それと、誤字報告ありがとうございます。非常に助かります。
スツルタに着いたシン達は、留守を預かってくれていたプリゾントに礼を言い、マヌゲラから託された手紙を渡した。
そこにはプリゾントのスツルタ支部への異動と支部長への昇格が記されていた。しかし理由は書かれていなかったので納得出来ないプリゾントは憤る。
「なんでだよ! あのクソジジイめ」
引き継ぎもしないで、そんままの勢いで着の身着のままグランダルボへ向かおうとするプリゾントをシン達は宥めすかして押し留め、取り敢えず留守番の
シンの料理に舌鼓を打って落ち着いたプリゾントは引き継ぎを済ませてからグランダルボへと帰って行った。
「おやっさん、相変わらずだよなぁ……」
マヌゲラの暴挙にストリクタは呆れ顔だ。どうやら説明無しの無茶振りはいつもの事な様である。
「ああ、そういう上司って居るよね……」
シンも前世で若い頃に上司から無茶振り(今ならパワハラ・モラハラで訴えられる様な事)をされていた事を思い出して遠い目をした。
プリゾントを見送った翌日からシン達は動き出す。シンの拠点としてのガラス工房(兼ストリクタとの愛の巣である自宅)建設の為の大工の手配である。
シンとしては、ダンジョンへの通路は地下に隠したいので、基礎と地下室の工事は自分で行うつもりでいる。
魔法で地面を掘り下げて、更にセメントを作り、基礎と地下室を鉄筋コンクリート製にして、その上に地元の大工達に建物を建ててもらう予定である。
尚、鉄筋はシンがダンジョンから産出させる鉄で作り、セメントの材料の手配はグランダルボに居る間にディレクデにお願いしている。
ディレクデの紹介状を持ってスツルタ在住の大工の棟梁の所へと行き詳細を話すと、スツルタでは大工仕事が少ない事もあり快く請け負って貰えた。
拠点の基礎工事をしたり、偶に有る依頼を受けたりしているうちに、シン達がスツルタに帰って来てから一ヶ月が過ぎようとしていた。
プリゾントのスツルタ支部長就任の件について、その後は全く音沙汰が無い。
拠点の方はシンとストリクタでボロ屋を取り壊して、基礎工事と地下室作りを行っていたのだが、それも先日完了した。
「基礎工事終わったよって、グビダントさんに知らせに行こうか」
「俺が行って来てやるよ。お前が受付に居た方がウケが良いからな」
シンは職員ではないが、ストリクタが出した秘書業務の依頼をシンが請け負っているという
公私混同職権乱用に思われるが、ストリクタがシンを私的に雇っており、その経費は全てストリクタから出ている形にしてある。上司のマヌゲラも了承済みだ。
「そう? じゃあお願いするね。グビダントさんによろしく」
「客は来ないと思うが留守中は頼んだぞ。じゃあ行って来る」
「いってらっしゃい。あ・な・た」
語尾にハートが付いている様な甘い声でシンはそう言ってシンはストリクタに
その日、町中では気持ち悪い笑顔で浮かれて歩く大男が目撃されと言う。
「キスする時に髭が邪魔なんだよね。今度、剃って貰えるかお願いしようかな」
踵を返してカウンターへと向おうとした所でシンは背後から呼び止められた。
「おい、そこの女。冒険者ギルドはここか?」
振り返ると馬を引いた身形の良い男性が立っている。
「はい。こちらが冒険者ギルド、スツルタ支部になりますが、ご依頼ですか?」
「ここに所属しているシンと言う者に、至急参内するように領主のエアリル様から命が下されたのだ。早急に連れて参れ」
そう言って男は粘着く視線で舐め回す様にシンを見て言葉を続ける。
「ほう、田舎者にしてはなかなかの上玉ではないか」
淫魔種が元になっているシンには、この男の下衆な本音が丸分かりだった。
(フューダさんの部下にもこんなのが居るんだね。こいつはスキルを使って撃退かな。あと文句の一つも言ってやろう)
「生憎と該当する冒険者は出掛けており不在です。戻り次第その者伝えておきますので、お引取り下さい」
シンは幻惑と魅了を使い使いの男に暗示をかける。
「ああ、そうだ。貴男の身分とお名前を教えて頂けませんか? 支部長への報告義務がありますので。それと領主様へ文を
シンに魅了と幻惑のスキルを使われた男は、虚ろな目になり黙って頷き自分の名前と身分を話した。
偉そうな態度の割に、男は使用人の中でも下級の使いっ走りのポジションであった。
それを聞き、シンは男から色々と聞き出したのだが、男は一応は貴族の使用人であるが、自分の地位を騙って女を食い物にしているとんでもない下衆野郎だった。
「要件はダイヤモンドの事だと思うけど、至急って事は、入手出来なかったのかも知れないな」
ブツブツと呟きながら、シンは自作の便箋に、自分を呼び出しに来た使いの男から聞き出した事をつらつらと書き記して封筒に入れて封をすると男に手渡した。
「この文を領主様に自ら手渡して目の前では読んで頂いて下さい。それで貴男は元に戻ります。では、どうぞお帰り下さい」
そう言われた男は虚ろな目のまま頷くと馬に乗って来た道戻って行った。時刻は昼過ぎではあるが、馬での移動なら暗くなる前にはグランダルボへ着くだろう。
「んー、留守番しながらちゃっちゃと作っておきましょうかね」
そう言ってシンは解体したボロ屋の廃材を置いてある場所から適当に木材を持って来ると、受付カウンター座って作業を始める。
「シヨリノさん、ライバルのサファイアに対抗したいとか言ってたからなあ。無色透明のだけじゃつまらないよね。確かカラーダイヤモンドって、前世じゃお高かった気がするし」
シンは木材から炭素だけを分離すると、早速図書館スキルを使ってカラーダイヤモンドについて調べて行く。
「へー、青とピンクって貴重なんだ。何々、青はホウ素の添加か単純な欠陥で色が付くと。ふむふむ、天然はホウ素なんだね。で、ピンクは結晶構造の歪みが原因で、塑性変形なのは確かなんだけどどういう構造の歪みなのかは正確には未解明と。窒素と隣接した格子欠陥も関係するのか。試してみようかな?」*1
廃材から分離した中に含まれていた微量のホウ素が含まれていたのでブルーダイヤモンドに利用する事が出来た。ホウ素の添加量で色合いが変化するので加減が少しだけ面倒だとシンは思った。
ピンクダイヤモンドは結晶格子の塑性変形の加減が分からず、取り敢えず欠陥と窒素で試して上手く色付いた。
「結晶格子に窒素の置換が三つで黄色になるんだ。ほんと、色々とあるんだね」
興が乗ったシンは結晶格子に対して操作を行い、試行錯誤しながら青、ピンク、黄色、緑と次々とカラーダイヤモンドを作って行った。操作に対する結果は前世の癖できちんとメモに残してながら。
棟梁と話し込んでしまい、少し帰りが遅くなったストリクタがギルドへ入ると、受付カウンターに座って俯き加減で何やら黙々と作業をしているシンへと話しかけた。
「シン、遅くなってすまん。って何やってんだ?」
「あ、ストル。おかえり。なんかフューダさんの使いが来て、至急来て欲しいんだってさ。
「そうか。って、お前、なんだよこの量は……。これ、色が違うけど全部金剛石なのか?」
シンの目の前に山となった色とりどりのダイヤモンドの結晶を見て、ストリクタは呆れ顔だ。
「添加物や構造で色が変化するから、面白くてつい」
てへ、っと言いながらシンは悪怯れることもなく舌を出す。『てへぺろ』ってヤツである。
「で、どうすんだよ、これ」
「どうせだから、色見本で持って行こうかなって。気に入った色で作ればシヨリノさんも長く使えるんじゃない?」
「まあ、お前がそう言うなら良いけどよ。それで、いつ出るんだ? 至急って事だから明日か遅くても明後日には出ないとならんだろ」
「うーん。それがね、使いで来た奴がちょっと問題有りそうな男だったから、魅了と幻惑を使って吐かせたらとんでもない下衆でさ。そいつがゲロった内容を書いたお手紙をフューダさんに届けて貰ってるんだよね。暗示を掛けたままで」
「そいつに何かされたのか? いや、シンが遅れを取る事は無いか」
ストリクタは激昂しかけるが、シンの能力を思い出して自分の中で納得した。
「やらしい目で睨め回されたけど、速攻で魅了と幻惑で催眠状態して暗示を掛けたからね。誰かに会ったって言う記憶は残るけど、私の事は覚えてないと思うよ」
「そうなのか。で、行くのか?」
「嘗められると嫌だから手紙にも書いたけど、あんなのを寄越した事を先方が詫びを入れて来るまでは行かないよ? 私はそこまでお人好しじゃないし」
翌日、馬を飛ばしてエアリル家執事のチェビストがやって来た。
「申し訳ございませんでした」
青い顔をしたチェビストが土下座せんばかりの勢いで頭を下げる。最下級とは言え彼も貴族の端くれである。その彼が、流れ者の冒険者と認識していたシンに頭を下げるとは、フューダから相当叱責された様子が窺える。
実際、手紙を受け取ったフューダの怒りは凄まじく、問題を起こした男は犯罪者として厳しい詮議を受けている最中であり、そんな男を知らなかったとは言え放置していたチェビストも、シンの怒りを解かなければ減俸と降格処分が待っている。
因みに手紙の最後には日本語で『ナメた真似してると国ごと吹っ飛ばすぞ?』と脅し文句が書かれていたのはシンと手紙を読んだフューダしか知らない事である。
「何に対して謝っているのですか?」
冷たい声でシンは意地の悪い質問をチェビストへと投げ掛ける。
チェビストはシン達が訪れた際に、フューダから「彼らは平民だが賓客と思い、くれぐれも丁寧に遇するように」と言われていた事を思い出す。
何故に領主はこんな小娘一人を恐るのかと彼は訝しんだが、今回の件ではっきりと言われたのだ。
フューダはチェビストに「オークの集落の殲滅でシン殿は必要最小限の力しか使っていない。彼女と接するのは理性と知性を持ったドラゴンを相手にするのと同義であり、決して怒りを買うような真似はするな。最悪は国が滅ぶ」と言い切ったのだ。
「それは、
「チェビストさん、ちょっと私を見て話して貰えるかな」
そう言われてチェビストはシンの顔を見た。
「少し質問させて。正直なところ貴男は
シンの目を見て、それを聞いたチェビストの口が勝手に動き、彼がおくびにも出さないでいた本心を吐き始めた。
「なんで私が流れ者の下民風情に頭を下げなきゃならんのだ。それに栄えあるエアリル家の筆頭執事であるこの私に詫びを入れさせておいてこの態度は許せん。エアリル様が懇意にしていなければ何処かの貴族家にでも売り飛ばしてやるものを」
チェビストは慌てて口を押さえ否定しようとするが別な事を言い始める。
「大体オークの殲滅だって眉唾ものだろうに。若い色気でエアリル様を篭絡したに違い無い。これは奥様にも報告してこいつらを排除しなくては」
言葉と裏腹にチェビストの顔色は真っ白で冷や汗を滝のように流している。
「ふーん、それが本心かあ」
冷ややかな眼差しをシンから向けられてチェビストはたじろぐ。
「ち、違い……」
何か言おうとした彼だったが、突然、膝から
「シン、少しは手加減してやれよ」
「してたよ? でなかったら廃人確定だもの。さーて、ちょっとフューダさんと
悪い笑顔でシンはそう言った。
後にストリクタはしみじみと「あの時のシンは女神様の眷属じゃなくて、おとぎ話の魔王みたいだったな」と語る事になる。