領主のフューダ・エアリルと冒険者ギルド支部長のマヌゲラが率いる領兵と冒険者で混成された調査隊は、シン達の案内で森へと分け入る。
森へと入った集団は、時々休憩を挟みながら昼過ぎにはオーク集落跡地の近くへと到着した。この時点ではシンとストリクタは、彼らにそこがオークの集落跡である事は明かしていない。
着いた場所は集落のあった外縁部で、辺りの木々は空き地の外側に向かって放射状に揃って倒れており、空き地近くに在る物の多くは黒く焼け焦げていた。
「ここが
シンが杖で指し示した数百メートルは離れたく場所の地面は大きく抉れているように見える。
「これは、まるで……」
そう言ってフューダは絶句する。
「泊りがけの調査になるのでしたら、少し離れた場所を切り開いて野営地を作りましょうか? 簡単な防壁も作れますけど」
「そりゃ有難いが、魔力は大丈夫なのか?」
シンが提案すると彼女を心配してマヌゲラが言う。
「ええ、大丈夫ですよ。生まれつき魔力は多いし、この杖がありますから」
シンが杖を差し出して見せるとマヌゲラは納得したようだ。そしてフューダはシンの杖を、正確にはその先端のサブコアを見て一瞬だけ驚愕の表情を浮かべた。
「んじゃお願いするか。領主様、宜しいですかな?」
「あ、ああ。頼む」
マヌゲラの問いにそう応えるとフューダは黙り込み、何かを考えている様子だ。
そんな領主に少しだけ怪訝な視線を投げたシンだが、取り敢えず自分で引き受けた仕事を熟すことにした。
「マヌゲラさん、切り拓く場所の指示をお願いします」
「おう、ちと待ってくれ。冒険者連中に場所探しに出て貰うからよ。おーい! 冒険者は良さそうな野営場所を探してくれや! 整地はシンが魔法でやってくれるから取り敢えず水捌け優先で頼む!」
大声で指示を出すマヌゲラを横目に、ストリクタはシンに小声で話掛けた。
「シン、やり過ぎんなよ。頼むぞ」
「大丈夫だって。私だって学習するんだから」
本当にそうだろかと不安気なストリクタをシンは小突い頭を下げさせると彼の耳に口を寄せる。
「あの領主様、ひょっとしたらひょっとするよ」
「ん? どういうこった?」
「まあ、そのうち分かるよ」
ちらりと横目で考え込むフューダを見たシンは冒険者達に指示を飛ばすマヌゲラの方へと視線を移して、ストリクタにしみじみと言う。
「マヌゲラさんて、なんか異常に元気だよね。あと雰囲気がストルに似てる気がする」
「そりゃあガキの頃から世話になってるから、似ちまったんだろなぁ。それに、おやっさんは昔からあんな感じだぜ。今でもこうして現場に出張って来るくらいには元気が有り余ってんだろうよ。あれで六十近いんだから畏れ入るぜ」
そんなこんなと話している内に、冒険者達が塩梅の良い場所を見付けたらしく、報告を受けて頷いていたマヌゲラがシン達の方へと歩いて来た。
「良さそうな場所が見付かったぞ。整地を頼む」
「はーい。ストル行こう」
「おう、俺も倒木を除けるくらいはやらねえと」
「(まだ変わったばかりなんだから)無理はしないでよ」
シンが小声混じりでそう告げるとストリクタは「無理する前にシンが片しちまうだろ」と言って笑った。
整地作業はシンとストリクタの独壇場だった。魔法でシンが次々と地面から木々を根ごと掘り起こす端から、
正直言って、世界中を探してもヒト種で彼に
一通り伐採(と言って良いのか疑問は残る)が終ると、今度もシンの魔法が炸裂する。木々が掘り起こされて拓かれた地面を魔法で均すと、土塀と言うには立派過ぎる硬質な防護壁が見る見るうちに出来上がって行く。
傍らでストリクタは伐採された木々を自分の剣でスパスパと細切れにして薪作りの準備である。これらは後で纏めてシンが魔法で乾燥させるのだ。
それを見ていたフューダとマヌゲラを始めとした調査隊一同は面食らって、呆けた顔で見守るばかりであった。*2
「終わりました。薪も沢山用意しましたから煮炊きには不自由しないと思いますよ?」
ストリクタが切り刻んだ木を乾燥させた後に、どこかズレた事を言うシン。それを聞いて堪らずにマヌゲラが叫んだ。
「鍋釜なんぞ持って来ておらんわ! それよりもシンはどんな魔力量しとるんだ! それにストリクタ、お前いつの間にそんな怪力出せるようになったんだよ!」
「
フューダが何事か呟いたがマヌゲラの大声に掻き消されて、その言葉は誰の耳にも届かなかった。
日も傾いて来たので、一同は驚いてばかりも居られず、野営準備を始めた。
とは言っても夜の見張りの順番を決めた後、焚き火を前に持参した保存食を食べてから地面にマントや敷物のを敷いて横になるだけである。
領主のフューダだけは天幕を持ち込んでいて彼はそこで休む事になる。
また、水に関しては従軍している魔法使いが出す事になっていたが、彼はシンの魔法行使を見て精神的なショックが大きかったらしく使い物にならなくなっていた。それで結局は水の面倒もシンが見る事になった。
日も暮れて焚き火の明かりが野営地を照らす中、シンとストリクタはフューダに天幕まで来るようにと呼び出された。
「よく来てくれた。何も無いが座ってくれ。まずは野営地の準備、大義であった。そしてシンよ、一つ聞きたい。【
それはシンも良く知っている言語であった。ただバカ正直にハイとも言えないので、分らない振りをして小首を傾げてみた。
思った反応と違ったのかフューダは焦って思わず口に出して言ってしまう。
「【あれ? 英語なら前世が
今度は日本語だった。それもイントネーションが太平洋側の北関東から南東北辺りの所謂ずうずう弁である。
不意打ちでそれを聞いたシンは思わず吹き出してしまった。
「おい、シン。なに笑ってんだよ。領主様に失礼だろが」
ストリクタが嗜めるがシンは身体を折って口とお腹を押さえて必死で笑いを堪えている。
彼女は前世の母方の愉快な伯父を思い出してしまったのだ。
喜寿も近いのに同人活動に精を出していて、毎年夏冬に晴海の同人誌即売会に出没し、アニメや漫画やラノベにやたら詳しいオタク爺として、母の実家の地元のコミュニティFM局にも呼ばれる程の(地元では)有名人なのだ。
そしてこの伯父であるが超多趣味で、度々高価な物を衝動買いしては伯母にドツカれていたりする中々に愉快な御仁である。
因みにシンの前世母の実家は南東北のとある地方都市である。
「ごめんなさい……。ちょっと母方の伯父を思い出してしまって。領主様、普通に話して下さいませんか? こちらのストル……ストリクタは私の事情を存じておりますので」
「む? そうか。ならばそうしよう」
フューダの前世は高校生になったばかり頃に交通事故で終わってしまった。救急車のサイレンを聞きながら意識が遠のいて行き、気が付いたら赤ん坊になっていたのだ。
ご他聞に漏れず彼はその手の小説を嗜んでいたので「これは異世界転生! 俺の時代キター!」とテンションが上がったものの、それも直ぐにダダ下がりになった。
ステータスも無ければ特別なスキルも持っていない。前世の経験なんて実質中三までだし、勉学も特に優秀でもなかったから知識チートなんて出来るはずも無い。
運が良かったのは貴族の家に継嗣として生まれた事ぐらいだが、幼い頃からの厳しい躾に当主教育と何度も心が折れそうなった。
それでも何とか努力を続け、父である当主の仕事を手伝い、見合いをして妻を娶り子供も生まれ、父が隠居して伯爵家を継いでマルボルド領を預かる事になり今に至る。
「私の事情はこんなところだ」
シンも掻い摘んで彼女の事情を説明する。一応、使命の事は誤魔化しながらも自分は女神の眷属でありダンジョンを所有している事も明かした。
「チートスキル貰ってスキルレベルが確認出来るとか、なにそれズルい」
シンが話し終わってからのフューダの発した第一声である。
どうやらシンが自身のスキルを確認出来るのは特別な事だったらしい。
「外に出られるダンジョンマスターだったとは……。それでその杖にダンジョンコアが付いていたのか……。戴冠式で宝物として王冠に付いているコアを見た事があったから分かったのだが」
「いえ、これはサブコアでして。機能が限定されたダミーの様な物です。本物はダンジョン外には持ち出せないのですよ」
「ああ、畏まった言い方は止めて欲しい。忘れられたとは言え、女神様の眷属殿に畏まられると此方が恐縮してしまう」
「私の言うことを信じるのですか?」
「貴殿が転生者であり、特殊なスキルが使えて、そしてそのコアを見たら信じるしかあるまい。それにしてもあのキノコ雲がシン殿の魔法による物ものだったとは。本当に【放射能】の心配は無いのですな?」
「ええ、【対消滅反応】による爆発ですから。威力もオークの集落を殲滅出来る程度に
そう言って微笑むシンを見て、フューダは彼女の事を中央の王政府に知らせるかどうか悩んだ。
彼女の力と知識を得られれば、この国は確実にモンスターの脅威を押しのける事も出来るし、文明的にも発展する事が出来るであろう。シンの事を利用する様な事になるが、彼もこの国の貴族の一員であるから、国の利益を考えない訳にはいかないのだ。
しかし、もしその事が女神の眷属であるシンの怒りに触れでもしたらと考えると恐ろしい。彼女は元日本人とは言え、フューダ自身もそうなのだがメンタルが日本人のそれから逸脱している事だって考えられるからだ。
彼女一人で一国を相手取っても殲滅出来るだけの力を彼女は持っている。もしそれが自分達に向けられたとしたら……。
フューダは昨日に目撃したキノコ雲を思い出して背中を冷たい汗が流れるのを感じた。
「あれで抑えたと……。正直、シン殿はあの魔法でどの位までの威力を出せるのですかな?」
それを聞いてシンは目を眇めて怪訝な表情でフューダを見た。
「あ、いや。別に他意は無く、興味本位という奴で」
シンは淫魔種ベースの女神の眷属である。相手が強く思った事があると、シンが意識するしないに拘わらずに相手の表層意識を読み取ってしまう事があるのだ。
「ふむ、まあそう言う事にしておきましょう。そうですね。私とストルがしているこの指輪ですが、これって
そう言ってシンは左手薬指に嵌めている指輪をフューダに見せた。
「っ! これは金剛石か? このカットは前世で見た事がある。それと金も貴殿が作ったと?」
「ええ、その通りです。それで、これを作った時と同じだけの
そこでシンは一度言葉を切る。
「大体一エクサ・ジュールですから……、核出力換算だと二百五十メガトン、地震だとマグニチュード8.8に匹敵するエネルギーになりますね」
それを聞いてフューダは気が遠くなりそうなった。実はシンにとって核子変換よりも反物質化の方が何故かエネルギー消費が少ないのだ。
「もし、シン殿が全力を出したら?」
「それを聞いてどうするんですか? そうですね……、直径三十から四十キロメートルの小惑星の衝突に匹敵するエネルギーにはなりますか。私自身も含めて、この惑星は無事では済まないでしょうね。絶対にやりませんし。ああ、どうやって反物質を生成しているのかはお教えできませんよ」
シンは万能計測分析スキルを持っているから可能なのだ。
「それよりも領主様。スツルタに関しての建設的なお話をしませんか?」
そう言うとシンはストリクタを一度見て、頷いてから再びフューダと向き合う。
「私のダンジョンを使って、スツルタを経済発展させたいのですが、ご協力いただけないでしょうか」
その場の思い付きではあるが、シンはスツルタ再興に領主を巻き込む事にしたのだ。
推敲しないでの投稿なので、後で修正が入るかもしれません。