使命を帯びたTSダンマスは引き籠もる   作:片玉宗叱

20 / 30
 遅くなりました。不定期なので許して……。


20 伯爵家にて(1)

 グランダルボでシンが酔っ払っ挙げ句に痴態を晒してストリクタから激しい『お仕置き』を受けてから四日後、冒険者ギルドで待機していた彼女達の下へと領主であるフューダからの使いが来た。

 フューダの仕事が一段落付いたので明日の昼食を一緒に取った後に例の件(・・・)について話をしたいとの事。そして領主の使いが帰った後でシンははたと気付いた。

 

「あ、貴族に会う為の服なんて持ってないんだけど。どうしよ、ストル」

 

「あー、謁見とかじゃねえから、そこまで畏まらんでも良いんじゃねえかな」

 

「ううむ、いざとなったら、ダンマスの正装って事でダンジョンで着ている衣装を」

 

「おいバカやめろ。普段着で良いって先方も言ってただろうが」

 

 などと戯けた事をしつつ、いよいよ翌日となりシンとストリクタはマルボルドの領主館を訪ねる事になる。

 

「ようこそいらっしゃいました。わたくしはエアリル家の執事でチェビストと申します。ささ、エアリル様がお待ちです。ご案内致しましょう。お荷物はこちらでお預かりいたします」

 

 荷物を使用人に預けると、キッチリとした服装の執事を名乗る初老の男性の案内で、二人は食堂へと通された。

 そこには既にフューダが着席して二人を待っていた。来客用と思われる広い食堂に、三人の他には先程案内してくれた執事の男性しか居ない。どうやら彼が給仕をする様である。

 二人が食堂に入るとヒューダが立ち上がって出迎えた。

 

「お招き頂きまして、ありがとうございます」

 

 シンとストリクタは腰を落として挨拶をすると、フューダは手を横に振りながら言う。

 

「ああ、二人ともよく来てくれた。堅苦しい挨拶は抜きにして、まずは席に着いてくれ。ゆるりと食事を楽しんもう」

 

 フューダが手を叩くと、それを合図に料理が食堂に運ばれて来てテーブルに並べられる。

 

 さて、これから食事となるのだが、実はこの国、いやこの世界(惑星)と言った方が良いのかも知れないがカトラリーと言えばナイフしか無いのだ。

  汁物は器から直接、それ以外は基本的に手掴みで口に運ぶのである。

 フォークの様な物もあるにはあるが、それは取り分け用であり大きさも大人の掌程もあり食事で使われる事は無い。

 ところがエアリル家では、フューダがお抱え職人に食事用のフォーク、しかも三本歯を作らせてそれを使っていた。汁物にはスプーンも付いている。更にナイフは刃先が丸い地球ではお馴染みの形である。

 それに気付いたシンが微笑みながら言う。

 

「なんだ、領主様もしっかり知識チートしてるじゃないですか」

 

「ん? 何がだね?」

 

「カトラリーですよ。確か王侯貴族でも基本は手掴みですよね」

 

 フューダはハハっと笑うと手を休めて、少しだけ遠い目をしてフューダが語る。

 

「手掴みでの食事はどうにも馴染めなくてね。子供の頃に箸を自分で作って使っていたら奇異の目で見られたものだよ」

 

 そんな事を話しながらも食事は和気藹々と進み、簡単な昼食会を終える。

 その後で応接室へと移動してお茶を飲みながら今後の事の話し合いへと移った。勿論、人払いをしておりシン、ストリクタ、フューダの三人だけの会談である。但しドアの外には執事が待機しているが。

 

「土地の件は了承した。後程、事務方に必要書類を用意させよう。それでスツルタの産業振興の件なのだが、こちらとしては正直のところ有難い事ではある。シン殿は何かしらの具体案を持っている様だが……」

 

「そうですね。まず、私がダンジョンマスターなのはお伝えしていますよね」

 

 土地を借りる件は百年分先払いで即了承され、スツルタの産業振興へと話は移る。

 

「ああ、先日の調査の際に聞いていますな」

 

「ざっくりとした案なのですが、ダンジョンからある物(・・・)の原材料を産出させます。モンスターのドロップではなく、鉱山の様に採掘する事で得られる様に調整します。モンスターも現出させませんから人死が出る事も有りません」

 

「なんと、その様な事が出来るのですか」

 

「ええ。その原材料は何処にでもある、ありふれた物ですからコストがあまり掛からないので。ダンジョンに入場する人数が少なくても地脈からのエネルギーだけで回して行けますね」

 

「ありふれた物なら何も態々ダンジョンで産出せずとも……」

 

 フューダは懐疑的な目でシンを見た。彼のその視線を無視してシンはドアの外で控えているであろう執事へと声を掛けた。

 

「チェビストさん、預けてある私の荷物を持って来て頂けますか?」

 

「畏まりました」

 

 ドアの向こうから執事が返事を返すと、程なくして彼はシンのバックパックを持って入室した。

 

「お持ち致しました」

 

「ありがとうございます」

 

 シンは礼を言ってバックパックを受け取ると、面会までの間に用意した物を取り出した。

 

「これは……」

 

 シンが取り出したのは、クリスタルガラスで造られたワイングラスである。

 他にも切子の器や風鈴、蜻蛉玉等などをテーブルの上に並べて行く。そして最後に何故かビールのジョッキ。

 

「ガラスですか」

 

「ええ、硅砂とか長石とかの原材料(・・・)でも良いかなとは思ったんですけど、安定した品質で作れる様になるには時間がかかるでしょ? だからガラスとして出来上がった塊で提供しようかと」

 

「それは確かに手っ取り早く立ち上げられますな。しかし、これ程の物を作れるかと言うと……。加工技術が有りませんから」

 

「そこは大丈夫ですよ。立ち上げは私が工房を開いて弟子を取って教育しますから。その為の土地取得でもあるのです。ただ、人が育つまでは時間が掛かるでしょうけど。それと、ガラスを溶かす為の燃料の問題がありますが、それも私の方で解決します」

 

「確か相当高温にしないと溶けなかった記憶がありいますが」

 

 ガラス加工には最低でも軟化する温度である摂氏七百三十度以上は必要となる。欲を言えば摂氏千度は欲しいところである。

 実際、原材料を均質に混ぜてガラスを作るなら摂氏千二百度は欲しいところだ。

 

「この世界(惑星)では、石炭の利用は少ないですよね?」

 

 実は石炭は僅かながらも産出はされているが、所謂『褐炭』や『亜炭』が殆どで、それらは僅かに暖房に利用されているだけである。これは瀝青炭や無煙炭が見付かっておらず、コークスの発明までは至っていないからでもある。

 この世界(惑星)で製鉄や鍛冶に用いられるのは専ら木炭であった。

 

「ああ、確かに寒冷地で暖房に利用する位ですな。私も一度取り寄せてみたのですが煙が酷くて」

 

「褐炭とか亜炭ですから煤煙が出るのは仕方無いですね。そこでサブコアを使って子ダンジョンを作って、そこから燃料として瀝青炭か無煙炭を産出させようかと考えています。無煙炭ならそのまま、瀝青炭ならコークスに加工して火力を出す事が出来ますから」

 

「コークスとは?」

 

 フューダが問う。そう、いくら前世が日本人でも知識が無ければこんなもんである。

 

「石炭を蒸し焼きにして不純物を取り除いた物ですよ。火力も高いし、木炭利用で森林資源が枯渇させない事を考えるとベターかなと。ただ、あまりに大量生産するとコールタールとか硫化水素とかの副生成物の始末が面倒になりますけど。その辺の始末は多少はダンジョンで無理無く出来ますから、ガラス加工分位のコークス生産なら大丈夫でしょう」

 

 シンとしてはカーバイドにしたかったのだが、ダンジョンでの産出には相当なコストがかかるので諦めたのだ。*1

 

「ふむ……。話を聞くと鍛冶にも使えそうですな」

 

「色々と使えますよ。大枠はこんな感じですが、詳細を書面にしましょうか? 工程表とかも込みで」

 

「それは有難い。それがあれば予算その他について具体的な検討が出来るので助かる。スツルタは寂れてこそいるが要衝なので、維持しなくてはならない此方としては正直有難いのだが……。何故そこまでスツルタに肩入れするのかね?」

 

 問いかけるフューダに、シンはストリクタの方を見てから彼に向き直る。

 

「ストルの、ストリクタの願いなんです。彼の、寂れて行く故郷をなんとかしたいと言う願い。それを叶えたいんですよ」

 

 そう言ってシンは、にこりと微笑んだ。

 

 

 一通りの話が終わり、シン達は領主館を辞して宿へと向かった。

 シン達は土地取得の手続きで暫くグランダルボに滞在する必要がある。手続きはストリクタが行い、シンはその間に宿に籠もって資料をまとめる事にした。

 

「こういう資料作る時ってパソコン欲しくなるなぁ」

 

 スキル『国立国会図書館』に収蔵されている雑誌を漁ればLinux関連の書籍やムックもあるだろう。実はバイナリデータを含めて、CD-ROMの内容をシンは閲覧する事が出来る。

 しかし読めたとしても如何せんハードウェアが存在しない。やるとなったら、例えばARM互換のインストラクションを持つCPUを作り、メモリーを作り、周辺ロジックを作り、外部記憶装置(HDD等)や表示装置にキーボードにプリンターを作りと、個人でやるにはとてつもない手間と時間が掛かる。*2

 

「シン、土地の手続き終わったぞ」

 

「おかえり、ストル。ご苦労さまでした」

 

「おう、百年分一括で払ったら、連中驚いてたぜ。そっちはどうだ?」

 

 結局シンの作った純金は現金化せずに物納となった。マルボルド領の役所で鑑定を行い物納でも問題無いとなったのだ。

 

「あと少しで書き上がるよ。明日に面会の予約して、プレゼンは明後日以降かな」

 

 シンが使っているのは、この国で使われている羊皮紙ではなく、彼女自作の植物紙である。しかも所謂パルプから作る漂白された真白な中性紙である。この世界(惑星)では完全にオーバーテクノロジーである。

 

「お前、そんなもん出して大丈夫なのか?」

 

 シンの使っている紙を見てストリクタが心配して言うが「へーきへーき」とシンは呑気なものである。事前にこの紙をフューダに見せて使用の許可は取ってあるのだ。

 この時にフューダから製法を聞かれたシンは懇切丁寧に製造方法を教えたのだが、それを聞いたフューダは、この世界(惑星)の現状の技術レベルでは不可能だと理解し諦めている。尚、シンは製紙プロセスの全てを魔法によって行っているのだが、これについてはシンのスキルの使用が前提となるので一般化は無理と結論が出ている。

 一応、代替案で和紙の製法は教えてあるが、目的に合った植物(繊維としての楮や三椏、雁皮、繋ぎろしての黄蜀葵(トロロアオイ)等の代替植物)が見付かるかどうかは運次第である。

 

「悪目立ちすると思うんだがなあ」

 

「ガラス工房を開いて弟子を募集して教育するつもりなんだから今更だよ」

 

「高位の王侯貴族から呼び出し食らったら領主様でも庇い切れないぜ」

 

「その時はその時だよ。まだ始まってもいないのに心配するだけ無駄だよ?」

 

 そう言われてストリクタは「むむむ……」と唸って黙り込む。

 暫くしてシンの資料作成も終わり、彼女は一通り目を通した後、テーブルの上で紙を束ねるて揃えるとストリクタに向き直った。

 

「これでヨシ、と。ストル、事務方相手で気疲れしたでしょ? 今日は早目に寝よう(・・・)ね」

 

「お、おう」

 

 シンに少し潤んだ目で見詰められながら言われたストリクタはドギマギしながら返事をした。

 果たして今夜は宿から苦情が入るのか否かはシン達次第である。

 

*1

 カーバイドとは炭化カルシウムの事。水と反応させるとアセチレンガスを発生する。

 ダンジョンの仕様で、化合物でも自然産出物やその混合物なら、そうコストを掛けずともダンジョンで出せる。例えばガラスは自然産出物を混合物させて作れるのだが、炭化カルシウムは自然に産出しない化合物であり相当のコストが掛かるようになっている。

*2
 様々なLinuxディストリビューションがあるが、大概のディストリビューションのCD-ROMには、office互換のOpenOfficeと言う統合ビジネスソフトがソースコード付きで入っていたりするので、シンがその気になって時間さえ掛ければ移植は不可能では無い。但し、最低限のモニターソフトとアセンブラ等の初期ツールを作る必要があるが。




 所謂『内政パート』ですから、暫くは退屈な話になるんじゃないかな……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。