使命を帯びたTSダンマスは引き籠もる   作:片玉宗叱

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 書けましたので投稿します。


25 拠点の完成(そして立っていたフラグ)

 シンがフューダに渡したサンプルは、チェビストが預かって持って来たと言う事にして、シヨリノに披露された。

 サンプルとは言え、色合いの違う見事にカットされたダイヤモンドが並ぶ様は圧巻で、それを見たシヨリノは感嘆の溜息を()く。

 検討用として同梱されたデザイン画も斬新で、また銀とは違う輝きのプラチナも彼女の興味を引いた。

 

「あなた、早速これらで職人達に今度の社交に間に合うように作らせましょう」

 

 彼女はこれらはシンからの献上品だと思い込んでいた。フューダは彼女の考え違いを訂正する。

 

「シヨリノ、それは見本としてシン殿が貸出してくれた物だ。契約には含まれていないのだよ。その中から気に入った色や形、大きさ、必要数を選んで欲しいとの事だ」

 

 この色取り取りの宝物を自分の物に出来ないと知りシヨリノは落胆する。

 

「それなら何か理由を付けて接収してしまえば」

 

 諦め切れないシヨリノはそんな事を言うが、この国の貴族の平民に対する感覚としては、そうおかしな事ではない。

 しかし、フューダは首を横に振り妻を諫める。

 

「いいか、シヨリノ。これはシン殿とエアリル家で交わされた契約なのだよ。お前の我欲で捻じ曲げてはならんのだ」

 

「あら、でもあの方は平民、いえ流民でしょう? どうして、あなたはそこまで慮るのですか」

 

「シヨリノ、良く聞きなさい。君が信じようが信じまいが彼女は一人で軽く国一つを一瞬で滅ぼせる力を持っている。これは厳然たる事実だ。ああ、その金剛石や金銀は全てシン殿が魔法で作った物らしいのだが、それを幾つか作る魔力量で、我が国どころか近隣各国を巻き込んで滅亡させる事が可能だそうだよ。君はオークを殲滅した、あの茸の雲(・・・)を忘れた訳ではあるまい?」

 

 それを聞いてシヨリノは顔色を悪くした。

 

「言ってはいなかったが、あれはシン殿が一人で殲滅したのだよ。百匹規模のオークの集落の殲滅に、彼女は種火を着ける程度の魔力しか使っていないらしいぞ。その様な力を持ち、何者にも(まつろ)わぬシン殿だからこそ配慮する必要があるのだ。分かったかね?」

 

 いつもの優しい夫ではなく、貴族然とした顔で告げるフューダに何も言えなくなったシヨリノであった。

 

 

 シンの領主館襲撃から十日後、シンの姿はグランダルボの領主館にあった。

 フューダから書簡で注文されたダイヤモンドの納品で訪れたのだ。書簡を受け取ったその時にサンプル品も返却されている。シンは「そのまま手元に置いてても良いのに律儀だなあ」とフューダとシヨリノの内心も知らずに呑気な事を言っていた。

 今回納品するのは無色、青、ピンク、緑、黄色。カラーダイヤモンドはシンがサンプルで出した色の中で鮮やかな色合いの物が選ばれた。サイズは二十カラットの物を各一個ずつと、それらの周りに配置するのであろう一カラットと二カラットの物を各二十個ずつ、それとプラチナの地金*1である。

 

「では、ご確認下さい」

 

 領主館の応接室でシンはダイヤモンドの入った小箱を五つ取り出してフューダとシヨリノの目の前で開けて見せる。

 サンプル品も圧巻であったが、それよりも大きなラウンドブリリアントカットされた二十カラットのダイヤモンド、この世界(惑星)では誰も目にした事のない輝きを放つそれらの存在感にシヨリノは息を呑む。

 

「あ、それと、これはオマケです」

 

 そう言ってシンはまた別な小箱を取り出した。

 

「これは?」

 

「以前にシヨリノ様が私達(・・)の結婚指輪を見て羨ましそうにしていらしたので」

 

 そう言いながらシンが箱を開けると、そこにはダイヤモンドがあしらわれたペアリングが輝きを放っていた。

 

「リングはシンプルなデザインの白金(プラチナ)ですから普段遣いして頂けますよ」

 

 呆気に取られる二人を前に、シンはそう言ってにこりと微笑んだ。

 シヨリノは何も言わずに立ち上がり、シンの隣に座ると彼女を抱き締めて小さな声で「ありがとうございます」と言った。

 その後は、三人で少し歓談してからお開きとなった。

 

 シンが納品してから三日と経たないうちにフューダから助けて欲しいと書簡が届いた。

 なんでもシンの出したデザイン画を見て製作を請け負ったドワーフのお抱え職人が「この白金地金でこんな複雑なもんは出来んわ!」と匙を投げてしまったらしい。

 それなら銀ではどうかと言ったところ「そんな半端な事が出来るか!」と臍を曲げてしまったとの事。

 それを聞いたシンは呆れた。悪い方向の職人気質とでも言うのだろうか。その御仁は無駄にプライドが高いらしい。

 無理なら無理で代替手段を探して今を凌ぎ、次に繋げて行くのが技術者じゃないのかとシンは思った。

 

「結局、原材料から加工まで、全部私がやってるじゃないのさ」

 

 ギルドの受付カウンターでボヤきながらちまちまと魔法でチェーンやクラスプ等の細かい部品を作るシンに、側で事務仕事をしながらストリクタが問う。

 

「ドワーフでも匙を投げるってどんだけ難しい材料を渡したんだよ」

 

「この地金って強度を上げるのにイリジウムとパラジウムを混ぜてあるんだよね。ドワーフでも加工は無理だったかあ」

 

 こいつ、故意犯だった。

 

「そりゃ自業自得だな。頑張れよ」

 

「家が出来上がるまでは暇だから良いんだけどさ。でもなんか社交シーズンの度にアクセサリー作り依頼されそうな予感がするよ。金剛石(ダイヤモンド)じゃなくてルビーとかサファイアとかにしとけば良かったかな*2。材料も色付け加工も簡単だしさ。あ、エメラルドなんかは天然物よりも綺麗なのが出来ちゃうんだよね」

 

「それはそれで騒動になると思うがな」

 

 まったりとした時間が流れる冒険者ギルド・スツルタ支部。今日も閑古鳥が鳴いていた。

 

 恙無く依頼されたアクセサリーの納品を終えた後は、特に何事も無く月日は過ぎ、シンのスツルタでの拠点となる家が完成したのは冬も終わり春の足音が聞こえる季節であった。

 

 完成した家を目の前にしてストリクタは感慨深げだ。

 

「家具も全部一括だったから時間が掛かったな」

 

「でも個別で頼むよりは手間が減ったじゃない。これでやっとダンジョンと繋げられるよ」

 

 この半年での変化と言えばストリクタの身形(みなり)であろうか。彼はシンからのお願いを酌んで髭を剃り、髪を伸ばしていた。髭を剃り眉を整えたストリクタは、目付きは鋭いものの意外にもなかなかの美形であったのだ。

 

「うちの旦那様は面構えも男前だった件」

 

 これにはシンも驚いて思わずそう漏らしたものである。尚、伸ばした髪と眉毛は彼女が甲斐甲斐しくこまめに整えている。

 

 さて、シンのダンジョンから延びる通路は、一応スツルタの外までは延伸してあるのだが、工事期間中は人目もあるので、通路のスツルタ内部への延伸は見合わせていた。

 

「工房の方はまだなんだよな」

 

「うん。燃料を産出する子ダンジョンを作ってからになるね」

 

 そう言いながら二人は出来たばかりの家の中へと入り、地下室へと下りる。

 

「一応、鍵が掛かる様にはして貰っているけど、念の為に後で南京錠を作っておこうか。ディンプルにしとけばピッキングはほぼ無理だろうし。いっそ扉ごと交換してシリンダー錠にしても良いかな」

 

「バレない様に宜しくやってくれ」

 

「バレても侵入不可能にするけどね。じゃあ繋げるよ」

 

 そう言うとシンはサブコアの付いた杖を地下室の床に突き立てて地脈へ魔力(精神エネルギー)を流し込む。

 暫くすると、杖を突き立てた所に直径五十センチ程の穴が開いた。覗き込むとヒカリゴケで照らされて地中深くまで続く垂直の穴がそこあった。

 

「開通したね。イリザ、聞こえる?」

 

『はい、マスター。待ち侘びていましたよ』

 

「いや、ついこの前もダンジョン行ったじゃない」

 

『冗談です。その地下室もダンジョンのエリアに含めますか?』

 

「それは止めておこうか。取り敢えず正規の入口と同じ感じで、開口部周辺の狭い範囲だけを領域として。どうせ移動用なんだし」

 

『了解しました』

 

 いよいよ、シンのスツルタ再興計画が始まろうとしていた。

 しかし好事魔多し。拠点となる工房兼自宅の完成の直後、領主のフューダから書簡が届く。仔細は書簡では明かせないので至急ご足労を願うと言うものだった。

 それを読んだシンは露骨に渋い顔をした。

 

「イヤな予感がするんだけど。原因はきっとアレだよね」

 

 ストリクタも神妙な顔で頷く。

 

「王都で悪目立ちしちまったか。高位貴族か王族の目にでも止まったんだろうな」

 

 兎に角、行って話を聞かなければ対応のしようもない。

 

「ストル、最悪王都への呼び出しだと思うんだけど、一緒に行ってくれるよね?」

 

「そりゃ、お前一人だけでモンスター(貴族)の群れの中に行かせる訳ねえだろ。またマヌゲラのおやっさんに留守番の手配を頼んでおくか……」

 

 そう言ってストリクタはマヌゲラへの手紙を認め、シンへと渡す。

 

「グランダルボへ行った(ついで)に、これをおやっさんに渡してくれ」

 

「了解。歩いて行くの面倒くさいから、夜明け前に新調した装備で飛んで行って来るよ。念の為に確認をしておきたいから」

 

「お前、アレを使うのかよ……。良いか、絶対に人にアレを見られるんじゃないぞ。絶対にな」

 

「ストルも自分のをもう一度確認しておいて。イザと言うときに使えなかったら折角苦労して作った意味無いんだから。ね、私の守・護・者・様」

 

 そう言ってシンは髭の無いストリクタの頬に口吻た。

 

「そうか、お前が人前でアレを使わない様に俺が護りゃいいんだな」

 

 そう言ってストリクタは固く拳を握りしめた。

 果たして、シンのアレとは一体何であろうか。(すっとぼけ)

 

 普通なら緊迫感が溢れるシチュエーションなのだが、この夫婦はいつもの調子でイチャつくのであった。

 

*1
何度か繰り返して作中で述べているが、この世界(惑星)の文明レベルは中世かそれ以前である。プラチナはドワーフ達の手による貴金属として認識されてはいたが、融点の高いプラチナの加工は彼等にも難しいものとされていて、ドワーフ達の間でもその加工方法は秘伝とされている。エアリル家にはプラチナの加工が出来るドワーフに伝手がある事が窺える。

*2
両方とも添加物が入った酸化アルミニウム結晶である。カラーダイヤモンドよりも難易度は低い。




 ほんと、アレって何でしょうね(白目
 次回は諸々の説明回にする予定です。
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