両親の姿が──。
最初は理解が追いつかなかった。目の前の光景が現実であることを認めたくなかった。しかし、時間が経つにつれ、その残酷な現実が彼らを否応なく飲み込んでいく。
「どうして父上を殺したのよッ!!?」
お妙の口から出た言葉は、激情に任せた叫びだった。それが間違いだと理解していた。少年がそんなことをするはずがないと信じていた。だが、どうしようもない感情の奔流が、理性を打ち砕いていたのだ。
少年の顔には深い傷が刻まれていた。それはお妙の言葉によって作られた傷だった。彼は何も言わなかった。ただ、お妙の視線を正面から受け止め、そのまま静かに去っていった。それが最後だった。以来、と妙と少年が再び会うことはなかった。
話を終えたお妙は、微かに震える声で言葉を締めくくる。
「思い出すだけで胸が張り裂けそうだわ……彼に会って謝りたいッ」
「彼って誰の事ですか姉上!? 知らねえぞそんな奴!! 知らねえぞこんな出来事!!」
「おい、存在しない幼馴染を生やしてまで自分の出番を増やそうとしてんぞコイツ! 図々しい奴だ! ヒロインどころか主役の座まで取ろうとしてやがる」
「時代はオリジナル主人公×妙よ」
「ねーよ! そんな時代! こさせねーよ!!」
新八が鋭く突っ込むと、神楽がそれに続いた。
「狡いよ姉御!! そんなら私にだって居るアル! もう1人くらい闇堕ちした兄貴だか姉貴だかが」
「きょうだいを気楽に生やすな!」
「そうよ神楽ちゃん、闇堕ちは一家に1人だと美味しいけど2人以上いると諄いのよ、鬱陶しいだけなのよ」
「一家に一台みたいに言うんじゃねーよ!!」
「ま、とにかくよ。これからは闇堕ちした彼と悲しみに落ちる私とのラブストーリーで行くから。貴方達は影からなんか良い感じに雰囲気を演出しなさい」
「だから誰なんだよ闇堕ちした彼って! 認められる訳ねえだろうが!」
「そうです。認められません、認められませんよお妙さん」
喧騒が最高潮に達したその瞬間、不意にどこからともなく重々しい声が響いた。
突然現れた男が彼等の会話に加わったのだ。自分がここに居ることは何らおかしなことではないと言わんばかりの雰囲気に一瞬「ん?」とは思いつつ皆がそちらに視線を向ける。そしてその人物を視認した瞬間お妙の表情は修羅の如く険しくなった。
「ポッと出の登場人物との恋愛って、それの何が面白いって言うんですか。浅い、浅いんですよ恋に落ちるまでの理由が。原作キャラを侮辱しています! すーぐ小さな事で恋情とか執着を向けられるキャラとか作っちゃうけどさぁ、それの何が面白いって言うんですか。やっぱり世の中は──」
「何をグダグダ語ってやがんだゴリラぁぁッ! テメェはどっから湧いて出たッ!!!」
お妙の情け容赦のない右ストレートが近藤の顔面に炸裂し、彼は襖を破って吹き飛んだ。
銀時が呆れたように呟く。
「浅い浅いって、お前がお妙に惚れた理由も浅いだろゴリラ。キャバ嬢の慰めの言葉を真に受けやがって」
「シャーラップ! キッカケが何であろうと俺のは純愛だ!」
「キッカケが何でもいいならお妙のも別にいいだろ」
「ダメ! 絶対ダメ! お妙さん!! 俺は認めませんかね!」
「黙れよストーカー」
「つーか闇堕ちした彼って誰なんだよ。名前なんて言うんだよ?」
「…え? 名前? 名前、そうね。名前……加藤茶ノ助よ」
「嘘ついてんじゃねーぞ! 明らかに今考えただろうが!」
「馬鹿言わないで、志村と加藤は銀魂が始まる前からずっと名コンビなのよ。カトちゃんケンちゃんはレジェンドなの」
「カトちゃんケンちゃんはテメェらと何の関係もねえだろうが!!」
「まあまあそう興奮しなさんな」
「チッ、今度は何だ」
部屋の襖が音を立てて開いた。そこに現れたのは、真選組の沖田総悟だった。甘いマスクと不敵な笑みを浮かべながら、彼は万事屋の中心にゆっくりと歩み寄ってくる。その後ろには鬼の副長と恐れられる土方十四郎の姿が続き、さらに山崎や原田といった真選組の隊士たちもゾロゾロと連れ立っていた。
「近藤さんがBSSされるとか、姐さんが知らん男とラブストーリーを展開するとか、オリキャラが姐さんルートに入るとか、下らない話をしてるみたいですがね」
「全部同じだろソレ」
部屋に入るなりそう話し出した沖田に銀時がソファーに寝転がったまま呆れたように返す。
「一つ、大きな問題がある事に気づいていない様子でさぁ」
「あ? 問題? 何だよソレ」
沖田の言葉に反応して、銀時が顔を上げる。沖田はふと視線を窓の外に向け、軽く溜息をついた。
「今までの4つのエピソードを思い返してみて下せぇ」
その一言に、銀時は頭の中で記憶を掘り返す。松下村塾の木坂玄瑞、真選組の二木二郎、反社の国定治、天狗小僧の辰吉。どれもこれも少しクセのある人物たちだった。だが、共通点などあるようには思えない。銀時は首を傾げながら沖田を見た。
「気づきやせんか? 木坂は久坂、二木さんは三木三郎、反社のアマは侠客国定、エスパーのガキは天狗小僧の寅吉。全部史実にモデルがいるんですよ」
「とんでもないメタ発言しだしたよこの人。やめなさいって」
新八が呆れ顔でツッコミを入れると、沖田は口角を軽く上げた。
「だから何だって言うんだよ」
銀時がなおも問い詰めると、沖田は目を細めて不敵な笑みを浮かべた。
「どうやら馬鹿にゃ最後まで説明してやんなきゃならねぇらしいな」
「あんだとニコチン中毒、出番がないからってここぞとばかりに喋り出しやがって」
「黙っとけ天然パーマ」
土方が鋭い目で銀時を一瞥しながらタバコを取り出す。火をつけると、深く吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出した。その仕草にはどこか威圧感すら感じられる。
「史実にモデルがいる奴だけを出すっつールールがもう出来てんだよ。そこの女の幼馴染とかチャイナ娘の兄貴姉貴だのっつった完全オリジナルのキャラはNGって事だ」
「なんだと!? 別にいいだろうが私にもう1人闇堕ちした家族がいたって!」
神楽がムッとした顔で土方に反論するが、土方は表情を崩さない。沖田は神楽を煽るように話し出す。
「分かってねぇなチャイナ、闇堕ちの需要を。同じ家族に闇堕ち二人目なんていらねぇんだよ。需要があんのはテメェじゃねぇ」
「これ今何の話してるんですかね」
新八は呆れた顔で神楽から沖田に視線を移す。この会話に一体何の意味があるのかと疑問に思っていたが、沖田は微笑を浮かべて新八を軽く無視する。
「ああ、そういえば俺には、いや……正確には沖田総司には二人の姉貴がいるんでさぁ。ミツバの姉上が登場したとはいえ、もう一人は原作未登場。と言うわけで闇堕ち兄弟の座は俺がもらいやす。俺には需要があんでしょ」
「結局テメェも出番が欲しいだけじゃねえか!!」
銀時が怒鳴りながら机を叩く。
「え? 一家に一台闇堕ちキャラって話じゃないんですかい?」
「誰がいつそんな話をしたよ。つーか闇堕ち闇堕ちってな! しつこいんだよ! 作品に1人なら面白いかもしれないけどな、2人以上登場すると面白さより“え? また?”みたいな気持ちが勝つんだよ! ウチにはうちはも佐野家も轟家もいねぇんだよ! 闇に堕ちれば何でもかんでも美味しくなると思ってんなら勘違いだからなソレ!? 大抵の読者は胃もたれしてるよ、食傷気味だよ!!」
銀時が一気にまくし立てると、沖田は人差し指をあげて語る。
「じゃがりこはいつ食っても美味いのと似たようなもんでしょ。人気ジャンルはいつ見ても面白いってね」
「じゃがりこと闇堕ちを同列に語るんじゃねーよ!」
「
「上手い事言ってんじゃねーよ腹立つなッ!! ぶっ飛ばすぞクソガキッ!!」
銀時が拳を振り上げた瞬間、沖田を押しのけて土方が前に出た。その手には一枚の紙が握られている。そして、無言で机の上に置いた。その紙には【真選組小編】と書かれていた。
「何アルかコレ? 果し状?」
「ちょっと!? タイトル乗っ取ってるじゃないですかこれ!!」
驚いたように新八が声を上げる。その叫びに対して土方は悠然と腕を組み、ふんぞり返った態度で答える。
「さっきも言った通りだ。この作品が史実に登場する人物をモデルとしている以上、主役は俺ら真選組が貰う」
その言葉は明らかに挑発的であり、銀時の怒りをさらに煽るのは明白だった。
「はぁ? 出来ると思ってんのかテメェ?」
銀時が鼻を鳴らしながら、紙をビリビリに破き捨てる。
「出来るも何も布石は既に打ってあるんだよ。ラストファンタジー編2話、スレッドを100回読み直してこい」
土方は余裕たっぷりにタバコをくわえながらそう言い放つ。
「どこを読み直せってんだよV字ヤニカス」
「そこじゃねえよ! 26番のところだ」
土方の指摘に、銀時が一瞬目を細めた。その背中に何かを悟ったかのような重い空気が漂う。
「分からないか万事屋。このスレッドでは真選組の一番隊から十番隊までの全ての隊長の性格が軽く書かれてるんだ。なんなら、それ以外の連中の事もな」
土方が静かに言うと、銀時の目がわずかに見開かれた。
「そう、登場の伏線は既に張ってあったんだ」
土方の声には勝利を確信する響きがあった。その声を聞き、銀時は眉を寄せて考え込むような表情を見せる。
「……あの男、テメーらの回しものだったか」
銀時が吐き捨てるように言う。その言葉には憤りと焦りが交じり合っていた。土方は笑みを浮かべながら、さらに言葉を重ねた。
「これからは原作に登場しなかった真選組のキャラクターのエピソードを書いていくって事だ。二木二郎は既に出たとはいえ隊長は他にもまだ4人残ってる。何よりソレ以外の伏兵もいる。この作品は俺達真選組が主役と言っても過言ではないと言う訳だ!」
銀時は頭を抱え、しばらく沈黙した。だが、やがてその口元が歪み、くぐもった笑い声を漏らし始める。
「ククク……伏線を引いておいた? 馬鹿め、俺がその程度の事をしていないとでも思ったか?」
鋭い目付きで真選組を見据えた銀時が静かに続ける。
「天人ハザードの2話、高杉のセリフを読み返して貰おうか」
その言葉に近藤が狼狽える。
「ま、まさかッ!?」
「高杉と木坂、稔麿と八一。史実で松下村塾にいた奴らだ。分かるか? テメェらに新撰組があるように、俺には松下村塾がある」
「自分の過去を最低な使い方しだしたよこの人」
その言葉を聞き、土方が声を荒げる。
「あの時の高杉はテメェの回し者だった訳か万事屋!」
銀時はにやりと笑いながら答える。
「ハッ、当然だろ。テメェらカス共が主役の座を取りにくる事なんてお見通しなんだよ」
「嘘ついたこの人。負けたくないあまり平気で嘘ついたよこの人」
銀時と土方は互いに立ち上がり、顔が触れそうなほどの距離で睨み合う。
「だから何だって言うんだ万事屋。松下村塾と新撰組。どっちの方が知名度が上か、どっちの方が需要があるかよく考えろ」
「ハァ? テメェ舐めんなよ。FG○に高杉と松蔭先生が登場した時何回Twitterのトレンドに入ったと思ってんだよ。大人気だぞ松下村塾」
「それを言ったら刀○乱舞のアニメの主役の持ち主は新撰組だろうが。土方近藤沖田と全部いるぞ。それに海外ではオキタソウシなんて馬が走ってる。知名度じゃ勝負になんねぇ諦めな」
「馬が何だってんだ、こっちにゃ伊藤博文がいるぞ。千円札だコラァ、舐めんなよ」
「おいィィィ!! 止めろ!! みっともないからやめてくれ!! 他人の褌で相撲を取るなダサいから!」
新八が慌てて2人の間に割って入る。
「元々これからのストーリー展開の話をする予定だったのに揉めすぎですよ。文字数も大分増えてきたし此処らで締めないと」
「それもそうだな」
新八の言葉に全員が黙り込む。その空気を切るように、妙が口を挟む。
「じゃあ私と茶ノ助のラブストーリーは?」
「始まらねぇ」
「私の他のきょうだいは?」
「存在しねぇ」
「俺の闇堕ちしちまったもう1人の姉上は?」
「知ったこっちゃねぇ」
銀時は頭を掻きながら、万事屋の出口へと向かった。そして振り返り、しみじみと呟く。
「まあ、なんだ……随分とごちゃごちゃと揉めちまったけど、アレだ。俺らの物語はまだ終わっちゃいねぇ。始まったばかりだ」
扉を開けると眩い太陽の光が室内に差し込む。
「松下村塾の古き友、真選組のまだ見ぬ隊士、その他にもまだまだ俺達が想像すらしてねぇ出会いやら何やらがあるだろう」
銀時は青空を見上げ、眩しげに目を細める。そして再び振り返り、キメ顔で言った。
「俺達の戦いは! まだまだこれからだッ!!」
その言葉に反応した新八が、天を仰ぎながら叫ぶ。
「結局打ち切りじゃねぇかァァァァッ!!!!!」
その叫びはどこまでも青い空に木霊していった。