使命を帯びたTSダンマスは引き籠もる   作:片玉宗叱

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第三章 布石
19 グランダルボへ


 シンの『ダンジョン利用によるスツルタの再興』の提案は、調査後に持ち帰り検討すると言う事になった。

 

「調査と言ってもなぁ……。お前の嫁の仕業ってんだから調査も何も無えじゃねえかよ。オークだって集落ごと殲滅しちまったんだろ?」

 

 マヌゲラが、やれやれといった態度で肩を竦めながらシン達にボヤくと、調査の指示を出す為に冒険者の集団の方へと行ってしまった。

 

 シンとフューダが話した翌朝、一昨日の異変の原因について調査隊の面々に説明があった。

 偶々ストリクタ達が移動中に斥候と思われるオークに襲われたので周辺を調べた結果、百匹規模のオークの集落を見付けた。それを殲滅する為にシンが魔法を放った事で閃光と爆音、それに伴いキノコ雲が現れたと言う事が知らされたのだ。

 極々小規模な爆発をシンが実演した事で、調査隊一同は驚愕と畏怖と共にその事を受入れて納得した。

 そしてこの集団の目的が、異変の調査から討ち漏らしたオークが居ないかどうかの確認作業に変更になり、それはマヌゲラと冒険者達に一任されたのだ。

 

 放射線の心配が無いと分かった為、フューダはシン達を伴い爆心地を検分した。

 そこには深さが十メートルは有ろうガラス化したクレーターが存在した。

 発生した火球の大きさは半径五十メートルを超え、その表面温度は摂氏六千度から一万度程度になるとシンは見積もっていた。

 高さ十メートルで反応させたのだから、クレーターはもう少し深くても良いはずである。

 

「思ったより規模が小さかったですね」

 

 そう言ってシンは考え込む。発生したエネルギーが予想の半分強と思われるからだ。

 

「あ、爆縮で中心付近の反物質がマイクロブラックホール化して、その分が対消滅じゃなくてホーキング放射で蒸発したのかも。予測の三分の二程度になったのってこれかも知れないな。これは要改善だね」

 

 シンは石柱内部に球形に反物質を生成した。球の外側にある反物質が物質と反応してガンマ線が発生して反物質も含めてプラズマ化する。その際に圧力の中心付近が密度の限界を超えて重力崩壊を起こしてしまい素粒子サイズのマイクロブラックホールが生まれると、その小さすぎる質量の為にホーキング放射によって瞬時に質量がエネルギーに転嫁してしまい消滅してしまう。その為に物質と反応しなかった分、発生エネルギーが減ってしまったのではないかとシンは考えたのだ。

 

 フューダはシンの言う事の半分も理解出来ないでいた。中学卒業程度の理科知識では確かに理解不能であろう。いや、女神より与えられたスキルを限定的ではあるが使い熟しているシンが異常なのかも知れない。

 

「シン殿、この件についてなのだが中央に報告せねばならんのだが……」

 

 フューダは恐る恐るシンに話す。今回の事件は箝口令を敷いたとしても、すぐに噂として広まるだろう事。今回の事が高位の方々の耳に入り、仔細の説明を求められれば貴族である自分は中央に報告する義務がある事。

 そして報告した場合にシンが王都に召喚されて出仕を強要される、或いは何処かの高位貴族に見初められる可能性もある事も含めて、今後に起こり得る事を包み隠さず話した。

 

「面倒くさいですね。もし召喚命令なんて来たら私はダンジョンに籠もりますよ? ストルと別れろとか強制なんてされたら、それこそ主要都市上空で百メガトン規模の爆発*1を起こして国ごと殲滅?」

 

 笑いながらそんな事を言うシンに、フューダは戦慄し顔色を悪くする。彼は、シンのメンタルが日本人のままでは無いと確信を持っている。オークを撲殺し、且つその集落を何の葛藤も躊躇もなく殲滅しているのだ。彼にはシンの冗談が冗談に思えなかった。

 フューダは高位貴族によるシンの取り込みが一番可能性が高いと思っており、それを最も恐れていた。フューダも伯爵であるので高位貴族に入るのだが、彼の言う高位貴族は侯爵及び辺境伯以上の貴族家である。

 彼が思うに、侯爵家は自身の家の権威と権力強化に、国境防衛を担う辺境伯は戦力強化にと、シンの持つ知識と力を欲するであろう事は目に見えている。

 二人の婚姻は女神が直々に認めたものである事は昨日の晩に彼らから聞いた。もしもこの二人を引き裂く様な事を中央の連中がしたらと考えるとフューダは頭と胃が痛くなる思いだった。

 しかしバカは何処にでも一定数は居るものである。国の安寧と自身の心の平穏の為にフューダはシンの事を含めて真実を報告しない事を真剣に検討しようと心に決めた。

 

「シン、お前が言うとシャレにならんから止めてやれよ。領主様、済みませんね。こいつの冗談なので()に受けないでいただけませんかね。まあ、シンが奪われるなんて事になったら俺も暴れさせて貰いますけどね」

 

「うふふ、ストルが暴れるより私がキレてぶっ放す方が早いと思うよ?」

 

 ストリクタが嗜めているのか煽っているの良く分からない事を言えば、シンもそれに合わせて物騒な事を言う。

 

「まあ、国ごと殲滅は冗談ですけど。私は厳密に言ってこの国の民じゃないから、別に従う必要は無いとは思いますが?」

 

 シンはフューダの方に向き直ると真面目な顔でそう言う。

 

「と、とにかくだ。土地の件も含めて、スツルタの今後の事も相談したい。調査が済んだらグランダルボの我が居館まで、ご同行願えないだろうか?」

 

 冷や汗を垂らしながらフューダはやっとの事で言葉を紡ぎ、シンに懇願した。

 

 その後、補給部隊も到着し本格的なオークの残党捜索と掃討が始まった。領軍と冒険者達の共同での捜索・掃討は順調に進み、現場に到着から八日で終了となった。討伐されたオークの数は合計で十一匹、群れの規模に対して少ない数であり、ハグレと思われる単独行動のオークが五匹含まれていた。

 

「これでこの一帯は暫くオークの心配をしなくて良いかもな」

 

 グランダルボへ向う街道を歩きながら安堵の表情でマヌゲラがストリクタへと話し掛けた。

 周りの冒険者や領兵達の表情もどこかホッとした様子だ。

 

「済まんな、おやっさん。手間かけさせちまってよ」

 

「ああ? 手間なもんかよ。オークの集落なんて下手すりゃ人死(ひとし)にが出る案件だが、誰も怪我一つしねえで済んだんだ。無駄足でも何でもねえよ。お前の嫁に感謝だな」

 

 そう言ってマヌゲラは呵呵と笑う。

 

「いえいえ、ホントお騒がせしました。町の方は大変だったとか」

 

 ストリクタの横を歩くシンが軽く頭を下げる。オーク集落の殲滅の際の魔法が原因でグランダルボが混乱に陥らせた事を彼女は詫た。

 そんな彼女にマヌゲラは手を横に振って応える。

 

「気にすんな、シン。領主様の対応が速くてな、そう大した事にゃならんかったぞ。それよりも損害を出さねえでオークの集落を潰せたんだから御の字だわい」

 

「なら良いんですけど……」

 

 街道を歩き、一行は昼過ぎにはグランダルボへと到着した。領主のフューダとは冒険者ギルド前で別れた。後程、シン達を呼び出す為にギルドへと使いを寄越すとの事。

 但し、今回の件の部隊出動の後始末や、フューダが離れた後のグランダルボの治安その他の報告を受けた後になるので、それまではこの町で待機していて欲しいとお願いされた。

 

「さて、儂らも少し話をしようか。なぁストリクタ」

 

「うへぇ……。おやっさん、お手柔らかに頼むぜ」

 

「ま、難しい話は後にしてだな。まずはお前の嫁を皆に紹介せにゃならんだろ。なにせ噂では、お前はオーガを嫁にしたとか言われているからな」

 

「誰だよ、そんな事を言ったヤツは」

 

 その日ギルドではシンの歓迎会と言う名の宴会が開かれる。皆が馴れ初めから夜の生活の事まで根掘り葉掘り聞き出そうと手ぐすね引いていた。

 酔わせて口を軽くしようにも、ストリクタは酒に関してはザルで有名なので、酔わせて聞き出す為のターゲットとしてシンが狙われた。

 しかし彼女は淫魔種ベースの女神の眷属でダンジョンマスターである。ザルや蟒蛇(うわばみ)どころの騒ぎではなかった。ストリクタを上回るハイペースで杯が空く。

 調子に乗って飲みまくるシンであったが、流石に大量に飲めば酔いは回る。酔って気持ち良くなったシンは聞かれるままに、彼女とストリクタの馴れ初めから夜の生活まで赤裸々に語ってしまった。その濃厚な惚気話(のろけばなし)に、シンに飲ませた連中は聞かなきゃ良かったと後悔した。

 

 そして酔いが深くなったシンは徐ろに手拍子しながら変な掛け声をかけ始める。

 

「あははははは! たーのしー。そぉーれ私のおパンツ見たいかなっ♪ ついでにお胸も見たいでしょ♪」

 

「おいバカ! シン止めろ! お前ら見てるんじゃね! 見たら目ん玉穿り出すぞ!」

 

「いいじゃ〜ん、ストル。減るもんじゃないんだしぃ♪ あはははは」

 

 胸元を緩めてスカートをたくし上げようとしたシンを、ストリクタは諫めるが、会場の野郎どもの「いいぞー!」だの「ついでに尻も頼む!」等の声を受けたノリノリのシンは止めようとしない。

 スカートの裾が上がり、あわや白い布に包まれたシンのデルタゾーンが露わになろうかとしたその時、慌てたストリクタはシンを彼女のローブで包るんで(簀巻きにして)担ぎ上げる(お米様抱っこする)と「代金はツケにしといてくれ!」と言うや否や、宴会の場を離脱して手配していた宿へと駆けて行った。*2

 実は、シンは前世でも脱ぎ上戸であった。酔うと脱ぐのは社内どころか取引先でも知れ渡っていて「あいつに深酒させたらヤバい。出来れば飲ませるな」と言われていた。どうやら今生でもその悪癖は健在の様だ。

 

「かーっ! ストリクタの野郎、野暮なことしやがって」

 

「いや、若い娘の太腿が見れたんだ。俺は満足だな」

 

 ストリクタとシンが居なくなった宴会場では野郎どもが飲みながら、やいのやいのと好き勝手に話している。

 

「それにしてもストリクタがオーガを嫁にしたとか言い出した奴は誰だよ」

 

「それな。なんだよあの嫁は。若くて別嬪で服の上からで分かる(すこぶ)る付きの良い体。ああ、羨ましいぜ全く」

 

「そういや調査の現場でな、毎晩の様に……」

 

 そんなこんなを話している連中をマヌゲラは一瞥すると黙って酒を口に含んで飲み込むと独りごちる。

 

「ったく、あんだけの魔法と力を見せられたってえのに気楽な連中だわい」

 

 そう言ってまた一口、酒を飲む。

 

「シンのあの魔力、どう考えたってヒト種に出来るこっちゃね。あれはドラゴンが化けてるって言われても儂は驚かんぞ。それにストリクタも化け物じみちまったしなぁ。何が起きてるんだか……」

 

 しみじみと呟きながらチビリチビリとマヌゲラは酒を飲む。しかし、愛弟子とその嫁の事を考えると今夜は酔えそうにも無かった。

 

*1
旧ソ連の水爆実験で使われたツァーリ・ボンバの核出力は設計百メガトン、実験時五十メガトンである。爆風の被害半径が約二十キロメートル強、致死性の熱線の範囲が半径は約六十キロメートル弱にも及んだとされる。なお火球の半径は二千メートルとも四千メートルとも言われている。

*2
この後、宿から苦情が来る位に、シンはストリクタに滅茶苦茶お仕置きされた。お仕置きされた後、シンは満足げにストリクタに抱き着いて眠ったと言う。おい、それ本当にお仕置きになってるのか?




 シンとストリクタの装備のデザイン考えてたのに、何故か表紙絵を描いてました。活動報告にも書きましたが取り敢えず目次ページに貼ってあります。
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