シンの参加する城塞都市スツルタでの城壁補修工事は順調に進んでいた。*1
城壁の高さは八メートル強ある様に見える。三段の足場が組み上がっていて、一番上は城壁の上部と同じ高さに合わせてあるようだ。
足場が組み上がると、下の方から段階的に城壁の傷んで崩れた部分を三和土モドキで補修し、その都度に足りなくなっている内部の砂礫や石礫を補充して行くのだが、大きく傷んで穴が広がっている部分は練り上げた充填材が柔らかくて流れてしまうので上手く塞げない。
その為にディレクデは型枠を手配していたのだが、どこでミスがあったのか現場に型枠用の板材が届いていなかったのだ。
後で費用請求が来るかも知れないがディレクデはシンに追加の仕事を頼む事にした。
補修箇所の石化がシンの仕事であるが、ディレクデの要請をシンは快く引き受けた。
受けたのは三和土モドキを使ったレンガ作りである。
ディレクデの考えは次のようなものだ。型枠も無くレンガ用の木枠も無いので、大きさは不揃いでも良いから地面にレンガ程度の大きさの四角い穴を幾つも掘る。そこに練った充填材を流し込み、それを石化して即席の三和土レンガとでも言うような物を作る。それを大きく開いた部分に積み上げて型枠代りにしようと言うものだ。
その中でシンが担当するのは穴作りと三和土レンガの石化、積み上げた後の枠の固定である。
「いや助かる。型枠を準備してなかった俺のミスだわ」
「大丈夫ですよ。大した手間はかかりませんから」
シンが地面に魔法で一列二十個で次々と穴を作ると、そこに作業員が三和土モドキを流し込んで行く。
流し込んで行く間にシンが前の列を石化させると別の作業員が石化された三和土レンガを取り出して傍らに積み上げる。積み上げられた物は数が纏まると補修の現場へと運ばれて行く。
作業員が取り出している間にシンは更に前に三和土レンガが取り出されて崩れてしまった穴を魔法で整える。
シンはこの繰り返しをこの二日ばかり続けていた。レンガ用の型があればもっと作業効率は上がっていただろうがそれでも結構な速さで三和土レンガが出来上がって行く。
「それにしてもシンさん、よく魔力が保つな。並の魔法使いだと一刻も持たないぞ。そのお陰で作業が捗っちゃいるんだが」
「生れ付き魔力は多い方でしたから(常人より遥かに多いけど、ちょいちょい地脈からエネルギー吸収してるから殆ど減らないんだよね)」
二人が話していると補修の現場から声が掛かった。
「ディレクデさん! 型枠代わりのレンガ組み終わりやしたぁ! 固定をお願いしやぁーす!」
「おう! 今行く! シンさん、お願いします」
どうやらディレクデの『シンさん』呼びは彼の中では定着してしまったらしい。貧乏旗本の三男坊を呼び火消しの棟梁みたいだなとシンは思う。
それだとシンは用心棒ポジションなのだが……。お忘れかと思うがシンのフルネームはシン・シンなのだが、こっちはこっちでパンダや技本の
「わかっりやしたぁ。親方」
シンは少し
現場に着くと、シンは三和土モドキをモルタル代わりに使って三和土レンガで組まれた型枠壁を魔法を使い硬化接合させた。
この後は型枠の中に三和土モドキを流し込み、再びシンによってそれが硬化され型枠ごと一体化される。
「思ったより最下段は早く終わりそうだ。しかしシンさんの言うこの『タタキ』はなかなか使えそうだな」
「にがりを使って様子を見ているのはどうなりました?」
「あれか。幾つか配合を変えて様子見しちゃいる最中だ。全部、練った直後に比べりゃ固まって来ちゃいるんだが、まだ指で押すと形が付く程度には柔らかいな」
「魔法を使わないと時間はかかりますからね。ところで補修箇所の強さは大丈夫そうですか?」
「ああ信じられん位に硬いし粘りもある感じだな。縮みも殆ど無い、並の魔法使いじゃこうは行かねえぜ」
「ん? 普通は違うんですか?」
「ああ、石灰と砂を混ぜるってのは魔法使いを頼む予算が無かったり、頼める予算が有っても空いてる奴が居なかったりした現場じゃ良く使うんだが、今回みたいに材料が揃った後に請けてくれる魔法使いが見つかる事もあるんだわ」
それで石灰と砂の材料で魔法使いに石化を頼むと固まるのが速いのは速い。しかし縮んだり脆くなったりと自然に固まるのを待った時よりも劣化した物になると事が多いとディレクデは言う。それを聞いてシンにはある事に思い至る。
(粘土状の物を固めるって事で水分を抜いて焼き物でも作るイメージをしてしまうんだろうな。それだと砂を含んだ水酸化カルシウムを固めただけの物が出来るだけだし脆いのは当たり前か。スキル様々だね)
水酸化カルシウムや酸化カルシウムを含む物で水和物が生成には水分は不可欠。
シンの場合は水分は抜かずに三和土が固まる化学反応を魔法で促進しているのだから、出来上がりに差が生じるのは当たり前である。お陰で精神エネルギーの消費も少なく済んでいる。
「この分なら明後日には足場を使って中段の方も始められるな。いやぁ予定より随分と前倒しに出来たわ。この後はシンさんの作業は無いから上がって良いぜ。即席レンガの数も十分あるし、明後日からまた宜しく頼まあ」
「はい、それじゃ今日は上がらせて貰いますね」
明日が休みになったシンは何をしようかと考えた。そう言えばローブとその中に来ているワンピースは着たきりで洗ってない事に気付く。
「明日は洗濯かな。失敗したなぁ、予備を作っておくんだった。着替えが無いから明日は部屋に籠もるの決定だよ」
魔法で乾かしても良いのだが、そうすると微妙にゴワゴワする感じがするので、シンは専ら洗濯物を自然乾燥で干しているのだ。
問題は下着と違ってワンピースとローブは、それなりにしっかりした生地で作ってあるので部屋干しすると明後日の朝までには乾かない可能性が高いのだ。
「ストリクタさんに物干し台とか竿とかあるか聞いてみよう」
因みにそのストリクタだが、今日は依頼で出掛けている。シンは彼の帰着が
「勝手にギルド内を見て回ったら怒られるかな? まあ大丈夫でしょうけど」
ギルドに着いたシンは裏口に回り、ストリクタから預かっている鍵を使ってギルドの建物内へと入ると、そのまま借りている仮眠室には向かわずにギルド内に物干し場が無いかを見て回る。
二階への階段を上がり廊下を歩きながら確認して行くと、更に上に上がる階段を見付けたので上がってみる。
上がり切ると内鍵の付いた扉があったので開けてみると、そこは屋根上に設けられた物干し台であった。
「ここなら下からは見えないし、今夜のうちに干して明日の夜に取り込めば見られる事は確実に無いよね」
物干し竿は無いがロープ二本を緩く撚った物が渡してある。洗濯バサミ等は無く、この撚ったロープの間に洗濯物を挟んで固定するようだ。
「洗濯バサミとか作れば売れるんだろうけど、現地で調達出来る材料だけって縛りを入れたらバネとかが出来るかが問題だね」
生活便利グッズとか、意外と技術が進まないと実現が難しいのが多いよねと思いながらシンは物干し台から中に戻ったのである。
そしてその日の日が落ちて暫く経った夜に、はぐれオーク討伐の依頼を終えて疲れた身体を引き摺ってストリクタが帰って来た。
オークそのものは現地で解体し言い値で引き取って貰えたので、身に付けているのは出かける時に装備した防具と武器だけだが、それでも疲れた身体には堪える。
そんなストリクタがギルドの裏口から中に入り、一汗流そうと洗い場に向かおうとしたところ、物音に気付いたシンが借りている仮眠室から出て来て彼に声を掛けた。
「ストリクタさん、お疲れ様でした」
「おう、シンか」
背後から声を掛けられたストリクタが振り返ると、彼は絶句した。
そこには殆ど隠せていないスリングショットな姿のシンが居た。
一応はデルタゾーンと桜色の蕾の先端は隠れてはいるが、蕾の回りの輪っかがハミ出ている。この
「沐浴するなら魔法でお湯を出しまけど?」
「お、お前! なんて格好してるんだよ!」
そう言いながらもストリクタの視線はシンの肢体に釘付けである。
彼の身体は疲れてはいるが、オークとの命のやり取りの後なので血は滾ったままなのだ。
「私は明日の現場はお休みだから、着てるの全部洗濯しちゃったんですよね」
後ろ手を組み少し前屈みになりながら可愛く舌を出して可愛らしく笑うシン。豊かな双丘が強調されながら揺れる。辛うじて隠せている蕾が見えそうである。あざといな、さすがTS娘あざとい。
「……何も今日に洗濯しなくても良かっただろ」
「だって厚手のローブが明日中に乾くか不安だったんですよ。どうせ洗うなら全部洗っちゃおうかなって」
「待て。全部って今シンが着てるそれは何だ?」
「明るいうちに雑貨屋に行って買ってきた布紐ですよ? ほら、こうやって後ろで纏めて縛ってあるんですよ」
まさかの紐で代用だった。しかも後ろを向いた為にシンの形の良いお尻がストリクタの目の前に現れるてふりふりと振られる。
シンとしてはリボン結びにした所を強調したかっただけなのだが、図らずも誘惑するような素振りとなってしまった。
ストリクタは初日のシンと情交を結んだ時の事を思い出して生唾を飲み込んだ。
「なあ、シン。済まないがお湯を出して貰えるか?」
掠れた声でストリクタが言う。
「さっき、お湯はいかがですかって聞いたのに。格安で泊めて貰ってるんだからそれくらいやりますよ。
そう言ってシンはストリクタに向き直り微笑む。この
「それじゃ洗い場に行きましょう?」
誘われるままにストリクタは洗い場へとシンの後を付いて行った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
翌日の夜明け前、シンの姿は眠るストリクタの横にあった。
(どうしてこうなった?)
シンの偽らざる心境である。
昨夜、ストリクタの背中を流している時に、彼から先走るオスの匂いにヤられて、また彼を誘惑しそうになった。
しかしストリクタはオーク討伐で疲れているだろうからと、頑張って我慢に我慢を重ねて本能に抗って抑え込んで遣り過したのだ。お陰で折角買った紐の一部がぐっしょりと濡れてしまい後で洗う羽目になるのだが。
しかしストリクタの寝室前で、お休みの挨拶を言おうとしたところを彼に抱き竦められ唇を奪われながら強引に部屋に連れ込まれて今に至る。
そんな強引な事をされても、シンは嫌だとは感じずに自然と彼から迸る熱いモノの全て受け止めていた。
「全く、無理してるくせに無茶がすぎるぞ」
くすりと笑いながら眠るストリクタの身体に残る傷跡を愛おしそうに指でなぞるシン。その表情はどこか慈愛に満ちていた。
昨夜、彼女はストリクタの背中を流している時に、彼の身体が傷だらけである事に気が付いた。初日のあの時はシンも夢中でそれに気付かなかったのだ。
それらの傷跡はそう古いものでも無く、彼が無理をして体を張ってスツルタの冒険者ギルドを一人で守っているのが察せられた。
「絆されちゃったかな」
ストリクタと、いや男性と初めて肌を合わせてから、自身のメンタルが急速に変容しているのをシンは感じていた。
「今のところ、この人以外と情を交わす気は起きないんだよねぇ」
そう言いながら彼女はストリクタの禿げた、実際には剃髪している頭を撫でる。少し髪が伸びてゾリゾリとした感触がした。
「何とかしてあげたいなぁ……」
ストリクタの額にキスを落としながらシンは呟く。
根本的にスツルタを栄えさせないと冒険者を含めて人が集まらないで寂れる一方だ。
冒険者ギルドを、町の為にと頑張って一人で切り盛りしているストリクタ。
今回は前回と違い余裕があったシンの淫魔種の本能は、そんなストリクタの張り詰めた精神状態を交わる事で感じ取っていた。
頑張りすぎているこの状態が続けば遅かれ早かれ彼は限界を迎えて潰れるか、仕事中に命を落とすかも知れない。
「ダンジョンの運営で力になれるかな」
窓の木戸の隙間から光が差し込み始めて夜明けを告げる。
眠るストリクタの横に寄り添いながら、一人で身を削る彼の為にスツルタを再興させるにはどうしたら良いか、ダンジョンで何が出来るか、その手段をシンは真剣に考え始めていた。
因みにその日の昼間、冒険者ギルドの物干し台で洗濯物を取り込む全裸の女の姿が目撃されたとか、されなかったとか。
おバカな誰かさんは昼は部屋に引き籠もって夜に取り込むつもりだったのを、すっかり忘れていたらしい。
その後、冒険者ギルドから支部長が誰かを叱り付ける大声を、数少ない通行人が聞いたのだった。
アンケートへの回答、ありがとうございました。
本作の今後の執筆の参考とさせて頂きます。