エタる可能性大です。
1 プロローグ
大陸中央から大陸南端まで連なるモントユ連峰、その最南端にアクヴォストノ山は標高が高く、頂には万年雪が積もる。
そのアクヴォストノ山の麓にある城塞都市スツルタの近くにそのダンジョンは在った。
スツルタのダンジョン、通称『ガラスの祠』である。
このダンジョンの特徴は次の通りである。
まずモンスターがスライムしか出現しない。しかもスカベンジャースライムと呼ばれる生き物にはほぼ無害なもの。
次に構造だが、明確に階層分けがされておらず、ほぼ一本道で迷いようが無い。但し入口は人一人がやっと通れる位に狭く、またそこを抜けても通路の幅が人がすれ違える位の広さしか無い。その為に荷車等は持ち込めない。
通路は螺旋を描きながら徐々に深くなって行くのはマッピングで確認出来るのだが、その最奥がどうなっているのかは不明である。
何故ならば最奥まで調査に行った冒険者パーティーは全員未帰還となっているからだ。三組の未帰還パーティーを出したところで冒険者ギルドは最奥の調査を打ち切った。それなりに優秀なパーティーを送り込んだのに何も情報が得られず、損失が増えるばかりで何の益にもならないからだ。
そして産出するのが様々な種類のガラスである。透明から色付きまで、豊富な種類が産出する。
普通のダンジョンならモンスターを倒してドロップ品を得るのだが、このダンジョンでは唯一のモンスターのスカベンジャースライムを倒してもドロップ品は出ない。
ダンジョンを進んで行くと、所々に色の変わっている少し通路が広くなっている場所があり、そこを掘ると質の良いガラスが拳位の塊で出て来るのだ。
そして奥に行けば行くほど色付きガラスや、稀にではあるが宝石が混ざって産出する事もある。
特に最奥の手前と言われている場所で採掘出来る水晶と見紛う程の透明感と輝きを持つクリスタル・ガラスは人気も高く、採掘の難易度も高い為に高値で取引される。
クリスタル・ガラスの採掘ポイントまでは、慣れた者でも入口から五日はかかる距離があり、食料や水等を準備しなくてはならないので採掘に向かう人が少ないのも高値の理由であろう。
ちなみにこの世界にはマジックバックやストレージや空間魔法などと言う便利なモノは存在していない。
余所では人の手で作られているガラスもある。しかしこのダンジョンで産出するする物は、それらより遥かに上質で透明度も高い。
このダンジョンの採掘での一番の特徴は、一人あたりが一カ所で採掘出来る量が決まっている事。一人が採り終えても、次の人も同じ場所で同じ量が採掘出来るのだ。
故に最奥にさえ行かなければ、このダンジョンは誰でも安全にある程度稼げる場所なのである。
このダンジョンから採掘される良質なガラスはスツルタにある多数のガラス工房へと運ばれ、様々なガラス製品となる。それらがスツルタの主な産品となっていて経済を潤している。
ここで少し、この世界について述べようと思う。
この世界は、ある女神が複数管理している世界のうちの一つである。
管理と言っても何をする事もなく、ただ時々見回りに来るだけである。その時に生命が滅んでいたら残念だと思う位である。気紛れで奇跡と言う形で手を出す事も稀にあるが。
世界とは言っているが宇宙全体ではない。生物が生存している地球型の惑星であるのは言うまでもない。
この世界には魔法が存在する。生き物の想念と精神の持つエネルギーによって物理現象を起こす。それがこの世界の魔法である。
人の想像力だけではなく、その現象をどれだけ理解しているかが影響するので、決して万能な力ではない。
この世界でヒトとして認められる種族はエルフ、ドワーフ、獣人である。ちなみに獣人の中で大多数を占める無尾猿族が地球人類に相当するのだが、彼らは自らを『普人族』と呼び、獣人族の中の一種族である事を認めようとはしていない。
さて、この世界は地球で言えば文明が中世初期かそれ以前のところで二千年以上も停滞している。
停滞の原因は色々とある。
一つは人口が増えない事。モンスターによって生存圏を圧迫されていて、食糧生産が上がらないのが一因でもあるが、次のような理由も大きい。
エルフとドワーフは元々の繁殖力が低く、また彼らが住むのに適している場所が少ないので増えようが無い。
獣人族だが、出生率は高いのだが、乳幼児期の死亡率が高く、また産褥により母親が死亡する場合も多い。
衛生観念と言うものも無く、医療も未発達故に起こる事である。
尚、怪我や病気を治す魔法は存在しない。
他に社会制度が封建制であったり、宗教勢力の力が強かったりで、これらの既得権益を侵すような思想や学問、発見発明等は即座に潰される。
言わば非常に保守的な社会が構成されている。これは全種族に見られる傾向だ。
こればかりではなく様々な要因で二千年の停滞が起きているのだ。
それを憂いた女神が異世界地球から或る死せる魂をこの世界に招き入れて、肉体を授けて使命を与えた。
さて、その使命を与えられた者はどうしているかと言うと―
「マスター。最終防衛点に侵入者が六名です。冒険者と思われますが」
「えー、ここ開いてから最初に三組が立て続けに来た後、百年は来てなかったと思うけど」
落ち着いた感じの女性の声が響き、マスターと呼ばれた人物が鈴が転がるような声で応えた。
「何を寝ぼけたことを言ってるんですか。最後の侵入者から百六十三年です」
「そうだっけ? 五十年位で数えるの止めたから良く分からん。で後続とか居るの?」
「居ません。単独のパーティーと思われます」
「めんどくさいなぁ。仕方ない」
そう言うと、マスターは今まで向かっていた作業台から立ち上がると隣のコアルームへと向かう。
「侵入者、遮蔽エリアを通過中」
遮蔽エリアは通路に互い違いに壁が立っているエリアだ。
図で表すと、この様になっている。通路は人一人が通れる幅で、一キロメートル程続いているのだ。
「マップで確認してるよ。半分くらいまで来てるか。ここんとこ冒険者ギルドに顔出してなかったから、情勢がどうなってるか分からないんだよね」
「荷物や装備を見ると採掘目的ではなさそうです」
「やることやったら警告しとこうか? 前は
「そろそろ殲滅室に入ります」
「ほいよ。真ん中に来たら五百ミリグラムくらいを
次の瞬間、殲滅室と呼ばれた直径二百メートルの半球状の部屋の中に高エネルギーのガンマ線が暴れまわり、空気をプラズマ化して一気に温度が上がり三千度を超え膨張する。
冒険者達にも容赦なくガンマ線は降り注ぎ、あっと言う間に蒸発した。
コアルームへ通じる通路にも、遮蔽エリアと同じ構造があり、その先は殲滅室よりも広い空間となっていて圧力波を減衰させる。
更にコアルーム入口には頑丈な扉があり、被害が及ばないようになっていた。
「殲滅完了。あとは採掘ポイント、全部閉鎖しといて」
「了解しました。マスター」
「さて、詫びを入れてくるまで待ちますか。それにしてもなぁ、文明を発展なんてさせたら、この世界は確実に滅びるよなぁ……」
一人ごちるマスターと呼ばれた人物。長い金髪に切れ長で蒼の瞳を持つ目、通った鼻筋に桜色の形の良い唇をした、見た目十六歳程の少女の外見をしていた。
現ガラスの祠のダンジョンマスター『シン』。地球に生きていた頃の名前は
「全く、あの女神様、分かってないよな……」
これは、異世界に放り込まれ、女性の身体を与えられた元地球人男性の物語である。