使命を帯びたTSダンマスは引き籠もる   作:片玉宗叱

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 お待たせしました。
 後書きに前回の主人公のローブの下の姿のラフ画を載せてます。


14 錬金術(物理)

 契が結ばれた後、少し休んでからシンとストリクタは二人連れ立ってギルドへと戻った。

 その間、シンは絡みつく様にストリクタにべったりと引っ付いていたのは言うまでもない。

 ギルドに戻ると支部長室でシンは今後の事をストリクタに相談する。

 なお、ストリクタから目の毒だ(襲いたくなる)からと言われたので、シンはローブを着たままである。

 

「ねえストル、これからの事なんだけどさ。まだ一緒には住めないよね?」

 

「ああ、俺はギルドがあるからな。お前と一緒にダンジョンには行けないな」

 

「私もスツルタに産業を興すのにダンジョンで暫く作業する必要があるし。うん、夜にギルドまで飛んで来れば問題ないか」

 

 それを聞いてストリクタはギョッとする。

 確かに今のギルドは閑古鳥が鳴いている状態だが、それでも稀に他所の冒険者が来る事もある。

 そんな時に飛んでなんて来られたら、幾らシンが隠蔽や隠密に優れた種族でも、万が一と言う事もある。

 ましてやシンは忘れられて久しい女神の眷属である。契を結ぶ前のストリクタには感じられなかったが、今はシンからは『女神の神気』と言うようなものが漏れ出ている事が分かるようになった。

 この国で信じられている宗教は多神教である。その神々を祀る神殿では、病気や怪我の診療を行っており、大概の町には最低でも神官が一人、薬師として神殿から派遣されている。

 もしも、スツルタに派遣されて滞在している神官が『神気』を感じ取れたりする人物で、スツルタに飛んで侵入して来るシンの事を気付かれてしまったら神殿を巻き込んだ大騒ぎになるには目に見えてる。

 

「いや、シン。万が一と言う事もあるからな、それは止めといた方が良いと思うぞ」

 

「えー、やだ。ストルには毎日でも、ううん。何時でも一緒に居たいんだよ?」

 

 そう言われると、自分も同じなのでストリクタも弱い。

 

「いや、俺もなんだがな……」

 

 

「怪しまれないで毎日ストルに逢えて、お互いの仕事に支障が出ない方法かぁ……」

 

 シンがそう言うと二人は考え込んだ。

 暫くしてシンが徐ろに手をポンと叩いて、何かを思い付いた。

 

「あのさ、スツルタって土地とか家とか余ってるよね。ギルドの近くにそんな物件ないかな?」

 

「ああ、確かに裏手にボロい空家が一軒あるな。どうするんだ? まさかそこに住むとか言うんじゃないだろな。いや住むにしても、お前ダンジョンはどうするんだよ」

 

「むふふ。住みはしないけど、良い事を思い付いたんだよ。ねえねえ、そこって土地込みで買うことって出来ない?」

 

「ここの土地は全て領主様の持ち物だからな、向こう何年間かの使用権を買って借りる形になるな」

 

「永続使用権とかは無いんだね……」

 

「まあ、(かね)さえ出せば何とでもなるとは思うがな」

 

「それって、貴金属とかでも大丈夫? 例えばこの杖みたいな」

 

 そう言ってシンはストリクタに自分の杖を差し出した。ストリクタは受け取った杖をマジマジと眺めると一瞬目を(みは)った後に溜息を吐きながら首を横に振る。

 

「お前の杖って総ミスリルだったんだな。今まで一緒に居て、なんで気付かなかったんだか……。確かにミスリルだったら相当高値が付くが、ドワーフ族くらいしか扱えねえからなぁ」

 

 ストリクタが杖に意識が行かなかったのは、今まではシンの持つ隠蔽と幻惑のスキルが仕事をしていた為である。シンと契る事で彼女の持つ精神系スキルはストリクタには無効となった様である。

 どうやらこの辺りの普人族(獣人・無尾猿族)にはチタン(ミスリル)は不人気らしい。

 

チタン(ミスリル)はダメかぁ。うーん、どうしようかな……」

 

 考え込むシンを見て、ストリクタは彼女がろくでも無い事を考えているのではと不安になる。

 

「……おい、シン」

 

「うん、なんとかなりそうだよ。ねえストル。鉛なんて、ギルドにあるかな?」

 

「重りに使うから少しは有ったはずだが、そんなもん、どうすんだ?」

 

「まあ見ていて。私のスキルと魔法の(ずる)い使い方を見せるから」

 

「あまりやらかさんでくれよな……」

 

「大丈夫、任せて」

 

 シンは自信満々にニヤリともニタリとも付かない笑みを浮かべる。

 

「持ってくるから、ちょっと待ってろ。そんなに大きくなくて良いよな?」

 

「試しにやって見せるだけだから、少しで大丈夫」

 

 そんな事を言い合いながら、ストリクタは倉庫へと向かった。

 

「さて、と。魔力(精神エネルギー)は大丈夫だし、イメージも掴めているから、上手く行けば金策が楽になるかも」

 

 むふふとシンがほくそ笑んでいると、ストリクタが鉛を持って支部長室へと戻って来た。

 

「おう、持って来たぞ。これくらいで良いか?」

 

 ストリクタが持ってきたのは大きさが(てのひら)程で厚みが二ミリ程度の鉛の板である。

 シンは早速スキルを使ってそれを分析する。

 

「どれどれ。うん、意外と原子量二百六と二百七の割合が多いかな。多少亜鉛が混じってるけど最初に分離しとけば大丈夫でしょう。それじゃ始めるね」

 

 シンは受け取った鉛板をテーブルの上に置いて意識を集中し魔法を行使し始めた。

 それは見る見るうちに形を変えて、鉛とそれ以外の不純物へと分離して行く。

 

「第一段階終わり。次はちょっと時間が掛かるかも」

 

「おい、シン。こりゃ一体」

 

「まだ鉛とそうじゃない物とを分けただけだよ。本番はこれから。まあ、見てて」

 

 そう言ってシンは鉛だけになった固まりへと再び意識を向けて核子変換をイメージしながら魔法を行使すると鉛の固まりに変化が現れる。

 それまで鈍色だった物が、徐々にではあるが、やや黄色味、いや、黄金色を帯び始め表面上はまさに金塊の様な見た目へと変化して行く。

 そうして暫くしてからシンは魔法の行使を終えた。

 

「おい、シン。俺の見間違いじゃ無けりゃ、これは(きん)だよな」

 

 それまで息を詰めて見ていたストリクタが、ふう、と息を吐いてからそう言った。

 

「うん。青銅でも黄銅でもない正真正銘の(きん)、黄金だね。ちょっと待った。最後の仕上げ」

 

 そう言ってシンは三度魔法を行使すると、金塊は形を変えて、その中から小さな黒い固まりと、八面体のこれまた小さな塊を排出した。

 

「完了〜。ちょっと疲れた」

 

 言いながらシンはストリクタへと(もた)れ掛かる。凭れ掛かられたストリクタはマジマジとテーブルの上にある四つの固まりを見比べている。

 

「確か倉庫に試金石と色見本があったな。ちょっと取ってくるわ」

 

 ストリクタは立ち上がると急ぎ足でまた倉庫へと向かった。

 支えを失ったシンはソファーの上にコテンと倒れ込んだ。

 

「ストルのいけずぅ」

 

 シンが行なったのは鉛から金への核子変換だ。彼女が核子変換を行う場合、原子量が大きい物から小さい物への変換の方が、精神エネルギーの消費が小さくなる。そこで余った陽子と中性子を『消去』せずに別な核子として分離出来れば、更に精神エネルギー消費を少なく出来る。

 鉛から余分な陽子と中性子を分離して、更に分離した物を安定同位体が存在する別な核子へと変換する事で精神エネルギーの消費を抑えて(きん)へと核子変換を行なったのがテーブルの上に結果である。(鉛→金+炭素及びホウ素)*1

 核子変換で出来た炭素とホウ素は、炭素と安定同位体の炭素13はダイヤモンドの結晶へ変化させ、ホウ素はそのままとした。

 それが黒い固まりと透明な八面体の正体である。

 

「シン、信じない訳じゃないが確認させてくれ」

 

 そう言ってストリクタは試金石と色見本を持って支部長室へと戻って来た。*2

 

「うんうん。普通は信じられないよね。って言うか硝酸あったんだ」

 

「この液体の事か? 俺は詳しく知らないが錬金術師が作る秘薬らしくてな、このガラス瓶一つで金貨一枚するんだぜ」

 

「ああ、そう言う扱いなんだね……」

 

 いそいそと準備をしているストリクタの横から興味深げにシンが覗き込んでいる。

 ストリクタは金塊を掴むと試金石に擦り付けて痕を付けると、そこに硝酸(秘薬)を垂らした。そして暫く待つが、条痕が消える様子は無い。

 ストリクタは色見本と残った条痕を比較して息を飲んだ。

 

「こりゃあ、たまげた。純金じゃねえかよ……」

 

「そりゃそうだよ。鉛を魔法で物理的に金に『変換』したんだから」

 

 ストリクタの呆けた顔にシンが得意満面の顔で応えた。そこでストリクタは金塊の横に排出されていた物の事を思い出す。

 

「お前、錬金術師が夢見た事を平然やってのけるなんて、ホントに常識外れだよなぁ……。それでシンよ、この透き通ったのと黒いのは何だ?」

 

ダイヤモンドの結晶(金剛石)とホウ素だよ」

 

「なんだって?」

 

「金剛石とホウ素」

 

「ホウソってなんだ? いや、それよりも何で鉛から金を作ると金剛石まで出来て来るんだよ。訳分かんねえよ」

 

質量(エネルギー)が保存されるとそれだけ魔力の消費が少なく済むんだよね。別に金剛石にしなくても、粉炭で排出させても良かったんだけど、何と無く?」

 

「いやちょっと待て。お前のその言い方だと炭と金剛石って同じなのか?」

 

「物質としては同じだよ。構造が違ってるだけだね。でもさ、この世海(惑星)だと加工技術が無くて、そこまで価値が無かったんじゃないかな? 確かドワーフにも無理だったって記憶にあるけど」

 

「ああ、だけど俺の真名(ディアマント)ってな、金剛石の意味もあるんだよ」

 

 それを聞いてシンはふと思い付いた。よし、この金とダイヤモンドでペアの指輪を作ろうと。そしてそれを結婚指輪にしようと目論んだ。

 

「ストル、これでペアの指輪を作らない? 金剛石の加工なら私が魔法で出来るし。あと、純金だと柔らかすぎるから銀貨何枚か潰して合金にして硬さを確保してさ」

 

「それになんか意味あるのか? ああ、シンの前世での習慣か何かか」

 

「えへへ。結婚指輪って言って、夫婦で左手の薬指に付けるんだよ?」

 

「ほう、そんな習慣がな」

 

 ストがリクタが興味を示したのを幸いと、シンはたたみ掛ける。

 

「互いの心臓を繋ぐって意味もあったかな? 夫婦(めおと)の証しとしてどうよ?」

 

「俺とお前は一蓮托生だもんな。よし、シン頼む」

 

「任された。凝ったデザインのには出来ないけど金剛石の加工は任せて」

 

 嬉々として加工に取り掛かるシン。

 しかし、その指輪が後にちょっとした騒動の元になろうとは、この時のシンとストリクタは知る由もなく無かったにである。

 

 

*1

 鉛は原子量の違う安定同位体が混在している。鉛から金の安定した核子として陽子七十九個と中性子百十八個を分離すると、陽子三個と同位体ごとに中性子が八個、九個、十個と余分になる。

 ここで余った中性子から三個をを陽子に変換して陽子数六、中性子が五個、六個、七個として、炭素と原子量十三の同位体は安定、原子量十一の放射性同位元素は陽電子放出してホウ素へと崩壊する。

 炭素11のホウ素への崩壊を魔法で行えば結果的には放射性同位元素の発生は抑えられる。

12C、13C、11B)

*2

 試金石とは、金の品位を鑑定する為に用いられる黒色の石英質粘板岩である。これに試料を擦り付けて、その条痕を硝酸で洗う事で金かどうかを判別し、また色見本と比較する事で大凡(おおよそ)の純度が判別できる。

 これは金は王水(硝酸と硫酸の混酸)以外には溶けないと言う性質を利用している。




 久しぶりのお絵描きが楽しくて執筆が遅れまして。申し訳ありませんでした。
 以下が前話の最後で主人公がローブの下に着てた服(?)のイメージのラフ画です。実際にはこれにレースやらフリルやらで装飾されている思って下さい。(色で散々悩んだのにイマイチだよなぁ)


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