使命を帯びたTSダンマスは引き籠もる   作:片玉宗叱

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 意外と早く書けたので投稿します。


16 道中難あり

「おうストリクタよ、久しぶりだな。それとお嬢さん、どうも初めまして。プリゾントと言います」

 

 冒険者ギルド・グランダルボ支部から待望の留守番役が到着した。人の良さそうな中年男性である。

 

「プリゾントさんが来てくれるとはな。宜しく頼むわ」

 

「初めまして。シンと申します。ストルともどもお世話になります」

 

 ペコリと頭を下げてシンが挨拶する。

 

「ストリクタ、お前が嫁を取ったってなんて(ふみ)に書いたもんだから、あっちの支部じゃエラい騒ぎになってたぞ。相手はどこから攫って来たんだだの、オーガみたいな女傑なんだろうだの、皆で噂してたが、いやはや何とも可愛らしい娘さんじゃないか。どうやって捕まえたんだ?」

 

「捕まえたと言うか捕まったと言うか、まあ色々あったんだよ」

 

「ところで、アッチの方は大丈夫なのか? この華奢なお嬢さんに無理させてんじゃねえだろな」

 

 照れ臭そうに言うストリクタに、プリゾントが小声で耳打をした。

 ストリクタはその体躯に見合うだけの御立派過ぎるブツとスタミナの持主なのはギルド内では周知の事実である。

 

「な、なにバカ言ってんだよ。そんな事よりも、依頼が来た時にプリゾントさん一人で大丈夫なのか?」

 

 真っ赤な顔で誤魔化すストリクタと、それを笑顔で見詰めるシンを見てプリゾントは何かを察した様だ。

 

「心配すんな、まだ腕も体も衰えちゃいねえよ。それにスツルタは基本ヒマなんだろ? 休暇のつもりでのんびりさせてもらうさ。ほれ、さっさと出発しねえとグランダルボに着く前に日が暮れちまうぞ。それじゃシンさん、こいつの事は任せた」

 

「はい! 任されました」

 

 嬉しそうにシンは返事をした。因みにプリゾントがストリクタに耳打ちした内容は彼女に丸聞こえだったりする。

 

 グランダルボはスツルタから凡そ二十キロ程離れている。徒歩で五から六時間の距離だ。

 まだ昼前なので今から出れば日暮れ前には到着予定であり、宿はギルドが提携している所を取れる手筈になっている。

 

 シンとストリクタはそれぞれに荷物を背負ってスツルタを出発した。流石に金塊百キロ分は多すぎるので、取り敢えず十年は借りられる分だけを持って行く事にした。残りはプリゾントが来る前に、シンがダンジョンに持って帰っている。

 

「シン、その背嚢は変な柄だが使いやすそうだな」

 

 ストリクタは腰に剣を佩いて鎧櫃を背負っていた。基本的に移動中に鎧を着込む事は無いので、今の彼は平服姿である。

 ストリクタの防具は全身鎧ではなく、鎧下の上に鎖帷子を着込んでから、部分的に金属で補強した革鎧を装着する事を基本にしている。

 鎖帷子と革鎧とは言え、彼の大きな体躯に合わせた物なのでそれなりに嵩張るのと、防具以外の荷物も詰められる様に鎧櫃は大き目に作られていた。

 言うなれば大きな木箱に背負い紐を付けて担いでいる様なものだ。

 

 翻ってシンの背嚢だが、表面上は只の布製に見える。しかしアラミド繊維やカーボンナノチューブ繊維が織り込まれチタンで裏打ちされている複合素材で出来ていて、デザインは何処かのJGSDFのアサルト・バッグの丸パクリ。ご丁寧に迷彩まで施してある。

 

あちら(前世の世界)で軍用に使われてるのを真似して作ったからね。使いやすいように考えられいるとは思うよ。あ、ストルの分も作れば良かった。気付かなくてごめんね」

 

「その、柄が変えられるならお願いしても良いか?」

 

「柄はどんなのでも出来るよ。あ、序でだからストルの防具も新調しちゃおうよ。軽くて鉄製のより頑丈なのを作れるし。私の装備もストルのと合わせたデザインにしたらお揃いで良いかも」

 

 シンはノリノリで、ああしようこうしようと考えている。

 ストリクタに性能は現状の物よりも遥かに上の装備となれば嬉しいのは嬉しい。しかしストリクタは複雑な顔でシンに告げる。

 

「嫁の手製ってのは嬉しいが、やり過ぎんなよ……」

 

 やいのやいのと話しながら人気(ひとけ)の無い街道を進んで行く二人。その時、シンが何かに気付いた。

 

「濁ったオスの(にお)いがする……。左手の方」

 

 ストリクタから感じた鮮烈なものではない、何処かドロっとした、嫌な感じのものをシンは察知して立ち止まり、杖でその臭いが来る方向を指した。

 がさがさと藪が揺れて、そこから姿を現したのは一匹のオークだ。

 

「こんな所にハグレが出るとはな」

 

 ストリクタは鎧櫃を降ろし抜剣して身構える。

 

「まだ来るよ! 後ろ!」

 

 シンがそう言うと彼らの左手後方の藪から追加でもう一匹が現れた。

 

「挟まれたか。ペアで行動してるとかハグレじゃねえ、斥候だな。まずいぞ」

 

 正面のオークはフゴフゴと鼻を鳴らして頻りに匂いを嗅ぐと、シンを見てニタリと笑った。

 

「汚え目で人の嫁を見るんじゃねぞ、このブタ野郎!」

 

 ストリクタがそう叫んだ瞬間、彼の姿が消え、いつの間にか剣を振り抜いた姿勢で正面に居たオークの背後に移動していた。

 ストリクタが振り向くとズルりとオークの首がズレて落ち、その切り口から赤黒い血が吹き出す。

 

「なんだこれ……」

 

 自分がやった事なのにストリクタは驚いた。今までは対オークの戦いで瞬殺など出来た事が無いのだ。何よりも、こんな速い移動と動作が出来るなど自分では思いもしなかった。

 ストリクタは暫し自分の剣を見詰めて呆けていたが、後方にもう一匹オークが居た事を思い出して慌ててそちらを見ると、そこに修羅が居た。

 

「くおんの汚ブタが! 粗末で不味そう(・・・・)なのをおっ()てて見せてんじゃねえぞ! とっとと()ね! クソブタぁ!」

 

 汚い言葉で罵りながら、シンが杖でオークをボコボコにタコ殴りにしているのをストリクタは見た。

 型も何も無く、シンは杖でオークの顎をかち上げた後、杖先がぶれて見える速度で往復で頭を殴り付け、鳩尾を突いて頭が下がったところでまた顎をかち上げる。

 トドメに高くジャンプして杖を大きく振り被り、落下と同時に上を向いているオークの顔面に杖の先端にあるサブコアを叩き付けた。

 ゴシャともグシャともつかない音を発ててオークの顔は頭部ごと叩き潰された。

 魔法使いと言う名目で冒険者登録してるんだから、せめて魔法で倒せと言いたい。

 

「ふーっ! ふーっ!」

 

 息を荒げて頭の潰れたオークの死体をゲシゲシと足蹴にしているシンにストリクタは声を掛ける。

 

「シン! 大丈夫か?」

 

 その声に振り向いたシンの顔は返り血で汚れており、その目は光を失っている。

 

「ストル、汚物は排除したよ。邪魔だから後は骨も残らないように分解しちゃおうか」

 

 ハイライトの消えた目で小首を傾げながら、にへらと笑いながら物騒な事を言うシン。軽くホラーである。

 

「オークの始末はしておかないとならんが、まずその返り血をなんとかしような?」

 

 この後、シンは魔法を使って自分自身を服ごと丸洗いした。

 彼女はその場で服を脱いで洗体して着替えようとしたが、幾ら人気の無い街道とは言え、外で裸になるのは不味いとストリクタが止めたのだ。

 オークの死体の後始末もシンが魔法でオークの身体を構成する分子の結合を解いて一気に加熱する事で瞬く間に終わらせた。

 

「オークのせいで意外と時間食っちゃったね」

 

「シン、これはマズいぞ。あいつらペアで行動してたろ? ありゃ斥候だ。そして斥候が居るって事は、近くにオークの群れがあるって事だからな。さっさとグランダルボで用事を済ませる前にギルド支部に話を通して調査隊と討伐隊の編成を頼んでおく必要があるな」

 

「それなら序でだからその群れを潰してからグランダルボに行こうか? どうせもう、歩きだと閉門までに着けそうにないし。うん、そうしようよ」

 

 ふむふむと話を聞いていたシンが、そんなとんでもない事を言い出した。

 

「二人だけでか?」

 

「うん。魔法でちゃっちゃと片付けちゃうから。えーっと、威力として一キロトンも必要無いから、二十ミリグラムもあれば吹き飛ばせるよね。実戦で使うのは初めてだけど変換量さえ間違えなけりゃ大丈夫でしょ」

 

 シンは何やら物騒な事を考えている。

 

「おいおい、規模にも依るがオークの群れの殲滅とか、魔法でそんな事が出来るのか? いや、シンだからなあ……」

 

「まずは群れを見つけないと。(にお)いが残ってるからそれを辿るよ」

 

 ストリクタの腕を取り、ガサゴソとオークが出て来た藪へとシンは突入していく。

 

「ちょ、おま。引っ張んなって! 行く前に防具くらい着けせてくれ!」

 

「へーきへーき。群れの規模が大きくても直ぐに終わるから」

 

 ストリクタの抗議も聞かずにシンは彼を引っ張ってズンズンと進み藪の奥にある森へと迷い無く足を踏み入れる。

 

「おい、シン。帰りの目印くらい付けていかねえと迷うぞ」

 

 シンの後を追いながらもストリクタは剣で木の幹に目印を付けていく。

 

「あ、ごめん。私は迷っても飛んで上から確認出来るから気付かなかったよ」

 

「俺と二人だけの時はそれでも良いが、合同で依頼を受ける事もあるからな。慣れておけよ」

 

「はーい。それじゃペース落とすよ」

 

 それからはシンが方向を示して、ストリクタが目印を付けながら進んで行く事にした。

 そうして、三時間も進んだ頃だろうか、シンが目を眇めて立ち止まる。

 

「近いね。ちょっと上から見てみるけど、ストルも一緒に見て判断して欲しいから私に掴まってよ」

 

「どこに掴まりゃ良いんだよ……」

 

「私におんぶする様に背中にしがみつく感じ? 私は両腕を広げないと飛べないんだよね」

 

「……遠慮しとくわ。大体の規模が分かりゃ良い。どうせシンが魔法で殲滅するんだろ?」

 

 少し逡巡した後でストリクタは辞退する事にした。

 

「それじゃ、ちょっと見てくるね」

 

 シンは杖を天秤棒担ぎすると上空へふわりと浮き上がった。

 彼女を見上げるストリクタの目にシンの穿く白いショーツが映り彼は慌てて視線を逸らす。ショーツの中身を散々見ているくせに覗き見するのは何故か罪悪感を感じるらしい。

 

 ある程度の高度に達したシンは移動を開始した。

 オークの群れが彼女の視界に入って来る。半径五百メートル程の森が切り開かれ、竪穴式住居を更に簡素化した様な建物が何軒も建っている。

 群れではなく集落と言っても良い規模だろう。ざっと見えるだけでも五十匹から百匹は居る様だ。

 それだけ確認すると彼女はストリクタの下へと戻り、その事を伝えた。

 

「集落を作る規模かよ」

 

「普通はどうするの?」

 

「ギルドだけじゃ無理な案件だな。領主様に報告して領軍と共同で討伐隊が組まれる事になる。場合によちゃあ、他の支部にも応援を頼む事もあるな。とにかく囲んで逃さないようにして削って行く為にはこっちも数が必要になんだよ」

 

「ふむ、それくらいの大事(おおごと)になるんだね。それじゃ早速、殲滅してくるから、ストルは今から退避壕を作るからそこに隠れていてね。爆風と熱線がかなりになると思うから」

 

「なんんか不安なんだがなあ……」

 

「大丈夫だって。私が死なない限りストルは死ねない(・・・・)んだから」

 

「いや、シン。お前が心配なんだよ」

 

 それを聞いてシンはストリクタに抱き着いて口吻(くちづけ)た。

 

「旦那様。心配してくれてありがとう」

 

「お前、その言い方は狡いぞ」

 

「ふふっ。それじゃ片付けてくるから」

 

 そう言うとシンは再び上空へと舞い上がり、オークの集落へと向かった。

 

「熱線の効果を限定するとなると、地上十メートル位で反応させれば良いかな。範囲が広いから一キロトン位では不十分かも」

 

 飛行しながらシンはざっくりと計算した。シンがやろうとしているのは原子核の中の陽子と中性子のアップクオークとダウンクオーク、グルーオンを形作る『紐』の振動モードを変えて反陽子と反中性子にしてしまおうと言うものだ。

 

「大気を目標にするのは難しいし、魔法で石柱でも立ててそれを目標物にしようかな。大気だけだとガンマ線量は凄い事になるけど熱線としては弱いよね。うん、石柱を立ててそこの頂点を目標にしよう。岩石がプラズマ化したら大気だけよりも熱線も増えるだろうし」

 

 つらつら考えているうちにシンはオークの集落上空に到着、魔法で集落の中心に地面から高さ十メートルで直径一メートルの石柱を生成する。

 材料にその周囲の土を使ったせいで石柱周りの地面はごっそりと抉れて堀の様になってしまっていた。

 突然、集落の中心に石柱が現れた事で集落ではオーク達が混乱して右往左往している。

 

「準備完了。私も安全圏まで退避だね」

 

 そう言ってシンはオークの集落から離れて石柱の頂点がギリギリで目視出来る場所にストリクタに用意した退避壕と同じ物を作ると、その中へと入った。違うのはのぞき窓があり、そこに分厚い石英ガラスが嵌め込まれている。

 目視で位置を確認して、スキルの万能計測分析で正確な位置を測定した後で窓を塞いで魔法を行使するのだ。そうしないと、シンの目が閃光で焼かれてしまう恐れがある。

 

「ダンジョン外で使う時に目視出来ないとダメなのが弱点なんだよねぇ……」

 

 そう言うとシンはスキルを使って石柱の正確な位置を記憶して、石英の窓を不透明にして反物質化の魔法を行使した。

 

 石柱の上部の僅か二十ミリグラムが反物質化されると周囲の物質と対消滅を起こして複数のπ中間子等へと崩壊、更にそれが崩壊して高エネルギーの光子(ガンマ線)を発生させ、反物質部分も含めてプラズマ化して完全に物質・反物質が混ざり合い急速に反応が進行する。

 

 オークの集落中心に立てられた石柱の頂上から強烈な閃光が発せられると同時に集落は熱線に焼き尽くされてその後に発生した火球の急膨張によって生まれた衝撃波が全てを薙ぎ払って行く。

 その後、火球は上昇しながら所謂キノコ雲を形成して行った。

 

「これって、グランダルボからも確実に見えるよね……」

 

 やらかした後で気付くシンであった。

 

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