また、今回も後書きに挿絵を入れてありますので、ご注意下さい。
シンが作り上げた指輪は金七十五パーセント、銀二十五パーセントの所謂18金。肉厚で幅がシンの物は八ミリ、ストリクタの物は十二ミリとした。
その中央にシンの物は約一カラット、ストリクタの物は二カラットのラウンドブリリアントカットのダイヤモンド*1を配し、エタニティリング宜しくリング周囲を取り巻く様に小粒のダイヤモンドが埋め込まれている。
そのダイヤの加工だが、シンの場合はカットするのではなく結晶方向を揃えながら変形させている。
なお、鉛から金への変換で分離した分では足りなくなる事を考えて、念の為にとその辺の草から炭素を抽出して結晶化させたら合計で五十カラット*2以上の結晶が出来上がってしまったので、余った分は燃やして二酸化炭素、或いはグラファイトにするのも何なので、八面体結晶の形でストリクタが保管する事になった。
「金剛石って、こんな輝き方をするんだな……」
既に夜も更けてランプの灯りの下でも強く輝く指輪を見てストリクタはしみじみと感想を言う。
「私の前世で発明されたカットの仕方だよ」
「すげえなあ……」
只々、感心するストリクタである。
「でね、お互いが指輪を嵌め合うんだよ。ストル、私に嵌めてくれる?」
にこりと微笑み、シンは左手を差し出す。
「お、おう(今のはヤバかった。思わず押し倒しちまうとこだったぜ)」
シンの『嵌めてくれる』に別な意味で反応してしまったストリクタである。精神系スキルが無効なのに、シンと過ごすうちに彼も思考がピンクに染まったらしい。
「もちろん、後でストルのも、ね?」
ぺろりと舌舐めずりをして、シンが妖しく微笑む。どうやら彼女にはストリクタの反応はお見通しだった様だ。
「う、うむ。じゃあ指輪、嵌めるぞ」
ストリクタは差し出されたシンの左手を取り、その左指に指輪を嵌める。
「嬉しい……」
うっとりと左手に嵌められた指輪を眺めるシンの表情には、前世で男だった面影は微塵も見られない。
「じゃあ、今度は俺の番か。シン、頼むわ」
「はい、旦那様」
その物言いに、ドキリとするストリクタ。柄にもなく彼は緊張していた。その彼の左手の薬指にシンが指輪を嵌める。
「誓いの言葉は済んでるから、これで形も整ったね」
その時、二人の指輪が一瞬だけ眩く輝いた。
「なんだ?」
「分らない。でも、悪い感じはしないから良いんじゃないかな」
実はこの指輪、シンが作った事で神気と想いが込められてしまい、彼ら以外は装備出来ない物になってしまっている。
「夜も遅い。そろそろ
「ストル、寝かせてくれるのかな?」
こんな事を言っているが二人とも眠る必要が無い身体なのだが。ついでにスタミナは無限と言っても良い。お盛んな二人の長い夜は始まったばかりである。
* * * * * * *
翌朝の夜明け前にシンは「ちょっと準備してくる」と言ってダンジョンへと戻って行った。ギルド裏の土地とボロ屋を手に入れる為の金策として、ダンジョンで鉛を産出させて、そこから
シンがダンジョンで魔法を使って
首尾よく面会の約束が取れたら、その後は領主館のある港町グランダルボに行き、ギルド裏の土地とボロ屋を借りられる様に領主へとお願いするのだが、その際にはボロ屋の改修の許可も取り付けるつもりである。
また、
そうこうしている内にディレクデから返事の
その返事には、土地の件は領主に話を通した事、面会と交渉には自分も同席する事が記されていた。
更には領主からの要望が書かれており、そこにはシンも一緒に連れて来るようにと書かれていた。
「こりゃ一悶着ありそうだな……」
ディレクデからの返事を読んだストリクタは独りボヤく。
シンの魔法の才とその知識が領主の興味を引いた事は明らかだ。もし士官や或いは妾になる事を強要されでもしたら、シンは確実に逃げるか領主を潰しにかかるかするだろうし、自分も何をするか分らない。
「何とか穏便に済めば良いけど、まあ無理だろうな……」
ストリクタは半ば諦めの心境で天を仰いだ。
一方その頃、シンはダンジョン最奥で普段着作りに勤しんでいた。
金塊の作成はダンジョに帰って来た時て速攻で済ませてある。因みにその総量は百キロを超えている。やり過ぎである。*3
この国での通貨だが、銅貨が最低単位であり、一銅貨で一アンバウ。一銀貨で百アンバウ。一金貨で一万アンバウである。*4
シンが用意した金塊(延べ棒の形で小分けしてある)は現地では総額七千五百万アンバウ以上の価値になる。
シンが借りようとしている土地の賃料は、年間で二万アンバウもあれば事足りる。
どんだけ長期間借りるつもりかと。もう一度言うが、やり過ぎである。
そんなシンは服の件でイリザから突っ込みを入れられていた。
『マスター。いくらこの
「いや、なんかね? ほら自分を女だと意識したらオシャレに目覚めたと言うか」
『周りから浮きますよ。寧ろ奇異の目で見られると思います』
「えー、デニムのミニとかホットパンツとか、見せキャミとか可愛いのに」
シンが作ろうとしているミニは所謂マイクロミニスカート、ホットパンツに至ってはローライズな上に丈が短い物である。ついでに言えばサイドに深いスリットが入っている。
『露出過多で娼婦か痴女と思われても良いのなら止めません。無難にロングスカートで長袖にする事を推奨します』
「むぅ。仕方無いか」
無難に現地の服にアレンジを加えれた物を何着か作って行くシン。最初に引き籠もっていた頃に作った編み機と織機、ミシンが大活躍である。
大急ぎで数着、同じ様なデザインの服を仕上げて行くシンであるが、彼女が作った服は見る者が見れば素材や染色、縫製が尋常で無いのが分かる事に気付いていなかった。
* * * * * * *
「シン、なんだよこの
ダンジョンから冒険者ギルド・スツルタ支部へと戻って来たシンが担いできた行李から出した荷物を見てストリクタが言った言葉である。
「へへっ。楽勝だったよ? えーっと、こっちの単位だと百八十マソ*5かな」
「よくもまあ、こんな重いの運べたな……」
「ふふん。私はこう見えても結構力持ちなんだよ」
シンは腕を曲げて力瘤を作っているが、全く筋肉の盛り上がりが無い。どこから見ても華奢な細腕である。
「これで一応は準備出来たって事で良いのかな。書類とかそう言うのってどうするの?」
「ああ、それは先方にお伺いを立てて、許可が出てから事務方の方から言ってくるはずだ。それよりもな、シン。ディレクデの
「ふーん。ディレクデさんの仕事を手伝ったからだろうね。ほら、色々と教えたりしたから興味持たれてもおかしく無いし」
不機嫌そうに不貞腐れて言うストリクタに、シンはあっけらかんして応える。
「それに、いざとなったら幻惑とか魅了のスキル使って誤魔化せると思うよ。私はストルだけのお嫁さんなんだから、そんなに拗ねないで」
そう言って左手薬指に付けられた指輪を彼女はストリクタに見せ、にこりと笑みを浮かべる。
それを見てストリクタは照れ隠しなのか剃髪している頭をボリボリと掻いた。
「それで、いつグランダルボに発つの?」
「いつでも良いっちゃ良いんだが、その間にギルドを留守にしちまうのがな。一応はグランダルボ支部に留守番の手配を頼んではいるが、まだ連絡が来ねえんだよ」
そう、ストリクタがグランダルボに行くとなると、このスツルタ支部を留守にする事になる。閑古鳥が鳴いているとは言え、急な依頼が入る事もあり、なるべくなら留守は避けたいのもまた事実。
「それなら私だけで行って来ようか? ディレクデさんが同席するなら、そう変な事にはならないと思うけど」
「それこそ有り得ねえぞ。シンお前は絶対に
「むー、信用無いなぁ」
むくれるシンに、ストリクタは彼女を宥める様に話かける。
「留守番役が来るまでは待機だな。一応は準備は出来たし……。ってそう言や、シン。お前、
「もちろん、ちゃんと何着か作って来たから安心してよ。一応、下着も大人しいのにしてるし。ストル、確認する?」
言うが早いかシンは着ていたローブを脱ぐと、本当に露出を抑えた服を着込んでいた。そして徐ろにスカートをたくし上げる。
「ほら、色気無しの普通の白ショーツだよ」
確かに、現代日本人から見れば色気も何も無い臍下まである様な普通の綿ショーツであるが、ドロワーズの様な下着が主流のこの地域では
「シンの前世じゃ、それが色気のない下着なのか……」
軽くカルチャーショックを受けたストリクタであった。
港町グランダルボでは、シン達はどんな騒動を巻き起こすのであろうか。