使命を帯びたTSダンマスは引き籠もる   作:片玉宗叱

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 申し訳程度の恋愛要素で、まさかの六千文字とか。


11 夢で逢いましょう

 シンが冒険者ギルドで世話になり始めてから一ヶ月が過ぎた。

 城壁の補修工事も無事に終わり、ディレクデからの個人依頼の件も有りシンはまあまあの小金持ちとなっていた。この事でシンは魔法使いは高収入なのだと実感した。

 工事が終わってからはディレクデから相談されたり、単独でギルドの依頼を受けたり、ストリクタに同行して支援の仕事をしたりと冒険者としての仕事も熟した。

 そんな日々を送る中、シンはそろそろダンジョンへ戻る頃合いかなと考えながらも、なかなか踏ん切りがつかないでいる。

 その原因はストリクタ、いや、シンの彼への想いだろうか。

 

 支部長執務室の近くにあるストリクタの寝室の中。そこに設えられたベッドの上で、ストリクタの横に彼に腕枕をされながら、その筋肉質な身体に裸で抱き着いているシンの姿があった。シンとストリクタはこの一ヶ月で何回も情を交わしている。

 シンの体温と息使いを感じながらストリクタは彼女に話しかけた。

 

「なあシン。いつ頃、その、旅を再開するんだ?」

 

 シンはストリクタと交わり、彼の心の内を知る程に、彼女は彼の事を益々好ましく思う様になっていた。

 この一ヶ月で日々変容していくシンのメンタリティーは女性のそれへと近づいていた。彼女自身もそれを敏感に感じ取っている。これは淫魔種の本能の為せる事だけでは無いだろうとも自覚していた。

 

「ん、どうだろ。路銀は十分だけど、どうせならもう少し冒険者の仕事の事をストルから教えて欲しいかな」

 

 ストリクタの問いに、シンは彼の目を見ながらその分厚い胸板にしなやかな指先を滑らせ、艷やかな唇を動かして甘い声色で言葉を紡ぎ出す。

 彼をシン自身で考えたストルと言う愛称で呼ぶ事から、彼女がストリクタに心を許していて、そして発した言葉から少々離れがたく思っているのが分かってしまう。

 

「そうか。シン、もし良かったらこのままスツルタで俺と」

 

 ストリクタの言葉はそれ以上続かなかった。彼の上に伸し掛かったシンの唇に彼の口が塞がれてしまったからだ。

 

「その話はダメ……」

 

 深く長い口付けを交わしてから唇を話したシンが眉尻を下げて、短く切なそうに言うと、そのまま彼の胸板にしなだれかかった。

 

(本格的にストルに絆されちゃったなぁ……)

 

 離れがたく思うのはシンも一緒だ。しかしシンは外見こそ絶世の美少女だが淫魔種で不老のダンジョンマスターなのだ。彼の想いに応える事は難しい。否、無理に等しい。

 

(どこかでケジメを付けないとダメだよね……)

 

 シンはストリクタの硬い胸に耳を当て、その鼓動を聞きながら目を閉じる。彼女の閉じた目から一筋の涙がストリクタの胸に零れ落ちた。

 そんなシンの髪をストリクタは剣ダコのある固く荒れた手で優しく梳き撫でる。

 どちらからともなく再び重なり合い愛し合い始めた二人を包むように静かに夜が更けて行った。

 

 

 その後も二人は一緒に或いは単独で依頼を受けたり、依頼の無い時は連れ立って買い物に出たり、(主にシンが)料理をしたり*1、夜には時に穏やかに時に激しく情を交わしたりと、傍から見たらまるで恋人同士のような関係を続けていた。

 依頼を熟しに出る時は二人寄り添うようにして歩いて行く姿が目撃されている。そんな二人が町中で噂にならないはずが無い。

 特にシンはローブを着込んでいても目立つ。良からぬ事を考えて近づく者は居るには居た。しかし普段はストリクタが傍で目を光らせているし、よしんばシンが一人になったところを強引に誘おうものなら、ダイヤモンドよりも硬いサブコアが装着されているチタン合金製の杖でシンにぶん殴られて終わりである。

 

 そんなある日、城壁の点検でスツルタに訪れたディレクデにストリクタは飲みに誘われた。

 町に一軒しか無い酒場で男二人で酒を酌み交わす。

 

「ストリクタ聞いたぞ。お前、シンさんとデキてるらしいな。で、どうなんだ? もうヤっちまったのか?」

 

 飲み始めてすぐにディレクデがぶっ込んで来た。

 

「お前なぁ。飲み始めていきなり何を言い出すかと思えば……」

 

 思わず飲んでいた酒を吹き出しそうになったストリクタは不機嫌な顔でディレクデを睨むが、この幼馴染はそんな事は気にしない。

 

「だってお前、あんな(すこぶ)る付きの若い娘と一つ屋根の下に居るんだぜ? 色々と溜まりまくってたお前が我慢出来るとは思えんがな」

 

 初日の夜を思い出したストリクタはどう答えたら良いのか分からず、顔を赤くして思わず黙り込む。

 

「お? その様子だともうヤったんだな、この野郎。でだ、真面目な話、二十八にもなって男やもめのお前もそろそろ世帯を持っても良いんじゃないか?」

 

「俺はそう思ってるんだがシンがな……」

 

「なんだ、体は許したけど心は貴方の物にはならないってやつか? 現場で俺も見たけどよ、噂じゃ町中でも仲良く腕組んで歩いてるって言うじゃねぇか。まさかお前、弱みに付け込んで無理やり」

 

「んな訳あるか!」

 

 思わず大声で怒鳴り立ち上がってしまい、周囲の注目を浴びている事に気付いたストリクタは、慌てて席に座ると声を潜めてディレクデに答える。

 

「いや、アイツも俺のことを憎からず思っているのは分かっちゃいるんだが……。どうにも言えない何事かがあるみたいでな」

 

 ストリクタはそう言って酒を煽ると溜息を吐いた。

 

「アイツって作る料理も美味いし、きれい好きだしなぁ。髪から何から凄え良い匂いがするんだよ。それに……」

 

 唐突に始まったストリクタの惚気話。この厳つい幼馴染が顔を赤らめてもじもじしながら話す様を見て、ディレクデはどんな顔をして良いか分からなかった。

 

 一通りストリクタの惚気を聞いた後、ディレクデは木製コップの中の酒を飲み干すと、真面目な顔になりストリクタをじっと見詰めながら口を開いた。

 

「はいはい、ごちそうさまだよ。そんなお前にちょっとした報告だ。シンさんの事が領主様の耳に入った。腕の良い魔法使いがスツルタに居るってな」

 

「どうせお前が現場の事で報告したんだろうが。雇われだから雇い主に報告義務があるんだろ」

 

「仕方無えんだよ。実際に掛かった工費を申告しなきゃなんねえからな。工期も短くなってるから魔法使いが雇えた事を誤魔化すこともできねえ。それでだ、もしかしたらシンさんが領主様に呼び出されるかも知れねえ」

 

「そんな事になったらアイツは逃げるぞ」

 

「だよなぁ。シンさん言ってたもんな」

 

 

 男どもが酒場でそんな話をしている頃、シンはギルドでストリクタの帰りを待ちながら、彼の寝室で枕に顔を埋めて彼の匂いを感じながら一人で耽っていた。

 

 最近のシンは、夜に一人で居る時にストリクタの事を思うと心が浮き立ち身体が疼いて仕方が無い。

 ダンジョンコアのイリザから得た知識によれば、これは恋をした淫魔種の本能的な衝動らしい。

 淫魔種は生き物の精気を糧に生きる種族だが、実は想いを寄せた相手を求める欲求が強く、(つがい)と決めた相手とは生涯に渡って添い遂げる一途な所がある。尚、番と認める相手は同種族の淫魔種とは限らないので、過去にはヒト族社会で様々な悲劇を起こしていて、それが演劇にもなってる。

 

(ストルと別れたくない……。今なら分かる。絆されたんじゃない。私は……彼が好きなんだ)

 

 そしてシンはストリクタに恋している事をはっきりと自覚した。いや認めてしまった。元男だからと変容してしまったメンタリティの事に敢えて蓋をして抑え込んでいたのに、女性化して行く自身の気持ちを抑え切れなかった。

 恋に落ちていたシンはストリクタを無自覚に彼を番と認めてしまっていたのだ。

 

「ストル……。好きだよぉ恋しいよぉ……」

 

 ベッドで一人耽りながらストリクタの名を切なげに呼んでは彼の逞しい身体とその心の奥にある想いと決意を思い涙するシン。

 彼女の心は千々に乱れてしまい自分でもどうして良いのか分からなくなっていた。

 

 

 夜も更けて、飲み終えたストリクタはディレクデと別れてギルドへと帰ってきた。そして中に入りランプに火を点けて持つと廊下を歩き、自身の寝室のドアを開けたとたんに咽返るような女の甘い匂いに一瞬驚き固まってしまった。

 

「ストル!」

 

 途端にベッドから飛び起きて全裸でストリクタに抱き付くシン。彼をきつく抱き締めながら嗚咽を漏らして胸に縋り付く。ランプを落としそうになりストリクタは慌ててランプを上に掲げた。

 そしてシンは顔を上げて手をストリクタの首に回し、背伸びをして彼の唇を自身の唇で塞ぐと貪る様にして舌を絡めて来る。

 動揺しながらもそれに応えるようにストリクタ自分の自分の舌を絡ませた。

 一頻りお互いを求め合うとストリクタはシンの肩に手を置いて少しだけ身体を離してシンの顔を見た。

 ランプに照らされたシンの顔は、泣き腫らしたせいで涙でぐしょぐしょなっていて目元が腫れて目も充血し赤くなり酷い有様だ。

 

「どうした、シン。何があった」

 

 ストリクタの問い掛けにシンは眉尻を下げ、再び目に涙を浮かべると、いやいやと首を降った。

 

「本当にどうしたんだよ……」

 

 彼は、まるで壊れ物を扱う様に優しくシンの肩をを抱きながらベッドへと連れて行き座らせるとサイドテーブルにランプを置いて自分も彼女の隣に腰を下ろした。

 

「……ストル。あのね」

 

「なんだ」

 

 揺れるランプの炎にシンの横顔が照らさせる。その横顔を見て、泣き腫らしていても綺麗だなとストリクタは思った。

 

「大好き……」

 

「知ってたよ」

 

 それを聞いたシンは一瞬だけ目を瞠るとストリクタに再び抱き付いた。

 ぐすぐすと泣きながらシンはやっとの事で声を出す。

 

「ストル……。大好きなのストル。でも、ごめんなさい……」

 

「一体どうしたんだよシン。いつものお前じゃないみたいだぞ」

 

 シンは暫く俯いていたが、顔を上げてストリクタを見た。その表情は何かを決意している様に見える。

 

「ストル、あのね、私は……、私はヒト種じゃないの……。黙っていて、ごめんなさい……」

 

 そう言うとシンは顔を手で覆い再び泣き出した。

 

「何の冗談だよ。お前はどこから見てもヒト種の、それも飛び切り良い女じゃねえか」

 

 シンはそれに答えずに顔を覆ったまま力なく首を横に振る。

 シンが落ち着くまで辛抱強くストリクタは待った。無言の時間がとてつもなく長く感じる。

 やっとシンが顔を上げてストリクタを見詰めながら真剣な面差しで彼に告白する。

 

「私の、種族は……、淫魔種で、そして、ダンジョンマスターなの……」

 

 口ごもりながらシンはストリクタにそう告げた。

 

「いや、それこそ質の悪い冗談だろ」

 

 しかしストリクタを見詰めるシンの目は真剣そのもので冗談の類で無い事が彼は理解分してしまう。

 

「マジかぁ……。でもよ、確かダンジョンマスターってのは自分のダンジョンからは出られないって聞くぞ。お前は外を自由に出歩いてるじゃねえか。それに淫魔種に魅入られた奴は早々に干からびて死んじまう。どうなんだ」

 

「それは、ダンジョンの外に出られるのは、私のこの身体が、女神様に創られたものだから。淫魔種なのに精気を吸い尽くさないのはダンジョンマスターである事と、私自身が前世では人間として生きた記憶があるからだと思う……」

 

 シンは訥々とこれまでの事をストリクタに話し始めた。

 元男であると言う事は言わず、前世では不幸な事故で死んだ事。女神からある使命を与えられて転生した事。こちらの世界で目覚めてから六年以上引き籠もっていた事。

 

「そして貴方と出会って、交わって、貴方の心の奥にある思いを知ってしまった。淫魔種ってね、交わった相手の心の内に秘めた思いを知ることが出来る、いいえ、知ろうとしなくても知ってしまうの。そして、私は貴方に恋をして愛してしまった。それを自覚したら、貴方の事を考えたら悲しくて……。貴方が求めて止まない、家庭に家族。私はその想いに応えられない……」

 

 ストリクタはシンの話を真剣に聞いていた。そして優しくシンの頬を手で挟み、そっと彼女の唇に口付けをした。

 

「シン、お前が」

 

 何かを言おうとしたストリクタの唇をシンは人差し指で押し止め、目を伏せて、悲しげに言う。

 

「ストル、ダンジョンマスターは不老なの。子供も作れない。貴方の望む家庭や家族を貴方と一緒に作っていけないし、定命の人々の間では生きては行けない……」

 

 そして決意を込めた表情でストリクタに告げる。

 

「それでも、愛する貴方の力になりたい。このままだと貴方は無理を重ねて遅かれ早かれ潰れるか、依頼中に命を落としてしまうかも知れない。そんなの私には耐えられないの。だからストル、私はダンジョンに戻って、貴方の力になれる手段を用意する。このスツルタの町が再び栄えて、冒険者ギルドにも人が溢れる様にして、貴方の、この町を守りたい、力になりたいって思いを叶えてあげたいの。いいえ、貴方の思いを叶える手伝いを私にさせて欲しい」

 

「シン……」

 

「そんな顔をしないでよ、ストル。今生の別れじゃないんだから」

 

 厳しい顔つきのストリクタに向けて、シンは無理やり笑顔を作ってみせる。

 

 そしてシンはストリクタの前に回り、彼の膝上に跨るようにて対面して座ると、身体を密着させて彼の唇に啄むように口付けをした。

 

「ストル、強く激しく貴方を私に刻み込んで……」

 

「分かったよ、シン。お前と添い遂げたかったんだがなあ」

 

 口付けを交わしながら二人の会話は続く。切なく、そして甘い息を吐きながらシンがストリクタに答える。

 

「私もダンジョンマスターなんかじゃなかったら貴方と一緒に暮らしたかった。ねえストル、知ってるかな。淫魔種は本来なら他種族の子を(みごも)る事もできるのよ?」

 

「そりゃ初めて聞いたな」

 

「あとね、淫魔種って(つがい)と認めた相手には物凄く一途なの。それこそ相手が死んでも二度と番を作らない程にね。でもストル、私に遠慮なんかしないで可愛いお嫁さんを見付けて子供を沢山作ってね。私の幸せは貴方が幸せになる事」

 

「シン……。上手く言えねえけど、俺にとっちゃお前は嫁と同じだよ」

 

 その言葉を聞き、シンはストリクタに強く抱き付き激しくその唇を求めた。

 

「ストル、ダンジョンに戻っても、会いに来るね。貴方にお嫁さんが来たら、その時は貴方の夢にお邪魔するから」

 

 そう言うとシンはストリクタの手を自分の熱く火照っている部分へと導いた。長く激しい二人だけの夜が始まった。

 

 

 そして翌朝、ストリクタを一人残して、スツルタの冒険者ギルドからはシンの姿は消えていた。

 

*1

 シンは前世でも自炊していたので一応は料理が出来るのだが、こちらの世界では調理器具や食材、調味料の勝手が違い過ぎて最初のうちは失敗が続いた。

 しかし使い方に慣れて調理スキルが生えた段階で劇的に腕が上達。そして調理スキルの上位である料理人の多くが持つ料理スキルも生えてしまった。

 そして塩と一部香辛料しか無い調味料を何とかすべく、スキル国立国会図書館をフル活用で化学調味料を魔法で合成して使うものだから、このスツルタの一般的な料理屋で作られる物よりも美味い物が出来上がる。そんなシンの料理のせいでストリクタは完全に胃袋を掴まれてしまっていた。

 順番は逆だが、料理上手は床上手を地で行くシンである。




 完全にメス堕ちと言うか完落ちしてからの別れとか(別れたとは言ってない)
 一応、ここで一区切りの予定です。
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